第270話 燃える大洋(後編)
1485年(1945年)午後2時 第5艦隊旗艦ミズーリ
「TF58司令部からの報告によりますと、TG58.3、TG58.5ともに、第3次攻撃隊の発進準備を間もなく終えるとの事です。」
第5艦隊司令長官フランク・フレッチャー大将は、航空参謀のエルンスト・ヴォーリス中佐からの報告を聞くなり、無言で頭を頷かせた。
「それから、軽空母ライトのアベンジャーが、レビリンイクル方面より飛来したと思しきワイバーン1機を発見したとの報告が届いております。」
「レビリンイクルからだと?索敵かね?」
「レビリンイクルからだと?索敵かね?」
フレッチャーはヴォーリスに聞き返す。
「恐らくは……」
「昨日の空襲で、我が方も敵騎多数を落とした筈だが。」
「あと一撃を加えられる程の戦力は残しているのかもしれませんな。」
「昨日の空襲で、我が方も敵騎多数を落とした筈だが。」
「あと一撃を加えられる程の戦力は残しているのかもしれませんな。」
作戦参謀のジュレク・ブランチャード中佐が口を開く。
「敵戦力に関する詳細は不明ですが、少なくとも4、50騎程の戦力は有しているでしょう。これに、敵機動部隊の残存竜母から放たれる艦載騎隊が
加わると、かなり厄介ですな。」
「ふむ……第2次攻撃隊が竜母4隻を沈めたとはいえ、敵はまだ10隻の竜母を残しているからな。戦力の再編を終えたら、敵は間違いなく、再攻撃を
仕掛けてくるだろう。それにレビリンイクルからの敵が加わる……か。なかなか、楽をさせてはもらえん。」
加わると、かなり厄介ですな。」
「ふむ……第2次攻撃隊が竜母4隻を沈めたとはいえ、敵はまだ10隻の竜母を残しているからな。戦力の再編を終えたら、敵は間違いなく、再攻撃を
仕掛けてくるだろう。それにレビリンイクルからの敵が加わる……か。なかなか、楽をさせてはもらえん。」
フレッチャーはため息混じりにそう言い放った。
TF58は、先の攻撃で敵の1個竜母群を壊滅に追いやる事に成功しているが、帰還した攻撃隊指揮官の報告では、敵は未だに、3つの竜母群を有しており、
保有している迎撃騎の数も相当数に上ると推測される。
第3次攻撃隊は、TG58.4、TG58.5から300機以上が発艦する事になっているが、敵は第3次攻撃隊にも多数の迎撃騎を差し向けて、艦隊の
被害を抑えにかかる可能性が高い。
そうなると、第3次攻撃隊の被害も少なからぬ物になるであろう。
保有している迎撃騎の数も相当数に上ると推測される。
第3次攻撃隊は、TG58.4、TG58.5から300機以上が発艦する事になっているが、敵は第3次攻撃隊にも多数の迎撃騎を差し向けて、艦隊の
被害を抑えにかかる可能性が高い。
そうなると、第3次攻撃隊の被害も少なからぬ物になるであろう。
問題点は他にもある。
敵機動部隊に痛打を与えたTF58であるが、昨日から続く連戦の影響で正規空母5隻が撃沈破された事と、空戦の消耗による影響で、艦隊防空に使える
戦闘機の数は著しく減少している。
この状況で新たな敵編隊の攻撃を受けた場合、母艦の損害が更に出る可能性はかなり高い。
フレッチャーは、今日の戦闘で艦隊の進行進路上に置いた任務群に敵の攻撃が集中している事を踏まえ、未だに無傷のTG58.3、TG58.5を
艦隊の先鋒に配置し、傷を受けたTG58.2、TG58.1をやや後方に下がらせている。
敵の行動パターンを見る限り、先頭に置いたTG58.3、TG58.5が敵の空襲を受ける可能性は高いが、攻撃目標の選択肢が敵にある現状では、
後方に置いたTG58.1やTG58.2が再攻撃を受ける事もあり得ない事ではない。
また、TG58.1、TG58.2がどれぐらいの敵に襲われるかによって状況が変わって来る。
2、30騎ほどの敵騎が襲って来れば、艦隊の防空戦で受ける敵の損害も考慮した上で、被害を受けたとしても沈没艦を出す可能性は低いと推測できる。
だが、7、80騎の敵が襲い掛かれば、良くても大破……最悪の場合はいずれかの艦が沈没確実の損害を被る事もあり得るであろう。
それに加え、敵が一方向だけではなく、レビリンイクル方向から襲い掛かる事も考慮しなければならない。
レビリンイクル方面の敵に対しては、既に5、60機の戦闘機でもって対応する事が決まっているが、敵機動部隊とレビリンイクル方面の敵が連携して
同時攻撃を行った場合は、TF58は先の空襲のように戦闘機隊の航空管制が飽和状態に陥るであろう。
敵機動部隊に痛打を与えたTF58であるが、昨日から続く連戦の影響で正規空母5隻が撃沈破された事と、空戦の消耗による影響で、艦隊防空に使える
戦闘機の数は著しく減少している。
この状況で新たな敵編隊の攻撃を受けた場合、母艦の損害が更に出る可能性はかなり高い。
フレッチャーは、今日の戦闘で艦隊の進行進路上に置いた任務群に敵の攻撃が集中している事を踏まえ、未だに無傷のTG58.3、TG58.5を
艦隊の先鋒に配置し、傷を受けたTG58.2、TG58.1をやや後方に下がらせている。
敵の行動パターンを見る限り、先頭に置いたTG58.3、TG58.5が敵の空襲を受ける可能性は高いが、攻撃目標の選択肢が敵にある現状では、
後方に置いたTG58.1やTG58.2が再攻撃を受ける事もあり得ない事ではない。
また、TG58.1、TG58.2がどれぐらいの敵に襲われるかによって状況が変わって来る。
2、30騎ほどの敵騎が襲って来れば、艦隊の防空戦で受ける敵の損害も考慮した上で、被害を受けたとしても沈没艦を出す可能性は低いと推測できる。
だが、7、80騎の敵が襲い掛かれば、良くても大破……最悪の場合はいずれかの艦が沈没確実の損害を被る事もあり得るであろう。
それに加え、敵が一方向だけではなく、レビリンイクル方向から襲い掛かる事も考慮しなければならない。
レビリンイクル方面の敵に対しては、既に5、60機の戦闘機でもって対応する事が決まっているが、敵機動部隊とレビリンイクル方面の敵が連携して
同時攻撃を行った場合は、TF58は先の空襲のように戦闘機隊の航空管制が飽和状態に陥るであろう。
「なるべく、敵の攻撃はリプライザル級空母を有するTG58.3とTG58.5で吸収したい所だが……」
「その辺りは、戦闘が始まるまでは分かりませんな。また、敵は温存していた艦載騎やレビリンイクルの残存部隊も動員するでしょうから、先の防空戦の
ように航空管制がし辛くなるでしょう。各任務群のFODも良く任務を遂行しておるのですが……」
「その辺りは、戦闘が始まるまでは分かりませんな。また、敵は温存していた艦載騎やレビリンイクルの残存部隊も動員するでしょうから、先の防空戦の
ように航空管制がし辛くなるでしょう。各任務群のFODも良く任務を遂行しておるのですが……」
ブランチャードは眉を顰めながらフレッチャーに言う。
機動部隊の防空戦闘は、最初にピケット艦からの敵編隊発見の報が入る所から始まり、次に各空母群の上空を飛ぶ当直の直掩隊が集結して敵編隊の
襲撃に備え始める。
その次には、各空母で待機していた防空役の戦闘機隊が発艦していく。
この戦闘機隊を、空母のCICに配置されたFOD(戦闘機隊管制士官)が敵編隊の位置にまで誘導し、そこから空戦が始まる。
この戦法は、レーダーを積極的に導入したアメリカ海軍が得意とする物であるが、同時に幾つかの問題が発生していた。
問題は様々だが、何よりも一番の問題は、大編隊同士が戦闘に突入した後は、FODがレーダー上に移るどの光点が味方か、敵かを判断し難いという物である。
アメリカ海軍は、同士討ちを避けるために、航空機にIFF(敵味方識別装置)を設置しているが、レーダー上に移る光点は敵味方“一緒”であり、
乱戦時に戦闘機隊をどの位置に誘導するか、または作戦続行か否か等の判断を下すのに混乱が生じていた。
空戦が大きくなればなるほど、入手できる情報は飽和状態に陥り、空戦開始から10分後には戦闘機隊に正確な指示を下す事も困難になりがちであった。
襲撃に備え始める。
その次には、各空母で待機していた防空役の戦闘機隊が発艦していく。
この戦闘機隊を、空母のCICに配置されたFOD(戦闘機隊管制士官)が敵編隊の位置にまで誘導し、そこから空戦が始まる。
この戦法は、レーダーを積極的に導入したアメリカ海軍が得意とする物であるが、同時に幾つかの問題が発生していた。
問題は様々だが、何よりも一番の問題は、大編隊同士が戦闘に突入した後は、FODがレーダー上に移るどの光点が味方か、敵かを判断し難いという物である。
アメリカ海軍は、同士討ちを避けるために、航空機にIFF(敵味方識別装置)を設置しているが、レーダー上に移る光点は敵味方“一緒”であり、
乱戦時に戦闘機隊をどの位置に誘導するか、または作戦続行か否か等の判断を下すのに混乱が生じていた。
空戦が大きくなればなるほど、入手できる情報は飽和状態に陥り、空戦開始から10分後には戦闘機隊に正確な指示を下す事も困難になりがちであった。
ークタウン ◆.EC28/54Ag[sage] 2014/04/21(月) 02:01:37 ID:iQy7bph60
近々予想される敵の空襲も、予想では最低でも300以上、多ければ400の敵騎が襲撃してくると言われており、先の状況が繰り返される事はほぼ
間違いないと言えた。
近々予想される敵の空襲も、予想では最低でも300以上、多ければ400の敵騎が襲撃してくると言われており、先の状況が繰り返される事はほぼ
間違いないと言えた。
「我が合衆国海軍は、敵にあれこれ言いたい放題言って来たが、我が軍もまだまだ、未熟な部分が多い物だ……」
フレッチャーは眉間を抑えながらそう呟いた。
ふと、机の上に置いたコーヒーカップに目が行く。
ふと、机の上に置いたコーヒーカップに目が行く。
「空か……すまんが、おかわりを貰おうかね。」
「わかりました。従兵!」
「わかりました。従兵!」
デイビス参謀長が従兵を呼びつけた。
「コーヒーを頼む。」
「ハッ!直ちに。」
「ハッ!直ちに。」
従兵は、フレッチャーのカップと、それに便乗したデイビスとブランチャードのカップをトレイに乗せ、室内から退出していった。
「先ほども申しました通り、第3次攻撃隊は間もなく発艦準備が完了します。第3次攻撃隊が敵機動部隊に打撃を与えられれば、我が艦隊の勝利は
ゆるぎない物になるでしょう。」
「母艦戦力の面では……な。」
ゆるぎない物になるでしょう。」
「母艦戦力の面では……な。」
フレッチャーは机の上に置かれた海図を見つめながら、デイビスに返す。
「敵の水上部隊……特に戦艦は未だに無傷のままだ。敵は破れかぶれで戦艦部隊を編成して、我が機動部隊に突入を図る事もあり得るだろう。」
「長官の言われる通りですな。」
「長官の言われる通りですな。」
ブランチャードが頷く。
「現在、我が艦隊と敵機動部隊との距離は約320マイル(512キロ)にまで縮まっていると思われます。第2次攻撃隊の報告では、敵艦隊は30ノット以上の
速力で依然南下中とあります。一方で、我が艦隊も24ノット前後の速力で北上しておりますので、夕刻までには、彼我の距離はどんなに遠くても、
300マイルを切る事になるでしょう。敵が夜間砲戦を決意した場合、遅くても翌日の2時までには、艦隊に接近している事になりますな。」
速力で依然南下中とあります。一方で、我が艦隊も24ノット前後の速力で北上しておりますので、夕刻までには、彼我の距離はどんなに遠くても、
300マイルを切る事になるでしょう。敵が夜間砲戦を決意した場合、遅くても翌日の2時までには、艦隊に接近している事になりますな。」
「作戦参謀。君の話しぶりを聞く限りでは、我が艦隊が敵との距離を空ける試みをせぬまま敵を迎え撃とうとしているように感じるが……何も大砲を使わずとも
敵艦隊を撃滅できるのではないかね?」
敵艦隊を撃滅できるのではないかね?」
ブランチャードの説明を聞いたデイビスが怪訝な表情を浮かべながら言う。
「TG58.7は確かに水上砲戦部隊であるが、あの部隊を必ずしも使う必要はない。高速機動部隊の主力たる空母群が健在ならば、第3次攻撃隊を収容すると
同時に一時反転して距離を開け、また翌朝索敵を行い、艦載機でもって叩き潰せばよいではないか。」
「私も、参謀長の言われる通りかと思うが。」
同時に一時反転して距離を開け、また翌朝索敵を行い、艦載機でもって叩き潰せばよいではないか。」
「私も、参謀長の言われる通りかと思うが。」
デイビスの言葉に、ヴォーリスも賛同する。
「距離を一時開けて、翌朝、艦載機で処理する。確かにそれでいいでしょう……では、それが出来ない状況が発生した場合はどうなりますかな?」
ブランチャードは、幾分きつめの口調で2人に問うた。
「……作戦参謀は、時期に来るであろう敵の攻撃に、我が機動部隊の艦が新たに被害を受けるとでも言いたいのかね。」
「否定はしません。」
「否定はしません。」
デイビスの言葉に、ブランチャードは即答する。
「敵もまだ余力を残しており、それをぶつけて来ることは確実です。その攻撃で、新たな損傷艦が出る可能性は高いでしょう。その損傷艦の中には、
合衆国海軍の誇る、リプライザル級空母が混じる可能性もあります。」
「つまり、作戦参謀は、新たな損傷艦が出て艦隊の行動力に支障を来した場合は、そこを敵に衝かれる可能性があり、我々は否応なしに、それに対応する
手筈を打たねばならん、という事だな?」
合衆国海軍の誇る、リプライザル級空母が混じる可能性もあります。」
「つまり、作戦参謀は、新たな損傷艦が出て艦隊の行動力に支障を来した場合は、そこを敵に衝かれる可能性があり、我々は否応なしに、それに対応する
手筈を打たねばならん、という事だな?」
唐突にフレッチャーが口を挟んだ。
「その通りであります。」
ブランチャードは肯定すると、海図上にある敵機動部隊の駒を指示棒の先でつついた。
「これまでの戦闘を見る限り、我が方も航空戦であと2、3隻の損傷艦が出る事は覚悟せねばなりません。参謀長がお考えになられている通り、敵攻撃隊の
攻撃力を削ぎ切り、明日の航空攻撃に備えられるのならばそれに越した事はありませんが……大型艦……特に正規空母や戦艦が大破、航行不能の状態に
陥った場合、その艦の後送準備が完了し、安全圏に脱出するまでは、機動部隊本隊の動きは制限されます。そうなれば、敵はここぞとばかりに水上砲戦部隊を
投入し、我が方の撃滅を図って来るでしょう。」
「レーミア湾沖海戦で見られたように、敵は主力の水上打撃部隊と、快速艦で構成した遊撃部隊の2つを差し向けて来る可能性もあるな。特に、後者は戦闘で
傷ついた艦や、護衛艦艇を狩るには最適の編成で来るだろう。敵戦力を低めに見積もっても、アラスカ級とほぼ同等のマレディングラ級巡戦2隻と巡洋艦4、5隻。
駆逐艦10隻前後は別働隊として編成するだろう。」
「では……我々もTG58.7と、別働隊の襲撃を警戒するために、新たに警戒部隊を編成いたしましょうか?」
攻撃力を削ぎ切り、明日の航空攻撃に備えられるのならばそれに越した事はありませんが……大型艦……特に正規空母や戦艦が大破、航行不能の状態に
陥った場合、その艦の後送準備が完了し、安全圏に脱出するまでは、機動部隊本隊の動きは制限されます。そうなれば、敵はここぞとばかりに水上砲戦部隊を
投入し、我が方の撃滅を図って来るでしょう。」
「レーミア湾沖海戦で見られたように、敵は主力の水上打撃部隊と、快速艦で構成した遊撃部隊の2つを差し向けて来る可能性もあるな。特に、後者は戦闘で
傷ついた艦や、護衛艦艇を狩るには最適の編成で来るだろう。敵戦力を低めに見積もっても、アラスカ級とほぼ同等のマレディングラ級巡戦2隻と巡洋艦4、5隻。
駆逐艦10隻前後は別働隊として編成するだろう。」
「では……我々もTG58.7と、別働隊の襲撃を警戒するために、新たに警戒部隊を編成いたしましょうか?」
話を聞いていたデイビスがフレッチャーに向けて質問する。
「ここは、レーミア湾で戦ったスプルーアンス提督のやり方に習うしかないだろう。とはいえ、それを行うのは今では無い。」
「第3次攻撃隊が敵を叩いてから、ですね?」
「第3次攻撃隊が敵を叩いてから、ですね?」
ブランチャードの問いに、フレッチャーは2度頷いた。
「ただ、今の内に準備はしておこう。通信参謀!」
「ハッ!」
「ハッ!」
通信参謀のフリッカート中佐はフレッチャーに顔を向けた。
「BD14(第14戦艦戦隊)司令部に電話を繋いでくれ。先の話を伝える。」
「了解しました。」
「了解しました。」
フリッカート中佐がフレッチャーの命令を受けた直後、作戦室に通信士官が入室して来た。
通信士官はフリッカート中佐に紙を手渡し、そそくさと退出していった。
通信士官はフリッカート中佐に紙を手渡し、そそくさと退出していった。
「長官。TG58.3、TG58.5司令部より、第3次攻撃隊発艦開始との通信が入りました。」
午後4時20分 レビリンイクル沖北北東520マイル地点
空母オリスカニー艦爆隊長兼第3次攻撃隊指揮官を務めるマイク・ウェーゼル少佐は、日が傾きかけた洋上を見据えた後、時計に目を向けた。
「……こんな時間か。」
母艦から飛び立ってから早2時間余りが経っていた。
第3次攻撃隊は、空母キティーホークのS1Aハイライダーを先導機に据えながら既に2時間以上飛行している。
今から1時間前、空母モントレイⅡの索敵機が南下中の敵機動部隊を発見している。
その際、モントレイ機は
第3次攻撃隊は、空母キティーホークのS1Aハイライダーを先導機に据えながら既に2時間以上飛行している。
今から1時間前、空母モントレイⅡの索敵機が南下中の敵機動部隊を発見している。
その際、モントレイ機は
「敵機動部隊、艦載騎を大挙発艦させつつあり。」
と報告を送って来たが、その5分後には我、敵騎の攻撃を受ける、という言葉を最後に連絡が途絶えている。
そして、今から20分前には、敵機動部隊から発艦した物と思しき敵大編隊が第3次攻撃隊とすれ違って行く所を目にしていた。
敵攻撃隊の騎数は大雑把に見ても、第3次攻撃隊306機とあまり変わらないようにも見えた。
そして、今から20分前には、敵機動部隊から発艦した物と思しき敵大編隊が第3次攻撃隊とすれ違って行く所を目にしていた。
敵攻撃隊の騎数は大雑把に見ても、第3次攻撃隊306機とあまり変わらないようにも見えた。
「TF58は、あの敵編隊の攻撃を上手く凌げ切れるかな……」
ウェーゼル少佐は本隊の事が気掛かりになった。
昨夜から続く連戦で、TF58も消耗が激しい。
キティーホークの属するTG58.5は、攻撃隊に参加した戦闘機の数を除けば、138機の戦闘機が残されているが、これは各母艦上で有している
だけの数だ。
実際には、空戦による損傷ですぐに飛び立てぬ機もあり、稼働戦力は100機程だ。
元々、160機は使える予定であったが、防空戦の結果、被撃墜機や、被弾による損傷が祟って母艦や、味方艦の近くで止む無く不時着水した物、
着艦事故等で失われた物が続出しているため、稼働機が減少してしまったのである。
他の任務群も同様であり、稼働機全機を投入したとしても、敵の完全阻止は不可能であろう。
昨夜から続く連戦で、TF58も消耗が激しい。
キティーホークの属するTG58.5は、攻撃隊に参加した戦闘機の数を除けば、138機の戦闘機が残されているが、これは各母艦上で有している
だけの数だ。
実際には、空戦による損傷ですぐに飛び立てぬ機もあり、稼働戦力は100機程だ。
元々、160機は使える予定であったが、防空戦の結果、被撃墜機や、被弾による損傷が祟って母艦や、味方艦の近くで止む無く不時着水した物、
着艦事故等で失われた物が続出しているため、稼働機が減少してしまったのである。
他の任務群も同様であり、稼働機全機を投入したとしても、敵の完全阻止は不可能であろう。
(キティーホークは固いからいいが……エセックス級やインディペンデンス級は脆いからな。なるべく、母艦の被害が小さく収まればいいが。)
彼は、心中で消えぬ不安を抱く。
そのまま5分ほどが過ぎた時、耳元のレシーバーから声が発せられた。
「こちらピーチホワイト3、第3次攻撃隊指揮官機へ。聞こえるか?どうぞ。」
「こちら指揮官機。感度良好。」
「敵機動部隊を発見した。位置は攻撃隊より北北東30マイル地点。現在、敵の迎撃隊多数が攻撃隊の方に向かいつつある模様。」
「了解。ピーチホワイト3。そろそろ避退しろ、すぐに敵が接近して来るぞ。」
「了解した。一時離脱する。」
「こちら指揮官機。感度良好。」
「敵機動部隊を発見した。位置は攻撃隊より北北東30マイル地点。現在、敵の迎撃隊多数が攻撃隊の方に向かいつつある模様。」
「了解。ピーチホワイト3。そろそろ避退しろ、すぐに敵が接近して来るぞ。」
「了解した。一時離脱する。」
偵察機との通信を終えたウェーゼル少佐は、制空隊として同行しているゲティスバーグ、オリスカニー、キティーホークのF4U、F8Fに前進を命じた。
それまで、攻撃隊と歩調を合わせていた144機の戦闘機のうち、半数が編隊から離れていく。
それから程無くして、前進した制空隊が敵の直掩隊との間で空戦を開始した。
それまで、攻撃隊と歩調を合わせていた144機の戦闘機のうち、半数が編隊から離れていく。
それから程無くして、前進した制空隊が敵の直掩隊との間で空戦を開始した。
「さて、どうなるか……」
ウェーゼル少佐は、前方で繰り広げられる乱戦を見ながらも、洋上の敵機動部隊を探し求めていく。
攻撃隊は高度4000メートル付近を時速210マイルで飛行中だが、偵察ワイバーンの報告が正しければ、間もなく会敵する筈だ。
しかし、現場海域は、高度3000付近まで断雲に覆われている。
雲は所々切れ目がある物の、雲量はかなり多く、艦爆隊にとってはいささかやり難い環境となっている。
攻撃隊は高度4000メートル付近を時速210マイルで飛行中だが、偵察ワイバーンの報告が正しければ、間もなく会敵する筈だ。
しかし、現場海域は、高度3000付近まで断雲に覆われている。
雲は所々切れ目がある物の、雲量はかなり多く、艦爆隊にとってはいささかやり難い環境となっている。
「敵艦隊の上空までこの雲量だと、艦爆隊は暖降下で爆撃するしかないかもしれん。」
ウェーゼルは眉間に皺を寄せながらそう呟く。
その時、
その時、
「隊長!右上方より敵騎!突っ込んできます!!」
耳元のレシーバーに部下の第2中隊帳の声が響く。
視線を向けると、そこには、制空隊の妨害を突破した20騎前後のワイバーンがいた。
狙いは攻撃隊のようだ。
周囲に残っていたF6Fのうち、20機ほどが増槽を捨てて立ち向かっていく。
視線を向けると、そこには、制空隊の妨害を突破した20騎前後のワイバーンがいた。
狙いは攻撃隊のようだ。
周囲に残っていたF6Fのうち、20機ほどが増槽を捨てて立ち向かっていく。
「ベアキャットとコルセアを振り切るとは、意外とすばしっこい奴らだぞ。」
ウェーゼルはワイバーン群に対して、感心めいた口調で言う。
F6Fと敵ワイバーンが会敵するや、機銃弾と光弾の応酬が繰り広げられる。
ワイバーンの大半がF6Fとの空戦に引き込まれるが、4騎のワイバーンは護衛機の妨害を突破して急接近してきた。
すぐさま、別のF6Fが急行して正面から撃ち合う。
ワイバーン4騎に対して、8機のF6Fが立ちはだかる。
敵騎は光弾を連射しながらF6Fの防衛網を突破しようとする。そこにF6Fの機銃弾が殺到し、敵ワイバーン2騎の周囲で赤紫色の光が点滅する。
4騎のワイバーンは、防御結界の効果のお陰でF6Fの正面攻撃を難無く受け止めつつ、高速ですれ違った。
F6Fと敵ワイバーンが会敵するや、機銃弾と光弾の応酬が繰り広げられる。
ワイバーンの大半がF6Fとの空戦に引き込まれるが、4騎のワイバーンは護衛機の妨害を突破して急接近してきた。
すぐさま、別のF6Fが急行して正面から撃ち合う。
ワイバーン4騎に対して、8機のF6Fが立ちはだかる。
敵騎は光弾を連射しながらF6Fの防衛網を突破しようとする。そこにF6Fの機銃弾が殺到し、敵ワイバーン2騎の周囲で赤紫色の光が点滅する。
4騎のワイバーンは、防御結界の効果のお陰でF6Fの正面攻撃を難無く受け止めつつ、高速ですれ違った。
「敵騎接近!来るぞ!機体を向けろ!!」
ウェーゼルは、正面上方より急接近してくるワイバーンに対し、機体を向ける。
彼が直率する3機のヘルダイバーも、同じように機体を敵に向けた。
距離が300メートル程に迫った時、敵ワイバーンが先に光弾を放ってきた。
直後、ウェーゼルも機銃の発射ボタンを放つ。
ヘルダイバーの両翼についている2丁の20ミリ機銃が重々しい音を立てながら火を噴き、曳光弾が敵騎に注がれる。
ろくに照準を合わせ無かった為か、機銃弾は敵騎の下側に抜けて行った。
だが、この反撃が敵を怯ませたのか、ワイバーンの放った光弾も全て外れ弾となり、ワイバーンはウェーゼル機を落とす事無くすれ違って行った。
彼が直率する3機のヘルダイバーも、同じように機体を敵に向けた。
距離が300メートル程に迫った時、敵ワイバーンが先に光弾を放ってきた。
直後、ウェーゼルも機銃の発射ボタンを放つ。
ヘルダイバーの両翼についている2丁の20ミリ機銃が重々しい音を立てながら火を噴き、曳光弾が敵騎に注がれる。
ろくに照準を合わせ無かった為か、機銃弾は敵騎の下側に抜けて行った。
だが、この反撃が敵を怯ませたのか、ワイバーンの放った光弾も全て外れ弾となり、ワイバーンはウェーゼル機を落とす事無くすれ違って行った。
「OK!まずはかわしたか」
「第2小隊3番機被弾!!」
「第2小隊3番機被弾!!」
後部座席に座る機銃手が切迫した声で叫んだ。
敵ワイバーンは、ウェーゼル機のみを狙っている訳では無かった。
隊長騎以外のワイバーンは、ウェーゼル機以外のヘルダイバーに光弾を叩き込み、見事に命中させたのである。
敵ワイバーンは、ウェーゼル機のみを狙っている訳では無かった。
隊長騎以外のワイバーンは、ウェーゼル機以外のヘルダイバーに光弾を叩き込み、見事に命中させたのである。
「ファック!!」
ウェーゼルは思わず罵声を漏らすが、下方に飛び抜けた敵ワイバーンは、得意の高機動でもって体を翻し、上昇に移った。
「敵ワイバーン、下方から接近しま……あ!」
部下の報告が途絶えた瞬間、右の斜め後ろからオレンジ色の光が差し込んで来た。
「やられた!こんな所で!!」
レシーバーに悲痛な声音が響いて来た。
「ヘイル!クリーヴス!!」
ウェーゼルは、右後方に振り向きながら部下の名前を呼ぶ。
右後方には3番機が付いていたのだが、その3番機は左の主翼を半ばから叩き折られ、錐揉み状態になって墜落し始めていた。
敵ワイバーンは、3番機を叩き落した後、ウェーゼル機に矛先を変えようとしたが、そこに護衛のF6F2機が横合いから突進して来た。
F6Fは、両翼の12.7ミリ機銃を撃ちまくる。
機銃弾は敵ワイバーンに命中しなかったが、形勢不利と見た敵は上昇をやめて反転し、急降下していった。
右後方には3番機が付いていたのだが、その3番機は左の主翼を半ばから叩き折られ、錐揉み状態になって墜落し始めていた。
敵ワイバーンは、3番機を叩き落した後、ウェーゼル機に矛先を変えようとしたが、そこに護衛のF6F2機が横合いから突進して来た。
F6Fは、両翼の12.7ミリ機銃を撃ちまくる。
機銃弾は敵ワイバーンに命中しなかったが、形勢不利と見た敵は上昇をやめて反転し、急降下していった。
「くそったれ!新手のワイバーンが現れた!8時方向、下方だ!」
ウェーゼルは、無線機に流れて来たその声を聞いた後、即座に顔を振り向ける。
彼は、10機以上のF6Fが下降しながら突進していく様子を見つめるが、視界内には敵らしき姿はない。
彼は、10機以上のF6Fが下降しながら突進していく様子を見つめるが、視界内には敵らしき姿はない。
「シホットの連中、少数の別働隊を待機させてやがったな。」
ウェーゼルは眉を顰めながら呟きつつ、敵の襲撃を警戒する。
程無くして、14、5機のワイバーンが編隊に接近して来た。
この敵ワイバーンは、攻撃隊の飛行高度まで上昇した後、右の真横から突っかかる形で急速に距離を詰めて来た。
まだ、編隊の近くに張り付いていたF6F6機がこれに真正面から立ち向かい、2機を撃墜したが、F6Fも1機が撃墜され、もう1機が白煙を
引いて高度を落としていく。
このワイバーン隊は、キティーホークに所属するAD-1Aを襲った。
ワイバーンは300メートル程の距離にまで接近した後、思い思いの目標に向けて光弾を放つ。
7機のスカイレイダーが次々に命中弾を受ける。
程無くして、14、5機のワイバーンが編隊に接近して来た。
この敵ワイバーンは、攻撃隊の飛行高度まで上昇した後、右の真横から突っかかる形で急速に距離を詰めて来た。
まだ、編隊の近くに張り付いていたF6F6機がこれに真正面から立ち向かい、2機を撃墜したが、F6Fも1機が撃墜され、もう1機が白煙を
引いて高度を落としていく。
このワイバーン隊は、キティーホークに所属するAD-1Aを襲った。
ワイバーンは300メートル程の距離にまで接近した後、思い思いの目標に向けて光弾を放つ。
7機のスカイレイダーが次々に命中弾を受ける。
ある機は胴体に、別の機は主翼やコクピットの至近に命中弾を受けた。
ワイバーンが飛び去り、被弾したスカイレイダーがよろめく。
だが、ヘルダイバーやアベンジャーと違い、この攻撃で撃墜された機はおらず、傷付きながらも速度を維持したまま編隊に続行している。
13機のワイバーンは反転し、再びスカイレイダーに攻撃を仕掛ける。
今度は8機のスカイレイダーが被弾する。
被弾機は機体に次々と光弾が突き刺さり、外板の破片が雪のように機体の後部へ吹き散らされていく。
スカイレイダーが攻撃を受ける中、オリスカニーのアベンジャー隊にも6機の敵ワイバーンが襲い掛かる。
こちらは3機が被弾し、うち1機がエンジンに致命傷を受けて墜落し始める。
その最中、スカイレイダー隊にも遂に被撃墜機が出た。
このスカイレイダーは、コクピットに集中して光弾を浴び、パイロットが射殺された。
搭乗者を失ったスカイレイダーは、傷付きながらも、被弾前と変わらぬ調子でエンジンを回しながら機首を下に急降下していった。
続いて、別の機が右主翼に被弾し、濃い白煙を吹き始めた。
だが、敵の光弾はあと一歩の所でこのスカイレイダーを撃墜に追い込むことが出来なかった。
2度も手酷く叩いたにもかかわらず、戦果がたった1機である事に憤慨したワイバーン隊の指揮官は、更に攻撃を加えるべく、航過したワイバーンを反転させて
3度目の攻撃を行わせようとした。
だが、それは叶わなかった。
ワイバーン隊が反転した直後、編隊の後方で張っていたF6Fが行く手を阻んだ。
また、オリスカニー隊に反転攻撃を仕掛け、2機目のアベンジャーを撃墜した6機のワイバーンにも、空戦域から急遽かけつけた米戦闘機の横撃を受け、否応なしに
空戦へと引きずり込まれていった。
ワイバーンが飛び去り、被弾したスカイレイダーがよろめく。
だが、ヘルダイバーやアベンジャーと違い、この攻撃で撃墜された機はおらず、傷付きながらも速度を維持したまま編隊に続行している。
13機のワイバーンは反転し、再びスカイレイダーに攻撃を仕掛ける。
今度は8機のスカイレイダーが被弾する。
被弾機は機体に次々と光弾が突き刺さり、外板の破片が雪のように機体の後部へ吹き散らされていく。
スカイレイダーが攻撃を受ける中、オリスカニーのアベンジャー隊にも6機の敵ワイバーンが襲い掛かる。
こちらは3機が被弾し、うち1機がエンジンに致命傷を受けて墜落し始める。
その最中、スカイレイダー隊にも遂に被撃墜機が出た。
このスカイレイダーは、コクピットに集中して光弾を浴び、パイロットが射殺された。
搭乗者を失ったスカイレイダーは、傷付きながらも、被弾前と変わらぬ調子でエンジンを回しながら機首を下に急降下していった。
続いて、別の機が右主翼に被弾し、濃い白煙を吹き始めた。
だが、敵の光弾はあと一歩の所でこのスカイレイダーを撃墜に追い込むことが出来なかった。
2度も手酷く叩いたにもかかわらず、戦果がたった1機である事に憤慨したワイバーン隊の指揮官は、更に攻撃を加えるべく、航過したワイバーンを反転させて
3度目の攻撃を行わせようとした。
だが、それは叶わなかった。
ワイバーン隊が反転した直後、編隊の後方で張っていたF6Fが行く手を阻んだ。
また、オリスカニー隊に反転攻撃を仕掛け、2機目のアベンジャーを撃墜した6機のワイバーンにも、空戦域から急遽かけつけた米戦闘機の横撃を受け、否応なしに
空戦へと引きずり込まれていった。
その後も2度ほど、乱戦から逃れたワイバーンの襲撃が行われ、新たにヘルダイバー1機とアベンジャー1機が撃墜された物の、最終的にはそれだけの被害で済んだ。
午後4時45分。空戦開始から20分が経過したこの時、第3次攻撃隊は敵機動部隊を視界に捉えた。
「敵機動部隊発見!」
ウェーゼルは、興奮を押し殺しながら、努めて平静な声音で攻撃隊の各機に向けて伝える。
洋上には、多数のシホールアンル軍艦艇が航行しており、少なくとも2つの輪形陣がある。
シホールアンル機動部隊は7隻の竜母を撃沈破されている筈だが、それぞれの輪形陣には、竜母と思しき大型艦が3、4隻ほど確認できた。
洋上には、多数のシホールアンル軍艦艇が航行しており、少なくとも2つの輪形陣がある。
シホールアンル機動部隊は7隻の竜母を撃沈破されている筈だが、それぞれの輪形陣には、竜母と思しき大型艦が3、4隻ほど確認できた。
(……攻撃目標に関しては、特に指定は受けていない。攻撃機全てを1つの艦隊に集中させて、その艦隊の竜母を全滅させる事に専念した方がいいだろう。
だが、第3次攻撃隊の艦爆、艦攻はいまだに150機近くある。うち、半数はスカイレイダーだ。ここは……)
だが、第3次攻撃隊の艦爆、艦攻はいまだに150機近くある。うち、半数はスカイレイダーだ。ここは……)
ウェーゼルは1分程思考した後、攻撃隊各機に向けて命令を発した。
「全機に告ぐ。これより、敵艦隊を攻撃する!」
彼は一呼吸置いてから、指揮下にある各隊に命令を伝えていく。
「オリスカニー、モントレイ、キティーホーク隊は右方向の敵艦隊。ゲティスバーグ隊は左方向の敵艦隊を攻撃せよ。」
耳元のレシーバーに応答の声が聞こえ、ゲティスバーグ所属であるAD-1A42機が編隊から離れていく。
攻撃隊本隊であるオリスカニー、モントレイ、キティーホーク所属のSB2C、TBF、AD-1Aは指定されたもう1つの輪形陣に向かい始める。
敵艦隊に接近するまでの間、艦爆隊は高度5000付近まで上昇し、艦攻隊は高度100メートル付近まで降下していく。
攻撃隊本隊であるオリスカニー、モントレイ、キティーホーク所属のSB2C、TBF、AD-1Aは指定されたもう1つの輪形陣に向かい始める。
敵艦隊に接近するまでの間、艦爆隊は高度5000付近まで上昇し、艦攻隊は高度100メートル付近まで降下していく。
「攻撃目標を伝える。オリスカニー、敵正規竜母1番艦、キティーホーク、敵正規竜母2番艦、モントレイ、敵小型竜母1、2番艦!各隊は攻撃位置に付き次第、
順次攻撃を開始せよ!」
順次攻撃を開始せよ!」
ウェーゼルは愛機の操縦桿を握りながら、指揮下にある攻撃機隊に攻撃目標を伝えていく。
この間、オリスカニー隊は敵輪形陣の左側へ回り込みつつあった。
オリスカニー隊の艦爆22機、艦攻17機が位置に付いたころには、輪形陣の右側では陣形に突入したキティーホーク隊と敵機動部隊との間で戦闘が始まっていた。
ウェーゼルは敵艦隊の発する対空砲火を目にした時、敵艦の放つ対空弾幕が思ったよりも激しい事に気が付いた。
この間、オリスカニー隊は敵輪形陣の左側へ回り込みつつあった。
オリスカニー隊の艦爆22機、艦攻17機が位置に付いたころには、輪形陣の右側では陣形に突入したキティーホーク隊と敵機動部隊との間で戦闘が始まっていた。
ウェーゼルは敵艦隊の発する対空砲火を目にした時、敵艦の放つ対空弾幕が思ったよりも激しい事に気が付いた。
「あの弾幕……なかなかに厚いぞ。最初から対空艦潰しをやらなかった事もあるようだが、それを差し引いても強力だ。さては……」
ウェーゼルは、敵艦隊の強力な対空射撃の秘密に気付くが、オリスカニー隊も敵艦隊の陣形に接近したため、輪形陣外輪部の敵駆逐艦が発砲を開始して来た。
ヘルダイバー隊の周囲に高射砲弾が炸裂し、機体が爆風に煽られてひとしきり揺さぶられる。
破片が当たったのか、コクピット内に金属音が響く。
眼下の敵艦隊は、高空から迫るヘルダイバーだけではなく、超低空から迫りくるアベンジャー隊にも砲を向けて撃ち放っている筈だが、それでも眼前には次々と
炸裂する爆煙で覆われていく。
ヘルダイバー隊の周囲に高射砲弾が炸裂し、機体が爆風に煽られてひとしきり揺さぶられる。
破片が当たったのか、コクピット内に金属音が響く。
眼下の敵艦隊は、高空から迫るヘルダイバーだけではなく、超低空から迫りくるアベンジャー隊にも砲を向けて撃ち放っている筈だが、それでも眼前には次々と
炸裂する爆煙で覆われていく。
「チッ!あいつら、機能不全に陥った竜母部隊を解体して、使える護衛艦を別の部隊に転用してやがるな!」
ウェーゼルは小憎らし気にそう呟くが、オリスカニー隊は時速300マイル(480キロ)を維持したまま陣形外輪部の突破を図っていく。
「第2小隊4番機被弾!墜落していきます!!」
後部座席の部下が報告を送って来る。
ウェーゼルの視界からは見えないため、どのような最期を辿ったのか分からないが、運悪く、砲弾の直撃を食らったのか、はたまた、砲弾の破片がエンジン部分等に
突き刺さって致命傷を受けたのか、そのどちらかであろう。
更に、第3小隊と第2小隊でもそれぞれ1機ずつ被撃墜機が出てしまった。
攻撃位置に付くまでに、オリスカニーのヘルダイバー隊は3機が撃墜された。
ウェーゼルの視界からは見えないため、どのような最期を辿ったのか分からないが、運悪く、砲弾の直撃を食らったのか、はたまた、砲弾の破片がエンジン部分等に
突き刺さって致命傷を受けたのか、そのどちらかであろう。
更に、第3小隊と第2小隊でもそれぞれ1機ずつ被撃墜機が出てしまった。
攻撃位置に付くまでに、オリスカニーのヘルダイバー隊は3機が撃墜された。
「クソ!3機やられたか……だが、俺達が撃たれっ放しでいる時間はこれで終わりだ。」
ウェーゼルは、眼下に居る大型竜母に目を向けながらそう言い放つ。
彼の率いるヘルダイバー隊は、敵竜母の左舷方向から接近しつつある。
それとは別に、第1中隊の半分は敵艦の左舷後部付近、第2中隊は敵艦の艦首付近より接近しており、3方向から半包囲する形で爆撃を敢行しようとしていた。
また、ヘルダイバー隊と共に攻撃を行おうとしていたオリスカニー所属のアベンジャー隊も、直進を続ける敵竜母に対してあと2000メートルの位置にまで迫っていた。
ウェーゼルは愛機を反転急降下させ始めた。
機体がぐるりと回った後、機首が洋上を行く敵竜母に向けられ、両翼のダイブブレーキが展開され、無数に空いた穴から甲高いおめきが聞こえ始める。
やにわに、敵艦から放つ対空砲火が激しさを増したような気がした。
周囲に炸裂する高射砲も心なしか多い。
彼の率いるヘルダイバー隊は、敵竜母の左舷方向から接近しつつある。
それとは別に、第1中隊の半分は敵艦の左舷後部付近、第2中隊は敵艦の艦首付近より接近しており、3方向から半包囲する形で爆撃を敢行しようとしていた。
また、ヘルダイバー隊と共に攻撃を行おうとしていたオリスカニー所属のアベンジャー隊も、直進を続ける敵竜母に対してあと2000メートルの位置にまで迫っていた。
ウェーゼルは愛機を反転急降下させ始めた。
機体がぐるりと回った後、機首が洋上を行く敵竜母に向けられ、両翼のダイブブレーキが展開され、無数に空いた穴から甲高いおめきが聞こえ始める。
やにわに、敵艦から放つ対空砲火が激しさを増したような気がした。
周囲に炸裂する高射砲も心なしか多い。
「4800……4600……4400……」
ダイブブレーキの轟音と、砲弾の炸裂音に負けまいと、後部座席の部下が大声を上げて高度計を読み上げていく。
現在、ウェーゼルのヘルダイバーは、約70度の角度を保ったまま急降下を続けている。
体は急降下の際のGでシートに張り付けられ、その強い圧迫感が呼吸をやり難くする。
(毎度毎度、苦しい物だぜ……)
ウェーゼルは額に汗を浮かべながら、心中で呟く。
高度が下がるにつれて、敵の対空射撃も正確さを増して来る。
現在、ウェーゼルのヘルダイバーは、約70度の角度を保ったまま急降下を続けている。
体は急降下の際のGでシートに張り付けられ、その強い圧迫感が呼吸をやり難くする。
(毎度毎度、苦しい物だぜ……)
ウェーゼルは額に汗を浮かべながら、心中で呟く。
高度が下がるにつれて、敵の対空射撃も正確さを増して来る。
敵の砲弾が至近で炸裂するたびに機体が金属音を立てる。時折、細かい破片が風防ガラスに当たり、ガラスにヒビが入る。
この時、ウェーゼルは、目標としている敵の竜母がホロウレイグ級よりもやや小さい事に気付き、それがクァーラルド級竜母であると確信した。
(あいつは……モルクドか。)
竜母モルクドが、シホールアンル帝国軍の中では幸運艦として有名である事は、米海軍内でもよく知られている。
(あいつは、合衆国海軍のヨークタウン級やレキシントン級に匹敵するほどの精鋭艦だ。ならば、ここであいつを完膚なきまでに叩けば……!)
ウェーゼルは自然と、体が熱くなるように感じた。
敵竜母は、ウェーゼル機が高度2000を切ったあたりから猛然と魔道銃を撃ち放ってきた。
敵艦の左舷側から無数の光弾が吹き上がって来る。
最初はゆっくりと上がって来るように見えるが、近くに来ると猛速で飛び抜けていく。
敵竜母は、30ノット以上の猛速で直進を続けている。
唐突に、機体の後方から強い衝撃が伝わり、機体のバランスが崩れかける。
ウェーゼルはヒヤッとしながらも、必死で操縦桿を握り、機体の姿勢を制御する。
高度が1000メートルを切ろうとした時、唐突に、敵竜母が左舷方向に向けて回頭を始めた。
間の悪い事に、敵の進行方向はウェーゼル機の機首に飛び込む形になっている。
「こっちの懐に食らい付くか……まあいい!」
彼は歯噛みしながらも、視界から消えつつある敵竜母に向けて尚も急降下を続けていく。
高度600メートルまで下がった頃には、敵竜母は既に視界から消えていた。
だが、重い爆弾を抱いたヘルダイバーは、胴体の爆弾を捨てなければ上昇に移ることが出来ない。
(してやられたか……)
ウェーゼルは敵艦の鮮やかな操艦の前に仄かな敗北感を味わいつつ、爆弾を投下した。
この時、ウェーゼルに付き従った9機のヘルダイバーは次々と爆弾を投下したが、急回頭した敵竜母に1発も当てる事が出来なかった。
9番機の爆弾は、あと少しの所で敵竜母に直撃するかと思われたが、爆弾は敵艦の右舷側後部に至近弾として落下し、軽微な損害を与えただけに留まった。
この時、ウェーゼルは、目標としている敵の竜母がホロウレイグ級よりもやや小さい事に気付き、それがクァーラルド級竜母であると確信した。
(あいつは……モルクドか。)
竜母モルクドが、シホールアンル帝国軍の中では幸運艦として有名である事は、米海軍内でもよく知られている。
(あいつは、合衆国海軍のヨークタウン級やレキシントン級に匹敵するほどの精鋭艦だ。ならば、ここであいつを完膚なきまでに叩けば……!)
ウェーゼルは自然と、体が熱くなるように感じた。
敵竜母は、ウェーゼル機が高度2000を切ったあたりから猛然と魔道銃を撃ち放ってきた。
敵艦の左舷側から無数の光弾が吹き上がって来る。
最初はゆっくりと上がって来るように見えるが、近くに来ると猛速で飛び抜けていく。
敵竜母は、30ノット以上の猛速で直進を続けている。
唐突に、機体の後方から強い衝撃が伝わり、機体のバランスが崩れかける。
ウェーゼルはヒヤッとしながらも、必死で操縦桿を握り、機体の姿勢を制御する。
高度が1000メートルを切ろうとした時、唐突に、敵竜母が左舷方向に向けて回頭を始めた。
間の悪い事に、敵の進行方向はウェーゼル機の機首に飛び込む形になっている。
「こっちの懐に食らい付くか……まあいい!」
彼は歯噛みしながらも、視界から消えつつある敵竜母に向けて尚も急降下を続けていく。
高度600メートルまで下がった頃には、敵竜母は既に視界から消えていた。
だが、重い爆弾を抱いたヘルダイバーは、胴体の爆弾を捨てなければ上昇に移ることが出来ない。
(してやられたか……)
ウェーゼルは敵艦の鮮やかな操艦の前に仄かな敗北感を味わいつつ、爆弾を投下した。
この時、ウェーゼルに付き従った9機のヘルダイバーは次々と爆弾を投下したが、急回頭した敵竜母に1発も当てる事が出来なかった。
9番機の爆弾は、あと少しの所で敵竜母に直撃するかと思われたが、爆弾は敵艦の右舷側後部に至近弾として落下し、軽微な損害を与えただけに留まった。
竜母モルクド艦上では、引き続き突入して来た第2、第3波の米艦爆の対応に追われていた。
「艦首方向よりヘルダイバー接近!高度2000グレル!」
「艦尾方向からヘルダイバー6!急降下!!」
「艦尾方向からヘルダイバー6!急降下!!」
モルクドの艦橋内に見張り員の声音が響き渡る。
艦長のウィンカ・キログラスヌ大佐は、仁王立のまま黙って報告を聞いているだけで、追加の命令を下さなかった。
艦長のウィンカ・キログラスヌ大佐は、仁王立のまま黙って報告を聞いているだけで、追加の命令を下さなかった。
「艦長!取舵のままで良いのですな!?」
伝声管越しに航海長の切迫した声音が響く。
「そのままで良い!このまま左に回り続ける!」
「し、しかし」
「何度も言わせるな!別命あるまで取舵だ!以上!!」
「し、しかし」
「何度も言わせるな!別命あるまで取舵だ!以上!!」
キログラスヌ大佐は、大声でそう怒鳴り返した。
飛行甲板の左舷側と右舷側では、魔道銃と高射砲が間断無く射撃を繰り返しているが、急回頭を行っているため、その大半は米軍機を捉えるに至らない。
だが、一部の光弾や高射砲弾は、2方向から挟み込むようにして急降下して来る米軍機の至近を通りすぎ、敵パイロットの心胆を寒からしめた。
米軍機は特有の甲高い轟音を響かせ、両翼のダイブブレーキを展開しながら接近して来る。
モルクドが回頭を続けるため、敵機の位置は艦首側から右舷方向へ、艦尾側の敵機は左舷方向へと変わる。
不意に、左舷方向の敵艦爆隊の先頭機が右主翼を高射砲弾の直撃によって吹き飛ばされた。
その敵機は被弾部分から火炎を発しつつ、錐揉み状態で墜落していく。
最初に投弾を行ったのは、右舷方向から突っ込んで来た敵編隊であった。
この時、5機のヘルダイバーは順繰りに爆弾を投下して来た。
爆弾は1発目がモルクドの左舷側海面へ、2発目が艦尾から60メートル離れた所に着弾した水柱を噴き上げる。
3発目、4発目は右舷側へ外れ弾となった。
5発目が右舷側艦首付近に至近弾として落下した。この時、水中爆発の衝撃がモルクドの船体を叩き、艦が一際激しく揺さぶられた。
5番機の爆撃が終わった所で、左舷方向より突っ込んで来た敵編隊が爆撃を開始した。
1番機は80度近い急角度で轟音を発しながら突っ込み、高度400付近で爆弾を投下した。
爆弾は右舷側中央部に命中しそうになったが、回頭中であった事が幸いしてか、爆弾は至近弾として落下し、被害は高射砲1基損傷だけで済んだ。
続いて、2番機が同じく、高度400で爆弾を投下したが、これもまた右舷側海面に外れ弾となる。
3番機は1番機、2番機と違ってやや高めの高度500で爆弾を投下した。
この爆弾はモルクドの左舷側海面に落下して空しく水柱を噴き上げた。
最後の4番機は、高度700メートルに達した所で被弾し、右主翼から火を噴きだした。
炎は右主翼の付け根から中ほどにまで広まり、モルクドの対空要員達は誰もが撃墜したとを確信していた。
だが、このヘルダイバーは帰還不能と見たのか、まっしぐらにモルクドへ向けて突っ込んで来た。
そして、高度400メートル、300メートル、200メートルと、急速に高度を失しても爆弾を投下せぬまま、猛速でモルクド目掛けて突っ込んで来た。
飛行甲板の左舷側と右舷側では、魔道銃と高射砲が間断無く射撃を繰り返しているが、急回頭を行っているため、その大半は米軍機を捉えるに至らない。
だが、一部の光弾や高射砲弾は、2方向から挟み込むようにして急降下して来る米軍機の至近を通りすぎ、敵パイロットの心胆を寒からしめた。
米軍機は特有の甲高い轟音を響かせ、両翼のダイブブレーキを展開しながら接近して来る。
モルクドが回頭を続けるため、敵機の位置は艦首側から右舷方向へ、艦尾側の敵機は左舷方向へと変わる。
不意に、左舷方向の敵艦爆隊の先頭機が右主翼を高射砲弾の直撃によって吹き飛ばされた。
その敵機は被弾部分から火炎を発しつつ、錐揉み状態で墜落していく。
最初に投弾を行ったのは、右舷方向から突っ込んで来た敵編隊であった。
この時、5機のヘルダイバーは順繰りに爆弾を投下して来た。
爆弾は1発目がモルクドの左舷側海面へ、2発目が艦尾から60メートル離れた所に着弾した水柱を噴き上げる。
3発目、4発目は右舷側へ外れ弾となった。
5発目が右舷側艦首付近に至近弾として落下した。この時、水中爆発の衝撃がモルクドの船体を叩き、艦が一際激しく揺さぶられた。
5番機の爆撃が終わった所で、左舷方向より突っ込んで来た敵編隊が爆撃を開始した。
1番機は80度近い急角度で轟音を発しながら突っ込み、高度400付近で爆弾を投下した。
爆弾は右舷側中央部に命中しそうになったが、回頭中であった事が幸いしてか、爆弾は至近弾として落下し、被害は高射砲1基損傷だけで済んだ。
続いて、2番機が同じく、高度400で爆弾を投下したが、これもまた右舷側海面に外れ弾となる。
3番機は1番機、2番機と違ってやや高めの高度500で爆弾を投下した。
この爆弾はモルクドの左舷側海面に落下して空しく水柱を噴き上げた。
最後の4番機は、高度700メートルに達した所で被弾し、右主翼から火を噴きだした。
炎は右主翼の付け根から中ほどにまで広まり、モルクドの対空要員達は誰もが撃墜したとを確信していた。
だが、このヘルダイバーは帰還不能と見たのか、まっしぐらにモルクドへ向けて突っ込んで来た。
そして、高度400メートル、300メートル、200メートルと、急速に高度を失しても爆弾を投下せぬまま、猛速でモルクド目掛けて突っ込んで来た。
「ヘルダイバー1機急速接近!体当たりする気だ!!」
見張り員が悲鳴のような声を上げた。
上空を圧するダイブブレーキの轟音が極大に達した時、モルクドの後部飛行甲板にヘルダイバーが激突した。
ヘルダイバーは激突の瞬間、機内に残っていた燃料が爆発して火炎が吹き上がった。
直後、胴体に積んであった1000ポンド爆弾が炸裂し、モルクドの飛行甲板が大音響と共に引き裂かれ、大量の破片が爆炎、黒煙と共に吹き上がった。
爆弾が炸裂した直後は、艦橋内にも凄まじい衝撃が伝わり、スリットガラスの向こうでは火に包まれた多数の破片が艦首方向に吹き飛ぶ姿も見られた。
上空を圧するダイブブレーキの轟音が極大に達した時、モルクドの後部飛行甲板にヘルダイバーが激突した。
ヘルダイバーは激突の瞬間、機内に残っていた燃料が爆発して火炎が吹き上がった。
直後、胴体に積んであった1000ポンド爆弾が炸裂し、モルクドの飛行甲板が大音響と共に引き裂かれ、大量の破片が爆炎、黒煙と共に吹き上がった。
爆弾が炸裂した直後は、艦橋内にも凄まじい衝撃が伝わり、スリットガラスの向こうでは火に包まれた多数の破片が艦首方向に吹き飛ぶ姿も見られた。
「くそ、帰還不能と見てモルクドを道連れに自爆しやがるとは……狂ってやがる!!」
キログラヌス大佐は、目を血走らせながらそう叫んだ。
「左舷後方より雷撃機接近!数は15!距離700グレル!(1400メートル)」
敵艦爆隊の猛攻が終わった直後、敵雷撃隊がモルクドに接近を図った。
「……まだまだ安心できんな。」
キログラヌスは、双眼鏡でモルクドを半包囲する形で進みつつある、アベンジャー群を見据えながら、この攻撃をどう回避するか考え始めた。
空母オリスカニー艦攻隊の指揮官であるベイリー・ボイントン大尉のアベンジャーは、味方機の体当たりで炎上したクァーラルド級竜母まで、
あと1400メートルの位置にまで迫っていた。
あと1400メートルの位置にまで迫っていた。
「まだ回頭を続けてやがるな。」
ボイントン大尉は、艦爆隊の攻撃開始から常に大回頭を続ける敵竜母を、憎らし気な目で見つめる。
敵艦は、オリスカニーの艦爆隊20機前後に襲撃されたにもかかわらず、一辺倒な回頭という奇妙な回避方法でその殆どをかわしていた。
最後には、被弾した味方機1機が爆弾を抱えたまま体当たりを行ったため、敵艦は後部甲板から黒煙を吹き出した。
だが、損傷は甲板上だけに留まっており、敵は尚も高速力を維持したまま航行を続けている。
敵艦は、オリスカニーの艦爆隊20機前後に襲撃されたにもかかわらず、一辺倒な回頭という奇妙な回避方法でその殆どをかわしていた。
最後には、被弾した味方機1機が爆弾を抱えたまま体当たりを行ったため、敵艦は後部甲板から黒煙を吹き出した。
だが、損傷は甲板上だけに留まっており、敵は尚も高速力を維持したまま航行を続けている。
オリスカニーの艦攻隊は、敵機の迎撃と対空砲火の影響で15機にまで撃ち減らされていたが、それでも、3つの小編隊に別れながら、敵竜母を
半包囲する形で進撃を続けていた。
海面上で高射砲弾が炸裂し、破片が海水を激しく吹き散らす。
光弾がそれに続いて無数に飛来し、アベンジャー隊の周囲の海面が激しく泡立つ。
敵竜母と、それに続く護衛の戦艦、巡洋艦と駆逐艦は激しく応戦してきている。
オリスカニー艦攻隊の中で無傷の機は1機もなく、どの機も大なり小なり損傷を受けていた。
半包囲する形で進撃を続けていた。
海面上で高射砲弾が炸裂し、破片が海水を激しく吹き散らす。
光弾がそれに続いて無数に飛来し、アベンジャー隊の周囲の海面が激しく泡立つ。
敵竜母と、それに続く護衛の戦艦、巡洋艦と駆逐艦は激しく応戦してきている。
オリスカニー艦攻隊の中で無傷の機は1機もなく、どの機も大なり小なり損傷を受けていた。
「敵が思い思いに回避運動するから、陣形は乱れているが……それでも竜母に付き護衛艦4、5隻ほどが動きを合わせているから、やはり弾幕は薄くはならんな。」
ボイントン大尉は小声で呟く。
敵竜母との距離はみるみる縮まりつつあり、今は900メートルまで接近した。
ここで、先行していた4機が、敵艦の右舷後方から魚雷を投下した。
敵竜母との距離はみるみる縮まりつつあり、今は900メートルまで接近した。
ここで、先行していた4機が、敵艦の右舷後方から魚雷を投下した。
「クソ!タイミングが早すぎる!」
ボイントン大尉は部下達の雷撃を見て思わず舌打ちをしてしまった。
案の定、魚雷は敵艦の右舷後方に逸れていく。しかし、ここで敵竜母の回頭速度が一瞬鈍くなる。
案の定、魚雷は敵艦の右舷後方に逸れていく。しかし、ここで敵竜母の回頭速度が一瞬鈍くなる。
「む?敵の動きが……」
ボイントンは不審に思ったが、その次の瞬間、彼はチャンスであると確信した。
「OK。ちょうどやり易くなったぜ!」
彼は、左舷側を晒した敵竜母を見つめながらそう言い放った。
距離は900から800、800から700と急速に縮まっていく。
ふと、敵竜母の右舷側から濛々たる黒煙が吹き上がっている事に気付いた。
敵艦の右舷側には、もう1隻の正規竜母がいた。
その正規竜母には、キティーホークのスカイレイダー隊が攻撃を加えていた筈だ。
黒煙の量を見る限り、最悪でも敵艦を大破状態に持ち込めたようだ。
距離は900から800、800から700と急速に縮まっていく。
ふと、敵竜母の右舷側から濛々たる黒煙が吹き上がっている事に気付いた。
敵艦の右舷側には、もう1隻の正規竜母がいた。
その正規竜母には、キティーホークのスカイレイダー隊が攻撃を加えていた筈だ。
黒煙の量を見る限り、最悪でも敵艦を大破状態に持ち込めたようだ。
「スカイレイダーに負けてたまるか!魚雷、投下!」
ボイントンは気合を入れるかのように命令を下した。
アベンジャーの胴体から重い魚雷が投下された。
直後、敵竜母が再び左舷へ回頭を始めた。
アベンジャーの胴体から重い魚雷が投下された。
直後、敵竜母が再び左舷へ回頭を始めた。
左舷側より迫るアベンジャーが魚雷を相次いで投下した。
「敵機魚雷投下!」
見張り員が報告を飛ばした直後、敵1機が光弾の集中射を食らった。
右主翼に集束弾を受けたアベンジャーは、被弾部分から火炎を吹き出してから海面に激突し、バラバラに砕け散った。
残る3機は両翼の機銃を撃ちまくりながらモルクドの上空を飛び抜けていく。
右主翼に集束弾を受けたアベンジャーは、被弾部分から火炎を吹き出してから海面に激突し、バラバラに砕け散った。
残る3機は両翼の機銃を撃ちまくりながらモルクドの上空を飛び抜けていく。
「……間に合わんか……!」
キログラヌスは渋面を浮かべながら、自らの判断が失敗であったかと後悔していた。
彼は、雷撃機相手には一辺倒の回避運動では通用しないと感じ、面舵一杯を命じたが、その直後、アベンジャーの一群が後方より迫り、魚雷を投下しようとした。
彼は慌てて命令を取り消し、すぐに取舵一杯を命じた。
この甲斐あってか、モルクドは右に舵を切る事はなく、敵機の魚雷は右舷スレスレの位置を通過していった。
だが、別の敵機群は……左舷側より迫って来たアベンジャーは、舵の切り替えで動きの鈍った隙を衝く形で突入し、魚雷を投下して来た。
モルクドは敵が魚雷を投下しようとした時にちょうど、舵が効き始め、再び左舷側へ回頭を行いつつあったが、敵機の投下した4本の魚雷は、急速にモルクドへ
向けて接近しつつあった。
彼は、雷撃機相手には一辺倒の回避運動では通用しないと感じ、面舵一杯を命じたが、その直後、アベンジャーの一群が後方より迫り、魚雷を投下しようとした。
彼は慌てて命令を取り消し、すぐに取舵一杯を命じた。
この甲斐あってか、モルクドは右に舵を切る事はなく、敵機の魚雷は右舷スレスレの位置を通過していった。
だが、別の敵機群は……左舷側より迫って来たアベンジャーは、舵の切り替えで動きの鈍った隙を衝く形で突入し、魚雷を投下して来た。
モルクドは敵が魚雷を投下しようとした時にちょうど、舵が効き始め、再び左舷側へ回頭を行いつつあったが、敵機の投下した4本の魚雷は、急速にモルクドへ
向けて接近しつつあった。
「魚雷2、艦尾後方へ抜けます!」
艦橋に届く報告をキログラヌスは耳にしながらも、表情は険しいままだ。
「あと2本がこっちに向かって来る……間に合わん!」
「右舷前方の敵雷撃機、魚雷投下!!」
「右舷前方の敵雷撃機、魚雷投下!!」
回避失敗を確信すると同時に、右舷前方に回っていたアベンジャーも魚雷を投下して来た。
2本の白い航跡が左舷後部と中央部に吸い込まれた。
唐突に、左舷側中央部より巨大な水柱が吹き上がり、艦体が大きく揺れ動いた。
爆発によって生じた水柱が、舷側の銃座を人員ごと吹き飛ばす。
艦体に穿たれた穴からは爆炎が吹き込み、被弾箇所に火災が発生するが、そこに破孔から流れて来た大量の海水が降りかかり、火災が鎮火するが、同時に大浸水が
発生した事によって傾斜が生じ始めた。
右舷前方から迫ったアベンジャー5機が、轟音をあげながら飛び去っていく。
前方より5本の航跡が迫って来る。5本中、3本は外れるが、2本は回頭中のモルクドに向けて突進しようとしていた。
2本の白い航跡が左舷後部と中央部に吸い込まれた。
唐突に、左舷側中央部より巨大な水柱が吹き上がり、艦体が大きく揺れ動いた。
爆発によって生じた水柱が、舷側の銃座を人員ごと吹き飛ばす。
艦体に穿たれた穴からは爆炎が吹き込み、被弾箇所に火災が発生するが、そこに破孔から流れて来た大量の海水が降りかかり、火災が鎮火するが、同時に大浸水が
発生した事によって傾斜が生じ始めた。
右舷前方から迫ったアベンジャー5機が、轟音をあげながら飛び去っていく。
前方より5本の航跡が迫って来る。5本中、3本は外れるが、2本は回頭中のモルクドに向けて突進しようとしていた。
「今度は右舷か……!」
キログラヌスは、悔し気な口調で呻いた。
直後、右舷後部付近と中央部にも水柱が立ち上がり、凄まじい衝撃がモルクドを揺さぶった。彼はこの衝撃に耐え切れず、足を取られて転倒する羽目になった。
直後、右舷後部付近と中央部にも水柱が立ち上がり、凄まじい衝撃がモルクドを揺さぶった。彼はこの衝撃に耐え切れず、足を取られて転倒する羽目になった。
(おのれ!アメリカ人め!!)
キログラヌスは呪詛めいた言葉を進駐で呟きながら、衝撃で揺れる床に倒れ込んでしまった。
午後5時50分 レビリンイクル沖北北東520マイル地点
第4機動艦隊司令官ワルジ・ムク大将は、大傾斜した正規竜母ホロウレイグの飛行甲板上で、戦艦クロレクから寄越された救命艇の到着を待っていた。
ムクは、近付きつつある救命艇から目を話し、視線をホロウレイグに向ける。
ホロウレイグは、飛行甲板に12個の穴を開けられており、そこから黒煙と火災炎が噴き出ている。
飛行甲板上では、戦死した乗員の遺体が至る所に散乱しており、凄惨な様相を呈していた。
艦は既に、右舷側に14度も傾いており、沈没に至るまでの時間はほんの僅かしか残されていない。
ムクは、近付きつつある救命艇から目を話し、視線をホロウレイグに向ける。
ホロウレイグは、飛行甲板に12個の穴を開けられており、そこから黒煙と火災炎が噴き出ている。
飛行甲板上では、戦死した乗員の遺体が至る所に散乱しており、凄惨な様相を呈していた。
艦は既に、右舷側に14度も傾いており、沈没に至るまでの時間はほんの僅かしか残されていない。
1483年5月のアメリカ領ダッチハーバー空襲以来、シホールアンル海軍機動部隊の新たな主力として、第1次レビリンイクル沖海戦、レーミア湾沖海戦と、
激戦をくぐり抜けて来た武勲艦も、新鋭機スカイレイダーの猛攻の前には敵わなかった。
ホロウレイグは、敵機の猛襲を受けた結果、爆弾12発、魚雷9本を受けて大破炎上した。
激戦をくぐり抜けて来た武勲艦も、新鋭機スカイレイダーの猛攻の前には敵わなかった。
ホロウレイグは、敵機の猛襲を受けた結果、爆弾12発、魚雷9本を受けて大破炎上した。
ホロウレイグの乗員達は、致命的な損害を受けた艦を生き残らせるべく、あらゆる努力を尽くしたが、艦が受けた傷は、応急修理で対応できる限度を遥に超えていた。
このため、ホロウレイグ艦長は復旧の見込み無しと判断し、今から10分程前に総員退艦を発令している。
このため、ホロウレイグ艦長は復旧の見込み無しと判断し、今から10分程前に総員退艦を発令している。
「我が帝国の新たな主力として生まれた英傑艦も、遂に沈む……か。」
「非常に悔しい限りです……」
「非常に悔しい限りです……」
参謀長のフィンプ・ウークレシュ少将が涙声でムクに言う。
「確かに、損害が出る事は覚悟しておりました。ですが、ここまで、完膚無きまでに叩かれるとは……」
「アベンジャーやヘルダイバーも脅威だったが……やはり、スカイレイダーの登場が大きかった。今日の航空戦で我が艦隊が、夥しい損害を出した原因は、
奴が暴れた事にあるだろう。」
「アベンジャーやヘルダイバーも脅威だったが……やはり、スカイレイダーの登場が大きかった。今日の航空戦で我が艦隊が、夥しい損害を出した原因は、
奴が暴れた事にあるだろう。」
ムクは努めて平静な声音でいいながらも、内心は後悔の念で満ち満ちていた。
第4機動艦隊は、先の空襲で正規竜母ホロウレイグと小型竜母クラボ・ルィク、アンリ・ラムト、ゾルラーが沈没確実と判定される損害を受けた他、正規竜母モルクドが
大破し、ライル・エグが中破の損害を受けた。
第4機動艦隊は、それ以前にも正規竜母、小型竜母計4隻が撃沈されており、この第3次空襲の損害を含めると、実に8隻もの竜母を失った事になる。
戦闘開始前は、17隻もの竜母があった。
だが、第4機動艦隊は米機動部隊との激闘の末、13隻もの竜母を撃沈破され、稼働竜母はクリヴェライカを始めとした4隻が残るのみとなっていた。
シホールアンル海軍の誇る洋上航空戦力は、事実上、壊滅状態に陥ったのである。
第4機動艦隊は、先の空襲で正規竜母ホロウレイグと小型竜母クラボ・ルィク、アンリ・ラムト、ゾルラーが沈没確実と判定される損害を受けた他、正規竜母モルクドが
大破し、ライル・エグが中破の損害を受けた。
第4機動艦隊は、それ以前にも正規竜母、小型竜母計4隻が撃沈されており、この第3次空襲の損害を含めると、実に8隻もの竜母を失った事になる。
戦闘開始前は、17隻もの竜母があった。
だが、第4機動艦隊は米機動部隊との激闘の末、13隻もの竜母を撃沈破され、稼働竜母はクリヴェライカを始めとした4隻が残るのみとなっていた。
シホールアンル海軍の誇る洋上航空戦力は、事実上、壊滅状態に陥ったのである。
「もはや、第4機動艦隊には、航空打撃力が失われてしまった。敵機動部隊には、こちらが出した最後の攻撃隊が取り付いているが……これまでの経験を見る限り、
敵の母艦を2、3隻行動不能に出来れば上出来であろう。いや、1隻大破できるかどうかもわからん。」
「し、しかし……攻撃隊は300騎以上のワイバーンで構成されております。被害は大かもしれませんが、必ずや、戦果を挙げてくれるでしょう。」
敵の母艦を2、3隻行動不能に出来れば上出来であろう。いや、1隻大破できるかどうかもわからん。」
「し、しかし……攻撃隊は300騎以上のワイバーンで構成されております。被害は大かもしれませんが、必ずや、戦果を挙げてくれるでしょう。」
ウークレシュ少将は気を落としてはならぬとばかりに、力の入った声音でムクに言う。
「参謀長の言う通りだが……もはや、我が艦隊に、アメリカ機動部隊と戦う力は殆ど残っていないだろう。この痩せ細った艦隊で、何が出来るのだろうか……」
「……ひとまずは、生き残った竜母を纏め、一時撤退するのはどうでしょうか?基地航空体は戦力を減らしていますが、ある程度は残っております。ここは、
残存戦力を結集させて、敵機動部隊を叩くべきでしょう。」
「……ひとまずは、生き残った竜母を纏め、一時撤退するのはどうでしょうか?基地航空体は戦力を減らしていますが、ある程度は残っております。ここは、
残存戦力を結集させて、敵機動部隊を叩くべきでしょう。」
ウークレシュの言葉に対して、航空参謀が眉をひそめる。
「お言葉ですが参謀長。敵を叩くだけの戦力は残されていないかもしれませんぞ。現在、敵機動部隊を攻撃中の第2次攻撃隊も相当の被害を受けている上、今、艦隊に
残っているワイバーンも130騎ほどしかありません。戦闘を行うのならば、防戦を行う以外に手は無いかと思われます。」
「参謀長。航空参謀。明日以降の戦闘をどう戦うかも重要だが、同時に、損傷したモルクド以下の艦艇を早々に撤退させる事も重要だ。」
残っているワイバーンも130騎ほどしかありません。戦闘を行うのならば、防戦を行う以外に手は無いかと思われます。」
「参謀長。航空参謀。明日以降の戦闘をどう戦うかも重要だが、同時に、損傷したモルクド以下の艦艇を早々に撤退させる事も重要だ。」
ムクは戒めるように言い放った。
「モルクドは、修理すればまだ使える。無事に連れ帰ることが出来れば、いずれは戦線復帰して、敵と戦う事も出来るだろう。」
「は……確かに。」
「は……確かに。」
2人の幕僚は、バツの悪そうな顔を浮かべながら、そっと顔を伏せた。
ムクは顔を、左舷方向を行くモルクドに向けた。
モルクドは、見張りからの報告によれば、計40機近くのアベンジャーとヘルダイバーの猛攻を受け、魚雷3本と、爆弾を抱いたヘルダイバー1機の攻撃を受けて
大破したという。
通常であれば、艦の生存が危ぶまれる程の大損害だが、モルクドは奇跡的に浸水拡大の阻止に成功している。
とはいえ、モルクドは右舷側にかなりの海水を飲み込んだため、左舷に7度ほど傾斜している上に航行不能となっている。
本来であれば、自沈させて現場海域から避退するべきだが、本国上層部は大破したモルクドの曳航を命じており、ムクは戦艦クロレクにモルクドを曳航させて
避退準備に移らせようとしている。
目の前のモルクドは、前方のクロレクから曳航索を受け取り、避退準備を急速に整えている。
また、モルクド艦長からは、明日まで持てば一部の浸水区画の排水と機関区画の復旧が見込めるとの報告も上がっており、最前を尽くせばモルクドの生還は、
辛うじて果たせそうである。
ムクは顔を、左舷方向を行くモルクドに向けた。
モルクドは、見張りからの報告によれば、計40機近くのアベンジャーとヘルダイバーの猛攻を受け、魚雷3本と、爆弾を抱いたヘルダイバー1機の攻撃を受けて
大破したという。
通常であれば、艦の生存が危ぶまれる程の大損害だが、モルクドは奇跡的に浸水拡大の阻止に成功している。
とはいえ、モルクドは右舷側にかなりの海水を飲み込んだため、左舷に7度ほど傾斜している上に航行不能となっている。
本来であれば、自沈させて現場海域から避退するべきだが、本国上層部は大破したモルクドの曳航を命じており、ムクは戦艦クロレクにモルクドを曳航させて
避退準備に移らせようとしている。
目の前のモルクドは、前方のクロレクから曳航索を受け取り、避退準備を急速に整えている。
また、モルクド艦長からは、明日まで持てば一部の浸水区画の排水と機関区画の復旧が見込めるとの報告も上がっており、最前を尽くせばモルクドの生還は、
辛うじて果たせそうである。
「今回は、モルクドも相当やられたが、それでも生き残る道は残されている。幸運の竜母の二つ名は、伊達ではないという事か……」
「そのようですな。今回ばかりは強運も尽きたかと思いましたが……なかなかにしぶとい。」
「そのようですな。今回ばかりは強運も尽きたかと思いましたが……なかなかにしぶとい。」
ウーレクシュは、やや誇らしげな口調でムクに言う。
「司令官。救助艇が接舷いたしました。」
「うむ。では、行くか。」
「うむ。では、行くか。」
ムクは頷いてから、顔をホロウレイグの飛行甲板に向ける。
ホロウレイグの乗員達も、魚雷の被害が少ない左舷側より脱出を始めている。
飛行甲板上の火災は大きく、脱出までの猶予は余り無いであろう。
ムクが顔を、接舷した救助艇に向けた時、後ろから声が響いて来た。
ホロウレイグの乗員達も、魚雷の被害が少ない左舷側より脱出を始めている。
飛行甲板上の火災は大きく、脱出までの猶予は余り無いであろう。
ムクが顔を、接舷した救助艇に向けた時、後ろから声が響いて来た。
「参謀長、攻撃隊より魔法通信です。」
「攻撃隊からか……司令官。」
「移動しながら説明してくれ。」
「攻撃隊からか……司令官。」
「移動しながら説明してくれ。」
ムクは、救助艇に乗り移りながら報告を聞くことにした。
一行は救助艇へ乗り移るまでの間、参謀長の口から攻撃隊の被害と戦果報告が伝えられた。
一行は救助艇へ乗り移るまでの間、参謀長の口から攻撃隊の被害と戦果報告が伝えられた。
午後5時15分 レビリンイクル沖北東340マイル地点
「敵編隊、CAPを突破しました!敵騎90以上、我が任務群に向けて突入してきます!」
第58任務部隊第5任務群司令官を務めるプラッツ・ジャーヴィス少将は、CICの内部で逐一、戦況報告を聞いていた。
「あの伏兵共が、チャフをまき散らしたおかげでとんでもない事になったぞ……」
「司令。戦況は不利ですが、我が任務群にはウースター級防空巡洋艦のサヴァンナとブレマートンがおります。仮に、敵が輪形陣潰しを図ったとしても、
この2艦の対空火力はかなりの物ですから、敵攻撃隊の攻撃力は大幅に削げる筈です。」
「そうは言うがな……サヴァンナとブレマートンは今回が初陣だ。過度に期待するのは禁物かもしれんぞ。私は過去に何度も、味方艦が被弾炎上し、断末魔の
様相を呈しながら沈んでいく光景を目の当たりにしている。この2艦よりも、アトランタ級のスポケーンの方が良い働きを見せるかもしれんぞ。」
「司令。戦況は不利ですが、我が任務群にはウースター級防空巡洋艦のサヴァンナとブレマートンがおります。仮に、敵が輪形陣潰しを図ったとしても、
この2艦の対空火力はかなりの物ですから、敵攻撃隊の攻撃力は大幅に削げる筈です。」
「そうは言うがな……サヴァンナとブレマートンは今回が初陣だ。過度に期待するのは禁物かもしれんぞ。私は過去に何度も、味方艦が被弾炎上し、断末魔の
様相を呈しながら沈んでいく光景を目の当たりにしている。この2艦よりも、アトランタ級のスポケーンの方が良い働きを見せるかもしれんぞ。」
ジャーヴィス少将は険しい表情を浮かべた球、隣の参謀長に対して気を抜くなとばかりに注意を促す。
「敵の練度があまり高くない事を祈るしかあるまいな。」
竜母モルクドから発艦した攻撃ワイバーン28機は、ようやくアメリカ機動部隊の輪形陣に到達できた。
「……空母が5隻。うち、1隻はかなりでかい……あれが、戦艦並の防御力を有すると言うリプライザル級とやらか。」
竜母モルクド攻撃隊指揮官ヒンス・ビーシロン少佐は、洋上を高速力で航行する敵艦艇群を見つめつつ、その中の1隻の艦艇を注視する。
その空母は、どの空母よりも大きい。
全長だけで、隣のエセックス級空母よりも一回り大きく、周囲に居る小型空母や巡洋艦なぞはまるで小船にしか見えない程、圧倒的な存在感を醸し出している。
その空母は、どの空母よりも大きい。
全長だけで、隣のエセックス級空母よりも一回り大きく、周囲に居る小型空母や巡洋艦なぞはまるで小船にしか見えない程、圧倒的な存在感を醸し出している。
「隊長。ホリィート島の連中のお陰でここまで来れましたな!」
唐突に、部下の中隊指揮官が魔法通信を飛ばして来た。
「ああ。あいつらが居なければ、今頃は無数のベアキャットやコルセアに襲われまくっていただろう。」
ビーシロン少佐は、ホリィート島の基地に所属するワイバーン隊の働きに心底感謝していた。
ホリィート島のワイバーン隊……第409空中騎士隊と402空中騎士隊は、昨日の夜間空襲で出撃騎の半数を失うと言う大損害を受けた物の、残存戦力
をかき集めて再び出撃し、第4機動艦隊から発艦した攻撃隊を援護してくれた。
この2個空中騎士隊は、本国から試験的に持たされたある物を大々的に使用し、出撃した米戦闘機群の一部を引き付けてくれた。
そのある物は、機密事項のため、ビーシロン少佐を始めとする艦隊航空隊の竜騎士達には知らされていなかった。
ホリィート島のワイバーン隊……第409空中騎士隊と402空中騎士隊は、昨日の夜間空襲で出撃騎の半数を失うと言う大損害を受けた物の、残存戦力
をかき集めて再び出撃し、第4機動艦隊から発艦した攻撃隊を援護してくれた。
この2個空中騎士隊は、本国から試験的に持たされたある物を大々的に使用し、出撃した米戦闘機群の一部を引き付けてくれた。
そのある物は、機密事項のため、ビーシロン少佐を始めとする艦隊航空隊の竜騎士達には知らされていなかった。
このある物とは、シホールアンル軍がアメリカ軍将校から得た情報を参考にして作った金属製の欺瞞紙であった。
シホールアンル軍は、アメリカ軍の有するレーダーに常に悩まされていた。
敵の保有するレーダーは、飛行物体であれば何でも探知する(ここの所は若干誤解が混じっているが)非常に厄介な兵器である。
捕虜から得た情報では、レーダーの探知距離は、大型艦が搭載する対空レーダーであれば最短で70、最大で100ゼルド前後とあり、小型艦搭載用でも
最長40ゼルド(120キロ)と言われていた。
アメリカ機動部隊では、対空レーダーを搭載した小型艦を艦隊より10~20ゼルド前後離した周辺海域に複数散らしており、その付近にはアベンジャーを
改造した早期警戒機を配置して穴を埋めると言う、万全の防御態勢を取っていた。
ここでシホールアンル航空部隊が出撃を行い、敵艦隊に近づいた時、最初に出くわすのが、敵の警戒艦から得た情報によって出撃する、多数の敵戦闘機群である。
この敵戦闘機の迎撃によって、攻撃隊は早々と手痛い打撃を被っている。
これまでの経験から、攻撃隊は敵艦隊前面の空戦によって相当数の攻撃ワイバーンを撃墜されており、未帰還騎の半数近く……場合によっては半数以上がこの
迎撃機群に撃ち落されていた。
シホールアンル軍は、アメリカ軍の有するレーダーに常に悩まされていた。
敵の保有するレーダーは、飛行物体であれば何でも探知する(ここの所は若干誤解が混じっているが)非常に厄介な兵器である。
捕虜から得た情報では、レーダーの探知距離は、大型艦が搭載する対空レーダーであれば最短で70、最大で100ゼルド前後とあり、小型艦搭載用でも
最長40ゼルド(120キロ)と言われていた。
アメリカ機動部隊では、対空レーダーを搭載した小型艦を艦隊より10~20ゼルド前後離した周辺海域に複数散らしており、その付近にはアベンジャーを
改造した早期警戒機を配置して穴を埋めると言う、万全の防御態勢を取っていた。
ここでシホールアンル航空部隊が出撃を行い、敵艦隊に近づいた時、最初に出くわすのが、敵の警戒艦から得た情報によって出撃する、多数の敵戦闘機群である。
この敵戦闘機の迎撃によって、攻撃隊は早々と手痛い打撃を被っている。
これまでの経験から、攻撃隊は敵艦隊前面の空戦によって相当数の攻撃ワイバーンを撃墜されており、未帰還騎の半数近く……場合によっては半数以上がこの
迎撃機群に撃ち落されていた。
その後の敵艦隊との戦闘でも、ワイバーン隊やケルフェラク隊は甚大な損害を受けてはいるのだが、情報部の調べでは、この迎撃機による損耗を抑えることが
出来るのならば、こちら側が受ける損害の度合いは別として、敵艦艇に与えられる打撃は3割以上増すとの結果が出されていた。
だが、敵のレーダー網は完璧であり、敵戦闘機の迎撃を避けるのは難しい。
そこで考案されたのが、金属製欺瞞紙……後に、アメリカ側からチャフと呼ばれる事になる、薄く、短い特殊な紙を使ったレーダー欺瞞作戦であった。
出来るのならば、こちら側が受ける損害の度合いは別として、敵艦艇に与えられる打撃は3割以上増すとの結果が出されていた。
だが、敵のレーダー網は完璧であり、敵戦闘機の迎撃を避けるのは難しい。
そこで考案されたのが、金属製欺瞞紙……後に、アメリカ側からチャフと呼ばれる事になる、薄く、短い特殊な紙を使ったレーダー欺瞞作戦であった。
海軍総司令部の情報部と作戦部では、以前から新たな戦法を用いた敵艦隊の攻撃方法を模索していた。
最初に上がったのは、幻影魔法を使った敵機動部隊襲撃である。
幻影魔法は、術者の姿を隠す目的で開発され、古来から使われて来た馴染みの深い魔法である。
この類の魔法は、主に暗殺者達が敵対国の要人暗殺や、脱走者を秘密裡に処分するために好んで使われて来た物だが、竜騎士は基本魔法使いであるため、
この幻影系の魔法も習得していた。
現在は、術者である竜騎士のみならず、竜騎士の相棒たるワイバーンも含めて幻影魔法を展開して、その姿を覆い隠すことが出来る。
だが、一見して、無敵に思える幻影魔法であるが、同時に致命的な欠陥も抱えていた。
その欠陥というのが、持続時間の短さであった。
幻影魔法は、使い方によっては万能であるように見えるのだが、その持続時間は、腕の良い魔道士でも僅か10分程で、普通の竜騎士なら5分ほどしか使えない。
しかも、幻影魔法は術者の精神にかなりの負担がかかるため、2時間に1回程度しか使うことが出来ない。
このため、ワイバーン隊が幻影魔法の持続時間を考慮し、術式を起動する頃には、アメリカ機動部隊との距離は20ゼルド(60キロ)前後になるまで
接近しなければならず、その頃には敵機動部隊のレーダー範囲内にしっかりと捉えられている。
また、幻影魔法は、生物の目は誤魔化せても、“電子の目”であるレーダーは全く誤魔化せない事が過去の戦訓で判明しており、幻影魔法を用いた攻撃は却下された。
最初に上がったのは、幻影魔法を使った敵機動部隊襲撃である。
幻影魔法は、術者の姿を隠す目的で開発され、古来から使われて来た馴染みの深い魔法である。
この類の魔法は、主に暗殺者達が敵対国の要人暗殺や、脱走者を秘密裡に処分するために好んで使われて来た物だが、竜騎士は基本魔法使いであるため、
この幻影系の魔法も習得していた。
現在は、術者である竜騎士のみならず、竜騎士の相棒たるワイバーンも含めて幻影魔法を展開して、その姿を覆い隠すことが出来る。
だが、一見して、無敵に思える幻影魔法であるが、同時に致命的な欠陥も抱えていた。
その欠陥というのが、持続時間の短さであった。
幻影魔法は、使い方によっては万能であるように見えるのだが、その持続時間は、腕の良い魔道士でも僅か10分程で、普通の竜騎士なら5分ほどしか使えない。
しかも、幻影魔法は術者の精神にかなりの負担がかかるため、2時間に1回程度しか使うことが出来ない。
このため、ワイバーン隊が幻影魔法の持続時間を考慮し、術式を起動する頃には、アメリカ機動部隊との距離は20ゼルド(60キロ)前後になるまで
接近しなければならず、その頃には敵機動部隊のレーダー範囲内にしっかりと捉えられている。
また、幻影魔法は、生物の目は誤魔化せても、“電子の目”であるレーダーは全く誤魔化せない事が過去の戦訓で判明しており、幻影魔法を用いた攻撃は却下された。
その次に提案されたのが、捕虜の情報を基に作成した、金属製欺瞞紙を用いたレーダー欺瞞作戦であった。
金属製欺瞞紙は、ケルフェラク製造工場の生産技師の協力を得て、ケルフェラク製造用の合成金属板を薄くし、それからから敵のレーダー波(これも捕虜から得た情報である)
に合った長さに切断し、それを木箱に押し込めた。
そして、欺瞞紙の入った木箱は、409空中騎士隊と402空中騎士隊によって上空にばら撒かれた。
この時、TF58各艦のレーダーには、レビリンイクル方面より接近しつつある一群のワイバーン編隊を捉えていたが、その敵編隊が突如爆発的に増殖し、最終的には
約300近くの敵ワイバーンらしき反応を捉えていた。
この突然の敵大編隊接近に、北北東より接近しつつあった別の敵編隊に向けて備えていた戦闘機隊の一部……約120機を急遽、南西方面に差し向けるに至り、
敵本隊には250機を向かわせた。
その結果、アメリカ側はチャフによる欺瞞に戦力の一部を転用割いてしまった事が災いし、敵の対艦攻撃騎の8割以上(シホールアンル側の攻撃隊は、340騎中
130騎が攻撃ワイバーンであった)に迎撃網を突破されてしまった。
金属製欺瞞紙は、ケルフェラク製造工場の生産技師の協力を得て、ケルフェラク製造用の合成金属板を薄くし、それからから敵のレーダー波(これも捕虜から得た情報である)
に合った長さに切断し、それを木箱に押し込めた。
そして、欺瞞紙の入った木箱は、409空中騎士隊と402空中騎士隊によって上空にばら撒かれた。
この時、TF58各艦のレーダーには、レビリンイクル方面より接近しつつある一群のワイバーン編隊を捉えていたが、その敵編隊が突如爆発的に増殖し、最終的には
約300近くの敵ワイバーンらしき反応を捉えていた。
この突然の敵大編隊接近に、北北東より接近しつつあった別の敵編隊に向けて備えていた戦闘機隊の一部……約120機を急遽、南西方面に差し向けるに至り、
敵本隊には250機を向かわせた。
その結果、アメリカ側はチャフによる欺瞞に戦力の一部を転用割いてしまった事が災いし、敵の対艦攻撃騎の8割以上(シホールアンル側の攻撃隊は、340騎中
130騎が攻撃ワイバーンであった)に迎撃網を突破されてしまった。
ちなみに、TF58の任務群指揮官の中で、TG58.5指揮官であるジャーヴィス少将は、本国で航空隊の演習を取り仕切っていた際に、チャフを用いた空戦術を
直に目にしていた事もあり、TF58旗艦ランドルフ艦上に居るTF58司令官シャーマン提督に対して
直に目にしていた事もあり、TF58旗艦ランドルフ艦上に居るTF58司令官シャーマン提督に対して
「敵はチャフを用いた可能性あり。南西方面の敵には現有戦力(60機のF8FとF4U)で対応するのが最適と認む。」
と、意見具申を行っている。
これにはTF58司令官であるシャーマン中将も理解を示していたが、他の任務群指揮官からは南西方面の敵大編隊に主力戦闘機隊の戦力を一部転用しても良しという
意見具申が相次いだ上に、シホールアンル側がレーダー欺瞞を行っている可能性は高くないと判断したため、戦力の一部転用を命じていた。
この決断が、劣勢なシホールアンル軍対艦攻撃隊に最後のチャンスを与える結果に至ってしまった。
これにはTF58司令官であるシャーマン中将も理解を示していたが、他の任務群指揮官からは南西方面の敵大編隊に主力戦闘機隊の戦力を一部転用しても良しという
意見具申が相次いだ上に、シホールアンル側がレーダー欺瞞を行っている可能性は高くないと判断したため、戦力の一部転用を命じていた。
この決断が、劣勢なシホールアンル軍対艦攻撃隊に最後のチャンスを与える結果に至ってしまった。
攻撃隊の一部……ホロウレイグ隊とクリヴェライカ隊のワイバーン38騎は、敵機動部隊の右後方に回りつつある。
モルクド隊は、ライル・エグ隊、ゾルラー隊、リテレ隊の計57騎と共に、敵機動部隊の左側方向から突入を開始していた。
輪形陣外輪部の米駆逐艦が高射砲を撃ち始めた。
先行していたゾルラー隊、リテレ隊のワイバーンが真っ先に砲火を浴びる。
ゾルラー隊は全騎が魚雷を積み、リテレ隊は爆弾と対艦爆裂光弾を搭載している。
高空にリテレ隊の爆装騎6、低空にゾルラー隊、リテレ隊の雷装騎、爆裂光弾搭載騎14といった陣容である。
米艦隊の対空砲火は、相も変わらず熾烈であり、早速、リテレ隊の爆走騎1と、ゾルラー隊の雷装騎2が撃墜される。
敵機動部隊は、駆逐艦のみならず、輪形陣の内側に居る他の護衛艦や空母までもが、激しく対空砲火を撃ちまくっていた。
この時、ビーシロン少佐は敵艦隊に戦艦が居ない事に初めて気が付いた。
モルクド隊は、ライル・エグ隊、ゾルラー隊、リテレ隊の計57騎と共に、敵機動部隊の左側方向から突入を開始していた。
輪形陣外輪部の米駆逐艦が高射砲を撃ち始めた。
先行していたゾルラー隊、リテレ隊のワイバーンが真っ先に砲火を浴びる。
ゾルラー隊は全騎が魚雷を積み、リテレ隊は爆弾と対艦爆裂光弾を搭載している。
高空にリテレ隊の爆装騎6、低空にゾルラー隊、リテレ隊の雷装騎、爆裂光弾搭載騎14といった陣容である。
米艦隊の対空砲火は、相も変わらず熾烈であり、早速、リテレ隊の爆走騎1と、ゾルラー隊の雷装騎2が撃墜される。
敵機動部隊は、駆逐艦のみならず、輪形陣の内側に居る他の護衛艦や空母までもが、激しく対空砲火を撃ちまくっていた。
この時、ビーシロン少佐は敵艦隊に戦艦が居ない事に初めて気が付いた。
「敵の護衛艦の中に戦艦が居ない……となると、敵は対空火力不足か。」
彼はそう思ったが、敵艦隊の放つ対空砲火はかなり激しくなっており、先行する小型竜母のワイバーン隊が近づくにつれて、弾幕はより厚くなっている。
ふと、彼は輪形陣の内側に居る巡洋艦……リプライザル級正規空母の左横にいる巡洋艦が、活火山さながらの対空射撃を行っている事に気付き、その凄まじさに
思わず目を見開いてしまった。
ふと、彼は輪形陣の内側に居る巡洋艦……リプライザル級正規空母の左横にいる巡洋艦が、活火山さながらの対空射撃を行っている事に気付き、その凄まじさに
思わず目を見開いてしまった。
「何だあいつは……あれで巡洋艦なのか!?」
ビーシロンが驚く中、リテレ隊、ゾルラー隊のワイバーンは更に撃墜されていく。
リテレ隊の爆装騎とゾルラー隊の爆裂光弾搭載騎がようやく攻撃態勢に移った時には、攻撃可能な爆装ワイバーンは3騎、光弾搭載騎は6騎中2騎に減っていた。
リテレ隊の爆装騎とゾルラー隊の爆裂光弾搭載騎がようやく攻撃態勢に移った時には、攻撃可能な爆装ワイバーンは3騎、光弾搭載騎は6騎中2騎に減っていた。
このワイバーン隊も攻撃中に米艦艇の放つ対空砲火の前に次々と犠牲となり、爆装騎は、攻撃前に文字通り全滅し、光弾搭載騎は攻撃時に僅か1騎のみがボロボロに
なりながら生還しただけであった。
このワイバーンの攻撃は、敵駆逐艦1隻を被弾炎上させ、対空火力を減殺させたが、被弾した艦は尚も高速で航行しながら応戦を続けていた。
なりながら生還しただけであった。
このワイバーンの攻撃は、敵駆逐艦1隻を被弾炎上させ、対空火力を減殺させたが、被弾した艦は尚も高速で航行しながら応戦を続けていた。
「あの巡洋艦のせいでとんでもない事になってやがる……まさか、あいつが、例のウースター級とやらか……!」
ビーシロンは、この頃になって初めて、敵巡洋艦の正体がウースター級巡洋艦である事に気付く。
彼は、過去にも幾度か敵艦隊攻撃を生き延びて来たベテラン竜騎士であり、アトランタ級巡洋艦の対空射撃も経験している。
だが、眼前を行く敵巡洋艦は、アトランタ級よりも明らかに激しい対空砲火を放っており、その対空射撃は、味方ワイバーンの撃墜に多大な貢献を示していた。
出撃前の説明で、彼は飛行長から
彼は、過去にも幾度か敵艦隊攻撃を生き延びて来たベテラン竜騎士であり、アトランタ級巡洋艦の対空射撃も経験している。
だが、眼前を行く敵巡洋艦は、アトランタ級よりも明らかに激しい対空砲火を放っており、その対空射撃は、味方ワイバーンの撃墜に多大な貢献を示していた。
出撃前の説明で、彼は飛行長から
「敵にウースター級と呼ばれる新型の防空巡洋艦が配備されたらしい。こいつが現れたら、貴様達は過度に付き合う事無く、適度な距離を保って敬遠してくれ。
こいつと戦ったら最後……ワイバーン中隊なぞあっという間に消し飛んでしまうぞ。」
こいつと戦ったら最後……ワイバーン中隊なぞあっという間に消し飛んでしまうぞ。」
と、口頭でそう命令されていた。
リテレ隊の雷装騎6騎は、発艦前に上官から、ビーシロンらと同じような命令を聞いたのであろう、駆逐艦列を突破した後はウースター級の後方に抜ける進路を取り始めた。
だが、ウースター級は左舷側に向けられるだけの対空火器を総動員し、低空から這寄る6機のワイバーンに猛射を浴びせた。
早速、2機のワイバーンが立て続けに叩き落された。
リテレ隊のワイバーンは、敵迎撃機の攻撃を全く受けていないため、ワイバーンの周囲に展開されている防御魔法はほぼ完璧な状態であった。
防御魔法は、完全な状態なら目標艦を攻撃できる位置までその効力を発揮できるように強化されており、午前中の攻撃では、少なからぬ数のワイバーンがこの
防御結界のお陰で敵空母の攻撃に成功していた。
だが、ウースター級の対空射撃は、圧倒的な投射弾量によって、強化された防御結界すら紙細工よろしく粉砕した。
更に1騎が高射砲弾や機銃弾の弾幕に絡め取られ、バラバラに引き裂かれて海面に叩き付けられた。
続けてもう1騎が竜騎士もろとも吹き飛ばされ、血煙を吹き出しながら、夕焼けに染まった海面に突っ込んだ。
そして、最後の2騎も相次いで撃墜され、リテレ隊も全滅してしまった。
リテレ隊が悪戦苦闘の中、洋上に散華した直後、ゾルラー隊、モルクド隊も敵の輪形陣に突入を開始する。
新たな敵編隊接近に、駆逐艦、巡洋艦群が向けられるだけの砲を指向して砲撃を加えて来る。
ゾルラー隊の雷装騎9騎は、時速200リンル(400キロ)のスピードを維持したまま敵駆逐艦列の突破を図ったが、その際に2機が犠牲になった。
戦闘時には、ライル・エグ隊、リテレ隊が敵駆逐艦、並びに巡洋艦部隊を爆撃して対空防御の穴を開け、そこをゾルラー隊、モルクド隊が突破して敵空母を叩く
と言う手筈になっていた。
リテレ隊の雷装騎6騎は、発艦前に上官から、ビーシロンらと同じような命令を聞いたのであろう、駆逐艦列を突破した後はウースター級の後方に抜ける進路を取り始めた。
だが、ウースター級は左舷側に向けられるだけの対空火器を総動員し、低空から這寄る6機のワイバーンに猛射を浴びせた。
早速、2機のワイバーンが立て続けに叩き落された。
リテレ隊のワイバーンは、敵迎撃機の攻撃を全く受けていないため、ワイバーンの周囲に展開されている防御魔法はほぼ完璧な状態であった。
防御魔法は、完全な状態なら目標艦を攻撃できる位置までその効力を発揮できるように強化されており、午前中の攻撃では、少なからぬ数のワイバーンがこの
防御結界のお陰で敵空母の攻撃に成功していた。
だが、ウースター級の対空射撃は、圧倒的な投射弾量によって、強化された防御結界すら紙細工よろしく粉砕した。
更に1騎が高射砲弾や機銃弾の弾幕に絡め取られ、バラバラに引き裂かれて海面に叩き付けられた。
続けてもう1騎が竜騎士もろとも吹き飛ばされ、血煙を吹き出しながら、夕焼けに染まった海面に突っ込んだ。
そして、最後の2騎も相次いで撃墜され、リテレ隊も全滅してしまった。
リテレ隊が悪戦苦闘の中、洋上に散華した直後、ゾルラー隊、モルクド隊も敵の輪形陣に突入を開始する。
新たな敵編隊接近に、駆逐艦、巡洋艦群が向けられるだけの砲を指向して砲撃を加えて来る。
ゾルラー隊の雷装騎9騎は、時速200リンル(400キロ)のスピードを維持したまま敵駆逐艦列の突破を図ったが、その際に2機が犠牲になった。
戦闘時には、ライル・エグ隊、リテレ隊が敵駆逐艦、並びに巡洋艦部隊を爆撃して対空防御の穴を開け、そこをゾルラー隊、モルクド隊が突破して敵空母を叩く
と言う手筈になっていた。
ビーシロンは、直率の雷撃中隊を率いながら、前方やや遠くを行くゾルラー隊の動きを見守っていた。
ゾルラー隊の7騎のワイバーンは、米巡洋艦の迎撃網に飛び込んでいく。
海面が敵の高射砲弾の炸裂や、機関砲弾の弾着で激しく飛沫、海水が海面スレスレを行くゾルラー隊に絡め取らんばかりに吹き上がっている。
ゾルラー隊は斜め単横陣の隊形で陣形の突破を図りつつあったが、最左翼のワイバーンが敵の対空砲火によって相当に叩き落される。
更に、2番騎も後を追うように撃墜された。
ここで、ゾルラー隊に異変が起きた。
ゾルラー隊の7騎のワイバーンは、米巡洋艦の迎撃網に飛び込んでいく。
海面が敵の高射砲弾の炸裂や、機関砲弾の弾着で激しく飛沫、海水が海面スレスレを行くゾルラー隊に絡め取らんばかりに吹き上がっている。
ゾルラー隊は斜め単横陣の隊形で陣形の突破を図りつつあったが、最左翼のワイバーンが敵の対空砲火によって相当に叩き落される。
更に、2番騎も後を追うように撃墜された。
ここで、ゾルラー隊に異変が起きた。
「な……あいつら、ウースター級に向かっているぞ!」
ゾルラー隊の残存ワイバーン5騎は、ウースター級とボルチモア級の間をすり抜ける形で進んでいたのだが、唐突にウースター級へと向きを変えた。
ウースター級は他のボルチモア級やアトランタ級と共同でゾルラー隊を全力で迎撃する。
ウースター級巡洋艦の対空射撃は圧倒的であるが、ボルチモア級とアトランタ級の対空砲火もなかなかに凄まじい。
特にアトランタ級は、後輩格であるウースター級にお株を奪われたとはいえ、依然として片舷指向可能な6基12門の連装速射砲を撃ちまくっている。
海面スレスレに展開される高射砲弾幕はかなり分厚く、ゾルラー隊に黒い壁となって立ちはだかる。
敵巡洋艦から500グレルまで迫った所で、1騎のワイバーンが叩き落される。
350グレルを切った頃には、ウースター級の高射砲によって2騎が瞬時に撃ち落され、冬の洋上に飛沫となって消えた。
残る2騎は、既に魔法防御も消滅し、ワイバーンも重傷を負って夥しい出血を生じ、ゾルラー隊の指揮官も片腕を吹き飛ばされていた。
だが、この2騎は最後の最後まで、なかなか落ちなかった。
高射砲弾が相次いで至近で炸裂しようが、ワイバーンか竜騎士の体の何かがちぎれようが、決して墜落しなかった。
2騎のワイバーンが200グレルまで接近した時、海面スレスレに複数の高射砲弾が炸裂し、一際大きな水柱が立ち上がった。
そして、それが晴れた頃には、2騎のワイバーンは影も形も無かった。
ウースター級は他のボルチモア級やアトランタ級と共同でゾルラー隊を全力で迎撃する。
ウースター級巡洋艦の対空射撃は圧倒的であるが、ボルチモア級とアトランタ級の対空砲火もなかなかに凄まじい。
特にアトランタ級は、後輩格であるウースター級にお株を奪われたとはいえ、依然として片舷指向可能な6基12門の連装速射砲を撃ちまくっている。
海面スレスレに展開される高射砲弾幕はかなり分厚く、ゾルラー隊に黒い壁となって立ちはだかる。
敵巡洋艦から500グレルまで迫った所で、1騎のワイバーンが叩き落される。
350グレルを切った頃には、ウースター級の高射砲によって2騎が瞬時に撃ち落され、冬の洋上に飛沫となって消えた。
残る2騎は、既に魔法防御も消滅し、ワイバーンも重傷を負って夥しい出血を生じ、ゾルラー隊の指揮官も片腕を吹き飛ばされていた。
だが、この2騎は最後の最後まで、なかなか落ちなかった。
高射砲弾が相次いで至近で炸裂しようが、ワイバーンか竜騎士の体の何かがちぎれようが、決して墜落しなかった。
2騎のワイバーンが200グレルまで接近した時、海面スレスレに複数の高射砲弾が炸裂し、一際大きな水柱が立ち上がった。
そして、それが晴れた頃には、2騎のワイバーンは影も形も無かった。
「ゾルラー隊………!」
「隊長!意見具申をさせて頂きます!」
「隊長!意見具申をさせて頂きます!」
ゾルラー隊全滅と同時に、上空より輪形陣内部に突入しつつある爆装騎隊の指揮官より魔法通信が入る。
「第2、第3小隊をウースター級の爆撃に回してください!」
「何!?それは許可できんぞ!」
「何!?それは許可できんぞ!」
ビーシロンは、爆装騎隊指揮官の進言を却下する。
この頃には、ビーシロン隊の雷装ワイバーンも駆逐艦群の防御ラインを突破し、巡洋艦群に迫っていた。
眼前に広がる無数の高射砲弾の弾幕と機銃弾の嵐。
まさに、この世の地獄であった。
この頃には、ビーシロン隊の雷装ワイバーンも駆逐艦群の防御ラインを突破し、巡洋艦群に迫っていた。
眼前に広がる無数の高射砲弾の弾幕と機銃弾の嵐。
まさに、この世の地獄であった。
「俺達の獲物は、あの化け物空母だ!それ以外はただの雑魚だ、気にするな!」
「し、しかし。このままでは、我々も敵の陣形を突破する前に全滅してしまいます!せめて、あのウースター級だけでも仕留められれば、前進は楽になる筈です!」
「ぐ……」
「し、しかし。このままでは、我々も敵の陣形を突破する前に全滅してしまいます!せめて、あのウースター級だけでも仕留められれば、前進は楽になる筈です!」
「ぐ……」
ビーシロンは爆装隊指揮官の言う事も充分に分かっていた。
ウースター級の対空火力は、並みの巡洋艦を遥に凌駕している。
僚艦のワイバーン隊を相次いで潰滅させたあの威力は、想像以上の物であった。
ウースター級の対空火力は、並みの巡洋艦を遥に凌駕している。
僚艦のワイバーン隊を相次いで潰滅させたあの威力は、想像以上の物であった。
(奴の言う通り、ここでウースター級を叩けば……)
ビーシロンは、部下の進言を受け入れる事を決め、魔法通信で了解と送ろうとした時、唐突にウースター級が右に舵を切り始めた。
ビーシロンは、部下の進言を受け入れる事を決め、魔法通信で了解と送ろうとした時、唐突にウースター級が右に舵を切り始めた。
「ウースター級が回頭を始めた……!?」
彼がそう呟いた時、ウースター級の左舷側艦首と中央部に巨大な水柱が立ち上がった。
一瞬、ウースター級が右に仰け反ったかと思われた後、水柱は急速に崩れ落ちていく。
水柱が晴れるや、ウースター級は被弾箇所から煙を吐きながら、急速に速度を落とし始めた。
モルクド隊は、被雷したウースター級の前方を通り抜けた。
ウースター級は尚も、激しい対空射撃を続けているが、先の被雷の影響か、その射撃精度は劣悪な物となっていた。
一瞬、ウースター級が右に仰け反ったかと思われた後、水柱は急速に崩れ落ちていく。
水柱が晴れるや、ウースター級は被弾箇所から煙を吐きながら、急速に速度を落とし始めた。
モルクド隊は、被雷したウースター級の前方を通り抜けた。
ウースター級は尚も、激しい対空射撃を続けているが、先の被雷の影響か、その射撃精度は劣悪な物となっていた。
「やってくれたな……ゾルラー隊!」
ビーシロンは、全滅しても尚、任務を遂行してくれた味方ワイバーン隊の献身ぶりに、思わず落涙してしまった。
「こちら指揮官機。爆装隊に告ぐ。ウースター級は魚雷命中により大破、戦闘続行中なるも脅威にならず。爆装隊は目標である敵空母を集中して攻撃せよ!」
「「了解!」」
「「了解!」」
爆装隊の指揮官から威勢の良い返事が送られて来た。
「ようし、勝負だ……リプライザル級!」
ビーシロンは、700グレル前方を行く大型空母に向けて挑戦状を叩き付けた後、第3小隊に新たな命令を下した。
空母キティーホーク艦長ヘンリー・マーティン大佐は、キティーホークの艦橋から、左舷方向より迫りくる雷撃隊と降爆隊を交互に見据えながら、
大音声で命令を発した。
大音声で命令を発した。
「舵そのまま!直進を続けつつ、最大火力で敵を迎え撃つ!」
彼は視線を敵騎から、急速に落伍しつつあるブレマートンに向けた。
ブレマートンは4秒ほどで視界の外に隠れて行ったが、艦は左舷側に受けた2本の魚雷によって傾斜していた。
ウースター級防空軽巡洋艦の4番艦として建造されたブレマートンは、甲板上の防御力は軽巡どころか、条約型重巡以上の物を持っていたものの、水雷防御に
関しては普通の巡洋艦が持つ程度の物しかなく、先の被雷によってブレマートンは速力を大幅に低下させていた。
現状、ブレマートンが艦内にどの程度の損害を受けたかはまだ分からないが、艦隊が30ノット以上の高速力で航行していた事と、被雷後のブレマートンが、
艦首を思いのほか沈み込ませていた点を見る限り、自力航行が出来るか否かの瀬戸際に追い詰められた事は、ほぼ間違いないであろう。
ブレマートンは4秒ほどで視界の外に隠れて行ったが、艦は左舷側に受けた2本の魚雷によって傾斜していた。
ウースター級防空軽巡洋艦の4番艦として建造されたブレマートンは、甲板上の防御力は軽巡どころか、条約型重巡以上の物を持っていたものの、水雷防御に
関しては普通の巡洋艦が持つ程度の物しかなく、先の被雷によってブレマートンは速力を大幅に低下させていた。
現状、ブレマートンが艦内にどの程度の損害を受けたかはまだ分からないが、艦隊が30ノット以上の高速力で航行していた事と、被雷後のブレマートンが、
艦首を思いのほか沈み込ませていた点を見る限り、自力航行が出来るか否かの瀬戸際に追い詰められた事は、ほぼ間違いないであろう。
「……このキティーホークは、ブレマートンのようにはいかんぞ!」
マーティン艦長は、迫り来るワイバーン群に対して、自信をにじませた口調でそう言い放った。
「左舷上方より急降下!」
見張り員の声が響き、マーティンはすかさず左上方に顔を向ける。
敵ワイバーンと思しき複数の騎影が1騎ずつ降下しつつある。
敵ワイバーンと思しき複数の騎影が1騎ずつ降下しつつある。
「左舷後部上方より敵ワイバーン接近!突っ込んで来ます!」
更に、左舷側後部方からもワイバーン編隊が急降下を開始した。
敵編隊は2手に別れ、前方と後方からキティーホークを挟み撃ちにしようと考えたようだ。
これに対して、左舷側の54口径5インチ砲8門と多数の40ミリ、20ミリ機銃が迎え撃つ。
また、左舷側1500メートルの位置に展開している重巡ボイスⅡと軽巡スポケーンも両用砲と機銃を激しく撃ちまくる。
左舷前方上方より突進して来た敵ワイバーン群の先導騎が、高角砲弾の直撃を受けて四散した。
続いて、2番騎がその後を追う。
左舷後方より急降下しつつあるワイバーン群は、2番騎が40ミリ弾に叩き落され、3番騎が20ミリ弾の集束弾を受けて体を真っ二つに引き裂かれた。
キティーホークの射撃は、回避運動を行わない事も幸いして正確であり、左舷前方の敵ワイバーン群は、高度1000メートルを切る頃には、7騎中5騎が
叩き落され、左舷後方の敵ワイバーン群は8騎中4騎を失っていた。
敵ワイバーン群は、尚も降下を続けたが、更に3騎が犠牲になった。
僚艦との共同とはいえ、投弾前に敵機の大半を撃墜したキティーホークであったが、全てのワイバーンを阻止する事は、遂に叶わなかった。
左舷前方のワイバーン群で最後の生き残りである6番騎が高度500メートルで、左舷後方のワイバーン群は、3騎が高度400で投弾に成功した。
最初の爆弾が、左舷側前方に至近弾として落下し、水柱を噴き上げた。
次いで、後部飛行甲板と中央部付近に300リギル爆弾が命中し、派手な火炎と黒煙が沸き上がった。
最後の1発はキティーホークの右舷側中央部に至近弾として着弾し、大音響と共に海水を噴き上げる。
敵編隊は2手に別れ、前方と後方からキティーホークを挟み撃ちにしようと考えたようだ。
これに対して、左舷側の54口径5インチ砲8門と多数の40ミリ、20ミリ機銃が迎え撃つ。
また、左舷側1500メートルの位置に展開している重巡ボイスⅡと軽巡スポケーンも両用砲と機銃を激しく撃ちまくる。
左舷前方上方より突進して来た敵ワイバーン群の先導騎が、高角砲弾の直撃を受けて四散した。
続いて、2番騎がその後を追う。
左舷後方より急降下しつつあるワイバーン群は、2番騎が40ミリ弾に叩き落され、3番騎が20ミリ弾の集束弾を受けて体を真っ二つに引き裂かれた。
キティーホークの射撃は、回避運動を行わない事も幸いして正確であり、左舷前方の敵ワイバーン群は、高度1000メートルを切る頃には、7騎中5騎が
叩き落され、左舷後方の敵ワイバーン群は8騎中4騎を失っていた。
敵ワイバーン群は、尚も降下を続けたが、更に3騎が犠牲になった。
僚艦との共同とはいえ、投弾前に敵機の大半を撃墜したキティーホークであったが、全てのワイバーンを阻止する事は、遂に叶わなかった。
左舷前方のワイバーン群で最後の生き残りである6番騎が高度500メートルで、左舷後方のワイバーン群は、3騎が高度400で投弾に成功した。
最初の爆弾が、左舷側前方に至近弾として落下し、水柱を噴き上げた。
次いで、後部飛行甲板と中央部付近に300リギル爆弾が命中し、派手な火炎と黒煙が沸き上がった。
最後の1発はキティーホークの右舷側中央部に至近弾として着弾し、大音響と共に海水を噴き上げる。
「敵弾2発、飛行甲板に命中!左舷第3機銃群に負傷者あり!」
「右舷第4機銃群より負傷者!1名が海に引き込まれた模様!」
「右舷第4機銃群より負傷者!1名が海に引き込まれた模様!」
マーティン艦長は乗員の犠牲にやや顔をしかめるが、すぐに表情を消し、敵騎の動向を注視した。
飛行甲板に命中した爆弾は、炸裂こそはしたものの、爆発エネルギーは分厚い飛行甲板を貫くことが出来なかった。
そのため、被弾箇所には僅かな凹みと焦げ跡が付いただけで、発着艦に支障は来さなかった。
飛行甲板に命中した爆弾は、炸裂こそはしたものの、爆発エネルギーは分厚い飛行甲板を貫くことが出来なかった。
そのため、被弾箇所には僅かな凹みと焦げ跡が付いただけで、発着艦に支障は来さなかった。
「低空より敵ワイバーン接近!数は6騎!」
マーティン艦長は視線の先を、超低空より接近する敵ワイバーン隊に向ける。
敵編隊は、目標を変更した舷側高角砲と機銃群の迎撃に遭っているほか、僚艦ボイスとスポケーンからも追い撃ちを受けている。
ブレマートンが健在であった頃は、その影に隠れがちであったスポケーンであるが、アトランタ級防空軽巡として建造された艦という事もあって、
今ではスポケーンの対空射撃が凄まじく感じられた。
あっという間に2騎が叩き落され、洋上を3度跳ね飛んでから水中に没していく。
敵編隊は、目標を変更した舷側高角砲と機銃群の迎撃に遭っているほか、僚艦ボイスとスポケーンからも追い撃ちを受けている。
ブレマートンが健在であった頃は、その影に隠れがちであったスポケーンであるが、アトランタ級防空軽巡として建造された艦という事もあって、
今ではスポケーンの対空射撃が凄まじく感じられた。
あっという間に2騎が叩き落され、洋上を3度跳ね飛んでから水中に没していく。
続いて、2騎がキティーホークより300メートルの所で撃墜された。
だが、敵ワイバーンはいずれも、高度10メートル以下の超低空で飛行を続けているためか、VT信管付きの5インチ砲弾は敵ワイバーンよりも比較的上の高度で
炸裂する物がかなり多く、40ミリ機銃や20ミリ機銃の集中射撃をたらふく浴びせてやっと叩き落していた。
だが、敵ワイバーンはいずれも、高度10メートル以下の超低空で飛行を続けているためか、VT信管付きの5インチ砲弾は敵ワイバーンよりも比較的上の高度で
炸裂する物がかなり多く、40ミリ機銃や20ミリ機銃の集中射撃をたらふく浴びせてやっと叩き落していた。
「畜生め!海面反射のせいでVT信管が役に立たん!あいつら、相当の手練れだぞ!」
とある5インチ砲の射手が忌々しげに喚いた直後、敵ワイバーン2騎は左舷側250メートルで魚雷を投下した。
「敵騎魚雷投下!魚雷が接近してきます!」
マーティン艦長は見張り員の声にあまり驚く事もなく、落ち着いた様子でマイクを取り、艦内放送で被雷時の衝撃に備えるように伝えようとした……が
「敵ワイバーン3機、艦尾より急速接近!距離800!」
唐突に新たな報告が舞い込んだ。
「艦尾方向だと?何故そこから……!」
マーティン艦長は、最初は疑問に思ったものの、すぐに敵の狙いがわかった。
(これはまずいそ!)
彼は、戦闘開始前に決めた直進のみという決まり事も忘れ、航海長に命令を下そうとした。
その瞬間、2本の魚雷がキティーホークの左舷が後部付近と前部付近に命中した。
左舷側から高々と水柱が吹き上がり、基準排水量45000トンの大型艦がひとしきり揺れた。
だが、マーティンはこの被雷に関しては何ら心配していなかった。
その瞬間、2本の魚雷がキティーホークの左舷が後部付近と前部付近に命中した。
左舷側から高々と水柱が吹き上がり、基準排水量45000トンの大型艦がひとしきり揺れた。
だが、マーティンはこの被雷に関しては何ら心配していなかった。
「オリスカニー被弾!飛行甲板後部より火災発生の模様!!」
僚艦の被弾の報告にも全く気を留めなかった。
いや、その余裕が無かった、と言った方が正しかったであろう。
何故なら、キティーホークは今、危機的状況に陥っているからだ。
何故なら、キティーホークは今、危機的状況に陥っているからだ。
「航海長!取舵だ!取舵一杯!」
「と、取舵でありますか!?」
「と、取舵でありますか!?」
唐突に、命令を伝えて来たマーティンに航海長は半ば驚いていた。
だが、マーティンは有無を言わせぬ口調で命令を発した。
だが、マーティンは有無を言わせぬ口調で命令を発した。
「取舵一杯だ!急げ!!」
「あ、アイ・サー!」
「あ、アイ・サー!」
航海長も艦長の口調から異常事態が迫っている事に気付き、即座に命令を下す。
だが、その10秒後……
だが、その10秒後……
「敵騎魚雷投下!接近します!」
敵ワイバーン3騎は、キティーホークより300メートルほどまで接近した所で、一斉に魚雷を投下した。
後部の40ミリ機銃座が魚雷投下直後に1騎を撃墜したが、既に後の祭りであった。
敵の魚雷は40ノット以上の高速力で突き進み、3本中1本が艦尾に向かってきた。
艦尾の機銃員達は、艦尾に向かって来る白い航跡を見るなり、持ち場から逃げ出した。
それから5秒後、キティーホークの艦尾に敵の魚雷が命中し、艦尾付近から真っ白な水柱が立ち上がった。
魚雷が炸裂した瞬間、キティーホークは艦尾がやや持ち上がったように思われたが、持ち前の防御力はここでも遺憾無く発揮され、衝撃もすぐに収まった。
だが、衝撃が収まった後、リプライザルは急速に速力を衰えさせていった。
後部の40ミリ機銃座が魚雷投下直後に1騎を撃墜したが、既に後の祭りであった。
敵の魚雷は40ノット以上の高速力で突き進み、3本中1本が艦尾に向かってきた。
艦尾の機銃員達は、艦尾に向かって来る白い航跡を見るなり、持ち場から逃げ出した。
それから5秒後、キティーホークの艦尾に敵の魚雷が命中し、艦尾付近から真っ白な水柱が立ち上がった。
魚雷が炸裂した瞬間、キティーホークは艦尾がやや持ち上がったように思われたが、持ち前の防御力はここでも遺憾無く発揮され、衝撃もすぐに収まった。
だが、衝撃が収まった後、リプライザルは急速に速力を衰えさせていった。
午後6時10分 第5艦隊旗艦ミズーリ
「長官。第3次攻撃隊の総合戦果でありますが……」
ミズーリの作戦室内で、フレッチャーは口にコーンパイプをくわえつつ、腕組みしながら、無表情のまま報告を聞いていた。
「情報を分析した所、敵竜母4隻撃沈確実、2隻を大破。敵騎約70騎を撃墜したとの事です。攻撃隊の損害についてですが、こちらの詳細は攻撃隊が帰還し、
各艦からの報告が終えてからお伝えいたします。」
各艦からの報告が終えてからお伝えいたします。」
デイビス参謀長が報告を終えたあと、ヴォーリスが口を開く。
「午前中の攻撃で、我が艦隊は敵竜母4隻を撃沈しております。そして、先の攻撃では新たに4隻を仕留め、2隻を撃破しました。現在、確認された敵機動部隊の
竜母は17隻。そのうち、8隻ないし9隻が撃沈され、3隻ないし4隻が撃破されておりますから、敵に残された稼働竜母は、僅か4隻程です。それに加え、敵は
我が艦隊への攻撃で多数のワイバーンを喪失しております。もはや、敵機動部隊は壊滅したも同然と言えるでしょう。」
「航空参謀の言う通りだ。今日の戦果は、合衆国海軍史上最大の物と言っても過言ではない。」
竜母は17隻。そのうち、8隻ないし9隻が撃沈され、3隻ないし4隻が撃破されておりますから、敵に残された稼働竜母は、僅か4隻程です。それに加え、敵は
我が艦隊への攻撃で多数のワイバーンを喪失しております。もはや、敵機動部隊は壊滅したも同然と言えるでしょう。」
「航空参謀の言う通りだ。今日の戦果は、合衆国海軍史上最大の物と言っても過言ではない。」
フレッチャーはそう言い放った後、殊更重い口調で続ける。
「しかし、こちらの損害も馬鹿にならん。TG58.5から送られた損害報告では、オリスカニーが中破し、キティーホークが急所に魚雷を受けて戦闘航海が
出来なくなってしまった。それに加え、期待の星であったウースター級軽巡のブレマートンまでもが魚雷を食らって大破している。確かに、敵の戦力は更に削る事に
成功した。だが、こちらも確実に戦力が減っている。」
出来なくなってしまった。それに加え、期待の星であったウースター級軽巡のブレマートンまでもが魚雷を食らって大破している。確かに、敵の戦力は更に削る事に
成功した。だが、こちらも確実に戦力が減っている。」
フレッチャーはため息を吐きながら、海図上に置かれた紙を見据えつつ、言葉を続けた。
「特に、キティーホークの被雷損傷は大きな痛手だ。有能な装甲空母も、スピードが8ノットしか出せないとあってはただの固い置物に過ぎん。」
「確かに……」
「確かに……」
ヴォーリス中佐は口調を曇らせながら、相槌を打った。
TG58.5司令部からの報告では、空母キティーホークとオリスカニーが損傷し、共に発着艦不能の他、軽巡ブレマートンが大破し、駆逐艦1隻が
中破したと言われている。
キティーホークは、先の攻撃で爆弾2発と魚雷3本を受けた。
このうち、爆弾2発と魚雷2本は、キティーホーク自体にさしたる損害を与えなかったが、最後の3本目の魚雷がキティーホークに思いがけない損害を与えた。
3本目は、キティーホークの艦尾に命中していた。
キティーホークは、この3本目の被雷時に推進器、プロペラシャフト、舵等に致命的な損傷を負い、スピードが8ノットまでしか出せなくなった。
キティーホークの速力低下については、詳しい報告はまだ上がってはいない物の、暫定報告では至急、ドックに入居して修理の要有りとあるため、控えめに
見積もっても中破……見方によっては大破同然の損害を受けたと言っても過言ではなかった。
中破したと言われている。
キティーホークは、先の攻撃で爆弾2発と魚雷3本を受けた。
このうち、爆弾2発と魚雷2本は、キティーホーク自体にさしたる損害を与えなかったが、最後の3本目の魚雷がキティーホークに思いがけない損害を与えた。
3本目は、キティーホークの艦尾に命中していた。
キティーホークは、この3本目の被雷時に推進器、プロペラシャフト、舵等に致命的な損傷を負い、スピードが8ノットまでしか出せなくなった。
キティーホークの速力低下については、詳しい報告はまだ上がってはいない物の、暫定報告では至急、ドックに入居して修理の要有りとあるため、控えめに
見積もっても中破……見方によっては大破同然の損害を受けたと言っても過言ではなかった。
次に、オリスカニーの損害であるが、オリスカニーは爆弾1発並びに、魚雷1本を受けていた。
オリスカニーには、40機前後の敵ワイバーンが襲い掛かったが、護衛にあたっていたサヴァンナⅡを始めとする巡洋艦や駆逐艦の射撃でその大半を撃墜するか、
負傷させて撃退していた。
オリスカニーの攻撃に成功したのは僅か6騎であり、その攻撃は殆ど外れたが、運悪く、爆弾1発と魚雷1本を食らう羽目に陥った。
オリスカニーの運の悪さはそれだけではなく、被弾箇所がことごとく急所ばかりであった事も災いした。
同艦に突き刺さった爆弾は、不幸にも、後部エレベーターに命中していた。
エレベーターは被弾時の損傷を考慮して格納甲板に下げられていたが、爆弾はその下げたエレベーターを直撃し、真っ二つに叩き割ってしまった。
爆弾は、オリスカニーの格納甲板に貼られた装甲板までは貫通せず、エレベーターと格納甲板の一部、艦載機7機を破壊するだけに留まったが、
この被弾でオリスカニーは発着艦困難となった。
更に、右舷中央部に命中した魚雷は、その衝撃で前部機関室に損傷を負わせ、最大速力は24ノットにまで低下してしまった。
この損傷の影響で、オリスカニーは継戦不能と判断され、先ほど、後送が決定したと言われている。
この2空母の損傷の他に、ブレマートンは被雷時に高速力で航行した事もあって、たちまち大浸水を引き起こしてしまった。
