夜明け前の最後の暗闇の中、ディーン少佐の狙撃兵大隊は行進の太鼓を叩く事もせず、
岩陰や茂みに隠れながら息を殺してノイリート要塞周辺を歩きまわり這いまわった。
皇国軍の防御陣地を幾つか見つけるが、どれも相互支援可能と思われる配置だった。
そんな中、一箇所だけ孤立して存在する小さな陣地を発見する。
(ここを足掛かりにするか、せめて勝利したという実績を作れないものだろうか)
大隊の兵員は長銃身マスケットと擲弾筒を射撃態勢に、陣地に近づいていく。
岩陰や茂みに隠れながら息を殺してノイリート要塞周辺を歩きまわり這いまわった。
皇国軍の防御陣地を幾つか見つけるが、どれも相互支援可能と思われる配置だった。
そんな中、一箇所だけ孤立して存在する小さな陣地を発見する。
(ここを足掛かりにするか、せめて勝利したという実績を作れないものだろうか)
大隊の兵員は長銃身マスケットと擲弾筒を射撃態勢に、陣地に近づいていく。
機関銃陣地に篭って様子を窺っていた皇国軍は、時折現れる斥候を撃退しては休息するを繰り返して居た。
後方では、セソー大公国の陣地に向けてのんびりと迫撃砲が撃ち込まれている。
重要拠点の攻防戦にしては、あまりに間延びした戦闘だった。
後方では、セソー大公国の陣地に向けてのんびりと迫撃砲が撃ち込まれている。
重要拠点の攻防戦にしては、あまりに間延びした戦闘だった。
そうなる理由は単純で、両軍共に積極性を欠いているから。
既に海軍の駆逐艦は帰途に就き、他の艦艇の増援も無いので、暫くは洋上からの戦闘支援は望めない。
飛行場には稼働状態の戦闘機や爆撃機があるが、燃料や弾薬は“本番”の為に必要で、こんな事に消費させられない。
反撃に転じてセソー大公国軍に突撃するには砲兵火力が足りない。
歩兵が自前で持つ手榴弾や迫撃砲もそう潤沢な弾薬がある訳ではない。嵩張る大隊砲や連隊砲となれば尚更。
一部小隊では鹵獲した1/2バルツ砲を置物にして、敵に警戒させる事で足止めするという方策も取られた。
戦車の1個小隊でもあれば違うだろうが、戦車や装甲車といった機甲戦力は全て大陸本土にある。
既に海軍の駆逐艦は帰途に就き、他の艦艇の増援も無いので、暫くは洋上からの戦闘支援は望めない。
飛行場には稼働状態の戦闘機や爆撃機があるが、燃料や弾薬は“本番”の為に必要で、こんな事に消費させられない。
反撃に転じてセソー大公国軍に突撃するには砲兵火力が足りない。
歩兵が自前で持つ手榴弾や迫撃砲もそう潤沢な弾薬がある訳ではない。嵩張る大隊砲や連隊砲となれば尚更。
一部小隊では鹵獲した1/2バルツ砲を置物にして、敵に警戒させる事で足止めするという方策も取られた。
戦車の1個小隊でもあれば違うだろうが、戦車や装甲車といった機甲戦力は全て大陸本土にある。
これで積極果敢に攻めろというのは無理な話だ。
航空支援も砲撃支援も機甲戦力も無い中、歩兵だけでの攻勢はリスクが高過ぎる。
もう時間的、空間的に後が無いならともかく、皇国軍はそこまで切羽詰っていない。
むしろこの戦場に限れば、時間は皇国軍の味方だ。
敵に退路は無く、味方には十分な陣地と食糧の備えがある。
篭城戦という戦況では圧倒的に有利な防衛側が、急いで打って出る必要などどこにあろうか。
ここで睨み合いが続こうが、大陸本土で決着が付けばそれで終わりだ。
少なくとも迫撃砲と歩兵砲の弾薬にある程度余裕が生まれなければ、攻勢には出られない。
航空支援も砲撃支援も機甲戦力も無い中、歩兵だけでの攻勢はリスクが高過ぎる。
もう時間的、空間的に後が無いならともかく、皇国軍はそこまで切羽詰っていない。
むしろこの戦場に限れば、時間は皇国軍の味方だ。
敵に退路は無く、味方には十分な陣地と食糧の備えがある。
篭城戦という戦況では圧倒的に有利な防衛側が、急いで打って出る必要などどこにあろうか。
