自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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860 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/07/18(月) 17:23:52.21 ID:Whu/KqTn

大陸南部
百済市
エレンハフト城

高麗本国の騒ぎをよそにサミット二日目は当然のように実施されていた。
議長である白市長の顔色はよくない。
ほとんど不眠不休で、本国情勢や百済市から出来る対策の検討、苦情の処理に携わっていたからだ。
大陸南部である百済市から高麗本国までは、船舶ではどうしても十日は掛かる。
ましてや昨日の亀人との戦闘による死傷者や捕虜の管理等に人員が割かれて、援軍の為の隊員を確保出来ていない。
亀人達とも言葉が通じないので、管理が苦労している。
会場も些か生臭い臭いが漂っていて、顔をしかめている出席者もいる。
警護の者達や係りの者達が消臭剤を振り撒いている中、サミット二日目が始まる。

「よって、唯一の策は日本本国からの援軍ということになります。」

秋月総督は高橋陸将と小声で相談しながら答える。

「我が国本国でも現在は海岸線に自衛隊、警察、海上保安庁の各部隊を警戒配備中でありますが、援軍の為の戦力を抽出中であります。
本国からの回答をもう少しお待ちください。」


日本本国では海沿いの各都道府県に各普通科連隊や各方面隊所属の即応連隊が動員されている。

「現在陸上自衛隊は三個旅団を派兵しており、隊員に余裕がありません。」

編成途上の部隊は幾つかあるが、戦地への派遣など論外のレベルだ。
部隊を運ぶ艦艇の問題もある。
日本本国には現在、護衛艦隊の艦艇の半数が存在しない。
残っている艦も各護衛隊から最低1隻はドック入りしている。
そして、稼働可能な艦艇も沿岸の警備に手一杯な状況だ。

「ただし、航空自衛隊による航空支援は直ちに実施されます。
現在、築城基地の航空隊が出撃した頃です。」

日本も転移以来日本人口が600万人減少し、215万人が大陸に移民している。
国内の対応と大陸への航路の確保が最優先であれば、現時点での支援はこれが限界のはずだった。




対馬海峡

対馬の南上空をF-2戦闘機6機が飛行していた。
福岡県築城基地から出撃した第6飛行隊に所属する機体で、それぞれMk.82通常爆弾を12基搭載している。
これほどの規模で出撃したのはいつ以来だったか、編隊長の河井健次郎3等空佐は思いに耽る。
転移前には盛んだった近隣諸国へのスクランブルも、転移後は皆無となった。
貴重な航空燃料の節約の為に哨戒活動も最低限となっている。
今の航空自衛隊は間違いなく往時の練度を維持できていない。
今回の任務は貴重な実戦を経験できる機会と言えた。
間もなく高麗国領空に到達すると二機編隊ずつに別れる。
巨斉島、南海島、珍島を襲撃した敵の巨大生物にMk.82通常爆弾をお見舞いしてやるのが任務だ。

「L(リマ)ポイント通過、戦闘空域、全機スプレッド(散開)!」

高麗国の領空に入ればどの島も数分で到着する。

『ツー』
『スリー』
『フォア』
『ブラボー、ワン』
『ブラボー、ツー』

編隊を組む五機の部下から応答があり、ツーマンセルで目標とする島に向けて散開する。
対空攻撃の心配はないので、巡航高度から高度を下げて超低空飛行に切り換える。
目標の位置については、高麗国の国防警備隊から逐一報告が届いている。




珍島上空

「対地攻撃用意・・・目標まで20、17、8、1、投下!!」

珍島に陣取る『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号に、ブラボーツーから投下された12発のMk.82通常爆弾が降り注ぎ、大爆発を起こす。
Mk.82通常爆弾は一発あたりの爆発の効果範囲が300メートルに及ぶ。
硬い岩盤に覆われた『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号であるが、爆撃を受けて岩盤ごと背中が大きく抉られる。
岩盤で造られた城も城壁も跡形もなく吹き飛んでいた。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号の城内や周辺に展開していたイカ人達もたちまちスルメや焼きイカになっていく。
エサブゼ・ゴワ船長もすでに焦げすぎた焼きイカとなっていた。
だがこの攻撃は思わぬ副産物を産み出していた。
『シュヴァルノヴナの海の幸がてんこ盛り』号の体内にはその巨体に相応しく、大量のアンモニアが溜め込まれていた。
気化したアンモニアが青い炎をあちこちで巻き起こしている。
そのまま消し炭になってくれれば問題はないのだが、引火したアンモニアから発生したアンモニアガスが現場に混乱を招いていた。
大量のアンモニアは或いは地球にいたエイよりもその身に多く溜め込んでいたのかもしれない。

