自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

72 外伝14

最終更新:

匿名ユーザー

- view
だれでも歓迎! 編集
1098年 10月6日 午前8時 グレールスレンス
グレースルスレンスは、ほんの2年前までは未開の土地であった。
しかし、1096年ごろから、バーマントはこの未開の森林地帯を潰して、数々の施設を作り上げた。
研究施設、製油施設、工場という国家産業には欠かせないものから、要人や貴族の邸宅まで、様々な物が作られた。
その中で、特に目を引く建物がある。グレールスレンスの主の館と言われる、ヴァルケリン公爵の邸宅だ。
その規模は、マリアナにあったバーマント家の邸宅より少々劣るが、派手に色づけされた外見からして、
バーマント家の邸宅に迫るぐらいか、同等の費用が掛けられていると思われている。
その豪邸の主は今、悩んでいた。
会議室には、軍服を着たヴァルケリン公爵と、彼の副官や参謀、合わせて10人が、丸いテーブルを取り囲んで話し合っている。
会議室は、天井にいかにも高いです、と言わんばかりのシャンデリアがぶら下がっており、
壁には当主であるヴァルケリン自身の肖像画が掛かっている。
肖像画の中の彼は、肉付きが良く、勇ましくて、頼れそうな表情である。
しかし、椅子に腕組みしているモデル本人の顔は、げっそりと痩せこけ、眼の下にはクマが出来ており、
病人のごとき様相を呈している。

「研究施設は、やはり内陸に移したほうがいいかもしれません。」

参謀の1人がそう言う。

「キメラの研究施設までも潰されますと、後は通常戦力のみで、革命派共と戦わねばなりません。」
「その通りです。敵の偵察機はこのクレールスレンスの近くまで来ていました。空からはこの邸宅
や工場群などは一目で判断が付きます。今からでは遅いと思われますが、せめて、搬送が容易な研究体や、
必要道具を内陸に移動させましょう。」

参謀達が言うが、ヴァルケリン自身はどこか遠くから言っているように聞こえる。
どうも、ここ最近は悪い事ばかり起きている。

革命派の残党組を叩こうとしていた第77師団は、グレンドルスやクレールスレンスの天候不順で、
空襲を諦めかけていた米機動部隊に見つかって、嬲り者にされた。
さらに、その忌々しい米機動部隊に攻撃を仕掛けた第67空中騎士旅団のワイバーンロードは、
戦果不明のまま全騎が帰らなかった。
今現在、アメリカ艦隊からは飛空挺は、たぶん発進していない。
いや、アメリカ艦隊のおおまかな位置は解るのだが、監視役の海竜は、頻繁に蝕接を米駆逐艦によって
絶たれる為、早くて1時間、遅い時には5時間待っても報告が来ない時がある。

「海竜部隊の喪失は馬鹿になりません。昨日だけで、残り少ない海竜の数がさらに3匹も減ってしまいました。
これまでに約4割の喪失を受けているのに、海竜が頑張れるのが不思議なぐらいです。」

昨日、状況説明のため、ヴァルケリンの邸宅を訪れた海竜情報収集隊隊長のグルアロスは、
半ば開き直ったような口調でそう型っている。
この海域に用意した海竜は100。残存数は63・・・・・
もはや目も当てられぬ惨状である。それほど、米駆逐艦の警戒は厳しいのである。

「現状からして、敵の艦隊から、空襲を受けるのは必至な状況だろう。」

会話を聞いていたヴァルケリンが、口を開いた。
「いつ、何時。今すぐにでも、アメリカ人共がやってくるかもしれんが、ひとまず、
やるべきものはやっておこう。参謀諸君、直ちにキメラ研究施設の移動を始めたまえ。
多少、第1陣の部隊編成が遅れようが構わん。」

力ない口調ながらも、ヴァルケリンはすぐに命令を下した。その時、廊下から何者かが走ってくる音が聞こえた。

「早いものだな。」

なぜか、ヴァルケリンは解りきったような事を言う。
何が早いのだ?参謀達は、誰もが顔を見合わせ、首をかしげる。

午前8時20分 クレールスレンス 
クレールスレンスには、ヴァルケリン公爵の邸宅の他にもさまざまなものがある。
その中でも、クレールスレンスの目玉の1つであるのが、中央研究所だ。
外見は5階建ての正方形状の建物で、建物の外には円形状のタンクが設置され、
パイプラインが中に繋っている。
内部には様々な研究室があるが、その中でも、建物の2、3階部分を占有する研究所がある。
研究所の名前は、歩兵強化研究所と言われている。
この2、3回の研究施設の責任者兼、中央研究所所長のモルグレ・ネルイク博士は、
自らの研究スペースのみならず、中央研究所全体を駆けずり回っていた。
身長は182センチのやや長身で、体つきはほっそりとしている。
顔は陰険そうで、人相は悪く、丸眼鏡と、きっちりと七三に整えられた髪が、
彼の性格を如実に表しているように見える。

