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皇国召喚 ~壬午の大転移~49

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turo428

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朝食を終えた頃、皇国軍機の羽音が聞こえた。
バルコニーから身を乗り出して空を眺めると、一際巨大な
皇国軍機からロマディア市内全域に向けて大量の伝単が
ばら撒かれているところで、宮殿の敷地内にも落ちてきた。

まるで雪のように降り注ぐ高品質な紙の束。これだけでも皇国の国力が痛い程に分かる。
実際、市民は我先に伝単を拾い集め、様々用途に再利用しているくらいだ。

庭に出て手に取り、すぐに内容を確認する。

『7日後の朝からロマディア全域を攻撃するので
 ロマディア市民は早急に市外に避難するように
 ラピトゥス島は特に危険なので近づかないように』

『第三国の国民もロマディアから撤収するように
 期日までに避難しなかった場合の損害について
 皇国は一切の責任を負わないものとする』

伝単を見て、フェリスは遂に来る時が来たと感じた。
ロマディアが大規模な空襲を受けて瓦礫の山になる日が。
「おお、皇国軍の死の宣告!」
ここに居たら7日後に死ぬかもしれないのに、何故か気分が高揚する。
最初の頃は、特に期限を定めない降伏、避難勧告だった。
それが程なくして2週間以内に降伏せよという文章に変わり、そして7日後に攻撃すると!
フェリスはそれを副官の女性将校テレーズにも見せる。
「残る伝書鳩は何羽だったかな」
「13羽です」
「なら最後まで見届けられるだろう」
師団司令部と通信中隊が持つ伝書鳩を多目に連れてきたのは正解だった。
本格的な戦闘となれば本国との通信に徒歩の伝令兵が安全だが、時間がかかりすぎる。
「何も閣下が残る必要は……もしもの事があれば、コーンウォース伯爵家にとって損失です」
「少なくとも今の私は只の軍人だし、もしもの事はいつ起きてもおかしくないんだ。父上だってそれは承知だろう」
「しかし……」
「残って事態を見届ける空将も必要だろう。これは命令だ」
そう言ってしまえば、公的にはただの副官であるテレーズは黙るしかない。
子供の頃から付き合いのあった幼馴染という事は、今は無関係なのだ。


朝食後の散歩にセソー大公国軍の空軍司令部を訪ねると、
飛竜軍司令官がぶつぶつと呟きながら作戦案を考えている。
「午前中は第1連隊で午後は第2連隊? いやそんな事をしている余裕は……」

行き詰って頭を抱えている。
少しガス抜きに付き合った方が良いかも知れない。
「こうなれば軍の存在意義は国体の護持でありましょう」
「は?」
「ユラに仲介を頼むよう、現場からの陳情として宰相や外相を説得されてはいかが?」
「は、ユラを?」
「ええ、ユラは原則中立の方針を放棄しておりませんし」
ユラ神国が列強国として振る舞える“パワー”の一つがこれだ。
東大陸で最も広く信仰されているユラ教の総本山がある事もあり、
単純な経済力や軍事力以上のパワーがあるのはどの国も認めるところだ。
だから、特に列強国同士の戦争になった場合、仲介する能力のある強力な
中立国となると多くの場合でユラ神国が第一候補となってしまう。

ただ皇国の元世界のスイスのような永世中立国でもない。
中立の度合いが他国より高いというだけで、最終的には時と場合による。

それに何より、ユラ神国は皇国と相互防衛に基づく軍事同盟を結んでいる。
リンド王国との戦争被害が大きかったのとユラ神国が直接攻撃された
訳ではないとして野戦軍の派兵をしていないだけで、今も有効な条約だ。
事実、皇国軍の領内通行や基地の提供などは公然と行われ、ユラ領内における兵站支援などで事実上参戦している。
「閣下、ユラは今や皇国の同盟国です」
「しかし此度の……セソー大公国の対リンド戦争においては皇国に積極加担しておりません」
「東大陸の列強全てが皇国と国交を持っている訳ではないのはご存知でしょう。
 大内洋に面していない大陸東側の国家群と皇国は国交以前に交流さえない所もまだ多いのです。
 リンド王国はともかく、皇国と仲介できるのは現状ユラ神国以外に考えられませんが」
「ううん……」

もう一押しだろうか?
「ユラは皇国の軍事力を身をもって知っている数少ない列強国です。
 皇国が最終通告を出した以上、ユラの大使もロマディアから避難するでしょう。
 他の都市の領事館なら知りませんが、ロマディアに居たら危険ですからね。
 恐らくユラの大使館員はいつでも逃げ出せるように準備はしていた筈。
 7日後の朝からですから、今日中にでもロマディアから脱出しておかしくありませんよ?
 むしろ外務卿はじめ外交官吏の面々が率先してやらないのが理解できませんね」

フェリスは軍人で外交職員ではないから部分的にしか知らないが、それでも観測範囲で
セソー大公国の外交部門がやっている事は中立国に対してセソー大公国の正義と軍事行動を
支持して欲しいという働きかけで、これは素人のフェリスから見ても理解不能の行動だった。
戦争初期の段階ならまだしも、首都に攻め込まれる寸前の今する事ではないだろう。
根本原因を作ったのが自分達だから一方的に嘲笑えないが、これは流石に無い。

確かに前リンド国王の突然の崩御から現女王の即位と皇国との国交樹立までの
鮮やか過ぎる手筈は怪しいが、それが生きてくるのは戦争の大義や勝った後に
リンド王国を弱体化させる手段としてで、負けそうな段階で叫んでも遅い。


だがしかし。
(もしも私が同様の立場だったら、こんな無責任な事は言えない)
もしもマルロー王国が皇国軍に攻め込まれ、首都ワイヤンが爆撃の災禍に曝される寸前となった時、飛竜騎士である自分は戦闘中止命令を受けるまで戦うだろう。
たとえ勝ち目がないと分かっていても、数百騎の部下たちを死地に送り込むだろう。そして自分は地上の司令部で……。
自決? そんな身勝手な事したら、騎士達に呪われるだろう。
降伏? まだ隣の戦区で戦っている将兵を見捨てて?
(所詮他人事だから言える事か)
それ以前に、母国が早々に降伏しなければ、今頃自分はリンド王国国境方面に進出していた筈だ。
そして、その前線司令部で皇国軍の爆撃を受けてとっくに死んでいた可能性もある。
飛竜陣地は中隊ないし大隊単位で建築されるが、師団司令部が敵飛竜からの被害を避ける為に各陣地を転々と
移動した場合、指揮系統に乱れが生じる為、どこか一箇所の大きめの飛竜陣地に固定してしまうのが普通だ。
勿論、そこは他より多くの対空砲や対空ロケット弾が配備され、歩兵や騎兵に対地砲兵、場合によっては戦竜兵も配備される。
それを逆手にとって、司令部がない飛竜陣地をさも重要な場所のように偽装するという事もあるが……。

結局それは、飛竜による攻撃だけでは、敵の飛竜陣地を潰しきる事は不可能という作戦の前提がある。
飛竜による爆撃に加えて、騎兵隊や歩兵隊が飛竜陣地を蹂躙してこそ、真に決着が付く訳だ。
しかし皇国軍の飛行機は爆撃だけでそれらを纏めて吹き飛ばすから、作戦の前提が崩れる。

フェリスが色々と考え込んでいると、側に居た飛竜軍司令官が沈痛な面持ちで語り始めた。
「子爵閣下、閣下は飛竜部隊の将軍として対皇国戦術も研究していると存じます」
「まあ、戦術研究も仕事の一つですから、それはまあ……」
「それで閣下は、何か新たな手立てを考案されましたか?」
「恥ずかしながら、あまり現実味のある方法は考案出来ません」
考案していたとして、今この場で教えるつもりもさらさら無いが。

