自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

第三話

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Turo428

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「やれやれ、いつまでこんな真似をしなきゃならんのかね…。」

連合の将軍達からの質問攻めから少尉を生贄にすることでようやく解放された山崎中佐はため息をついた。

いまだに連合陣地では捕虜達の移送準備に取り掛かっているのか、人の往来が激しい。

中佐は煙草を取り出すとマッチを擦ろうとした。

だが、マッチに火がつく前に目の前に浅黒い手が出され指から小さな火が灯された。

「おお、すまなんだな。」

そのまま煙草を口に咥え火をつける。煙草に火がついた事を確かめると指からスッと火が消えた。

「―――ようやく一息つけたよ。」

「それは良かった。中ではまだ大変なようですがね?」

「まぁ、教育の一環だ。少尉にも慣れてもらわねばな。」

「貴方が楽をしたいだけでしょうに。」

「まあな。」

くくっと首を竦めながら中佐は笑った。そのまま横に向くとその人物に煙草を差しだした。

「あんたもやるかね?」

「いえ、遠慮しておきますよ。」

「そうかい。所で、中に『お仲間』が居るがどうするかね?挨拶でもしていくか?」

中佐がそう尋ねるとあからさまに顔を顰め彼は答えた。

「まさか!例え私がそうしても奴の方から襲いかかってきますよ。」

「俺には解らんねぇ。元は『同胞』なんだろう?」

「冬の時代より大昔の話ですがね。今は違いますよ。」

まるで苦虫でも噛み潰した様な顔をして彼―ダークエルフ―は吐き捨てる様に言った。

「そうかいそうかい。ま、そういうなら俺から言う事は何も無いさ。ただ、見つからない様にしてくれよ?」

「ええ、隠れるのは我々の特技の一つですから。ご心配無く…。」

そういうと、ダークエルフの青年は森へと歩み始めた。

「ああそうだ、礼を言うよ。君らの情報のお陰で帝國は油田を手に入れられた。これからも一つ頼むよ。」

その問いに答える声は聞こえなかったが、中佐には確かに聞こえた。


―――貴方方も、約束をお守りくださいね。


「いやはや、見れば見るほど不思議な物ですな。」

渡された三八をぐるぐると回しながらカイゼル将軍が呟いた。

一応、弾は入って無いが銃口を覗くのは心臓に悪いから止めて欲しい。

切実に少尉はそう願った。

だが、少尉の願いも虚しく殆どの将軍達は銃口を覗いている。

全く、中佐殿はこんな面倒を俺に押しつけて一体何をやってらっしゃるんだ!

戦場での指揮はとても見事で尊敬しているのだが、こういう面倒事は副官である自分にいつも押しつけ自分は煙草をふかしているのだ。

正直、勘弁してほしいのだがそこはそれ、軍隊ゆえに上官命令は絶対である。

―ああ、俺が偉くなったら部下に仕事押し付けるような真似は絶対に止めて置こう…。

心の中で決意をする少尉を尻目に将軍達の会話は続いていく。

「エルフの弓よりも早く、ワシらドワーフの刀剣よりも強いとは俄かには信じられんよ。一度解体してみたいもんじゃな…」

渡された三八を撫でながらドワーフの将軍はうずうずとした表情で呟いた。

「それだけはお許し下さい!陛下から賜った物なのですから!」

何も言わなかったら本気で分解しかねないと思った少尉はドワーフの将軍を止めた。

するりと、ドワーフの将軍の手から三八は抜け出しエルフの将軍の手の中にスッポリ収まった。

「しかし、不思議だ。鉄の塊を飛ばすそうだが魔力が使われた形跡が無い。一体どうやって動かすんだ…?」

「それは…、御教えすることは出来ません…。」

「そうですか…、いや残念です。これ程強力な武器が使えたなら奴らをすぐに蹴散らる事がと思ったのですが。」

「奴ら…、『秩序同盟』ですか?」

少尉の質問にエルフの将軍は少し迷ったような顔をした後、口を開いた。

「奴らもそうですが…、我らを裏切り森を穢したあの恥知らず共です!」

「はぁ…、と言いますと?」

「エルフと一口に言っても、コヤツのような肌の白い者と黒い者の二種族が居るのじゃよ。」

未だに三八式を名残惜しそうに見つめながら、ドワーフの将軍が説明をした。

「肌の色で別れているのですか…。」

―ここでも肌の色で軋轢があるのか。

まだ年若い少尉は、現実とぶつかった気分になり心に暗がりが広がっていくのを感じ取っていた。

「元は奴らも、我らと同じ白でしたが森を捨てた事により肌が黒くなり、やがて連中は姿を消しました。しかし、奴らは我らに復讐しようと今もどこかに隠れているのです!」

「ワシ等も山と洞窟で別れて暮らしておるが、流石にお前さんらみたいに互いに憎み合って何ぞおらんぞ…。」

「貴方達は同じ神を信仰してらっしゃるでしょう?奴らは、森を捨てるだけではなく我らと信仰を違えたのです。」

そういうとエルフの将軍は目を瞑り、押し黙った。

誰もが沈黙した空気に耐え切れなくなった時、カイゼル将軍が切り出した。

「皆様方、もう日が落ちましたし食事にいたしましょう!アルタート料理を楽しんでいって下さい。」


「やれやれ漸く、か。」

本土から運ばれてきた、九七式中戦車改や三一式野砲を見つめながら山崎中佐はため息をついた。

「これで反撃開始ですか…。石油の為とは言え、我々には関係の無い戦をするとは…。」

「口を慎め、少尉。これは陸相閣下を初めとした司令部からの命令だ。」

「…失礼しました、中佐。輸送状況ですが、九七式中戦車改3両、三一式野砲10門、増員1000名全て到着しました。」

「戦力差が酷いな、これが支那だったら俺達皆死んでこいと言われた様なもんだ。」

「敵は未だに、刀槍に弓ですからこれで十分だと思われたのでしょうか…。」

「まぁ、頼もしい『連合軍』の兵士諸君も居るんだ。なんとかなるさ。」

そういうと山崎中佐は歩き出した。

「明日、ストームゲートへ向け出発だ。三日もあれば到着するそうだ。今の内に足を休めとけよ。」

「はっ!」

少尉が敬礼の体制を取ろうとした時、ぐいっと裾が引っ張られた。

「天使様!あの大きな筒はなんなのですか!?あんな天まで届くようなのは見た事がありません!」

「ライゼル殿下…。」

がっくりと肩を落とした少尉とライゼル王子を尻目に中佐は丘を登りストームゲートの方を見つめた。

「…死人がでなきゃいいんだがねぇ。」

―ぼそりと呟かれたその言葉は風に乗り、空へと消えて行った。

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