「その資料も持って行け!今後の兵器開発に必要だ。」
「この資料はどうしましょうか?」
「これもだ!おい、何をしている!さっさと動け!」

真っ黒いローブをつけた研究員達が、せわしくなく書類や標本を詰めたビンを木箱に入れて、
箱が一杯になったのを確認すると、しっかりと締めようともせず、急いで搬送役の兵士に渡して
外の馬車に持っていかせる。
標本類や薬品を詰めた木箱は、割れないように考えて入れられている。
しかし、ドジな兵士や研究員は、慌てて入れたり、持って行こうとするため、次々と大事な標本や薬品が駄目になった。
標本や薬品はまだ慎重に扱われているほうだ。
書類などは、鷲掴みにしてそのまま放り込まれている。
乱暴に扱うため、所々破れてしまう文書が出始め、それは時間に比例して多くなった。
後々考えたら、グシャグシャにされた資料や書類を元通りにするなど、はっきり言ってめんどくさい事である。

冷静に考えれば、書類も大事なものには変わりないのだが、中央研究所の職員や兵士達は、
ただ1つでも多くの物を運ぶため、手早く移送させる、という事しか頭にはない。
なぜか?
答えは簡単である。

「敵戦爆連合50機、クレールスレンス北方15キロに接近中!」

その声を聴いた瞬間、誰もが死刑執行直前の罪人のごとき表情を浮かべ、さらに作業のスピードを早くさせる。
普段、粗相をしでかすと、先輩の研究員から嫌味を言われる若い研究員が、書類をこぼそうが、薬品をたらそうが、
嫌味を言おうとする先輩は誰一人いない。
そんなのは見えないとばかりに、大事な物品を木箱やカバンに放り込み続けた。

「所長、2、3階のキメラ部隊の移送はどうしましょうか?」

副所長が、やや警戒するような口調で言う。
ふだん、所長のネルイク博士は、性格の悪い事で知られており、まずい事を口走りでもすれば、
早々と中央研究所から叩き出される。
もっと酷い時には、薬品や攻勢魔法の人体実験にも使用されると言われているほど、彼は恐れられている。
そのネルイク博士が熱中していたのが、キメラ兵士の開発である。

「1人で1個小隊の戦力に匹敵する兵士を、私が作って差し上げましょう。」

と言い始めたのは、スプルーアンスの第5艦隊がこの世界に現れる1年前の事である。
当時、ヴァルレキュアと戦っていたバーマントは、劣勢ながらも精強なヴァルレキュア軍に手を焼かされていた。
そこで、上層部から公国屈指の魔法使いであるグールへ、そして、当時グールの秘蔵っ子と言われ、
悪口を叩かれながらもそれなりの腕前を持ち合わせていたネルイク博士は、グールに対してそう言い放ったのだ。

彼は、とある液体と動物の血に、人体強化魔法を混ぜると爆発的な能力を生ませる事を発見した。
グールがネルイク博士に目をつけたのは、この謎の液体を使って、最強兵士であるキメラを
作れる事を見つけたことを知った直後である。

「ネルイクよ、お主の見つけた方法でならば、少なくとも2年、いや、1年ほどで最強の兵隊を
作る事が出来る。どうだ、わらわがこれまで教えた成果、この仕事で見せてくれんかの?」
「ええ、師匠のためにも、この仕事、やり遂げて見せますぞ。」

あっさりと引き受けたネルイクは、このクレールスレンスの中央研究所で早速研究、開発を行った。
そして、キメラの開発は順調に進み、ついに1個小隊分のキメラを配備できるレベルにまで達した。
研究所には、この他にも300体のキメラが、定期的に強化液を注入されており、姿形とも、立派なキメラに成長しつつある。
2、3階部分の研究室は、火気厳禁である。

「せっかく、私の仕事が完遂するはずだったのに・・・・・・白星の悪魔め!!」

ネルイク博士はヒステリックな表情で喚き散らす。

「せめて、2、30体ほどは移送できるようにしろ!それから、研究室に入る際は、火は使うな。
精製油と強化液に引火したらたまらんからな。」

そう言って、彼は移送作業の指揮を続けた。
強化兵士研究所の主任である、シリーレイ魔道師長は、駆け足で2回の研究室の入り口に入った。
木製のドアを開けると、そこには、薄い金属性の棺のようなものが、2階と3階をぐるりと一周するように、
2段に分けられて並べられている。
この研究所にはバーマントの科学技術、魔法技術の粋が全て投入されている。
明るすぎないように、強化兵士研究所の内部は、薄い水色のような光が灯っている。

既に、2階の部分で、一番入り口に近い棺から、兵士達が搬送を始めていた。
研究室の中には、精製油と強化液のツンとする匂いが立ち込めている。
棺につなげてあったチューブが、1本1本外され、チューブの中にあった強化液が垂れ落ちる。
それを別の兵士が慌てて、しかし慎重に布で拭き取り、それを緑色の袋に放り投げる。
滑車に載せられた縦2.6メートル、幅80センチの棺が、開かれた出入り口から搬送されていった。

