自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

377 第279話 雪原の光明

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第279話 雪原の光明

1485年(1945年)12月10日 午前10時 コネチカット州グロトン

ハズバンド・E・キンメル元海軍大将は、この日はいつもと違い、時計の針が午前10時を過ぎた所で目を覚ました。

「……ふむ、少し寝坊してしまったか」

キンメルはそう独語しつつ、まだ眠たい頭を振りながらベッドから起き、右隣のコートハンガーにかけてあったガウンを身に纏い、
寝室から家のリビングに向けて歩いていく。

「あ、おはようー」

台所のキッチンからキンメルは声をかけられた。

「おはようフェイレ。今日も元気だな」

彼は、フェイレに爽やかな声で返しながら、ソファーに腰を下ろした。
ソファーの前にある低いテーブルには新聞が置かれており、キンメルはそれを手に取って読み始めた。

「フェイレ。すまないがコーヒーを貰えないか?」
「うん、ちょっと待っててね」

キンメルの頼みに応じたフェイレは、そそくさとコーヒーを淹れていく。
フェイレはキンメルの分と、自分のカップにコーヒーをなみなみと注ぎ込み、それをトレイに乗せてリビングに運んだ。

「はい。コーヒー持ってきたよ」
「おお、ありがとう」

フェイレからコーヒーを渡されたキンメルは、読んでいた新聞を一旦除けて、コーヒーを一口啜った。

「ほう……フェイレ。また腕を上げたな?」
「え、そう……かな?」

唐突に聞いてくるキンメルに対し、フェイレはやや恥ずかしげに顔を赤らめながら、彼に聞き返す。

「前飲んだ時よりも、コーヒーの味わいが違うな。ふむ、飲みやすくていいぞ」
「ありがとう、お父さん」

満足気にコーヒーを啜るキンメルを見つつ、フェイレははにかみながら礼を言った。

「それにしても、前線の軍はよくやってくれているな。陸軍は敵の反撃を抑え込み、逆襲部隊を包囲したというし、
海軍もシェルフィクルの工場地帯を手酷く叩いたと報道されている。君の故郷であったヒーレリの完全解放も、
そう遠くない日に成し遂げられるかもしれないな」

キンメルは、新聞の一面を見据えながらフェイレに言う。
新聞の見出しには、大きな文字で

「合衆国陸海軍、同盟軍と共同で敵軍を各地で撃破」

と書かれてあり、写真には雪原を行く戦車部隊の姿が掲載されていた。

「戦争も、あと少しで終わるのかな」
「終わるさ。私はそのために前準備し、後任に引き継いでいる。心配はいらんよ」

キンメルは自信ありげな口調でそう言いつつも、心中では不安もあった。
とはいえ、現役を退いた身としては、ニミッツが上手く太平洋艦隊を指揮してくれている事を信じるしかなかった。

(いや、実際上手くやってはいるか。シェルフィクルの仇討ちを果たしたのは実に見事だった)

キンメルは心中でそう思いつつ、ふと、ラジオがついていない事に気づいた。

「ラジオが聞こえんな」
「あ、スイッチ入っていなかった。今つけるね!」

フェイレは慌てて立ち上がると、キッチンにあるラジオに手を伸ばし、スイッチを入れた。

ラジオからは、最初は雑音混じりの音が響いてきたが、程なくして綺麗な声音が流れてきた。
フェイレがソファーに座った所で、唐突に番組が変わった。

「臨時ニュースを申し上げます。先ほど、合衆国海軍報道部より緊急発表がありました。合衆国海軍報道部発表によりますと、
合衆国海軍太平洋艦隊は、昨日未明より、同盟国軍諜報部隊と協力し、シホールアンル帝国首都ウェルバンル、並びに、
首都圏にある一大根拠地、シギアル軍港周辺に対して、決死の大空襲を敢行したとのことです」

キンメルは新聞の紙面から目を離すと、顔をラジオに振り向けた。

「ただ今、予定を変更して臨時ニュースを申し上げます。合衆国海軍報道部、午前10時発表。合衆国海軍太平洋艦隊は、
昨日未明より、シホールアンル帝国首都ウェルバンル、並びに、シギアル港に駐屯する敵艦隊、並びに、敵航空兵、軍事施設
に対し、決死の大空襲を敢行し、多大な損害を与えた模様です。また、太平洋艦隊は本10日未明、戦艦を主力とする
水上打撃部隊でもってシギアル港に肉薄し、同地の沿岸砲台、並びに港湾施設に艦砲射撃を敢行、潰滅的打撃を与えたとのことです」
キンメルはラジオから目を離すと、腕を組みながら天井を仰ぎ見た。

「父さん……?」

フェイレは、天井を見つめ続けるキンメルに不安げな声音で話しかける。

「なんとも……派手な事をしてくれる」

キンメルはポツリと言うと、顔をフェイレに向けた。

「今の聞いたか?ウェルバンルが爆撃されただと?にわかに信じがたい物だ」
「父さん、大丈夫?」
「ああ。至って大丈夫だよ」

キンメルは、張りのある声音でフェイレに返答する。
「私も、敵の首都を叩ければと思う事はあった。だが、それはできなかったし、ニミッツでも難しいであろうと考えていた。
しかし、現実に、太平洋艦隊は首都の近くまで艦隊を派遣し、砲爆撃を浴びせた。ああ、これは現実なのだ」

キンメルは、一語一語を噛み締めるように発しながら、フェイレの右肩に自らの左手を置いた。

「フェイレ。歴史は大きく動いた。恐らく、本当の意味での終戦は近いだろう」

彼は、そう確信しながらも、心中ではこの一台壮挙をやってのけたニミッツと、見事に任務を果たした味方艦隊へ、惜しみない賛辞を送った。

(指揮官は誰かわからぬが……とにかく、よくやってくれた。彼らは、合衆国海軍の創設以来、最大規模の勝利を挙げた。
そう……かのツシマ海戦の東郷提督や、トラファルガー海戦のネルソン提督の功績と比べても、なんら遜色のない程の大勝利を……)

同日 午前10時5分 ワシントンDCアメリカ海軍省

アメリカ海軍作戦部長を務めるアーネスト・キング元帥は、執務室の机で、ラジオから流れる海軍省報道部の発表を、
書類を持ってきた士官と共に聞き入っていた。

「報道は、終わったようだな」

キング元帥は、静まり返ったラジオ放送から意識を離し、士官に目を向ける。

「さて、他に何か報告事項はあるかね?」
「いえ、ありません。報告は以上になります」
「そうか。では、下がって良い」

キングは士官を下がらせる。
士官が執務室から出ると、中にはキング1人だけが残された。
キングは、持っていたペンを机に置くと、おもむろに立ち上がり、腕を組みながら執務室の中を歩き始めた。
「ウェルバンルの奇襲はこれで成功した。コロネット作戦はこれにて完遂、と言う事になるが……しかし、予定にはない
艦砲射撃を行うとはな。全く、あの野蛮人は思い付きで作戦を立てるから困る物だ」

彼は、最後は苦々しい表情を浮かべながらそう言い放つ。
しかし、すぐに表情を戻す。

「とはいえ、指揮官をハルゼーに任命するように働きかけたのも私だ。期待に違わぬ成果を上げた事は認めるべきであろうな」

キングはそう言いつつ、脳裏には、今年7月に、この執務室で行われたある話し合いの事を思い浮かべていた。

その日、人払いを済ませた会議室で、2人の海軍士官と共に話し合いを始めようとしていた。

「忙しい中、遠いところから呼びつけて申し訳ないと思うが、早速本題に入りたいと思う」

キングは、改まった口調で一言発してから、視線をハルゼーに向けた。

「その前に……私は以前から、君の事は高く評価していなかった。無論、今もそうだ」
「それはまた、ご期待に沿えぬ事ばかりを行い、私としても失礼だとは思っております。ですが」

ハルゼーは平静さを装いつつも、キングはわざわざ自分を呼びつけて、説教を始めるのかと、心中不満気になっていた。

「私は現場の実情を判断したうえで、決断を下しております。そして、成果も挙がっております。昨年9月の
レビリンイクル沖海戦では、かなりの損害を受けてしまいましたが」
「レビリンイクルの戦闘は確かに惨敗だった。だが、あれは予想できぬ敗北だった。ある意味では、致し方ないともいえる……」

キングは、溜息を吐いた。
「だが、それにも関わらず、その後に敵制海権内へ突入し、艦砲射撃を行うのは……私としては少々向こう見ずな作戦で
あったと判断している。結果的にはプラスとなっているが、私は、君が行うその突発的で、衝動的ともいえる作戦がいつ、
取り返しのつかぬ失敗を生むか気が気ではなかったのだよ」
「……お言葉ですが、作戦部長」

ハルゼーは、キングが言葉を区切ったのを見計らって言葉を返し始めた。

「私を呼びつけたのは、今までの作戦指導を非難するため、でありますかな?」
「いや……少々、君の顔が見たくなっただけだ」

ハルゼーは、キングの発する予想外の言葉に目を丸くしてしまった。

「私の顔を……ですと?貴方は私を気に入ってはおらんようですが」
「それでも、こうして呼び出したのだよ。その危なっかしい君の勇気が、予定している次の作戦で必要になるのだ」

