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皇国召喚 ~壬午の大転移~21

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Turo428

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    ディストレ城は、リンド王国とリア公国との間の国境から約10kmの街道沿いに位置する、リンド王国国境防衛の要である。
    300年前に建てられたディストレ城は、大砲の時代となった現在では防御に不満があったため、
    建造当初からの旧城の周りを、20年前に建てられた堡塁式の新城が取り囲むように併設されている。
    旧城と新城は通常の道以外に地下通路でも繋がっていて、相互に行き来が可能。
    司令部と防御の拠点は新城であり、旧城は主に物資の集積所、平時の駐屯地として機能している。
    勿論、旧城と言えども城であるから、その防御は折り紙つきである。
    多数の大砲に囲まれたとしても、鉄壁の防御と多数の大砲を備える新城の掩護があれば旧城が落ちることは無い。
    旧城が健在であれば、そこに蓄えられた大量の物資でもって、何ヶ月でも篭城できる。

    だから、敵はこの街道を通過することは出来ない。
    ……はずだった。
    皇国軍は、苛烈な砲撃で一時的に城の機能を低下させている隙に主力部隊を通過させてしまった。
    ディストレ城は無視されてしまったのだ。

    そして、電撃的に進攻した主力部隊の後続としてやってきた部隊が、ディストレ城を攻撃しているのである。
    ディストレ城は苦境に陥っていた。
    昼夜を問わずに続く砲撃に将兵の神経はすり減らされ、士気は劇的に低下していた。
    城からも撃ち返しているが、高所の有利さもどこへやら、砲弾はまったく敵に届かない。

    ディストレ城は、“主力ではない少数の部隊”に苦戦しているのである。


    「こうも反応が無いと、少し不気味ですね」
    「何か秘策を練っているのではなく、反応できないだけであって欲しいとは思うがね」
    「我々は軍人ですから、敵が秘策を練って逆襲してきても返り討ちにしてやれるように、準備を怠るわけには行きません」
    「そうだな」
    だが砲兵中隊長は思っていた。
    弾薬とて無限ではない。補給を受けつつも、1ヶ月でもう手持ちの半分以上は使ってしまった。
    増援の補給部隊が来るという話だが、こう何週間も砲撃を続けていても大丈夫だろうか?


    ディストレ城では、ディストレ城防衛団長と指揮下の歩兵連隊長が今後の方針について話し合っていた。
    「閣下、こんな所で燻っている場合ではないですぞ。物資と士気が保つうちに、今夜にでも夜襲を仕掛けるべきです!」
    「既に伝令は出した。ミル少佐だ。彼ならば必ず増援を呼んで戻ってくる。それまでは待つのだ」
    「王都ベルグとの道は、敵が通って行った道です。果たして増援が来られるものでしょうか」
    「ミル少佐が道案内をするだろう。皇国軍の通っていった道を馬鹿正直に戻ってくるような男ではないぞ」
    「偵察隊の報告から勘案して、敵は砲兵を中心とした小規模部隊。
     駐留連隊が夜襲をかければ、勝てない道理はありますまい」
    「戦いで物を言うのは人の数ではないよ。何よりも質が重要だ。
     敵にはあの連発式の魔銃もあるだろうから、徒に突撃は出来ない」

    突然、扉を叩くノックの音がした。
    「入れ」
    2人の衛兵が扉を開けた。
    「閣下、重要なお話の最中に申し訳ありませんが、その……」
    「何だ、手早く申せ」
    「はい。アケミィ侯爵がお見えです」
    「何だと?」

    アケミィ侯爵。ディストレ城を含むこの地方の領主であり、同時にディストレ伯爵の爵位も持つ。
    ディストレ城も今でこそ国王の直轄だが、元々はアケミィ侯爵家の財産であった。
    つまり、国王が侯爵から城を買い上げたのだ。

