「んー、いい風…」
シヴォンヌ中佐は飛行甲板の真ん中に置いたデッキチェアの上で大きく伸びをした。
のちにとあるアメリカ人によって<ビキニ>と命名される破廉恥なまでに布地面積の少ない水着に包まれたダイナマイトバディを、たっぷりと潮気を含んだそよ風が優しくなでていく。
先月30代最後の誕生日を迎えた(カレアントの隠語で「ベルピム川を渡る」という)というのに顔にはシワひとつなく、肌の張りも20代の娘にいささかも負けてはいない。
「艦長、予定ポイントを定刻とおり通過しました。全艦異常なしであります」
肩肘張って報告するのは士官学校出たてのヤングエリート、艦の運行に責任を持つ航海科のワロタ少尉だ。
「そ、ありがと」
ニッコリ笑ったシヴォンヌが見事にくびれた腰を必要以上にくねらせてデッキチェアから半身を起こすと、たわわに実った胸果実が“たゆん”と揺れた。
その確信犯的に淫靡な動きを目の当たりにして、生真面目なワロタは慌てて視線を逸らす。
「と、ところで艦長殿!なぜ、制服を着用しないのでありますか?」
「それはね、このSSの作者はどんなお話でもお色気ネタを挟まないと死んじゃうからよ」
メメタア!
何とも言えない表情を見せるワロタにシヴォンヌは、デッキチェアの横に置かれたテーブルからサンドイッチを一切れ取って差し出した。
「ひとつどう?」
「結構です」
つれない部下の反応にちょっとだけ悲しそうな表情をしたものの、そのまま薄切りにして軽く火を通したスパムを挟んだサンドイッチにかぶりついて至福の笑みを浮かべる。
「ん~~~、最高」
「そんなに好きなんですか?」
「スパムこそアメリカの最も偉大な発明だと私は思うわ!」
「毎日食べてますけど飽きませんか?」
「スパムの可能性は無限なのよ!卵とスパム!卵とベーコンとスパム!卵とベーコンとソーセージとスパム!スパム・卵・スパム・ベーコン・スパム・ソーセージ・スパム・スパム…」
「歌わないでくださいね」
取り付くしまもないワロタのリアクションに渋々引き下がるシヴォンヌ。
「それにしても、変われば変わるものねえ」
気を取り直したシヴォンヌが見事にまっ平らな全通飛行甲板を見渡して、ワロタも我が意を得たりという顔で合槌をうった。
「前の乗組員が今のガメランを見たら何と言うでしょうね」
シヴォンヌ中佐は飛行甲板の真ん中に置いたデッキチェアの上で大きく伸びをした。
のちにとあるアメリカ人によって<ビキニ>と命名される破廉恥なまでに布地面積の少ない水着に包まれたダイナマイトバディを、たっぷりと潮気を含んだそよ風が優しくなでていく。
先月30代最後の誕生日を迎えた(カレアントの隠語で「ベルピム川を渡る」という)というのに顔にはシワひとつなく、肌の張りも20代の娘にいささかも負けてはいない。
「艦長、予定ポイントを定刻とおり通過しました。全艦異常なしであります」
肩肘張って報告するのは士官学校出たてのヤングエリート、艦の運行に責任を持つ航海科のワロタ少尉だ。
「そ、ありがと」
ニッコリ笑ったシヴォンヌが見事にくびれた腰を必要以上にくねらせてデッキチェアから半身を起こすと、たわわに実った胸果実が“たゆん”と揺れた。
その確信犯的に淫靡な動きを目の当たりにして、生真面目なワロタは慌てて視線を逸らす。
「と、ところで艦長殿!なぜ、制服を着用しないのでありますか?」
「それはね、このSSの作者はどんなお話でもお色気ネタを挟まないと死んじゃうからよ」
メメタア!
