自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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 大陸の北辺、寒風に閉ざされた半島に位置するドラゴニア。かつては大陸の支配者であったドラゴンの終の棲家である。膨大な魔力と強大な体格、優秀な頭脳を持っている彼らではあったが、人との争いを好まず自らこの辺境の地へと移動してきた。人々はドラゴンを恐れ、立ち入ることはほとんどなかった。たまにさまよい入ってくる狩人とも折り合いをつけて暮らしていた。
 その土地の西の端には切り立った崖に面する平坦な岩場があった。そこはドラゴン達の会合場所となっていて、今も数頭の長老級のドラゴンが集まり、情報の交換を行っていた。
 ドラゴンの間では、以前自衛隊に倒されたあのファイアードラゴンの話が頻繁に上ってきていた。雲のたゆたう空に異形のドラゴンのしゃがれ声が響いた。通称黒竜と呼ばれる長老の一人だ。
「あのはぐれめが、さっくり殺られたという話は聞いたか?」
「聞いた…まあ、奴ははぐれだからな。どうということはない。スピラールとかいう人間の庇護を受けていたという…。ドラゴンの恥晒しめ、死んでせいせいしたわ」
「あの愚か者が死ぬのは構わんが、それにしても異界の軍の強さ…尋常ではない」
 長老達が次々と輪に加わって話し始めた。知を誇るドラゴンといえどもやはり異界に関する知識は薄く、異界の軍の戦況などは興味津々、聞きたくてしょうがないという者が大勢いた。
 話の最中、一頭の青いドラゴンが空の果てよりその場へふわりと舞い降りた。彼は周りを見回し叫んだ。
「金竜様はおいでか!?」
「戻ったか、イブートス」
 どこからともなく声が響いてきたと同時に、小さな岩山の陰からドラゴンの長老を束ねる金竜、サイリスが脇からのそりと姿を現した。全長は数十メートルになろうかという巨体はさすがの金竜といえども重すぎて、体を動かすのに難儀している様子だった。
 青いドラゴンは金竜の前でかしこまり、これまでに集めてきた情報を語った。
「異界の軍はこちらへ侵略をしに来たというわけではない様子。何らかの見返りをもってボレアリアに協力しているという立場のようです。旧領土を奪還したところで講和を望んでいると聞いております」
 報告を聞いてサイリスはまずは一安心というように息をついた。
「今しばらく様子を見よう…まだ焦って何かする時ではあるまい」
 傍らの白い老竜が伏し目がちにつぶやいた。
「いずれ我らを駆逐しに来るのか否か。それだけが心配だ…」
「うむ…イブートス、人に変化し人並みの魔力しか扱えなくなるお前を、単身人界へ放り出すのは心配だが…引き続き情報を集めてきておくれ」
 昨今は新しく生を受けるドラゴンの数もめっきりと少なくなっていた。将来を担う若いドラゴンに何かあっては一大事だが、老竜には人に変化しながら社会にもぐりこむのは体力的に厳しい仕事だった。そんな仕事を頼まなければならないのが、金竜は申し訳なくて仕様がなかった。
「畏まりました」
 若いドラゴンは旅の疲れを癒す間もなく、再び寒風の吹き荒れる空へと舞い上がっていった。

 闇夜に包まれた自衛隊の宿営地を走り回る小さな影が二つ、三つ。それは小さな灰色のネズミだった。彼らは細い糸のようなものを口にくわえながら地面を嗅ぎまわることを繰り返していた。見張りの隊員の目を巧妙にかいくぐりながら、彼らは数本のそれを集めることに成功していた。
 頃合を見て彼らはその場を脱出し、ほど近くの木陰の一角にそれを集めた。その木の枝には鷹が待っていた。フォリシア軍が魔法の訓練を施した偵察に使われる鷹だ。鷹は彼らが集めたものを素早く爪で掴み取ると、静かに闇の中に姿を消した。

「そういう風に髪の毛を取ってくるわけだよ。敵陣地からね」
 数日前の作戦会議の席で、オベアは各将校の前で今回の作戦の仕組みを述べた。以前に重臣達に説明した作戦を、彼は今まさに実行に移そうとしていた。
「実際、どのくらい集まるものだか…こればかりはやってみなければ予測できないな」
 相手を離れたところから念で殺す呪殺は対象の体の一部がないと実行できない。彼らが相手のそれを手に入れるために考え出した苦肉の策が、小動物を駆使して髪を集めるという方法だった。