「閣下、我が陸軍部隊が皇国軍の鉄竜を撃破したのはご存知ですね?」
「リンドですら対処できなかった鉄竜を撃破したとか。見事なものです」
「皇国軍も慌てたようで、敵部隊は後退しました」
フェリスはセソー大公国軍の公式発表前に既にその情報を知っていた。
陸軍の砲兵将校が自慢げに教えてくれたのだ。
将校ともあろう者が“これは機密情報なのですが”と前置きすれば秘密が守られると思っている訳は
無いだろうから、余程自慢したかったのだろうか。リンド王国ですら成し得なかった事を成したと。
その日のうちに軍の公式発表が行われたから遅いか早いかの問題だが、規律の問題だ。
他にも色々と有意義な情報は得られたが、良いのかそれで。軍法会議ものではないのだろうか。
これは一部のロマディア市民すら口にしていたのだが、それも軍からの公式発表前だった。大丈夫か。

ついでにフェリスが知っている情報には続きがある。
皇国軍が後退したのは一時的なもので、体勢を立て直してからはまた進軍している。
いや後退ですらなく停止といった方がより正確だろう。セソー大公国軍が一時でも前進した気配は無い。
もし、それを切欠に皇国軍を押し返したのなら、今もこちら側が戦線後退を続けて首都目前まで迫られている説明がつかない。


「皇国軍の兵器と言えど、人が造った物である以上、相応の威力のある兵器で攻撃すれば撃破出来るのです!」
「神話にある、絶対に死なない怪物とは違いますからね」
「そうです。皇国軍は決して神でも怪物でもない。我々と同じ人間です」
「同じ人間であると。その点は対等ですね」
鉄砲が当たったら人は死ぬ。みたいな当たり前の話をされても反応に困る。
大砲を当てれば皇国兵だって死ぬだろう。皇国製の兵器だって壊れるだろう。
当てられないから困ってるんだろう?
こちらの野砲の距離より、皇国兵の小銃の距離の方が長く、連発銃はさらに長く、皇国製の大砲は地平線の向こうからすら飛んで来るんだろう?

少数事例であれば、リンド王国軍だって皇国軍の将兵を銃撃したり砲撃したりして死傷させたし、飛竜による爆弾で軍艦も損傷させた。
だから射程に入って命中弾を得られれば、何らかの被害を与える事は出来るのだ。
それが戦局を動かすような決定的な事態に繋がるかどうかは別問題として……。
まあ鉄竜に関しては、一般的な野砲である1/2バルツ砲が通用せず生半可な攻撃では
ビクともしない重装甲を備えているという話だから、それを討ち取ったとなれば
凄い事であるが、その後同様の話を聞かないという事は、それっきりだったのだろう。
二度目三度目があれば、またやってやりましたと絶対に自慢する筈だ。
つまりこれも例外的な少数事例という訳だ。
どの程度の大砲を使えば有効なダメージを与えられるかという評価を得られたのは
収穫だが、それを生かした次が続かないという事は、対策されたと考えるべきだろう。

騎士の鎧の隙間を狙えば釘1本でも討ち取れるとか言ってるのと同じだ。
その騎士は強弓と斧槍と剣と盾で完全武装しており、鎧を着ていない戦士より俊敏で、鎧に特有の死角が殆ど無い。
その釘で、騎士の鎧に傷をつけても、騎士本人には何のダメージも無い。
釘で篭手などを打てば、一瞬手を引っ込めるかもしれないが、すぐに剣を持ち直して反撃してくるだろう。
そういう事だ。

「時に閣下、飛竜が持てる爆弾の重量はいかほどでしょう」
「1発きりの大型爆弾なら、12バルツですか」
主に要塞等の頑丈な建造物を爆撃する、飛竜を長射程の臼砲のように使う大型爆弾だ。
この程度は、飛竜に関わる軍の将校なら誰でも答えられる事。
「いいえ、24バルツです」
「!?」
その数字を聞いた瞬間、真意が解った。
解ったが、解りたくなかった。
24バルツ爆弾などというものは無いから、12バルツ爆弾を2発、1騎の飛竜に運ばせるのだろう。
そして、敵の陣地や鉄竜、軍艦等、重要目標に突っ込ませる。

「無人飛竜を体当たりさせる、という訳ですか」
「然様です。流石閣下、理解がお早い」
飛竜騎士が乗る指令騎1騎に対して2~4騎の重爆装飛竜を用意する。
重爆装飛竜には飛竜騎士は乗らず、目一杯の爆弾を括り付け、突入すべき標的を指示して体当たりさせる。
今まで人間を載せていた分の重量を全て爆弾に振り分ければ、飛竜でも大型爆弾を2発積める。
しかしそうすると爆弾を投下するタイミングを操作する手段が無いから、飛竜ごと体当たりさせると、そういう事だ。
地面や障害物に激突しそうになれば飛竜は自身の判断で避けるので、正確に言えば標的の近くまで飛ぶように指示するという事になる。
飛竜が標的に近づいたタイミングで爆弾の固定が解けて起爆するように、指令騎が上空で操作する訳なので事実上の体当たり攻撃。
攻撃が成功しようがしまいが飛竜にとっては片道切符となるし、攻撃方法の仕組みから精度の高い爆撃は不可能。
そもそも皇国軍を相手にするなら指令騎も無事で済むかどうか。


この戦法の利点は、飛竜が途中で迎撃されて力尽きても、上空で点火さえしてしまえば後は決まった時間が
経過した時に爆発するから、精密攻撃は不可能だが何らかの損害を与える可能性が期待出来るという事だ。
欠点は利点の裏返しで、戦果確認騎を兼ねる指令騎が撃破されたら敵に与えた損害が全く不明になる事だ。

過去、そういう事を考えた人は居たが、2発の大型爆弾を落としたければ2騎の飛竜を使えば
良いだけであり、何らメリットが見出せない戦法なので、実際にやろうとした人は存在しない。
似たような考えとして、3~4騎の飛竜で1発の大型爆弾を運ぶというのもあったが、これもそこまで大威力の爆弾を
苦労して造り、離陸から投下まで息の合った飛行で運んでまで得られるメリットが無いので、実戦で使われた事は無い。
同じ結果を得たいなら、臼砲を使えば済む事である。

が、今のセソー大公国軍にはとにかく飛竜の数が無い。
小国相手ならともかく、列強国相手ではもはや抑止力としても機能しないレベル。
その列強国の飛竜をも退けてきた皇国軍相手では、存在しないも同然。
だから2発の爆弾を使いたければ2騎の飛竜を使えば良いなどと言っていられない。
1騎の飛竜を限界まで酷使しても尚不足するのだ。
本当は12バルツ爆弾を3発積みたいだろう。体格に優れた若い飛竜なら可能だ。
途中で骨折するかもしれないが、どうせ体当たりで死ぬなら骨折しても構わない。
だが離陸直後に骨折したら攻撃そのものが不発になるから、2発で我慢する。
「騎馬隊の兵士に、馬に爆弾を括り付けて敵陣に突撃させろと命令するようなものですよ」
「人の命と飛竜の命を天秤にかけるなら、閣下はどちらを選ばれますか?」
卑怯な質問だ。二択なら人の命に決まっているが、だからといって飛竜の命を粗末にしていいという理由にもならない。
両方を大切にするべきだ。飛竜騎士なら尚更だ。愛竜を自爆突撃させる飛竜騎士は、後を追って自決するかも知れない。

だが、下がりに下がった将兵や市民の士気。
それでも戦争を止めようとしないセソー大公。
陸戦で使う大砲は悉く皇国軍歩兵や砲兵、空襲の標的にされる。
乾坤一擲に賭けるのであれば、取れる手段など選んでいられなかった。

それでも飛竜騎士の端くれとして、言わねばならない。
「私には、既に同盟を解消した他国の軍事作戦をとやかく言う資格はありません。
 飛竜軍司令官として、それが最善の策だとお考えになるなら、やれば宜しいでしょう。
 我が国にとっても貴重な戦訓が得られます。ですがもし迷いがあるなら、他の方策を試すべきです」

その言葉を残して、フェリスは軍司令官の部屋から退室した。

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