この世界で人類発祥の地はロナルナ大陸、いわゆる東大陸であり、
その南海岸、現在のヴィユム王国の辺りが、発祥の地だとされている。
やがて人類の生活圏は大陸全土に広がり、北側に白人、南側に黒人、西側に赤人、東側に黄人が誕生した。
だが、500年前に起こった白人の大移動、大陸全土の征服によって、
黒人や黄人は大きく数を減らし、赤人は絶滅寸前にまで追い込まれてしまった。
白人大移動の直接の理由は、気候の変動による食糧難である。
死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされた白人は何でもやった。
紳士的な戦争などとは無縁な、謀略、虐殺、民族浄化などの恒常的使用である。
白人が持っていた大陸北方の風土病が広まり、それで死んだ者も多い。
約100年の間でたった1500万の白人によって、2000万の黒人が800万に、
2800万の黄人が1500万に、3500万の赤人が100万になった。
赤人の被害が大きいのは、大陸の西側に金銀などの資源や肥沃な土地が多かったからである。
それ以降も、混血によって純粋な赤人はどんどん少なくなっていき、
現在では純血の赤人は全世界で10万に満たないだろうと考えられている。
赤人は、最も美しい人種とされている。
赤茶色の健康的な肌に、燃えるような赤毛、均整の取れた肉体で容姿も美しいということで、
現在は"観賞用"として高値で取引される存在になっている。
見世物なのだ。
赤人は一般的に身体能力が高く、それ故運動競技の選手や戦士としても用いられてきた。
ただ、現代では運動競技の選手はともかく、戦士に個人技はあまり必要とされなくなってきている。
幾ら身体能力に優れるといっても、白人の倍の荷物が持てるとか、倍の速さで走れるわけでも無い。
現代の兵士に求められるのは指揮官の命令を素早く実行できる能力、集団の中での規律であり、武芸ではないのだ。
勿論、貴族階級になれば別であるが、完全に被差別階級である赤人に貴族階級がいるわけが無かった。
完全に慰み者として買われるケースも多い。
そんな赤人の一人、マクルスは、リロ王国から皇国の天皇に“献上”された。
この世界においては、赤人を贈るというのは友好の証である。贈られた方は、普通は(表面的にであっても)喜ぶ。
だが、皇国の天皇はやんわりとであるが、不快感を示したのだ。
朕は、このような形の贈り物はあまり受け取りたくない。そう、侍従長に言ったのだ。
外務省や宮内省なども、対応に苦慮した。
受け取らないわけには行かないだろうが、しかしその品物とは言ってしまえば奴隷である。
皇国は、奴隷制度は認めていない。天皇自身も、そのような制度には批判的である。
本人の自由意志で志願してそのような境遇に陥ったのならば、まだしも救いはあるが、
赤人は生まれた時から奴隷なのだ。
これ以上数が減らないように純血同士での“交配”が計画的になされ、“飼育”も白人や黄人の管理下に置かれている。
そんな境遇の人間を、素直にありがとうと受け取るのは、少し難しい。
討議の結果、形式だけでも礼を述べて受け取り、その後は宮内省で普通の人間として扱い、
何か仕事を与えればよかろう、という結論になった。
そして今、彼は天皇の傍で世話係りの一人として働いている。
「マクルスよ」
「はい、陛下」
「リロ王国とは、どのような所だろうか」
「はい。とても暖かく、明るい島国です」
「東京よりも暖かいかな?」
「まだ東京は初春です。私は東京の夏の暑さを知りませんが、今の季節なら、リロ王国の方が暖かいです」
「そうか。夏の東京はとても暑いものだ。日差しも強い。マクルスは皇国の国旗を知っているかな?」
「白地に赤い円がありました。詳しい意味までは、存じておりません……」
「赤い円は、太陽を表している。皇国は太陽の下にあるという意味なのだ」
「皇国は、太陽の国なのですね」
「太陽の光に恵まれ、豊かな国土に恵まれ、それを我が国の人々は感謝してきた。
暖かくて明るいリロ王国も、きっと豊かな国なのだろう。一度行ってみたいものだ」
その南海岸、現在のヴィユム王国の辺りが、発祥の地だとされている。
やがて人類の生活圏は大陸全土に広がり、北側に白人、南側に黒人、西側に赤人、東側に黄人が誕生した。
だが、500年前に起こった白人の大移動、大陸全土の征服によって、
黒人や黄人は大きく数を減らし、赤人は絶滅寸前にまで追い込まれてしまった。
白人大移動の直接の理由は、気候の変動による食糧難である。
死ぬか生きるかの瀬戸際に立たされた白人は何でもやった。
紳士的な戦争などとは無縁な、謀略、虐殺、民族浄化などの恒常的使用である。
白人が持っていた大陸北方の風土病が広まり、それで死んだ者も多い。
約100年の間でたった1500万の白人によって、2000万の黒人が800万に、
2800万の黄人が1500万に、3500万の赤人が100万になった。
赤人の被害が大きいのは、大陸の西側に金銀などの資源や肥沃な土地が多かったからである。
それ以降も、混血によって純粋な赤人はどんどん少なくなっていき、
現在では純血の赤人は全世界で10万に満たないだろうと考えられている。
赤人は、最も美しい人種とされている。
赤茶色の健康的な肌に、燃えるような赤毛、均整の取れた肉体で容姿も美しいということで、
現在は"観賞用"として高値で取引される存在になっている。
見世物なのだ。
赤人は一般的に身体能力が高く、それ故運動競技の選手や戦士としても用いられてきた。
ただ、現代では運動競技の選手はともかく、戦士に個人技はあまり必要とされなくなってきている。
幾ら身体能力に優れるといっても、白人の倍の荷物が持てるとか、倍の速さで走れるわけでも無い。
現代の兵士に求められるのは指揮官の命令を素早く実行できる能力、集団の中での規律であり、武芸ではないのだ。
勿論、貴族階級になれば別であるが、完全に被差別階級である赤人に貴族階級がいるわけが無かった。
完全に慰み者として買われるケースも多い。
そんな赤人の一人、マクルスは、リロ王国から皇国の天皇に“献上”された。
この世界においては、赤人を贈るというのは友好の証である。贈られた方は、普通は(表面的にであっても)喜ぶ。
だが、皇国の天皇はやんわりとであるが、不快感を示したのだ。
朕は、このような形の贈り物はあまり受け取りたくない。そう、侍従長に言ったのだ。
外務省や宮内省なども、対応に苦慮した。
受け取らないわけには行かないだろうが、しかしその品物とは言ってしまえば奴隷である。
皇国は、奴隷制度は認めていない。天皇自身も、そのような制度には批判的である。
本人の自由意志で志願してそのような境遇に陥ったのならば、まだしも救いはあるが、
赤人は生まれた時から奴隷なのだ。
これ以上数が減らないように純血同士での“交配”が計画的になされ、“飼育”も白人や黄人の管理下に置かれている。
そんな境遇の人間を、素直にありがとうと受け取るのは、少し難しい。
討議の結果、形式だけでも礼を述べて受け取り、その後は宮内省で普通の人間として扱い、
何か仕事を与えればよかろう、という結論になった。
そして今、彼は天皇の傍で世話係りの一人として働いている。
「マクルスよ」
「はい、陛下」
「リロ王国とは、どのような所だろうか」
「はい。とても暖かく、明るい島国です」
「東京よりも暖かいかな?」
「まだ東京は初春です。私は東京の夏の暑さを知りませんが、今の季節なら、リロ王国の方が暖かいです」
「そうか。夏の東京はとても暑いものだ。日差しも強い。マクルスは皇国の国旗を知っているかな?」
「白地に赤い円がありました。詳しい意味までは、存じておりません……」
「赤い円は、太陽を表している。皇国は太陽の下にあるという意味なのだ」
「皇国は、太陽の国なのですね」
「太陽の光に恵まれ、豊かな国土に恵まれ、それを我が国の人々は感謝してきた。
暖かくて明るいリロ王国も、きっと豊かな国なのだろう。一度行ってみたいものだ」