皇国に“リンド王国軍団”が編制されたのは、“御成婚”発表の直後である。
リンド王国の持っていた“リンド王国軍”は、既に壊滅しているため、
全面的に皇国軍がリンド王国の防衛を担当する事になる。
ユラ神国に派遣されていた“東大陸派遣軍”は、“ユラ神国軍団”に改称され、
“東大陸派遣軍”は上位組織の“東大陸軍”となり、ユラ軍団、リンド軍団を監督する。
そのため、軍司令官として陸軍大将が着任。軍司令部もユラに新たに創設された。
リンド王国軍団は司令部をベルグに置き、1個機甲旅団と3個歩兵師団から編制された。
航空兵力は九七式戦闘機64機、九七式重爆撃機64機、九九式襲撃機64機、
九七式司令部偵察機12機、九八式直協偵察機24機(全て予備機は含まず)。
増強されたユラ神国軍団と同等である。
勿論、これは書類上の編制定数であり、司令部要員や工兵要員等の
一部を除き、人員や装備の殆どはまだ本国か船の中であったが。
「精強なる皇国軍のお力添えを受けられて、我が国も安心です」
「陛下にそう仰って頂けると、こちらも軍の派遣のし甲斐があるというものです」
「あれは……戦竜ですか?」
ベルグに駐留する陸軍部隊を視察したリンド女王は、戦車連隊を前に足を止めた。
随分小柄な竜ですね、鎧を着けているのですね、などと言いながら無邪気に近寄っていく。
御付の将校である皇国軍大佐は、あまり近寄りすぎると危険ですよと
言いながら、やんわりと女王を戦車から遠ざけた。
「あの鉄の箱は“戦車”と申します」
「戦車……竜ではないのですか?」
「竜ではありません。自力で動く馬車のようなものです」
「馬に牽かれずとも動けるのですか?」
この世界でも、銃弾等から貴人を守るための装甲馬車というものがある。
だが、重い鉄の装甲を付けた馬車は、通常の4頭では動かせず6頭か8頭が必要だ。
「軽油という燃料で動きます」
「燃料とは……薪のようなものですか?」
「軽油は液体です。それを爆発させて、力を得ます」
「爆発!? そんな事をして大丈夫なのですか?」
爆発といったら、爆弾や擲弾を思い浮かべるだろう。
鉄の箱の中で爆発が起こったら、大変な事になりそうなものだ。
「大丈夫です。軽油を爆発させるための室内は頑丈に造られています」
「そうですか、そうですね。だって、皇国軍はあの戦車で我が軍を蹴散らしたのですものね」
「恐れ入ります。戦車にて、リンド将兵を散々撃ち殺した事申し訳無く――」
「謝らないで下さい。戦争はもう終わったのですから、水に流しましょう」
「陛下……ありがたい御言葉。我が軍の将兵もそれで救われましょう」
少し歩くと、女王は整列して待つ皇国軍の中隊の前に出た。
「捧げー、銃!」
中隊長の号令で、全員が一糸乱れぬ捧げ銃を行う。
中隊長のみ、軍刀で敬礼を行っている。
「皇国軍の将兵の皆さん、同盟国の女王として皇国軍の駐留を歓迎します」
「有り難うございます、陛下」
女王の歓迎の言葉に、御付の大佐が感謝の意を述べた。
「大佐、ここにいる将校の中で、華族の方は?」
「この中隊に、華族は居りません」
「皇国軍は平民の将校が多いとは聞いていましたが、1人も居ないのですか」
この世界の将校は殆どが貴族か準貴族、騎士であり、平民の将校は殆ど居ない。
将校になる事というのは、貴族の権利であり義務である。
読み書きが出来て学のある者、つまり貴族が、学のない平民を率いるのが当然なのだ。
それに比べると、平民であっても高度な教育が受けられ、女子も含めて多くの国民が
読み書き計算が出来るという皇国の底力は、女王にとっては畏怖や羨望の的である。
他でも無い案内役の大佐自身も、平民である。
それを知っていて、女王は尋ねたのだ。
「勿論、華族の将校も居りますが、割合的には平民の将校の方が多いです」
「皇国華族の方は、元々武家の方と公家の方が居るのですよね」
「はい、大きく分ければ、そうなります」
「武家の華族の方は、軍人にはなられないのですか?」
「必ずしも、元武家の華族が現代で軍人になるとは限りません」
そうなのですか。と女王は不思議がった。
リンド王国では、代々軍人である貴族や騎士の家系が存在する。
他国も、似たようなものだろう。
「よく訓練されているのですね。我が王国軍にも、ユラ神国軍にも、引けを取らないでしょう」
「有難う御座います。我々は猛訓練こそが、将兵の質を高めるための唯一の方法だと愚考しております」
「私も、ダンスの練習をよくやります。練習して美しく踊れるようになるのは、喜びですね」
女王は、その場でダンスを踊るようにくるりと回ってみせる。
「では大佐、帰りましょうか」
「はい、陛下」
一通り視察を終えると、女王と大佐は待たせてあった馬車に乗り、王宮へと戻っていった。