    アケミィ侯爵は王都に居るはず。それがこんな危険極まりない戦地に来るとは……しかもアポなしで、である。
    「侯爵をお通ししろ」
    「はっ!」

    歩兵連隊長が退室すると、アケミィ侯爵が入室して来た。
    侯爵は王都に住む貴族に違わず小奇麗な衣装である。
    「侯爵閣下。こんな時に、いかが致しました?」
    「王都は今大変な事になっているから、逃げ帰ってきたのだよ」
    侯爵は冗談めかして、しかし半分真顔で言葉を返した。

    「もしや、大変な事とは……」
    「察しているのだろうが、王都は陥落寸前だ」
    「陥落寸前……まだ1ヶ月しか経っていませんが」
    「それが事実なのだ。数日後には陥落しているだろう」
    王都までの道には砦が2つあり、王都には近衛師団を初めとする
    6個師団が控えているわけだから、そう簡単に侵入を許す筈がない。

    「でだ、このディストレ城も危ないわけだ。将軍さえ良ければ、降伏しても良いと思ってる」
    侯爵の言葉に一瞬、場が静まり返る。
    「何と、降伏ですと!」
    「何度も言わせるな。私とて辛いのだ」
    「待ってください。今、このディストレ城と連隊を持つのは国王陛下です。
     侯爵閣下にはなんらの命令権もありません。勝手に降伏など、許されません」
    「本当にそう思っているのか?」

    「……侯爵閣下には話しておきましょう。正直、この状況では降伏する他無いでしょう。
     ですから、陛下にお伺いをたてるために、信用の置ける部下を遣わしたのです」
    「飛竜で?」
    「飛竜は目立ちます。この辺も皇国の飛行機械が遊弋していますから、馬ですよ」
    「しかし、陛下が降伏をお許しになると思うか?」
    「大規模な増援を要請したのです。それが叶えられなければ降伏すると」
    「増援要請か。まあ妥当だが……どれ程の?」
    「少なくとも3個師団を振り向けてくれと」
    「3個師団!? 到底実現されんだろうな」
    侯爵は笑っている。防衛団長の考えでは王を怒らせるばかりだが、それがまた可笑しくてたまらない。

    「だから、私の方で降伏と投降の計画は考えているのです」
    「おそらく、陛下は増援も降伏も認めん。陛下は王都から何処かへ
     逃げ出す準備を始めているが、徹底抗戦の姿勢は崩さないだろう」
    「降伏せずに、いつまで続けられると思っているのか……」
    「負けたら首を刎ねられるか、皇国の人質。それが怖くて仕方がないのだ、陛下は」
    「そのために領地や領民、軍団を壊されては溜まりません」
    「皇国軍はノールベルグ城には一切攻撃をしていない。恐らくやろうと思えばいつでも攻撃できるはずなのにだ」
    「皇国は陛下と話がしたいわけですな」

    ノールベルグ城は、リンド王国の王都ベルグに建つ王城である。
    王都ベルグは1ヶ月前から皇国軍に半包囲されていたが、直接攻撃は免れていた。
    というより、皇国は意図してノールベルグ城を攻撃対象から外していたのだ。
    王に死なれては、困るからである。

    「だが、陛下は皇国からの降伏勧告を無視し続けている」
    「先王陛下であれば……」
    「既に矛を収めているだろうな。いや、そもそも戦争に拠らず目的を達成していたかも知れん」
    「賢王の世継が、賢王とは限らないという見本のようですな」
    「口が過ぎるぞ。不敬罪で捕まるぞ……」
    「王国のためなら、不敬罪だろうが抗命罪だろうが、受けて立ちましょう」

    2人が秘密の会話をしている頃、王都では国王が怒り狂っていた。

    リンド王国軍伝令将校のミル少佐は、十数名の部下と共に街道や裏道を巧みに使い分けて無事王都に到着した。
    「これが、ディストレ城防衛団長から、陛下への直訴状でございます」

