自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

第63章111-117

最終更新:

jfsdf

- view
だれでも歓迎! 編集
真正暦 912年 イーシア大陸北部

中原の大国、シンが「北狄」と呼ぶ異民族の大国ルシアンに侵略を受けて40年。
遡り、大陸北部の平原を支配していた当時のルシアン人の先祖が、中原に興った
シン人の帝国によってさらに北方の凍土へと追放されてより200年。
お互いに「相手に奪われた」領土を取り戻すための国土回復戦争…レコンキスタは
両軍に夥しい戦死者を出し続け、文字通り屍山血河を作り出し、それでもなお
終結の糸口も見つけられぬくらいに、厭きない凄惨な殺し合いを続けていた。

もはや両国の目的は、領土を取り戻すことではなかった。
相手を最後の一人まで殺戮するか、相手が逃げ去るまで戦いを止めるつもりは無かった。
ルシアンは、勝利せねば再び木々も大地も凍てつくツンドラの辺境へと押し戻され、
シンは勝利せねば中原の覇者としての地位を失い、やはり南方の蛮地に追いやられるだろう。
それほどまでに両者の確執と憎悪は、断崖よりも深い溝となって隔たっていたのだ。
お互いに対する理解も妥協も慈悲も容赦も無く、この戦いは双方が滅び、
イーシアの大地が枯れ果てるまで続くかと思われた。


シン-ルシアン両国国境 万里城塞

真正歴783年に当時のシン国皇帝の勅令に基づき建設されたこの城塞は、
別名を「長壁(グレートウォール)」とも呼ばれ、その東西へと走る長大な城壁によって、
シンとルシアンを大陸の南北に隔てる国防の要であったが、40年前、戦争が始まると
同時にルシアン軍によって陥落後は彼らの補給兵站基地であり司令部となったいた。
この城塞がある限り、シンはルシアンを北方へと追い返すことが出来ず、
ルシアンにとってはこの城塞の存在こそがシンへ侵攻する唯一の橋頭堡であった。
互いに戦争の帰趨を位置づける重要な戦略目標であるが故に、城塞を巡る攻防は
特に熾烈を極めた。
しかし、シンはこの40年間で城塞を攻めること17度、全て攻略に失敗した。
一方ルシアンはこの40年間でシンの領内に攻めいり、領土を奪うたびに逆襲に逢うが
何十度と敗走を繰り返しても、城塞がある限り何度でも戦うことが出来た。
ルシアンからシンの国土を守るために築かれた堅牢な防壁が、逆にルシアンを
シンの攻撃から守るための楯とたっているのは皮肉としか言いようが無かった。

そして、この年シンは万里城塞を攻略する18度目の軍を差し向ける。
シン国の属国、エイの公王であり今上皇帝の従兄弟、アランサン公爵率いる1万4千の軍。
対するルシアン軍の防衛司令官、ダニエール・ボルチャフスキ将軍の指揮下、駐留防衛部隊6千。
兵力の上では2倍の差がついていたが、古来より兵法書を紐解くに、
城攻めには防御側の最低3倍、あるいは5倍以上の兵力が必要とされる。
加えて、万里城塞の要塞としての優秀さからすれば、1万4千の兵はお世辞にも多いとは言えなかった。


一斉に放たれてゴウ、という突風にも似た音を鳴らし風を切る幾千の矢の雨の音の直後、
鎧を貫き肉を抉る音とともに無数の叫び声がシン軍の戦列に広がっていった。
手持ちの木の楯を構えて密集し、投射兵器に対する防御体勢。
しかし、ルシアンの弓の威力は補強した木の板一枚程度の防御など、無いものかのように
容易に貫き、最前列に立たされる兵士たちの粗末な鎧もろともに彼らの肉の体へと無数の穴を穿った。
ルシアン軍は動物の腱や皮などから作った弾力性の高い長弓(ロングボウ)を使う。
その威力は100mも離れていても殺傷性能を衰えさせず、また連射が容易で、
密集射撃体勢において弾幕を張れば敵に対して恐ろしい結果をもたらした。
その有効射程範囲内に身をおくことは、ハリネズミのようになって死ぬという結末を迎えるということだ。

その死の雨の中、果敢にも弩(クロスボウ)を構えて、城壁の上に整列するルシアン軍の弓隊に
応射するシン軍の部隊がいたが、城壁に設けられた凹凸状の防御障害物に阻まれて
効果をあげることは出来ない。
威力・射程で長弓の二倍以上の性能を持ち、金属製の甲冑すら容易く貫通する弩であるが、
長弓ほど密集させることが出来ないこと、装填に時間がかかり連射が難しいこと、
なにより、城壁の上と下とでは位置関係がどう見ても悪く、さらに長弓は山なりの曲射弾道を描いて
飛来し、障害物越しでも攻撃が出来るが弩は直射…直接目標を狙撃するのには向いていたが、
上下方向への射撃は不得手である事が災いし、圧倒的に不利な状態にあった。

「このままでは埒が明かないな。 あの長弓を何とかしなければ、防壁に梯子をかけることもできぬし、
破城槌を城門まで押し出すことも出来ない。 その前に兵が射殺される」

一方的に射殺されてゆく最前列の兵士たちから数十歩の距離を置いて、
後列から騎乗したまま呟くのは騎兵部隊を統率している指揮官、ジル・ドレイ伯爵。
年のころはまだ二十代前半ながら、軍の主力と言うべき騎兵部隊の指揮を任されている
優秀な軍人だった。
金属製の円筒形で頭部をすっぽり包む頑丈な兜(グレートヘルム)の目の部分に設けられた
スリットから覗く黒い両目は冷徹ながらも知性を湛えた光を宿している。
その傍らに、同じく騎乗して城壁の上に目を向ける、ジルと同じくらい若く、痩身の、
そして、周囲の騎士たちがジル同様に金属兜と、鎖を編み上げたチェーンメイルに身を包んだ
軍装をしている中、一人だけ浮いて目立った「草木に溶け込むようなまだら色の軍装」をした
兵士がジルに応じるように呟いた。

「指揮官は作戦を変えるつもりはないのでしょうか? 消耗戦を続けていては、こちらの
犠牲が大きくなるばかり。 敵の矢が尽きる前に、歩兵が全滅します。 
まして、正面一箇所に兵力を集中した力押しでは…」

その兵士が被っているのは、頭だけを覆い、顔は防護していない兜(ハーフフェイスヘルム)で
鎧もとても金属で出来ているとは思えない、胴体だけを覆う上着のような防具だけだ。
あとは篭手もすね当てもいっさい見につけていない。
そして、肩に紐で掛けているのは、騎兵用の突撃槍(ランス)でも剣でもなく、
金属と木を組み合わせて出来た、奇妙な棒状の、武器とも思えぬ武器だった。
中原にはそれに似た武器の類は無く、ただ弩と同じように持ち手と思われる部分に
引き金のような物が付いている。
弩から、「弓」の部分だけを外せば、似た形になるかも知れない。
だが弓部分の無い弩などただの棒である。

ジルはまっすぐ、殺されていく歩兵たちを見ながら答える。

「元々兵が足りているとは言えぬしな。 そもアランサン公は、本気で万里城塞を落とそうとは
思っていないかも知れぬ。 陛下より攻略軍指揮を拝命したものの、あくまで義理立てとしての
出兵…ま、私とて同じだ。 周りの勇壮で誇り高い騎士にして、貴族子弟諸君もそうだ。
戦争ほど不合理で無意味なことは無い。 勝てぬ戦いでなら、なおさら貴族が戦って
死ぬのは馬鹿馬鹿しい。 公はあと数百人も歩兵が死ねば、引き上げるだろう。
歩兵など、傭兵と徴募市民の寄せ集め、矢玉と同じ消耗品だ。 いくら死んでも貴族は痛まない…」

そこまで答えて、ジルはちらりと目を隣に向けてその兵士が酷く不愉快そうな、そして
不満そうな表情を浮かべているのに気づくと、慌てて言葉を切り、二度三度咳払いをした。
この兵士はジルの側近のような立場にいたが、一度へそを曲げると機嫌を取り戻すのに
ひどい手間がかかり、そしてジルは何故かへそを曲げられるのをひどく恐れているのだった。

「ま、まあ何だ、このままやられっぱなしと言うのも、癪だな。 シマ、奴ら北方の非文明人どもに
一矢報いて兵士の仇をとってやるとよい」

そう言われると、シマと呼ばれた兵士は馬を数歩歩ませて前に出ると、肩に掛けていたその
奇妙な形状の武器を馬上のまま、弩を射る様に構え、レバーを前後にスライドさせ、
セレクターをアからタに変更すると、脇をしぼって城壁の上に狙いを付けた。
城壁の凹凸の間から、わずかに弓に矢を番えて発射体勢にいる兵士の姿が見える。

「おおよそ200m、風はほぼ無し…いい条件。 単射で…」

指のつま先を、そっと引き金に触れさせ、ゆっくりと「引き絞る」。
タン、という乾いた聞きなれぬ音とともに、城壁の上に血の花が咲いた。
弩をはるかに超える速度で飛来した極小のつぶてによってあごの辺りを打ち抜かれた弓兵が
仰け反りながら倒れていくのが照星(サイト)越しに見える。
一瞬その周囲だけ矢の射撃が止まり、城壁に動揺が走ったのが見て取れた。

「次は…ちょうど良く指揮官を発見。 兜飾りからして貴族さまかな?
今度は上過ぎてヘッドショット(頭部を打ち抜くこと。 難しいので狙ってやろうとしても、まずならない)
にならないように慎重に…」

再度、乾いた破裂音が響き、今度は城壁に並ぶ弓兵隊に確実なざわめきが確認できた。

「見事だな」

「二人目はヒットしたかどうか確認できてません。 凹凸の陰に隠れてしまいましたから」

隣に馬を進ませて賞賛の言葉を送るジルに、シマは少し残念そうな表情をした。
謙遜ではなく、外したかもしれないと見ていたから、「成績」には数えなかったのだ。

「ロクヨンシキ、か。 それが量産できれば、ルシアンとの戦争にも簡単に決着が付くだろうに」

ジルのその言葉には、彼女…陸上自衛隊WAC(女性自衛官) 島安奈一等陸士は苦笑いをして曖昧に答えるしかなかった。

(ここまで)

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー