自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 「ハクバ3よりハクバ1へ、移動中の武装した集団を発見、数は200~300。 先の襲撃勢力の本隊と思われる。 オクレ」

 「ハクバ1よりハクバ3へ、引き続き警戒活動を継続せよ。 オクレ」

 「ハクバ3、警戒活動を継続する。 オワリ」

 殉職者・負傷者の出た戦車一個小隊と、一個小隊に相当する偵察隊は佐野3尉の指揮下、
再編成を行い隊を戦車隊と偵察班2つに分けた。
 90式戦車4両からなる本隊がハクバ1、偵察隊の74式戦車2両がハクバ2、87式偵察警戒車2両がハクバ3である。
 弾薬と燃料車両を積んだ中型トラック各1台、小型トラック1台は負傷者含む数名が配置されハクバ1と行動を共にする。
 ハクバ、とは戦車隊と偵察隊のそれぞれの連隊旗にちなんだものだ。
 隊が襲撃を受けてから既に1時間が経過。  再度の襲撃を警戒して佐野3尉はハクバ3による偵察活動を命令していた。
 急勾配なうえに狭く薄暗い山道を、甲冑の音を響かせながら武装した集団が登ってくる。
 伊庭たち偵察車から降車した隊員は茂みの中に潜みながら、彼らの様子を窺っていた。

 「1曹…」

 矢野が伊庭に、小声で何事か告げる。
 そっと指差す先には、山道の下のほうから上ってくるもう一つの集団があった。

 「ハクバ3よりハクバ1、後続の集団を発見。 数は先とほぼ同数。 オクレ」

 伊庭は舌打ちしたい気分だった。 近代軍隊でいうなら2~3個中隊に相当しそうな人数だ。
 火器の類は携行していない様だが、集団のほぼ全員が槍などの武器を装備している。
 比べて自分達は負傷した者を含めて30人未満。
 これでさっきの様に襲撃されでもしたら、今度は仲間にどれだけ被害者がでるかわからない。
 威嚇射撃でどうにかなるとは思えないし、正当防衛が適用されるとしても生きた人間に銃を発砲するのには躊躇いが起こる。
 戦車で轢き潰すなんてなおさらの事。

 これが、相手に明確な敵対の意思があり、こちらも命令が出た状態ならば、戦車6両で圧倒するのはあまりにも簡単だ。
 だが、今はまだ自分達の置かれた状況すら把握しきれてい無いのだ。
 何もかもが不明で、判断材料も何も少なすぎる。 正当防衛以上の武力行使は、できない。 というより、したくない。
 その点は全体指揮官である佐野3尉と偵察隊の指揮官である鹿嶋3尉はほぼ同意していたし、指揮官がそうである以上伊庭たち部下もそれに倣う。
 もし、彼ら武装した正体不明の勢力がまた襲撃してきたらどうするのか。
 おそらくは警告を加え、それでもこちらに向かってくるようなら威嚇を行い、それでも制止できないなら発砲、という事になるのだろう。
 いや、警告を呼びかけたとして、そもそも言葉が通じるかどうかもわからない。
 ここは、もしかしなくとも自分達の知る日本ではない場所なのかもしれないのだから…

 「ハクバ3よりハクバ1、さらに後続の集団を発見。 数は先と同数。 当該勢力の規模拡大中。 指示を請う。 オクレ」

 最初の集団が伊庭の潜む位置を通り過ぎて5分としないうちに次々と新しい集団が山を登ってくる。
 1個大隊規模はいるのかもしれない。  山の中では戦車といえど、性能を発揮し切れない。
 木立や狭い道幅が邪魔をし、平地戦のように縦横無尽に動き回るなんてことは出来ないからだ。
 主砲や機銃を使えば防ぎきる事はできるだろう。
 しかし、それはもはや正当防衛の範囲を逸脱している。 相手は対戦車火器も持っていない徒歩の集団だ。
 それに、戦車は自分を守れるとして、非装甲車両とそれに乗っている負傷者はどう守る?
 彼らを中央に配置して戦車で囲む、それが定石だろう、しかし、相手は大勢で、殆ど歩兵だ。
 こちらにはそれに対抗する歩兵があまりにも少ない。