    直訴状を侍従長から受け取った国王は、一通り目を通すとそれを破り捨てた。
    「陛下、それはミル少佐が命懸けで――」
    「よい! 下がれ!」
    「は?」
    「ディストレ城防衛団長は死刑だ!」
    「……陛下、それはいけません!」
    「余を侮辱した敗者には、死を以て償わせるより他あるまい」
    「侮辱ですと? この手紙のどこが、陛下を侮辱しておりましたか」
    「余が侮辱されたと思えば侮辱されたのだ。お前も一々、余に食って掛かるな?」
    「それも臣下の務め故……」
    侍従長は自分も死刑になる覚悟で国王に諫言する。

    第一、この戦争での“勝ち戦”も、多大な犠牲の上に成っている。
    投入兵力の半数が死んだ“勝ち戦”に、果たして意味があるのか。

    しかも、敵対する同盟軍のうち、ユラ神国軍は追い払ったものの、
    皇国軍には殆ど損害という損害を与えていない。

    前線からの報告が全て事実であれば、最終的に皇国軍に勝つ事は不可能に思える。
    現に、皇国軍は王都ベルグに易々と侵攻し、王宮を砲兵の射程に入れている。
    近衛師団を含む王都近郊の師団の殆どは壊滅するか捕虜にされ、王都は丸裸だ。

    一兵も居なくなった訳では無いものの、40万以上を誇ったリンド王国軍は今や戦える兵は5万に満たない。
    つまり数的に皇国軍と互角程度にまで落ち込んでおり、火力密度を考えれば差は逆転していると見るべきだろう。

    「陛下、今や国家の存亡は、陛下の御決断にかかっております」
    「余はそのような話が聞きたいのではない!」
    「しかし陛下、陛下が包み隠さず申せと仰せになりました故……」
    「そなたらは、余の軍隊の精強さは倍の敵に匹敵すると、申したではないか!」
    「はっ、申しました……」
    「それが何だ! 大内洋から来た異国に、たった1ヶ月でこの城の目の前まで攻め入られるとは!」

    たった1ヶ月の間に、25万以上だった陸軍は5万を下回る勢いで損耗しており、
    3361騎居た飛竜も、4872騎居た戦竜も、半数近くが失われてしまっている。
    戦争開始時には、陸軍兵士は40万以上居たのに。こんな事は前例が無い。

    「ええい、まだ国内の軍を集めれば10万の兵があろう! それで足りねば動員を増やせ!
     国中から男共を取り立てれば、100万、いや300万の軍ができるぞ!」
    「それは陛下、事が過ぎます……」
    本当に根こそぎ動員を行えば確かに300万の軍隊になるだろうが、国家機能が麻痺するだろう。
    それで皇国軍を追い返したとしても、ユラ神国や皇国本国は依然無傷であり、
    破綻したリンド王国がどうなるか、悲惨な未来しか見通せない。

    「余が……余の代で、リンド王家に泥を被せるのを……そなたらは黙って見ていると申すのか!
     余の臣下ならば、余のために働くのが当然であろう!」
    国王は、自分が皇国の捕虜になる恐怖、そしてリンド王家が滅びる恐怖に打ち震えていた。

    「ローバラー公爵を呼べ……それからモイ元帥は死刑にして、後任にはアキレィ中将を就けよう。
     それから馬車を用意しろ。余はセグーニュへ行く」
    「は、セグーニュへ?」
    セグーニュとは、王家の夏の離宮がある場所だ。
    山深い宮殿であり、夏の狩場には最適だが、冬場はほぼ完全に雪に閉ざされ、
    春になってようやく行き来ができるようになるような場所である。
    そして今はまだ4月だ。王がセグーニュに行くのはまだ早い。というか早過ぎる。