「こっちだ!手伝ってくれ!」

シリーレイ魔道師長は、部下の魔道師と兵士と共に、次の棺を取り外しに掛かる。
棺は斜めに傾けられており、右横に穴がある。
その穴に取手つきの棒を差し込んで、回して高さを調節する。
魔道師が棒を差し込む。しっかり刺されている事を確かめると、同僚を手招きして一緒に回すように言う。
3人が取手に取り付いた。

「よし、回すぞ!」

3人が力を入れて、棒を回し始めた。
ギリギリといういささか薄気味悪い音を立てつつも、棺は徐々に床に下りていく。

「おい!滑車を持って来い!」

シリーレイ魔道師長が手を振って言った。
それを待っいた2人の兵士が、滑車を棺の下にもぐりこませる。

「いいか、慎重にやれよ!」

いよいよ、棺が床に敷かれた滑車に降り始めた。

ここで一気に降ろそうものならば、重量のある棺を上降器が耐えられなくなり、
地面に落下して、滑車は潰れ、床に大きなヒビを作ってしまうだろう。
実際、3ヶ月前には落下事故が発生しており、1人の魔道師が右足を潰されて、
仕事から引退させられてしまった。
原因は棺を下ろすとき、上降器を一気に回したため、棺の重量を支えきれなくなって上降器自体が
破損し、落下したのである。
このため、上降器をより頑丈なものに変える予定であったが、それは全く進んでいなかった。
棺が見事に、滑車に載せられ、魔道師と搬送役の兵士が安堵の表情を浮かべた。

「よし、これを運んでくれ。ぶつけたりしないでくれよ。」

シリーレイ魔道師長は念を押すように言う。

「分かっとります。そんなヘマはしませんよ。さあ、運ぶぞ!」

6人の兵士と魔道師が、掛け声を上げつつ、滑車をぶつけないように研究室から搬送していった。

「次だ!」

シリーレイは次に運ぶ棺を指差して、別の搬送チームに指示を下し始めた。


「来た・・・・・敵だ!」

悲鳴が上がった。
しかし、悲鳴が上がらなくても、既に米艦載機群の爆音は上空に響いていた。

大型馬車の御者であるワイレク軍曹は、精油所の上空に迫りつつある敵機群をじっと見つめている。
精油所からこの中央研究所まではわずか1・5キロしか離れていない。
それに、中央研究所の左側には、2つの巨大な精製油タンクが入っており、どれも油をたっぷり積んでいる。
敵機は製油所に向かっている。大体、15~20ほどの敵が、楔形の体系で悠然と飛行している。
精油所付近の対空砲が撃ち始めた。突然、悠然と飛行する敵機群の下方を、3、4の影が猛スピードで飛び抜けていく。
精油所の精製施設に敵機の機体が隠れ、そこで起きている実情は見えなくなる。
それ以前に、1キロ以上も離れている場所からはただの小粒が施設群の影で何をしているかなど、判然とする訳はない。
しかし、敵機群が上空に上がり始めた時に、ワイレク軍曹は分かった。

「高射砲の発砲煙が少なくなった・・・・・」

この時、F6Fは精油所に設置されている対空砲陣地を発見すると、すぐに突進して情け容赦ない銃撃を浴びせた。
製油所を攻撃しているのは、カウペンスのF6F13機とTBF12機である。
まず、TBFが製油所に近付くと、周囲から高射砲の砲撃を受けたが、配備されている数は、
砲弾の爆煙から推測して、わずか10足らずしかない。
この高射砲群は、あっという間に分散したF6Fの餌食になりつつある。
みるみるうちに、応戦する高射砲は減っていき、ワイレクが、F6Fが突っ込むのを見て2分後には、
12機のアベンジャーを阻むものはなかった。
アベンジャーは、大小24ある精油タンクのうち、真ん中を狙って、腹の下から2発の500ポンド爆弾を投下した。
小さな黒粒が、すうーっと精油タンク群に吸い込まれていく。
それがタンクの影に隠れた、と思った瞬間、猛烈な火災炎が吹き上がった。
最初の爆弾は、真ん中のタンクの10メートル横に落下した。
爆発と共に土くれや爆弾自体の破片が飛び散り、周囲のタンクの側壁に穴を開ける。
タンクから油が漏れる間もなく、2発目の爆弾が命中する。
1発目よりもド派手な爆炎が吹き上がり、炎がタンクに触れる。
それが漏れ出したタンクにまつわりつき、引火し、炎を内部に迎え入れた。

