自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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464 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/05/04(水) 18:27:56.44 ID:9gDm4fzp

エジンバラ男爵領

領主選挙の投票日が迫ってきた。
領内の投票所はエジンバラの名を冠する領都では領主の館、兵士の詰所、神殿で行われる。
周辺の町や村でも倉庫等を借りて実施される。
ダメなら施設の隊員の指示で小屋を建設したり、廃屋を改築して投票所にしている。
不正防止と開票の為に委員会の会員、自衛隊の隊員、領内の役人か兵士が動員されて各投票所に派遣されていて準備を進めている。
自衛隊の隊員達もPKOで、アンゴラやボスニアで選挙監視任務に当たった要員に講習を受けている。
問題は有権者に対して投票日前に配られる入場券や案内などの通知が書かれた書類の入った封筒が配り終えてないのだ。
郵便の制度は整っていない。
一般的に手紙は騎士団や巡礼の聖職者、冒険者や行商の商人達が副業として確実に運べる進路上の自治体拠点まで届けてくれる。
そこを中継地点としてリレー形式になる為に速達等は望むべくもない。
一応は飛脚のようなものはあるが高額で、町や村の拠点に送り届けるだけで個人宛には出来ていない。
それでも村や町にいる住民には自治体単位で渡せば問題は無かった。
問題は山中に家を建てて住んでいる狩人や炭焼き職人、木こり等といった職業の住民達だ。
彼等は家族で一ヶ月に一度くらいしか麓まで降りてこないのだ。
かくして甚だ不本意であるのだが、自衛隊の隊員達がこの郵送任務に駆り出されていた。
山中の獣道を3人の自衛官が進んでいる。

「こっちでいいのか?」

先頭を歩いていた隊員が立ち止まって声をかける。
すでに麓の車で行ける場所から行軍を開始してから五時間。
乗ってきた車には隊員を二人留守番に残している。
水筒で水を一口含んでから地図を見ている隊員に目を向ける。
地図は航空撮影から作製した簡易なものだ。
他にも複数の隊員が各地の山中で配達の任務に携わっていた。
この近辺の山だけでも五組は配達任務に駆り出されている。

「問題ありません。
あと三時間も歩けば着くかと。」
「意外に楽勝だったな。」

自衛隊体育学校の山間演習を体験していれば目的地がはっきりしているだけに体力的にも精神的にも楽である。
さすがに委員会のメンバーにはこんな山道を走破するのは不可能である。
約二時間四十分後、炭焼き職人とその家族が住む小屋に到着した。

「ボルガンさん、お手紙届けに参りました!!」

絶対に自衛隊の仕事じゃないと内心思っていたがおくびにもださない。
小屋からは夫人と思われる女性が出てきた。
こんな山の中ではお目に掛かれそうにない肉感的な美人だ。
山の中でも怪しい自分達のような人間を警戒してか、片手に手斧を持っていた。
豊かな森の食生活と山の中で生活する適度な運動がよいのだろう。
こんな山中で生活している以上、どこに泉や河川といった水源も豊富なのだろう。
町のご婦人方よりも清潔な様子が伺えた。

「まあ、遠いところ御苦労様です。
主人は明日の夕方には帰ってくると思いますけど。」
「いえ、御家族の方にでもこの封筒を受け取って頂ければ我々は十分ですので」
「いえ、居てくれないと困るの。」
「え?」

ちょっと期待しながらも固辞しなければならない。
何をとは聞いてはいけない。
あのエロっぽい仕草にほだされてはいけない。

「私も主人もうちの子達も字が読めないから
あなたたちに読んで貰わないと。」


「や、野営の準備をしていいですか?
あ、何かあった時の為の連絡先を書いた紙を置いていきますね。
責任者の名前も書いてますから・・・後で読み方や書き方も教えますので」
「食事くらいは用意するからよろしくね。」

夫人の背後から遊んで欲しそうな子供達がこっちを見ていた。
説明には時間が掛かりそうだった。

「今日は帰れそうに無いと連絡を入れといてくれ。
車は明日、同じ場所に来てくれとな。」

通信機を持った隊員に指示して、野営の準備を始めた。



リゲル砦

「つまりですね、この領内の識字率は約52%しかありません。
これまでの選挙区の中でも最低の数字ですな。」

委員会の事務長青塚氏の調査結果に近藤女史や丸山一尉は頭を抱えていた。
文字が書けるのは中産階級以上の人間になる。

「さ、最低でも名前を書ければ選挙にはなるわ!!
今回はいつもより状況が悪いだけで、他の領地も似たようなものよ。
地球だって中東やアフリカで同じような事例があるのよ。
地球では識字率が低い国では、選挙用紙に文字ではなくイラストやマークで投票が行われてたわ。
これを参考に他の領地でもこれで選挙自体は成功させたの。」
「候補者の写真の横にイラスト、マークが表記されてね。
有権者はそれを記入すればよいだけです。
ただ自薦の人はそれでいいとして、今回は他薦もありなんでしょう?
そちらはどうしたものかと。」

青塚事務長は捕捉しながらも問題点を指摘する。

「他薦、意味合ったんですかね?
どうせ泡沫候補しかいないんですし。」

丸山も何だか投げ槍だ。

「き、既成勢力の票を割れるじゃない。
他薦で今回名前を売れれば次回に繋げれるわ。」

相変わらずの理想がおかしな方向に行っている近藤女史の発言に二人に呆れ顔になっている。

「まあ、他薦の方々には賑やかしに頑張って頂きましょう。
他薦するくらいの人は字が書けるでしょう。
票は伸びないでしょうが。」

見も蓋もない青塚事務長の意見だが現実問題仕方がない。
この選挙にはもう1つ奇妙な側面がある。
候補者の大半を占める元領主一族がまるで演説などの活動を行わないのだ。

「まあ、チャールズ殿は自分の信任投票に過ぎないとしか思ってないとして、他の御一族の方々の動きがないのが不気味です。」

パルマ医師をはじめとする他の候補者達は本拠地の地元ではそれなりに支持者を集めているが、移動手段が無いので行動範囲が狭い。
地盤である町や村以外では知名度がまったく無い。
マスコミも発達してない選挙では無理もなかった。
領主一族の動向もあって、まったく結果の予想が出来ていなかった。
青塚事務長としては全くリアクションを取ってくれない旧領主一族は困った存在だった。

「当選されたら困るんだからいいじゃない。
もう少し大人しくしてて欲しいわ。」
「事はそう単純じゃないと思うんですがね。」

両者の懸念は平行線を辿っている。
だが丸山にはもう1つ懸念があった。
副隊長の福原二尉が入室してくる。
福原は青塚事務長や近藤女史がいることに眉をしかめるが、二人にも聞かせる必要があると考えた。

「王国府は敢えて公表してなかったみたいですが、総督府が追及したら吐いたそうです。
やはりこの西部方面では今年に入って村が4つ壊滅、12の村が襲撃を受けていました。
ゴブリンやオーク、或いはオーガや不特定多数のモンスターが確認されています。
西部以外でも被害が増加傾向にあります。」

ゴブリンの討伐作戦を指揮した岡本二尉から進言された懸念が的中していたのだ。

「よく連中が認めたな。」
「さすがに隠しきれないと思ったからでしょう。
スタルカ伯爵領の領都もカブトムシの虫人に襲撃されて、騎士団や神官戦士団が交戦した模様です。
冒険者ギルドも西部方面に討伐クエストを大量に発注していてます。」

冒険者ギルドには資源の調査の為に総督府がクエストを常時発注していたが、受注が減っていたのが疑問視されていた。

「予想以上に深刻だったな。」
「東部地域は第16師団、中央は第17旅団が大々的に討伐が決まりました。
西部地域に王国が戦力を集中出来るように負担を引き受ける為にです。
我々にも近いうちに撤収命令が出ますよ。
来月のサミットの議題にも上りましたからね。」

日本や在日米軍との戦闘で大陸における帝国軍は壊滅し、人間の戦力は大幅に減少した。
今は亡き帝国は獣人も傘下に納めて大々的にモンスターを狩り立てていた。
よくも協力出来たものだと考えられていたが、共通の敵の存在がそれを可能にしていたのだ。
だがこの五年近く帝国を引き継いだ王国軍に往事の力はない。
その間に繁殖して増加したモンスター達は、縄張りが手狭になってきた。
新たな狩り場を求めて人里まで姿を現している。
それも同時多発的にスタンピート現象(集団暴走)を起こそうとしているのだ。