何とも言えない表情を見せるワロタにシヴォンヌは、デッキチェアの横に置かれたテーブルからサンドイッチを一切れ取って差し出した。
「ひとつどう?」
「結構です」
つれない部下の反応にちょっとだけ悲しそうな表情をしたものの、そのまま薄切りにして軽く火を通したスパムを挟んだサンドイッチにかぶりついて至福の笑みを浮かべる。
「ん~~~、最高」
「そんなに好きなんですか?」
「スパムこそアメリカの最も偉大な発明だと私は思うわ!」
「毎日食べてますけど飽きませんか?」
「スパムの可能性は無限なのよ!卵とスパム!卵とベーコンとスパム!卵とベーコンとソーセージとスパム!スパム・卵・スパム・ベーコン・スパム・ソーセージ・スパム・スパム…」
「歌わないでくださいね」
取り付くしまもないワロタのリアクションに渋々引き下がるシヴォンヌ。
「それにしても、変われば変わるものねえ」
気を取り直したシヴォンヌが見事にまっ平らな全通飛行甲板を見渡して、ワロタも我が意を得たりという顔で合槌をうった。
「前の乗組員が今のガメランを見たら何と言うでしょうね」
レーミア湾の戦いで連合軍の輸送船団を身を挺して守り抜いたガメランは、同クラスの他の軍艦なら3回沈没してお釣りがくるくらいの損害を受けた。
自慢の重防御が功を奏し、主機関を始めとするヴァイタルパートの被害は比較的軽微だったが、多数の直撃弾を喰らった上部構造物はまんべんなく耕されてしまった。
本国に帰還しドック入りしたガメランを検分した女王陛下は、得意のヒラメキでとんでもないことを言い出した。
ガメランをカレアント海軍最初の航空母艦に改装するよう命じたのである。
従来の上部構造物はすべて撤去され、一層式の格納庫の上に装甲飛行甲板が据えられた。
艦載機に選定されたのは、F4F-4BことマートレットMkⅣである。
自慢の重防御が功を奏し、主機関を始めとするヴァイタルパートの被害は比較的軽微だったが、多数の直撃弾を喰らった上部構造物はまんべんなく耕されてしまった。
本国に帰還しドック入りしたガメランを検分した女王陛下は、得意のヒラメキでとんでもないことを言い出した。
ガメランをカレアント海軍最初の航空母艦に改装するよう命じたのである。
従来の上部構造物はすべて撤去され、一層式の格納庫の上に装甲飛行甲板が据えられた。
艦載機に選定されたのは、F4F-4BことマートレットMkⅣである。
これは英国向けに生産され転移によって引き渡し先が無くなったため余剰品となっていた機体で、早い話が在庫一掃セールだった。
性能的にはひと世代前の戦闘機だが、もともと巡洋艦クラスの大きさで寸法的に余裕がないうえガメラン級の売りである打たれ強さを継承すべく飛行甲板と航空機用燃料庫周りに重厚な装甲防御が施された結果、ただでさえ不足気味のスペースがさらに厳しくなり、F6FやF4U、TBFといった大型艦上機の運用は困難と判断されたのである。
だが常識の斜め上をいくことに定評のあるカンレアク女王と取り巻きの技術陣がただの空母で済ませるはずはなかった。
その証拠が水上戦闘への備えとして艦首と艦尾の飛行甲板直下に一基ずつ設置された37.5口径11ネルリ連装砲塔である。
これはアラスカ級の活躍に刺激されたカレアント海軍が計画した快速戦列艦の主砲として新規に開発したもので、工業力の地力の差からアラスカ級の50口径30センチ砲に比べ60%程度の性能しかないが、カレアントでは最新鋭の装備である。
そし自前の戦闘機があるからという理由で高角砲は全廃し、近接防空火器として国産の4連装重魔道銃8基を装備した。
かてて加えてガメランを唯一無二の存在たらしめているのが魚雷兵装である。
カレアント本国での改装工事を終えたガメランはエレベーターとカタパルトの艤装を受けるためアメリカ本土に回航されたのだが、カンレアク女王のごり押しに根負けしたサンディエゴの海軍工廠が、カタパルト工事のついでに40ミリ機銃を増設する替わりに撤去されたベンソン級駆逐艦の53センチ4連装魚雷発射管を片舷1基ずつ搭載してしまったのだ。