 機甲科隊員にとって戦車の弱点を補い支援してくれる普通科隊員は、ここに居ない。
 戦車乗員に降車戦闘を強要するのは心もとないし、偵察隊でもそれを本分としていない。
 なによりも、戦車砲弾と車載機銃弾は弾薬交付所に置かれていたものが十分にあるが、隊員一人一人に持たせる小銃と弾薬が不足している。
 もともと戦車競技会には保安警備用の最低限の小火器類しか持ってきていないのだ。
 (ただ、発見した小型トラックに置かれていた64式小銃2丁は車載74式機関銃の弾薬を転用すれば継続して使えないことも無い。 が、それだけである)
 どうするのか。

 伊庭も、矢野も、他の偵察隊員も同じような不安に取り巻かれつつ、なおも増大する武装勢力の警戒を続けていた時、
ハクバ1より「後退せよ」との命令が下った。
 部隊を移動する。 武装勢力との衝突を避ける為に佐野3尉が下した決断はこれであった。



 その後、部隊は戦車の通れそうな道を徒歩で捜索しながらなんとか武装勢力と接触することなく下山を行った。
 先導はもう1両の偵察警戒車の班員であり、伊庭たちの班は後備を担った。
 途中、地盤のゆるい斜面で戦車1両が横滑りをおこしかけるなど、冷や汗をかく場面もあった。
 麓の平野部に出た彼らは、伊庭たちの見た合戦が行われている方向を避けて、西へと向かった。
 その方向に未整備の粗末な物ながらも道らしき物が開けていたからだ。
 それは遅れた田舎にある、砂利も敷かれて居ないような古い農道のような道路だったが、
当てもなく荒地を進むよりはまだ安心できるというのがその道を選んだ理由だった。

 しかし、その道も安全というわけでも無かった。
 方向の確認と野営地の打ち合わせのため、全車停止して小休止を行っていた時のことである。
 休止前に周辺を偵察隊が周囲に誰も潜んで居ないことを確認していたにもかかわらず、突如として
周囲の草むらから現れた武装集団に部隊は一瞬にして取り囲まれた。
 半数以上が車両から降りた状態だったために、四方から槍を突きつけられて身動きできなくなる者が続出した。
 佐野3尉も鹿嶋3尉も甲冑を着た兵士に刀を突きつけられ、反撃の指示を出す暇もあたえられなかった。
 そして、小銃を構えた自衛隊員と侍と騎士の合いの子の様な武装をした集団は至近距離でお互い武器を突きつけあったまま硬直する。
 奇妙な事に、彼らは自衛隊員を取り囲んだまま、殺傷するでも無くそれ以上の何かの行動を進める気配が無かった。
 そして、一触即発に似た緊張感があたりを支配する中、騎乗したひときわ立派な装飾を鎧に施した人物が包囲の中から進み出てきた。



 自衛隊員が山中に出現してより2日後。

 イーシア大陸極東 八州列島フソウ国 尾張の国・黒田陣営 大山城

 この地を支配する黒田家の現当主、黒田正憲と領地を隣接する浅野家の浅野幸成はここ数年領地の境界線と
それに平行して東西に伸びる街道の経営権を巡って対立状態にあった。
 つい先日も双方の私兵による武力衝突が起こり、戦線は今の所こう着状態にある。
 数の上では浅野方がやや有利で、迂回による側背攻撃を仕掛けてくる浅野軍に対して、黒田軍は斥候を駆使した
すばやい察知と対応でよく防いでいた。
 しかし、今のところお互い決め手に欠けるのも事実である。

 正憲には頭痛の種が一つあった。
 嫡男、上総介憲長の処遇である。
 黒田家の正室の唯一の子として生まれた憲長は跡継ぎとして家中の期待を一心に受けて育ったものの、
幼少時より乱暴なふるまいや奇行が目立ち、家臣の一部には黒田の後継者としては不適格ではと危ぶむ声すらあった。
 正憲には、側室で憲長の異母兄弟となる子が数人居る。
 その中には憲長より安心できる性格の子供もおり、そちらを跡継ぎにしては、という家中の意見もあったのだ。