ここで睨み合いが続こうが、大陸本土で決着が付けばそれで終わりだ。
少なくとも迫撃砲と歩兵砲の弾薬にある程度余裕が生まれなければ、攻勢には出られない。
加えて、ある意味でそれ以上に深刻な問題があった。
もしも千数百人の敵兵が降伏してきたら、受け入れる余地が無いのだ。
勿論、ノイリート要塞には敵の捕虜を収容する為の建物も併設されており、それでも足りなければ牢屋などもあるが、問題は食糧であった。
直ぐに干上がる訳ではないが、確実に余裕が無くなる。
この場にある物資は大陸本土で活動する部隊の分としても利用されるから、麦の一粒だって無駄には出来ない。
セソー大公国軍が全力で攻撃してきて飛行場を破壊されたら困るが、それに対し反撃して降伏されても困る。
今回は初回のように、捕虜を本土に送り返す為の船の手筈も無い。その可能性のある船は皇国軍が自らの手で沈めた。
もしも千数百人の敵兵が降伏してきたら、受け入れる余地が無いのだ。
勿論、ノイリート要塞には敵の捕虜を収容する為の建物も併設されており、それでも足りなければ牢屋などもあるが、問題は食糧であった。
直ぐに干上がる訳ではないが、確実に余裕が無くなる。
この場にある物資は大陸本土で活動する部隊の分としても利用されるから、麦の一粒だって無駄には出来ない。
セソー大公国軍が全力で攻撃してきて飛行場を破壊されたら困るが、それに対し反撃して降伏されても困る。
今回は初回のように、捕虜を本土に送り返す為の船の手筈も無い。その可能性のある船は皇国軍が自らの手で沈めた。
東の空が明けて夜が終わった頃。
セソー大公国軍の軍服を纏った人影が見えた。今度は数十人だ。
警戒に当たっていた皇国軍将兵はまたか、という思いで小銃や機関銃に手をかける。
「撃ち方用意!」
だが、今回は今までと違った。
敵部隊から撃ち出された爆弾が大量の白煙を吐き出し、視界を遮る。
「撃ち方待て!」
破れかぶれの敵は何をしてくるか分からない。
毒ガスかも知れず、しかし防毒マスクは無いという事態に小隊長は困惑した。
この場に吹く海風の風向きは、皇国軍が風下側なのだ。
「退避! 煙から距離を取れ!」
小隊員は持ち場を離れて下がるが、煙に巻かれる。
「全員、何ともないか?」
「少し煙たいだけです。ただの煙幕です!」
小隊軍曹は冷静に返した。戦場の勝手知ったる軍曹の助言は心強い。
そうこうしているうちに敵はさらに、その煙幕に隠れながら発煙弾を発射し、煙幕のカーテンを盾に徐々に接近してくるのだ。
手を拱いていては不味い。
「持ち場に戻れ! よく狙え……撃ち方、始め!」
煙幕が展開されている辺りを機関銃で薙ぎ払うが、命中している気配が薄い。
こんな戦い方、リンド王国より洗練されてるじゃないか!
セソー大公国軍の軍服を纏った人影が見えた。今度は数十人だ。
警戒に当たっていた皇国軍将兵はまたか、という思いで小銃や機関銃に手をかける。
「撃ち方用意!」
だが、今回は今までと違った。
敵部隊から撃ち出された爆弾が大量の白煙を吐き出し、視界を遮る。
「撃ち方待て!」
破れかぶれの敵は何をしてくるか分からない。
毒ガスかも知れず、しかし防毒マスクは無いという事態に小隊長は困惑した。
この場に吹く海風の風向きは、皇国軍が風下側なのだ。
「退避! 煙から距離を取れ!」
小隊員は持ち場を離れて下がるが、煙に巻かれる。
「全員、何ともないか?」
「少し煙たいだけです。ただの煙幕です!」
小隊軍曹は冷静に返した。戦場の勝手知ったる軍曹の助言は心強い。
そうこうしているうちに敵はさらに、その煙幕に隠れながら発煙弾を発射し、煙幕のカーテンを盾に徐々に接近してくるのだ。
手を拱いていては不味い。
「持ち場に戻れ! よく狙え……撃ち方、始め!」
煙幕が展開されている辺りを機関銃で薙ぎ払うが、命中している気配が薄い。
こんな戦い方、リンド王国より洗練されてるじゃないか!