キングは珍しく、人を食ったような笑みを浮かべながら、待ちに待っていた言葉を吐き出した。

「ハルゼー……空母部隊で叩けないものかね?」
「と……言われますと……」

ハルゼーは、キングが何言わんとしているのか理解できなかった。

「敵の首都と、その近くにある敵の一大拠点を、機動部隊で叩けんものかな」

キングはさり気ない口ぶりで聞く。
それに対して、ハルゼーは無言のままであったが、自然と、キングの言わんとしていることを理解し始めていた。

「……向う見ずな君なら、これを成し遂げられると思うが……どうかね?」
「空母機動部隊の艦載機で……か」

ハルゼーは腕を組むと、顔を俯かせて考え込んだ。

「作戦部長としては、君に与えられるだけの戦力を与えると明言されている」

ニミッツが口を挟む。

「戦力ですか……そもそも、今は艦隊を指揮せずに待命状態にあります。その私が第5艦隊を率いて、ウェルバンル攻撃を行うのでしょうか?」
「いや、君には第5艦隊は任せない」

キングは即答する。
それを受けたハルゼーが眉を顰める。

「何故です?太平洋艦隊の主力である第5艦隊を使わなければ、私はどの艦隊を使ってウェルバンルやシギアルを叩くのですかな?」
「君には……第3艦隊を率いて貰おう」
「第3艦隊……新たに艦隊を新設するのでありますか?」
「そうだ」

キングは深く頷きつつ、傍に置いてあった封筒をハルゼーに手渡した。

「読みたまえ」
「……拝見いたします」

ハルゼーは一礼しながら封筒を開け、中に入っていた紙に目を通した。

「それが、第3艦隊の所属艦リストだ。どうだ……それでやれんものかね?」
「これは……!」
「集められるだけの戦力を用意したつもりだ。無論、搭乗員も、ベテランを多く引き抜き、各空母航空団に配属する予定だ。私としては、
君の持ち前の性格と、その判断力を買って、この話合いの場を設けたのだが……無理そうかね?」

キングがそう発した後、会議室が静寂に包まれる。
だが、それも束の間であった。

「いえ、やらせていただきます」

ハルゼーは紙を下ろし、キングの目を見据えながら、はっきりと言い放った。

「空母12隻。艦載機900機……これだけあれば、シギアル港やウェルバンルのみならず、シホールアンル帝国東海岸一帯を好き放題に
叩く事が出来ます」
「恐らく、敵は首都圏に大規模な航空兵力を布陣させている物と思われるが、それでも叩けそうか?」
「その場合は、敵航空戦力を減殺しつつ、機を見てシギアルやウェルバンル攻撃に入ります。既存のF6FやSB2C、TBFであれば
苦戦はするかもしれませんが、今、母艦航空隊に配備中の新型艦載機、F8FベアキャットやA-1Dスカイレイダーであれば、
首都圏近郊の敵航空部隊にも十分対応でき、制空権も確保できる。と、私は確信いたします」

ハルゼーは自信満々に答えた。
その表情は、戦闘に臨む際に見られる、ブル・ハルゼーと呼ばれる獰猛な顔つきそのものであった。

「よろしい。ならば、話は簡単だ」

キングは、じろりとハルゼーの顔を見つめると、一語一語刻み込むような口調で命令を発し始めた。

「君には、これより第3艦隊司令長官として働いてもらおう。早速だが、明日から艦隊の指揮を執ってもらいたい」

「望むところです。ウィルアム・ハルゼー。この一世一代の大作戦を完遂するべく、努力する所存です」
「……必ずや、敵を恐怖に陥れてくれる事を期待している。では……」

キングは、ニミッツに目配せする。

「作戦部長、やはり言われるおつもりですか?」
「無論だ。この作戦は、統合参謀本部の立案した大作戦の一部なのだからな」

キングはさも当然とばかりに言ってから、再びハルゼーに顔を向ける。

「それでは、もう少しだけ説明を行うとしよう」

キングは、予め用意しておいた、丸めた地図を取り出し、それをテーブルの上で広げた。

「これは……!」

ハルゼーは、広げた地図を見るなり、驚きの声を上げた。
それは、シホールアンル帝国を含む北大陸の地図であったが、地図のあちこちに何がしかの説明が書き加えられていた。
そして、地図の上には、作戦名が大きく書かれている。

「統合参謀本部は、先日……シホールアンル帝国の完全屈服を目標としたこの一大作戦の発動準備命令を発した。
作戦名は、オリンピック」

キングは淡々とした口調で話すが、ハルゼーはその言葉の一つずつが、遠くから聞こえるように感じ始めていた。

「なんとも、大仰な名前な物だ。もう少しセンスのある名前を付けてしまえば良かったものだが……文句はさておき。
この、同盟国軍も含む陸海共同作戦は、大きく分けて5段階に別れる。まず第1段階は」

キングは批判めいた言葉を吐きつつ、北大陸の西側沿岸部を指差す。
「シホールアンルの生命線とも言える、シェルフィクル工場地帯を太平洋艦隊の主力でもって攻撃し、同時に、迎撃して
くるシホールアンル海軍主力部隊も攻撃し、これを撃滅する。これに成功すれば、敵は本土北西部沿岸の制海権を失い、
同時に主要工場地帯を失って国力の大幅な低下をきたすだろう」

キングは次に、帝国東部沿岸部……シホールアンル帝国首都ウェルバンルと、シギアル港を交互に指差す。

「第1段階終了後は、第2段階として、帝国首都ウェルバンル、並びに、シギアル港を叩く。先の第1段階は、
シェルフィクル工場地帯の壊滅と、敵主力艦隊の撃滅の2つの任務を与えているが、この第1段階は、君の行う
第2段階作戦のために行われる陽動でもある」
「陽動でありますか……第1段階作戦には恐らく、第5艦隊を投入するはずですが、陽動にしてはかなりの大規模ですな」
「第1段階作戦は陽動であると同時に、本命でもあるからな」

ニミッツが横から言葉を挟んだ。

「だから、太平洋艦隊も主力である第5艦隊を丸ごと投入する。空母20隻以上を主力とする大機動部隊がシェルフィクルに
向かうとなれば、敵も竜母機動部隊を迎撃に向かわせるだろう」
「なるほど……敵主力は第5艦隊に押し付けるという訳か。となると……私の率いる第3艦隊は隠密部隊となるのですな?」

ハルゼーは確信めいた口調でキングに尋ねる。

「その通りだ。君の艦隊は、敵地から離れた場所で訓練に励んでもらう。そして、時期が来れば……ダッチハーバーに艦隊を
移動させ、その後に」

キングは、最初はダッチハーバーに人差し指を置きウェルバンルのある部分までなぞってから、拳で叩いた。

「思う存分暴れて貰う。手加減は無しだ」
「勿論です。派手に叩きますよ」

ハルゼーは頷きながら、キングに返答する。

「その意気で頼むぞ。そして、第3段階が、陸軍主導で行われる敵南部領分断作戦だ。予定では、東西から南部領の付け根を
圧迫し、一気呵成に切断する。投入する軍の数も膨大な物となる。これが成功すれば、帝国本土南部に展開する100万以上の
シホールアンル軍を包囲網に置く事が出来る。第4段階は、第3段階が行われる最中に実行される。これは、陸軍航空隊を
主軸として行われる戦略爆撃だが」

キングは、右手の人差し指を、アリューシャン列島のダッチハーバーに向けた。

「このダッチハーバーから、陸軍が配備したばかりの新型戦略爆撃機、B-36を敵の首都ウェルバンルに向けて発進させ、
首都にあると思われる中規模の工場地帯を、白昼堂々爆撃する。この爆撃で、敵の士気をさらに削ぐ予定だ」
「徹底的に追い詰めるんですな。こりゃ、決まれば相当にエグイ物だ」

ハルゼーは、作戦の立案者はかなり性格が悪いのであろうと確信していた。

「そうでもしなければ、帝国側の士気は下がらん。それに、まだ作戦は残っている」

キングは、次に南部領を手で撫でまわした。

「第3、第4段階が成功すれば、敵の士気低下は計り知れない物になると予測される。だが、ここに至ってもまだ戦意が
残っている場合は、第5段階として、首都ウェルバンルと、本土西部領を切断する攻勢作戦を発動する。この作戦には、
新たに、陸軍の新型戦闘機、P-80シューティングスターを投入し、敵の残存航空戦力の撃滅、並びに、掃討にあたる」

キングは、前のめり気味になっていた姿勢を正し、ハルゼーに体を向ける。

「これが、オリンピック作戦の内容だ。これは、合衆国軍創設史上、最も大規模な物になることはほぼ確実だ。そのためにも……」

キングは鋭い視線で、ニミッツとハルゼーを交互に見据える。

「第1、第2段階は必ず、成功させねばならない。統合参謀本部は、既に第1段階にクロスロード作戦、第2段階に
コロネット作戦と名付けている。本職としては、諸君らの有する太平洋艦隊の健闘を祈る」

キングは無言のまま、ニミッツに右手を差し出した。

「クロスロード作戦を引き受ける第5艦隊は、その艦隊規模からして敵機動部隊と、敵の基地航空隊の総攻撃を受ける可能性が高い。
しかし、海軍としても、戦力化されつつある新鋭艦艇はできる限り多く、第5艦隊へ配備させる。苦しい戦いになるかもしれんが、
どうか完遂してほしい」
「……無論そのつもりです」

ニミッツは、キングと固い握手を交わした。

「私としては、レビリンイクル沖海戦……いや、第1次レビリンイクル沖海戦の復仇の機会を与えてくれた、作戦部長のご配慮に、
深く感謝しております」
「頼りにしているぞ」

キングはニミッツを握手と終えると、今度はハルゼーに右手を差し出した。

「本当なら、敵艦隊の仇討ちは第5艦隊ではなく、君の率いる第3艦隊にやって貰いたいところだが、作戦の都合上、
この際やむを得ない。ただし、首都圏空襲作戦であるコロネット作戦は、クロスロード作戦と同様に、非常に重要な作戦だ。
新鋭艦は第5艦隊の方が多めになってしまうが、その代わり、乗員の練度は高い艦を多く配置している。航空隊も精鋭を
揃えるつもりだから、しっかりやってくれ」