「自衛隊だけでは手がまわらないかもな。」
「なんにしても今は目の前の選挙を片付けましょう。
それが我々に出来る最低限のことよ。」

偉そうに締められてしまい、青塚事務長も丸山一尉も苦笑してしまった。
丸山一尉も今後の方針を言ってみる。

「では我々は精々このエジンバラの安全に気を配るようにしましょう。さしあたって出来るのはこの地域のモンスターの駆除かな?」

咳払いする福原二尉が問題点を指摘してみる。

「あまり弾丸を使うと司令部に睨まれるので知恵と勇気で補って下さい。」


とにもかくにも選挙は投票日を迎えたのだった。
大陸の一般庶民にとって統治機構から布告された内容は命令と同義である。
領主による布告に従うのは領民の義務である。
すなわち選挙の投票は領主からの命令と勘違いをした領民の投票は驚異的な投票率という数字になっていた。
まだ、投票開始前の早朝だというのに住民達は各地の投票所に列を成して集っていた。
強制参加の選挙だと住民が勘違いしていることに気がついていない日本人達は、報告を聞いて自分達の努力の成果と感激に浸っていた。

「これよ!!
これこそが私の求めてた光景よ!!」


楽しそうに叫び声をあげる近藤女史を目立たないところに放置して、丸山一尉と青塚事務長も満足そうに投票所を見つめている。
有権者達は黙々と投票所に入り、係りの委員会のメンバーや自衛隊の隊員、現地スタッフ等に質問を投げ掛けながらも順調に投票が行われていった。

「お日柄もよく、妨害も無い。
今回は平穏無事に終わりそうですな。」

青塚事務長も椅子に座り、お茶を啜りながらこの光景に見いっている。

「開始3時間で有権者の六割ですか。この分だと夕方には当確をだせそうですね。」

各地の投票所から送られて来る投票数の集計を見て丸山一尉も頷く。
予想通りに昼過ぎには投票数は有権者の八割に達していた。
この頃には既に開票作業も始まっていた。
責任者である近藤女史、青塚事務長、丸山一尉は投票所の監督に終始し、開票作業には関わっていない
だが開票作業に当たっていた委員会のメンバーや自衛隊の隊員達の間で微妙な空気が流れていることに三人とも気がついていた。
規則により開票作業の内容は口にしてはいけない。
だがその日本人達による微妙な顔、或いは苦笑したようすに思惑とは違った方向に進んでいるのは理解できた。
夕方になる頃には投票数は有権者の九割に達していた。
だがこの時点で有権者に対する得票率50%を獲得した者が現れた。
次期領主が決定した瞬間であった。
発表は領主代行を務めるチャールズの館で行われる。
丸山達三人も他の有力者や各町や村の町長、村長達も席を連ねていた。
発表の為に新京や新香港からマスコミの人間も招待されていた。
やがてチャールズが妹で虹と芸術の教団の司祭であるクララが発表のプレゼンテーターを務めることになっていた。
二人とも候補者だったのにプレゼンテーターを務められるのは落選が確定しているからだ。

「では、お兄様。」

司祭の服とも思えない虹色の祭服を着たクララが銀色のお盆に乗せた封書をチャールズに差し出した。

「ありがとう、クララ。」

チャールズは封書を受け取り、ペーパーナイフで封書を開き、書簡を取り出す。

「発表します。
第一回、エジンバラ自治領主選挙で当選を致しましたのは・・・」

誰もが固唾を飲みながら見守っているなか高々と発表された。
「陸上自衛隊一等陸尉丸山和樹殿!!」

沈黙が広間を包む。
誰もが驚きで拍手すら忘れている。
当の丸山一尉が一番反応に困っている。

「は、はい!?」

そして、隣にいた近藤女史がやはり気を失い丸山一尉にもたれ掛かった。
妙齢の女性を抱き抱えた新自治領主の姿が次の日の紙面の一面を飾っていた。


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