煙幕の切れ間、右手に剣を掲げた指揮官らしき人影が見えた。
それに気付いた機関銃手は、その付近を全力で薙ぎ払う。
それに気付いた機関銃手は、その付近を全力で薙ぎ払う。
それでもまだ、煙幕が陣地に近づいてくる。
距離にすれば確実に100mを切っている。
「総員着剣!」
小銃手は着剣し、破砕手榴弾を用意し、白兵戦すら辞さぬ構えだ。
重機関銃は分解され、予備陣地へ後退を始めた。
軽機関銃はギリギリまで付き添うが、いよいよ不味い状況だ。
距離にすれば確実に100mを切っている。
「総員着剣!」
小銃手は着剣し、破砕手榴弾を用意し、白兵戦すら辞さぬ構えだ。
重機関銃は分解され、予備陣地へ後退を始めた。
軽機関銃はギリギリまで付き添うが、いよいよ不味い状況だ。
不気味なのは、発煙弾以外に発砲が無い事。
数的にはセソー大公国軍の方が多い。この間に忍び足で詰め寄られていたら、いかに武器の性能で勝っていても多勢に無勢。
「総員本陣地に戻れ!」
皇国軍は煙幕に向かって手榴弾を投擲し、分隊が相互に支援射撃しながら本陣地に後退する。
数的にはセソー大公国軍の方が多い。この間に忍び足で詰め寄られていたら、いかに武器の性能で勝っていても多勢に無勢。
「総員本陣地に戻れ!」
皇国軍は煙幕に向かって手榴弾を投擲し、分隊が相互に支援射撃しながら本陣地に後退する。
そこで初めて、セソー大公国軍からの声が聞こえた。
「前列構え! 撃て!」
至近距離から発砲されたと分かる破裂音に、大量の硝煙。
「二列目、撃て!」
続けて
「三列目、撃て!」
弾丸が通り過ぎる風切り音に続き、さらに導火線に火の着いた擲弾と思しきものも飛んできた。
「前列構え! 撃て!」
至近距離から発砲されたと分かる破裂音に、大量の硝煙。
「二列目、撃て!」
続けて
「三列目、撃て!」
弾丸が通り過ぎる風切り音に続き、さらに導火線に火の着いた擲弾と思しきものも飛んできた。
煙幕に隠れている相手も盲撃ちだからだろうが、匍匐のお陰で死者が出なかったのは幸いだった。
三列目の射撃が終わると伏せたまま撃ち返し、さらに後退する。
三列目の射撃が終わると伏せたまま撃ち返し、さらに後退する。
数分後、煙幕が晴れると皇国軍が居た陣地は爆弾で破壊されており、そこに敵軍の姿は無かった。
「中隊本部に通信! この戦力で仮設陣地の守備は困難。一時後退を具申する!」
「中隊本部に通信! この戦力で仮設陣地の守備は困難。一時後退を具申する!」
死者や重傷者こそ出さなかったものの、皇国軍は数人の負傷者と陣地からの退却を強いられるという“敗北”を喫した。
そもそも守備兵が少なかった、機関銃以外に満足な重火器が無かった、皇国軍の守備線の最前線の、
更にその先に構築された仮設陣地で孤立していたという点はあるが、陣地を一つ失ったのは事実だ。
そもそも守備兵が少なかった、機関銃以外に満足な重火器が無かった、皇国軍の守備線の最前線の、
更にその先に構築された仮設陣地で孤立していたという点はあるが、陣地を一つ失ったのは事実だ。
動員兵力でも武器の性能でも皇国に及ばずとも、こういう戦法が一般的になれば皇国軍とて無敵ではなくなり、損害も増えるだろう。
ライフルという単独の武器の事は教えても現代的な戦術の肝は教えなかった皇国軍にしてみれば、かなり衝撃的な事態であった。
この瞬間、皇国軍将兵は転移以来久方ぶりの“近代戦”を戦っていたのだ。
ライフルという単独の武器の事は教えても現代的な戦術の肝は教えなかった皇国軍にしてみれば、かなり衝撃的な事態であった。
この瞬間、皇国軍将兵は転移以来久方ぶりの“近代戦”を戦っていたのだ。
「突撃の好機でした。伝令も送りました。閣下!」