ハルゼーは、キングの単調ながらも、その心中には真に健闘を祈る姿勢に感銘を受けつつ、彼の手を握った。

「作戦部長の取り計らいに感謝いたします。シギアル港の敵艦隊は1隻残らず、水葬に伏してやるつもりです。戦果をご期待ください」

「9月1日の事だったが……ハルゼーは期待通りの戦果を挙げてくれたか」

キングは、感慨深げにそう呟いた。
正直、キングとしては未だに、ハルゼーの事は好きではない。
とはいえ、同盟国の強力な支援を受けつつ、任務を果たした事は大いに評価できると、キングは同時に思うようになった。

「シギアル港に対する艦砲射撃が余計だとも思ったが、シホールアンルに計り知れないショックを与えた事は明白ともいえる。
報告では、アイオワ級戦艦も砲撃に交じっていたとある」

キングは、アイオワ級戦艦の巨躯を思い出しながら、猛然と砲撃を行う姿を想像した。
他の戦艦と共に、9門の17インチ砲を振り立て、敵地にその姿を見せつけながら、堂々と砲撃する。
制空権、制海権を失った敵側は、それを黙って見るしかない。
そして、敵は首都すらも、安寧の地ではなくなったと痛感せざるを得なくなる。
砲撃の後に広がるのは、夥しい破壊の後と、言い知れぬ絶望感。

そして……

「終戦へ向く敵側の思考……と言う構図になるか。野蛮な事しかしなかったハルゼーも、なかなかに策士だな」

キングは、ハルゼーのポパイめいた表情を思い出しながら、僅かに苦笑した。

「となると、私も首都を叩いた英雄に、ねぎらいの言葉をかけねばならんな」

キングはペンを取り出すと、紙にある一文を書き始めた。
2分後、書き終えたキングは、通信士官を呼びつけ、内容を第3艦隊司令部に送るように命じた。

1485年(1945年)12月12日 午前8時 ヒーレリ領クロートンカ

夜が明けても、上空の空模様は相変わらず、鉛色の雲に覆われており、上空からは依然として雪が降り続けていた。
起伏の多いクロートンカ周辺は、降り続ける雪によって辺り一面の銀世界と化していたが、そこは数日前から続く
シホールアンル軍と連合軍との戦闘が繰り広げられており、今日もまた、シホールアンル側の砲撃によって一日が明けた。
静まり返っていた地上に、砲弾が着弾して大音響とともに雪や、その下の土砂が上空に噴き上げられる。
守備位置に付く連合軍兵士は急造のタコツボに隠れて難を逃れようとするが、不運な兵士は直撃弾を受けて肉体を四散させられる。
戦友の仇討ちとばかりに、偽装された連合軍側の野砲が猛然と撃ち返し、シホールアンル側の野砲陣地を叩きにかかる。

彼我の砲兵隊が互いに砲弾を飛ばし合い、戦場音楽が付近に響く中、ある戦闘集団はこの日、定めていた目的地にようやく到達した。
軽やかなエンジン音と共に、道路の起伏に揺られていたそのハーフトラックは、目的地を指し示す道路標識を視認するや、
ゆっくりとスピードを落とし始めた。

「よし、止まれ!」

ハーフトラックのキャビンで運転兵に告げた男性士官は、停止すると同時にキャビンから降り、部下と共に道路標識を間近で確認し始める。

「ショトンスポヌ……よし、ひとまずの目的は果たしたな」

第3海兵師団A戦闘団……別名、パイパー戦闘団を率いるヨアヒム・パイパー中佐は、道路標識に書かれているショトンスポム
と書かれた文字を認めると、満足気に頷く。
ショトンスポヌは、シホールアンル軍反撃部隊の攻勢発起地点であるクロートンカより東に5マイル離れた場所にある無人の村で
あるが、ここから先は峻険な山岳地帯が聳え立っているため、これ以上の東進はほぼ不可能となっている。

「やはり、敵は前に進みすぎて拠点の保持を怠ってしまったようですな」
「その結果がこれだからな。俺達もこうならんように気を付けんといかん」

明日は我が身、と付け加えてから、パイパーはくわえていたタバコに火をつけた。
ふと、前方でカメラのシャッター音が鳴る。
顔を上げると、カメラを構えた男がパイパーと、副官の前に立っていた。

「パイルさん、いいのが撮れたかい?」
「バッチリ取れましたよ」

従軍記者であるアーニー・パイルはカメラを下ろしながら、ニッコリと笑った。
アーニー・パイルは、パイパーの率いる戦闘団に従軍記者として同行し、数々の写真を撮影している。

「激戦を制した指揮官の顔と言う物は、どことなく安堵感が強いもんですな」
「そりゃ何度も死にそうになったからな。しかし、あんたもよく付いてこれたもんだ」
「銃砲弾を恐れてちゃ、いい記事が書けませんからね」

パイパーは呆れ半分、感心半分と言った口調でパイルに言い、パイルはにこやかな笑みを崩さないままパイパーに返した。

「さて、これで袋は完全に閉じた訳だが……あとは、外側からの攻撃を耐えつつ、中の連中がギブアップするのを待つだけだ」

パイパーは気の抜けた口調で言いながら、ひっきりなしに聞こえてくる戦場騒音に耳を傾けた。



12月7日より始まった連合軍別動隊による反撃は、当初こそ敵の不意を衝けたものの、攻勢開始から2日後の9日からは
シホールアンル側の抵抗が激化し、進撃速度が大幅に低下した。
連合軍は、12月7日の前日から既に反撃部隊本隊である第15軍と第29軍が敵侵攻部隊本隊へ猛攻を開始しており、
少なからぬ犠牲を出しながらも、砲兵隊の支援の甲斐もあり、9日未明には敵本隊を分断する事に成功した。
対して、別動隊は、新たに敵が増援を送ったこともあり、進撃速度は低下したものの、9日夜半には敵防衛線を強引に突破し、
グレンキア軍装甲軍団がロプトンヌを、アメリカ軍海兵軍団がクロートンカを制圧した。
その過程で、第3海兵師団はクヴェンキンベヌの解囲にも成功し、包囲網の中で決死の防戦を行っていた第82、101空挺師団、
第115空挺旅団、第37機甲師団は、海兵軍団が現れるや、誰もが狂喜し、雪の中を行く海兵隊員達を熱烈に歓迎した。
その先頭がパイパー戦闘団であり、彼らは多数の空挺兵や戦車兵達から感謝の言葉を浴びつつ、1度も止まらずにクヴェンキンベヌを通過した。
この時点で、敵反撃部隊3個軍(実際は4個軍であり、海兵軍団と第19装甲軍団は、シホールアンル軍第76軍と戦い、包囲網の
外へ追い払っていた)の退路は断たれたも同然だが、パイパーは東にまだ穴がある事を事前の偵察で確認しており、師団本部の制止を
無視して穴と呼ばれる場所……クロートンカより東2マイル離れたショトンスポヌに向かった。
パイパー戦闘団は、これまでの激戦で戦死142名、負傷者292名、戦車を含む42両の車両を失う大損害を負っていたが、
部隊はまだ戦闘力を残しており、後方の援護をB戦闘団に任せてショトンスポヌの制圧を敢行した。
ショトンスポヌには、敵は部隊を置いていなかったため、パイパー戦闘団は1発の銃弾も放たぬまま無血占領を成し遂げたのだった。
シホールアンル軍は別動隊によって退路を塞がれたと気づくや、集められるだけの部隊を集め、包囲網を固める連合軍部隊に猛攻を加えてきている。

昨日の未明から始まった敵の反撃は、包囲網の中のシホールアンル軍と、包囲外にいる敵部隊が連携して行っており、
これにグレンキア軍装甲軍団と米海兵軍団、そして、包囲網から救出された空挺軍団と第37機甲師団も部隊の再編制を
終えて戦列に加わり、敵の新たな反撃に対応していた。

「予報では、今日の昼辺りに一時、天候が回復するようだが……パイルさん、どう思うかね?」
「俺は記者だから天候の事を聞かれてもね」

パイパーに話を振られたパイルは、思わず苦笑しながら言葉を返す。

「その時にならんと分からんだろう。ここは、気象班の予測を信じるしかなさそうだ」
「違いない」

パイパーはやれやれと言った口ぶりでパイルに言いつつ、ハーフトラックのキャビンに乗った。

「隊長、第5海兵師団が北側の敵より砲撃を受けているようです。それから、第37機甲師団司令部からも、我、砲撃を受ける、との事です」
「北側のシホールアンル軍も包囲下の連中と合わせて来たか。敵さん必死になって包囲を解こうとしているな」

パイパーは舌打ちしながら、脳裏に彼我の戦力配置を描いていく。

別動隊は確かに敵反撃部隊の背後を遮断したが、敵もまだ諦めていない。
包囲網の北側には、5個師団相当のシホールアンル軍部隊の布陣が確認されており、昨日はこの敵軍と、包囲網維持にあたる
第3、第5海兵師団、救出した味方部隊との間で激戦が展開された。
敵は2時間近くにわたる事前砲撃のあと、旧型ながらもキリラルブスを含む石甲部隊を先頭に攻撃仕掛け、これに第5海兵師団の
M4シャーマン戦車と、第3海兵師団のM26パーシングが迎え撃った。
戦車戦はほぼ一方的な展開となったが、敵の歩兵部隊は、後方の野砲の支援のもと、我武者羅に前進を続け、海兵隊と激しく撃ち合った。
夜明けから夜中まで続いた戦闘の結果、シホールアンル側はボロボロに打ちのめされて後退したが、米側も少なからぬ死傷者を出している。
第5海兵遠征軍司令官を務めるホーランド・スミス中将は、戦線北側の敵は大損害を受けて後退したため、解囲攻撃に参加する事は
無いだろうと判断していたが、敵側が新たな増援を受けて攻撃を再開する事も考慮し、引き続き、厳重な警戒態勢を敷いていた。
スミスの予想通り、シホールアンル軍は新たな増援と、部隊の再編成を終えるや、包囲網を支える海兵軍団に再度の攻勢を仕掛けてきたのである。

