325 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:27 [ imAIk9NE ]
ラーヴィナ候ウェルズ邸。
「あっ、アルクアイ様、お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ、お早いお着きで。」
「ああ。」
出迎えをする使用人達への返礼もそこそこにアルクアイは乱暴に扉を開けた。
そしてそのまま奥のウェルズの寝室に直行する。
大きな音を立て扉が開かれた。
「ウェルズ様!」
「あっ、アルクアイ様・・・戻られたのですか?」
「具合はどうだ?」
「はい、アルクアイ様が出られてから快方に向かっていて・・・まだ安心できる状況ではありませんが。」
「そうか・・・ご苦労だったな。」
ベッドの傍に控える医者がアルクアイのほうを振り返る。
その頬は大分青くなっていて徹夜の看病が続いたことを示していた。
といってもこの文明の医療、浣腸と瀉血以外治療らしい治療もできなかったのだが。
アルクアイがベッドの傍まで行くとそこには骨と皮だけのようになった萎れた老人が横たわっていた。
それ人物こそがウェルズ侯本人であった。
「ウェルズ様・・・アルクアイです。」
ウェルズの傍で侍りそっと話しかける。
その姿はまるで子供が親を心配する姿のように医者には見えた。
いや、このウェルズに長い間仕えていた医者はアルクアイが父親のようにウェルズのことを慕っていたことを知っていた。
326 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:28 [ imAIk9NE ]
「おお・・・アルクアイ…か。」
「はい、ウェルズ様。ただ今帰還いたしました。そしてその件で報告したいことが二つ。」
そう聞いてウェルズは身体を起こした、あわてて使用人が身体を支える。
アルクアイはその姿を悲しげに見ている、そのように医者には見えた。
「なんだ・・・?」
「はい、一つは途中で新たに召還された国の軍隊と衝突し、奴隷の収穫に失敗しました。申し訳ありません、ただ船に被害はほとんどありませんでした。」
そう、ゼナの乗っていた自爆するよう指示を出した船でさえもだ。
これにはアルクアイでも驚愕した。
セフェティナが向こうに行ったままなのが気にかかるが彼女はウェルズ侯ではなく王の部下のために手を出すことはできない。
「そうかそうか・・・それで十分だ。」
ウェルズは優しげに微笑む。若いころは富国強兵に燃えたこの男もこの年齢になり、
身体も弱まるともはや欲も無くなる様だった。
327 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:28 [ imAIk9NE ]
「もう一つは?」
「はい。ウェルズ様のお身体のことです。」
「む?」
ウェルズは意外そうな顔をした、しばらく航海に出ていたこの男が何故自分の体のことを言うのか。
「最近快方に向かっておられると聞きましたが。」
「ああ。」
「実はそれには訳があるのです。」
「訳・・・とは?」
ウェルズが促すとアルクアイは扉に控えている使用人に目で合図をした。
扉が開かれ、一人の男が入ってくる。
ジファンの部下だった男であった。
「説明を。」
「はい。」
アルクアイに促されると男はおずおずと話し出した。
328 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:29 [ imAIk9NE ]
男が話し始めると部屋は水をうったように静寂に満ちた。
男の話した内容は平たく言うとジファンの告発であり。
「ジファンが食事のたびにウェルズの食事に毒を混ぜていた、」と言うものだった。
男が話し終えるとウェルズは呆然として目も虚ろになってしまった。
そしてその彼を現実に引き戻したのはアルクアイの声であった。
彼の声は悲しみに震えているような声だった。目には涙が溢れ声も切れ切れになっていた。
「そして私は航海中にこのことを聞き、ジファンが許せなくなり、彼を切り捨てました。
しかしどんな理由があるともこれは身分が上の者への裏切り。・・・申し訳・・・ありませんでした。」