司令部の天幕に入って来たディーン少佐は、煤汚れた顔で左の頬がぱっくり切り裂かれて流血していた。
赤く染まったハンカチで怪我をした頬を押さえながら、苛立ちを隠し切れない様子で詰め寄る。
「準備させていたのだ。そうしたら早々に逃げ帰って来たのは貴官ではないか」
「あれ以上の戦闘継続など無理です。大隊の死傷者は30人を超えました。
1個中隊が消滅したのですよ! 私も危うく死にかけました」
そう言って、折れた剣を見せる。
美しい装飾の為されたサーベルは、中程で折れていた。
飛び散った破片の一つが胸にしまってあったペンダントに突き刺さって軽い打撲も受けた。
「剣が無ければ即死でした。大隊長戦死、指揮不能によりもっと早く後退していたでしょう」
顔の正面に掲げていた剣に皇国軍の銃弾が命中し、それで剣が折れて頬に傷を負った。
剣に当たって弾道が逸れた弾丸も、ディーン少佐の髪の毛を焦がしていった。
一旦、顔の前に掲げてから頭上に上げて、前を指し示す動作の途中だった。
僅かでも動作がずれていたら、顔面を撃ち抜かれて即死だっただろう。
司令部の天幕に入って来たディーン少佐は、煤汚れた顔で左の頬がぱっくり切り裂かれて流血していた。
赤く染まったハンカチで怪我をした頬を押さえながら、苛立ちを隠し切れない様子で詰め寄る。
「準備させていたのだ。そうしたら早々に逃げ帰って来たのは貴官ではないか」
「あれ以上の戦闘継続など無理です。大隊の死傷者は30人を超えました。
1個中隊が消滅したのですよ! 私も危うく死にかけました」
そう言って、折れた剣を見せる。
美しい装飾の為されたサーベルは、中程で折れていた。
飛び散った破片の一つが胸にしまってあったペンダントに突き刺さって軽い打撲も受けた。
「剣が無ければ即死でした。大隊長戦死、指揮不能によりもっと早く後退していたでしょう」
顔の正面に掲げていた剣に皇国軍の銃弾が命中し、それで剣が折れて頬に傷を負った。
剣に当たって弾道が逸れた弾丸も、ディーン少佐の髪の毛を焦がしていった。
一旦、顔の前に掲げてから頭上に上げて、前を指し示す動作の途中だった。
僅かでも動作がずれていたら、顔面を撃ち抜かれて即死だっただろう。
「そうは言うが、旅団本隊は貴官の大隊の10倍の規模だぞ? そう簡単には動けん。それくらい解るだろう」
「全軍の展開など求めていません。とりあえず1個中隊でも良いのです」
「戦力の逐次投入は愚の骨頂だろう。それに伝令からは攻撃成功の報告を受けたが、とてもそうは見えなかった」
「皇国軍の陣地に1/4シウスまで肉薄して射撃を浴びせ、あの場に居た皇国兵は
全員逃げ出したと判断します。あれが成功でなければ、何が成功なのですか!」
「皇国兵の撤退を、直接確かめては居ないだろう」
「それが可能な状況なら、恐らく私はここに居りません!」
あれだけ濃密な煙幕を展開してもなお、皇国軍の前に大損害を受けたのですよ?
たった1シウス前進するのにこれだけの損害なら、ノイリート要塞中枢に迫る頃には全滅しているでしょうね。
「全軍の展開など求めていません。とりあえず1個中隊でも良いのです」
「戦力の逐次投入は愚の骨頂だろう。それに伝令からは攻撃成功の報告を受けたが、とてもそうは見えなかった」
「皇国軍の陣地に1/4シウスまで肉薄して射撃を浴びせ、あの場に居た皇国兵は
全員逃げ出したと判断します。あれが成功でなければ、何が成功なのですか!」
「皇国兵の撤退を、直接確かめては居ないだろう」
「それが可能な状況なら、恐らく私はここに居りません!」
あれだけ濃密な煙幕を展開してもなお、皇国軍の前に大損害を受けたのですよ?
