周囲約1キロに渡る捜索の結果、発見されたのは伊庭たちの遭遇した中型トラック1両と、別班が見つけた小型トラック1両、
そしてその車内に置かれていた64式小銃2丁と弾薬だけだった。
人の居る形跡なし、現在地不明。 他の部隊との連絡は途絶したまま。
便宜上彼らを行方不明という扱いにしているが、行方不明になったのは自分たちのほうなのではないかと言う感も大きい。
この結果を踏まえて今後どうするべきかを話し合った佐野3尉と鹿嶋3尉は意見が割れた。
捜索範囲を広げるか、直接移動して最寄の駐屯地を目指すべきとする鹿嶋3尉に対して、
佐野3尉は不用意に移動するよりここにのこって通信機での連絡回復を待つべきと主張した。
何より、移動するにしても付近の地形も景色も全く変わってしまっているのに移動の仕様が無いという佐野3尉の言には一応の説得力があった。
なにしろ地図すらないのだ。
幸いにして方向は太陽の向きで把握する事はできたが、太陽の高さも変わっているため元々部隊のいた夏の北海道を基準にしてはやや正確ではない。
気温も2度か3度ほど、違うようだった。
木の色草の色を見れば、今が春か初夏の季節だろうことは推測できたが、それはここが北海道などではないという
感触を強くしただけで、穏やかな日差しはこの時あまりありがたいものとはならなかった。
そしてその車内に置かれていた64式小銃2丁と弾薬だけだった。
人の居る形跡なし、現在地不明。 他の部隊との連絡は途絶したまま。
便宜上彼らを行方不明という扱いにしているが、行方不明になったのは自分たちのほうなのではないかと言う感も大きい。
この結果を踏まえて今後どうするべきかを話し合った佐野3尉と鹿嶋3尉は意見が割れた。
捜索範囲を広げるか、直接移動して最寄の駐屯地を目指すべきとする鹿嶋3尉に対して、
佐野3尉は不用意に移動するよりここにのこって通信機での連絡回復を待つべきと主張した。
何より、移動するにしても付近の地形も景色も全く変わってしまっているのに移動の仕様が無いという佐野3尉の言には一応の説得力があった。
なにしろ地図すらないのだ。
幸いにして方向は太陽の向きで把握する事はできたが、太陽の高さも変わっているため元々部隊のいた夏の北海道を基準にしてはやや正確ではない。
気温も2度か3度ほど、違うようだった。
木の色草の色を見れば、今が春か初夏の季節だろうことは推測できたが、それはここが北海道などではないという
感触を強くしただけで、穏やかな日差しはこの時あまりありがたいものとはならなかった。
「本隊はこのままここで待機するにしても、やはり捜索範囲を広げない事には、今のままでは何も掴めてい無いのと同じです。 とにかく情報が足りな過ぎる」
鹿嶋3尉は佐野3尉にそう強く訴え出、偵察小隊から継続して捜索班を出す事になった。
捜索命令を受け取ったのは伊庭たちの班だったので、小川曹長は今度は車両の番をしていた班員2名を加え全員で偵察警戒車による捜索に出た。
捜索命令を受け取ったのは伊庭たちの班だったので、小川曹長は今度は車両の番をしていた班員2名を加え全員で偵察警戒車による捜索に出た。
「尾根伝いに回ってみよう、山の反対側に向かえば何か見つかるかもしれない」
途中、偵察警戒車で通れそうなところを降車して探しながら、捜索班は山中をひたすら進んでいった。
誰か人間に出会いたい、何でもいいから見つかって欲しい。 班員は誰しもそのような思いを胸に抱いていた。
既に彼らは十分すぎるほど常軌を逸した不可解な事態に見舞われている。
特に、他の部隊といっさい連絡が取れないということが、彼らだけがこの世界で孤立して存在しているかのような
漠然とした不安となって圧し掛かってくるのだ。
集団から切り離されると人間はいかに脆いか…
誰か人間に出会いたい、何でもいいから見つかって欲しい。 班員は誰しもそのような思いを胸に抱いていた。
既に彼らは十分すぎるほど常軌を逸した不可解な事態に見舞われている。
特に、他の部隊といっさい連絡が取れないということが、彼らだけがこの世界で孤立して存在しているかのような
漠然とした不安となって圧し掛かってくるのだ。
集団から切り離されると人間はいかに脆いか…
「おい、野球の試合みたいな歓声聞こえないか?」
道なき道を走破し、途中で倒木に出くわしてそれをどけている最中、伊庭の耳に入ってきたのは大勢の人間が
いっせいに叫んでいる、そんな印象の声だった。
その声は小川曹長以下、班員も聞いた。 彼らは偵察警戒車に乗り込むと急いで声の聞こえる方向へと急いだ。
そして、とうとう山の反対側に出た時、彼らが斜面から見下ろしたのは信じがたい光景だった。
山の裾野に広がる平地に数千人の人間と旗がひしめき、ぶつかり合うように激しく動き回っている。
時折太陽光に何かが反射するのがいくつも見え、小集団と小集団がぶつかり合うたびにその中の多数の人間が互いに倒れ、
押し合い、押し返し、また下がってぶつかり合う、と繰り替えす。
風になびく旗には多種多様な家紋が描かれ、よく目を凝らせばその集団たちは甲冑のような物を身につけ、
刀や槍といった武器のような物を一様に手にしていた。
いっせいに叫んでいる、そんな印象の声だった。
その声は小川曹長以下、班員も聞いた。 彼らは偵察警戒車に乗り込むと急いで声の聞こえる方向へと急いだ。
そして、とうとう山の反対側に出た時、彼らが斜面から見下ろしたのは信じがたい光景だった。
山の裾野に広がる平地に数千人の人間と旗がひしめき、ぶつかり合うように激しく動き回っている。
時折太陽光に何かが反射するのがいくつも見え、小集団と小集団がぶつかり合うたびにその中の多数の人間が互いに倒れ、
押し合い、押し返し、また下がってぶつかり合う、と繰り替えす。
風になびく旗には多種多様な家紋が描かれ、よく目を凝らせばその集団たちは甲冑のような物を身につけ、
刀や槍といった武器のような物を一様に手にしていた。
「まるで映画のロケだ…」
「撮影かなんかじゃないのか?」
誰かが口にするまでもなく、それは映画か歴史大河ドラマの合戦のシーンとしか思えないような、壮大で勇壮な光景だった。
ただそれがテレビの画面を通した、演出やCGによる「リアルっぽさ」ではなく、現実としてその存在を伊庭たちに強く印象付けるのは、
鬼気迫るというべき圧倒的な迫力の篭る、集団が突撃する時に発する大歓声と、なにより彼らのいる山の斜面にまで
届いてくる血なまぐさい戦場の空気だ。
ただそれがテレビの画面を通した、演出やCGによる「リアルっぽさ」ではなく、現実としてその存在を伊庭たちに強く印象付けるのは、
鬼気迫るというべき圧倒的な迫力の篭る、集団が突撃する時に発する大歓声と、なにより彼らのいる山の斜面にまで
届いてくる血なまぐさい戦場の空気だ。
戦争をしている。
幾本もの槍が人間の身体に突き刺さり、刀が腕や足を切り落とし、一人の兵士が別の兵士を押し倒して互いに殺し合い、
集団がもう一方の集団を圧倒し、突破し、押しつぶし、追いすがり、容赦なく止めを刺してゆく。
小川曹長も本隊に通信を入れるのも忘れ、全員がその非現実的ながらも現実としてそこに存在する光景に
取り付かれたようにただ見入っていた。
ある者は偵察装甲車のハッチを開けて身を乗り出し、別の誰かは装甲車から降りて立ち尽くしている。
伊庭は呆然としながらも、それはその目の前の光景を自分の頭がうまく処理できていないからだと妙に冷静に自覚していた。
全体を俯瞰して、落ち着いて観察すれば、戦局が一進一退を繰り返していることもわかる。
対峙する二つの軍勢は小集団ごとにまとまって、相手側の同じような小集団とぶつかり合い、激しく動き回るが、
ただ突撃するだけでなく時折自分の陣営まで交代しては休憩する、と言った動きも見ることができた。
小集団の間をせわしなく動き回る騎乗した人間は、伝令だろうか。
そこで、馬に乗っている人間は集団の指揮官とその周囲にわずかな数いるばかりで、大河ドラマでみるような
騎馬隊のような物が見えないのに気が付いた。
馬の数が少ないからなのだろうか。 それとも、騎兵を集団で運用するという事が無いのだろうか。
伊庭がそんな思索にふけりかけた時、小川曹長の通信機のインカムに本隊からの連絡が入ってきた。
正気を取り戻した曹長は一喝、「急ぎ本隊に戻る」と告げ、伊庭たちに偵察警戒車に乗れ、と怒鳴った。
ハッチを閉める曹長の顔は、青ざめていた。
集団がもう一方の集団を圧倒し、突破し、押しつぶし、追いすがり、容赦なく止めを刺してゆく。
小川曹長も本隊に通信を入れるのも忘れ、全員がその非現実的ながらも現実としてそこに存在する光景に
取り付かれたようにただ見入っていた。
ある者は偵察装甲車のハッチを開けて身を乗り出し、別の誰かは装甲車から降りて立ち尽くしている。
伊庭は呆然としながらも、それはその目の前の光景を自分の頭がうまく処理できていないからだと妙に冷静に自覚していた。
全体を俯瞰して、落ち着いて観察すれば、戦局が一進一退を繰り返していることもわかる。
対峙する二つの軍勢は小集団ごとにまとまって、相手側の同じような小集団とぶつかり合い、激しく動き回るが、
ただ突撃するだけでなく時折自分の陣営まで交代しては休憩する、と言った動きも見ることができた。
小集団の間をせわしなく動き回る騎乗した人間は、伝令だろうか。
そこで、馬に乗っている人間は集団の指揮官とその周囲にわずかな数いるばかりで、大河ドラマでみるような
騎馬隊のような物が見えないのに気が付いた。
馬の数が少ないからなのだろうか。 それとも、騎兵を集団で運用するという事が無いのだろうか。
伊庭がそんな思索にふけりかけた時、小川曹長の通信機のインカムに本隊からの連絡が入ってきた。
正気を取り戻した曹長は一喝、「急ぎ本隊に戻る」と告げ、伊庭たちに偵察警戒車に乗れ、と怒鳴った。
ハッチを閉める曹長の顔は、青ざめていた。