自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

362 外伝76

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11月30日の早朝、司令部から呼び出しを受けたジュマ少佐はまだ陽も昇りきらないうちから連隊長の指揮用トラックを訪れた。
ボスケッテ大佐はトラックのシャーシに架装されたコンテナ式の作戦室でただ一人、机の上に地図を広げて待っていた。
「お呼びでしょうか?」
喧嘩っ早さに定評のあるジュマもエルネイルの戦いで上陸用舟艇を撃沈され、全身に大火傷を負いながらも失神した部下を抱えて海岸までの1.5マイルを泳ぎ切ったという武勇伝を持ち、部下から畏敬の念を込めて「不死身の連隊長」「異能生存体」と呼ばれているボスケッテの前ではかしこまらざるを得ない。
「サンドメルに行ってもらう」
ジュマの顔をみるやいなや、ボスケッテはただでさえ強面なのに火傷が追加されて幼児が見たらヒキツケを起こしそうな顔に厳しい表情を浮かべて言った。
「ガップの○×△(差別用語)野郎が勝手に下がりやがったせいで危険がピンチなんだ」
大佐は地図の上に屈みこんで説明をはじめた。
ボスケッテの連隊はガップ大佐の指揮する連隊とともに第78軍団の側面を守っていたのだが、敵軍の浸透によって右翼との連絡を絶たれたガップが独断で後退命令を発したため、
ブリムアイフェルからカイストロクへと向かう回廊がガラ空きとなってしまったのだ。
ただブリムアイフェルは小高い尾根が連続した険しい地形で、大部隊の進軍に適したルートは限定されるのが救いである。
そしてサンドメルは数少ない回廊の要石となる交通の要衝なのである。
「いくら私でも1人で敵の石甲師団は相手にできませんよ?」
すでに連隊の主力はプリクラット攻防戦に投入されており、前線から引き抜くことは不可能だ。
「私も君に超過勤務手当を支給するつもりは毛頭ない」
ボスケッテが用意した戦力は連隊本部付戦車小隊をはじめ飛行場警備中隊から引っ張ってきたり修理工場から徴発してきたりしてかき集めたシャーマン戦車11輌、スチュアート軽戦車4輌、M18戦車駆逐車とM7自走榴弾砲各2輌、そして連絡機のパイロットに郵便係、炊事兵まで動員してどうにか定数を満たした臨時編成の歩兵1コ中隊で、この急ごしらえの部隊は指揮官の名をとって「ジュマ戦闘団」と呼ばれることになった。
午前8時過ぎに駐屯地を出発した戦闘団が2時間かけてマンドレープ河にかかる石橋までやってきたとき、ジュマは橋のたもとに浅い壕を掘って布陣した2門の57ミリ砲と防盾の陰で震えている11人の兵士を見つけた。
「貴方たち、ここで何をしているの?」
青い顔をした兵士たちの中から一人の軍曹が進み出て説明を始める。
自分たちはもともと工兵で前線から3マイルほど下がった村で待機していたのだが、昨日の朝早くに対戦車砲を牽引したトラック2台を指揮する大尉がやってきてトラックに乗るよう命令し、ここまで連れてこられたのだという。
件の大尉は工兵たちに57ミリ砲を押し付けると「別命あるまでここを動いてはならん」と言い残し、どこかへ行ってしまった。
結局名前も知らない大尉とはそれっきりで、彼らははまる1日交替もこなければ食事の配給もないまま橋を守っていたのだ。

話を聞いたジュマはジープに積んだ雑嚢からハーシーのチョコバーを人数分取り出して言った
「一緒に来なさい」
工兵たちは生き返ったような動きで借り物の砲を壕から引き出し始めた。
この分なら午後にはサンドメルに入れるかと思ったジュマだったが、そうは問屋がおろさなかった。
戦闘団が北上する道路はサンドメルの手前でクルコリスバに向かう街道とブリムアイフェルへ向かう街道に分岐している。
そのジャンクションに両方面から後退してきた車列が同時に進入し、グチャグチャの交通渋滞を引き起こしていたのだ。
「突っ込め!」
ジュマは30トンの中戦車を先頭に立たせ、しゃにむに渋滞の中を押し通っていく。
牛歩に等しい速度ながら着実にサンドメルに接近していた戦闘団だったが、その前進はまたもやストップさせられた。
ぶっとい砲身と幅広の履帯にモノを言わせて進路を切り開いてきた105ミリ榴弾砲搭載型のシャーマンがピタリと動かなくなってしまったのだ。
「ちょっと、何やってんの!」
カンカンに怒ってジープを飛び降りるジュマ。
縦隊の先頭に来てみればシャーマン戦車は道路の真ん中で屋根付きのセダンと面突き合せている。
セダンに乗っていたのはガップ大佐とその幕僚たちだった。
「大佐殿、危急の折ですのでここは前線に向かう車列に道を譲ってはいただけないでしょうか?」
形だけながら一応の敬意をもって説得を試みるジュマ。
帰ってきた答えは「絶対にノウ!」だった。
シャーマンの操縦手が「どうしますか?」と言いたげな視線を向けてくる。
ジュマはちょっと考えると、ニッコリ笑って言った。
「轢いちゃえ♪」
戦車が突っ込んでくるのを見たセダンは慌ててカーブを切ると勢い余って路肩を乗り越え、斜面を滑り落ちていった。
前進を再開した車列を見て満足げに頷くジュマ。
だが、一輌の軽戦車が彼女のすぐ横を通過したとき悲劇が起きた。
そのスチュアート戦車は前回の戦闘でバリケードを乗り越えた際に左のフェンダーを破損していたのだが、ノコギリの歯のように変形したフェンダーの先端がジュマのズボンを引っ掛け、ばっさりと切り裂いてしまったのだ。
さらに高速で回転する履帯がズボンを巻き込み、バカ殿に帯を引っ張られる腰元のようにクルクルと回りながら下半身を剥かれてしまう。
そして軽戦車が走り去ったあとには上はミスリアル軍のパーソナルカラーである鶯色の戦闘服、下は黒のショーツとストッキングとブーツだけという実にフェティッシュな装いのダークエルフの女将校が残される。
ジュマは顔が発火しそうな恥ずかしさを意思の力でねじ伏せると落ち着き払った態度でズボンの替えを取ってくるよう命じる。
そしてくるりと向き直るとまたしても車列を止め、目を皿のようにして自分を凝視している兵士たちに怒鳴った。
「貴方たちは女の尻を見物するためにこんなところにいるの?さっさと前進しなさい!」

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