たった1シウス前進するのにこれだけの損害なら、ノイリート要塞中枢に迫る頃には全滅しているでしょうね。
「そこまで言うなら、もう準備も整っているだろうから、本隊を出そう」
「閣下……発煙弾は殆ど使い切りましたし、同じ手に二度も引っかかるとは思えません」
皇国軍という敵を相手に、ディーン少佐は通常使う密度の数倍の煙幕を使っていた。
それですら数十人の損害を出したが、発煙弾の投射をケチっていればもっと多くの損害が出ていただろう。
「閣下……発煙弾は殆ど使い切りましたし、同じ手に二度も引っかかるとは思えません」
皇国軍という敵を相手に、ディーン少佐は通常使う密度の数倍の煙幕を使っていた。
それですら数十人の損害を出したが、発煙弾の投射をケチっていればもっと多くの損害が出ていただろう。
皇国軍の防備が手薄なうちに奇襲または強襲によって要塞を奪還するという作戦は
最初からどれほどの成功率が望めるか疑問であったが、もはや不可能なのは明白だ。
少数の部隊でも、皇国軍は必ず機関銃という“大量連発銃”を配備しているから、兵数と火力が額面通りに計算できない。
皇国軍陣地で部下が拾った、直径半シクル程の円筒形の金属柱(空薬莢)を見ながら、ディーン少佐は“保身”を考えぬ訳にはいかなかった。
最初からどれほどの成功率が望めるか疑問であったが、もはや不可能なのは明白だ。
少数の部隊でも、皇国軍は必ず機関銃という“大量連発銃”を配備しているから、兵数と火力が額面通りに計算できない。
皇国軍陣地で部下が拾った、直径半シクル程の円筒形の金属柱(空薬莢)を見ながら、ディーン少佐は“保身”を考えぬ訳にはいかなかった。
降伏をしたら、戦後にどんな仕打ちを受けるだろうか。
司令官や連隊長、司令部参謀は物理的に首が飛んでもおかしくない。
大隊長や中隊長クラスの指揮官も相応の懲罰を受ける事になるだろう。
武人の名誉という意味でも、称号や栄典の剥奪など容易に想像出来る。
司令官や連隊長、司令部参謀は物理的に首が飛んでもおかしくない。
大隊長や中隊長クラスの指揮官も相応の懲罰を受ける事になるだろう。
武人の名誉という意味でも、称号や栄典の剥奪など容易に想像出来る。
さらに攻撃を続ければ、反撃で磨り潰されるだろう。
かといって降伏したら終戦後にどんな沙汰が待っているか判らない。
かといって降伏したら終戦後にどんな沙汰が待っているか判らない。
作戦参謀が意見具申した。
ディーン少佐の決死の行動は結局、皇国軍陣地に突撃は不可能という事の確認。
敵陣地の弱点を探るどころか少数の部隊で偵察の為に近づく事すら不可能な状況。
下手に大軍で攻めすぎれば撤退や降伏すら満足に出来なくなるのはリンド王国軍が大量の血で以て証明した。
今更改めて何を確認する必要があるのかと問われれば、伝聞ではなく体験として共有出来たという事に尽きる。
「最早この戦争の行く末は決しているのは、中将閣下もよく理解されているでしょう。
マルロー王国からの支援も途絶えております。ここは一つ、降伏ではなく一時停戦を申し入れては?」
「何か思うところがあるか?」
「現状の皇国軍からの攻撃は、緒戦に比べれば随分と散発的です。
つまり島内の防備を後手にしてでも他にやりたい事があるのです」
「ノイリート島から本土への攻撃準備か」
「はい。皇国軍の飛竜であれば我が国の本土全域が制空権内に収まります。
極北洋シテーン湾に面しているロマディアなど目と鼻の先でしょうから」
「確かに、彼らからすればそうなるだろうな」
リンド王国の王都ベルグは、それで散々な目に遭ったのだから。
だが、ヴィットール中将は別の事に気を揉んでいた。
「命を散らして我等を上陸させたギューナフ提督に何と詫びれば良いのだ」
「それは閣下や我々が死んでから、あの世でおいおい……」
死後の世界はともかく、大公殿下からのお咎めはあるかどうか分かりませんよ?