    「陛下、陛下は王都を見捨てるのですか?」
    「何を申すか! 余が居る場所が王都であろう。来週からはセグーニュが王都だ!」
    「…………」
    侍従長は、怒りと呆れの混じった目つきで国王を見返した。
    「何だ、その目は!」
    「陛下、引き際を見誤られませんように、どうかご再考を」
    「余に、何をさせようというのか」

    「有り体に申させていただけば、皇国への降伏です」
    「それはまかりならん」
    「では、陛下が御自ら近衛師団を率い、皇国軍を撃ち破って下さいませ。
     そうすれば、臣下の誰も陛下に楯突く様な真似は致しません」
    「近衛師団が壊滅したのは、誰のせいだ! モイ元帥のせいだ!
     余の近衛を、精鋭たる近衛を……勝手に壊滅させおって!」
    「陛下、現実をお認め下さい。モイ元帥は最善を尽くされました。
     皇国軍の力が勝っていたのです。歴史を紐解けば、栄光ある敗北もありましょう」
    「栄光ある敗北だと? 馬鹿を申すな、敗北に栄光などあるものか!」
    国王は、敗北という言葉に敏感に反応した。
    頭では解っているのだ。しかし感情がそれを許さない。

    「皇国は、何も陛下を捕えて処刑しようとはしておりません。リア公国の独立をお認めになり、
     皇国への攻撃を止めて軍を降伏させれば、それで矛を収めると申しております」
    「今はそう言ってこちらを降伏させようという魂胆であろうが、騙されるものか!
     一旦、降伏してみろ。皇国は掌を返すぞ。余を捕え、処刑しに来るぞ!」
    ここ1ヶ月、国王は殆ど眠れぬ夜を過ごしていた。
    特に王都を包囲されてからの数日間は、昼も夜も砲撃が続き、ベッドに入っても爆音に目を覚ます毎日。
    そのせいもあって、国王は激しい被害妄想を抱くようになっていた。

    現在、リンド王国には男子の世継が居ない。
    正室からは子供が生まれず、側室からも女児が2人のみ。
    リンド王国の法的には、女王という道はあるのだが、女王というのは男の王よりも格下に見られるのだ。
    しかも、その女王が妾腹であれば、さらに格下に見られるのは目に見えている。
    リンド王国の国際的な地位が(表向きは変わらずとも水面下で)低下する訳だ。

    故に、もし今、国王が死ぬような事があれば、リンド王国の地位は確実に低下する。
    そうなれば、国王は王家の先祖に顔向けが出来ないであろう。

    「陛下……解りました。陛下が御決断をなさらないのであれば、
     臣下である我等が皇国の使者を迎え、陛下の手足を縛ってでも降伏調印を行います」
    「レドナよ、余を裏切るのか?」
    「陛下の御ためです」
    「何が余のためだ! 余を皇国に売り渡して、自分だけ助かろうという魂胆であろう!」
    「陛下、どうか陛下の僕共を信頼なさって下さい。我等一同、陛下を裏切りは致しません」

    侍従長は仕えて来た国王に裏切り者と言われた事を、酷く悲しんではいたが、
    それは表に出さず、事実を淡々と述べ始めた。

    「陛下、ユラ軍が再編成をして攻めて来ましたら、我が軍はそれを防ぎきる事は出来ません。
     王都の治安も悪化しています。早急にユラ、皇国の両国に対して降伏をし、
     戦争を終結させねば、我が国の情勢は悪化する一方です」
    「余の身柄は、どうなる……?」
    「ユラ、皇国の両国とも、陛下の御身は現状のままで良いと確約してきています。
     陛下には、リンド国王としてこの戦争の事後処理をして頂きたく、お願い申し上げます」

    国王には、戦争で悪化した治安や財政などを回復させるという責務が残っているのだ。
    それは、国王の義務である。
    実務は大臣が行うが、国王が音頭を取らねば、国は動かないのだ。
    「宜しいですか、陛下?」

    「もうよい、余はもう寝る!」
    寝不足の国王は、さっさと自室に戻りベッドに横になってしまった。

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