第2部
『オペレーション ブラック・サンダー』
『オペレーション ブラック・サンダー』
プロローグ
雨が降っている。
長く降り続く雨が周囲に生い茂る熱帯雨林に精気を与え、森が濃密な大気を吐き出している。その森に挟まれ雨にけぶる街道上には、だらだらと続く車列が北を目指していた。
装軌車両に繰り返し耕された街道は、たっぷりと水分を含んだ泥濘と化し、轍にはまり込んだ一台のトラックが無為に車輪を空転させていた。
跳ね上げる泥が後続車を汚す。だが、車列全てがすでに泥に塗れており、さらに泥を浴びたところで大した変わりはない。それは車両だけの話ではなく、車両を操る乗員も、横を歩く普通科隊員も、頭のてっぺんからつま先まで乾いているところなど一つも存在しなかった。
雨水がポンチョの隙間から下着まで浸透し、湿度100パーセントの大気は毛穴一つ一つを埋める。一呼吸一呼吸が息苦しい。水を吸ってずっしりと重い装具を背負った隊員たちは、すでに悪態をつく気力もなく、濁った目をぎらつかせながら、歩いている。
車列の中程を進む90式戦車の車長席で、戦車中隊長柘植甚八一等陸尉はかすかに喚声を聞いたような気がした。
彼の中隊長車も他のものと同様に、車体は泥にまみれ、予備部品や食料、戦利品のがらくた、ジップロックに入れられた魔除けの護符などがごてごてと括り付けられた砲塔は、じっとりと雨に濡れている。
以前は整備の良さが一目で見て取れたものだったが、今では見る影もない。車長席で気怠げに双眼鏡を構える柘植の態度に合わせたかのように、弛緩した雰囲気を醸し出していた。
「04、01。何があった?」柘植が険のある声で尋ねた。わずかな間があり、先頭車から不機嫌な声が帰ってくる。
『前方に糞野郎共。ゴミカスを襲ってます』
柘植は通信規律の欠片もない返答に顔を歪め、舌打ちした。車列前方で帝國軍か野盗が(あるいはその両方が)避難民を襲撃しているらしい。無線に早口で告げる。
「チッ、各車路外に出て全周警戒。04はそいつらを殲滅しろ」
『了解──超面倒臭えなぁ──』
「そういう文句は無線を切ってから言え」
言葉とは裏腹に命令への反応は早かった。90式戦車の群れは、掘り返された街道を左右に逸れ、熱帯林の奥に砲を向けた。車長が12.7ミリ重機関銃に初弾を叩き込む。
中隊は今までに3両を失っていた。しょせん剣と弓矢の野蛮人だと敵を侮った連中は、仲良く死体袋に収まって日本へと帰っていった。敵はあらゆる手段を用いた。この世界では交戦規定も戦時国際法も鼻紙程度の価値すら持たないのだ。
装軌車両に繰り返し耕された街道は、たっぷりと水分を含んだ泥濘と化し、轍にはまり込んだ一台のトラックが無為に車輪を空転させていた。
跳ね上げる泥が後続車を汚す。だが、車列全てがすでに泥に塗れており、さらに泥を浴びたところで大した変わりはない。それは車両だけの話ではなく、車両を操る乗員も、横を歩く普通科隊員も、頭のてっぺんからつま先まで乾いているところなど一つも存在しなかった。
雨水がポンチョの隙間から下着まで浸透し、湿度100パーセントの大気は毛穴一つ一つを埋める。一呼吸一呼吸が息苦しい。水を吸ってずっしりと重い装具を背負った隊員たちは、すでに悪態をつく気力もなく、濁った目をぎらつかせながら、歩いている。
車列の中程を進む90式戦車の車長席で、戦車中隊長柘植甚八一等陸尉はかすかに喚声を聞いたような気がした。
彼の中隊長車も他のものと同様に、車体は泥にまみれ、予備部品や食料、戦利品のがらくた、ジップロックに入れられた魔除けの護符などがごてごてと括り付けられた砲塔は、じっとりと雨に濡れている。
以前は整備の良さが一目で見て取れたものだったが、今では見る影もない。車長席で気怠げに双眼鏡を構える柘植の態度に合わせたかのように、弛緩した雰囲気を醸し出していた。
「04、01。何があった?」柘植が険のある声で尋ねた。わずかな間があり、先頭車から不機嫌な声が帰ってくる。
『前方に糞野郎共。ゴミカスを襲ってます』