塞翁が馬。ロマディア死守を命じられず、本土へ帰る手段も失った事は幸福に転ぶかも知れませんね。
ディーン少佐の決死の行動は結局、皇国軍陣地に突撃は不可能という事の確認。
敵陣地の弱点を探るどころか少数の部隊で偵察の為に近づく事すら不可能な状況。
下手に大軍で攻めすぎれば撤退や降伏すら満足に出来なくなるのはリンド王国軍が大量の血で以て証明した。
今更改めて何を確認する必要があるのかと問われれば、伝聞ではなく体験として共有出来たという事に尽きる。
「最早この戦争の行く末は決しているのは、中将閣下もよく理解されているでしょう。
マルロー王国からの支援も途絶えております。ここは一つ、降伏ではなく一時停戦を申し入れては?」
「何か思うところがあるか?」
「現状の皇国軍からの攻撃は、緒戦に比べれば随分と散発的です。
つまり島内の防備を後手にしてでも他にやりたい事があるのです」
「ノイリート島から本土への攻撃準備か」
「はい。皇国軍の飛竜であれば我が国の本土全域が制空権内に収まります。
極北洋シテーン湾に面しているロマディアなど目と鼻の先でしょうから」
「確かに、彼らからすればそうなるだろうな」
リンド王国の王都ベルグは、それで散々な目に遭ったのだから。
だが、ヴィットール中将は別の事に気を揉んでいた。
「命を散らして我等を上陸させたギューナフ提督に何と詫びれば良いのだ」
「それは閣下や我々が死んでから、あの世でおいおい……」
死後の世界はともかく、大公殿下からのお咎めはあるかどうか分かりませんよ?
塞翁が馬。ロマディア死守を命じられず、本土へ帰る手段も失った事は幸福に転ぶかも知れませんね。
そんなやり取りから少し後、上陸したセソー大公国軍の司令官ヴィットール中将はノイリート要塞の皇国軍に対し、停戦の軍使を差し向けた。
停戦理由は、負傷兵を本土に後送する為。
後送には、まだ使える状態で打ち揚げられたボートやカッターを利用したり、
艦隊の残骸を利用して新たなボートや筏を作製して間に合わせる事とする。
準備に時間がかかるので、停戦期間は15日とする。
停戦理由は、負傷兵を本土に後送する為。
後送には、まだ使える状態で打ち揚げられたボートやカッターを利用したり、
艦隊の残骸を利用して新たなボートや筏を作製して間に合わせる事とする。
準備に時間がかかるので、停戦期間は15日とする。
この協定に皇国軍の現地司令部は安堵した。
これはあくまでノイリート島内での戦闘行為の禁止であり、皇国とセソー大公国の戦争行為の禁止ではない。
具体的には、島内の双方の軍部隊に対して島内や島外から攻撃してはいけないという期限付き停戦協定だ。
島内から島外を攻撃したり、島内の飛行場から飛行機を飛ばして島外を攻撃する事は協定違反にならない。
負傷者を後送する際には、船舶に赤十字(それと分かる意匠)の旗を常時掲げる事。
後送に使用する船ないし舟は予め皇国軍に通知する事で、この後送任務中に限り病院船と
同等(船体の白色塗装が望ましいが、塗装資材が無いので不問とする)の扱いを受ける。
これはあくまでノイリート島内での戦闘行為の禁止であり、皇国とセソー大公国の戦争行為の禁止ではない。
具体的には、島内の双方の軍部隊に対して島内や島外から攻撃してはいけないという期限付き停戦協定だ。
島内から島外を攻撃したり、島内の飛行場から飛行機を飛ばして島外を攻撃する事は協定違反にならない。
負傷者を後送する際には、船舶に赤十字(それと分かる意匠)の旗を常時掲げる事。
後送に使用する船ないし舟は予め皇国軍に通知する事で、この後送任務中に限り病院船と
同等(船体の白色塗装が望ましいが、塗装資材が無いので不問とする)の扱いを受ける。
皇国軍とセソー大公国軍のどちらかが違反した場合、協定は即時失効する。
向こうから言い出した事だが、これは皇国軍にとっては願ったり叶ったりであった。
島内の部隊の弾薬を節約出来る上に、飛行場を大々的に使っても島内の部隊は反撃されない!
勿論、警戒の為の歩兵や海兵部隊は通常どおり配置するが、それで攻撃を受けたらセソー大公国の非を咎める理由にしかならない。
本土に向けて負傷兵が後送される際は通知を受ける事になっている。つまり本土に敵の情報が伝わるタイミングを知れる事になる。
何より15日もあれば、セソー大公国の首都ロマディアは陥落しているだろう。
島内の部隊の弾薬を節約出来る上に、飛行場を大々的に使っても島内の部隊は反撃されない!
勿論、警戒の為の歩兵や海兵部隊は通常どおり配置するが、それで攻撃を受けたらセソー大公国の非を咎める理由にしかならない。
本土に向けて負傷兵が後送される際は通知を受ける事になっている。つまり本土に敵の情報が伝わるタイミングを知れる事になる。
何より15日もあれば、セソー大公国の首都ロマディアは陥落しているだろう。