リンド王国の持っていた“リンド王国軍”は、既に壊滅しているため、
全面的に皇国軍がリンド王国の防衛を担当する事になる。
ユラ神国に派遣されていた“東大陸派遣軍”は、“ユラ神国軍団”に改称され、
“東大陸派遣軍”は上位組織の“東大陸軍”となり、ユラ軍団、リンド軍団を監督する。
そのため、軍司令官として陸軍大将が着任。軍司令部もユラに新たに創設された。
リンド王国軍団は司令部をベルグに置き、1個機甲旅団と3個歩兵師団から編制された。
航空兵力は九七式戦闘機64機、九七式重爆撃機64機、九九式襲撃機64機、
九七式司令部偵察機12機、九八式直協偵察機24機(全て予備機は含まず)。
増強されたユラ神国軍団と同等である。
勿論、これは書類上の編制定数であり、司令部要員や工兵要員等の
一部を除き、人員や装備の殆どはまだ本国か船の中であったが。
「精強なる皇国軍のお力添えを受けられて、我が国も安心です」
「陛下にそう仰って頂けると、こちらも軍の派遣のし甲斐があるというものです」
「あれは……戦竜ですか?」
ベルグに駐留する陸軍部隊を視察したリンド女王は、戦車連隊を前に足を止めた。
随分小柄な竜ですね、鎧を着けているのですね、などと言いながら無邪気に近寄っていく。
御付の将校である皇国軍大佐は、あまり近寄りすぎると危険ですよと
言いながら、やんわりと女王を戦車から遠ざけた。
「あの鉄の箱は“戦車”と申します」
「戦車……竜ではないのですか?」
「竜ではありません。自力で動く馬車のようなものです」
「馬に牽かれずとも動けるのですか?」
この世界でも、銃弾等から貴人を守るための装甲馬車というものがある。
だが、重い鉄の装甲を付けた馬車は、通常の4頭では動かせず6頭か8頭が必要だ。
「軽油という燃料で動きます」
「燃料とは……薪のようなものですか?」
「軽油は液体です。それを爆発させて、力を得ます」
「爆発!? そんな事をして大丈夫なのですか?」
爆発といったら、爆弾や擲弾を思い浮かべるだろう。
鉄の箱の中で爆発が起こったら、大変な事になりそうなものだ。
「大丈夫です。軽油を爆発させるための室内は頑丈に造られています」
「そうですか、そうですね。だって、皇国軍はあの戦車で我が軍を蹴散らしたのですものね」
「恐れ入ります。戦車にて、リンド将兵を散々撃ち殺した事申し訳無く――」
「謝らないで下さい。戦争はもう終わったのですから、水に流しましょう」
「陛下……ありがたい御言葉。我が軍の将兵もそれで救われましょう」
少し歩くと、女王は整列して待つ皇国軍の中隊の前に出た。
「捧げー、銃!」
中隊長の号令で、全員が一糸乱れぬ捧げ銃を行う。
中隊長のみ、軍刀で敬礼を行っている。
「皇国軍の将兵の皆さん、同盟国の女王として皇国軍の駐留を歓迎します」
「有り難うございます、陛下」
女王の歓迎の言葉に、御付の大佐が感謝の意を述べた。
「大佐、ここにいる将校の中で、華族の方は?」
「この中隊に、華族は居りません」
「皇国軍は平民の将校が多いとは聞いていましたが、1人も居ないのですか」
この世界の将校は殆どが貴族か準貴族、騎士であり、平民の将校は殆ど居ない。
将校になる事というのは、貴族の権利であり義務である。
読み書きが出来て学のある者、つまり貴族が、学のない平民を率いるのが当然なのだ。
それに比べると、平民であっても高度な教育が受けられ、女子も含めて多くの国民が
読み書き計算が出来るという皇国の底力は、女王にとっては畏怖や羨望の的である。
他でも無い案内役の大佐自身も、平民である。
それを知っていて、女王は尋ねたのだ。
「勿論、華族の将校も居りますが、割合的には平民の将校の方が多いです」
「皇国華族の方は、元々武家の方と公家の方が居るのですよね」
「はい、大きく分ければ、そうなります」
「武家の華族の方は、軍人にはなられないのですか?」
「必ずしも、元武家の華族が現代で軍人になるとは限りません」
そうなのですか。と女王は不思議がった。
リンド王国では、代々軍人である貴族や騎士の家系が存在する。
他国も、似たようなものだろう。
「よく訓練されているのですね。我が王国軍にも、ユラ神国軍にも、引けを取らないでしょう」
「有難う御座います。我々は猛訓練こそが、将兵の質を高めるための唯一の方法だと愚考しております」
「私も、ダンスの練習をよくやります。練習して美しく踊れるようになるのは、喜びですね」
女王は、その場でダンスを踊るようにくるりと回ってみせる。
「では大佐、帰りましょうか」
「はい、陛下」
一通り視察を終えると、女王と大佐は待たせてあった馬車に乗り、王宮へと戻っていった。