ドガアァーン!という大音響が、大爆発と共に沸き起こり、周囲を圧した。
アベンジャーの搭載する爆弾2発のうち、1発はサイフェルバン精油所から接収した異世界ガソリン
で作成したナパーム弾であった。
皮肉にも、自国で作った油が、敵の爆弾の材料となって降って来たのだ。
一気に7つの精油タンクが火柱を上げ、木っ端微塵に吹き飛んだ。
被弾していないタンクにまで、火の付いた破片や油が飛び散り、それがさらなる大火災を引き起こしてしまった。
爆弾の浴びていないタンクまでもが、次々と木製の重い天蓋を弾き飛ばし、群錬の炎を吹き上げる。
タンク全体が火達磨と化して、濛々たる黒煙が立ち上がった。
一目で、タンク群に甚大な損害が負わされたことが分かった。
しかし、炎はタンク群を爆破、大火災を引き起こしただけでは飽き足らず、
パイプラインを通って、精油施設にも火の手が伸びる。
ドドーン!という轟音が鳴り響き、精油施設のある塔が火の海に崩落していく。
悪夢の光景が、1・5キロ先の精油所で現出していた。

「なんて事だ・・・・・・白星の悪魔の奴ら、この世に地獄を作り出しやがった!」

ワイレク軍曹はそう叫んだ。
上空を、我が物顔に飛んでいく米軍機の編隊が通過していく。
どうやら精油所を火炎地獄に変えた事に満足したらしい。
北の方角に引き返していく。
「とんでもない奴らだ。」
彼はそう呟いた。あの精油所は、一般の作業員を含めて800人は働いていた。
今日は、作業員の全てが出勤前で難を逃れたが、もし、あと20分遅かったら、
出勤前の作業員もろとも、火炎地獄はこの世に現れていただろう。
継戦軍は、貴重な燃料を今、失ったのだ。
バーマントの国全体としては、いくつもの精油所があるから、このクレールスレンス精油所のみ破壊されても何とかなる。
だが、継戦軍の唯一の精油所であるここを火炎地獄に変えられた事は、継戦派にとってかなりの打撃になる。
とは言っても、肝心の艦隊や航空隊は既にないに等しい状況であるため、せいぜい夜の明かりに困るぐらいだが。

「ワレイク軍曹!」

はっとなった彼は、その声で我に返った。
彼の上官が、何かを伝えようとしている。遠くから呼ばれたため、はっきりと聞こえない。
すぐにその上官のもとに駆け寄った。

「君の馬車は積荷の搬送が終了した。すぐに内陸に移動しろ。場所は打ち合わせ通りだ。」
「分かりました。すぐに移動します。」

軍曹は敬礼して、すぐに自分の馬車に戻って、移動を始めようとした。
彼の他に、3人の部下を中に入れて、彼は御者台に乗った。

「それ、行け!」

馬が鳴いて、馬車は動き始めた。
すぐ後ろの馬車も、荷物を積み終えたのだろう、彼の後を追うようにして移動を始めた。
その時、上空から甲高い音が鳴り始めた。最初は小さいものだが、時間が経つにつれて徐々に大きくなってきた。

「急げ!走るぞ!」

彼は綱で馬を叩き、スピードを早くするように指示する。
それに答えた2頭の馬が、足を早くし始めた。
甲高い音が極大に達し、唐突に別の音に変わったのはその時だった。
馬車の上空を黒い機体が低高度で通り過ぎていった。ずんぐりとした胴体に描かれた鮮やかな横線入りの白い星。
開かれた後部座席から、機銃を構えた機銃手がこっちを見ていた。
爆発音が後方で鳴り響いた。振動で地面が揺れる。
続いて、新たな1発がズシンと、大地を揺らした。

「車長!中央研究所に爆弾がぶち込まれましたぜ!」

後ろの貨物室に座っていた部下の1人が、興奮したような口調で報告してきた。
その直後、後方から橙色の閃光が差し込んできた、と思った直後、ババァーン!という
雷を耳に直撃されたような轟音が鳴り響いた。
次に、後方から猛烈な爆風が吹き込んでくる。
急な暴風に、馬車はバランスを崩し、ついには横転してしまった。
ワレイク軍曹は横転の瞬間、御者代から投げ出された。
砂利の地面に体が叩きつけられ、小さな石ころが容赦無しに体に食い込み、手や足、顔の露出部に小さな傷が幾つも出来た。
更に、暴風に体を転がされ、5秒ほど転がされた後に、どこかの固いものにぶつかって、強引に回転は止められた。
この時、中央研究所は3機のヘルダイバーに爆弾を叩きつけられた。
この3機のヘルダイバーは、ラングレー所属の艦爆で、本来は司令部攻撃に加わるはずであったが、
ラングレー隊の隊長機は、精油所の隣にある油タンクの隣接した、一際目立つ正方形状の建物も攻撃しようと考えた。
それで、3機のヘルダイバーに爆撃を命じたのである。
残りのアベンジャーはそのまま、ヴァルケリン公爵の邸宅に向かっていった。
高度3000から、60度の角度で突っ込んだヘルダイバー3機は、対空砲火の妨害も受けずに次々と爆弾を投下した。
1発は施設を外れて道沿いに止めてあった馬車群に落下し、数頭の馬や貨物室もろとも、棺の中のキメラを粉砕した。
2番機の爆弾は見事、施設に命中。
天井を突き破って5階の床に当たってそこで炸裂した。
この5階のブースは、薬品の研究や開発が行われていた場所であり、まだ多数の研究員が、
書類や標本、薬品を外に運び出そうとしていた。
その時、1000ポンド爆弾が天井から出現して、パワーを開放した。
爆風に人間、机、書類、薬品が一緒くたに吹き飛ばされ、破壊される。
至近で炸裂を受けたものはあっという間に砕け散り、運の悪いものは破片すら残らなかった。
5階の3分の1の区画が爆風に席巻され、無残に破壊された。
最後の1発は、施設を外れそうになり、着弾したところが精油タンクの5メートル横であった。

