邪悪なる異教徒らが我らへと牙をむき、大勢の罪無き者達が死に、大地は穢される。
やがて、異教徒らは我らを滅ぼうそうとする。
だがしかし国が滅びゆく時、人々の祈りは天へと通じ神は大地へと降り立つ。
神が御手を挙げられ、受難は過ぎ去るだろう。
やがて、大地は豊かになり人々にも幸運が舞い降りるであろう。
人々よ、祈れ。我らが神に。
必ずやその祈りは神へと通じるであろう。
―――アルタート太陽王国に建国時よりつたわる伝承より一部抜粋―――
「捕虜の輸送状況はどうなっている?」
「はい。捕虜達は大人しく、指示に従っており順調に進んでおります。また、負傷者が多くアルタート王国の医師らが手当てをしております。」
「そうか、こちらの状況は?」
「敵の竜が突進してきた際に、九五式一両が小破。乗員2名が軽傷です。」
「ふむ…、デカイだけの蜥蜴かと思ったが存外力が強いのだな。」
「天使様方!こちらに居られたのですか!」
アルタート軍の陣地から、白馬に乗った銀髪の少年が二人の帝国人の元にやってきた。
その少年は髪と同じ銀色の鎧を身に纏い、アルタート王家の家紋が刺繍されたマントを着用している。
少年は馬から降りると、今回の作戦の指揮を執っていた山崎中佐に一礼をした。
「ライゼル殿下!申し訳ありません、本来なら我々がそちらに報告を申し上げる所を殿下に御足労をかけさせるとは…。」
「いえ、お気になさらないでください。しかし、まさかこれほどにお強いとは思いもしませんでしたよ!やはり、神界にしかない魔術なのですか?」
「ええ、まあ…。その様な物です。『三八式歩兵銃』といい、我が軍の兵器です。」
「『サンパチ』…。」
ライゼル王子はしげしげと副官が持っている三八式歩兵銃を見つめた。
その目には好奇心が溢れている。
山崎中佐は、その年頃の少年にありがちな兵器への『憧れ』を微笑ましく思いながらも話を促した。
「それで、殿下。どのようなご用件でしょうか?」
「失礼しました!実は、此度の戦闘の事で父上―いえ、カイゼル将軍閣下が話し合いたいと申しております。」
「将軍閣下が?分かりました。すぐに参ります。」
「案内いたしましょうか?」
王子はキラキラとした目で案内を買って出る。
「いえ、そこまでして頂く訳には参りません。我々だけで、閣下に謁見いたします。」
「そうですか…。」
目に見えて王子は落ち込んだ。恐らく、アルタート軍の陣地に着くまでに色々話を聞こうと思ったのだろう。
この王子殿下は日本がアルタートと同盟を結んだ時から、何かと日本の―彼からしてみれば天界の―話を聞き出そうとしている。
今まではのらりくらりと話を避け続けてきたが、ここまで落ち込まれるとさすがに可哀想に思えてきた。
「代わりと言っては何ですが、宜しければ陣地を見学なされますか?」
「よろしいのですか!?」
「ええ、勿論。軍曹!案内して差し上げろ。」
「中佐…。」
「良いではないか、少尉。それよりも我々も行こう。」
「それにしても『天使様』か。笑えるな。」
「あまりその様な事は仰らない方が宜しいかと…。何処で誰が聞いているとも分かりません。」
「そうだな、我々は伝承通りに助けに現れた『天使様』だ。少なくとも今はそういう事になっている。それより、石油調査隊の連中は?」
「粗方の調査は終わったそうで、かなりの埋蔵量だそうです。少なくとも五百年は賄えると…。」
「五百年か。精錬所を立て終わるのに何年かかる事やら…。」
「本土の近くにある、『新竜島』の方でも石油が確認されたそうです。島の南側は、農地にも適しているとも聞きました。また近くに豊かな漁場候補もあるそうです。」
「今までの『足らぬ足らぬ』が嘘の様だな。全く持って、転移様々だな。」
「ええ、本当ですね。」
二人が話しながらアルタート軍の陣地を歩いていく。その間にも、二人に対しアルタート軍の兵士達は深々と平伏している。
「やれやれ、あんな事する必要もないのにな。」
「中佐、ここです。」
少尉が示した場所には大きな天幕が張られており、そこが『連合』の総司令部なのだろう。
「さて、また芝居をせにゃならんな。気が重いよ。」
「今しばらくの辛抱です、中佐。もうすぐ本土から増援が来るそうですから楽になりますよ。」
先に少尉が幕を開け、中佐が中に入り続いて少尉も天幕の中に入った。
