大陸暦1098年 6月10日 ウルシー 午前7時
泊地に喨々たるラッパの音が鳴り響いた。それはアメリカ国民がは誰もが聞きなれた音楽、
星条旗よ、永遠なれである。音楽が進むと同時に、星条旗がするすると艦尾のポールに
上げられていく。その光景は、どの艦でも見られた。それが終わると、乗員は日々の勤務
に移っていく。
ウルシー泊地は、元の辺ぴな姿はどこにも感じられないまでに様変わりしている。広大な
泊地には、戦闘艦艇、輸送艦艇、工作艦などの大量の船が、泊地を埋め尽くしている。
その中でも一際目立つものが、巨大な浮きドッグで、4つあるうちの1つに大型艦が乗せ
られて、修理を行っている。クロイッチ沖海戦で無視できない損傷をおったエセックス級
空母のバンカーヒルである。
クロイッチ沖海戦の際、左舷側後部に命中弾を受けたバンカーヒルは、被弾の影響で推進器
が損傷し、速度が28ノットまでしか出せなかった。そのため、バンカーヒルは浮きドック
での修理が必要となった。
海戦から大分経った今では、その傷もほとんど癒えており、現場復帰はもう間もなくである。
視線を陸地に通すと、そこには2つの巨大な滑走路と1つの中規模な滑走路、木造の宿舎、
数え切れないほどの大小のテントが立ち並んでいる。
2つの2500メートル級の滑走路には、マーシャル諸島から飛来してきた陸軍航空隊のB-24
爆撃機、B-26中型爆撃機、P-51、P-47といった戦闘機や、各種輸送機、それに海兵隊
航空隊のF4Uコルセア戦闘機60機が駐留している。
中規模の滑走路は、護衛空母で運ばれてきた艦載機の予備機が立ち並んでいる。
宿舎やテントには、輸送船に乗っていた海兵隊や陸軍の将兵が寝床にしている。ここウルシーには
サイパン島攻略予定の部隊が臨時に建設された基地に上陸して、そこで毎日をすごしている。
テニアン、グアム攻略部隊の艦船は、シュングリルで北部攻撃群と同じように停泊していた。
泊地に喨々たるラッパの音が鳴り響いた。それはアメリカ国民がは誰もが聞きなれた音楽、
星条旗よ、永遠なれである。音楽が進むと同時に、星条旗がするすると艦尾のポールに
上げられていく。その光景は、どの艦でも見られた。それが終わると、乗員は日々の勤務
に移っていく。
ウルシー泊地は、元の辺ぴな姿はどこにも感じられないまでに様変わりしている。広大な
泊地には、戦闘艦艇、輸送艦艇、工作艦などの大量の船が、泊地を埋め尽くしている。
その中でも一際目立つものが、巨大な浮きドッグで、4つあるうちの1つに大型艦が乗せ
られて、修理を行っている。クロイッチ沖海戦で無視できない損傷をおったエセックス級
空母のバンカーヒルである。
クロイッチ沖海戦の際、左舷側後部に命中弾を受けたバンカーヒルは、被弾の影響で推進器
が損傷し、速度が28ノットまでしか出せなかった。そのため、バンカーヒルは浮きドック
での修理が必要となった。
海戦から大分経った今では、その傷もほとんど癒えており、現場復帰はもう間もなくである。
視線を陸地に通すと、そこには2つの巨大な滑走路と1つの中規模な滑走路、木造の宿舎、
数え切れないほどの大小のテントが立ち並んでいる。
2つの2500メートル級の滑走路には、マーシャル諸島から飛来してきた陸軍航空隊のB-24
爆撃機、B-26中型爆撃機、P-51、P-47といった戦闘機や、各種輸送機、それに海兵隊
航空隊のF4Uコルセア戦闘機60機が駐留している。
中規模の滑走路は、護衛空母で運ばれてきた艦載機の予備機が立ち並んでいる。
宿舎やテントには、輸送船に乗っていた海兵隊や陸軍の将兵が寝床にしている。ここウルシーには
サイパン島攻略予定の部隊が臨時に建設された基地に上陸して、そこで毎日をすごしている。
テニアン、グアム攻略部隊の艦船は、シュングリルで北部攻撃群と同じように停泊していた。
この日、レイモンド・スプルーアンス大将は、インディアナポリスの食堂に、第5艦隊の司令部幕僚、
各任務部隊の司令官を集めて、会議を行った。
「諸君。先日我々が送ったメッセージが一蹴されたことはもう知っているな?」
彼の言葉に一同は頷く。
「バーマントは、どうしてもヴァルレキュアを完全に攻め滅ぼしたいようだ。先日のバーマント航空部隊
による王都爆撃がいい例だ。幸いにも陸軍航空隊によって王都爆撃は阻止したが、これでバーマントの
我々やヴァルレキュアに対する気持ちが変わらない事がハッキリした。私はあれ以来ずっと考えてきたが
やはり、私としては、バーマントに戦争継続を断念させるような思い切った作戦が必要だと思う。」
ウイリス・リー中将が手を上げた。
「長官、あなたは思い切った作戦が必要だと言われるが、その作戦と言うものは、どのようなものでしょうか?」
彼の言葉にスプルーアンスは頷くと、作戦参謀のフォレステルに視線を移した。
「フォレステル君。」
「はい。」
彼は立ち上がると、急遽取り付けられた黒板に掲げられている大陸の地図を指揮棒で指した。
「敵国バーマント軍は現在、大量の飛空挺を保有しています。先日行われた王都爆撃で、撃墜した飛空挺から
奇跡的に女性のパイロットを捕虜にする事が出来ました。捕虜の情報によると、飛空挺は時速320キロで飛ぶ事
ができ、武装は爆弾を300キロまで積む事が出来、航続距離はおよそ1000マイル、機体の防御は魔法補正
などでかなり強化されているようです。実際、パイロットからの報告では敵飛空挺は意外に頑丈である事と知らさ
れています。しかし、それでも撃墜は可能と言う事です。」
フォレステルは呼吸を整えて、話を続けた。
各任務部隊の司令官を集めて、会議を行った。
「諸君。先日我々が送ったメッセージが一蹴されたことはもう知っているな?」
彼の言葉に一同は頷く。
「バーマントは、どうしてもヴァルレキュアを完全に攻め滅ぼしたいようだ。先日のバーマント航空部隊
による王都爆撃がいい例だ。幸いにも陸軍航空隊によって王都爆撃は阻止したが、これでバーマントの
我々やヴァルレキュアに対する気持ちが変わらない事がハッキリした。私はあれ以来ずっと考えてきたが
やはり、私としては、バーマントに戦争継続を断念させるような思い切った作戦が必要だと思う。」
ウイリス・リー中将が手を上げた。
「長官、あなたは思い切った作戦が必要だと言われるが、その作戦と言うものは、どのようなものでしょうか?」
彼の言葉にスプルーアンスは頷くと、作戦参謀のフォレステルに視線を移した。
「フォレステル君。」
「はい。」
彼は立ち上がると、急遽取り付けられた黒板に掲げられている大陸の地図を指揮棒で指した。
「敵国バーマント軍は現在、大量の飛空挺を保有しています。先日行われた王都爆撃で、撃墜した飛空挺から
奇跡的に女性のパイロットを捕虜にする事が出来ました。捕虜の情報によると、飛空挺は時速320キロで飛ぶ事
ができ、武装は爆弾を300キロまで積む事が出来、航続距離はおよそ1000マイル、機体の防御は魔法補正
などでかなり強化されているようです。実際、パイロットからの報告では敵飛空挺は意外に頑丈である事と知らさ
れています。しかし、それでも撃墜は可能と言う事です。」
フォレステルは呼吸を整えて、話を続けた。
「もし、敵軍の重要な根拠地に侵攻作戦を行えば、この飛空挺の大群が、地上部隊と共に襲ってくる事は確実であり、それら
を事前に減殺、もしくは撃滅する必要があります。そこで、我々は敵国のある地点を侵攻するというニセ電を送り、
そこの周辺の基地などを機動部隊の艦載機で叩かせ、敵の飛空挺部隊がその周辺に展開するのを待ちます。そして
敵飛空挺部隊が攻撃に出てくれば、我々は大量の戦闘機を上げてこれに対応、空中戦で徹底的に叩きます。」
「つまり、我々の次の任務は、敵飛空挺部隊の完全撃滅ですね?」
第58任務部隊司令官、ミッチャー中将がそう言った。その表情には自身ありげな笑みが浮かんでいた。
「そうだ。そのためにも、貴官の機動部隊には派手に暴れまわってもらいたい。」
スプルーアンスは腕組みしながら言った。
「上陸部隊の展開はどうするのですか?」
ホーランド・スミス中将が聞いてきた。
「敵の航空兵力を叩いたら、次に必要なのはその地域の制圧です。」
「今回の作戦には、地上部隊も連れて行く。敵バーマントは我々より劣っているとはいえ、技術を持っている。
もしこのまま何もしないでいたら、敵は体制を整えてしまう。我々は敵に息を付かせる暇も無く常に先手を取って
敵の痛いところを叩き、進撃する。そして、バーマントに自分達が犯している間違いを気づかせるのだ。」
「それでは、地上部隊はどの部隊を連れて行くのですか?」
「今回はサイパン攻略用の北部攻撃群を連れて行こうと思う。南部攻撃群は後詰めにする。」
「制空権確保後は、上陸作戦前にはいつもの通り、上陸地点に艦砲射撃を行いますか?」
リー中将が聞いてきた。
を事前に減殺、もしくは撃滅する必要があります。そこで、我々は敵国のある地点を侵攻するというニセ電を送り、
そこの周辺の基地などを機動部隊の艦載機で叩かせ、敵の飛空挺部隊がその周辺に展開するのを待ちます。そして
敵飛空挺部隊が攻撃に出てくれば、我々は大量の戦闘機を上げてこれに対応、空中戦で徹底的に叩きます。」
「つまり、我々の次の任務は、敵飛空挺部隊の完全撃滅ですね?」
第58任務部隊司令官、ミッチャー中将がそう言った。その表情には自身ありげな笑みが浮かんでいた。
「そうだ。そのためにも、貴官の機動部隊には派手に暴れまわってもらいたい。」
スプルーアンスは腕組みしながら言った。
「上陸部隊の展開はどうするのですか?」
ホーランド・スミス中将が聞いてきた。
「敵の航空兵力を叩いたら、次に必要なのはその地域の制圧です。」
「今回の作戦には、地上部隊も連れて行く。敵バーマントは我々より劣っているとはいえ、技術を持っている。
もしこのまま何もしないでいたら、敵は体制を整えてしまう。我々は敵に息を付かせる暇も無く常に先手を取って
敵の痛いところを叩き、進撃する。そして、バーマントに自分達が犯している間違いを気づかせるのだ。」
「それでは、地上部隊はどの部隊を連れて行くのですか?」
「今回はサイパン攻略用の北部攻撃群を連れて行こうと思う。南部攻撃群は後詰めにする。」
「制空権確保後は、上陸作戦前にはいつもの通り、上陸地点に艦砲射撃を行いますか?」
リー中将が聞いてきた。
「艦砲射撃は必ず行う。ただし、現在は砲弾の補給が本国から無い状態だ。よって、上陸作戦前の
艦砲射撃は上陸前の1時間前から行う。艦砲射撃にはリー中将の第7群にやってもらおう。」
リッチモンド・ターナー中将も質問する。
「私の攻略船団の指揮下には10隻の護衛空母がいますが、これらはどうするのです?これまで通り、
船団護衛でいいのですか?私としては、護衛空母も機動部隊の後詰めとして後方に付け、護衛空母部隊の
戦闘機を機動部隊の護衛に回せると思うのですが。」
彼はそう言う。しかし、スプルーアンスはかぶりを振った。
「いや、護衛空母部隊はこれまで通り船団護衛に徹してもらう。一部の護衛空母は艦載機の補充用として
切り離すが、残りはこれまで通りだ。輸送船団の積荷はいずれも重要なものばかりだからな。」
護衛空母部隊は、護衛空母10隻、重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦12隻の艦隊で編成されており、
2グループに分けられている。
その2グループの指揮官はレイノルズ少将と、ブランディ少将が指揮を取っている。
「戦闘機の数が多いのには越した事は無いが、もし飛空挺部隊が輸送船団にも現れた場合、その時に肝心の
ジープ空母がいないでは困るだろう。戦争は何が起こるかわからん、護衛空母はその時のために船団護衛に
つけておくべきだな。」
「分りました。ではこれまで通りでやります。」
ターナーは納得したような口調でそう言った。
話の議題は、侵攻地域の決定、作戦の開始時期、機動部隊の出撃予定日の決定などに移った。
艦砲射撃は上陸前の1時間前から行う。艦砲射撃にはリー中将の第7群にやってもらおう。」
リッチモンド・ターナー中将も質問する。
「私の攻略船団の指揮下には10隻の護衛空母がいますが、これらはどうするのです?これまで通り、
船団護衛でいいのですか?私としては、護衛空母も機動部隊の後詰めとして後方に付け、護衛空母部隊の
戦闘機を機動部隊の護衛に回せると思うのですが。」
彼はそう言う。しかし、スプルーアンスはかぶりを振った。
「いや、護衛空母部隊はこれまで通り船団護衛に徹してもらう。一部の護衛空母は艦載機の補充用として
切り離すが、残りはこれまで通りだ。輸送船団の積荷はいずれも重要なものばかりだからな。」
護衛空母部隊は、護衛空母10隻、重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦12隻の艦隊で編成されており、
2グループに分けられている。
その2グループの指揮官はレイノルズ少将と、ブランディ少将が指揮を取っている。
「戦闘機の数が多いのには越した事は無いが、もし飛空挺部隊が輸送船団にも現れた場合、その時に肝心の
ジープ空母がいないでは困るだろう。戦争は何が起こるかわからん、護衛空母はその時のために船団護衛に
つけておくべきだな。」
「分りました。ではこれまで通りでやります。」
ターナーは納得したような口調でそう言った。
話の議題は、侵攻地域の決定、作戦の開始時期、機動部隊の出撃予定日の決定などに移った。
6月11日、ウルシー泊地沖20キロ 午前10時
第58任務部隊第4任務群に所属する空母のランドルフは、外洋訓練のために重巡洋艦ウィチタ
軽巡洋艦ヒューストン、駆逐艦3隻と共に外海に出ていた。
24ノットで航行するランドルフの後方から1機のF6Fが最終アプローチライン入り、間もなく
着艦の態勢に入っている。
飛行甲板には青い色をした塗装が塗られている。その飛行甲板の後部にF6Fが脚をつけた。
キュッという音と共に白煙がああがり、機体はスゥーと甲板を滑っていく。着艦フックに引っかかった
がピンと伸び、F6Fが減速し、甲板の真ん中近くで止まった。鮮やかな着艦である。
「魔法使いの言う事は本当だったな。」
艦橋から着艦風景を見守っていた空母ランドルフ艦長、フランソワ・シアーズ大佐は顎をなでながら
そう呟いた。防御塗装を塗る前、パイロットから、
「運動量も減殺するなら、着艦と同時に運動量の差分で脚が折れるのではないか?」と危惧があったが、
魔道師のリリアは、魔法には艦載機の発着程度では発動しないように加工が加えられてあり、魔法発動
は爆弾が命中した時のみ発動すると説明された。
その説明は、今の着艦風景を見て正しい事が証明された。飛行訓練を終えたF6F10機は無事に着艦
を終えた。朝に行った発艦も難なく行われているから、これで発着の心配は無くなった。
「魔道師もいい仕事をしてくれるな。」
シアーズ艦長はそう呟いた。空を見てみた。天気はよく晴れており、彼は絶好の訓練日和だと思った。
第58任務部隊第4任務群に所属する空母のランドルフは、外洋訓練のために重巡洋艦ウィチタ
軽巡洋艦ヒューストン、駆逐艦3隻と共に外海に出ていた。
24ノットで航行するランドルフの後方から1機のF6Fが最終アプローチライン入り、間もなく
着艦の態勢に入っている。
飛行甲板には青い色をした塗装が塗られている。その飛行甲板の後部にF6Fが脚をつけた。
キュッという音と共に白煙がああがり、機体はスゥーと甲板を滑っていく。着艦フックに引っかかった
がピンと伸び、F6Fが減速し、甲板の真ん中近くで止まった。鮮やかな着艦である。
「魔法使いの言う事は本当だったな。」
艦橋から着艦風景を見守っていた空母ランドルフ艦長、フランソワ・シアーズ大佐は顎をなでながら
そう呟いた。防御塗装を塗る前、パイロットから、
「運動量も減殺するなら、着艦と同時に運動量の差分で脚が折れるのではないか?」と危惧があったが、
魔道師のリリアは、魔法には艦載機の発着程度では発動しないように加工が加えられてあり、魔法発動
は爆弾が命中した時のみ発動すると説明された。
その説明は、今の着艦風景を見て正しい事が証明された。飛行訓練を終えたF6F10機は無事に着艦
を終えた。朝に行った発艦も難なく行われているから、これで発着の心配は無くなった。
「魔道師もいい仕事をしてくれるな。」
シアーズ艦長はそう呟いた。空を見てみた。天気はよく晴れており、彼は絶好の訓練日和だと思った。