自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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1098年 10月10日 エリオンドルフ
午前9時 エリオンドルフの港内には、継戦派に撃破されていた艦艇が港内に大破着低しており、
その撤去作業が進められていたが、4日前に始められたこの作業は、まだ大して進捗していない。
この日、朝出勤してきた撤去要員や、基地の守備兵は、沖合を見るたびに、どことなく違和感を感じた。
港の少し離れた沖合いには、バーマントのものとは違う艦艇がどっしりと、腰を構えていた。
中でも、一番注目されるのは、甲板がほとんど平らな軍艦で、あちらこちらに酷い手傷を負っている。
それの周囲に陣取っている軍艦も、大なり小なり傷ついている。
一見、どこぞの戦場から逃げ出してきた敗残艦隊を思い起こさせる風景だ。
しかし、見慣れぬ軍艦群が掲げる旗、アメリカ合衆国のシンボルである星条旗は誇らしげに翻っていた。
これらの船は、昨日のごごにエリオンドルフにやって来て、埠頭から2キロ沖に停泊している。
「あれが空母という船か・・・・・」
埠頭で、工作艦に横付けされた空母を見つめながら、クライスク・アーサー騎士元帥は感慨深げな口調で呟く。
「すっきりした形だな。あれが、わがバーマントを苦しめた軍艦とは思えんな。」
「情報によれば、あの空母と言う軍艦の特徴は、飛空挺を載せ、それで航空攻撃が行えると言うことです。」
傍らのウラルーシ少将が言ってきた。元々、痩身な彼だが、ここ数日の激務で頬がさらに痩せこけている。
「最低でも30~40機、多くても100機の飛空挺がつめるとの事です。
あれが、アメリカ軍という異世界軍には、10~20隻はあるとのことです。」
「なるほど。どうりで勝てないわけだな。」
アーサー騎士元帥は、伸びた無精ひげを撫でながら、苦笑する。
「多数の飛空挺を積み、それを複数にまとめて運用する艦隊。
機動部隊か・・・・・だが、その機動部隊を持ってしても、多数の敵戦力の前には無傷でいられなかったな。」
彼は、傷ついた空母、CV-6エンタープライズを見つめながら言う。
革命軍は、マリアナを巡る攻防戦には間に合わなかったが、米艦隊に同行していった同志からの報告は受け取っている。

報告によれば、米艦隊は30日に継戦側の空中騎士団や艦隊と戦火を交え、継戦側の航空戦力や水上戦力を撃滅した。
翌31日には、米機動部隊はその強大な航空兵力を、マリアナの魔法都市に一気に叩きつけた。
激戦の末、日没直前に手目標の魔法施設は完全破壊されている。
だが、米側の損害も大きかった。
大型空母1隻と、中型艦、小型艦、給油艦あわせて6隻を失い、大破した艦艇も何隻かいる。
航空機も、合計で200機以上を失っている事から、継戦側と米艦隊が、いかに死力を尽くして戦ったかが分かる。
目の前の空母も、昼間の空襲と、水上戦で酷くやられ、こうして工作艦の応急修理を受けている。
現在、エリオンドルフには、損傷した軍艦や、東海岸からやってきた米側の補助艦艇の他に、
第58任務部隊の第2、第3群の空母や護衛艦艇が沖に停泊している。
第1、第4任務群は、しばらく現場海域に留まった後、9日の早朝にエリオンドルフに向けて変針した。
革命が始まって以来、バーマント公国は変わりつつある。
継戦派はグランスボルグ地方ではまだ活動を続けているが、首領のエリラが戦死したこともあって、侵攻した革命軍に降伏しつつある。
侵攻する前までは、継戦側は依然として革命側に従うそぶりを見せなかったが、沖合に居残っていた
米機動部隊がきついお灸をすえたお陰で、戦意を喪失している。
統一派は徐々に解体しつつあり、4日前には、新たに皇帝に即位したグリフィンによって、待望の
停戦宣言が発表され、バーマント軍はヴァルレキュア領から続々と撤退しつつある。
1週間後には、ヴァルレキュア、バーマントの両首脳を交えた停戦協定が結ばれる予定で、
大陸から戦火は収まりつつある。
そのきっかけを作った1人である、アーサーがなぜこのエリオンドルフに来ているのか。
理由としては、エリオンドルフに休養のために入港(といっても沖での停泊である)した米艦隊の首脳、
レイモンド・スプルーアンス大将に礼と、詫びを言うためである。

20分後、アーサーとウラルーシの姿は、内火艇の甲板にあった。
内火艇が向かう先には、1隻の巨艦がいる。3つの巨大な砲塔。
その間に聳え立つ尖塔のような艦橋構造物。
2本の煙突と、舷側に設置されている複数の小型の砲塔・・・・・全てが、このバーマントには無いものである。
(いや、この大陸のみならず、世界中を探しても見つからない)
バーマントはエルファ大陸とよばれる大陸を構成する1国で、海の向こうには、
エルファ大陸に匹敵するオーラム大陸がある。
その他にも、小さな島や大きな島もあるが、技術が優れているのはどこを探してもバーマントのみで、
他の国々の技術力は相変わらず進歩していない。
武器もヴァルレキュアのように剣と盾が主体である。
そんなバーマントにもない兵器が、今目の前にある。
やがて、内火艇はその巨艦の左舷側に横付けした。
舷側には階段が下ろされており、内火艇はそれに合わせるように、慎重に横付けされた。
「どうぞ、こちらへ。」
アメリカ海軍の水兵が、道を進める。アーサーらは内火艇から乗り移り、ウラルーシと共に階段を上がる。
階段を上り終えると、数人の男が待っていた。
男はカーキ色の軍服をつけ、その中の1人が表情を変えずに歩み寄ってきた。
「ようこそ、私が第5艦隊司令長官のレイモンド・スプルーアンス大将です。」
学校の先生を思わせる、痩身の男が敬礼をする。
(この人がスプルーアンスか・・・・・どことなくイメージが違うな)
アーサー元帥は、最初はスプルーアンスの事をもっと理知的で、威厳のある人物だと確信していた。
だが、現実には学者を思わせるような風貌で、体も痩せている。むしろ、隣にいるデイビス少将を彼は最高司令官と思っていた。
そんな思いを一瞬のうちに振り払って、アーサーも自己紹介を行う。
「私は、バーマント公国軍臨時司令官のアーサー元帥です。勇将の誉れ高い提督にあえて、光栄であります。」
その後、彼はウラルーシ少将を紹介すると、スプルーアンスも参謀長のデイビス少将、作戦参謀のフォレステル大佐、
通信参謀のアームストロング中佐、ノースカロライナ艦長のサイモン大佐を紹介した。

「それにしても、凄い船だ。まさに浮かぶ要塞ですな。」
アーサーは早速、ノースカロライナに対して感じた第1印象をスプルーアンスらに伝える。
「これなら、どんな敵もたちまち一ひねりでしょう。」
「まあ、確かにそうでしょうな。」
スプルーアンスは、含みのある苦笑をしながらそう返事した。
「水上戦では、強力な砲戦能力で敵に対応できますが、それでも、苦しい場面はあります。
決して無敵と言うわけではありませんよ。さて、中へ入りましょうか。」
彼は、艦内にアーサーらを誘った。作戦室には、ベルーク大佐と魔道師のオスルが待っていた。
「閣下!お久しぶりです。ご無事で何よりです。」
「ベルーク、それにオスル。私も君達が無事でよかったよ。」
それまで緊張していた顔つきだったアーサーは強張りを崩して笑みを浮かべつつ、彼らと握手を交わした。
「君達がしっかり役目を果たせるかと心配だったが、君達の姿を見たことで、ある程度胸のつかえが取れたよ。」
「これから、新しい国づくりが始まるのですね。」
「そうさ。前途多難だが、やりがいはあるぞ。」
アーサーは握手を緩めると、2人にイスに座るようにすすめられ、彼らはイスに座った。
スプルーアンスらは彼らと向き合う形で、反対側に座る。
それを確認したアーサーは、改めて畏まったような表情になり、それから口を開いた。
「スプルーアンス提督、あなた方の協力のお陰で、国内の継戦派はなんとか押さえられつつあります。
本来であれば、我々自身が、独力で対応するべきでしたが、結果的には、あなたの軍にも犠牲を強いる結果となり、申し訳なく思っております。」
アーサーは、すまなさそうな表情を浮かべて、スプルーアンスらに謝った。
「我々のほうこそ、貴重な軍港に停泊する許可を与えてくれたグリフィン殿下に感謝いたします。」
スプルーアンスも彼らに対して礼を述べた
本当であれば、あの晩に全てが終わっていたはずなのである。
だが、アーサー達はエリラを逃がしてしまい、最強最悪の手段に移ろうとした。
その手段も、アメリカ機動部隊の断続的な空襲によって阻止されている。

米側の損害報告を聞いた時、アーサーはエリラを取り逃がした事を深く後悔した。
独力で解決する。それが革命軍の作戦方針であったが、エリラの影響力を完全に把握できなかったため、継戦派の決起という予想外の事態を迎えた。
「あの時、もっと情報を集め、エリラ皇女を捕らえておけば、あのような事態にもならなかった筈ですが。
私の見込み違いが原因でこういう事を引き起こしてしまった事は、誠に恥ずべき事であると、私は思います。」
アーサーは表情を変えずに言葉を続ける。
「ですが、あなた方の行動で多くの命が救われた事も、また事実です。
わが国民も、あなた方の素早い行動のお陰で、今も生活を送っています。
私は、国を救ってくれたあなた方の軍に、陛下から預かったお言葉を言います。ありがとうと。」
アーサーは深く頭を下げた。会話を黙って聞いていたスプルーアンスも、ようやく口を開いた。
「アーサー将軍のお言葉を聞いて、私も非常に嬉しく思います。この言葉は、艦隊の将兵に伝えておきましょう。」
普段と変わらぬ、怜悧な表情で、スプルーアンスは淡々と述べる。
「将軍閣下、先ほど、あなたは見込み違いでエリラ皇女を捕らえ損ねたと言っておりましたな?」
急に先の話をするスプルーアンスに、アーサーはやや面食らった表情を浮かべた。
「はい。」
「確かにそれも原因かもしれません。しかし、戦争と言うものは全てが思うように行かぬものです。
全て完璧に見える計画でも、いざ実行してみると不具合が出る。それは仕方のないことです。
今回のエリラ皇女の起こした事態も、もしかしたら、皇女の情報網があなた方より上を行っていたか、
あるいは内通者を忍び込ませたかで起こった事かもしれません。いずれにしろ、予期せぬ事態で起きた事は確かです。
そして、それを止めるのは非情に難しいです。責任はあると思います。ですが、このような想定も行えば、決してあなたに責任があるとはいえません。」
スプルーアンスは、諭すような表情で話す。それを聞いたアーサーは、どことなく不思議な思いだった。
アーサーは継戦派の件で彼に謝罪したのに、その謝罪された側から、おおざっぱに言えばそうではないと言っているのだ。
「そのような事態は、私も幾度か経験しているので、よく分かります。アーサーさん。どのようなものでも、予期せぬ事は起こり得ます。
程度が大きいか小さいかの問題でしかありません。今回はそれがたまたま大きくなっただけです。どうか、1人で思い悩む事がないように。」
話を聞いていたアーサーは、一瞬スプルーアンスの姿が大きく見えた。

そう見えたのも一瞬であり、目の錯覚である。
(度量が大きい)
そう感じずにはいられなかった。
「確かに、提督の言われる事であります。」
「分かってくれたようですな。」
そこで、スプルーアンスは微笑む。
「何もかも1人で背負い込もうとする。確かにいい事です。ですが、それも時によりけりです。」
「なるほど。」
そう言いながら、アーサーは内心で、
(この人には勝てない)
と思った。
一見、どこにも居そうな普通人のような姿だが、その内にあるものは外見とは似ても似つかないものであり、
とても頭がいい、と彼は確信している。
そして同じ武人であると言う事も、彼の言葉から感じ取る事が出来た。
彼とは全く違うタイプの軍人だが、その理論的な言葉には、思わず納得させられる。
(一軍の将をつとめられるだけはある。いや、国のトップに上り詰めてもおかしくないだろう)
アーサーは、スプルーアンスに対してそう印象付けられた。
革命前に起きた各地の戦いで、バーマント自慢の大軍を良い様に振り回し、叩き潰したのも納得がいく。
スプルーアンスのような軍人は、バーマント国内を探しても5人いるかいないかであろう。
「僭越で申し訳ありませんが、軍の撤退はどのぐらいまで進んでおりますか?」
「今は7割がたまで終えています。この調子でいけば、停戦協定調印式前には、全ての軍が本国に復員できるはずです。」
平和が戻りつつある。スプルーアンスはそう思った。
最初、この世界に召喚され、ヴァルレキュアの実情を聞いた時に、彼はとてもバーマ

ほどの大国は屈服できぬと考えた。
ヴァルレキュアの人口600万に対して、バーマントは7400万。
それも本国だけであり、占領し、支配下におく属国も含めれば、実に1億300万ほどが居るといわれている。
この数字は人間以外の種族も含まれていない。
普通なら到底無理である。だが、知力を絞りつくして、スプルーアンスは幕僚達と共に作戦を考えた。
それが、バーマントの内にくすぶっていた革命側の闘志に火をつけたのである。
現在、戦火はグランスボルグ地方でまだ上がっているが、継戦側の抵抗も徐々に収まりつつあり、
向こう2週間以内には抵抗は収まると言われている。
(火消し役ということか)
そう思うと、彼は思わず苦笑した。彼が行った事は、普通ならば偉大な功績として多くの人々に称えられるものだ。
しかし、それはこの世界での事で、現世界では何もしていない。
それどころか、半年以上もどこかに雲隠れした挙句、戻ってきた頃には戦力を減らしているのだ。
恐らく、自分は更迭されるだろう。だが、ただ更迭されるのも面白くない。
この世界で起きた事、体験した事を全て上層部や、キング作戦部長に打ち明ける。
彼らに信じられないのはもはや計算済みであるが、それでも、自分達が行った事を彼らの目に通す事ができる。
異世界の地でも最善を尽くしてやった事を。

会談は1時間半にも及んだ。会談の内容は、最初のアーサーが行った感謝とお詫びの表しと、停戦協定調印式の参加要請である。
スプルーアンスは断ろうとしたものの、世界の破滅を未然に防いだ勇者を招かぬとあっては、
武人の名折れだとアーサーに言われたため、彼はしぶしぶ調印式に加わる事となった。

10月11日~25日
月日はあっという間に流れていった。
11日に、応急修理の終えたエンタープライズを始めとする損傷艦群は、護衛の第2任務群を引き連れて、
スプルーアンスらより一足早くエリオンドルフを出港した。
ちなみに、エリオンドルフを米艦隊が使用する理由となったのは、グリフィンの配慮であり、
一度はサイフェルバンに長駆帰還するはずだった米艦隊は、エリオンドルフで一息つくことができた。
12日には第1、第4任務群が、救出したパイロット8名を載せてエリオンドルフに到着、ここで2日休息した後、
15日には出港し、米艦隊はほぼ全艦がサイフェルバンに向けて移動を開始した。
17日には、グランスボルグ地方の継戦派の軍が革命側に投降。
ここにして大陸を覆っていた戦火は収まる事になる。
18日は、アメリカ、バーマント両軍の激戦場となったサイフェルバンに、バーマント公国新皇帝の
グリフィン・バーマントが復旧した鉄道に乗って来訪し、ヴァルレキュア王国のバイアン王と共に会談。
午前11時には停戦協定が2カ国の首脳によって調印された。
調印式にはバーマント、ヴァルレキュアの両軍の他に、米軍も参加した。
調印が終わった直後に、沖合の米戦艦から祝砲が放たれ、空には陸軍航空隊の航空機と、
機動部隊から発艦した艦載機、合計700機が飛来して両国の停戦を祝った。
19日にはバーマント側の捕虜の復員が始まり、各収容所から合計28万人の捕虜が祖国への帰還を始めた。
20日にはアメリカ軍は、占領していたサイフェルバンをバーマント側に返還する調印式を執り行い、
バーマント軍最高司令官に就任したアーサー騎士元帥とスプルーアンス大将が文書にサインを行い、米軍のバーマント領への引き揚げが始まった。
25日には部隊の半数以上の兵が、輸送船によってヴァルレキュア領ウルシーに向かい、撤退も佳境に入りつつあった。

午前6時30分 グリンスウォルド飛行場
テントを畳み終え、それを集めているトラックに折り畳んだテントを放り込んだ。
「さてと、後は自分達の愛機で、ウルシーに帰るかね。」
自分の手荷物を肩に下げたポール・フランソワ大尉は、白い息を口から吐きながらそう言った。
2日前から、気温が急激に下がり、現在では最高気温が18度までしか上がらない。
今現在の気温は14度である。このサイフェルバンは、10月の後半から11月の初旬にかけて冬の季節に入るという。
これまで熱帯地域のニューギニアや、マーシャル諸島で過ごしてきた彼にとっては、久方ぶりの寒さである。
「こういう寒さを味わうのは3年ぶりだな。」
「大尉は確か生まれはワシントンでしたっけ?」
バイエルン軍曹が聞いてきた。
「そうだ。冬になると雪が降ってきてな、気が向いたときには近所の友達と雪合戦とかやってよく遊んでいたよ。」
フランソワ大尉は、懐かしげな口調で昔の思い出を語る。
「自分はカリフォルニア生まれでした、雪を見たことが無いんですが、冬は大変じゃないですか?」
「大変さ。まだガキの頃はよかったが、中学校の頃から近所の雪掻きに借り出されては、その後は疲れでグダグダだったな。
はっきり言って、冬が楽しいと思うのは大間違いだ。寒くてまともに動く気にもなれん」
「でも、一度は見てみたいものですね。」
バイエルン軍曹は、羨ましげに彼を見つめる。
「やめとけやめとけ、真冬になったら家でずっと閉じこもりたいぐらい寒くなるんだぞ?朝は置きにくいし、いい事が少ないぞ?」
フランソワ大尉は子供の夢を壊すような事を口走った。
「つーか、まだ仕事は残っとるんだ。さっさと準備せんか!」
大尉はきつい口調でバイエルン軍曹を追い立てた。ばつが悪そうな表情を浮かべたバイエルン軍曹は慌てて彼の元から離れていく。
「そういえば・・・・戦争が始まってからは、雪を見たことがないな。ずーっと、熱いところばかり行ってたからなあ。」

彼は左頬をさすりながら、そう呟く。左頬の傷跡の所だけ、少しばかり回りの皮膚と比べて凹んでいるように感じる。
「元の世界に帰ったら、またジャップと戦うのだろうな。」
日本軍・・・・・・バーマントよりも恐ろしい敵が、現世界では待っている。だが、死ぬつもりは無い。
太平洋戦線に戻っても、絶対に生き延びてみせる。フランソワ大尉は心の中でそう決めた。
B-25の中に入り、操縦席に座る。
各種計器のチェックを行う。点検に1分ほどかけるが、全て異常なし。
「機長、全員乗り込みました!」
「ようし、エンジン始動!」
そう言って、彼はエンジンを始動させる。2基のプロペラが最初はゆっくりと、少し立ってから猛烈な勢いで回り始めた。
グオー!という力強いエンジン音が飛行場に木霊する。
「右エンジン異常なし!」
副操縦士が報告してきた。彼も左エンジンを見る。エンジンは快調に動いていた。
「左エンジンもOKだ。」
飛行場には、簡易式の指揮所やレーダー施設などがあったが、これらは工兵部隊によって撤去されつつある。
飛行場の滑走路自身も、普通のコンクリートを敷き詰めているわけではなく、ただ穴あき鋼板を敷いただけである。
これも航空隊が撤退すれば、すぐに撤去される。
第790航空隊は、全機がエンジン音を上げて、離陸の時を待っていた。
その最初の機が、フランソワ大尉のB-25である。
誘導路を通って、滑走路に出た彼は、未だに管制塔に陣取っている管制官を呼び出す。
「こちらベイティリーダー、管制塔聞こえるか?」
「こちら管制塔、感度良好だ。ベイティリーダー離陸を許可する。」
「OK、ウルシーで会おう。」

彼はマイクを元に戻すと、ブレーキを離し、機体を前進させた。
エンジンの出力を上げ、スピードを上げる。スロットルが開かれ、エンジンが猛り狂ったような音を上げる。B-25はますますスピード上げていく。
1200メートル滑走したところで、機体がフワリと浮かび上がった。操縦桿をゆっくりと手前に引き、高度を上げる。
下界では、2500メートル付近の滑走終了地点が見え、土のうが大量に積まれた防壁も見える。
高度を2500まで上げたフランソワ大尉は、上昇をやめて旋回に移った。離陸してくる寮機を待つためだ。
「2番機、離陸しました。3番機、続けて滑走開始。」
後部銃座から、バイエルン軍曹が声を上げて報告してくる。
滑走路脇の誘導路には、離陸を待つB-25やB-24、A-20やP-47といった各種航空機がずらりと並んでいる。
パイロットの誰もが、一時的な平和を喜んでいた。

この日、グリンスウォルド飛行場とバーネガット飛行場から、陸軍航空隊、海兵隊航空隊の航空部隊が撤退していった。
これらの航空隊は、南のウルシー泊地周辺の飛行場に降りた後、マーシャル諸島の飛行場に移送されることとなった。
この日の空は、曇りであったものの、天気はそれほど悪くなく、陸軍航空隊は堂々たる編隊を組んでサイフェルバンを後にした。


時に1098年 10月26日の事である。
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