 魔道師部隊を担当する副官が、不安を口にした。
「ネズミは難しいですよ…細かく操るには脳が足りませんから。直接鳥でいった方が」
「鳥は目立つ。地べたに這いつくばる動物じゃなければ、数を集められん」
 オベアに一蹴された副官は覚悟を決めたように、一つため息をつき周囲への指示に入った。
 上に覆いかぶさるように葉が生い茂り、日中でも陽の光がほとんど差し込まない森の奥、木陰に隠れるようにして地下水脈へと繋がる洞窟があった。葉の間からわずかに木漏れ日が差すそこが、オベア率いる国境防衛隊の前線基地だった。
 オベアと数人の副官が入り口から姿を現した。森中に作られた対ゲート結界の作成班にペースを上げるように指令し、オベアは歩きながら副官に聞いた。
「敵は少ない…確かなのだな」
「はい。こちら方面の敵軍は偵察鳥の目から概算して、数千ですね…多くても一万はいないでしょう」
「全員精鋭だろうなぁ」
 彼は歩みを止め、木陰に入るとその木に背中を預けた。片手が無意識のうちに頭を覆っていた。
「あちらはわずかな死者でも被害は大きいはずだ。こちらの手の内がばれないうちに戦力を削り取っておかなくては」

 果たして夜が明け、自衛隊の南方方面隊宿営地では午前中に相次いで十二人が死亡した。たちまち隊の内は大騒ぎになった。まず食事に毒が混入していなかったかが調べられ、その後にボレアリア軍の魔道師による検分が始まった。魔道師はほどなくこれが呪殺であることを見破った。魔力が体に侵食して破壊した痕跡は新米の魔道師でもすぐにわかるものだからだ。
 初めての死者が出て隊の指揮官、森崎一佐は動揺した。至急日本の方にある司令部に連絡を取ると、隊員の遺体が安置されている場に駆けつけた。彼は周りに不安を感染さないように努めて冷静を装いながら、深くため息をついた。
「…これはないな」
 魔法攻撃はおそらく自分達地球世界側から見れば理不尽な攻撃であることはわかっていたにしても、こうして実際に受けるまで実感というものはなかった。こちらに伝わる各地の秘密宗教などでも呪殺の儀式などはあるものの、それで実際に殺された人間などの話は聞いたことがなかった。少しだけ、彼の背筋に冷たいものが走った。
「さて、どうするか…」
 無条件で相手がこちらを殺せるなら、最初からやっているはずだ。それはない。森崎一佐は部隊に随行する魔道師に質問した。
「この呪殺というのはどういう条件が揃えばできるのかな?」
 死んだ隊員に手をかざすようにして魔力の痕跡を探っていた魔道師が、手を止めて答えた。
「相手の体の一部を手に入れること…ですね。体の一部に特殊な念の送り方を駆使すると持ち主へ遡っていかせることができます。それを利用して精神を破壊するのが呪殺魔法です」
 大まかに仕組みを聞いた森崎一佐は、率直に質問した。
「敵が我々の体の一部を手に入れるとして、君は心当たりがあるか?」
「毛髪以外は可能性がないと考えていいですね。しかし…」
 魔道師は眉間にしわを寄せた。
「手段まではわかりません」
 隊員が死ぬのは戦なら仕方がない。しかし対処方法がわからずにこの場に留まるのはやってはいけない。無駄に隊員が死ぬだけだ。すぐに対処できないようなら撤退も考えなければならない。
「とにかく、昨夜何が起こったのか情報を集めなければ埒が明かないな」
 司令部は昨夜の見回りに当たっていた者に事情を聞いたが、特に明らかな異変は報告されなかった。一人の何気ない発言が出てくるまでは。
「そういえば、ネズミのような小動物が走っていたのを見たような…屋外なので大して気にもしていなかったのですが」
「それか!」
 魔道師は黒いローブを揺らして身を乗り出した。
「小動物を操って毛髪を拾ってこさせるとは…形振り構わずか」
 横で彼の呟きを聞いた森崎は部下に日本の司令部と回線を繋ぐように命じた。
「なるほど、動物を操って落ちた毛髪を持ち去る、と」
 対策を講じるべく、森崎は自衛隊の幹部との連絡がつく司令車へ向かった。
 通信機の向こうからは、日本にいる溝山陸将補からの渋い声が聞こえてきた。
「いきなり十二人もやられたそうだねぇ…まあいい。そっちは何とかなりそうかな?」
「髪をなんとかしないと駄目なようですね」
 森崎は事の次第を説明した。屋外なのでいきなり全員の毛髪を切らせるのはかえって危ないこと、小動物まで完全にシャットダウンするのは難しいことを言うと、陸将補は
