自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 合戦前夜。

 自衛隊は捕らえられていた狩川砦より名護城に移っていた。
 隊の多くは返却された装備や車両の点検と、砲弾や銃弾の積み込み作業に忙殺されていたが、
佐野、鹿嶋ら依然として指揮官としての立場にあるものと、各車両の車長である班長たちは打ち合わせのために集められていた。
 この日の昼に黒田家当主、黒田正憲と家臣の主だったものとの軍議に参加した佐野元3尉は最初に、
部下たちに決定された作戦内容と自分たちに要求されたことの説明を部下たちに行った。

 まず、彼らは黒田憲長の配下として動く。 これは決定事項であった。
 ただ、おおまかな命令は憲長の指示に従うものの直接部下を指揮するのは依然として佐野と補佐する鹿嶋である。
 本来なら自衛隊を脱した彼らに指揮権は無い。 が、部隊が一つの集団として黒田軍に組み込まれる以上、
一定の指揮統率は必要であり、曹以上の階級や役職付きの者の殆どが佐野・鹿嶋に従って自衛隊を辞めてしまったので
 もし残った「いまだ自衛官であるものたち」が反対表明を行いたくても彼らにはかつての指揮官に代って「部隊」を動かす能力は無いのである。
 それに、彼らとてあくまで「自衛隊」の立場に拘るのならそもそも黒田軍に自衛隊の装備を使用して戦争に協力すること自体が認められない。
 そして結局は彼らだけ「殺されようとも規定に反することは出来ない」という意思を貫くこともできないのだ。
 自衛官といえども彼ら一人一人は一個の人間である。 それを責める事は出来まい。

 流れを戻して、憲長自身がそれ以上の手勢を父に要求しなかったこともあり、彼の率いる部隊は(元)自衛隊の戦車隊・偵察隊のみである。
 といっても提供された糧食・必需品など輜重輸送の非戦闘要員は若干名同行する。
 また戦車には黒田の家紋を記した旗指物が括り付ける事が要求された。
 帰属陣営の識別のためであり、黒田の嫡男として存在を示すために必要だからである。
 といっても必要の無いときは外していても良いと憲長は言った。
 憲長も戦車や偵察警戒車に塗装された戦車連隊や偵察隊のマークが彼らの所属を表すものであると既に
説明をされていたし、「既に家紋を持つものが正式な家臣になったわけでもないのに黒田の家紋を付けていては気分が良くなかろう」との配慮らしい。
 まあ家紋というのとは違うのであるが…今は佐野や鹿嶋にとっては遠くなってしまった中隊マークである。

 先の軍議では自衛隊、特に戦車の戦力に対して黒田家中からは能力を疑問視する意見が多数出た。
 今になって、という気もするが実際戦車が直接戦っているところを見せたわけでもないのだから、当然だろう。
 黒田の家臣たちは最初自衛隊を天狗の仲間かなにかと思った者もいるようだが、捕らえてみれば格好が
奇異なだけで、自分らと変わらぬ人間なのを見て悪い意味で安心し、同時に未知のものに対する恐怖心も薄れてしまったらしい。
 要は、変わった乗り物に乗って、変わった鉄砲を持っている変わった集団ではないか。
 なに、浅野の小勢を数十人打ち倒したくらい、我らでも出来るではないか、と…つまり、悪く言えば侮った。
 それに対して佐野は戦車が矢も槍も効かぬこと、泥濘でも荒地でも馬よりも早く走れること、そして実際に
主砲の威力を試射してごらんにいれましょうか、と説明したが正憲が

 「いや、それには及ばぬ」

 と丁重に断ってしまった。
 実を言えば、正憲の判断としては戦車の能力など実にどうでも良かった。
 浅野は先日山中で自衛隊と遭遇し、交戦してその力の程を知っているはずである。
 なにより戦車という「兵器」が佐野の説明する性能を持っていなくとも、戦車が馬の牽引も無しに異様な
うなり声を上げて一斉に突っ込んで来ればその異様さに驚くはずであり、そこを攻めかかれば隊列の崩れた浅野勢は
崩れ、戦を有利に運ぶことが出来るだろう、という判断と評価をしていたのである。
 つまり、実際に自衛隊が浅野の兵を打ち倒さなくてもいいのだ。 息子、憲長が指揮する部隊が浅野の隊列に
横槍をくわせ、初陣を華々しく飾れればそれで十分というわけだった。
 さらに、保険としてもう一隊を同時に浅野勢に突入させ、こちらを直接的に打撃を与える本命とする。
 これは家臣のなかで武勇の誉れ高い柴田権六郎和家が任命された。 彼は自衛隊を待ち伏せによって捕獲したときの武将でもある。

 憲長は自衛隊と自分の与えられた役割に対してやや不満げではあったが、軍議では終始無言を貫いた。
 彼には彼の心積もりがあったし、自衛隊の能力と、戦い方は佐野から既に説明と話し合いを行って、行動指針を決めていたからである。
 憲長と自衛隊は軍議での決定には大体従うが、細かいところで方針を一部無視するつもりだった。

 「それで、戦車とはつまり、騎馬武者のように徒歩の足軽よりも早く動くことと、突進力で相手を突き崩すのが役目というわけだな?」

 「我々の時代の戦車は昔の、といっても我々の世界での昔の時代になりますが、騎兵の役割を担っていると例えられますので、それでおおむね合っています」

 憲長は佐野が説明する戦車の運用とその能力を特に抵抗感なく理解していた。
 元々役割が似たようなものであるし、初期の戦車部隊は騎兵を改変して編成されたものもあるだけに、当然とも言える。
 そして、機動力こそが武器である、という佐野の発言には、ひとしきり頷いて感心した後こんな話を始めた。