 しかし、正憲自身は憲長にかなりの期待と信頼を寄せている。
 乱暴者と言われて入るが、同時に利発さと非凡な才も兼ね備えた子なのだ。
 今の奇行や性格的な問題も、大人になるにつれ落ち着いてくれるようになれば、と思っていた。
 が、当の本人はというと。

 「父上! 約束の騎兵1千騎はいつになったら俺にくれる! 元服して初陣の暁には騎兵1千騎で持って華を添えてくれると申したではないか!」

 部屋で静かに軍略を思案している所にずかずかと入ってきて、口を開くなりこうである。
 時候の挨拶も親子の礼儀も無い。

 「憲長。 おまえな…もう少し礼節というものを」

 「それともあれは嘘か、父上。 父上は俺に身内に嘘をつくような人間だけにはなるなと申したではないか。 言った父上がそれを守らぬのか」

 正憲が机の上に雑然と並べて見ていた書類をたたみながら諌めようとするが、憲長は意に介せずそのままどっかりと腰を下ろしてあぐらをかいた。
 憲長が父に要求しているのは、大昔、憲長も幼い頃に正憲が口約束した憲長に与える兵の事である。
 当主の息子は初陣の際には一定の兵を貸し与えられて、先陣を務めるというのがこの辺り一帯の武家の慣わしである。
 が、憲長が言っている兵の規模は到底実現不可能なものであった。 そもそも騎兵1千騎という要求がどだい無茶である。
 騎兵は維持にかかる費用もあってそうそうそろえる事ができない上に、騎兵の調練にも時間がかかる。
 全軍からかき集めればそれなりの数にはなるが、100騎そろえるだけでも難しい。
 1千騎など所詮、幼い、まだ吉法師の幼名で呼ばれていた頃の憲長に父が語って聞かせた夢物語である。

 もちろん、憲長とてそれが無理な要求である事は承知している。
 承知した上で、要求を飲むか、あるいは代わりに別の要求(それとて普通は無理がある類のもの)を承服するか
という選択を父に突きつけているのだ。
 憲長のこうしたやり方を行わせる性格を正憲は正直持て余しているのだが、我が子かわいさに結局は
何も言わず憲長の言うとおりにしてやっている。
 それを憲長もわかっているから、ますます調子に乗る。 正憲は大きなため息をひとつ、ついた。

 「それで、1千騎を諦める代わりになにをくれと申すのだ」

 「さすが父上、話が早い。 2日前、浅野の兵に追われて我が方に迷い込んできた一党があったろう。 奇妙な格好で箱車に乗ったアレじゃ」

 「捕虜にして狩川砦に置いてある者達か。 あんなものを貰ってなんとする」

 憲長は父、正憲の顔を見てニヤリと笑った。
 その言葉でほぼ、自分の要求は通ると確信したので会心の笑み、と言える。

 「俺の見たところ、あの者達は1千騎に勝る兵になる」

 憲長のその言葉に正憲は何をたわけた事を、と呆れ顔になりかけたが、まあ好きにせよ、と承服し下がらせた。
 要求の通った憲長は挨拶もそこそこに喜び勇んで部屋を出ていった。
 おそらくそのまま狩川の砦に馬を走らせに行ったのだろう。
 しかし、格好から何から得体の知れない者たちを自分の兵にくれなどと、突拍子もない事を考えたものだ、と正憲は思った。
 どこの手とも知れぬ、もしかしたら浅野の兵であるかもしれない怪しい者たちを手勢にして、なんの役に立つのだろうか。
 それとも憲長の頭の中では、彼らを味方につける算段でも付いているのだろうか。
 味方につけたとして、どれほどの働きをしてくれるのか。

 「まったく、困ったものだが…」

 黒田憲長、この時15歳。
 父は、急に息子の将来が不安になってきた。
 変わった事を好むのは若気の至り、誰でも通過する道だが、『傾奇者』になられては困る。
 黒田の跡継ぎとして、武将として道を踏み外しては欲しくない、と願った。

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