爆弾が炸裂して、2秒後に精油タンクが派手に吹き飛んだ。
建物の西側が精油タンクの爆発で一部吹き飛び、次いで建物の3分の1が完全に吹き飛んでしまった。
建物が爆発した瞬間、精油タンクの爆発と同規模の誘爆に、遠くで見ていた者は誰もが、一瞬呆然とした。
一寸間を置いてから、彼らは中央研究所が誘爆した事を納得した。
中央研究所の2、3階部分はキメラの研究施設である。
研究室の内部には、外の精油タンクほどではないが、精製された強化液タンクがあった。
精油タンクの誘爆大火災は、内部のパイプラインをつたってキメラの研究所内部に侵入。
最後まで作業に当たっていたシリーレイ魔道師長のみならず、移送作業を監督していたネルイク博士も、
強化液タンクの爆発に巻き込まれてしまった。
被害はそれだけに留まらず、研究所爆発によって、多くの魔道師や継戦派の兵が巻き込まれ、
死傷者はうなぎ上りに増大したのである。

精製油。
それは、キメラを開発する時に最も貢献した薬であった。
だが、この薬が、新生バーマントにとっての継戦派に対する“消毒薬”になろうとは、
なんとも皮肉な結果であった。


「ラングレー隊、カウペンス隊、攻撃を開始しました!」
後部座席の無線手が、エセックス隊指揮官であるルイス・アーロン大尉に報告した。
「OK。こっちでも目標を確認した。ヒュー、立派なお城だぜ。」
彼は、前方に見えてきた城、攻撃目標であるグレンドルス城が見えてきた。
米側通称、トラップの城である。
この城は、2日前に偵察にやってきた味方機に突然対空砲火を浴びせて、味方機は危うく撃ち落されそうになった。
なんとか虎口を脱した味方機は、周辺の索敵を続行し、クレールスレンス付近の司令部や工場地帯を発見、
味方機動部隊にそれを報告している。
午前7時 ギルアルグ北西80マイル付近から、攻撃隊116機が発艦した。


攻撃目標は、エセックス隊がグレンドルス城、ラングレー、カウペンス隊が工場地帯にある製油所や重要施設、
そして司令部らしき豪邸である。
エセックス隊はF6F16機、SB2C20機、TBF16機の計52機で編成されており、
それらがグレンドルス城を破壊する。
しかし、

「どうも、規模がでかいなあ。あの大魔道院まではいかんとしても、52機じゃあ物足りんぞこれは。」
アーロン大尉はいささか、苦い口調で言った。
このグレンドルス城、実は真ん中の中央塔を中心に、東西南北に高さ20メートル級のやや小さめの城が通路で繋がっており、
それらが厳密な対空要塞を形成している。
偵察に当たった味方機によれば、このグレンドルス城にはすくなくとも、
高射砲20門、機銃は50以上は存在する、と言われている。

「アーロン!もう敵まで目と鼻の先だぜ。突っ込みの命令は出さないのかい?」

唐突に、無線機から明るい声が聞こえてきた。
エセックス戦闘機隊の指揮官である、グリル・ブロンソン大尉の声だ。
彼の口調からして、早めに攻撃したいと思っているようだ。
無理もないか、アレを積んでいるのだし。
アーロン大尉はそう思うと、苦笑しながらマイクを握った。

「今から出そうとしていた所さ。よし、全機突撃せよ!ヘルダイバーの第1小隊は西棟、
第2小隊は東棟、第3小隊は南、第4小隊は北塔を潰せ!」
「「ラジャー!!」」
「アベンジャー隊は中央塔を叩く。それでいいな?」
「OK。頼んだぜ。」

アーロン大尉は、アベンジャー隊の指揮官機にそう答えると、すぐに操縦桿を引き上げた。
現在、高度は2500メートル。ここから急降下を行うには少し高度が足りない。
3000か、4000まで上げてから、急降下爆撃に移ったほうがいい。
そう思って、彼は機体を上昇させたのだ。
彼の後に続いて、19機のヘルダイバーが高度を稼ぎ始めた。