そこには、数人の豪華な(重装・軽装の違いはあれど)鎧を着た男達が円卓を囲んでいた。
その内の一人、左目に眼帯をつけた人間の将軍が立って二人を迎え入れた。
「おお!良く来てくださった!此度の援軍感謝いたします。貴方方が居てくださらなかったら今頃どうなっていたことやら…。」
「いえ、カイゼル閣下。我らの準備が整うまで前線を支えてくださった皆様のお陰です。」
「しかし、凄いもんじゃのう。天界の武器は!まさか寡兵で同盟軍を崩すとは…、将としても職人としても興味が湧いてきたわい。」
背の小さい―身長110cm程。ドワーフ族だ―将軍が椅子に座ったままでしきりに頷いている。
「座ったままなど失礼でしょう。まぁ、貴方達ドワーフは椅子を降りるのにも一苦労なのは分かりますがね。」
金髪の耳がとても長い青年―といってもエルフ族なので百年は軽く生きているのだろうが。―がドワーフの将軍に皮肉を言う。
「お前さんの方が失礼だと思うがね、ワシは。年上には敬意を払うもんじゃぞ?」
「おや!申し訳ない、どう見ても赤子にしか見えなかったものでしてね…。これからは気をつけますよ。」
「そういう所じゃと言っとるんじゃがな…。」
はぁ、とドワーフの将軍はため息をついた。
「他に驚いたのは何と言ってもあの『鉄の竜』だな!今まで見たことも聞いたこともねえや!あんたらん所しか飼育してねぇのかい?」
筋骨隆々の緑色の肌の大男―オーガ族の将軍―が中佐に質問した。
「ええ、まあ、特別な『餌』が必要でしてね。それでいつも苦労しております。」
すこし、苦笑いを浮かべ中佐は答えた。
「それで、例の『湖』についてですが…。秩序同盟から占領された都市を奪還すれば割譲という事で陛下からは裁断が下りました。」
カイゼル将軍は席に座ると帝国にとって一番重要な要件を切り出した。
「それで、現在占領されている都市は?」
中佐も席に座ると確認をとった。
カイゼル将軍は、従者に地図を取らせると机の上に広げた。
「今、我々がいるケーン平原がここ。ここから西に五〇kmにある『ストームゲート』と南西一〇〇kmの『ゴライアス』。この二つです。」
なんだ、たった二つか。少尉はそう楽観的に考えた(軍人としてどうかとは思うが…)。
「この二つの都市は元々、秩序同盟の侵攻を考え作られた城塞都市だったのですが同盟の侵攻が素早く陥落してしまいました…。」
カイゼル将軍はそういうと俯き、残った右目を閉じた。
「何度か奪還しようとしたのですが両方の都市共に川沿いにあり、攻めあぐねて居りました。」
エルフの将軍が後を引き継ぎ、二人に説明をする。
「ワシらドワーフ自慢のカタパルトも近づく前に上から矢の雨が降ってきおったわ。あれで何人死んだやら…。」
「俺達オーガもあれじゃ突撃出来やしねぇ。ほんと、立場が変わりゃあ厄介だぜありゃあよ。」
それぞれの将軍達も口ぐちにその当時の様子を話している。よほど、辛い戦いだったのであろう。
「分かりました、補給の必要もありますので今すぐにと言う訳には参りませんが必ずや…。」
「おお!本当ですか!」
「これはもう、勝ったも同然ですな。」
「天界の攻城兵器か、見たいのう…。」
「突撃するときゃあ言ってくれよ!俺らの見せ場なんざそれ位しかねぇからな!」
ざわざわと帝国の予想をする将軍達を中佐は醒めた目で見つめていた。
―ああ、早く増援が来ねぇかなぁ。本土で俺もゆっくりしたいんだがなぁ。
「…中佐、宜しいのですか?」
「何、嘘は言ってないさ。」
「そういう問題では…。」
「どっちにせよ、本国からの増援待ちなんだ。しばらくは、動かないさ。」
「うう…、生きて…いるのか?」
全身が痛みを訴えている。死んでしまった方がマシだと思える程に痛い。
「そうだ、隊長…マクファーソン…皆は?」
目を開けるのすら億劫に感じる。けれど、確かめなければ…。
僕は、目を開けた事を後悔した。
血、血、血…。そして、人と飛竜の死体。これは……
「あ、ああ…ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
咽喉が潰れるかと思う程自分でも驚く叫びが自然と出た。
体はこれほど感情的なのに頭はひどく冷静なのが不思議だ。
一しきり叫ぶと、僕は立ち上がった。
「戻らなきゃ…、知らせなきゃ…。」
そのまま僕は歩きだす。
