自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

掌編『祭り酒屋』

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turo428

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『祭り酒屋』


「いやぁ、どこであっても賑やかなのは良いね」
「秋祭りの時期ですからね。みんな飲めや歌えに一生懸命です」
カーリスで地元の祭りを見て回っていた皇国軍の島田伍長に、付き従っていたリィンは得意げに“小噺”を始めた。


この地方では、祭りにある出店の酒屋では、今も昔も麦酒(ビールやエール)が人気だ。
2人の男が、それに目をつけて一儲けしようと策を巡らす。

祭りの時には1杯(60立方シクル≒90~100バルン≒450~500ミリリットル)で4ルーブ半~5ルーブくらいが相場。
そこで、場所を取り仕切る元締めに睨まれない程度に離れた場所で、それより安く売れば良い。

4バルツ(2500立方シクル≒4000バルン≒20リットル)の樽に入った麦酒を2樽、正銀貨2枚(=200ルーブ)で
仕入れて、大き目のコップに100バルンの1杯を4ルーブで売れば、80杯分で320ルーブの売り上げ。
差引き120ルーブ儲かる。

2人の男は、酒樽を運ぶ台車を借りる銭も惜しいので、4バルツの酒樽を背負って
へとへとになりながら、祭りの会場から少し離れた河原に即席の屋台を開いた。

しかし、人通りの少ない町外れに客は現れない。
手持ち無沙汰の男は、釣銭として持って来た1ルーブの銅貨を眺めて言った。
「酒を1杯くれや」
「これは売り物なんだから、駄目だ」
「ここに4ルーブある。これで酒を買えば良いだろ?」
「だったら売らない道理は無いな。いらっしゃいませ、お客様!」
4ルーブを渡された男は、相手の男に酒を注いでやる。
相手の男が旨そうに酒を飲むのを見たもう一方の男は、渡された4ルーブを持って言った。
「俺も酒を買うよ」

4ルーブを渡して酒を1杯。交互に飲み続ける。
やがて日が暮れる頃になると、男が言った。
「ありゃ? 酒が無ぇぞ」
「おお、そりゃめでたい。完売御礼だな」
しかし売り上げを確認すると、何度数えてもあるべき売り上げが無い。
そこにあるのは、空になった酒樽と釣銭として持ってきた銅貨だけ。
酩酊する頭で色々考えた挙句、最初に酒に手をつけた男が言った。
「4ルーブで8バルツも酒を飲めたんだから、安く上がったな!」


「どうです? この地方では有名な、祭りのお酒を巡る小噺です!」
馬鹿みたいでしょ? と言ってくるリィンに対し、島田は妙に冷めた態度。
「……面白く、なかったですか?」
恐る恐る聞いてくるリィンに、島田は面白い話ではあると言う。
まあ、皇国人としては似たような小噺を聞いた事があるのだが、
それはそれとして確認したくて仕方が無い部分があったのだ。

「なあ、思ったんだけど……」
「はい?」
「その男達は、昼頃から夕方までに、2人で8バルツの酒を飲んだんだよね?」
「そうなりますね」
「そんな短時間で、1人あたり4バルツの酒なんて飲めるのかな?
 普通、人が1日に飲む水は1/4バルツくらいだ。直接飲む水の他に、
 食べ物から得られる水分を合計しても、半バルツが良い所だろ……」
「1人で4バルツとすると、1/4バルツの16倍ですね……」
「短時間でそんなに酒を飲んだら、死ぬよね……」
「あの、そういう突っ込みは野暮ですって……」
「最初からその男達、酒屋に騙されてて、8バルツ買ったつもりで
 2バルツくらいしか樽に入ってなかった。なんて事は無いよね?」
その問いに、リィンは答えられなかった。

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