「野郎共、殴り込みだ!目標割り当ては以下の通りだ、派手に暴れるぞ!」

ブロンソン大尉はそう言ってからマイクを置き、機体を左に横転させた。
彼の後方には、直率の3機のF6Fが続行して来る。
ブロンソン大尉は、眼前の外側の城、グレンドルス城の東塔に斜め上方から突っ込みつつある。
高度は1600メートルだが、徐々に下がりつつある。
機速は既に600キロ近くに達しており、風防ガラスの外は風でビュービュー鳴っていた。
高射砲弾が2発、右前方で炸裂する。カーンと、破片が当たるが、機体に少し傷をつけただけに留まった。
6、7秒おきに高射砲弾が炸裂するが、どれも見当外れの位置で炸裂している。
最初の射撃のほうはまだ良かったのだが、撃つごとに下手糞になっているように感じる。
東塔との距離が1400メートルまで近付くと、敵は機銃をぶっ放してきた。
曳光弾が白煙を引きながら、雨あられと向かって来る。
ぱっと見で7~8の銃座がある。

「あいつをやるか。」

彼は、銃座の中でも一際マズルフラッシュがでかい、下側の銃座を狙う事にした。
機首を僅かに左に向けて、照準を合わせる。
恐らく、2~3の機銃がまとまって撃っているのだろう。
そこから向けられる曳光弾の数が他と比べて段違いに多い。

ガガン!と機銃弾が命中する。一瞬、やられたかと思ったが、すぐに別の事に意識する。
距離は目測で1000を切った。

「発射!」

彼は操縦桿の発射ボタンを押した。
突然、両翼から何かが白煙を引いて、あっという間に敵の銃座の至近にまで近づいた。
白煙のうち、1発は銃座より左に逸れているが、1発は明らかに銃座付近に迫っていた。
2秒が経って、城の壁と、銃座に閃光が走り、次いで破片と黒煙が吹き上がった。

「イヤーッホウ!」

彼は雄叫びを上げながら、東塔の横を飛びぬけた。
この時、彼が放ったのは、機銃ではなく、新兵器の5インチロケット弾であった。
5インチロケット弾は2発が発射され、1発が城の壁を無為に抉っただけであったが、
1発は11.2ミリ機銃座に命中し、操作要員もろとも銃座を吹き飛ばした。
後続機が続いて、別の銃座に5インチロケット弾を叩き込んだ。これは惜しくも、銃座を外れてしまった。
しかし、継戦側の兵達は、突然、白煙を引きながら襲って来るロケット弾を見て、仰天した。

「機銃じゃないぞ!」

操作要員が仰天した表情で叫んだ。
その直後には、ロケット弾が、銃座のすぐ側の壁に命中して、操作要員達を爆風で地上に落すか、
壁に叩きつけたり、破片で顔や胴体を抉って致命傷を負わせた。
休む間もなく、4番機のロケット弾が向かってきた。
4番機は、1,2,3番機がやった2発発射ではなく、搭載分全てを使ってきた。

狙われたのは、一番上側の11.2ミリ機銃座であったが、その機銃座に4発の5インチロケット弾がまとめて叩きつけられた。
これまでの機銃座もおびただしい死傷者を出してしまったが、最低でも1、2人は軽傷か、無傷の者がいた。
しかし、4発のロケット弾をまともに食らった機銃座は、文字通り全滅してしまった。
いささか過剰とも思えたが、4番機が東塔の側を通り抜けるまでに、対空火力は戦力を半分強にまで落とされてしまった。

「隊長、東塔の銃座はまだ生きていますよ。」
「それぐらい分かっている。その生き残り分は今から綺麗に掃除する!」

ロビンソン大尉はそう言って、高度1500まで上げたF6Fを反転させ、再び東塔に向けた。
グレンドルス城南塔で11.2ミリ機銃座の装填役をしているセルッス・モーレンリ2等兵は、
迫り来る4つの機影をじっと見つめていた。
最初は小粒ほどの大きさであった機影が、徐々に大きくなって、今ではごつい胴体がはっきり見て取れた。

「撃て!」

指揮官の声がして、直後に11.2機銃が放たれる。
高射砲弾の薄い弾幕をあっさりと突き抜ける機影に、か細い機銃の曳光弾が注がれる。
しかし、命中していないのか、その機影がぐんぐん迫ってくる。

「当たれ畜生!」

射手が悔しげに顔を歪める。弾帯の銃弾は半分以下にまで減っている。
(そろそろ変わりの弾帯を持っとかないと)
そう思って、彼は弾薬箱から100発の弾が繋げられた弾帯を引っ張り出し、装填の準備を整えた。
その時、横目に移っていた機影が、翼から白煙を吐いた。一瞬、機銃弾が命中したのかと思った。
すぐに機影を見つめた。あろうことか、白煙がこっちに向かってくるではないか!

