意気揚々と出立したユラ神国軍がリア公国に到着した頃、そこには既にリンド王国軍の姿は無かった。
騎兵隊による事前偵察でも、リア公国はもぬけの殻だという報告があったので、
ユラ神国軍の高い士気も空振りのような形になっていた。
「撤退してくれたのか」
「無血占領ですな。ですがまた何時再びリンド軍が攻め込んで来るかわかりません。警戒は厳重に致しませんと」
「わかっている……しかし、これは酷いな」
ヴュカースの北のラト平原に布陣したユラ神国軍であったが、
この前の戦闘が行われた平原にはあちこちにクレーターがある。
皇国軍の砲撃の跡だ。
皇国軍の砲弾は全て炸裂弾である。
それが、地面を抉った跡が数え切れないほどある。
「皇国軍は、一体何千発の大砲を発射したのだろうな」
「数千発の砲撃戦ですか。考えられませんね」
実際は数万発であったが。
「ここらは、まだ死臭が漂っているようにも感じる」
「十数万の遺骨が、この辺りに埋められている筈ですから……」
「気分が悪いのは仕方が無いが、ここに陣を張るしか無いだろう。全軍、野営準備」
「了解しました。全軍に野営の命令を出します」
ユラ神国軍とリンド王国軍が互いを戦場に確認したのは、
ユラ神国軍がリア公国に陣を構えてから10日目の事だった。
その数時間前、皇国陸軍の司令部偵察機は軍司令部にリンド王国軍接近の一報を発していた。
九七式戦闘機12機(60kg爆弾×2)、九七式重爆撃機12機(120kg爆弾×12)、九九式襲撃機12機(120kg爆弾×2)の
空襲部隊第一波が戦場に到着したのは、ユラ神国軍とリンド王国軍の距離約10kmに接近した頃である。
その頃、リンド王国軍も各地の飛竜陣地から240騎の飛竜が戦場上空に集結しつつあった。
「飛竜隊には、予定通りユラ軍の戦列を攻撃させろ。皇国軍騎はこちらで対応する」
両軍の空襲部隊が敵軍上空に殺到する。
破壊と殺戮を撒き散らしながら、爆弾は炸裂する。
爆撃を終えた九七式戦闘機と九九式襲撃機は、機銃で飛竜狩りを行い始めた。
ユラ神国軍へ爆弾を投下する前に撃ち落とされる飛竜が10騎、20騎と増えていき、
投弾を終えて帰る途中に撃ち落とされる飛竜も10騎、20騎と増えていく。
爆撃による死傷者はユラ神国軍が2000、リンド王国軍が2500程度であった。
さらにリンド王国軍は、飛竜を50騎近く失った。
30分後、皇国軍機の第二波が戦場に到着した。
爆弾と機銃掃射によって、リンド王国軍はさらに3000近い死傷者を出した。
空襲が終わる頃、両軍は砲兵隊の展開を完了する。
百数十門の大砲から、砲弾が一斉に発射される。
発射速度は1~2分に1発といった程度で、皇国軍から見たら随分間延びした砲撃だろうが、
それでも放たれた球形弾は整列する戦列歩兵をなぎ倒すには十分な威力だ。
大砲の数はほぼ互角。
当初はリンド王国軍の方が多かったが、皇国軍の空襲によってかなりの数を破壊されている。
お互いの大砲が、お互いの横隊を刈り取る。
少しずつ、損害が増していく。
だが、横隊は敵を求めて行進を続ける。
多くの損害を出しながらも行進していた歩兵隊が射程に入った。
マスケットでの銃撃戦が始まる。
一斉射撃で、両軍から真っ白な煙の列が生まれる。
発砲音と煙が生まれる度に、幾十人、幾百人の兵が倒れていく。
十数回の一斉射撃を終え、両者一歩も引かない中で、
リンド王国軍では、将兵に奇妙な感覚が湧き起こっていた。
“皇国軍の攻撃に比べれば、こんなもの、攻撃されているうちに入らない”。
妙な安心感というか、安堵感のようなものが将兵を包み込む。
ユラ神国軍は全力で攻撃しているのだが、リンド王国軍は全く動じない。
将兵の意外な士気の高さに、リンド王国軍司令官は突撃の機会を感じ取った。
「戦竜隊を先頭に、全軍に突撃を命ずる」
リンド王国軍が最後の射撃をすると、歩兵隊の後に控えていた戦竜隊が前に出る。
「突撃ー!」
戦竜隊を先頭に、脇を騎兵隊が固めてリンド王国軍が突撃を開始する。
「射撃中止! 戦竜隊前へー! 軽騎兵隊は迎撃に出ろ!」
リンド王国軍の突撃に対し、ユラ神国軍は大砲とマスケットによる射撃を中止し、
戦竜隊と軽騎兵隊(ピストル騎兵隊)を前に出す。