かくして時代錯誤の強襲艦は漢の浪漫あふれる夢(悪夢?)のてんこ盛り軍艦<戦闘空母>ガメランとして新生なったである。
ガメランを母艦とするのは新編されたばかりの第一空母飛行戦隊で、マートレットMkⅣ22機を装備するこの飛行隊は母艦より先に米本土に赴いて訓練を重ね、二間前に練習空母ウルヴァリンを用いての最終試験をパスしたところだった。
ちなみにウルヴァリンは五大湖を巡る観光船に飛行甲板を乗せただけの訓練専用空母で、世界に三つとない(「二つとない」ではないのは同型艦のセイブルがあるから)外輪船式空母である。
練成なった第一空母飛行戦隊を迎え入れ、祖国へと帰還の途にあるガメランは、カレアントから見て北米大陸の反対側にあたる東海岸沖を航行している。
往路ではカレアントからサンディエゴ、シアトル、オタワを巡ったガメランが、往路を引き返すのではなくわざわざ北米大陸を一周する南回りコースで帰還するのは、負傷して艦を降りた古参(前艦長のアナキン中佐もその一人である)に替って配属された新兵の練習航海を兼ねているからだ。
「艦長!」
相変わらず過激な水着姿でくつろいでいるシヴォンヌのもとに無線室からの伝令がやってきた。
「緊急周波数で救援要請を受信しました、どうやら我々の近くで海戦が行われておるようです」
性能的にはひと世代前の戦闘機だが、もともと巡洋艦クラスの大きさで寸法的に余裕がないうえガメラン級の売りである打たれ強さを継承すべく飛行甲板と航空機用燃料庫周りに重厚な装甲防御が施された結果、ただでさえ不足気味のスペースがさらに厳しくなり、F6FやF4U、TBFといった大型艦上機の運用は困難と判断されたのである。
だが常識の斜め上をいくことに定評のあるカンレアク女王と取り巻きの技術陣がただの空母で済ませるはずはなかった。
その証拠が水上戦闘への備えとして艦首と艦尾の飛行甲板直下に一基ずつ設置された37.5口径11ネルリ連装砲塔である。
これはアラスカ級の活躍に刺激されたカレアント海軍が計画した快速戦列艦の主砲として新規に開発したもので、工業力の地力の差からアラスカ級の50口径30センチ砲に比べ60%程度の性能しかないが、カレアントでは最新鋭の装備である。
そし自前の戦闘機があるからという理由で高角砲は全廃し、近接防空火器として国産の4連装重魔道銃8基を装備した。
かてて加えてガメランを唯一無二の存在たらしめているのが魚雷兵装である。
カレアント本国での改装工事を終えたガメランはエレベーターとカタパルトの艤装を受けるためアメリカ本土に回航されたのだが、カンレアク女王のごり押しに根負けしたサンディエゴの海軍工廠が、カタパルト工事のついでに40ミリ機銃を増設する替わりに撤去されたベンソン級駆逐艦の53センチ4連装魚雷発射管を片舷1基ずつ搭載してしまったのだ。
かくして時代錯誤の強襲艦は漢の浪漫あふれる夢(悪夢?)のてんこ盛り軍艦<戦闘空母>ガメランとして新生なったである。
ガメランを母艦とするのは新編されたばかりの第一空母飛行戦隊で、マートレットMkⅣ22機を装備するこの飛行隊は母艦より先に米本土に赴いて訓練を重ね、二間前に練習空母ウルヴァリンを用いての最終試験をパスしたところだった。
ちなみにウルヴァリンは五大湖を巡る観光船に飛行甲板を乗せただけの訓練専用空母で、世界に三つとない(「二つとない」ではないのは同型艦のセイブルがあるから)外輪船式空母である。
練成なった第一空母飛行戦隊を迎え入れ、祖国へと帰還の途にあるガメランは、カレアントから見て北米大陸の反対側にあたる東海岸沖を航行している。
往路ではカレアントからサンディエゴ、シアトル、オタワを巡ったガメランが、往路を引き返すのではなくわざわざ北米大陸を一周する南回りコースで帰還するのは、負傷して艦を降りた古参(前艦長のアナキン中佐もその一人である)に替って配属された新兵の練習航海を兼ねているからだ。
「艦長!」
相変わらず過激な水着姿でくつろいでいるシヴォンヌのもとに無線室からの伝令がやってきた。
「緊急周波数で救援要請を受信しました、どうやら我々の近くで海戦が行われておるようです」