「首都を焼き討ちにされた挙句、近場の港に艦砲を食らったにもかかわらず、連中の士気は落ちていないようだな」

パイパーは敵の粘りに幾分感心しつつも、包囲だけは絶対に解かせぬと、心中でそう決意していた。

パイパー戦闘団が穴を完全に閉じた頃、グレンキア軍第19装甲軍団は、反撃作戦開始当初からアメリカ海兵軍団と共に敵反撃部隊の
退路を断ったが、その後、解囲を狙う包囲下のシホールアンル軍部隊の猛攻に耐え続けていた。

第19装甲軍団は、第12装甲擲弾兵師団、第17装甲擲弾兵師団、第34装甲師団の計3個師団で構成された機械化軍団である。
この3個師団に対して、包囲下のシホールアンル軍は、米第15、第29軍の猛攻を受けつつも、態勢を立て直した第1親衛石甲軍
所属の第3親衛軍団(第5、第6親衛石甲師団)と、第29石甲軍所属の第49軍団(第120、第204石甲師団、第108石甲化機動砲兵旅団)
を投入し、激戦を繰り広げた。
昨日の戦闘では、第19装甲軍団は敵に猛攻に対し、巧みな防戦を展開し、敵側の攻勢を頓挫させていた。
だが、第19装甲軍団の被害も思いのほか多く、第34装甲師団は基幹部隊である3個装甲連隊のうち、1個装甲連隊が激しい消耗の
末に解体され、残存する戦車と兵員が残りの2個連隊に吸収されたほか、師団全体の損耗率も32%に達している。
この他にも、第12装甲擲弾兵師団は損耗率が28%、第17装甲擲弾兵師団に至っては損耗率が34%に達するなど、非常に苦しい
状況に陥っていた。
とはいえ、このような大損害を受けつつも、将兵の士気は旺盛であり、特にアメリカ海軍がシホールアンル帝国の首都を攻撃したという
ニュースが入ると、将兵の士気は更に高まった。
第12装甲擲弾兵師団第32装甲擲弾兵連隊を指揮するウェロース・ポリースト中佐は、指揮車として使用しているM3ハーフトラックの
キャビンから、配置につく将兵の動きを見つめていた。

グレンキア軍機械化歩兵……もとい、装甲擲弾兵は、アメリカ海兵隊の迷彩服を参考にして緑と茶色を基調にしたまだら模様の迷彩服を着ており、
ヘルメットはアメリカ製の物を使用しているが、それも迷彩色で彩っている。
兵員の中には、防寒対策としてアメリカ製の目出し帽(アメリカ兵の間ではバラクラバと呼ぶ者もいる)を被る物もおり、それらの兵達は
M1ガーランドライフルやトミーガンと呼ばれるM1トンプソンサブマシンガンなどの米国製装備で身を固めている。
完全武装の兵員達は、昨日より続く戦闘に疲労の色を見せているが、その動きはまだ精彩さを残している。

「流石は我がグレンキアの誇る装甲擲弾兵だ。遥か昔の先輩方も、この動きを見て喜んでくれているかな」


グレンキア軍が、歩兵の事を擲弾兵と呼ぶようになったのは、アメリカ式装備を受け取り始めた1484年初め頃からである。
擲弾兵と言う名は、遠い過去にあったグレンキアと、当時は覇権国であったバルランドの間で行われた戦争で、爆発式の小筒を投げ込む歩兵の
事を擲弾兵と呼んでいたことに因んでいる。
この戦争の時に、鉄の鎧に身を纏った擲弾兵が戦場に登場し、活躍したことから装甲擲弾兵隊が組織され、バルランドとの講和までの間、
前線でよく戦った。

その後、軍縮に伴って装甲擲弾兵隊は解体されているが、その名前が復活したのが、先にも話した1484年頃であり、アメリカ式の武器には
手榴弾と呼ばれる投擲装備や、装甲を施されたM3ハーフトラックがグレンキア軍に納入された事もあり、グレンキア軍上層部は、祖国独立の
ために奮起した装甲擲弾兵隊に因んで、機械化歩兵師団を装甲擲弾兵師団に改称している。
機械化歩兵もこれに応じて装甲擲弾兵と呼ばれる事になり、北大陸戦線では、アメリカ軍はもとより、かつては敵であったバルランド軍とも、
共に肩を並べてシホールアンル軍と戦い、成果を上げてきた。
第19装甲軍団は、今年の10月にグレンキア本土から送られてきた新参部隊ではあるが、指揮官クラスは既に前線を経験したベテランで
占められており、その訓練の成果は、反撃作戦開始の緒戦で遺憾なく発揮されている。
彼らは、ホーランド・スミス中将が期待した以上の働きを見せてくれたのである。

部下達は手慣れた動きで配置を終え、あとは敵の襲来を待つだけとなった。
事前砲撃を終えて前進中のシホールアンル軍石甲部隊を双眼鏡越しに見つめる。

「昨日の時点でかなりの犠牲を出しているはずなのに、まだ向かって来やがるか!」

ポリースト中佐は忌々し気に吐き捨てながら、上空を仰ぎ見る。

「天候さえ晴れてくれれば、俺達も大きな犠牲を出す筈がなかったんだ。糞!忌々しい!」

今も続く天候不良は、損害の大きいグレンキア軍にとって全く喜べる状況ではない。
12月7日から始まった反撃で、第19装甲軍団はよく戦った。
同じ戦線で戦っている米海兵隊のホーランド・スミス中将からは、その勇猛果敢ぶりに

「グレンキア軍の素晴らしい攻撃精神と、勇猛果敢さが無ければ、敵の退路を断つことはできなかった。彼らは海兵隊の良きパートナーである」

と、惜しみない賛辞の言葉を贈られたほどである。
だが、グレンキア軍とアメリカ軍は、クロートンカに至る過程で少なからぬ犠牲を払っており、その一番の原因は航空支援が受けられぬ事にあった。
このため、敵の部隊とまともにかち合い、損害が積み重なった別動隊は、その傷が癒えぬまま敵の解囲攻勢をもろに受ける事になり、それが
損害の累積に繋がってしまったのである。
だが、敵の猛攻を受けているとはいえ、グレンキア軍の将兵たちは、ここが踏ん張り所であると自覚していた。

「この怒りは、連中の血で贖ってもらう事にする……各隊、射撃準備!」

ポリースト中佐は、無線機のマイク越しに指示を下していく。
時折、別の部隊の情報も無線機から入って来るが、各連隊共に、敵と防戦中のようだ。

「こちら第1大隊、射撃準備よし!」
「こちら第2大隊、準備完了。いつでも行けます!」

指揮下にある3個大隊は、いずれもが射撃準備を完了していた。
敵の石甲部隊は、師団砲兵の弾幕射撃を浴びながらも、着実に前進を続けている。
見た所、6台ほどのキリラルブスが砲兵の射撃浴びて炎上している。
残りはそれを見捨てつつ、尚も前進している。
数は50台ほどで、その後ろに兵員輸送型と思われるキリラルブスも混じっている。

「こちら第3中隊、準備完了。ご用があればいつでも行けますぜ」

レシーバーに愉快そうな声が響く。
装甲連隊から第32装甲擲弾兵連隊に、支援部隊として配置された戦車中隊指揮官の声だ。

「今日もたっぷり働いてもらうぞ。カイム大尉」
「無論です。うちらの活躍、期待しといてくださいよ」

戦車中隊の指揮官、カイム大尉は自信満々に答える。
カイム大尉の戦車中隊は、M4シャーマン戦車16両で編成されている。
昨日の戦闘では、中隊だけで38台のキリラルブスを破壊し、敵の攻撃阻止に貢献している。
その代償として、カイム戦車中隊は5両の戦車を失い、中隊の戦力は11両に減っているが、当のカイム大尉はさほど気にしてはいなかった。
戦車中隊は、陣地のやや後方、左右に展開しており、入念な偽装を施して敵を待ち構えている。

「敵キリラルブスとの距離、1000グレル(2000メートル)」

前方の散兵壕に隠れた観測員が、敵キリラルブス隊との距離を知らせてくる。

敵は尚も前進中であり、距離は徐々に詰まってきた。
最終的に、敵キリラルブスは45台までに撃ち減らされていたが、残りは部隊の展開する陣地まであと600メートルに迫った。

「戦車隊、撃ち方始め!」

ポリーストは戦車隊に命じた。
その次の瞬間、陣地の左右から発射炎が迸る。
真っ直ぐの形で突き進んでいたキリラルブス2台が側面を撃ち抜かれ、瞬時に爆砕された。

(あれは装甲強化型の最新型ではなく、砲身だけ強化した普通の奴だな)