 「駒斐の国に武川法春院信治という武将がおる。 駒斐は古くからの馬の産地だが、武川勢は武川騎馬軍団と
異名を取るほど騎馬武者の比率が多い。 全軍を騎馬武者に出来るほどでは無いが、な。
 戦力としてだけでなく兵站の輸送にもふんだんに馬を使えるゆえ、武川の軍は移動が早い。 全軍が動くのが早ければ、
それだけ有利に戦をすることが出来る。 敵に対応する暇を与えのだからな。
 お主らの軍も、そうした機動力、を武器にしておるのか?」

 「全てではありませんが。 そういうものを機械化部隊といいます。 機甲部隊…戦車に追随して相互に支援しあうことでさらに強力になります」

 成る程な、と言って憲長はまた感心した。
 佐野はその他に諸兵科連合や航空部隊の支援を受けた電撃戦などについていくつかの戦史を交えて説明したが、
憲長はそれらに対しても早い理解力を示していた。
 教えれば教えるだけ吸収してゆくし、応用力もそれなりのものがあった。
 小一時間ばかりはそうした近代戦の講義に終始し、見かねた鹿嶋が佐野と憲長に促して本題に戻るという一幕もあった。


 「佐野、お主が言う戦車の力が言葉どおりなら、戦車一台で騎馬武者が50は集まる以上の働きが出来よう。
となれば、だ。 我々は浅野を驚かすいわば「勢子」に甘んじている必要はないであろう?」

 「その通りです。 我々が全力を出せば、黒田軍本隊が戦う必要もなく勝利することが出来るでしょう」

 憲長と佐野、鹿嶋以下各班隊の班長は地図を広げて作戦の検討と打ち合わせに入った。
 現在判っている浅野の動員兵力はおよそ4千。 対して黒田は2千5百(+自衛隊)。 浅野の魚鱗陣形に対して黒田は鶴翼陣形である。
 憲長隊(自衛隊)の配置は最右翼、柴田隊が反対側となる最左翼に位置し、それぞれ兵を伏せて機会を待つ。
 両翼の部隊の存在が察知されない場合、浅野からは黒田は一見防戦に適した方陣形に見えるため、浅野が数に
頼み中央突破に適した陣形で一息に蹂躙しようとするだろう。
 そして伏兵に気づかないまま突撃して来たのを見計らって両翼から挟撃する。

 「多少、読みが楽観的といいますか、浅野がこういう予測どおりに動くという根拠はどこにあるんです?」

 鹿嶋の質問に、憲長は特にどうということはないという風に平然と答える。

 「浅野の常套手段だからだ。 馬鹿の一つ覚えともいう。 浅野の大将、浅野幸成は戦は力押しする物だと思っているからのう」

 「そりゃあ…相手より自分の数が上まわってるなら小細工を弄する必要もなく勝てるわけですから、正しいといえば正しいですが」

 物量とは力である。 大軍を動員する力があるということは兵站を維持する経済力もあるし、矢や予備の槍・刀を
用意して湯水のように消費することも出来る。
 ならばそのままその力を全力で投入して、勝ってしまえばいいのだ。 火力(戦力)の集中は孫子の昔からの基本だ。

 「他に浅野の使う手といえば、主力が戦っている間に別働隊を我がほうの小城や砦に向かわせて、奪ってしまうことだ。
元より黒田は兵が少ない。 守備に回せる兵も足りぬ、包囲も怖い。 ゆえに補給線を守る各砦が奪われれば、後退するしかない」

 自衛隊が最初に浅野の兵と遭遇したときも、浅野はその戦術を使った。
 それは記憶に新しく、自衛隊は数名の…といっても大きな損害になる、死傷者を出したのである。
 その意味でも浅野は仲間たちの仇と言える。

 「あの時は我々は状況が把握できず、また自らに枷を持っていた。 今は存分に力を振るっても、誰にも咎められはしません」

 「うむ、期待している。 でなければお主らを説き伏せたかいが無い。 さらに今回は浅野が正面決戦を挑むように、
前もって間者(情報工作員)を使って誘導しておる。 我らは前もって布陣を完了し、迎え撃てばいい」

 佐野と憲長は互いに頷きあった。
 佐野が「自衛官」を捨てた理由の一つ、それは自衛隊ならば自己防衛のためにしか実力行使をすることはできず、
それも最低限にしか武器を使うことはできないが、自衛隊を脱した今は砲弾も銃弾もいくら使っても、咎める法も人も誰もいないのだ。
 少なくともこの世界には。 オールウェポンズフリーである。 ただし…弾薬の補給が望めないことだけを除外すれば。

 「ならば、脅かす役と言わず、いっそ本陣に突撃敢行してしまいましょう」

 「あわよくば、大将の首を取るというわけですか」

 「砲で首ごと吹き飛ばしてしまいかねませんな」

 「戦車で轢いたら夢見が悪い、ははは…」

 数日前の牢内での一件など吹き飛ばすかのように、各班長たちは戦いに乗り気になっており、殆ど勝ったような雰囲気にすら成りつつあった。
 近代技術の粋である戦車と、刀や槍の時代の歩兵では戦力比較は文字通り象と蟻のそれである、負ける要素が無い、という自信もある。
 そして話の最後のほうは多少物騒な冗談交じりになっていた。


 それらを見ながら戦車への草木を貼り付ける偽装の作業を行う一部の、なおも自衛官であり続けることを
望む「元部下」たち数名は穏やかでない視線を佐野や鹿嶋に向けていたが、気づかれることは無かった。

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