自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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323 :始末記:2016/02/09(火) 01:46:52.36 ID:oO71UoYV
黒煙の中から護衛艦『いそゆき』が姿を現した。
ちょうど艦首の舳先に砲弾が直撃したのか、僅かに炎上する艦首から破砕した穴が見受けられる。
だが艦載砲は旋回してこちらにその砲口を向けていた。
様々な動作確認を行っているようだ。

「どうやらさほどの被害でもなかったようだな。」
「残念です、でももう一撃当てれれば・・・」
「無駄だ、今当たったのは運が良かっただけだ。
次は当たらんよ、敵が次弾まで待ってくれてもな。」

ピョートル船長は次の弾込めをしながら命令を下す。

「総員、退船。
退船後は日本に投降しろ。
付き合ってくれた海賊達と違って、帝国海軍残党の我々は捕虜として扱って貰えるだろう。」

海賊は捕まったら一族郎党死刑が王国の法律で決まっている。
だがこの船の船乗りは帝国に所属していた水兵達だ。
日本側も残党軍の将兵を捕虜として扱ってくれる。
その点は信用できた。
生き残った船員達がボートを海上に落としたから海に飛び込んでいく。

「船長は・・・」
「俺はこの船の船長だぞ?
だいいち、このピョートル砲の性能を連中に知られるわけにはいかない。
欠点も長所も含めてな。
連中からみればはるかに劣った兵器なんだろうがな。」

実のところピョートル砲は試作のこの一門しか存在しない。
試作品特有の雑さは調べればわかってしまうだろう。
わからなければ日本も帝国軍相手に慎重にならざるを得ず、量産までの時間稼ぐことが出来るだろう。
『いそゆき』は艦載砲をこちらに向けたまま有効射程距離外まで距離を取ってきた。

「速いな、航行も異常無しか。
余裕を見せ付けやがって・・・」

副長も帝国式の敬礼のあと、海に飛び込んでいった。
『いそゆき』が距離を取ってくれたおかげで時間は稼げた。
一人になったが訓練の成果があったらしくピョートル砲の発射準備が完了した。
双方の砲口を火を噴いたのはほぼ同時だった。
ピョートル船長は自らが撃った砲弾が海面に着弾する光景を見ることなくピョートル砲や『漆黒の翼』号と運命を共にした。
ピョートル砲の砲弾は『いそゆき』に届くことなく海面に着弾した。


護衛艦『いそゆき』
「敵船撃沈!!」
「火災鎮火、ダメコン班向かわせます。」
「艦内の点検完了、戦闘、航行異常無し。」
「艦内に負傷者無し。」

各部署からの報告に石塚艦長は勝利したことを断定するが、実感はなかった。

「近づき過ぎたな。
まさか当てられるとは思わなかった。」
「邦人保護の為に『いしかり』に接近する必要がありました。
また、未知の海中戦力との遭遇、新型砲の投入。
イレギュラーが多すぎです。
しかし、軽微な損害で敵の新戦力を洗い出せたのは大きいと思います。」

砲雷長兼副長の神田三佐の言葉に無理矢理納得することにした。

「司令部の連絡は終わってるな?
海上に漂っている海賊達を逮捕、拘留せよ。」
「はっ、ちょうど『タイドスプリングス』もこっちに近ついで来ているので手伝ってもらいましょう。」



旅客船『いしかり』
『いしかり』では螺貝族の掃討が終わりつつあった。
警備会社社員や斧を持った船員、『いそゆき』の警備隊班が一匹ずつトドメを刺してから死体を海中に放り込んでいく。
その中でも比較的元気な一体を船倉に放り込んで佐々木が椅子に座って眺めていた。
銃弾を数発体に受けて、頭部の貝殻の突起物は何本か折れている。
螺貝族とはいまだにまともな交流が無いので言語がわからない。
だが海賊と共同戦線を張っていたなら意志の疎通が出来ていたはずだ。
佐々木は旧マディノ子爵ベッセンから習った大陸共通語で語りかける。

「あ、言葉通じます?」
「くっ、殺せ・・・」

そんなこと言われて佐々木は戸惑わされた。
だがどうやら相手も大陸共通語が使えるようなのには安心した。

「いや、その前に聞きたいことがあるのでご協力いただけませんか?」
「これでも誉れあるレムリアの騎士だ。
敵の慰み者になるくらいなら潔く死を」

最後まで言う前に顔の横に銃弾が通過して頭部の貝殻に当たった。

「いいから人の話を聞きやがれこの雌貝め!!」

どうやら貝のくせに性別が別れているらしい。
咳払いしてから紳士的な口調に戻す。

「まず今回の件で疑問なんですが、なぜあなた方が人間の海賊と組んで我々日本に敵対的行動を?」
「何故だと?
貴様らがそれを言うのか・・・
貴様らが生存する列島には以前、全ての海洋に存在する王国、諸部族を統轄するレムリア連合皇国とそこに君臨する海皇陛下がいらした。
だが10年前のある日、突如として海都とその周辺地域がまるで塗り替えられたように見たことが無い島々と海底に変わっていた。
いや、海の水自体が異質で我々に馴染まなかった。
今はだいぶ薄まってきたがな。」