ポリーストは、被弾炎上し、その場に擱座するキリラルブスを見てそう判断した。
キリラルブスは、正面装甲をかなり強化した最新型が前線に多数配備されているようだが、この敵部隊には、その最新型は配備されていないようだ。
だが、主砲はシャーマン戦車の正面を容易に撃ち抜く事が出来るため、油断は禁物だ。
左右に展開したシャーマン戦車中隊が第2射を放つ。
またしても、2台のキリラルブスが擱座する。
陣地に展開した装甲擲弾兵中隊も対戦車砲や迫撃砲等で射撃を開始し始める。
アメリカ製のM5対戦車砲が唸り、キリラルブスを次々と仕留めていく。
76.2ミリ砲弾を前の右脚部に食らったキリラルブスは、つんのめって砲身を地面に突き刺して行動不能に陥った。
キリラルブスから乗員が慌てて脱出するが、そこを見計らったグレンキア兵が機銃を撃ちまくり、脱出した乗員を全て射殺した。
キリラルブスも偽装された対戦車砲を見つけるや、砲弾を放って叩きにかかる。
1門の対戦車砲の至近に砲弾が突き刺さり、爆発音とともに対戦車砲が横に転がされ、爆風と破片を浴びた3名のグレンキア兵が、
血を吹き出しつつ、悲鳴を上げながらその場に倒された。
M4シャーマン中隊は第3射を放ち、新たなキリラルブスが擱座するが、キリラルブスもシャーマン中隊に砲弾を見舞う。
シャーマン戦車1台が、偽装の施された車体に被弾し、爆発炎上する。

「シャーマン中隊移動しろ!第1、第2大隊、そろそろ頃合いだ、第2線陣地に移動を開始しろ!」

ポリースト中佐は矢継ぎ早に指示を送り始める。
第1線陣地に詰めていた部隊が、迫撃砲から一斉に発煙弾を発射し、敵の視界を奪っていく。
シャーマン中隊も発煙弾を投射しつつ、陣地転換に移る。
前線の装甲擲弾兵にはハーフトラックが急行し、慌ただしく兵員を収容していく。

事前に決められた作戦では、第1線陣地で敵に出血を強要した後、時期を見て第1戦陣地を放棄し、2キロ後方の第2戦陣地まで
後退する事になっている。
グレンキア軍は退路遮断のさい、南側に向けて8キロの縦深を確保しており、これを生かして敵反撃部隊の出血を強要し、敵の
解囲攻勢を防ぐ予定となっている。
昨日の戦闘では、第1線付近で激戦が展開され、陣地後退をするまでもなく敵を撃退したが、今回は昨日の戦闘で消耗が嵩んだ分、
前線の部隊が耐えられる時間が短いため、ポリースト中佐は敵をそこそこに叩いてから、速やかに第2戦陣地に部隊を移動させる事にした。
シホールアンル軍は、展開された煙幕に構うことなく、そのまま突っ込んできた。
まだハーフトラックに乗り込んでいない擲弾兵の一団は砲撃を受け、停車していたハーフトラックごと四散する。
また、あるキリラルブスは交代するハーフトラックに砲弾を撃ち込み、これを爆砕させることに成功した。
だが、この時点で部隊の大半は第2陣地に向かいつつあり、キリラルブス隊が第1陣地の散兵壕群に到達したときは、第1、第2大隊は
予備陣地へ移動を終えていた。

煙幕が晴れると、またもや後方の砲兵陣地から阻止砲撃が浴びせられ、再びキリラルブスが無数の爆炎と降りしきる土砂に包まれていく。
キリラルブス隊はそれでも前進を続け、憎き連合軍部隊との距離をまたもや詰め始める。
敵はますます損害を積み重ねつつあったが、この時、敵側の野砲も師団砲兵に砲撃を始めたため、前線に対する支援砲撃が期待できなくなった。
敵部隊はこれ幸いとばかりに、増速して一気に距離を詰め始めた。
10両のシャーマン戦車は、それぞれが用意した陣地にダックインし、砲塔部分を地面から覗かせる形でキリラルブスを迎撃していく。
足を吹き飛ばされたキリラルブスがへたり込み、前進ができなくなる。
本体部分に受けたキリラルブスが、搭載弾薬の誘爆を引き起こして派手に吹き飛んだ。
キリラルブス隊も撃ち返す。
1両のシャーマンが砲塔に敵弾を受け、爆炎と共に砲塔部分が吹き上がった。
キリラルブスは、ダックインしたシャーマンや、前面に展開した擲弾兵中隊に砲撃を繰り返しながら距離を詰めていく。
敵の先鋒が陣地まであと50メートルに達した時、キリラルブスの後方に追従している兵員輸送型キリラルブスが一斉に姿勢を低くするや、
搭乗していた歩兵が降り始めた。
擲弾兵中隊は、30口径機銃を乱射して、キリラルブスと共に迫る敵歩兵を次々になぎ倒していくが、数が多すぎるため、敵の接近を許してしまった。
たちまち白兵戦が始まった。
第2擲弾兵中隊第3小隊に属するリヘント・ラビクォス1等兵は、ガーランドライフルで迫りくるシホールアンル兵を1人、また1人と
撃ち倒していくが、銃本隊から金属音と共にクリップが飛ぶ。

「弾切れだ!装填する!」

ラビクォス1等兵は、隣の同僚にそう叫びながら、塹壕内に体を引っ込めて銃に弾を装填する。
その間、同僚は敵と撃ち合い、新たに敵兵1人を仕留めていた。

「装填完了!」

ラビクォス1等兵は弾を込め終え、姿勢を起こそうとしたが、唐突に同僚が仰け反り、仰向けの姿勢で塹壕内に倒れた。

「お……おい…」

ラビクォスは倒れた戦友に声をかけるが、この時、彼は絶句してしまった。
同僚は頭を撃ち抜かれており、その顔は無表情のまま凍り付いていた。

「クソ!」

ラビクォスは呪詛を吐きつつ、ガーランドライフルを再びシホールアンル兵に向けて撃ち始めた。
シホールアンル兵の一団が突撃を開始し、塹壕との距離を急速に詰めていく。
やや後ろにある30口径機銃が休みなく唸り、シホールアンル兵をばたばたとなぎ倒していくが、全部を仕留めるまでは行かなかった。
1人のシホールアンル兵がラビクォスのいる塹壕に突進してきた。
ラビクォスはその敵を討ち取ろうと、ガーランドライフルを放つ。
1発撃っただけで銃本隊から金属クリップが飛び出した。

「弾切れか!」

姿勢を落として、すぐに弾を補充しようとしたとき、塹壕にシホールアンル兵が飛び込んできた。
体当たりを受けたラビクォスは、倒れ間際に敵兵を引っ掴んで共に地面に倒れ込む。
シホールアンル兵が慌てて離れ、持っていた携行式魔道銃で射殺しようとするが、背後から別の同僚が現れ、スコップで敵兵の頭を叩き割った。
無精髭を生やした敵兵は、殴られた瞬間姿勢をピンと伸ばしたと思いきや、目を上向かせながら仰向けに倒れ、頭から出血しながら息絶える。

「大丈夫か!?」
「あ、ああ!」

同僚の兵士に声をかけられたラビクォスは、震えた声で答えつつ、ライフルに弾を補充した。
誰かが「手榴弾!!」と叫び、走り寄ってくる敵兵の一団に投げ込む。
爆発音と共に、2、3人の敵兵が吹き飛ばされるが、残りは伏せの態勢で破片を回避し、持っていた携行型魔道銃をグレンキア兵に向けて乱射した。
3人のグレンキア兵が撃ち倒される。

シホールアンル兵は起き上がるや、そのままの勢いで塹壕内に暴れ込んだ。
赤ら顔の髭を生やしたシホールアンル兵が、魔道銃を棍棒替わりに振り回し、グレンキア兵を1人、2人、3人と殴り倒していく。
4人目の腹に銃床を叩き込み、体を折らせる。

「南大陸の蛮族ごときが!」

敵兵は侮蔑の言葉を発しながら、その後頭部を魔道銃で思い切り殴りつけようとするが、その直前に、別のグレンキア兵に側面から頭を
撃ち抜かれ、夥しい血とその他諸々を吹き出しながら戦死した。
キリラルブスが、塹壕で暴れる味方を掩護すべく、同軸銃でグレンキア兵を撃つが、混戦となっているため、シホールアンル兵までもが
まき添えを受けてたちまち射殺される。

「馬鹿野郎!味方ごと撃つ奴があるか!この間抜け!!」

指揮を執っていたある軍曹が、下手糞な援護射撃を行うキリラルブスを口汚く罵った。
そのキリラルブスに、グレンキア兵が放ったバズーカ砲のロケット弾が突き刺さり、本体前面部が爆炎と黒煙に覆われた。

「ざまあみろ!」

バズーカ砲を撃ったグレンキア兵は喝采を叫ぶと、相棒に弾込めをするように言い、相棒は慌ただしくロケット弾を詰め込む。
装填が完了すると、相棒は射手のヘルメットを2度叩いた。
装填完了の合図を受けた射手は、新たなキリラルブスに向けてロケット弾を撃ち放つ。
空気の抜けるような発射音が鳴り、発射煙と火薬の匂いが2人の体を包み込む。
ロケット弾はキリラルブスの後ろの右脚部に命中し、行動不能に陥らせた。

「2丁上がり!よし、次を狙うぞ!」

射手は勢いに乗って、3台目を狙おうとするが、ここで別のキリラルブスから砲撃を浴び、2人は体をバラバラにされて即死した。
あるシホールアンル兵3人組は、塹壕に飛び込もうとしたところで、大柄のグレンキア兵と出くわした。
顔の下半分が髭で覆われ、体格はがっしりとしている。
その威圧感を放つ1人の敵兵に、シホールアンル兵3人組はたじろくが、1人が勇敢にも立ち向かった。
携行式魔道銃を至近距離で放ったが、その時には、グレンキア兵は瞬く間に距離を詰めており、銃口を掴んであらぬ方向に向ける。

「やめろ!離せ!!」

シホールアンル兵は怯える声でそう叫ぶが、グレンキア兵は持っていたトミーガンで彼を射殺した。

「野郎!」
「八つ裂きにしてしまえ!!」

残った2人が仲間をやられた怒りに駆られ、魔道銃を向けようとするが、グレンキア兵はトミーガンを向け直して2人に発砲した。
2人のうち、1人が体を撃ち抜かれ、悲鳴を上げながら倒れるが、トミーガンは早々に弾切れを起こし、もう1人は撃たれずに済む。
距離が近い事もあり、グレンキア兵はすぐに走り寄って、最後の1人を弾切れになったトミーガンで殴り倒そうとした。
振り上げられたサブマシンガンの打撃を、最後の1人は魔道銃を掲げて受け止めた。
余りにも重い衝撃に、シホールアンル兵は両腕が痺れたが、何とか耐えた。
しかし、安堵する暇もなく、シホールアンル兵はグレンキア兵に膝で腹を蹴られる。
一瞬、息が止まったシホールアンル兵は思わず姿勢を崩した。
それを見逃さなかったグレンキア兵は、持っていたナイフを敵兵の延髄に突き刺し、抉ってから引き抜いた。
グレンキア兵は急いで塹壕に隠れようとしたが、そこにキリラルブスから放たれた砲弾が炸裂する。
グレンキア兵は至近距離から砲弾の爆風と破片をもろに浴び、一瞬のうちに息絶えた。
第3戦車中隊は、塹壕付近にいるキリラルブスに砲弾を撃ち続け、次々と撃破していくが、敵もダックインしたシャーマン戦車に反撃し、
新たに2両の戦車が撃破された。
シホールアンル兵は遮二無二攻撃を続け、ある者は持っていた長剣でグレンキア兵を斬殺する。
またある者は、分隊支援用の重たい魔道銃を担ぎ、グレンキア兵5、6人に光弾の嵐を浴びせて射殺した。
勢いに乗ろうとするシホールアンル兵に対して、グレンキア兵も負けじと踏みとどまり、各所で白兵戦を展開する。
あるグレンキア兵は、弾が切れた所に、襲い掛かってきたシホールアンル兵をナイフで刺殺し、持っていた魔道銃を奪い、それを
シホールアンル兵に向けて撃ち放った。
別の所では、互いに馬乗りになって殴り合った末、上乗りになったグレンキア兵が若いシホールアンル兵の首をあらん限りの力を振り絞って圧迫する。
そのシホールアンル兵は女性兵であったが、グレンキア兵はそれに構うことなく、遂には絞め殺した。
戦況は混沌していたが、やがて、シホールアンル側の損害が大きくなり始めた。
戦力が消耗しすぎ、突破が不可能と判断したシホールアンル側の前線指揮官は、すぐさま後退を叫び始めた。
塹壕や陣地手前でやり合っていたシホールアンル兵は、後退命令を聞くや、大慌てで接近した兵員輸送型キリラルブスに乗り組み、残存の
キリラルブスの援護の元、前線から離れ始めた。
これに第3戦車中隊が追い討ちをかけたが、敵側の砲兵弾幕が落下し始めたため、追撃は断念せざるを得なかった。

午後1時15分 第12装甲擲弾兵師団戦区

ポリースト中佐は、陣地の向こう側から現れ始めたシホールアンル軍部隊を見据えながら、罵声を放っていた。

「あのクソッたれ共!懲りずにまた来やがったか!」

第12装甲擲弾兵師団は、午前8時よりシホールアンル軍の解囲攻勢を2度受けており、2度とも撃退に成功したが、グレンキア軍の損害も少なくない。
ポリースト中佐の指揮する第32装甲擲弾兵連隊は、既に損耗率が33%を超えており、特に第1大隊は通常編成の半数しか戦力が残っていない。
連隊を支えてくれていたシャーマン戦車中隊も、今では6両を残すのみとなっている。
師団全体の損耗率も35%に達しており、このままでは敵の攻勢を受け止められぬ可能性も大いにある。
連隊の将兵は、口にこそは出さないものの、明らかに疲れ切っており、その表情は暗く、興奮と緊張で強張っていた。
連隊がこの攻勢に耐えきれぬ場合、決死の反撃が水泡に帰す可能性もないとは言い切れない。

(そうなったら、俺達は海兵軍団と共に逆包囲され、殲滅される。何としてでも食い止めやるぞ!)

ポリースト中佐は覚悟を決め、指揮下の部隊に指示を飛ばしていく。

「各大隊、射撃準備用意!敵が300グレル(600メートル)まで迫ったら撃ちまくれ!」

無線機から指揮下の隊が了解と応じる。
各隊とも損害が大きく、特に第1大隊では大隊長が戦死し、第1中隊長が指揮を継承しているが、士気は旺盛のようだ。
ポリースト中佐は空に目を向けた。
空は相変わらず、鉛色の雲に覆われているように見えるが、心なしか、雲は薄く見え、所々には青空すら見えている。
降りしきる雪も、時折降らなくなりつつあり、天候が徐々に回復しつつあることがわかる。

「とはいえ、航空支援ができる環境とは言いにくい。来たとしても、航空隊が上手くやってくれるかどうか、だな」

ポリーストは期待していないと言わんばかりの口調で呟く。
敵は連隊規模の軍を押し立てて前進中だ。
師団砲兵が敵に対して砲撃を浴びせるが、弾着の数は少ない。
第12装甲擲弾兵師団の砲戦力を担う砲兵連隊は、アメリカ製のM7プリースト自走砲を装備しており、作戦開始当初からよく師団を支えてきた。
しかし、自走砲連隊の損害も大きく、今では連隊の装備車両は半数以下にまで激減していた。

「……畜生め!」

ポリーストは、敵部隊を見つめ続けているうちに、その後方に別の連隊規模の敵集団が続いていることに気づき、無意識に罵声を放った。

「2個連隊投入してきやがったか……あいつら、持てるだけの戦力を叩きつけて戦線を突破するつもりだ!」

シホールアンル軍は、第12師団の戦区にあるだけの戦力を動員したようだ。
敵戦力は約2個連隊であり、前方の戦闘集団の背後1マイルほどの所に、別の戦闘集団が後続している。
戦闘用キリラルブスの数は40台程と、思いのほか少ない。
度重なる戦闘で払底し、残っていた予備を合わせているのだろう。
そして、その背後を行く兵員輸送型キリラルブスはかなり多く、先の戦闘の損害なぞ知らぬとばかりに、雪原を驀進し続けている。
師団砲兵は尚も阻止砲火を浴びせ続けるが、敵の勢いは止まらない。
敵の砲兵は、グレンキア軍砲兵隊との撃ち合いで壊滅したらしく、グレンキア軍陣地に野砲弾が降り注ぐ事はなかった。
第32装甲擲弾兵連隊の将兵は、陣地内の塹壕や、付近に擱座したキリラルブスの残骸の裏に隠れて、射撃開始の時をじっと待つ。

「こちら第3戦車中隊、いつでも行けますぜ!」

保有戦車が16両から6両にまで激減した戦車中隊の指揮官であるカイム大尉が、依然、やる気のある口調で無線機越しに報告してくる。

「こんな地獄に巻き込んですまんな」
「なーに、硝煙と血の匂いの混じった空間には慣れっこです。それに……地獄にも終わりはあります。前向きに行きましょうぜ」

カイム大尉は、相変わらず陽気な口ぶりでポリーストに返答した。
擲弾兵連隊の戦区内には、敵味方の死体が散乱し、そこから流れ出た血が、雪を赤く染め上げている。
方々には吹き飛んだ手足や臓物等が散乱し、擱座したキリラルブスの中には、まだ黒煙を上げて燃えている物もあり、そこから流れ出る
悪臭は吐き気を催すほどだ。
しかし、部下達は、戦場の凄惨な様相に顔を顰めつつも、それに耐えながら敵を待ち構えていた。

(どいつもこいつも感覚が麻痺してやがる。本当は、人間はこの地獄に慣れちゃいかんのだろうが……そうでもなければ、戦争なぞ
できもしない……か)

彼は、鼻の奥をつく悪臭に顔を歪めつつも、迫りくる敵部隊を睨みつけた。

「友軍であるアメリカ軍も、北側から敵の攻勢を弾き続けていると聞く。異界から来た戦友達も頑張っているんだ……例え死んでも、
貴様らは絶対に通さん!」

ポリーストは、時折入る報告を思い出しながら、覚悟を決める。
アメリカ海兵軍団の戦区にも、シホールアンル軍はありったけの部隊を動員して猛攻を仕掛けているという。
アメリカ海兵隊2個師団と、包囲網から救出されたアメリカ軍部隊は損害を出しつつも、これを撃退し続けているようだ。
先の戦闘では、ポリースト中佐の指揮車両も戦闘に加入し、彼自身が車載機銃を乱射して敵の進撃を阻んでいる。
防戦に次ぐ防戦で、ボロボロになった擲弾兵連隊がどこまでやれるかは分からないが、異界の戦友の為にも、自らの命を差し出す覚悟はできていた。

「敵戦闘集団、400グレルまで接近!」
「さて、もうすぐで狩りの時間だ」

ポリーストは据わった眼付きで前方を睨みつつ、マイクのスイッチを入れようとした。

「……こちらは海兵隊航空隊の航空支援部隊だ。このあたりの指揮官は居るか!」

その声が響いたとき、最初はそれが幻聴であると、ポリーストは確信していた。


アメリカ第1海兵航空団所属のVMF-214に属している48機のF4Uコルセアは、航空基地から緊急発進して、約1時間半後に現地に到達した。

「こちらは海兵隊航空隊、航空支援部隊だ。地上部隊の指揮官、聞こえているか!?」

VMF-214指揮官であるグレゴリー・ボイントン中佐は、半ば荒々しい口調で地上部隊に呼びかけたが、返事が無い。

「もう1度繰り返す!航空支援に来た!聞こえているのなら返事を請う!!」

ボイントン中佐は声をやや張り上げて、地上部隊に応答を促す。

「すまない、返事が遅れてしまった!」
「おう、やっと返事をくれたか」

相手側は慌てて応答し、ボイントンは少しばかり安堵した。

「私はグレンキア軍第12装甲擲弾兵師団、第32装甲擲弾兵連隊を指揮するウェロース・ポリースト中佐だ」
「OK。俺は海兵隊航空隊のボイントン中佐だ。ポリースト中佐、今から航空支援を行うから、目標を指定してくれ」
「了解!」

地上部隊の指揮官との会話が一旦途切れた。

グレゴリー・ボイントン中佐は1934年の海兵隊入隊時から、長らく海兵隊航空隊の戦闘機パイロットを務めてきたベテランパイロットである。
太平洋戦線に参加し始めたのは1943年1月下旬からであり、この戦争で長らく指揮官を務めるVMF-214と、当時は母艦航空隊への採用を
一時見送られ、落ちこぼれとなったF4Uコルセアと巡り合えたのもこの時からだ。
海兵隊現役パイロットの中でも最古参の戦闘機パイロットである彼は、部下達から「親父」というあだ名を頂戴している。
そして、その「親父」は、着任当初は未熟であったVMF-214のパイロットをめきめきと鍛え上げ、2月下旬にカレアント領上空で行われた
空戦で敵ワイバーン2騎を撃墜してから、彼と、「ブラックシープ」の活躍は始まった。
以降、ボイントン中佐とVMF-214「ブラックシープ」の面々は、戦線が北上するにしたがって所属する第1海兵航空団と共に転戦を続け、
45年11月にはヒーレリ領の新造された飛行場に配備されている。
この間、ボイントンは、45年1月にレーミア湾上空で撃墜された際、治療のために一時本国に帰国した期間を除けば、ほぼ前線で活躍しており、
撃墜スコアは41機と、海兵隊パイロットの中ではトップとなっている。
この日、飛行場で待機を続けていたVMF-214は、午後11時頃になって飛行場上空の天候が回復するや、同僚部隊であるVMF-222と共に、
敵と戦闘中の第5水陸両用軍団とグレンキア軍装甲軍団の航空支援に飛び立った。
VMF-214所属の各機は、第12装甲擲弾兵師団の後方から編隊を組んで飛行している。
鉛色の雲の下に見える逆ガル翼の機影を見た装甲擲弾兵は、誰もが歓声を上げた。

「おい!あれを見ろ!友軍機だ!」
「あの機体の形からして、アメリカ海兵隊のコルセアか」
「海兵隊……つまりカクタス航空隊の連中か!」
「いいタイミングで来てくれた……カクタスの連中が来たのなら、俺達はまだ生き残れそうだ!」

部下達は互いにはしゃぎ合ったり、顔を見合わせて上空を飛行するコルセア隊の事を話している中、迫撃砲が目印となる発煙弾をキリラルブスの
前に撃ち込んだ。

「こちらはポリースト中佐だ。今、黄色の発煙弾を焚いた。敵はそこから500メートルほど前方まで迫っている。急いでやってくれ!」
「OK!ありったけのブツを叩き込んでやるぜ」

ボイントン中佐はそう返事するや、部下達に指示を飛ばしていく。
敵部隊は、第12装甲擲弾兵師団の戦区に広がるような形で展開している。このうち、ポリースト中佐の率いる第32装甲擲弾兵連隊の戦区には
かなりの数の敵が迫っており、敵部隊が第32連隊を集中して叩いている事がよく分かる。
第12師団に所属している第35、第36装甲擲弾兵連隊の戦区にも敵は迫っていたが、数はせいぜい1個連隊程度かそれ以下でしかない。
その敵部隊は、主力部隊の攻撃をしやすくするための助攻役を担っているのだろう。

「敵はこの下の戦区に向けて兵力を集中している。全中隊は、目の前のシホット共を集中攻撃!シホット共のケツを吹き飛ばせ!」
「「了解!」」

レシーバー越しに威勢の良い返事が響く。
“親父”の命令を聞いた部下達は、これまでの鬱憤を晴らすために派手に暴れるつもりのようだ。
ボイントンは、直率する第1中隊を率いながら、暖降下しつつ、敵キリラルブスに向かった。
グロスシーブルー色に彩られたコルセアが、エンジンを全開にして突っ込んでいく。
速度計は600キロ近くにまで上がり、目標に定めたキリラルブスの姿が徐々に大きくなる。
距離700メートル程にまで迫った所で、ボイントンは両翼の12.7ミリ機銃を放った。
6丁の機銃が唸り、曳光弾混じりの鉄のシャワーがキリラルブスに注がれる。
300メートルまで迫ると、ボイントンは胴体に積んであった500ポンド爆弾を投下した。
猛速でキリラルブスの上空をフライパスすると、後方から爆風が吹き込み、機体が揺れる感触が伝わった。
敵前進部隊の随伴していた対空部隊が迎撃を始めたのか、高射砲の物と思しき爆煙や魔道銃の光弾が打ち上げられるのが見えた。

「今更対空射撃を始めても遅いぜ、シホット!」

ボイントンは無表情のまま、敵の対応の遅さを指摘しつつ、機を旋回させて地上の様子を見つめる。
黄色のスモークから500メートル程に迫っていたキリラルブスのうち、5、6台が既に炎上するか、至近弾を浴びて横転している。
そこに第2中隊のコルセアが容赦なく襲い掛かり、いまだ健在なキリラルブスが銃爆撃を浴びてのたうち回る。
敵の前進は完全に停止しており、後続の部隊に至っては慌てて引き返し始めている。

「ようし!次はロケット弾をぶち込んでやるぞ。野郎共、付いて来い!」

ボイントンは新たに、後退しようとしている1個中隊規模のキリラルブスを見つけるや、そこに機首を向けた。
一時、高度2000まで上がっていた機体は、再び下降し始める。

ボイントン隊が戦場に到着してから15分ほどで、シホールアンル軍前進部隊は隊列が乱れ、バラバラの状態で後退し始めていた。
後続の1個連隊も、前進部隊の惨状を見て後退し始めたが、そこにもVMF-214のコルセア隊が殴りかかっている。
地上から、ブラックシープの暴れっぷりをじっと見つめていたポリーストは、敵の余りの惨状ぶりに喜ぶどころか、同情の念すら抱き始めていた。

「ここまで一方的になるとはな……アメリカ軍が敵でなくて良かったと思うばかりだ」

彼は、口を震わせながらそう独語する。
視線を陣地の近くに向ける。
つい先ほどまでは、師団砲兵の阻止砲火も無視しながら、着実に前進していたキリラルブスが、コルセアの銃爆撃を受けて多くが、その残骸を晒している。
残骸の周囲には、兵員の死体も散らばっており、ろくに攻撃が出来ぬ上に、空から一方的に叩かれた敵の無念さを如実に表している。
視線を遠くに向けると、これまた多数の兵員輸送型キリラルブスが擱座しており、炎上して煙を上げている物も少なくない。
制空権を失った軍隊の悲惨さを表す光景が、ポリーストの目の前で広がっていた。
そのまま5分ほどが過ぎた時、無線機にボイントン中佐の声が響いた。

「こちら航空支援部隊、弾薬を使い果たしたのでこれより帰投する」
「ポリースト中佐だ。貴方達のお陰で助かった。連隊の指揮官として礼を言う」

ポリーストは心の底から、ボイントンに感謝していた。

「カクタス(海兵隊航空隊の別称)の支援が無ければ、今頃は酷い目に遭っていただろう」
「礼には及ばんさ。俺達はやるべき事をやったまでだ。それに、充分に敵を叩けたわけではないからな」

ボイントンは謙遜気味にポリーストに返答する。

「ひとまず、俺たちの仕事はこれで終わりだ。この後、同じ航空団の支援部隊がそこに向かうだろうから、目標への誘導をお願いしたい」
「無論だ。誘導は任せてくれ」

ポリーストは、口調に危機を脱した喜びを交えながらそう返答した。

「それでは、君らの幸運を祈る」

コルセア隊指揮官との会話はそこで終わり、VMF-214の各機は、来た時と同じように編隊を組みながら上空を飛び去って行く。
陣地を守る装甲擲弾兵や、戦車中隊の乗員が手を振って見送る。

それを見たのか、上空を行くF4Uの中には幾度かバンクしながら飛び去ったり、顔が見えるほどの超低空で部隊の上を通過し、パイロットが
ガッツポーズをする姿も見受けられた。
48機のコルセアが、潮が引くように去ってからさほど間を置かぬうちに、無線機に新たな連絡が入った。

「こちら第1海兵航空団VMB-117のハリントン少佐だ。地上部隊の指揮官、聞こえるか?」
「……こちら第12装甲擲弾兵師団、第32装甲擲弾兵連隊のポリースト中佐だ。航空支援に来てくれたのか?」
「ああ、そうだ。今、そちらの陣地から高度3000付近の上空に居る。恐らく、陣地の前で逃走している地上部隊が居るようだが、それが敵か?」
「ああ、そうだ」

ポリースト中佐は会話を交わしつつ、上空に顔を向けた。
空は先ほどよりも晴れ渡っており、鉛色の雲は少なく、青空が多くなっている。
その雲の近くに、一群の航空機が飛行しているのが見える。
どうやら、その航空機の一群が、新しい航空支援部隊のようだ。

