自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

掌編『外交官の真似事も増えたなぁ。』

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turo428

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外交官の真似事も増えたなぁ。
異世界の大陸に派遣された皇国軍の高級将校は、殆ど皆がそう思っていた。

だが、特に多いのは一番上に立つ者。
東大陸方面軍司令官、皇国陸軍大将、南條好徳(よしのり)。

東大陸にしろ西大陸にしろ、派遣軍の規模は数個の師団または旅団から成る軍団であり、実質的な総指揮官は軍団長である。
だが軍団長は中将の職なので、本国外に皇国軍大将は存在しない事になる。
これでは、大将や元帥の存在する他国軍との協調の面で不都合なので、総司令官として急遽大将を派遣したのだ。
当初は、皇国本国から無線通信で東大陸の指揮を行い、大将本人は東大陸には居ないという体制だったが、
流石に無理があるし現実に大将が居ない事の問題が出て来たので、実際に行って貰う事となった。

大陸諸国の王侯や軍人に階級章と勲章を見せびらかす為のお飾りとして派遣されたようなものだが、南條大将は決して無能な訳ではなく、ましてや左遷人事でもない。
大陸に派遣される初の大将であるから心象も重要で、むしろ皇国軍の模範的で優秀な将軍であり、現場の皇国軍将兵の気を引き締めるのにも一役買った。

建前としては“陸軍の司令官”ではなく“皇国軍の司令官”なので、限定的ながら現地に寄港、錨泊している海軍部隊と海兵隊への指揮権も有している。
統合参謀本部の、統合任務部隊の司令官といった感じだ。


余談だが、皇国軍は転移前から大佐と少将の間に准将を、大将の上に上級大将を
新設して将官を五階級にする案を検討しており、准将に関しては従来の少将
または大佐の職として実運用されていたが、上級大将は未だに居なかった。

これは、上級大将が諸外国の元帥に相当する特別な階級として設定された為でもある。
欧米の一般的な軍制では元帥と大将~准将(または元帥と上級大将~少将)の計五階級である
事が多かったので、元帥を称号として残したまま将官の階級を五階級にする為の措置だった。
皇国軍において元帥は相変わらず階級ではなく称号なので、階級上は五階級となる。

そんな皇国軍の内情で最初の上級大将昇任者候補の一人が南條大将だったのだ。


南條大将は、ユラ神国の首都であり最大の港があるユラの地に上陸後、ユラ教皇と面会。
ユラにて何人かの有力者と顔繋ぎした後、一旦海路を北上してリンド王国の王都ベルグへ。

ベルグは海に面していないので、リンド王国の港からは陸路で移動して
いるが、道すがら、その都市、その地域の名士とされる方々と会食している。
多くは領主や代官層の下級貴族や騎士、大商人、大地主だが、同業者たる軍人も居る。

司令部ごと移動しているので、かなり大所帯であり、自前の戦力として連隊規模の歩兵隊と大隊規模の騎兵隊、
軍団直属の戦車小隊が帯同しているが、南條と司令部要員だけでなく、各級指揮官も輪番で会食に参加していた。


「我が館へようこそ、南條閣下!」
主人はそう言って自慢の赤人奴隷を見せてくる。
赤人奴隷は大抵の場合で安価な肉体労働者ではないので、白人、黄人、黒人奴隷と違って農場等で働いているのを見る事は無い。
その代り、常に主人の傍に侍り、屋敷の見栄えを良くするのが仕事だ。

「お招き下さりありがとうございます、メメ卿。おお、これは立派な赤人をお連れですね。
 燃えるような髪の毛、眉目秀麗で骨格も美しい。背丈は1シクル(≒2m)近くありますでしょう」
握手をしながら、ぺらぺらと世辞を言う。
この何週間かで南條は赤人奴隷の褒め方を覚えた。
髪の毛の赤さ、顔立ちの良さ、そして体格の良さだ。