柘植は通信規律の欠片もない返答に顔を歪め、舌打ちした。車列前方で帝國軍か野盗が(あるいはその両方が)避難民を襲撃しているらしい。無線に早口で告げる。
「チッ、各車路外に出て全周警戒。04はそいつらを殲滅しろ」
『了解──超面倒臭えなぁ──』
「そういう文句は無線を切ってから言え」
言葉とは裏腹に命令への反応は早かった。90式戦車の群れは、掘り返された街道を左右に逸れ、熱帯林の奥に砲を向けた。車長が12.7ミリ重機関銃に初弾を叩き込む。
中隊は今までに3両を失っていた。しょせん剣と弓矢の野蛮人だと敵を侮った連中は、仲良く死体袋に収まって日本へと帰っていった。敵はあらゆる手段を用いた。この世界では交戦規定も戦時国際法も鼻紙程度の価値すら持たないのだ。
生き残った隊員たちは経験から学び、果てしなく続くゲリラ戦を戦っていた。
ほどなく前方から甲高い発砲音と、ドラムを乱打するような射撃音が聞こえてきた。それは数分ののち途絶え、すぐに報告があった。
『掃除完了。糞野郎共はミンチになりました』
他の戦車からも、異状無しの報告があがる。4号車の戦車長は心底面倒臭そうに、報告を続けた。
『それで、ゴミカス連中が道端で小便漏らしてますが、どうします?』
避難民がいくらか生き残っているらしい。柘植は平板な声色で応えた。まったく感情のこもらない声だった。
『掃除完了。糞野郎共はミンチになりました』
他の戦車からも、異状無しの報告があがる。4号車の戦車長は心底面倒臭そうに、報告を続けた。
『それで、ゴミカス連中が道端で小便漏らしてますが、どうします?』
避難民がいくらか生き残っているらしい。柘植は平板な声色で応えた。まったく感情のこもらない声だった。
「04、01。俺の聞き間違いか? 残念なことに避難民は帝國軍に虐殺され、生き残りはいない──そうじゃなかったか?」
『……ああ、そうでしたね』
発砲音。かすかに悲鳴が聞こえた気がする。気のせいだろう。
『……ああ、そうでしたね』
発砲音。かすかに悲鳴が聞こえた気がする。気のせいだろう。
『01、04。帝國軍部隊を殲滅。我に被害なし。襲撃されていた現地避難民に生存者なし』
「01了解。全車路上に戻れ。出発する」
「01了解。全車路上に戻れ。出発する」
あっさりと行われた虐殺行為に対し、柘植の部下も共に行動する普通科中隊長も、誰一人として特別な反応を見せなかった。90式戦車が巨体を街道に戻し、車列は再度前進を開始した。
数分後、北へ向かう車列と普通科隊員たちをかき分けるように、軍馬に跨がった一人の騎士が柘植の90式戦車に駆け寄ってきた。細い肩を精一杯怒らせ、憤怒を全身で表現している。その騎士は、戦車の横に付くと早口でまくしたてた。
「なんということを! 貴公らは敵と民の区別もつかぬのか! その眼は節穴か!」
『彼女』は、柘植の中隊に付けられた南瞑同盟会議軍の連絡士官だった。リユセ樹冠国のエルフである彼女は、雨に打たれ泥にまみれてもなおその美しさを失っていない。
しかし、よく見るとその切れ長の瞳の下にはどす黒いくまが張付いており、本来白磁のようであるはずの肌には、不穏な赤い痣がいくつもつけられていた。そして、着衣に微妙な乱れがある。
「ふん、あんたか。我々は敵を殲滅しただけだ。不甲斐ないあんたらの代わりにな」柘植はさして興味の無さそうな表情のまま言った。
「貴公らの国では、無辜の民草をことごとく殺すことが名誉ある戦とされているのか! 恥を知るがよい!」
騎士は収まらない。目に涙を浮かべ、自衛隊の非道を糾弾し続けた。柘植はそんな彼女を見下ろし、氷のような口調で告げた。
「なんということを! 貴公らは敵と民の区別もつかぬのか! その眼は節穴か!」
『彼女』は、柘植の中隊に付けられた南瞑同盟会議軍の連絡士官だった。リユセ樹冠国のエルフである彼女は、雨に打たれ泥にまみれてもなおその美しさを失っていない。
