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皇国召喚 ~壬午の大転移~6

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Turo428

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    イルフェス王国リジュスタン平原。
    東街道沿い、ライランス王国との国境から約10kmイルフェス側に入った地域である。

    ここには皇国軍の歩兵連隊、戦車大隊、砲兵大隊を中心とした派遣軍の前衛部隊が布陣していた。

    対するはライランス王国軍の2個師団。歩兵8個連隊を中核とした作戦単位である。
    こちらは「助攻」部隊であり、イルフェス軍の主力を側面から衝くための部隊。


    「閣下、敵は皇国軍の部隊に間違いありません。あの白地に赤丸の旗は皇国のものです」
    「見たところ、数は3000弱といったところか?」
    「はっ。飛竜陣地は不明ですが、敵には戦竜部隊が附属していないようです。ただの歩兵の集団です。
     それと斥侯によると敵は重砲の輸送に手間取っているようで、敵の砲兵隊は未だ5マシル(6km)後方です」
    「ほう、それは可哀相にな」
    「砲兵の支援の望めない歩兵隊がどうなるかは、歴史が証明しています」
    「歩兵の数もこちらが多い。あの“アンヴァルールの戦い”の再現かな」
    「規模的には“アンヴァルール”以上になります。歴史に名を残しましょう、閣下!」
    「そうだな。よし、全軍進撃開始!」


    「兵団長、敵が動き出しました」
    「もう少し休息するかと思っていたが、早いな」
    「こちらに時間を与えたくないのかもしれません」
    「ふむ……陣地構築にもう少し時間をかけたかったが……だが敵が動いたのならば
     こちらも動かなければいかん。砲兵隊と戦車隊にも連絡だ。撃ちまくれと」
    「はっ。ですが撃ちまくって宜しいのでしょうか? 弾薬の補給の問題が……」
    「敵の数はこちらの4倍だ。戦車と砲兵の支援が無ければ、数に押し潰されるぞ」
    「解りました。兵団長の仰る事はもっともです」

    戦車大隊は八九式軽戦車30両で構成されている。
    八九式軽戦車は重量12t、22口径57mm砲を主砲とし、6.5mm軽機関銃2丁
    を備える旧式戦車だが、今回の陸軍派遣によって第一線に立たされた。

    「兵団長は撃ちまくれと仰ったそうだ。敵は我々の民間船を襲った国。容赦することは無いぞ!」
    車載無線機から戦車大隊長の訓示が行われる。
    既に戦車隊はエンジンを始動して歩兵連隊の前に展開し、待機している状態だ。

    「敵の前衛部隊、既に射程内ですが……?」
    「もう少し待て。敵歩兵は脅威ではない。砲兵と戦竜が前に出て来てからだ」
    「解りました。しかしどうも、見る限りだと徹甲弾は要らなかったようですね」
    「そうだな。徹甲弾と榴弾の比率も見直したほうが良いかもしれんな」

    彼我の距離、500m。
    「敵の砲兵隊が前進してきましたね。展開作業中のようです。
     あれは先にやっちまわないと不味いんではないでしょうか?」
    「勿論だ。各小隊の全車に指令、目標は敵砲兵」

    戦車隊はその場で主砲を敵砲兵に向け始める。
    ほぼ同時に、戦場の遥か後方で待機中だった砲兵大隊がライランス軍の後衛を砲撃し始めた。

    ライランス軍の砲兵陣地に大音響がこだますると、大砲や操作員が次々と吹き飛んでいく。
    57mmの榴弾は、一撃で砲とそれを扱う砲兵をなぎ倒す威力がある。
    敵は丸裸で、土嚢を積む事さえしていなかったから、一撃で複数の砲を巻き込むこともあった。

    驚いたのは中央を進撃していた歩兵連隊である。
    突然爆音がしたかと思うと両翼の砲兵と後方から煙が昇っている。
    奇妙な模様の描かれた、鉄の竜のようなものは、砲兵だったのだ!
    よく見れば、鉄の竜からは大砲の砲口らしきものが突き出ている。

    「師団司令部に連絡! 至急戦竜隊の応援を請う!」
    ライランスの歩兵連隊長はすぐに伝令を飛ばした。
    あの“鉄竜”には戦竜でなければ対抗出来ない。武人の直感だろう。


    30両の戦車隊は、ものの数分で展開作業中だったライランス軍の砲兵部隊を全滅させてしまった。
    砲兵隊が全滅したのを確認すると、戦車隊は中央にいた歩兵隊を目標に入れた。
    だが、2~3射した時点で目標が変更された。敵の戦竜部隊が突進して来たのである。

    「目標は敵の竜だ! 撃ち漏らすなよ!」
    突進してくる戦竜は時速25km程度。その巨体から見れば十分以上に速い。
    だが、57mmの榴弾砲は直撃は勿論、至近弾でも戦竜を戦闘不能にさせるには十分だった。
    訓練の賜物で、装填、照準、射撃速度、命中精度もこの世界の一般的な砲兵を遥かに凌駕している。

    直撃を受けた戦竜はまだしも幸せかもしれない。殆ど苦しむことなく、一瞬であの世へ行けたのだから。
    榴弾の破片が突き刺さった戦竜は、激しい出血で苦しみもがきながら命の灯火を消していく。

    派遣された師団戦竜隊は77騎いたが、ただの一騎も皇国軍の陣地に到達することは無かった。


    全てが十数分間の出来事である。
    ライランスの将軍は、あまりの展開の速さに戦闘の指揮が
    後手後手になるのを感じながら、次に何を命令すべきか悩んでいた。
    この状況で悩んでいる暇など無いのだが、今までに無い状況に頭が付いていかないのだ。

    砲兵と前衛の戦竜兵は全滅した。どこからの砲撃か、後衛の騎馬兵や歩兵にも損害が
    出ている。飛竜の援護は無い。戦略予備の戦竜兵30騎と騎馬兵800騎は無傷だが、
    残った歩兵隊を進めるべきか、退くべきか? 歩兵の数では敵を圧倒しているが……

    「閣下、ご采配を!」
    「うむ……」
    考えている間にも、敵の鉄竜部隊は前衛の歩兵連隊を砲撃している。
    「…………全軍突撃だ」
    「はっ、全軍突撃します!」

    敵に背を見せるわけには行かない。
    というより、先程から退路は炸裂弾による砲撃によって塞がれている。
    進むも地獄、退くも地獄。であるならば、敵に一矢報いるのがライランスの武人であろう。

    先陣の中央を戦竜兵、脇を騎馬兵が固めつつ、歩兵が進軍する。
    だが、敵の攻撃は苛烈を極め、一歩足を踏み出すごとに一人、また一人と倒れ、または八つ裂きになり散っていく。

    敵の鉄竜は正面の戦竜隊を狙っているようだが、その“余波”で歩兵隊からも続々と落伍者が発生する。
    歩兵の進軍速度に合わせていてはジリ貧になると考えた戦竜隊の指揮官は、独断で部隊の突撃スピードを上げた。
    しかし、単独で突出した戦竜隊は敵の鉄竜や陣地から連射される光の弾に射抜かれ、いとも簡単に絶命する。

    歩兵隊の“盾”は、僅か数分でなくなった。
    飛竜や戦竜の援護の無い歩兵の末路は悲惨である。それは歴史が証明している。
    特に、敵の大砲や光の弾に対しては胸甲が何の意味も無いとなれば、歩兵は丸裸も同然だ。

    しかしなんとしても、射撃地点まで接近せねばならない。
    でなければ、土俵にすら上がらせてもらえない力士のごとく、“不戦敗”である。

    敵の前衛である鉄竜部隊までの距離は1.5シウス(≒300m)程。
    半シウス(≒100m)まで接近するとしてあと1シウス(≒200m)。
    早足で行進しても2分はかかるだろう。
    行進速度を早くし過ぎれば隊列が乱れるから、駆足は最後の段階だ。

    2分といえば、普通は銃隊で2~4回の斉射が行われるくらいの時間である。
    しかし、敵の鉄竜や野戦陣地は光の弾を恐ろしいほどの速さで連射してきている。
    1丁あたり1分間に100発撃っていると言われても信じてしまう程の火力だ。

    さらに、敵の銃兵が持つ小銃も脅威だ。
    どう見ても、一度の弾薬装填で数連発している上に再装填も殆ど一瞬だ。
    しかも発砲しても殆ど煙が無く、弾薬の装填方式も後装式のようだ。

    数秒おきに真上から降ってくる炸裂弾も怖い。
    飛竜の扱う対歩兵用爆弾も脅威だが、皇国軍の炸裂弾は爆発の音からして違う。
    炸裂弾の破片や、衝撃波の影響がある危害範囲、殺傷人員数であれば、
    皇国製の炸裂弾は飛竜用の炸裂爆弾の数倍以上の威力がある。

    単位時間あたり、兵士一人あたりの火力投射量は、10倍ではきかないのではないか?

    しかし、それにしてもである。
    有史以来、これ程までに一方的になされた会戦があったろうか?
    大体、“大勝利”した軍も、相応の被害は受けるものであろう。

    例えば、古代史に名高いレザリウス将軍の『バトーの戦い』では、
    レザリウス将軍2万に対して敵方のカメエラ将軍は5万(10万説もあるが、これはさすがに誇張だろう)。
    結果は、レザリウス将軍が2500の損害に対し、カメエラ将軍は3万の損害で橋を確保できず、
    『レザリウス軍は戦略的にも戦術的にも完勝』だというのが史学会の通説だろう。

    なのに、皇国軍は未だ、ただの一兵も失っていない様子で、鉄竜や
    陣地からは相変わらず凄まじい勢いで光の弾が発射され続けている。

    このままでは、「ライランス軍の損害は2万近く、皇国軍の損害はゼロ」という筋書きになりかねない。
    もう、半分以上はその筋書き通りに事が進んでいる。

    数個連隊の同時行進は、パレードなどで見ているだけであれば壮観である。
    だが、先頭から次々倒れていく“死の行進”は、見ていて気持ちの良い筈がない。
    あまりにも簡単に倒されているので、司令官の将軍もどういう顔をして戦場を眺めればいいのか解らなくなっている。
    将軍たるもの、不安そうな顔は決してしてはいけないのは勿論だが、
    ではポーカーフェイスでいるのが正しいのだろうか? 不敵に笑うべきか?

    そんな中、進軍中だった1個連隊が、ようやく射撃位置に着いた!
    敵の鉄竜の幾つかがそれに気付き、向きを変えようとするが少し反応が遅かった。
    ライランス兵は、すかさず銃を構えると敵の鉄竜に一斉射撃を見舞う。
    1/4シウス(≒50m)からの一斉射撃! 歩兵連隊としては最も効果的な銃隊の使用である。
    連隊規模の一斉射撃であるから、戦竜相手であれば、戦竜は死亡するか、軽くない怪我を負うだろう。

    だが、皇国軍の鉄竜は鈍い音で数十発の命中弾全てを弾き返すと、何事も
    無かったかのように歩兵連隊に向けて大砲を発射し、光の弾を発射して来た。

    相手が重戦竜であっても、この距離ならば1発くらは貫通しても
    良さそうなのに、どうも1発も貫通していないようにしか見えない。
    鉄竜からは“一滴の血も流れていない”のだから。

    一斉射撃にも動じない鉄竜にショックを受けた連隊だが、驚いたり次弾を装填している暇は無い。
    それに接近すれば、さすがにあの大砲も光の銃も使えないだろう。砲兵は接近戦に弱いのが常識だ。
    「全員、速やかに白兵戦に移行しろ! 将校は全員抜刀!」


    歩兵隊が白兵突撃を仕掛けてきたのを見ると、皇国軍の戦車隊は
    じりじりと後進しながらひたすら主砲と機銃を撃ちまくる。
    戦車の後進速度は遅いとはいえ、人間の足よりは当然速い。

    鉄竜隊を追いかけるライランスの連隊は、いつまで経っても
    追いつかない上に増え続ける死傷者に段々と戦意を失っていく。
    何か物陰に隠れようと岩の後にいた兵も、その岩ごと粉砕させられた。


    ライランス軍の後衛部隊も、状況は悲惨だった。
    どこから撃っているのか判らないが、とにかく凄まじい威力の砲撃を受けていた。
    砲撃から逃げるように位置を変えても、数分後にはまた精確な砲撃が襲ってくる。
    何回か陣地を移動しているうちに、兵たちは皆諦めたようにその場に腰を下ろす。
    指揮官が陣地の変更をするから徒歩行軍用意の命令を出しても、多くの兵は座ったまま立たない。
    “逃げ場が無い”という現実は、兵士たちを絶望させるに十分だった。
    どうせ死ぬんだから、歩いたって無駄だ……そんな空気が、ライランス軍に蔓延し始めている。
    脱走しようとして指揮官に射殺された兵も、1人や2人ではない。

    前衛は敵の圧倒的な防御火力によって粉砕され、後衛は戦う前から戦意を失っている。
    「突破は為らなかったか……」
    司令官は自らの軍服の上着を脱いだ。
    「閣下……」
    「撤退可能な者は撤退しろ。捕虜になるのは私だけで十分だ」
    「私もお供いたします」
    「それはならん。貴官は私の副官として、この圧倒的な敗北の情報を王都に届ける任務がある」
    「はっ……」
    「今まで私の副官としてよく務めてくれた。礼を言うぞ」
    「閣下からお礼の言葉を頂けて、私も気持ちを新たに情報を王都に
     届ける任務を果たせそうです。私からも、ありがとうございました、閣下」
    「うむ、では全軍に撤退命令を出そう。敵の砲撃を掻い潜り、無事に王都に戻るまでが任務だと」


    ライランス王国の誇る2万以上の軍が、数分の一の規模の部隊に、一方的に叩きのめされた。
    この会戦は、西大陸はおろか東大陸でも大きなニュースとなることになる。

    ライランス王国は西大陸でイルフェス王国に次ぐ規模の国家で、列強国である。
    それが、何処からともなく現れた“謎の島国”に一方的に敗北した。

    だが、そこから導き出された戦訓は、各国、各人ごとに様々だった。

    『ライランスでも勝てない相手なら、列強国のどこが相手でも 皇国には勝てないかもしれない』
    という悲観的な意見から、

    『ライランスはきっと本調子ではなかったのだろう。列強国が本気を出したらこんなものではないはずだ』
    という楽観的な意見まで。

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