「念のため、新しいスモークを焚く。色は黄色だ」
「了解。すぐにやってくれ」

ポリーストは要請に応じ、新しいスモークを焚かせた。

「こちらポリースト中佐。今煙を焚いた。そちらから見えるか?」
「……OK、視認した」
「目標は煙から南に居る。今も必死で後退しているから、思う存分叩いてくれ」
「了解!少し早いが、連中にクリスマスプレゼントを与えてやろう。誘導感謝する!」

新しい航空支援部隊の指揮官は、そこで会話を終え、しばらくは上空に爆音が響くだけとなった。
会話を終えてから2分ほどたつと、唐突に、上空に甲高い轟音が鳴り始めた。

「おいおい……何だこの音は?」
「偉く不吉そうな音ですね。神話に出てくる巨鳥の叫び声か何かですか?」

共に、この不思議な音を聞いていた部下が怪訝な表情を浮かべながら言う。

「さあな。お、あそこを見てみろ」
ポリーストは、後退している敵部隊の上空を指差した。
雲の間から、何機もの航空機が機首を下にして急降下しつつある。
ポリーストは今まで知らなかったが、その航空機は、アメリカ海軍の空母機動部隊も有しているSB2Cヘルダイバーであり、
VMB-117は、保有する52機全てを投入して、シホールアンル軍部隊に向けて急降下爆撃を敢行していたのであった。

12月12日 午後8時 第1親衛石甲軍司令部

シホールアンル軍第1親衛石甲軍の指揮官であるルイクス・エルファルフ大将は、司令部天幕の中で、机に広げた地図を見据えながら
状況報告を聞いていた。

「閣下……我が第1親衛石甲軍は今日一日の空襲により、かなりの損害を受けました。解囲攻勢に出ていた第3親衛軍団の損害は特に深刻で、
第5、第6親衛石甲師団共に、稼働するキリラルブスは僅か。兵員の損耗も限界を超えております」

参謀長のウリィンキ・ヴェフル少将は、平静さを装っていたが、その口調は震えているようにも思える。

「第20石甲軍の第56軍団も同様であり、解囲攻勢の失敗は明らかとなりました」
「……分断された第20石甲軍との連絡も確保できず、挙句の果てに、包囲網からの突破も失敗……か」

エルファルフ大将は、柔和な顔つきに影を落としながら、地図の一点を指差した。

「クロートンカを奪われ、退路を断たれなければ、我が軍は後退して態勢を立て直せたはずなのだが」
「第76軍が敵に蹴散らされていなければ、このような事にはならなかったのです!それなのに……」

ヴェフル参謀長は顔を赤くしながら喚いた。
更に罵声を放とうとする参謀長を、エルファルフが止める。

「やめないか、参謀長」
「し、しかし……」
「やめろ、と言っているんだ」

彼に睨みつけられたヴェフル参謀長は、複雑な表情を浮かべつつも、頭を下げながら口を閉じた。

「軍集団司令部からは、新たな指示は入っておりません」

魔道参謀のクローヴァス・エスフォレウヲ大佐がエルファルフに伝える。

「新たな指示が入ったとしても、答えは2つに1つ」

エルファルフは、冷めたい口調で参謀たちに言う。

「戦って死ぬか……敵に降伏するか……だな」
「ライバスツ閣下はどのように判断されますかな」

エスフォレウヲ大佐の問いに、エルファルフは首を振って答える。

「俺にもわからんが……どちらにせよ、命令に従うまでさ」

「現時点で、我が軍集団は各軍共に、損耗が大きすぎます。敵が航空支援を受けられる状態となった今、包囲網の突破も不可能となっています」

この日、第1親衛石甲軍を始めとする第34軍集団の各軍は、天候が回復し始めた正午頃から、連合国軍航空部隊の猛烈な空襲を受けた。
最初に空襲を受けたのは、解囲攻勢を行っていた第3親衛軍団と第49軍団で、アメリカ海兵隊航空部隊の空襲を皮切りに、実に8波、
2000機もの航空機が各軍に襲い掛かった。
これにより、損害を積み重ねつつも、曲がりなりにも余力を残していた第34軍集団は、この一連の大空襲によって予備の石甲戦力、
並びに歩兵戦力に大打撃を被り、包囲網突破を図っていた第3親衛軍団、第49軍団は攻勢に必要な戦力を瞬く間に消失し、米第15、第29軍の
猛攻を受け、包囲されていた第20石甲軍も同様に防衛戦力を粉砕され、全滅か、降伏かの瀬戸際に追い込まれていた。
シホールアンル軍の航空部隊は、敵の大空襲をただ黙って見過ごしていた訳ではなく、ありったけのワイバーン部隊やケルフェラクを動員して
果敢な迎撃戦闘を行ったが、圧倒的な敵空軍部隊の前には衆寡敵せず、逆に270騎のワイバーン、ケルフェラクを失う有様であった。
第34軍集団司令官であるムラウク・ライバスツ大将は、移動司令部で逐一戦況報告を聞き、各軍に対して防戦に徹せよ、という命令を発した
以降は、何ら命令を出していない。

「ライバスツ閣下にご決断して頂きたいところですが」
「それは私も同感だが……4個軍中3個軍、総計30万名以上が包囲され、脱出不可となってしまった現状……ライバスツ閣下も相当応えていそうだ」

それも、軍の最精鋭とも言える部隊丸ごとだからな。
エルファルフは心中で、その一文を付け加える。
この時、一際大きな爆発音が外で鳴り響いた。
第1親衛石甲軍は、米第15軍の部隊と今も戦火を交えているため、外から聞こえる砲声や爆発音は時間が経つにつれて、徐々に近づきつつある。
各隊とも、不利なこの状況でよく戦っているが、その頑張りも、そう長くは持たない。
何かしらの事情があるにせよ、一刻でも早い決断を下してほしい。
エルファルフは常に、その思いで胸がいっぱいであった。

「司令官、軍集団司令部より魔法通信が入りました」
「内容は?」
「は……少々お待ちを」

エスフォレウヲ大佐は、部下の通信員が魔法通信を受信し、その内容を書き記すのを待つが、途中で、通信員の筆が止まった。
その魔導士は一瞬、目を大きく見開いたが、気を取り直して内容を書き記していく。
どういう訳か、その魔導士は目に涙を浮かべていた。
通信員は目を赤く腫らしたまま、紙をエスフォレウヲ大佐に渡す。

「閣下。軍集団司令部より命令です…………」
「どうした?内容を読んでくれ」
「………第76軍を除く第34軍集団所属の各軍は、直ちに連合軍との交戦を取りやめ、降伏するべし。全責任は、本職が取る……
第34軍集団司令官 ムラウク・ライバスツ大将」
「そうか……」

エルファルフは、何故か安堵していた。

「閣下!徹底抗戦です!」

ヴェフル参謀長が唐突に叫び始めた。

「我が軍は確かに大損害を受けました。ですが、武器も兵員も丸ごと全滅したわけではありません。ここは、最後の一兵まで戦い、
1日でも長く敵軍を拘束し……1人でも多くの敵兵を倒すべきです!」

ヴェフルは机の上の地図を右手で叩いた。

「敵は帝国本土まで、指呼の間ともいえる距離まで近づいています。その敵の進軍を1日でも遅らせ、例え本土への侵入を許そうにも、
幾らかでも時間を稼ぐべきです!」
「いや……参謀長」

エルファルフは、彼の言葉を心底残念そうな心境で聞き、そして、彼の言葉を否定した。

「君の認識は間違っているな」
「な……何故です!?」
「君は忘れたのか?首都ウェルバンルが、その敵に侵入を許してしまったことを」
「あ……あ……ぁ」
「帝国東海岸の制海権は、アメリカ海軍に奪われた。例え、君の言うとおりにここで敵を拘束しても……アメリカ軍はそれを尻目に、
首都の近くに上陸作戦を行う事もできる」

エルファルフは、俯きがちだった顔を上げ、ヴェフル参謀長を真っ直ぐ見据えた。

「包囲までされた上に、戦力の多くを消耗した我々には、敵を拘束する事すらできん。徹底抗戦などは無意味だよ」
「閣下………閣下………私は……ぐっ!」

参謀長は両手の拳を力の限り握り、やがて、机に前のめりに覆い被さって号泣し始めた。


12月12日 午後8時30分 シホールアンル軍第34軍集団に属する3個軍は、軍集団命令に従い、連合国軍に対して降伏を申し入れた。
第1親衛石甲軍の一部の部隊は、命令に服従せず、そのまま森林地帯に逃走してゲリラ化したが、大半の部隊は命令に従い、連合軍へ降伏した。
こうして、シホールアンル軍の起死回生の大反撃作戦は失敗に終わり、最精鋭の機動集団は包囲殲滅された。
その5日後、東方より進撃していたパットン第3軍は、帝国本土領に侵攻。
西方より進撃中であった米第6軍と合流し、シホールアンル南部と本土領への繋ぎ目を抑えた。




ここにして、帝国本土南部領に駐留するシホールアンル軍は11個軍、150万の将兵を連合軍によって包囲されたのであった。

カイトロスク攻防戦両軍死傷者

シホールアンル軍(第34軍集団)
戦死者51820人、捕虜・負傷者259087人

アメリカ軍(第2軍集団・戦略予備軍並びに別動隊)
戦死者21822人、負傷者49433人、捕虜48227人

グレンキア軍(第19装甲軍団)
戦死者6790人、負傷者21834人

ミスリアル軍(第4軍団)
戦死者5877人、負傷者19827人

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