耳障りな音を立てて飛来した砲弾がメインマストを叩き折る。
「なんということだ……」
マストの残骸に垂れ下がったヘルベスタン国旗と御召艦であることを示すロイヤルフラッグが炎に包まれるのを見て、アルトルート・ソルトは歯ぎしりした。
再建なったヘルベスタン王国の政府代表としてホワイトハウスを表敬訪問すべく一等巡洋艦リーメイラスで大西洋を航行していたソルトは、北米大陸まであと半日というところで国籍不明の艦船からの攻撃を受けていた。
「なんということだ……」
マストの残骸に垂れ下がったヘルベスタン国旗と御召艦であることを示すロイヤルフラッグが炎に包まれるのを見て、アルトルート・ソルトは歯ぎしりした。
再建なったヘルベスタン王国の政府代表としてホワイトハウスを表敬訪問すべく一等巡洋艦リーメイラスで大西洋を航行していたソルトは、北米大陸まであと半日というところで国籍不明の艦船からの攻撃を受けていた。
もちろん一方的に撃たれているわけではなくリーメイラスも反撃は行っているのだが、ただの武装商船にしか見えない不審船は重巡洋艦と同等か、それ以上の火力を持っていた。
いまや大損害を受けたリーメイラスの行き脚が鈍り、反撃の砲火が弱まるにつれて敵艦の射撃はますます勢いと精度を増し、3発に1発は船体を直撃して天地がひっくり返るような衝撃を与えている。
「これまでか、ここで死ぬのか?いや、こんなところでは終われない!」
なんとか生き延びる術はないかと必死に考えながら次第に傾斜を増す甲板の上をよろめきながら歩くソルトのもとに、海兵隊のリムキス伍長が駆けつけた。
「殿下、この艦はもう駄目です。脱出の準備を!」
いまや大損害を受けたリーメイラスの行き脚が鈍り、反撃の砲火が弱まるにつれて敵艦の射撃はますます勢いと精度を増し、3発に1発は船体を直撃して天地がひっくり返るような衝撃を与えている。
「これまでか、ここで死ぬのか?いや、こんなところでは終われない!」
なんとか生き延びる術はないかと必死に考えながら次第に傾斜を増す甲板の上をよろめきながら歩くソルトのもとに、海兵隊のリムキス伍長が駆けつけた。
「殿下、この艦はもう駄目です。脱出の準備を!」
「見ろ、敵艦がゴミのようだ!」
もとマオンド海軍通商破壊船ネリマンテグの艦橋で、洋上に停止し炎と黒煙に包まれたリーメイラスを眺めながら哄笑しているのはもとマオンド海軍大佐のストキンバップだ。
「撃て、ドンドン撃て!アメリカの威を借りて臆面もなく戦勝国面するヘルベスタンの恥知らずどもを一人残らず海の藻屑にしてしまえ!」
ソルトにしてみれば完全な言いがかりなのだが、恨(ハン)に凝り固まったもとマオンド海軍大佐に理を説いても、リャマの耳にシュリーマーラーデービー・シンハナーダ・スートラである。
鬼気迫るその表情はまさに復讐鬼そのもの。
ストキンバップに率いられ、アメリカ本土から目と鼻の先までやってきた416名のもとマオンド海軍兵士はとうに命を捨てている。
彼らが乗るネリマンテグはレーフェイル大陸を完全制圧したマオンド海軍が将来シホールアンルと戦うことを想定して建造を始めた通商破壊船で、重巡洋艦を凌ぐ武装を持ちながら外観は商船と同じ作りになっている。
表向き非武装の高速輸送船として民間の工廠で建造され、厳重な防諜体勢を敷いた甲斐あって、ネリマンテグの存在はシホールアンルはもちろん敗戦後に進駐してきたアメリカ軍にも完全に見落とされていた。
もと上官の招集に応じた彼らは、アメリカ憎しの一念で8割がた完成したところで終戦となり港に係留されたまま朽ち果てるのを待っていたネリマンテグを不完全ながらも戦闘航海可能なコンディションに仕上げ、駐留軍の目を掻い潜って武器弾薬を手配し出航するまでこぎつけた。
そこまでの話だけでも詳しく描写すれば上下二巻1000ページ超えの大作になってしまうが、ここでは簡潔に“大変な苦労があった”と記すに留めることにする
彼らを突き動かすものは、只々にっくきアメリカとその同盟国に一泡ふかせてくれようという、その一念のみであった。
「君のお蔭だよツィラーマ君」