そして歩兵隊は戦列を方陣に組み替える。
戦竜同士の戦いが始まる。
戦竜同士の体当りは、しばしば戦竜兵を落竜させる。
落竜せずとも、戦竜兵はむち打ち等大きなダメージを負うだろう。
であるから、戦竜同士の戦いではまず投槍の戦いになる。
対戦竜用の投槍は大型で、故に戦竜兵は体格の良い兵しかなれない。
軽戦竜兵は、この大型の投槍を6~8本程度装備する。
重戦竜兵は、投槍を2本程度しか装備しない代わりに長槍と鎧を装備する。
投槍が命中した戦竜が倒れ、戦竜兵が振り落とされる。
2本、3本と命中すれば、いかな巨大な戦竜と言えども命は無いだろう。
戦竜同士が接近すると、長槍の出番だ。
過去の歩兵や、現在でも一部の歩兵が持つパイクよりも長く太い対戦竜用の槍。
これで戦竜兵を突き落としても良いし、戦竜自体を貫いても良い。
戦竜兵は戦竜を脚と体重の移動で操作し、両手で槍を構えるが、
場合によっては、片手で槍を操作せねばならないこともある。
戦竜同士の戦いの側面では、ユラ神国軍の軽騎兵隊がリンド王国軍の重騎兵隊を狙おうと機動していた。
しかし、リンド王国軍の軽騎兵隊もそうはさせじとユラ神国軍の軽騎兵隊を狙う。
ピストル騎兵同士の戦いだ。
鈍重な戦竜には不可能な高機動で急接近し、ピストルを一撃すると急速離脱。
ユラ神国軍の軽騎兵は、隙を見てはリンド王国軍の重騎兵を狙い撃つ。
距離5m程度では、重騎兵の胸甲も十分とは言えず、貫通してしまう。
だが、全体としてはリンド王国軍が優勢であった。
一部では、突破に成功した重戦竜がユラ神国軍の歩兵隊列を蹂躙していた。
方陣への陣形変更が完全に成されていない段階で突撃を許してしまっては、戦列歩兵に為す術は無い。
「このままでは総崩れだ。撤退、撤退だ!」
ユラ神国軍司令官は、撤退を決断した。
1万人以上の損害を出しつつ、ユラ神国軍は撤退していく。
皇国軍、ユラ神国軍相手に連勝をしたリンド王国軍は、隊列を整えるとユラ神国軍を追撃し始める。
ユラ神国軍は多くの大砲と物資を鹵獲され、最終的に2万5000人以上の損害を出してユラ神国に帰還した。
対して、リンド王国軍の損害は1万人程度であった。
騎兵隊による事前偵察でも、リア公国はもぬけの殻だという報告があったので、
ユラ神国軍の高い士気も空振りのような形になっていた。
「撤退してくれたのか」
「無血占領ですな。ですがまた何時再びリンド軍が攻め込んで来るかわかりません。警戒は厳重に致しませんと」
「わかっている……しかし、これは酷いな」
ヴュカースの北のラト平原に布陣したユラ神国軍であったが、
この前の戦闘が行われた平原にはあちこちにクレーターがある。
皇国軍の砲撃の跡だ。
皇国軍の砲弾は全て炸裂弾である。
それが、地面を抉った跡が数え切れないほどある。
「皇国軍は、一体何千発の大砲を発射したのだろうな」
「数千発の砲撃戦ですか。考えられませんね」
実際は数万発であったが。
「ここらは、まだ死臭が漂っているようにも感じる」
「十数万の遺骨が、この辺りに埋められている筈ですから……」
「気分が悪いのは仕方が無いが、ここに陣を張るしか無いだろう。全軍、野営準備」
「了解しました。全軍に野営の命令を出します」
ユラ神国軍とリンド王国軍が互いを戦場に確認したのは、
ユラ神国軍がリア公国に陣を構えてから10日目の事だった。
その数時間前、皇国陸軍の司令部偵察機は軍司令部にリンド王国軍接近の一報を発していた。
九七式戦闘機12機(60kg爆弾×2)、九七式重爆撃機12機(120kg爆弾×12)、九九式襲撃機12機(120kg爆弾×2)の
空襲部隊第一波が戦場に到着したのは、ユラ神国軍とリンド王国軍の距離約10kmに接近した頃である。
その頃、リンド王国軍も各地の飛竜陣地から240騎の飛竜が戦場上空に集結しつつあった。
「飛竜隊には、予定通りユラ軍の戦列を攻撃させろ。皇国軍騎はこちらで対応する」
両軍の空襲部隊が敵軍上空に殺到する。
破壊と殺戮を撒き散らしながら、爆弾は炸裂する。
爆撃を終えた九七式戦闘機と九九式襲撃機は、機銃で飛竜狩りを行い始めた。
ユラ神国軍へ爆弾を投下する前に撃ち落とされる飛竜が10騎、20騎と増えていき、
投弾を終えて帰る途中に撃ち落とされる飛竜も10騎、20騎と増えていく。
爆撃による死傷者はユラ神国軍が2000、リンド王国軍が2500程度であった。
さらにリンド王国軍は、飛竜を50騎近く失った。
30分後、皇国軍機の第二波が戦場に到着した。
爆弾と機銃掃射によって、リンド王国軍はさらに3000近い死傷者を出した。
空襲が終わる頃、両軍は砲兵隊の展開を完了する。
百数十門の大砲から、砲弾が一斉に発射される。
発射速度は1~2分に1発といった程度で、皇国軍から見たら随分間延びした砲撃だろうが、
それでも放たれた球形弾は整列する戦列歩兵をなぎ倒すには十分な威力だ。
大砲の数はほぼ互角。
当初はリンド王国軍の方が多かったが、皇国軍の空襲によってかなりの数を破壊されている。
お互いの大砲が、お互いの横隊を刈り取る。
少しずつ、損害が増していく。
だが、横隊は敵を求めて行進を続ける。
多くの損害を出しながらも行進していた歩兵隊が射程に入った。
マスケットでの銃撃戦が始まる。
一斉射撃で、両軍から真っ白な煙の列が生まれる。
発砲音と煙が生まれる度に、幾十人、幾百人の兵が倒れていく。
十数回の一斉射撃を終え、両者一歩も引かない中で、
リンド王国軍では、将兵に奇妙な感覚が湧き起こっていた。
“皇国軍の攻撃に比べれば、こんなもの、攻撃されているうちに入らない”。
妙な安心感というか、安堵感のようなものが将兵を包み込む。
ユラ神国軍は全力で攻撃しているのだが、リンド王国軍は全く動じない。
将兵の意外な士気の高さに、リンド王国軍司令官は突撃の機会を感じ取った。
「戦竜隊を先頭に、全軍に突撃を命ずる」
リンド王国軍が最後の射撃をすると、歩兵隊の後に控えていた戦竜隊が前に出る。
「突撃ー!」
戦竜隊を先頭に、脇を騎兵隊が固めてリンド王国軍が突撃を開始する。
「射撃中止! 戦竜隊前へー! 軽騎兵隊は迎撃に出ろ!」
リンド王国軍の突撃に対し、ユラ神国軍は大砲とマスケットによる射撃を中止し、
戦竜隊と軽騎兵隊(ピストル騎兵隊)を前に出す。
そして歩兵隊は戦列を方陣に組み替える。
戦竜同士の戦いが始まる。
戦竜同士の体当りは、しばしば戦竜兵を落竜させる。
落竜せずとも、戦竜兵はむち打ち等大きなダメージを負うだろう。
であるから、戦竜同士の戦いではまず投槍の戦いになる。
対戦竜用の投槍は大型で、故に戦竜兵は体格の良い兵しかなれない。
軽戦竜兵は、この大型の投槍を6~8本程度装備する。
重戦竜兵は、投槍を2本程度しか装備しない代わりに長槍と鎧を装備する。
投槍が命中した戦竜が倒れ、戦竜兵が振り落とされる。
2本、3本と命中すれば、いかな巨大な戦竜と言えども命は無いだろう。
戦竜同士が接近すると、長槍の出番だ。
過去の歩兵や、現在でも一部の歩兵が持つパイクよりも長く太い対戦竜用の槍。
これで戦竜兵を突き落としても良いし、戦竜自体を貫いても良い。
戦竜兵は戦竜を脚と体重の移動で操作し、両手で槍を構えるが、
場合によっては、片手で槍を操作せねばならないこともある。
戦竜同士の戦いの側面では、ユラ神国軍の軽騎兵隊がリンド王国軍の重騎兵隊を狙おうと機動していた。
しかし、リンド王国軍の軽騎兵隊もそうはさせじとユラ神国軍の軽騎兵隊を狙う。
ピストル騎兵同士の戦いだ。
鈍重な戦竜には不可能な高機動で急接近し、ピストルを一撃すると急速離脱。
ユラ神国軍の軽騎兵は、隙を見てはリンド王国軍の重騎兵を狙い撃つ。
距離5m程度では、重騎兵の胸甲も十分とは言えず、貫通してしまう。
だが、全体としてはリンド王国軍が優勢であった。
一部では、突破に成功した重戦竜がユラ神国軍の歩兵隊列を蹂躙していた。
方陣への陣形変更が完全に成されていない段階で突撃を許してしまっては、戦列歩兵に為す術は無い。
「このままでは総崩れだ。撤退、撤退だ!」
ユラ神国軍司令官は、撤退を決断した。
1万人以上の損害を出しつつ、ユラ神国軍は撤退していく。
皇国軍、ユラ神国軍相手に連勝をしたリンド王国軍は、隊列を整えるとユラ神国軍を追撃し始める。
ユラ神国軍は多くの大砲と物資を鹵獲され、最終的に2万5000人以上の損害を出してユラ神国に帰還した。
対して、リンド王国軍の損害は1万人程度であった。