「状況、ガス!!
後退・・・いや、避難しろ!!
マスクを早く装着しろ!!」

有害な一酸化窒素ガスが発生していて、交戦していた国防警備隊が後退している。
すでに隊員の中には目、喉、鼻が刺激されて、痛みを訴えている者もいる。
倒れた隊員はまだ無事な隊員やガスマスクを装着した隊員が引き摺って後退していく。
このまま留まれば呼吸の痙攣を引き起こし、呼吸麻痺で死に至るだろう
ガスの種類は独特の臭いから直ぐに判明した。
アンモニアガスは水溶性が高いので、出動した消防車による放水が行われた。
海上からも警備救難艦『太平洋9号』からも、毎時1,200t放水可能な放水銃塔2基から放水が行われている。
生き残ったイカ人達は人間よりは抵抗力はあるらしい。
それでも一旦は海に飛び込むか、自らの墨を互いに掛け合って、アンモニアガスを洗い流して対処している。
F-2戦闘機のブラボーワンは、地上の国防警備隊からの要請のもと、残ったイカ人達の陣地を空爆していく。
主力を失った珍島のイカ人達は、六割近くの死傷者を出して各所に立て籠った。
国防警備隊の珍島守備隊はいまだに数の上では劣勢であり、これを狩り出す戦力に不足していた。
アンモニアガスの危険性は、各島の国防警備隊や第6飛行隊各機に伝えられていった。



南海島

アンモニアガスの危険性は、第6飛行隊のF-2戦闘機2機にも伝えられたが時既に遅く、Mk.82通常爆弾が投下された後だった。
その為に蟾津江の河口の巨大砂洲に陣取っていた『みんなが願う安全漁業』号は、よい標的としと船長ウコビズ・ゲロごと、Mk.82通常爆弾による爆撃により粉砕されていた。
だがすでに国防警備隊の守備隊は敗走しており、町の大半はイカ人達の手に落ちている。
アンモニアガスも蟾津江の水が大半を吸収してくれていた。
だが多くのイカ人が街中に潜んでおり、多数の住民や捕虜となった国防警備隊員が拘束されていた。
市街地を空爆するわけにもいかず、F-2戦闘機は幾つかの陣地を空爆するだけで帰投を余儀なくされていた。

島を周回しながら戦闘を続けていた仁川級フリゲート『大邱』も弾薬が不足し始めていて、島を脱出した船団の護衛に徹している。
なお、南海島と周辺の島々には三千のイカ人の軍勢が立て籠っていた。



巨斉島

すでに市街地近郊に上陸していた『荒波を丸く納めて日々豊漁』号に空自のF-2戦闘機は空爆を封じられていた。
新巨斉大橋の破片も背中に取り込み、防御力を増している。
アンモニアガスの影響もすでに伝わっていてどうにもならない。
河井二佐は目標の変更或いは強行を司令部に打診している。
だが珍島や南海島と違い人口が十倍以上のこの島でアンモニアガスを発生すれば被害の規模は比較にならない

イカ人の軍勢は市街地に入り込
み、国防警備隊の守備隊と市街戦に突入している。
新巨済大橋、巨済大橋、国防警備隊本部、玉浦造船所、外島、海洋警察署でも交戦が行われている。

「随分、入り込まれたな。
F-2には外島への空爆を要請しろ。
あそこなら被害は少ない。」

第一連隊隊長の連隊長の伊太鉉大佐の臨時司令部にも何度もイカ人達が侵入して交戦している。
大統領官邸でも散発的に戦闘が行われていた。
要所のほとんどはいまだに抵抗を続けている。
大統領から施設への被害を最低限に納めるよう指示が出てなければ空爆で形勢が決まっていたところだ。
決め手に欠けるのはイカ人達も同様だった。
イケバセ・グレ船長は上陸して、本陣を占拠したビルに構えている。
ビルの窓から上空を飛ぶF-2を睨みつける。