振り返ったストキンバックの視線の先では、首輪と手枷と足枷を嵌められた全裸の美女が海図台を支える支柱のひとつに鎖で繋がれ、もと大佐を仏頂面で見返していた。
もとマオンド海軍通商破壊船ネリマンテグの艦橋で、洋上に停止し炎と黒煙に包まれたリーメイラスを眺めながら哄笑しているのはもとマオンド海軍大佐のストキンバップだ。
「撃て、ドンドン撃て!アメリカの威を借りて臆面もなく戦勝国面するヘルベスタンの恥知らずどもを一人残らず海の藻屑にしてしまえ!」
ソルトにしてみれば完全な言いがかりなのだが、恨(ハン)に凝り固まったもとマオンド海軍大佐に理を説いても、リャマの耳にシュリーマーラーデービー・シンハナーダ・スートラである。
鬼気迫るその表情はまさに復讐鬼そのもの。
ストキンバップに率いられ、アメリカ本土から目と鼻の先までやってきた416名のもとマオンド海軍兵士はとうに命を捨てている。
彼らが乗るネリマンテグはレーフェイル大陸を完全制圧したマオンド海軍が将来シホールアンルと戦うことを想定して建造を始めた通商破壊船で、重巡洋艦を凌ぐ武装を持ちながら外観は商船と同じ作りになっている。
表向き非武装の高速輸送船として民間の工廠で建造され、厳重な防諜体勢を敷いた甲斐あって、ネリマンテグの存在はシホールアンルはもちろん敗戦後に進駐してきたアメリカ軍にも完全に見落とされていた。
もと上官の招集に応じた彼らは、アメリカ憎しの一念で8割がた完成したところで終戦となり港に係留されたまま朽ち果てるのを待っていたネリマンテグを不完全ながらも戦闘航海可能なコンディションに仕上げ、駐留軍の目を掻い潜って武器弾薬を手配し出航するまでこぎつけた。
そこまでの話だけでも詳しく描写すれば上下二巻1000ページ超えの大作になってしまうが、ここでは簡潔に“大変な苦労があった”と記すに留めることにする
彼らを突き動かすものは、只々にっくきアメリカとその同盟国に一泡ふかせてくれようという、その一念のみであった。
「君のお蔭だよツィラーマ君」
振り返ったストキンバックの視線の先では、首輪と手枷と足枷を嵌められた全裸の美女が海図台を支える支柱のひとつに鎖で繋がれ、もと大佐を仏頂面で見返していた。
マオンド軍特殊作戦群に所属していたツィラーマもと特務曹長は、自分が現在置かれている状況が非常に気に要らなかった。
ツィラーマはレーフェイル大陸全土でも希少な性魔術を操る一族の出身である。
彼女の魔術の恐ろしさは、一度でも身体を重ねた男はツィラーマに精神を乗っ取られ、完全な操り人形にされてしまうところにある。
戦争中のツィラーマは名前や職業を変えながらアメリカ軍占領地域のあちこちで活動し、手駒にに仕立て上げた兵士に命じて高級将校を射殺させたり、戦闘機のパイロットに味方を攻撃させたりしていた。
マオンドが降伏したのちは本国からの指令が途絶えたのをいいことに娼館の女主人に納まり、昨日までの敵であったアメリカ人をカモにして色と金と酒の日々を送っていたのである。
ツィラーマはレーフェイル大陸全土でも希少な性魔術を操る一族の出身である。
彼女の魔術の恐ろしさは、一度でも身体を重ねた男はツィラーマに精神を乗っ取られ、完全な操り人形にされてしまうところにある。
戦争中のツィラーマは名前や職業を変えながらアメリカ軍占領地域のあちこちで活動し、手駒にに仕立て上げた兵士に命じて高級将校を射殺させたり、戦闘機のパイロットに味方を攻撃させたりしていた。
マオンドが降伏したのちは本国からの指令が途絶えたのをいいことに娼館の女主人に納まり、昨日までの敵であったアメリカ人をカモにして色と金と酒の日々を送っていたのである。
そこにやって来たのがストキンバップ一味。
協力しなければアメリカ軍に通報すると言われては否も応もない。
娼館経営で築いた金とコネ、そして時には自らの肉体をも使ってネリマンテグの再装備に尽力し、ようやくお役御免かと思ったら口封じ兼慰安婦としてそのまま通商破壊船に乗せられ大海原へと連れ出されてしまった。
航海中に水兵を洗脳して脱出しようと考えたもののそこはスチキンバップも考えていた。