突然の告白に誰もが唖然とする。この領の実質上のナンバー2をこの男は殺したと言うのだ。
そしてそれは更に続いた。
「これは許されることではありません、どうか私を処刑してください!」
そう言ってアルクアイは地面に頭をこすりつけた。
329 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:29 [ imAIk9NE ]
しばらく黙っていたウェルズの頬に涙が流れ落ちた。
彼は震える手でアルクアイに触れた。
「おお・・・顔を上げてくれ、私のもう一人の息子よ・・・。」
「ウェルズ・・・様・・・。」
もう一人の息子、とはウェルズには一人息子がいた。
しかし勤勉な父とは違い女と詩に溺れ、絵に描いたような愚息であり、皆の不安も大きかった。
それだけにこの「もう一人の息子」と言う言葉は大きな重みを持った。
「お前の行動は忠誠から出たもの・・・誰が攻められようか・・・。」
「ウェルズ様・・・っ!」
アルクアイはそんな政治的な考えなどかき消すようにウェルズのひざに突っ伏した。
その目からは涙が止めどなく流れている。周りの人間もまた皆涙を流していた。
誰が気付くだろうか、この男の涙も言う言葉も全てが偽りであることを。
アルクアイの言葉が嘘だという事を知っている告発した男でさえもそのことを忘れ涙を流していた。
330 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:30 [ imAIk9NE ]
しばらくして皆が落ち着いた後ウェルズは言った。
その声は子供をあやすように優しかった。
「アルクアイよ・・・、私はもうこの身体では政治はほとんど執れない。
しかし息子ウェルンはあの調子だ・・・。だから我々二代に渡ってお前に補佐を任せたい。
頼めるか、我が息子よ・・・?」
「はい。義父上・・・。」
アルクアイは平伏した。
誰もが見ても美しい主従関係の瞬間だっただろう。
その部屋に居る者全ての表情が明るくなった。
しかしそれはアルクアイがアジェントの中でも随一と言ってもいいほどの富強を誇るラーヴィナ領における実質的な支配権を持った瞬間でもあった。
ラーヴィナ候ウェルズ邸。
「あっ、アルクアイ様、お帰りなさいませ。」
「お帰りなさいませ、お早いお着きで。」
「ああ。」
出迎えをする使用人達への返礼もそこそこにアルクアイは乱暴に扉を開けた。
そしてそのまま奥のウェルズの寝室に直行する。
大きな音を立て扉が開かれた。
「ウェルズ様!」
「あっ、アルクアイ様・・・戻られたのですか?」
「具合はどうだ?」
「はい、アルクアイ様が出られてから快方に向かっていて・・・まだ安心できる状況ではありませんが。」
「そうか・・・ご苦労だったな。」
ベッドの傍に控える医者がアルクアイのほうを振り返る。
その頬は大分青くなっていて徹夜の看病が続いたことを示していた。
といってもこの文明の医療、浣腸と瀉血以外治療らしい治療もできなかったのだが。
アルクアイがベッドの傍まで行くとそこには骨と皮だけのようになった萎れた老人が横たわっていた。
それ人物こそがウェルズ侯本人であった。
「ウェルズ様・・・アルクアイです。」
ウェルズの傍で侍りそっと話しかける。
その姿はまるで子供が親を心配する姿のように医者には見えた。
いや、このウェルズに長い間仕えていた医者はアルクアイが父親のようにウェルズのことを慕っていたことを知っていた。
326 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:28 [ imAIk9NE ]
「おお・・・アルクアイ…か。」
「はい、ウェルズ様。ただ今帰還いたしました。そしてその件で報告したいことが二つ。」
そう聞いてウェルズは身体を起こした、あわてて使用人が身体を支える。
アルクアイはその姿を悲しげに見ている、そのように医者には見えた。
「なんだ・・・?」
「はい、一つは途中で新たに召還された国の軍隊と衝突し、奴隷の収穫に失敗しました。申し訳ありません、ただ船に被害はほとんどありませんでした。」