「煙が襲って来る!?」

一瞬、そう思ったが、つかの間、白煙の中に何か黒っぽい丸のようなものが見えた。
しかし、危険を感じたモーレンリ2等兵はすぐに石畳の床に伏せた。
次の瞬間、シュッ!という何かが飛びぬけた音がし、その直後にバーン!という
爆弾が炸裂する轟音が響いた。
次いで、下のほうからも轟音と衝撃が走った。
何かの破片が周りの床や壁に当たる音が聞こえた。

「銃弾にしては威力が違いすぎるぞ!」

誰かの叫び声が聞こえた。銃座の他のメンバーも生きているのだろう、混乱した口調で言い合っている。
(皆は生きているみたいだ)
と思ったが、顔を上げ間もなく、別の爆発音と、衝撃に揺さぶれられ、上げかけた顔を再び腕の間にうずめた。
グオオオーン!という適飛空挺が飛び去る爆音が響く。彼には、それが恐ろしい悪魔の叫びに聞こえた。
爆発音は依然続き、その都度、西塔が痛みに泣いているかのように揺れ動いた。

「起きろ!この意気地なしが!!」

唐突に、頭を上げられた。彼を起こしたのは、先輩の機銃手だ。
その彼は恐怖と興奮でひきつった表情を浮かべていた。

「弾が無くなった、さっさと込めろ!」

言われるがままに、彼は側に落ちていた弾帯を機銃に込めた。

「装填完了しました!」

モーレンリ2等兵はそう言った。今度は、反対側の機銃座が撃ちまくり始めた。

「敵は反対側にいるようだ。前方に飛んできたらすぐに撃て!」

指揮官がそう言うが、口調がどこか上ずっている。
モーレンリ2等兵は左にあった機銃座を見てみた。
彼は驚いた。機銃座は防御用の厚い板があっさりと断ち割られ、その周りにはばらばらに砕けた土嚢や
機銃の残骸があり、操作要員が4人ほど、仰向けやうつ伏せになって倒れていた。

「あまり周りを見るな。」

機銃手が言ってきた。

「見ても何もならん。だから周りを見るなよ?」

機銃手はじっと、前を見ながらそう言ってきた。
要するに、味方の死体や破壊された機銃座を見れば、次第と士気は下がってしまう。
そうなれば、兵隊は役立たずだ。そうなるよりは、ひたすら前を見、自分の仕事に集中するのみだ。
機銃手はそう言っているのだろう。モーレンリは機銃手の言わんとしている意が分かった。
突然、先と似たような衝撃が伝わってきた。反対側も先と同じような攻撃を受けているのだ。

「敵は新兵器を投入してきたな。」

指揮官の声がした。指揮官も見たのだろう。棒状の猛速で飛んでくる物体を。

いきなり、前方にエンジン音を唸らせながら、敵飛空挺が現れた。
すかさず、機銃手が11.2機銃をぶっ放した。

敵のごつい胴体に曳光弾が注がれ、2、3発は命中したと思った。
しかし、敵は火を噴くこともなくそのまま射程外に飛び去っていく。
2番機が前方に踊りだす。だが、すぐに上昇して行った。
3番機が1番機と同じように前方に飛び出し、後姿を見せる。
まるで撃って来いと言わんばかりだ。

「望みどおりにしてやるぞ!!」

機銃手が怒声を発し、11.2機銃を叩き込んだ。
曳光弾が主翼の付け根や胴体に5、6発ほど命中する。
しかし、すぐに射程外に飛んで行った。

「聞きしに勝る頑丈さだ。ちょっとやそっとでは落ちないな。」

指揮官が悔しげに呟いた。しかし、その表情は唐突に明るくなった。
突然、飛び去った3番機が右主翼から白煙を吐いた。
その3番機は、慌てふためいたように、急に北に進路を変えて現場空域から逃げていく。

「やった!白星の悪魔を追い払ったぞ!」
「落とせなかったのが残念だが、とりあえず使える敵を減らしたな。」

4番機が同様に飛びぬけて行き、続けざまに機銃を撃った。これは命中することなく外れてしまった。

「・・・・・?」

モーレンリ2等兵の耳に、何かが聞こえた。それほど大きい音ではない。
気にせずに、別の弾帯を引っ張り出そうとしたが、徐々に音は大きくなってくる。

音がする方向をどこかと探した。
音は、上からやってくる。すかさず、前上方をみつめた。黒い粒がいくつか見えている。

「指揮官、あれはなんでしょうか?」
「あれだと?何かあるのか?」

指揮官が、モーレンリ2等兵が指差す方向を見つめた。
その間にも、音とその粒は大きくなりつつある。
いきなり、指揮官の表情が凍りついた。

「どうしました?」
「・・・・急降下爆撃だ!!」

いきなり大声で指揮官が叫んだ。だれもがぎょっとなる。
粒々が、飛空挺と思われる姿になって来た。
11.2機銃が仰角を高めに取って、いつでも発射できる態勢をとる。
まばたきする毎に、飛空挺の姿は大きくなってきた。

「撃て!」

指揮官が号令を下し、機銃が唸った。曳光弾が敵飛空挺に注がれる。
次第に、音が、心臓を掻きむしりたくなる様な甲高い音に変わってきた。
その音は、すぐに大きくなり、しまいには機銃の発射音すらも掻き消さんばかりになった。
最初とは比べ物にならぬほど拡大された敵飛空挺が急に機体を起こした。
急降下を終えた飛空挺の代わりに、小さな黒い物体が降下を続ける。
いや、降下ではない。
その黒い物体は落ちつつあった。その先には、