部下にはツィラーマとナニするときは必ず多人数プレイで互いを監視するよう厳命していたのである。
そっち方面では百戦錬磨のもと特務曹長も、5~6人の相手を一度にさせられては術を施す余裕はなかったのであった。
協力しなければアメリカ軍に通報すると言われては否も応もない。
娼館経営で築いた金とコネ、そして時には自らの肉体をも使ってネリマンテグの再装備に尽力し、ようやくお役御免かと思ったら口封じ兼慰安婦としてそのまま通商破壊船に乗せられ大海原へと連れ出されてしまった。
航海中に水兵を洗脳して脱出しようと考えたもののそこはスチキンバップも考えていた。
部下にはツィラーマとナニするときは必ず多人数プレイで互いを監視するよう厳命していたのである。
そっち方面では百戦錬磨のもと特務曹長も、5~6人の相手を一度にさせられては術を施す余裕はなかったのであった。
散々に打ちのめされたリーメイラスは死に瀕していた
ヘルベスタン海軍の一等巡洋艦はサイズ的にも性能的にもオマハ級とペンサコラ級の中間にあたる。
その中で最も新しい設計のリーメイラスは就役当時はレーフェイル大陸随一の快速艦であり、またスピードを追求した結果として生まれた軍艦らしからぬ流麗で美しいスタイルから、「姫騎士」という愛称で広く親しまれた艦だった。
白旗を掲げた祖国を脱出した亡国の姫騎士は、各国海軍を転々として抗戦を続け、レーフェイル大陸全土がマオンドの手に落ちると海を越えて南大陸のミスリアル海軍に身を寄せた。
そして解放なった祖国で王族の御召艦となる栄誉に浴した歴戦の巡洋艦がこのような最期を迎えることになるとは、運命の神は何と残酷なのであろうか。
左舷に大傾斜したリーメイラスの周囲には、750名ほどの生存者が救命ボートに乗ったり救命胴衣ひとつで波間に浮いたりしている。
ソルトはリムキス伍長に加え重症を負った艦長を頭にした高級士官たちとともに、アメリカ製の船外機付きゴムボートに乗っていた。
そこに勝ち誇ったネリマンテグが接近してきて一斉に砲門を向ける。
ストキンバップが「撃て」の号令を出そうとした瞬間、見張りが叫んだ。
「飛行挺だ!」
ヘルベスタン海軍の一等巡洋艦はサイズ的にも性能的にもオマハ級とペンサコラ級の中間にあたる。
その中で最も新しい設計のリーメイラスは就役当時はレーフェイル大陸随一の快速艦であり、またスピードを追求した結果として生まれた軍艦らしからぬ流麗で美しいスタイルから、「姫騎士」という愛称で広く親しまれた艦だった。
白旗を掲げた祖国を脱出した亡国の姫騎士は、各国海軍を転々として抗戦を続け、レーフェイル大陸全土がマオンドの手に落ちると海を越えて南大陸のミスリアル海軍に身を寄せた。
そして解放なった祖国で王族の御召艦となる栄誉に浴した歴戦の巡洋艦がこのような最期を迎えることになるとは、運命の神は何と残酷なのであろうか。
左舷に大傾斜したリーメイラスの周囲には、750名ほどの生存者が救命ボートに乗ったり救命胴衣ひとつで波間に浮いたりしている。
ソルトはリムキス伍長に加え重症を負った艦長を頭にした高級士官たちとともに、アメリカ製の船外機付きゴムボートに乗っていた。
そこに勝ち誇ったネリマンテグが接近してきて一斉に砲門を向ける。
ストキンバップが「撃て」の号令を出そうとした瞬間、見張りが叫んだ。
「飛行挺だ!」
「全機攻撃開始!」
スロットルをじわじわと開き、45度の降下角で増速しながら第一空母飛行戦隊指揮官イランジー少佐は獰猛な叫びをあげた。
リーメイラスの救難信号を受信したときの彼我の距離は約95マイル。
航空機にとってはほとんど目と鼻の先である。
対艦戦闘のうえ航続距離の制約がないマートレットは両翼に500ポンド爆弾一発ずつを抱えていた。
さすがにこれだけの荷物を積むと過荷重での離艦となるため、洋上でぶっつけ本番のカタパルト発信を行ったカレアント海軍戦闘機部隊は発進直後に1機が海に突っ込み、早速1機喪失、1名死亡を記録してしまったものの、エンジン不調で母艦に残った1機を除く20機はそのまま進撃を続け、今まさにリーメイラスの生存者を虐殺しようとしていたネリマンテグに逆落としに襲いかかった。
ネリマンテグにこの攻撃を阻止する手段はなかった。
終戦の時点でこの通商破壊船には対空火器は搭載されておらず、ストキンバップやツィラーマが手を尽くしても高角砲や大口径魔道銃といった重装備を闇ルートで入手することは不可能だったのである。
相手は一隻で対空砲火による妨害もないという好条件にもかかわらず、20機のマートレットが投下した40発の500ポンド爆弾があげた成果は直撃弾2発、至近弾7発というものだった。
イランジー飛行隊長以下第一空母飛行戦隊の全員がこれが初陣であったことを考慮すれば、全弾外れでなかったことを評価すべきかもしれない。
スロットルをじわじわと開き、45度の降下角で増速しながら第一空母飛行戦隊指揮官イランジー少佐は獰猛な叫びをあげた。
リーメイラスの救難信号を受信したときの彼我の距離は約95マイル。
航空機にとってはほとんど目と鼻の先である。
対艦戦闘のうえ航続距離の制約がないマートレットは両翼に500ポンド爆弾一発ずつを抱えていた。
さすがにこれだけの荷物を積むと過荷重での離艦となるため、洋上でぶっつけ本番のカタパルト発信を行ったカレアント海軍戦闘機部隊は発進直後に1機が海に突っ込み、早速1機喪失、1名死亡を記録してしまったものの、エンジン不調で母艦に残った1機を除く20機はそのまま進撃を続け、今まさにリーメイラスの生存者を虐殺しようとしていたネリマンテグに逆落としに襲いかかった。
ネリマンテグにこの攻撃を阻止する手段はなかった。
終戦の時点でこの通商破壊船には対空火器は搭載されておらず、ストキンバップやツィラーマが手を尽くしても高角砲や大口径魔道銃といった重装備を闇ルートで入手することは不可能だったのである。
相手は一隻で対空砲火による妨害もないという好条件にもかかわらず、20機のマートレットが投下した40発の500ポンド爆弾があげた成果は直撃弾2発、至近弾7発というものだった。
イランジー飛行隊長以下第一空母飛行戦隊の全員がこれが初陣であったことを考慮すれば、全弾外れでなかったことを評価すべきかもしれない。
「おのれ獣どもが!」
痛打を浴びて満身創痍となったネリマンテグの艦橋で、ストキンバックは激怒していた。
翼の国籍表示からカレアントのものと判明した戦闘機隊は爆撃を終えるといったん母艦に引きあげたものの、何度も何度も戻って来た。
実戦の興奮からアドレナリン中毒に陥った第一空母飛行戦隊のパイロット達は、戦闘海域へ向けて全速航行するガメランの飛行甲板に7マイルの横風を受けながら着艦を敢行した。
着艦事故で大破したのが1機にとどまったのは幸運以外の何物でもない。
そしてただちに再度爆弾を積んで繰り返し発進し―その際また1機海に突っ込んだ―通商破壊船はさらに3発の命中弾と多数の至近弾を受けてしまったのである。
ガメランが砲戦距離に達したときには、ネリマンテグは魔道機関が停止し、座り込んだアヒル同然となっていたのである。
痛打を浴びて満身創痍となったネリマンテグの艦橋で、ストキンバックは激怒していた。
翼の国籍表示からカレアントのものと判明した戦闘機隊は爆撃を終えるといったん母艦に引きあげたものの、何度も何度も戻って来た。
実戦の興奮からアドレナリン中毒に陥った第一空母飛行戦隊のパイロット達は、戦闘海域へ向けて全速航行するガメランの飛行甲板に7マイルの横風を受けながら着艦を敢行した。
着艦事故で大破したのが1機にとどまったのは幸運以外の何物でもない。
そしてただちに再度爆弾を積んで繰り返し発進し―その際また1機海に突っ込んだ―通商破壊船はさらに3発の命中弾と多数の至近弾を受けてしまったのである。
ガメランが砲戦距離に達したときには、ネリマンテグは魔道機関が停止し、座り込んだアヒル同然となっていたのである。
「主砲射撃準備完了しました」
ダンガン砲術長の報告を受け、シヴォンヌは双眼鏡を覗いたまま頷いた。
さすがに今は制服に着替えているが、それでもボタンの上ふたつを外してバッチリ谷間を覗かせているあたりはもともと露出狂のケがあるのかもしれない。
とはいっても艦長としての職務をしっかりと遂行しており、いまも厳しい視線で監視するその先には黒煙をあげて停止した国籍不明の武装商船がいる。
見た目は商船だが巡洋艦を圧倒するだけの火力を持っている相手だ、こちらも本気でかからねばなるまい。
「副長、水上戦闘配備」
「水上戦闘配備、アイ!」
発令ベルが鳴るとともに水圧ポンプの唸りが高まり、ガメランの右舷から斜め上に向かって突き出した艦橋部が亀が首を引っ込めるように船体に収納されていく。
戦闘空母ガメランとっておきのギミック、伸縮式艦橋である。
カレアントの造船技師は何かしらネタを仕込まなければ気が済まないらしい。
ガメランの11ネルリ砲が猛然と火を噴いた。
ダンガン砲術長の報告を受け、シヴォンヌは双眼鏡を覗いたまま頷いた。
さすがに今は制服に着替えているが、それでもボタンの上ふたつを外してバッチリ谷間を覗かせているあたりはもともと露出狂のケがあるのかもしれない。
とはいっても艦長としての職務をしっかりと遂行しており、いまも厳しい視線で監視するその先には黒煙をあげて停止した国籍不明の武装商船がいる。
見た目は商船だが巡洋艦を圧倒するだけの火力を持っている相手だ、こちらも本気でかからねばなるまい。
「副長、水上戦闘配備」
「水上戦闘配備、アイ!」
発令ベルが鳴るとともに水圧ポンプの唸りが高まり、ガメランの右舷から斜め上に向かって突き出した艦橋部が亀が首を引っ込めるように船体に収納されていく。
戦闘空母ガメランとっておきのギミック、伸縮式艦橋である。
カレアントの造船技師は何かしらネタを仕込まなければ気が済まないらしい。
ガメランの11ネルリ砲が猛然と火を噴いた。
「このホモ野郎!梅毒で色キチのコミュニスト!」
相変わらず鎖で繋がれているツィラーマが考え付く限りの罵声を浴びせてくる。
ストキンバップとその部下たちはハナから生きては帰らぬつもりだが、付き合わされるほうは堪ったものではない。
「そういえばお前がいたな」
もと大佐は懐からコルトの45口径を取り出した。
戦争中に処刑した米軍飛行士のものを着服し敗戦後も肌身離さず持っていた拳銃で、アメリカのものは何から何まで大嫌いなストキンバップもこのコルトだけは気に入っていた。
銃口をツィラーマに向け、無造作に引き金を引く。
思わず目を瞑り、身を竦めたツィラーマの首輪と支柱を繋いでいた鎖が千切れ飛んだ。
「………どういうつもり?」
「なんでこんなことをする気になったのか自分でも不思議なんだ、気が変わらんうちにさっさと行け」
甲板に出たツィラーマが海面に向かって身を躍らせると同時に、大きく左に転舵したガメランの右舷発射管から4本の魚雷が勢いよく飛び出した。
相変わらず鎖で繋がれているツィラーマが考え付く限りの罵声を浴びせてくる。
ストキンバップとその部下たちはハナから生きては帰らぬつもりだが、付き合わされるほうは堪ったものではない。
「そういえばお前がいたな」
もと大佐は懐からコルトの45口径を取り出した。
戦争中に処刑した米軍飛行士のものを着服し敗戦後も肌身離さず持っていた拳銃で、アメリカのものは何から何まで大嫌いなストキンバップもこのコルトだけは気に入っていた。
銃口をツィラーマに向け、無造作に引き金を引く。
思わず目を瞑り、身を竦めたツィラーマの首輪と支柱を繋いでいた鎖が千切れ飛んだ。
「………どういうつもり?」
「なんでこんなことをする気になったのか自分でも不思議なんだ、気が変わらんうちにさっさと行け」
甲板に出たツィラーマが海面に向かって身を躍らせると同時に、大きく左に転舵したガメランの右舷発射管から4本の魚雷が勢いよく飛び出した。
ガメランは洋上を漂う生存者を救助するとともに、奇跡的に沈没を免れたリーメイラスを曳航してボストンに入港した。
ネリマンテグただ一人の生存者はアメリカ軍に引き渡されたものの、その後まもなく行方をくらませてしまった。
ネリマンテグただ一人の生存者はアメリカ軍に引き渡されたものの、その後まもなく行方をくらませてしまった。
ワロタは軍を退役したのち放送作家となり、メニューがスパムだらけの食堂を舞台にした寸劇で大当たりをとった。