佐々木には思い当たることがあった。
元マディノ子爵ベッセンにこの世界の地理を解説してもらった時のことだ。
日本が転移した地域には幾つかの島があったらしい。
だが調査の結果、その全てが消え去っていた。
海底探査船の調査によると地球から転移してきた海底とこの世界の海底はまるで元からそうであったかのように切れ目などの境界線が見つかってないのだ。

「日本が転移したように、海都も転移した?
どこに・・・、まさか・・・」
そこから先は口に出すことは恐ろしくて出来なかった。
螺貝族の女騎士の話は続いていた。

「海皇陛下と海都が消失して、海の王国や諸部族は戦乱の十年となり、多くの血が流された。
いまだに戦いは続いている。
お前達に復讐を企てた者達もいたが、お前達の海に阻まれて叶わなかった。
海都の一億三千万の民もどこに消えたのか・・・」
「一億三千万の民!?」

佐々木の驚きの声を螺貝族の女騎士は聞いていない。

その数に驚くだろうと思っているだけだ。
佐々木にはその数字が偶然とは思えなかった。

「女騎士殿、貴女は騎士を名乗る以上、正規軍に所属していたのでしょう。
ならば貴女を捕虜として対応します。」

退官した自分にはそんな権限は無いが口添えくらいは出来る。
色々と謎が残るが海の勢力図の把握も必要だろう。

「退職金に色を付けてもらいますか。」



給油艦『タイドスプリングス』
『タイドスプリングス』の甲板では、武装した乗員に囲まれ、より手錠を掛けられた海賊達が一ヶ所に集められて一人一人身体検査を受けていた。
金属探知機で隠していたナイフや釘は直ぐに発見された。

「20隻もの船団だったのだろ?
意外に生き残りは少ないな。」

艦長の艦長のチャールズ・ブロートン中佐は疑問を投げ掛ける。
千人近くの船乗りがいたはずだが、この艦で拘束したのは30名余り、『いそゆき』も似たようなものらしい。

「あれが原因じゃないですか?」
乗員の指さす方向の海面には鮫が群れをなして集まっていた。

「知ってるか?
日本の周辺海域にいた魚介類が物凄い勢いで繁殖してるらしい。
食糧難からあれだけ乱獲したのにな。」

中佐の脳裏に生態系を犯す外来種という言葉がよぎった。

「我々もそうなんだろうな、きっと・・・」



新京特別区
大陸総督府
『旅客船『いしかり』襲撃事件』の報告書を読んでいた秋月総督は机に置くと溜め息を吐いた。

「護衛艦『いそゆき』は新京港のドックに入りました。
本土より取り寄せる部品がありますので1ヶ月は動かせません。
まあ、この機会に整備とか色々行うようです。
旅客船『いしかり』は簡単な修理のあとに、再び本国に向けて出航しました。
スケジュールの遅延は許されないからとのことです。」

傍らの秋山補佐官が説明を行っている。

「まあ、その件はいいだろう。
海上船舶の安全距離の基準を10倍に引き上げる。
帝国残党軍の新型砲についての調査と対策もあるからな。
こちらからの技術情報も転移10年目となれば漏れが出てきている。
情報関係の各部門に対策を講じさせろ。
そして、問題がこいつだ。」

机の上に置かれたもう一冊のレポート冊子を手に取る。

「佐々木元公安調査官のレポートはまだ表に出せる代物じゃありません。
暫くは機密事項に指定しながら要調査です。
問題はどう調査すべきか未だに不明な点が数々有ります。」

秋山補佐官の言葉に頷きつつも考えさせられ内容だった。

「しかし、海皇のご尊名は驚かされたな。
終末の獣は本当に我々の故郷に転移したのか?」
「今となっては知るよしもないことですし、必要も無いと思います。
我々はこの世界で生きていかねばならないのですから。
さて総督閣下、そろそろ在日泥婆羅国民団代表との会見のお時間です。
去年のの第八都市建設計画で相当根に持ってますから気を付けて下さい。」
「あれ俺のせいか?
アングロサクソンの悪魔どもが合体して出し抜いてくるなんて予想できなかったろ。
規定の人数揃えれなかった連中も悪いんだからな。
全く・・・、いつになったら落ち着くんだろうな。」


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