自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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「で、空中にゲートを作ることは可能…と。問題無いようだね。日本の誇る海上自衛隊が参加できないのは残念だが…」
 無数の記者に追いまわされてようやく一息ついた首相は、官邸の一室で待っていた「客人」に握手を求めた。
 その身なりでは目立ちすぎるから、と半ば無理矢理にスーツを着込ませ散髪させられた魔道師が、困惑した表情で答えた。
「どうも異界の服は落ち着きませんな…」
 首相はフフフと控えめに笑うと、目の前の机に寄りかかって彼の方を向いた。
「うん、君の存在は秘密になっているのでね、不便をかけて申し訳ない。宿舎に戻ったら着替えてもらって構わないよ。その服は進呈しよう。日本土産にしたまえ」
 首が苦しいのか、魔道師は慣れぬネクタイの結び目を気にしながら続けた。
「まさか本当に魔法具を空中に固定することが可能とは思いませんでした」
 先日、入り口と出口にゲートを作り出す魔法具を空中に固定できれば空中にゲートを開くことは可能、と言ったのは彼だった。彼の常識の中では不可能なことであったので、事も無げにできるよ、と返された時は、彼の頭の中は真っ白になった。世界が違うと自分の常識もほとんど通用しないということを肌で感じた。
 首相は部屋の片隅に置いてあった地球儀の方へ歩いていき、おもむろに手を伸ばすと、それを指で撫でるように回した。
「空を飛び宇宙を駆け巡る、こちらの現代科学を侮ってもらっては困るよ。ヘリ、気球、飛行船…とは言え、ゲートの魔法や賢者の石などは無い訳だから、それほど自慢になることでもないがね。で」
 首相は部屋にいるもう一人に話の矛先を向けた。深い緑色の制服を着た中年の男が軽く頭を下げた。
「計画は順調かな?」
「はっ!形は整いました。詳しくは机に置きました書類に」
 すでに概要は聞かされていた首相は、ぱらぱらっと書類をめくると机に投げて戻した。
「ふむ。この計画だと美味しいところは取られてしまう訳だが…まあ我々も向こうに飛び地をもらう訳だから、あまりはしゃいで向こうと関係を切られても困るな。相手の顔を立てつつ、主役を食うくらいの活躍を、ね」
 首相は満足げな顔で頷き、閣僚が待つ部屋へと向かおうとしたが、思い出したように振り向いた。
「そういえば、言っちゃ悪いが君んとこの軍の将軍がアホの人だって聞いたんだが、ほんとに大丈夫?」
 魔道師は苦笑いしながら首をかしげた。

 閣僚が談笑する中、首相は話を制するように手を振った。フフフと言う含み笑いも彼らの中から少し漏れた。
「秘密のことだから、別にこう言う必要は無いのだが、まあ、雰囲気的にね。では、同盟国ボレアリアの国土回復のため、集団的自衛権を行使し──」
 彼は一息おいて勢いよく言った。
「──防衛出動を発令する」

 よく晴れ上がった水色の空に見たことのない一直線の雲が浮かんでいた。地球では飛行機雲と呼ばれるその雲を、ボレアリアの多くの民が見上げ、口々に不吉だの幸運の前兆だのと噂した。何かが小さくその雲の先端で飛行していることに気付いた者もいたが、それが何であるのかは、事情を知っている人間以外はわからなかった。流れ星が雲を作ったと騒ぎ立てる者もいた。
 国王とフワンもまた城のテラスから上空を眺めていた。地上から送り込んだヘリが上空で魔法具を垂らしゲートを開け、偵察機が空中に飛び出てくる様を、彼らは間近で見た。まず彼らは騒音に腰を抜かした。
「あれが飛行機という科学の怪物か。人があのような高空を乗り物で自在に駆けるとは──この目で見ても信じられぬ」
 上空の偵察機を目を凝らして見ていた国王が呆れたように呟いた。
「ええ、一度実物に乗りましたが、恐ろしい速さで移動する乗り物です。日の出から日没までで三千里は進むとか…。魔道師でも飛翔魔法を使えばごく短時間は飛べますが、あんな速度はとても」
 国王は空から視線をはずし、ため息をついた。
「やはり『親』──異界から力を借りるのはまずかったか。まるで計り知れぬ」
 フワンは驚きと不安で戸惑う国王を、後ろに腕を組んだまま強い口調でたしなめた。
「今更引く訳には参りません。彼らには何としても国土を取り返してもらわねば。今引いては、何のために莫大な費用を使って賢者の石をかき集め、ゲートを開く魔法具を大量に製造したのか」
 国王は気圧されたのか、うつむいて呟いた。
「う、うむ。仔細は任せる。もはや勝つために手段を選ぶ余裕はない。そうだなフワン」
「はい」
 もはや一蓮托生なのだ、彼らが勝てねば滅びる、と心の中で呟いた。
「……国が滅んで秩序だけ残ってもどうにもなりませぬ故」

 二国の軍が対峙する国境地帯でも、同じような光景が繰り広げられていた。国境近くの町の住民が騒ぎおののき、フォリシアの兵士が騒動を抑えるのに奔走していた。
「あれが噂に聞いた異界の鉄の鳥か!」
 軍の指揮に戻ったオベアはちょうど前線を視察に訪れていた。妻に聞いた異界の高度文明の話。他言はほとんどしていないものの、偶然開いた次元の穴から稀に迷い込む地球世界の人間から伝わるその話を知る者は、軍の中にもぽつぽつといた。御伽話のようなものとしてではあるが。
 オベアは急ぎ町の一角にある魔道師部隊の詰め所へ向かった。中にはローブを着た魔道師達が、かの物体について喧々諤々の論議を重ねているところだった。
「あれ、落とせるか?」
 着くなり彼らにそう問うた。室内は静まり返り、皆首を振りため息をついた。
「高すぎて、火球も雷撃もここからでは…。天候を変える魔法は魔方陣を引くのに時間がかかりすぎてとても」
「そうか。では偵察鳥を飛ばすぞ。水晶球と鳥の視界を連結させろ。近くで見れば何かわかるかもしれんしな」
 隊で飼育されている偵察専用の鷹の目に映っている映像が、魔道師の掌に包まれた水晶球に映し出されていく。窓から放たれた鷹はたちまちに高度を上げ、空自の偵察機に追いつかんと羽ばたいた。
 しかし、機の姿は大きくなるどころかどんどん遠く小さくなるばかりだった。
「…速い!どんな速さで飛んでいる、あの鉄の鳥は!」
 音速に届こうかという速さで飛ぶ偵察機に鳥が追いつくのは土台無理な話ではあるが、もちろん彼らがそんなことを知るはずもなく、ただ首を傾げるばかりだった。
 しばらく後を追わせていたが、視界から消えたところで彼は鷹を引き上げさせた。
 戻ってくる鳥の姿が小さな点からだんだんに近づいてくる様子を眺めながら、彼は妻の故郷と敵国が手を組んだということに思いを馳せていた。
「バカどもが…異界などから力を借りたが最後、隅から隅まで食い物にされるぞ…」
 そして眉間に深く皺を寄せた彼は絶望的な問題に対処すべく、重い頭を働かせ始めた。
「国中に張った対ゲート結界でどこまで持ちこたえられるものやら…」
 軍の内々では先に日本政府が考えたことは逆にしても成立することに気付いていた。ゲートはこの世界と地球しか結べないが、地球世界を経由すればこちらの世界のどこにでも直ちに軍を展開できるのである。異界を恐れ敬い、次元の狭間から迷い込んだ者も丁重に送り返していたこの世界の人間には、異界は行ったが最後、二度と帰れぬところとの常識であった。実際、地球世界にはゲート魔法が存在しないので、用意のない者が戻って来れないのは事実である。
 しかし、用意のある者となれば話は別だ。
「ゲートなどという、金がかかる割りに全く使えない魔法がこんな切り札になるとはな」
 オベアはすぐに席を立ち、紙に事の重要性と至急性をしたためた。
「都に伝書鳩を飛ばせぃ!」

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