しかし、よく見るとその切れ長の瞳の下にはどす黒いくまが張付いており、本来白磁のようであるはずの肌には、不穏な赤い痣がいくつもつけられていた。そして、着衣に微妙な乱れがある。
「ふん、あんたか。我々は敵を殲滅しただけだ。不甲斐ないあんたらの代わりにな」柘植はさして興味の無さそうな表情のまま言った。
「貴公らの国では、無辜の民草をことごとく殺すことが名誉ある戦とされているのか! 恥を知るがよい!」
騎士は収まらない。目に涙を浮かべ、自衛隊の非道を糾弾し続けた。柘植はそんな彼女を見下ろし、氷のような口調で告げた。
「あまり余計なことに口を挟むな。そんなに話したいことがあるなら今夜も『懇親会』に参加するか?」
柘植の言葉に騎士は小さく悲鳴を上げ、身を固くした。顔色が真っ青に染まっている。彼女は左右を見た。周囲でやり取りを眺めていた普通科隊員たちはそろって下卑たニヤニヤ笑いを浮かべている。
普通科の連中が彼女を招いて開く『懇親会』とやらで何が行われているのか柘植は気付いていた。部下の何人かが参加していることも把握している。その上で彼は黙認していた。良くは思っていないが、それを止める気分にもならない。
砲手の根来二曹は、やり取りに興味を示さず、無言で周囲を警戒している。
操縦手の中村三曹は、丸眼鏡の下でいやらしい笑みを浮かべている。前任の村上三曹は二週間前に避難民を装った敵兵に殺され、頭部だけが帰国していた。
普通科の連中が彼女を招いて開く『懇親会』とやらで何が行われているのか柘植は気付いていた。部下の何人かが参加していることも把握している。その上で彼は黙認していた。良くは思っていないが、それを止める気分にもならない。
砲手の根来二曹は、やり取りに興味を示さず、無言で周囲を警戒している。
操縦手の中村三曹は、丸眼鏡の下でいやらしい笑みを浮かべている。前任の村上三曹は二週間前に避難民を装った敵兵に殺され、頭部だけが帰国していた。
孤立無援を悟った彼女は、力無くうつむいた。「ワハーシュニヴァ……」つぶやいた言葉が耳に入る。けだもの、そういった意味だったはずだ。柘植はたしかにその通りだと思った。
長く延びた補給線。非戦闘員を巻き込んだゲリラ戦が、昼夜を問わず繰り返されている。自衛隊マルノーヴ派遣部隊は、早期の敵殲滅に失敗した結果、際限ない消耗戦に引きずり込まれていたのだった。
長く延びた補給線。非戦闘員を巻き込んだゲリラ戦が、昼夜を問わず繰り返されている。自衛隊マルノーヴ派遣部隊は、早期の敵殲滅に失敗した結果、際限ない消耗戦に引きずり込まれていたのだった。
やがて、戦闘の跡が見えてきた。黒々と抉れた草原のあちこちに、無惨な死骸が転がっている。先頭の連中はよほど丁寧に銃砲弾を叩き込んだらしい。
距離が詰まるにつれ細部が見えてきた。苦悶の表情を浮かべて事切れた人々。見覚えのある顔があった。
『赤絨毯亭』の寡黙な亭主がいる。給仕のアミィが泥まみれの欠片と化している。その周囲には客として柘植と笑い合ったことのある顔が、骸となって恨めしそうに柘植を見ていた。
そして、色鮮やかな軍装の死骸があった。柘植はその死骸をよく知っていた。パラン・カラヤ衛士団が折り重なるように倒れている。
「そんな、馬鹿な……」
柘植は己が狂ったと思った。ケーオワラート、なぜここにいる? あんたたちはもうとっくに死んでいるはずじゃないか! どうしてもう一度殺されに戻ってきたんだ?
距離が詰まるにつれ細部が見えてきた。苦悶の表情を浮かべて事切れた人々。見覚えのある顔があった。
『赤絨毯亭』の寡黙な亭主がいる。給仕のアミィが泥まみれの欠片と化している。その周囲には客として柘植と笑い合ったことのある顔が、骸となって恨めしそうに柘植を見ていた。
そして、色鮮やかな軍装の死骸があった。柘植はその死骸をよく知っていた。パラン・カラヤ衛士団が折り重なるように倒れている。
「そんな、馬鹿な……」
柘植は己が狂ったと思った。ケーオワラート、なぜここにいる? あんたたちはもうとっくに死んでいるはずじゃないか! どうしてもう一度殺されに戻ってきたんだ?
「──敵襲ッ!」轟音が辺りを包んだ。
中隊戦闘団の車列を、熱帯林スレスレを這うように飛来した有翼蛇の編隊が襲った。蛇たちは車列を視認するやいなや、火焔弾をめくら撃ちする。
その多くは付近の地面を炙っただけに終わったが、全てがそうでは無かった。
先頭近くのトラックが直撃弾を受けて炎上する。荷台には普通科隊員たちが乗っていた。彼らは全身にゲル状の焔を浴びて火だるまになった。
「クソッ、高射特科の連中は何をしていやがる!」
「散開しろ! 散開!」
有翼蛇はあっという間に樹木線の向こうへ飛び去った。中隊が慌てて対空射撃を開始する。柘植も空を見上げ、敵影を探した。
第二撃は、その瞬間を狙って行われた。
至近に無数の光弾が着弾し、直撃を受けた高機動車が鉄くずに変わった。左右の熱帯林から唸りをあげて矢が降り注ぐ。隊員がハリネズミのような姿になって死んだ。いつの間にか中隊は包囲されていた。
長く延びた車列の左右から加えられた攻撃は少なくとも大隊規模で、複数の魔導士と弓兵を含んでいた。中隊は動揺し混乱した。
いかな自衛隊であっても全てを装甲で覆うことはできない。ソフトスキン車両と生身の隊員に被害が続出した。
さらに有翼蛇の第二撃。90式戦車が直撃を食らい炎上した。車長席で車長が松明のように燃え上がっている。
その多くは付近の地面を炙っただけに終わったが、全てがそうでは無かった。
先頭近くのトラックが直撃弾を受けて炎上する。荷台には普通科隊員たちが乗っていた。彼らは全身にゲル状の焔を浴びて火だるまになった。
「クソッ、高射特科の連中は何をしていやがる!」
「散開しろ! 散開!」
有翼蛇はあっという間に樹木線の向こうへ飛び去った。中隊が慌てて対空射撃を開始する。柘植も空を見上げ、敵影を探した。
第二撃は、その瞬間を狙って行われた。
至近に無数の光弾が着弾し、直撃を受けた高機動車が鉄くずに変わった。左右の熱帯林から唸りをあげて矢が降り注ぐ。隊員がハリネズミのような姿になって死んだ。いつの間にか中隊は包囲されていた。
長く延びた車列の左右から加えられた攻撃は少なくとも大隊規模で、複数の魔導士と弓兵を含んでいた。中隊は動揺し混乱した。
いかな自衛隊であっても全てを装甲で覆うことはできない。ソフトスキン車両と生身の隊員に被害が続出した。
さらに有翼蛇の第二撃。90式戦車が直撃を食らい炎上した。車長席で車長が松明のように燃え上がっている。
『周り中敵だらけだ! 指示を!』
「中隊長、どうします? このままじゃあやられちまう」
『01、05。被弾した。履帯をやられた! 畜生』
「俺たちは嵌められたぞ」
うるさい。少し静かにしてくれ。考えがまとまらない。
「中隊長! 後退しましょう」
『包囲された。包囲されたぞ。撃て、撃つんだ』
「中隊長! 助けてください中隊長──」
「中隊長、どうします? このままじゃあやられちまう」
『01、05。被弾した。履帯をやられた! 畜生』
「俺たちは嵌められたぞ」
うるさい。少し静かにしてくれ。考えがまとまらない。
「中隊長! 後退しましょう」
『包囲された。包囲されたぞ。撃て、撃つんだ』
「中隊長! 助けてください中隊長──」
「──長、中隊長!」
おかしい。太陽が出ている。確か雨が降っていたはずなのに──。
まぶたの向こうに明るい光を感じ、柘植の意識はゆっくりと覚醒し始めた。自分を呼ぶ声。村上三曹の声だ。
おかしい。太陽が出ている。確か雨が降っていたはずなのに──。
まぶたの向こうに明るい光を感じ、柘植の意識はゆっくりと覚醒し始めた。自分を呼ぶ声。村上三曹の声だ。
「……む、俺は……寝ていたのか?」
下着がぐっしょりと濡れていた。操縦席から村上三曹が呆れ顔でこちらを見上げている。
「うなされてましたよ。頼みますよ、これから出発だっていうのに」
「そう、か。夢か……村上三曹、良かった……」
「はぁ? 昨日も夜中まで作戦会議だったみたいですし、無理はしないでくださいよ」
「すまん」
まあ、いいです。次、俺の居眠りを一回見逃してくれれば──村上三曹はそう笑って前を向いた。意識が覚醒する。