同盟が確保してある城塞都市『ストームゲート』へ…
やがて、異教徒らは我らを滅ぼうそうとする。
だがしかし国が滅びゆく時、人々の祈りは天へと通じ神は大地へと降り立つ。
神が御手を挙げられ、受難は過ぎ去るだろう。
やがて、大地は豊かになり人々にも幸運が舞い降りるであろう。
人々よ、祈れ。我らが神に。
必ずやその祈りは神へと通じるであろう。
―――アルタート太陽王国に建国時よりつたわる伝承より一部抜粋―――
「捕虜の輸送状況はどうなっている?」
「はい。捕虜達は大人しく、指示に従っており順調に進んでおります。また、負傷者が多くアルタート王国の医師らが手当てをしております。」
「そうか、こちらの状況は?」
「敵の竜が突進してきた際に、九五式一両が小破。乗員2名が軽傷です。」
「ふむ…、デカイだけの蜥蜴かと思ったが存外力が強いのだな。」
「天使様方!こちらに居られたのですか!」
アルタート軍の陣地から、白馬に乗った銀髪の少年が二人の帝国人の元にやってきた。
その少年は髪と同じ銀色の鎧を身に纏い、アルタート王家の家紋が刺繍されたマントを着用している。
少年は馬から降りると、今回の作戦の指揮を執っていた山崎中佐に一礼をした。
「ライゼル殿下!申し訳ありません、本来なら我々がそちらに報告を申し上げる所を殿下に御足労をかけさせるとは…。」
「いえ、お気になさらないでください。しかし、まさかこれほどにお強いとは思いもしませんでしたよ!やはり、神界にしかない魔術なのですか?」
「ええ、まあ…。その様な物です。『三八式歩兵銃』といい、我が軍の兵器です。」
「『サンパチ』…。」
ライゼル王子はしげしげと副官が持っている三八式歩兵銃を見つめた。
その目には好奇心が溢れている。
山崎中佐は、その年頃の少年にありがちな兵器への『憧れ』を微笑ましく思いながらも話を促した。
「それで、殿下。どのようなご用件でしょうか?」
「失礼しました!実は、此度の戦闘の事で父上―いえ、カイゼル将軍閣下が話し合いたいと申しております。」
「将軍閣下が?分かりました。すぐに参ります。」
「案内いたしましょうか?」
王子はキラキラとした目で案内を買って出る。
「いえ、そこまでして頂く訳には参りません。我々だけで、閣下に謁見いたします。」
「そうですか…。」
目に見えて王子は落ち込んだ。恐らく、アルタート軍の陣地に着くまでに色々話を聞こうと思ったのだろう。
この王子殿下は日本がアルタートと同盟を結んだ時から、何かと日本の―彼からしてみれば天界の―話を聞き出そうとしている。
今まではのらりくらりと話を避け続けてきたが、ここまで落ち込まれるとさすがに可哀想に思えてきた。
「代わりと言っては何ですが、宜しければ陣地を見学なされますか?」
「よろしいのですか!?」
「ええ、勿論。軍曹!案内して差し上げろ。」
「中佐…。」
「良いではないか、少尉。それよりも我々も行こう。」
「それにしても『天使様』か。笑えるな。」
「あまりその様な事は仰らない方が宜しいかと…。何処で誰が聞いているとも分かりません。」
「そうだな、我々は伝承通りに助けに現れた『天使様』だ。少なくとも今はそういう事になっている。それより、石油調査隊の連中は?」
「粗方の調査は終わったそうで、かなりの埋蔵量だそうです。少なくとも五百年は賄えると…。」
「五百年か。精錬所を立て終わるのに何年かかる事やら…。」
「本土の近くにある、『新竜島』の方でも石油が確認されたそうです。島の南側は、農地にも適しているとも聞きました。また近くに豊かな漁場候補もあるそうです。」
「今までの『足らぬ足らぬ』が嘘の様だな。全く持って、転移様々だな。」
「ええ、本当ですね。」
二人が話しながらアルタート軍の陣地を歩いていく。その間にも、二人に対しアルタート軍の兵士達は深々と平伏している。
「やれやれ、あんな事する必要もないのにな。」
「中佐、ここです。」
少尉が示した場所には大きな天幕が張られており、そこが『連合』の総司令部なのだろう。
「さて、また芝居をせにゃならんな。気が重いよ。」
「今しばらくの辛抱です、中佐。もうすぐ本土から増援が来るそうですから楽になりますよ。」
先に少尉が幕を開け、中佐が中に入り続いて少尉も天幕の中に入った。
そこには、数人の豪華な(重装・軽装の違いはあれど)鎧を着た男達が円卓を囲んでいた。
その内の一人、左目に眼帯をつけた人間の将軍が立って二人を迎え入れた。
「おお!良く来てくださった!此度の援軍感謝いたします。貴方方が居てくださらなかったら今頃どうなっていたことやら…。」
「いえ、カイゼル閣下。我らの準備が整うまで前線を支えてくださった皆様のお陰です。」
「しかし、凄いもんじゃのう。天界の武器は!まさか寡兵で同盟軍を崩すとは…、将としても職人としても興味が湧いてきたわい。」
背の小さい―身長110cm程。ドワーフ族だ―将軍が椅子に座ったままでしきりに頷いている。
「座ったままなど失礼でしょう。まぁ、貴方達ドワーフは椅子を降りるのにも一苦労なのは分かりますがね。」
金髪の耳がとても長い青年―といってもエルフ族なので百年は軽く生きているのだろうが。―がドワーフの将軍に皮肉を言う。
「お前さんの方が失礼だと思うがね、ワシは。年上には敬意を払うもんじゃぞ?」
「おや!申し訳ない、どう見ても赤子にしか見えなかったものでしてね…。これからは気をつけますよ。」
「そういう所じゃと言っとるんじゃがな…。」
はぁ、とドワーフの将軍はため息をついた。
「他に驚いたのは何と言ってもあの『鉄の竜』だな!今まで見たことも聞いたこともねえや!あんたらん所しか飼育してねぇのかい?」
筋骨隆々の緑色の肌の大男―オーガ族の将軍―が中佐に質問した。
「ええ、まあ、特別な『餌』が必要でしてね。それでいつも苦労しております。」
すこし、苦笑いを浮かべ中佐は答えた。
「それで、例の『湖』についてですが…。秩序同盟から占領された都市を奪還すれば割譲という事で陛下からは裁断が下りました。」
カイゼル将軍は席に座ると帝国にとって一番重要な要件を切り出した。
「それで、現在占領されている都市は?」
中佐も席に座ると確認をとった。
カイゼル将軍は、従者に地図を取らせると机の上に広げた。
「今、我々がいるケーン平原がここ。ここから西に五〇kmにある『ストームゲート』と南西一〇〇kmの『ゴライアス』。この二つです。」
なんだ、たった二つか。少尉はそう楽観的に考えた(軍人としてどうかとは思うが…)。
「この二つの都市は元々、秩序同盟の侵攻を考え作られた城塞都市だったのですが同盟の侵攻が素早く陥落してしまいました…。」
カイゼル将軍はそういうと俯き、残った右目を閉じた。
「何度か奪還しようとしたのですが両方の都市共に川沿いにあり、攻めあぐねて居りました。」
エルフの将軍が後を引き継ぎ、二人に説明をする。
「ワシらドワーフ自慢のカタパルトも近づく前に上から矢の雨が降ってきおったわ。あれで何人死んだやら…。」
「俺達オーガもあれじゃ突撃出来やしねぇ。ほんと、立場が変わりゃあ厄介だぜありゃあよ。」
それぞれの将軍達も口ぐちにその当時の様子を話している。よほど、辛い戦いだったのであろう。
「分かりました、補給の必要もありますので今すぐにと言う訳には参りませんが必ずや…。」
「おお!本当ですか!」
「これはもう、勝ったも同然ですな。」
「天界の攻城兵器か、見たいのう…。」
「突撃するときゃあ言ってくれよ!俺らの見せ場なんざそれ位しかねぇからな!」
ざわざわと帝国の予想をする将軍達を中佐は醒めた目で見つめていた。
―ああ、早く増援が来ねぇかなぁ。本土で俺もゆっくりしたいんだがなぁ。
「…中佐、宜しいのですか?」
「何、嘘は言ってないさ。」
「そういう問題では…。」
「どっちにせよ、本国からの増援待ちなんだ。しばらくは、動かないさ。」
「うう…、生きて…いるのか?」
全身が痛みを訴えている。死んでしまった方がマシだと思える程に痛い。
「そうだ、隊長…マクファーソン…皆は?」
目を開けるのすら億劫に感じる。けれど、確かめなければ…。
僕は、目を開けた事を後悔した。
血、血、血…。そして、人と飛竜の死体。これは……
「あ、ああ…ああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
咽喉が潰れるかと思う程自分でも驚く叫びが自然と出た。
体はこれほど感情的なのに頭はひどく冷静なのが不思議だ。
一しきり叫ぶと、僕は立ち上がった。
「戻らなきゃ…、知らせなきゃ…。」
そのまま僕は歩きだす。
同盟が確保してある城塞都市『ストームゲート』へ…