赤人は背が高くがっしりした骨格で筋肉も良く付いている体型が多いので、そこを褒めれば良い。
ただ赤人女性の場合は少し難しく、女性でも背が高く筋肉質な場合は力強さを褒めてやると喜ぶ場合が多いが、
主人によっては奴隷とは言え筋肉質な女性を恥と見做す人も居るので、そういう場合は女性らしい美しさを褒めてやる。
幸いにも、赤人女性の多くは中性的な美人が多いので、外見的に褒めるところが無い場面に遭遇した事は無かった。

赤人奴隷の美しさが主人の格にも響くので、ここで褒め方を失敗すると気まずいのである。

背丈は精々185cmくらいではないか。
と思いながらも1シクル近くの長身と褒めれば、だいたいそれで気分を悪くされる事は無い。
ひとしきり赤人奴隷を褒めたら、今度は相手の主人が南條を褒める。
立派な軍服だとか軍刀だとか、煌びやかな勲章だとか、副官なども褒める。

それが終わると、南條は漸く主人の方を褒める。
こちらは赤人奴隷と違って必ずしも中身の外見が良いとも限らないので、寛大な心遣いとか細やかな配慮とか、
内面を褒めてから、化粧が綺麗だとか服の仕立てが良いとか靴が綺麗だとか素敵な杖だとか、主に服装と持ち物を褒める。

この一連の“儀式”だけで10分くらいかかる事もある。
赤人奴隷が居ない場合なら、そこの部分は省略出来るが、それでも4~5分は挨拶にかける。

赤人奴隷が居る場合、主賓の手荷物を運ぶのは彼等の仕事なので、荷物は赤人奴隷に預けるのがマナー。
これは相手が赤人女性であってもそうなので、赤人が居たら性別関係なく赤人に頼むのが正解だ。
ここで間違って他の使用人に預けたり、預けそうになると、場の空気がすうっと寒くなる。

ただし、稀に赤人奴隷が執事のような上級使用人となっている場合があり、その時は例外的に他の一般使用人を使う。
赤人奴隷がどの立場に居るかは服装を見れば分かるが、上級使用人の場合は“赤人褒めの儀式”もやらない方が無難だ。

外務省に商務省、運輸省、建設省などの文官に加え、民間の有力財閥や企業の特別渡航者もやっている“儀式”だった。


だが南條は陸軍一筋35年の、根っからの軍人だ。
勿論、軍人と言えど士官ともなれば駐在武官として“軍人外交”もするし、国際共同訓練や軍事作戦等で外国軍と連携する事もあり、広い見識は必要だ。
南條は英語が出来るし、洋式のテーブルマナーにも慣れている。駐米武官だった経験もあり、そういう意味では国際派だった。

その南條ですら大陸では戸惑う機会が多いのだから、況や初めての異国に戸惑っている士官や一般兵においてをや。
歩兵中隊長などが役得だと言って喜んでいられるのは、実際にその時が来るまでだ。

酒の飲み方、食事の仕方、会話の内容。
全てに気を遣いながらの宴席は草臥れる。

例えば赤人奴隷は大きく二通りの存在がある。
使用人としての仕事をするかしないかだ。
仕事をする赤人奴隷は、概ね執事の下で働き、食事の時は主人と主賓に対してのみ給仕する。
仕事をしない赤人奴隷は、置物同然として主人の近くに立っている。というか立っているのが殆ど唯一の仕事だ。
後者は、赤人奴隷を使用人として遊ばせておける程の財力のある証なので、ただそこに居るだけで何もしない赤人奴隷は富裕の証、自慢の種である。
男女の赤人奴隷を所有し、彼等が子を産めば、わざわざ女性の赤人奴隷に赤人の赤ん坊を抱かせて立たせたりもする。

そういう奇異な環境の中で、南條たちはさもそれが当然といったように振る舞い、
東大陸における皇国軍の最高司令部の格式を見せつけてやらねばならなかった。
いちいち驚いていたり、気分を害していては身が持たない。

銃を持って敵と撃ち合うのとは別次元の心労と戦いながら、東大陸方面軍司令部は今日も街道を進むのだった。

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