気が付けば周囲は様々な車両のアイドリング音と、命令伝達の声、復唱、軍靴の響き、そういった音で満ちていた。
下着がぐっしょりと濡れていた。操縦席から村上三曹が呆れ顔でこちらを見上げている。
「うなされてましたよ。頼みますよ、これから出発だっていうのに」
「そう、か。夢か……村上三曹、良かった……」
「はぁ? 昨日も夜中まで作戦会議だったみたいですし、無理はしないでくださいよ」
「すまん」
まあ、いいです。次、俺の居眠りを一回見逃してくれれば──村上三曹はそう笑って前を向いた。意識が覚醒する。
気が付けば周囲は様々な車両のアイドリング音と、命令伝達の声、復唱、軍靴の響き、そういった音で満ちていた。
そうだ。俺たちは──
ブンガ・マス・リマ北方5キロ
同盟軍宿営地
同盟軍宿営地
2013年 2月14日 07時50分
商都の北、マワーレド河畔の草原は、無数の人馬で埋まっていた。
カラフルで雑多な軍装の兵たちは、南瞑同盟会議軍である。西方より来援したバールクーク王国遠征軍を中心に、再編成されたブンガ・マス・リマ市自警軍及び周辺諸勢力部隊合わせて約20000名余。
これに従軍商人のキャラバンや荷役軍夫が加わる。
カラフルで雑多な軍装の兵たちは、南瞑同盟会議軍である。西方より来援したバールクーク王国遠征軍を中心に、再編成されたブンガ・マス・リマ市自警軍及び周辺諸勢力部隊合わせて約20000名余。
これに従軍商人のキャラバンや荷役軍夫が加わる。
一方、草原に溶け込むような異装と、血の通わぬ鋼の軍馬を連ねるのは、〈門〉を通りアラム・マルノーヴに派遣された日本国陸上自衛隊マルノーヴ派遣群である。
先遣隊の損害を受け、陸幕は急遽部隊を増派した。東北方面隊第9師団第5普通科連隊を基幹部隊として、航空兵力の不足と火力を補うため第9高射特科大隊、第9特科連隊の一部、さらに第1戦車群から第301戦車中隊を投入、第5連隊戦闘団を編成した。
隊員約3000名、90式戦車14両、その他榴弾砲、対空誘導弾、装甲車、トラック等が出撃を待ってひしめき合っている。先遣隊と異なるのは、彼らが戦闘を前提とした完全編成の連隊戦闘団であるということだ。
隊員約3000名、90式戦車14両、その他榴弾砲、対空誘導弾、装甲車、トラック等が出撃を待ってひしめき合っている。先遣隊と異なるのは、彼らが戦闘を前提とした完全編成の連隊戦闘団であるということだ。
彼らは、南瞑同盟会議との協同による諸都市奪還作戦『ブラック』に投入され、〈帝國〉軍と死闘を繰り広げる運命にあった。
俺たちは缶切り役だ。敵主力を撃破して南瞑同盟会議軍の前進を助ける。自衛隊の援護が無ければ、〈帝國〉軍に対抗することは難しい。引く手あまただ。いずれ中隊は分散配備されるだろう。
しくじればあの夢の通りだ。ふざけるな。そんなことにさせてたまるか。
しくじればあの夢の通りだ。ふざけるな。そんなことにさせてたまるか。
「気を付けェ!」
午前8時。選抜されたラッパ隊がラッパ譜君が代を吹奏する中、日本国国旗が掲揚された。抜けるような青空を背景に、日の丸の白と赤が鮮やかにはためく。自衛隊員が姿勢を正す様子を、マルノーヴの民たちが興味深げに眺めている。
一斉に無線が鳴った。
『派遣群司令部より隷下各部隊宛。0800時ヲ以テ作戦名「ぶらっく」ヲ発令スル。各部隊ハ事前計画ニ従イ集結点ヘ部隊ヲ推進セヨ』
午前8時。選抜されたラッパ隊がラッパ譜君が代を吹奏する中、日本国国旗が掲揚された。抜けるような青空を背景に、日の丸の白と赤が鮮やかにはためく。自衛隊員が姿勢を正す様子を、マルノーヴの民たちが興味深げに眺めている。
一斉に無線が鳴った。
『派遣群司令部より隷下各部隊宛。0800時ヲ以テ作戦名「ぶらっく」ヲ発令スル。各部隊ハ事前計画ニ従イ集結点ヘ部隊ヲ推進セヨ』
軍楽隊が派手に楽器をかき鳴らす中、バールクーク王国遠征軍がゆるゆると動き始めた。軍勢は長蛇の列を為して北へ向かう。
「中隊、出発用意」
柘植は、砲身を連ねた14両の90式戦車を一瞥し、口を一文字に引き締めた。