特に艦首付近の浸水は酷く、ブレマートンは前進で航行する事は非常に危険な状態に陥っていた。
今の所、ダメコン班の努力の甲斐あって、後進で行くのならば7ノットのスピードで航行が可能との事だが、ブレマートンも先の2空母と同様、後送するしかなかった。
駆逐艦サミュエル・ロバーツは、後部付近と中央部に対艦爆裂光弾を食らい、主砲2門と対空機銃の過半を喪失したため、これまた後送が決定したが、機関部に関しては
損傷が無いため、いざという時には全速発揮が可能とされていた。
オリスカニーには、40機前後の敵ワイバーンが襲い掛かったが、護衛にあたっていたサヴァンナⅡを始めとする巡洋艦や駆逐艦の射撃でその大半を撃墜するか、
負傷させて撃退していた。
オリスカニーの攻撃に成功したのは僅か6騎であり、その攻撃は殆ど外れたが、運悪く、爆弾1発と魚雷1本を食らう羽目に陥った。
オリスカニーの運の悪さはそれだけではなく、被弾箇所がことごとく急所ばかりであった事も災いした。
同艦に突き刺さった爆弾は、不幸にも、後部エレベーターに命中していた。
エレベーターは被弾時の損傷を考慮して格納甲板に下げられていたが、爆弾はその下げたエレベーターを直撃し、真っ二つに叩き割ってしまった。
爆弾は、オリスカニーの格納甲板に貼られた装甲板までは貫通せず、エレベーターと格納甲板の一部、艦載機7機を破壊するだけに留まったが、
この被弾でオリスカニーは発着艦困難となった。
更に、右舷中央部に命中した魚雷は、その衝撃で前部機関室に損傷を負わせ、最大速力は24ノットにまで低下してしまった。
この損傷の影響で、オリスカニーは継戦不能と判断され、先ほど、後送が決定したと言われている。
この2空母の損傷の他に、ブレマートンは被雷時に高速力で航行した事もあって、たちまち大浸水を引き起こしてしまった。
特に艦首付近の浸水は酷く、ブレマートンは前進で航行する事は非常に危険な状態に陥っていた。
今の所、ダメコン班の努力の甲斐あって、後進で行くのならば7ノットのスピードで航行が可能との事だが、ブレマートンも先の2空母と同様、後送するしかなかった。
駆逐艦サミュエル・ロバーツは、後部付近と中央部に対艦爆裂光弾を食らい、主砲2門と対空機銃の過半を喪失したため、これまた後送が決定したが、機関部に関しては
損傷が無いため、いざという時には全速発揮が可能とされていた。
以上が、TG58.5の受けた損害であるが、同任務群はこの損害で正規空母2隻を戦列から失ったため、以降は空母モントレイⅡと軽空母2隻を主力として
活動するしかなかった。
活動するしかなかった。
「撃沈破した竜母は、計13隻。それに対して、我が方も正規空母7隻を戦列から失う……か。劣勢下にもかかわらず、敵も思った以上に善戦する物だ。」
「同感であります。」
「同感であります。」
フレッチャーの呟きに、ブランチャード中佐も口を開く。
「また、今回の海戦では、敵は目標を正規空母の撃沈破に絞っている事がよく分かります。これまでは、正規空母と共に、軽空母にも被害が及んでいました。
ですが、今回に限っては、敵は軽空母に見向きもせず、ただひたすら、正規空母に狙いを定めて攻撃を行っています。」
「私もそう思っていた。確かに、敵の狙いは正しい。」
ですが、今回に限っては、敵は軽空母に見向きもせず、ただひたすら、正規空母に狙いを定めて攻撃を行っています。」
「私もそう思っていた。確かに、敵の狙いは正しい。」
フレッチャーは喉を唸らせながらそう言い放った。
「小型空母は沈みやすいが、搭載機数の点を考えれば、より大きな正規空母を狙い撃ちして沈めるか、脱落させた方が戦果は大きい。現に、TF58の艦載機数は、
戦闘開始前と比べて大きく目減りしている。これ以上、正規空母に被害が及ぶと、明日以降に予定されているシェルフィクル空襲に大きな支障を来す事になるぞ。」
「やはり、敵は侮れませんな……」
戦闘開始前と比べて大きく目減りしている。これ以上、正規空母に被害が及ぶと、明日以降に予定されているシェルフィクル空襲に大きな支障を来す事になるぞ。」
「やはり、敵は侮れませんな……」
デイビス少将の一言に、作戦室の誰もが一様に頷いた。
「長官。偵察機から報告です。」
そこに、今まで作戦室から退出していたフリッカート中佐が入室して来た。
TF58は、第3次攻撃隊の発艦から1時間後に、TG58.1所属のリプライザルから2機の偵察機を発艦させ、敵艦隊の動向を探らせていた。
その偵察機が現場海域に到達し、敵情報告を送って来たのである。
TF58は、第3次攻撃隊の発艦から1時間後に、TG58.1所属のリプライザルから2機の偵察機を発艦させ、敵艦隊の動向を探らせていた。
その偵察機が現場海域に到達し、敵情報告を送って来たのである。
「敵艦隊は現在、我が艦隊より北北東、300マイル(480キロ)の位置にて航行中。敵艦隊は3群に別れており、2群は20ノット前後で遊弋中。
残り一群は5ないし6ノット程度の速力で、北東に向かっているとの事です。」
残り一群は5ないし6ノット程度の速力で、北東に向かっているとの事です。」
それを聞いたフレッチャーは、意外そうな口調でフリッカートに聞く。
「北東だと?」
「はっ。北東であります。」
「敵艦隊の陣容は3群で、うち1群が低速……長官。敵は損傷艦を伴いながら、北東にあるクレスルクィルに逃げ込もうとしておるかもしれません。」
「ふむ……果たして、そうかな?」
「はっ。北東であります。」
「敵艦隊の陣容は3群で、うち1群が低速……長官。敵は損傷艦を伴いながら、北東にあるクレスルクィルに逃げ込もうとしておるかもしれません。」
「ふむ……果たして、そうかな?」
デイビス参謀長の言葉に、フレッチャーは懐疑的な口調で答える。
「この逃げようとしている敵艦隊は、実は囮であり、我々が追撃部隊を差し向けた所に、別方面で待機している水上打撃部隊を我が艦隊に向かわせようとしている、
という事もあり得るぞ。レーミア湾沖海戦の際は様相がやや異なるが、あの時も、別働隊が機動部隊本隊に突入しようとしていた。今回も、それを狙っている
可能性はあるぞ。」
「長官のおっしゃる通りですな……」
という事もあり得るぞ。レーミア湾沖海戦の際は様相がやや異なるが、あの時も、別働隊が機動部隊本隊に突入しようとしていた。今回も、それを狙っている
可能性はあるぞ。」
「長官のおっしゃる通りですな……」
デイビス参謀長は、やや沈んだ口調でフレッチャーに言うが、ここでブランチャード中佐が口を挟んだ。
「長官。少しばかり、私見を述べても宜しいでしょうか?」
「……よかろう。」
「……よかろう。」
フレッチャーは発言を許可した。
「現在、我が艦隊から300マイル隔てた距離に、敵機動部隊はおりますが、偵察機の報告を見る限り、敵は明らかに、損傷艦を抱え込みながら航行している
と思われます。」
と思われます。」
ブランチャードは指示棒の先で、海図上の敵の駒をつついた。
「速力は約5ノットから6ノット未満。一方で、我が艦隊も同じく、撃破されたキティーホークを始めとする複数の損傷艦を抱えております。もし、敵が何らかの
きっかけで……例えば、レンフェラルから我が方の状況を知らされた場合。是が非でも戦果を挙げたい敵は、水上部隊の主力を抽出して、我が艦隊に襲いかかって
て来る事も考えられるでしょう。」
きっかけで……例えば、レンフェラルから我が方の状況を知らされた場合。是が非でも戦果を挙げたい敵は、水上部隊の主力を抽出して、我が艦隊に襲いかかって
て来る事も考えられるでしょう。」
ブランチャードは、TF58と敵艦隊との間を指示棒の先で何度もなぞった。
「彼我の距離は300マイル前後。もし、敵が28ノット以上の速力でもって南下してきた場合、我々は遅くても、翌日の早朝までに敵艦隊との間で戦闘を行う
事になります。」
「作戦参謀。幾らなんでも、それは無茶ではないのかね?」
事になります。」
「作戦参謀。幾らなんでも、それは無茶ではないのかね?」
デイビス参謀長が怪訝な表情を浮かべながら口をはさむ。
「敵は昨日深夜から続く航空戦で、主力である竜母の大半を戦列から失った。その上、戦艦部隊を派遣したとしても、時間帯から見れば敵艦隊は我が方の
航空攻撃範囲内に入り込む事になる。幾らなんでも、そのような自殺攻撃めいた事をやらないと思うが。」
「……確かにそう結論付けられますが、手段としてはあり得る方法です。」
「横から失礼いたしますが、気象班の調べによりますと、周辺海域は明日以降、今日よりも雲が多くなり、航空偵察や航空攻撃に適さぬ状況になる可能性が高いようです。
また、一部の海域では、降雨を伴った悪天候もあり得るため、TF58は艦載機運用がかなり難しい状態になるかもしれません。」
航空攻撃範囲内に入り込む事になる。幾らなんでも、そのような自殺攻撃めいた事をやらないと思うが。」
「……確かにそう結論付けられますが、手段としてはあり得る方法です。」
「横から失礼いたしますが、気象班の調べによりますと、周辺海域は明日以降、今日よりも雲が多くなり、航空偵察や航空攻撃に適さぬ状況になる可能性が高いようです。
また、一部の海域では、降雨を伴った悪天候もあり得るため、TF58は艦載機運用がかなり難しい状態になるかもしれません。」
フリッカート中佐がそう述べると、デイビス参謀長の表情が険しくなった。
「敵艦隊が天候を利用して水上砲戦を挑んで来る……と、作戦参謀はいいたいのだね?」
「そうなります。」
「そうなります。」
デイビス参謀長の問いに、ブランチャードは淀みなく答えた。
「となると、TG58.7を主戦力とした迎撃部隊を編成しなければならんな。一応、機動部隊からも2個水上砲戦部隊を抽出する予定だが。」
「参謀長、本題はここからです。」
「参謀長、本題はここからです。」
ブランチャードは、改まった口調で説明を始めた。
「これまで、我が艦隊はレーミア湾沖海戦でも、リーシウィルム沖海戦でも、水上砲戦では防衛を行う形で戦ってきました。ですが、今回、敵は損傷艦を抱え、艦隊全体の
速力はかなり遅くなっていると思われます。現に、偵察機からの報告では、大型艦2隻が曳航を行っていると思しきレーダー反応を探知したとも伝えてきております。
ここは、我が方が打って出、敵の損傷艦のみならず、敵の水上部隊や残存竜母も撃滅してはどうでしょうか。」
速力はかなり遅くなっていると思われます。現に、偵察機からの報告では、大型艦2隻が曳航を行っていると思しきレーダー反応を探知したとも伝えてきております。
ここは、我が方が打って出、敵の損傷艦のみならず、敵の水上部隊や残存竜母も撃滅してはどうでしょうか。」
ブランチャードが言葉を終えた瞬間、作戦室内の空気が一瞬にして変わった。
「打って出るだと?どの部隊で攻撃を行うのだね。」
「TG58.7と、アラスカ級巡戦2隻を主力にした新編成のTG58.6で敵艦隊に突撃いたします。」
「アラスカ級か……かの巡洋戦艦は、確かに俊足と高い打撃力が売りではある。しかし、アラスカ級2隻を出した場合、機動部隊本隊の守りが薄くなると思うが……」
「機動部隊の守りは、TG58.8を使いましょう。」
「TG58.7と、アラスカ級巡戦2隻を主力にした新編成のTG58.6で敵艦隊に突撃いたします。」
「アラスカ級か……かの巡洋戦艦は、確かに俊足と高い打撃力が売りではある。しかし、アラスカ級2隻を出した場合、機動部隊本隊の守りが薄くなると思うが……」
「機動部隊の守りは、TG58.8を使いましょう。」
ブランチャードは淀みない口調でデイビス参謀長に説明していく。
「TG58.8には、我が艦隊の司令部でもあるミズーリとウィスコンシンを主力に組ませましょう。重装甲かつ、世界最強の打撃力を誇るアイオワ級2隻と、
歴戦のアラバマがいれば、機動部隊本隊の守りは何とかなる筈です。」
「ううむ……ずいぶんと思い切った物だが……」
歴戦のアラバマがいれば、機動部隊本隊の守りは何とかなる筈です。」
「ううむ……ずいぶんと思い切った物だが……」
デイビス参謀長は煮え切らぬ表情で海図を見つめた後、フレッチャーに顔を向けた。
「長官。作戦参謀はこのように判断しております。ですが、私個人としては、作戦参謀の案は賛同しかねます。それに、明日以降の天候予測ですが、必ずしも
海域全体の天候が悪化するとは限りません。ここは、無用な犠牲を出さぬためにも、機動部隊の艦載機によって、敵残存兵力と、シェルフィクルを叩くべきと、
小官はそう思います。」
海域全体の天候が悪化するとは限りません。ここは、無用な犠牲を出さぬためにも、機動部隊の艦載機によって、敵残存兵力と、シェルフィクルを叩くべきと、
小官はそう思います。」
「………航空参謀。各空母の弾薬は今、どのような状況かね?」
「現状では、各母艦共に余裕はあります。」
「現状では、各母艦共に余裕はあります。」
ヴォーリス中佐が答える。それを聞いたデイビス参謀長は、心中で自説が認められるであろうと確信していた。
「ですが、明日以降も敵艦隊との交戦が続くとなると、現状の母艦戦力では弾薬の残量が心許なるかと思われます。」
「むむ……」
「参謀長。我が艦隊は、既に正規空母1隻を撃沈され、6隻を戦列から失っておるからな。この7隻が戦列に留まっておれば、かなりの余裕を持って敵艦隊を
艦載機で全滅させる事も出来たであろうが……」
「一応、TF58の母艦戦力は、正規空母5隻に軽空母7隻とかなりの規模ですが、前線に留まっている各母艦航空隊も、今日一日の航空戦で少なからず消耗して
おります。明日も日通しで航空攻撃を行うとなれば、1度は洋上補給を行って弾薬の補給を行いたい所です。そうでなければ、相当な規模を誇るシェルフィクル
工業地帯を、艦載機のみの爆撃で機能停止に追い込むのは難しいでしょう。」
「B-29か、もしくは、あの巨人機が使えるのならば、話は早くなるんだがな。」
「むむ……」
「参謀長。我が艦隊は、既に正規空母1隻を撃沈され、6隻を戦列から失っておるからな。この7隻が戦列に留まっておれば、かなりの余裕を持って敵艦隊を
艦載機で全滅させる事も出来たであろうが……」
「一応、TF58の母艦戦力は、正規空母5隻に軽空母7隻とかなりの規模ですが、前線に留まっている各母艦航空隊も、今日一日の航空戦で少なからず消耗して
おります。明日も日通しで航空攻撃を行うとなれば、1度は洋上補給を行って弾薬の補給を行いたい所です。そうでなければ、相当な規模を誇るシェルフィクル
工業地帯を、艦載機のみの爆撃で機能停止に追い込むのは難しいでしょう。」
「B-29か、もしくは、あの巨人機が使えるのならば、話は早くなるんだがな。」
フレッチャーは苦笑しながらそう言い放った。
「では、長官……今後は敵艦隊に対し、どのような方法で対応いたしますか?」
デイビス参謀長は、フレッチャーに決断を促す。
フレッチャーは、片手に持っていたパイプをくわえた後、腕組みをしながらしばし考えた。
フレッチャーは、片手に持っていたパイプをくわえた後、腕組みをしながらしばし考えた。
(TG58.6とTG58.7か……この2個任務群は確かに頼りになるが……敵も必死で迎え撃つであろうから、それ相応の損害を覚悟しなければならん。
かといって、被害を極限する目的で航空攻撃を行うにしても、明日以降、進路上の周辺海域は思わしくないと来ている。状況的には、我が方の圧倒的な有利であるが、
結果としては“まだまだ足りない。”敵竜母の撃滅……は、現状でほぼ果たされている。ならば……ここはもう1つの主力を徹底的に叩き、そのついでに、残存竜母も
根こそぎ狩るべきだな。)
かといって、被害を極限する目的で航空攻撃を行うにしても、明日以降、進路上の周辺海域は思わしくないと来ている。状況的には、我が方の圧倒的な有利であるが、
結果としては“まだまだ足りない。”敵竜母の撃滅……は、現状でほぼ果たされている。ならば……ここはもう1つの主力を徹底的に叩き、そのついでに、残存竜母も
根こそぎ狩るべきだな。)
フレッチャーは心中で決意した後、顔を深く頷かせた。
「よし。腹は決まった。」
フレッチャーは断固とした口調で言うと、加えていたパイプを外し、側に置いてあった指示棒を握った。
「TG58.6並びに、TG58.7を敵艦隊撃滅に向かわせる。」
彼はそう言いながら、敵の駒の置かれた部分を指示棒の先で叩いた。
「レーミア湾沖とリーシウィルムでは、こちらが受け身だった。今度はこちらから打って出よう。参謀直、各任務群に準備を急がせろ。」
フレッチャーの命令が発せられるや、TF58所属の各任務群は慌ただしく動き始めた。
第2次レビリンイクル沖海戦は、新たなる段階に進み始めた。
後に後世に広く伝えられる事になる、最後の戦艦同士の決戦は、間もなく幕を開けようとしていた。
後に後世に広く伝えられる事になる、最後の戦艦同士の決戦は、間もなく幕を開けようとしていた。