「隣接する島にいた部隊が、あの飛行機械の攻撃を受けて八割に至る損害とのことです。」

さきほど大きな爆発音が聞こえたので、確認に行かせていた部下が答えてくれる。

「あれは厄介だな。
だが積極的には仕掛けて来ないようだ。
今のうちにこの島の制圧を急ぐぞ。」

海路の封鎖に使っていた三千の兵のうち、千を島に上陸させて攻撃に加えている。
兵の損害も甚大だが、制圧は時間の問題と思えた。
他の島を攻めた同胞も上手く攻略出来ていることを海と生命の神に祈っていた。
巨斉島とその近辺には尚も七千にも及ぶイカ人の軍勢が残っていた。



百済市
エレンハフト城

サミット二日目は、高麗国支援の後はドン・ペドロ市長カルロス・リマが演説している。
日本で自動車会社に勤務していたビジネスマンで、転移後は地球系所都市に電力を供給するドン・ペドロ発電所の誘致と建設に尽力した。
ドン・ペドロ市は在日ブラジル人と来日の旅行者。
ブラジルの配偶者となった日本人を含む20万の人口を誇る都市である。
在日ブラジル人は日本で製造業に携わっていた者が多くい。
豊富な電力を生かして中小の工場が多数建設され、地球系都市に機械部品を供給する拠点となっている。
徴兵で兵役経験者も多く、約600名の軍警察が治安を守っている。
反面、船舶の保有は少ない。
ようやく日本に巡視船の発注の契約を結んだのが、今回のサミットの成果である。
また、在日ポルトガル人を含むポルトガル人約千名を受け入れることを表明した。

次にアルベルト市長、エリック・サイトウが壇上に上がる。
在日ペルー人を集めて建設されまアルベルト市だが、その人種構成は大半が日系人の子孫という特徴がある。
これはドン・ペドロ市民にもみられる傾向だが、アルベルト市民ににおける割合は高い。
やはりドン・ペドロ同様、製造業に携わっていた人間が多いが電力的に恵まれた環境ではない。
幸い、農業経験者も多いことからなんとか食い繋いでいるのが現状だ。


「産業の誘致と治安部隊の強化に対するご支援を各諸都市のお歴々にはお願いしたい。」

徴兵制だったブラジルと違い、志願制のペルー出身者には軍役に就いたことがある者は少ない。
その為に治安部隊の編成に苦労していた。

スコータイの代表には犯罪と技術流出をどうにかしろとの批判が殺到した。
事前に会議の内容は打ち合わせ済みだったはずだが、昨日からの騒動で些か混乱して暴走しているようだった。
秋月総督達も完全に話を聞いていない。
高麗本国の戦況についての報告を秋山補佐官から聞いていた。
ようやく海上自衛隊の準備も整ったようだ。

「佐世保から護衛艦『あまぎり』が珍島に向かいます。
呉からは護衛艦『しまかぜ』、輸送艦『くにさき』が特別警備隊二百名を乗せて関門海峡を通過しました。
第3ミサイル艇隊が対馬で合流して巨斉島に向かいます。」
「随分、少ないな。
我が国の余剰戦力はそれしか残っていないのか・・・」
「舞鶴や横須賀の艦隊はどうせ間に合いません。
警備の範囲も広いですならね。
編成中の第51普通科連隊を出すわけにもいきません。
彼等はここに派遣される貴重な戦力です。
あんなところで消耗消耗されても困ります。
それに転移前の政治情勢における凝りが、両国に残っていて大規模戦力の派遣が憚れた事情があります。
今の与党の長老方には転移前の韓国に対する不信感が残っていますからね。」

長老方だけではなく、転移前にネットなどに慣れ親しんだ若い世代にも不信感が漂っているのを秋山補佐官を見て悟らざるを得なかった。
派遣された自衛官達はプロフェッショナルだと信じているが、隊員達にも同様の心情を持つ者が多数いるだろうことが、秋月に不安を感じさせた。
そこに高橋陸将が控え室から戻ってくる。

「総督、まもなくヴェルフネウディンスク市長から正式に発表があると思いますが、緊急事態です。
北サハリンに巨大な生物と獣人の軍勢が侵攻しました。
現在、北サハリン軍と交戦状態に入っています。」

その後、公式に発表された北サハリンへの侵攻を聞かされた各都市の代表達は各々の言語で同じ言葉を呟いていた。

「またかよ・・・」


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