「俺達のいる西塔がある!」

そう思った時、指揮官の伏せろという声が聞こえた。
判断が遅れたモーレンリ2等兵は、機銃手に無理やり伏せさせられた。
次の瞬間、ダーン!という先の爆発とは比べ物ならぬ轟音と衝撃が走った。
続いて別の爆発が最上階の辺りで起こる。
3回目の爆発はなぜか下のほうで起こったが、すぐに敵機が爆弾を外したんだな、と思った。

「マヌケな奴だ。」

一瞬、そう嘲笑ったモーレンリ2等兵だが、3発目は今までより近い位置で起きた。
体がフワッと吹き上げられ、目を開けると、なぜか西塔を見あげるような格好になっていた。
背中には床の感触はなかった。


この時、西塔には3発の1000ポンド爆弾が命中した。
1発は屋上の平らな石畳に命中して、20センチ窪ませたところで炸裂。
表面の石畳が爆圧で剥がれ、飛び散る。屋上は黒煙に包まれてしまったが、
6階部分の天井は、少し亀裂が入っただけで保管された物品の損害はなかった。
そこに、2発目の1000ポンド爆弾がぶち込まれる。
1発目よりもさらにめり込んで炸裂し、屋上の石畳の表面が完璧に吹き飛んだ。
爆圧エネルギーは亀裂を押し広げ、ついに爆発炎が6階部分に吹き込んだ。
この6階部分は、一昔前までは拷問部屋として使用されており、幾多もの罪人、
もしくは連れ去られてきた少年少女が命を落とした。
今は昔の拷問器具が保管されているだけだが、夜になると、罪人の悲鳴や、
犠牲になった少年少女の泣き声が聞こえると言われ、ここに駐屯している兵からは怪奇スポットとして有名であった。

「あんな、血糊がついたギロチンとか断裁器を置くから、幽霊が居つくんだよ」

と、兵士達は影で言い合っていた。
その忌まわしき拷問部屋に1000ポンド爆弾のエネルギーが開放された。
爆発パワーの過半以上は、驚く事にここで吹き荒れたのである。
まず、爆発炎をもろに受けたギロチン台が一瞬にして捻じ曲げられ、
血で赤黒くなった刃がいとも簡単に叩き折られた。
木製部分がぱっと炎を上げ、それが梱包された布に移る。
次いで、爆風がこの狭い拷問部屋に吹き荒れ、吹き飛んだ断裁器が絞殺用の締め具に当たってそれを
切断し、“処刑”してしまった。
炎と、猛烈な風の圧力による拷問を受けた拷問器具達は、部屋もろとも瞬時に粉砕された。
そして、とどめに崩落した屋上部分が圧し掛かって、6階部分は瓦礫に埋まってしまった。
西塔が6階から5階に減少した時には、他の支塔もロケット弾、1000ポンド爆弾の洗礼を受けていた。
南塔では、弾火薬庫に火災が及んで大爆発を起こした。
爆発直後には、依然として健在な姿を見せたものの、10秒後に真ん中から折れて崩落していった。
F6Fは支塔にロケット弾を浴びせただけでは飽き足らず、中央塔に突っかかっていった。
中央塔の対空火器が狂ったように撃ちまくる。
まだロケット弾を全て使っていなかったF6Fが、残りを全て中央塔に叩き付けた。
ロケット弾を撃ち終わると、両翼の12.7ミリ機銃を乱射した。
雨あられと、高速弾をぶちこまれた機銃座が1つ、また1つと沈黙していく。
いきなり、F6Fの1機が集中射撃を食らってバランスを崩した。
悲鳴じみた音を上げながら、そのF6Fは中央塔の側壁に命中し、機銃座2つを道連れにして
敵側から対抗可能な武器をさらに減少させる。
中央塔は、さんざんF6Fにたかられた挙句、40丁あった機銃のうち18丁が破壊され、高射砲も8門中6門まで破壊された。
それと引き換えに得た戦果はF6F1機撃墜、2機に煙を吐かせて追い払っただけである。
F6F群がサッとグレンドルス城から離れた。
グレンドルス城の継戦派の兵は、つかの間敵機が撤退したと思ったが、それは間違いであった。

上空には、16機のアベンジャーが爆弾倉を開いて、爆撃針路に入りつつあった。
慌てて、高射砲が応戦する。
しかし、対抗可能な高射砲が2門のみでは、アベンジャーに対して有効弾は与えられなかった。
教導機が500ポンド爆弾2発を投下した。
それを皮切りに、15機のアベンジャーが一斉に爆弾を落とし始めた。
高度2000から投下された爆弾はゆらゆらと風に振られつつ、グレンドルス城の中央塔に落ちていった。
やや間を置いて、爆弾炸裂の閃光が、グレンドルス城中央塔周辺で連続して沸き起こり、一瞬にして中央塔は黒煙に包まれる。
黒煙の一角で二次爆発が起き、一瞬だけグレンドルス城の姿が露わになる。
威厳に満ちた城の姿は、いまや黒く汚れ、所々が崩落した醜い石の塊と化していた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー