自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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だれでも歓迎! 編集
495 名前:始末記[sage] 投稿日:2016/08/20(土) 13:29:16.90 ID:JZcOwjOw

輸送艦『くにさき』

輸送艦『くにさき』の甲板から、3機のSH-60K哨戒ヘリコプターが発艦する。
機内には特別警備隊員が10名ずつ搭乗している。
これに護衛艦『しまかぜ』から発艦したSH-60J哨戒ヘリコプターも特別警備隊員10名を乗せて後に続く。

「市庁舎と議事堂のある古県洞を奪還せよ。」

中川司令の声がヘリの中の隊員に、通信で改めて伝えられた。
新巨済大橋から国道14号はイカ人の軍勢よって制圧されている。
当初は善戦していた国防警備隊も弾薬の不足から後退を余儀無くされたのだ。
現在は巨済市の中心街と言える古県洞まで侵攻を許し、市街戦となっていたのだ。
海自の哨戒ヘリコプター部隊は、途中のイカ人の陣地や移動中の部隊にAGM-114M ヘルファイアII空対艦ミサイルを浴びせて粉砕しつつ、国防警備隊が抵抗を続けている旧巨済警察署こと、国防警備隊本部の駐車場に着陸する。
国防警備隊は周囲のビルの間を土嚢や車両で封鎖し、防御陣地として残り少ない弾丸で抵抗を続けていた。
ビルの二階、三階からも射撃をして、押し寄せるイカ人の軍勢を撃退することに成功するが、陥落は時間の問題だった。
ここに弾薬の補給と完全武装の40名の特別警備隊員の到着は大きかった。
国防警備隊第一連隊隊長の伊太鉉大佐は自ら出迎え、歓迎の意を示した。

「巨済にようこそ、よく来てくれた!!」

部下に弾薬を運び出すように命じ、特別警備隊の分隊長達に投入したいポイントの書かれた地図を渡していく。
特別警備隊の各分隊が定められたポイントに駆け出していく。
予想以上に司令部近辺まで敵に食い込まれているようで、車両も全部出払っていた。
防衛陣地に到着する前に各所で、射撃を開始する隊員が続出する始末であった。
イカ人達の占領した地域に護衛艦『しまかぜ』による艦砲射撃による砲撃が始まる。
各所で補給を終えた国防警備隊も反撃を開始した。
途絶えがちだった銃声が再び増えていく。
占拠したビルに本陣を構えていたイケバセ・グレ船長は、日本の援軍の到着に敗北を悟っていた。
弾薬の欠乏した国防警備隊を相手に市街まで押し込むことが出来たのだが、限界が来たのを認めざる得なかった。
人間達による銃声が、より多く、より近くまで接近している。
援軍の到着によって幾つかの部隊は壊滅し、前線の敵の攻撃は再び勢いを取り戻している。

「今ならまだ五千の兵を本国に還せる。
何より『荒波を丸く納めて日々豊漁』号を失うわけにはいかない。
撤退だ。
撤退の法螺貝を吹け!!」

大型の海洋生物船は今は貴重な存在だ。
あそこまで育てるのに長い年月も掛かっている。
その数も海都の消失とともに大半が失われた。
シュヴァルノヴナ海の本国にもあと一匹しか残っていないのだ。
本国防衛の為にも今は退くべき時だった。
だが彼の思惑を嘲笑うように、『荒波を丸く納めて日々豊漁』号が突然爆発した。
窓から事態を把握する為に眺めると、焔を尻から噴いて飛んでいる二本の棒が『荒波を丸く納めて日々豊漁』号に直撃して大爆発を起こしている。
空爆により脆弱になってたとはいえ、上部を固めていた岩塊や、まだ形を保っていた岩城も吹き飛ばされて崩壊している。
海上にいる日本の軍艦からの攻撃ではない。
先程の空飛ぶ棒は、日本の軍艦とは島を挟んで反対側から飛んで来たと目撃していた兵士が語っている。
撤退の方法を封じられたイケバセ・グレ船長は絶望のあまり、床に全ての触手を垂らして、倒れこんでしまった。

「ば、ば、馬鹿な。」

部下達のまえで狼狽する姿を見せてしまったが、気にしている余裕をなくしていた。



輸送艦『くにさき』

その光景は『くにさき』からも目撃されていた。
ミサイルによる攻撃は、自衛隊や高麗からの物では無い。

「今のは・・・ハープーンか?」

茫然としていた中川司令が呟く。
アンモニアガスの発生を恐れて慎重に対応していたのに、それを台無しにする攻撃だ。
この作戦に参加していた『あまぎり』や『しまかぜ』による攻撃では無い。
着弾地点には巨大なエイが、アンモニアガスによる青い炎を噴き上げながら炎上していた。
敵に押し込まれていたので、近辺に味方や民間人はいない筈だが確認が取れたわけではない。
『くにさき』の水上レーダーがようやく、ミサイルを発射したと思われる友軍艦艇の接近を捉えていた。

「司令、今の攻撃は『シャイロー』からのものです・・・
位置、南海島より北西120キロの距離を航行中!!」
「アメリカか、なぜこんなところに?」


地球に転移してきた訪日・在日系外国人達は、新たな植民都市の建設を目指して生きてきた。
住むべき大地とともに新たな政府を作った高麗、北サハリンも同様だった。
だがアメリカ人達は自分達が、アメリカ合衆国の一員であることを捨てなかった。
新天地はあくまでアメリカ51番目の州と主張した。
星が一つの星条旗はあくまで、州旗である。
日本本土から西へ約2万キロの西方大陸アガリアレプトの半島を占領し、アーカム州州都アダムズ・シティに約19万の市民とともに勢力を広げている。
日本と西方大陸アガリアレプトの中間には、日本領綏靖島が存在し、食料や燃料、武器弾薬の供与が行われていた。
代わりに日本も米軍兵器の製造の為に、ブラックボックス化させられていた技術を開示させた。
『シャイロー』がこの戦場にいるのはただの偶然だ。
本来の目的は、日本で生産されている砲弾やミサイルの補充と、艦体を巨済島の玉浦造船所のドックでの整備点検を行うためだ。
なにより帰還時にも大事な任務を拝命している。

「『エンタープライズ』を牽引するだけの簡単な任務のつもりだったんだがな。」

タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『シャイロー』艦長、ケリー・ジンサ大佐は困ったような顔で、首を横に振っている。
玉浦造船所は、かつて世界最大級の海上石油プラットホームを建設した実績がある。
これを利用して、第二次世界大戦で建造された海上要塞のごとく配備して大陸間の中継地点にしようとする構想だ。
『エンタープライズ』はその第一号海上要塞となる。
『シャイロー』のドック入り予定の翌日には完成するはずだった。

「まあ、襲撃を見て助太刀しないのは義理に反するからな。
巨済島はもう友軍である高麗国の国防警備隊や援軍に来ている日本国自衛隊に任せればいいだろう。
本艦はトマホークで巨済島を攻撃を援護しつつ、南海島に向かう。
対地戦闘用意、面舵、標準旋回、全速前進、進路1-8―0、兵器使用自由、射程内に入りしだい発射。」

敵からの攻撃は気にする必要は無い遠距離からの攻撃だ。
こちらは南海島に向けて、前進あるのみだった。
幸いにして海兵隊1個小隊も連れてきている。
島の奪還は容易なはずだった。




輸送艦『くにさき』
「『シャイロー』からのミサイル攻撃です。
島内の七ヶ所に着弾。
現在、着弾した地点を確認させています。」
「『シャイロー』から平文で通信。
『本艦はこれより、南海島の奪還に向かう。
巨済島は任せた』以上です。」
巨済島は仮にも一国の首都である。
当然、アメリカも大使館を設置していて警備に海兵隊が常駐している。

彼等が各地に散ってレーザー目標指示装置を持ち歩き、島内を駆けずり対地攻撃目標に対して照射を続けていた。
BGM-109 トマホーク七発が着弾し、その存在を気付くことも出来なかったイカ人の軍勢に甚大な被害を与えていた。

「なんという威力の攻撃だ・・・」

イケバセ・グレ船長は、巡航ミサイル直撃を受けたビルにいたが、ビルの残骸に押し潰されていた。
残骸を押し退けて体を引きずり出すが、朦朧とする意識を保とうと必死だった。

「せ、船長・・・」

生き残った部下達が駆け寄ってくる。
軍勢に撤退の命令を出せるのは船長だけなのだ。

「全軍に各々の判断で・・・退路を切り開き、撤退を指示しろ・・・」

海にさえ入れれば、海棲亜人であるイカ人は逃げることが出来る。
本国までは遠い道のりだが、各々の努力に期待するしかない。
そう言い残して、イケバセ・グレ船長は息絶えた。
撤退の法螺貝が島内に鳴り響き、イカ人の兵士達はバラバラに海中に逃ようと動き出した。
『船』を使わず自力で泳いで本国に帰ろうとすれば半年は掛かる距離だが他に方法はない。
一匹でも逃さないとばかりに、撤退しようとするイカ人の兵士達を国防警備隊や特別警備隊の隊員達は背後から射ち捲った。
小競り合いは続き、巨済島全域に作戦終了の宣言が出されたのは翌日の昼過ぎだった。



百済市
エレンハフト城

米海軍所属タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦『アンティータム』がら下船したのは、アウストラリス大陸特別大使のロバート・ラプスだった。
緊迫した空気で、各都市の代表達や国王や貴族達は会議場で彼の入室を待っていた。
だが入室して来たのはアメリカの一官僚だった。
彼は申し訳なさそうな顔で、列席者達に用件を伝える。

「申し訳ありませんが、ラプス大使は船酔いに体調不良で本日の会議への出席は無理となりました。
せっかくお集まりのところ恐縮ですが、出席は明日に見合わせて頂きたい。」


大使は割り当てられた部屋で休息を取ることになった。
待ち構えていた列席者達から微妙な空気の中で、ブーイングが会議場に鳴り響き、サミット二日目を終えることにした。

「まったく何しに来たのやら・・・」

秋山補佐官の呆れて呟いた一言が、会議場の大多数の人間の思いを体現していた。
だが代表達が休息を得られるのはもう少しあとになる。
秋月総督は割り当てられた部屋に、白市長が訪れていた。
ソファーに座っている秋月総督に対し、立ったままの白市長が互いの力関係を示している。
席に座ることを進めないのは、日本側が今回の件をどう思っているかを如実に示していた。

「なぜ、北サハリンの案に同調を?
あなた方にも技術の緩和は時期尚早だと理解してもらっていると思っていましたが?」

責める口調の秋月総督に白市長は苦渋に満ちた顔を見せている。
日本で生まれ育った白市長には、高麗本国の同胞より日本人達の考えの方が理解しやすい。
だがそれでは自分達の支持者は納得してくれないのだ。

「仰りたいことは理解しています。
ですが我々にも必要なことだったのです。
今回の紛争で、我々は主要四都市が全て戦場となってしまいました。
復興の為の資金が必要になります。
北サハリンからの資金援助とアンフォニーの開発は我々に必要なのです。
何より今回の紛争は大統領の責任問題にまで発展するでしょう。
国民感情的にもわかりやすい戦果が必要になったのです。
総督、北サハリン海軍は百済から逃亡した巨大海亀を原潜で追跡しています。
敵の本拠地攻撃に我々の参加を許可するか検討すると打診してきたのです。
我が国には選択肢などなかったのです。」

秋月総督はため息を吐き、高麗国の思惑を変えることを断念した。

「明日のアメリカが何を言い出すのか。
それを聞いてからもう一度考えてみましょう。」

横から秋山補佐官が話に割り込んでくる。

「白市長閣下、本国より我々並びに自衛隊に下された命令をお伝えします。
今回の紛争に関して、自衛隊は必要な最低限の監視の部隊を抜かして各戦線よりの撤退を命じられました。」

自衛隊の撤退は、掃討作戦の中止を意味する。
高麗国だけで勝手にやれというメッセージだ。
海棲亜人や大型海棲生物の死体の処理だけでも膨大な時間と労力が掛かるだろう。
高麗国の死傷者は、国防警備隊員、民間人合わせて三千名に及ぶ。
これは帝国崩壊後の地球系人類にとって最大の損害となった。
独力での復興は至難であり、長い道のりになる。
高麗国に対する不審を訴える保守派による圧力だった。
北サハリンやブリタニカにも何らかの制裁措置が考えられているのだろう。
消沈して退室した白市長を秋月は気の毒そうに見送った。
とにもかくにも長い二日間は終わった。
明日はサミット最終日。
官僚達が今回のサミットをどうまとめるか、徹夜で話し合っている。
早く新京に帰りたかった。



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