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皇国召喚 ~壬午の大転移~3

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Turo428

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   皇国はイルフェス王国の治安を維持するという名目で、陸戦部隊と空母機動部隊を派遣した。
    陸軍からは、独立混成旅団2個で2万4000人。
    海軍からは正規空母2隻(2航戦の2隻)、軽巡洋艦2隻、駆逐艦8隻の機動部隊と、
    軽巡洋艦1隻、駆逐艦8隻、輸送船28隻の陸軍輸送部隊、油槽艦6隻と弾薬補給艦1隻、給糧艦1隻の補給部隊。

    しかし、これ以上の増派は無いものとされた。
    反イルフェス同盟30万強に対し、陸軍2万数千程度の兵力で救援が可能なのか疑問が持たれたが、
    空母に戦車も派遣するのだから、それは現場で何とか工夫しろということで議論は終わりにされる。

    不十分な派遣部隊。石油や弾薬などの備蓄が足を引っ張っていることは誰の目にも明らかだった。


    2月25日。
    幸先良く、陸軍部隊は何の障害も無くイルフェス王国に軍を上陸させる事ができ、現在は仮設司令部の建設や
    部隊の調整を行っている。あと3、4日もすれば、皇国が派遣した部隊はほぼ完全な戦闘態勢に入ることができる。

    イルフェス側は、表向きには感謝の意を述べたが、実際は複雑な心境であった。
    まず気になったのが、兵数の少なさ。敵である同盟軍の戦力は、総勢30万を超える。
    イルフェス軍は20万強。
    それに対してたった2万数千の軍というのは、皇国の人口から考えてあまりやる気が感じられない。
    大内洋を長躯渡ってくるのだから、大兵力を動員するのが困難な面があるだろうが、
    中途半端な兵力を派遣してくれるくらいならば、金貨の1万枚でも寄越してくれた方がありがたい。

    それとは逆に、もし皇国が手柄を立ててしまったらという問題があった。
    たった2万数千の兵力では考え辛いにしても、皇国が参加してくる以上、手柄を立ててしまう可能性はゼロではない。
    2万数千という数は、30万に対しては寡兵であっても、一会戦での戦力として考えれば必要十分だ。
    ある程度以下の手柄であれば、同盟軍としても仕方の無い所だが、もし大戦果でも挙げてしまったら……。
    そう考える者も、一部に居た。

    何故なら、『皇国の船には帆が無い』のだ。
    灰色で装飾の一切無い軍艦は不気味な事この上ない。

    しかも船体や搭載している大砲が、どう見ても過大だ。
    一等戦列艦より巨大な船体に、5バルツ砲(≒25kg砲)より遥かに長砲身の大砲。
    大きすぎる大砲は実用性を欠く。何を考えているのかわからない。不気味である。
    さらに、砲の門数が少なすぎる。舷側に砲窓も見えないので、備砲は最上甲板にある数門だけだ。
    1隻あたり10門すら搭載していないのではないか? これではフリゲートにすら撃ち負けるだろう。

    あまりにも常識とかけ離れた設計思想の軍艦。
    もし、これらの装備が「伊達や酔狂」でないのだとしたら……。

    この世界の人々にとって、空を飛ぶ人工物といったら、熱気球である。
    その他には蒸気機関(といってもまだまだ研究室レベルのもので、
    実用化には程遠い)の発明によって構想が持たれた飛行船程度のものだ。
    飛行機など、当然見たことも聞いたことも無い。
    可能性の一つとして、グライダーに動力機関を取り付ければ
    自力飛行可能な航空機を作れるのでは、という研究はごく一部で行われている。
    華奢な機体に大型の蒸気機関ではとても実現可能とは行かないが、
    夢見る研究者は“いずれは可能だ”と考えていた。

    今、そんな夢物語の機械が現実に飛び立とうとしている。
    空母飛龍、蒼龍に搭載されている144機の艦載機のうち、第1次攻撃隊として両艦合わせて
    爆装零戦16機、九九式艦爆16機、九七式艦攻16機の合計48機が発艦準備に入っていた。

    問題も無く全機が発艦すると、夜明け前の空を、海鷲たちが飛び立っていった。


    海軍の艦載航空隊の任務は、ライランス軍の基地施設の破壊である。
    既にイルフェス軍からの情報提供と水偵による事前偵察により、飛竜基地や陸軍部隊の駐屯地は判明している。
    補給部隊を随伴しているとはいえ、上からはできるだけ少ない消費で最大の戦果を望まれている。
    効率の良い破壊を行わなければならない。

    零戦は60kg爆弾2発を、九九式艦爆は60kg爆弾4発を、九七式艦攻は60kg爆弾6発を、各々の目標に投下していく。
    各所で爆発音が響き、人や建物が吹き飛ぶ。

    対するライランス軍は、反撃しようにも手段が無かった。
    高空(1000m以上)を時速350km以上で飛ぶモノに対する迎撃手段など、『この世界』には存在しない。

    零戦による射撃で、ライランス王国軍の誇る飛竜は次々と撃ち落されていく。
    飛竜兵は竜具によって体を固定されているが、それでも急激な運動は負傷や落竜に繋がる。
    それに、飛竜自身も大型動物であり、すばしこく動けるようにはできていない。
    だから激しい回避運動は出来ないのだ。
    また速度の面でも、時速120km程度が限度の飛竜に比べ、時速500km以上を出せる皇国の戦闘機は反則とも言えた。

    低空を飛ぶ飛竜目掛け、地面を機銃掃射する如く次々と機銃弾を撃ち込み、血祭りに上げる。
    ライランスの飛竜兵達は皇国の戦闘機に手も足も出ず、撤退しようにも逃げることも叶わない。

    この世界には機関銃というものが存在しない。
    仮に存在して戦場に届けられたとしても、大きく重い機関銃を飛竜に搭載できるわけが無かった。
    また現状の各国の兵站体制では、機関銃のような大量の弾薬を消費する武器は補給にも苦慮するだろう。

    ライランス兵は500km超の速度で飛び回る零戦を、単発式のカービンやピストルで
    狙撃せねばならないという、無理難題を押し付けられた形になる。
    当然、当たるわけがないし、球体の銃弾は銃口を出た途端に大きく威力を減ずる。
    仮に命中したとしても、それで致命傷を負わせるのは相当な幸運が必要だった。
    対飛竜用の投槍もあったが、それこそ相当な技量と運が無ければ命中するものではない。
    実際、30騎いた飛竜がゼロになっても、16機いた零戦の数はそのままである。

    飛竜も飛竜兵も、何も悪くは無い。
    飛行機という“非常識な”兵器さえなければ、飛竜は今でも最速最高の航空兵力として君臨できただろう。
    時速100kmという速度は馬よりも速く、上空数百メートルという高度は、弓や鉄砲も届かない。
    つい数日前まで空の王者であった飛竜は、この日、その座を皇国の戦闘機に譲り渡した。
    戦いに参加したライランス王国の航空兵力は、この数十分の戦闘で完全にすり潰された。

    追撃される危険は殆ど無いのだから、艦爆や艦攻の自衛のための機関銃すら地上の機銃掃射に使われた。
    皇国軍の艦載機部隊は爆弾の全てと機銃、機関砲の殆どを使って各地のライランス基地を破壊した。

    艦載航空隊の攻撃は6次まで行われ、のべ出撃数は288機。
    この日1日のライランス軍の被害は飛竜152騎、戦竜44騎、大砲173門、将兵の戦死1161人、負傷4438人だった。


    驚いたのはライランス軍だけではなく、イルフェス軍も同じだった。
    「空襲」というのは、あくまで陸戦や海戦の補助に用いるものだ。
    空襲単独では、敵軍を屈服させることは難しい。
    空襲にはそんな火力は無い。それが「常識」だ。

    それが1日で、空襲のみで5000人以上の損害を与えられるという事は、
    空襲のみで敵国の軍隊を全滅させることすら可能ではないか!

    しかも、沿岸の基地はともかく、皇国軍はかなり内陸の基地まで空襲している。
    飛竜の作戦行動半径は約40マシル強(≒50km)~50マシル(≒60km)だが、皇国軍の
    “飛竜”の作戦行動半径は、どう短めに見積もっても250マシル(≒300km)はある。
    250マシルといったら、飛竜の「航続距離」より長いではないか! 倍はある。

    イルフェス軍は国内に皇国向けの飛竜基地を提供していない。
    とするとライランスへの空襲は洋上から行われたという事になるが、
    洋上で飛竜を展開運用する軍艦というのは列強国でもせいぜい1、2隻しか持たない。
    それも主たる用途は偵察と連絡だ。対艦用爆弾も積んでいるが、それはオマケみたいなものだ。

    各地を空襲した“飛竜”が300騎近いとなると、皇国軍は“飛竜母艦”を数隻以上保有するという事になり、
    しかもその用途である「攻撃」の威力が“飛竜”とは比べ物にならない程高いという事になる。


    この戦闘は、この世界初の“航空撃滅戦”の始まりでもあった。

    今まで、敵の飛竜基地は手の届かないところにあるものだった。
    自軍の飛竜基地は、敵の手の届かないところに造るものだった。
    イルフェス、ライランス両軍にとって「戦争」の前提が崩れた瞬間である。

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