「誰も死ななくなるまで『薄めて』しまえばいいだろうな。気づかれない程度の動物しかいないんだろう?なら、集められる髪の量もたかが知れてる。すぐ送ろう」
「? 薄めるとは?」
 意図を読み取れなかった一佐が聞き直すと、
「誰も死なない髪を大量に撒けばいいということだ」
「なるほど」
 合点のいった森崎からはようやく今日初めての笑みが漏れた。

「日本国総理大臣閣下に敬礼!」
 槍を傍らに立て、白い軍服を着込んだ直立不動の儀杖兵が、派手な文様をあしらった絨毯をゆっくりと歩む首相を見送る。首都リクマイス近郊に設置されたゲートをくぐり現れた首相は、腕を折り曲げ額に当てる日本側の敬礼を返し、送迎用の馬車に乗り込んだ。緩やかに進み始める馬車の中、首相は小窓から外を見た。
「ほう、綺麗なもんだ。科学文明が無いとはいえ、未開の地じゃあないな」
 窓の外には首都の石造りの家が整然と並んでいた。中心の広場から環状に配置された道路は、高度な都市計画の元に街が設計されているということを一目、二目見ただけで感じさせるものだった。
 今回はボレアリア側に招請されての秘密会談である。もちろん秘密なのは日本側だけであり、異界側では国賓として大々的に歓迎式典が催された。重臣の一部に反対した者はいたが王自身が乗り気だったこともあり、彼らは急ピッチで賓客を迎える支度を整えた。
 窓の外では道の脇に立つ市民がボレアリア国旗と日の丸を一生懸命振っていた。
「急拵えにしては仕込みも上々、と」
 国旗を振る演出は元々異界の慣習にはないものだった。日本に来た連絡員が調べて報告したのだ。首相はこの会談にかける異界側の意気込みをひしひしと感じた。
 通りを過ぎ、王宮のある北西の丘を登る。石畳の段差でごとんごとんと馬車が揺れた。その先に王宮があった。城の前では国王以下重臣が勢ぞろいで首相を待ち受けていた。
 馬車から降り立った首相は眼前で迎える国王に対して、異界側の挨拶である右手で頬に触れる仕草をし、国王もそれを返した。臣下の一部からは「彼も国臣の身分でありながら対等に振舞うとは、無礼な…」などとの呟きも漏れたものの、特に混乱もなくセレモニーは進行した。
 夜、晩餐会の会場は城の大広間だった。吹き抜けになっている広大な空間に並べられたテーブルに王族がずらりと並んだ。
「日本の皇族方とも是非お話したかったのに」
 着飾った王妃が談笑中、首相に何気なく一言呟いた。
「いずれ表敬訪問なども予定しています…こちらの世界との縁を持ってからまだいくらも経っておりません故、今日のところは政務の一切を担当する私が代表して参りました」
「百二十五代も続く由緒正しき一族とか…永きに渡って代々仁政を貫かれたのでしょうね。楽しみにしていますよ」
 今回の動きは自衛隊と政府のごく一部しか知らされていないことである。予定などあるはずもなかったが、とりあえず話の腰を折らぬよう彼は取り繕った。
 王妃に続け、とばかりに他の王族や貴族もここぞとばかりに首相に擦り寄ってきた。
「異界の大国、日本は大変に豊かな国だと聞いております。是非その成功の秘訣をお教え願いたい」
「いやいや、あのような想像を絶する兵器、装備の話が先ですぞ!」
 にじり寄ってくる彼らに気圧されながらも、首相は深夜まで相手をした。
 翌日。トップ同士の会談が始まった。表向きは同盟の確認と、相互支援の増加などありきたりな話に終始した。会談を終えて少し疲れた表情を見せた国王は、首相がこの席に付けた通訳を見て疑問を口にした。
「先日、翻訳魔法を封じた指輪を差し上げたはずだが…それをはずしてわざわざ会談に通訳を用いたのはどういう訳かね?」
 ああ、と含み笑いを浮かべた首相はポケットから指輪を取り出し、差し込んだ。
「あれはこちらの方の習慣でしてね。何か行き違いがあっても通訳が間違ったと、そういう事です。何しろこちらの世界は物騒なもので…」
「異界には世界を滅ぼせる軍がいくつもある…となると、そこまで用心深くなってしまうのですかな」
 首相は苦笑し休憩を取るため席を立った。国王は周りを見回し、侍従にフワンを呼ぶようにと言付け、別室へ向かった。
 休憩から戻った首相がその別室に入ると、すでに国王とフワンは丸いテーブルの前で席についていた。国王が自らハーブ茶を淹れてみせ、席に着くように勧めた。
「陛下御自ら淹れて下さった茶は美味ですなあ」
 茶を一口、二口すすった首相にフワンが言った。
「以前にも申しましたが、我らが陛下は臣下の者にも気取らず気さくに接して下さる。機嫌などを気になさる必要はない。率直な話をしましょう。そのための席ですからね」
「まあ今日話すことは一つだけだが」
 と、国王が口火を切った。
「評議会を交渉役にしたのは全く失敗だった。奴らは我々が日本と手を切る前提でしかものを考えない。話にならん」
 実のところ、彼らも賠償金は要らないと伝えていたのである。五億リートというのは『もし異界の軍と手を切るならば』という仮定の話での金額だったのだが、評議会側にはボレアリアが今後も異界と手を組んだままというのは受け入れがたい結末だった。そういう訳で賠償金不要の話は交渉人によって消されてしまったのである。評議会は戦いに関わってはいないが、異界の者に対して中立ではない。事前にそのことに気付かなかったのはボレアリアと日本側の大きなミスだった。
「彼らは切るとして、さて他に調停を頼める相手は…これはあなた方に頼むしかないのでね…」
 首相は眉間にしわを寄せ、懐から取り出したタバコに火をつけた。
 フワンは目の前で組んだ手を口に当て、両肘をテーブルについた。
「やはり、攻め落とすというのはまずいんですよね…あれほど強大な力があって…なんともどかしいことだ…」
「まずい」
 即答した首相が鋭い視線をフワンに向けた。
「追い詰められた敵が君らと同じ事をしないわけがない」

 アメリカ合衆国ワシントンD.C.には、第4代大統領が壁面を白く塗ったためホワイトハウスと呼ばれるようになった建物があり、米国大統領府の通称として定着している。ここで大統領は様々な執務、会見、公式行事などを行う。
 大統領の公邸としても使われているこの建物の一室、現大統領がソファに体を投げ出しながら愚痴を一人こぼしていた。
「あの民主党のファッキンババア!俺のやることにいちいち噛み付いて、うるさくてしょうがない。旦那も大人しくなったことだし躾けてやらんといけんな!」
 大声を出してしまったせいか、愛犬が側に寄ってきた。犬は心配そうに飼い主に瞳を向け鼻をふんふん鳴らした。
「オーウ、バァァニィ。心配させてしまったのかい?お前はまだまだ元気だからメス犬の一匹や二匹やり込めてしまうのは簡単だろう?俺はもうジジイさ」
 彼は顔を寄せて愛犬の頭をもそもそと撫でた。
 犬とじゃれていると部屋のドアが開き、彼の父親がしかめ面で現れた。顔を見て大統領は犬を腹に抱いて向き直った。
「ようこそダディ。ディックはまだまだ元気かい?」
「死ぬまで現役だ、フフフ」
 父親は少しだけ顔をほころばせると、大統領の隣へ腰掛けた。一息つくと、父親は唐突に切り出した。
「日本でなんだか不審な動きが起こってるらしいじゃないか」
 大統領は怪訝な顔をして愛犬を床に放した。
「どこかで演習でもやってるのかと思っていたけど、違うのかい?ダディ」
 父親はクリーム色のカーディガンのポケットから紙切れを取り出した。
「12人死亡、死因は不明。衛星で見たってどこでやってるんだ?演習を。12人も死ぬようなことがあったら大騒ぎだぞ。普通はな」
 テーブルの水差しからコップに水を注いで一口飲み、父親は続けた。
「エシュロンにも引っ掛からんように何か隠しに隠しているようだが、我が合衆国の目は節穴ではない。だろう?プレジデント」
 大統領は眉間にしわを寄せてソファを立った。どこに行くでもなく、その場を行っては戻りしながら言った。
「マイフレンドは時にやんちゃをやらかすようだから、ダディが言うならそうなんだろう。…全く、大事は何でも俺に相談してくれないと困るな」
「息子よ」
 大統領と入れ替わりにごろ寝を決め込んだ父親は、指を立てて言った。
「かすかな利権の臭いも見逃してはいけないよ。日本の利権は合衆国にもおすそ分けして頂かなければな。合衆国の利権はもちろん合衆国のものだ」
 息子は苦笑しながら両手を広げた。
「ダディのがめつさには全く恐れ入るよ」
 父親はそれを聞いて愉快そうにひとしきり笑った。そして息が切れたところで不敵に言った。
「では、現大統領のお手並み拝見といこうか」

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