そう、ゼナの乗っていた自爆するよう指示を出した船でさえもだ。
これにはアルクアイでも驚愕した。
セフェティナが向こうに行ったままなのが気にかかるが彼女はウェルズ侯ではなく王の部下のために手を出すことはできない。
「そうかそうか・・・それで十分だ。」
ウェルズは優しげに微笑む。若いころは富国強兵に燃えたこの男もこの年齢になり、
身体も弱まるともはや欲も無くなる様だった。
327 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:28 [ imAIk9NE ]
「もう一つは?」
「はい。ウェルズ様のお身体のことです。」
「む?」
ウェルズは意外そうな顔をした、しばらく航海に出ていたこの男が何故自分の体のことを言うのか。
「最近快方に向かっておられると聞きましたが。」
「ああ。」
「実はそれには訳があるのです。」
「訳・・・とは?」
ウェルズが促すとアルクアイは扉に控えている使用人に目で合図をした。
扉が開かれ、一人の男が入ってくる。
ジファンの部下だった男であった。
「説明を。」
「はい。」
アルクアイに促されると男はおずおずと話し出した。
328 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:29 [ imAIk9NE ]
男が話し始めると部屋は水をうったように静寂に満ちた。
男の話した内容は平たく言うとジファンの告発であり。
「ジファンが食事のたびにウェルズの食事に毒を混ぜていた、」と言うものだった。
男が話し終えるとウェルズは呆然として目も虚ろになってしまった。
そしてその彼を現実に引き戻したのはアルクアイの声であった。
彼の声は悲しみに震えているような声だった。目には涙が溢れ声も切れ切れになっていた。
「そして私は航海中にこのことを聞き、ジファンが許せなくなり、彼を切り捨てました。
しかしどんな理由があるともこれは身分が上の者への裏切り。・・・申し訳・・・ありませんでした。」
突然の告白に誰もが唖然とする。この領の実質上のナンバー2をこの男は殺したと言うのだ。
そしてそれは更に続いた。
「これは許されることではありません、どうか私を処刑してください!」
そう言ってアルクアイは地面に頭をこすりつけた。
329 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:29 [ imAIk9NE ]
しばらく黙っていたウェルズの頬に涙が流れ落ちた。
彼は震える手でアルクアイに触れた。
「おお・・・顔を上げてくれ、私のもう一人の息子よ・・・。」
「ウェルズ・・・様・・・。」
もう一人の息子、とはウェルズには一人息子がいた。
しかし勤勉な父とは違い女と詩に溺れ、絵に描いたような愚息であり、皆の不安も大きかった。
それだけにこの「もう一人の息子」と言う言葉は大きな重みを持った。
「お前の行動は忠誠から出たもの・・・誰が攻められようか・・・。」
「ウェルズ様・・・っ!」
アルクアイはそんな政治的な考えなどかき消すようにウェルズのひざに突っ伏した。
その目からは涙が止めどなく流れている。周りの人間もまた皆涙を流していた。
誰が気付くだろうか、この男の涙も言う言葉も全てが偽りであることを。
アルクアイの言葉が嘘だという事を知っている告発した男でさえもそのことを忘れ涙を流していた。
330 名前:F猿 (BfxcIQ32) 投稿日: 2004/09/04(土) 23:30 [ imAIk9NE ]
しばらくして皆が落ち着いた後ウェルズは言った。
その声は子供をあやすように優しかった。
「アルクアイよ・・・、私はもうこの身体では政治はほとんど執れない。
しかし息子ウェルンはあの調子だ・・・。だから我々二代に渡ってお前に補佐を任せたい。
頼めるか、我が息子よ・・・?」
「はい。義父上・・・。」
アルクアイは平伏した。
誰もが見ても美しい主従関係の瞬間だっただろう。
その部屋に居る者全ての表情が明るくなった。
しかしそれはアルクアイがアジェントの中でも随一と言ってもいいほどの富強を誇るラーヴィナ領における実質的な支配権を持った瞬間でもあった。