2021年4月14日現在、自衛隊はこの惑星で最大の支配地域を誇るグレザール帝国の城塞都市ダルコニアを攻撃していた。
莫大な人命と燃料と武器弾薬を惜しげもなく投入し、たった一人の日本人男子高校生と、彼に接触した人々をできるだけ多く殺害すべく行動している。
目標人物の名前は山田託狼。
ゴルシア大陸への開拓団から、本人の視点から見るとはぐれた、日本国側から見ると拉致された人物である。
彼は人並み外れた適応能力、コミュニケーション能力、知力、体力、精神力、正義感、運を持っていた。
それがいけなかった。
開拓団からはぐれた彼を助けた女性たちの一団は、グレザール帝国軍に所属する人々だった。
彼女たちは盗賊団を追ってきたと彼に話したが、実際の任務は異なる。
現代風の表現を行うならば、長距離偵察任務という言葉が一番近い表現になる。
突如出現した謎の国家。
明らかに今までは存在していなかったはずの、見たこともない技術を用いる集団。
彼女たちはそれを偵察し、可能であれば適当な人間を拉致して情報を収集することを目的にしていた。
結果として得られたのは若い少年一人であったが、彼女たちが落胆する必要はなかった。
ヤマダ・タロウという名前のこの少年は、彼女たちの常識を覆すような情報を大量に知っていた。
幾度と無く繰り返された会話の中で、女性たちは彼から情報を聞き出すための2つの方針を決定する。
一つ、祖国に損害をもたらすかもしれない行為を正当化するためのお題目を与えること。
二つ、男であれば、見麗しい女性を求めないはずがない。
結果として、彼女たちの作戦は見事に成功した。
グレザール帝国を帝政から共和制へ移行したいという身の回りの女性たちの夢を叶えるためには、日本国の持つ様々な知識が必要となる。
だから情報を提供することは仕方がない。
私たちは貴方が好きで好きでたまらないの、私たちを助けて。
彼は少年ならではの独善的な正義感と、親しい女性たちへの情欲に従って、自らの知る技術や知識を惜しげもなく伝えた。
異世界人に対する技術情報の漏洩は、一億五千万の国民全てに対する殺人未遂であり、問答無用の外患誘致であり、地球人類に対する裏切り行為だ。
ダルコニアに送り込んでいた諜報員通報を受けた自衛隊は、将来の危険性を排除する事を決定した。
そう言った次第で、この攻撃は行われている。
市内で攻撃に晒されているグレザール帝国軍は、実に良く抵抗した。
反撃という意味ではなく、自衛隊による伝聞でしか知らない未知の攻撃に対し、被害を出来る限り抑えるという形で、だが
四次に分けられた砲爆撃は終了し、佐藤一等陸尉率いる普通科中隊が、二度目の市街地への突入を開始しなければならなくなった。
佐藤としてはさらなる支援砲撃を申請したかったが、それはさすがに却下された。
眼前に広がる市街地の残骸は、前線指揮官の要請を却下するほどに無残なものだったのだ。
今後、万が一砲撃が必要になった場合には、現在ヘリコプターで空輸中の砲兵一個中隊による支援のみが与えられる事となる。
合衆国海兵隊の砲兵部隊をまるごと借り受けたそれは、M777榴弾砲を定数いっぱい装備し、砲弾輸送用だけに別のヘリコプターまで与えられた贅沢な部隊である。
彼らは正規軍同士がぶつかり合う本物の戦争を経験している部隊であり、その支援は必ずや佐藤たちの役に立つだろう。
莫大な人命と燃料と武器弾薬を惜しげもなく投入し、たった一人の日本人男子高校生と、彼に接触した人々をできるだけ多く殺害すべく行動している。
目標人物の名前は山田託狼。
ゴルシア大陸への開拓団から、本人の視点から見るとはぐれた、日本国側から見ると拉致された人物である。
彼は人並み外れた適応能力、コミュニケーション能力、知力、体力、精神力、正義感、運を持っていた。
それがいけなかった。
開拓団からはぐれた彼を助けた女性たちの一団は、グレザール帝国軍に所属する人々だった。
彼女たちは盗賊団を追ってきたと彼に話したが、実際の任務は異なる。
現代風の表現を行うならば、長距離偵察任務という言葉が一番近い表現になる。
突如出現した謎の国家。
明らかに今までは存在していなかったはずの、見たこともない技術を用いる集団。
彼女たちはそれを偵察し、可能であれば適当な人間を拉致して情報を収集することを目的にしていた。
結果として得られたのは若い少年一人であったが、彼女たちが落胆する必要はなかった。
ヤマダ・タロウという名前のこの少年は、彼女たちの常識を覆すような情報を大量に知っていた。
幾度と無く繰り返された会話の中で、女性たちは彼から情報を聞き出すための2つの方針を決定する。
一つ、祖国に損害をもたらすかもしれない行為を正当化するためのお題目を与えること。
二つ、男であれば、見麗しい女性を求めないはずがない。
結果として、彼女たちの作戦は見事に成功した。
グレザール帝国を帝政から共和制へ移行したいという身の回りの女性たちの夢を叶えるためには、日本国の持つ様々な知識が必要となる。
だから情報を提供することは仕方がない。
私たちは貴方が好きで好きでたまらないの、私たちを助けて。
彼は少年ならではの独善的な正義感と、親しい女性たちへの情欲に従って、自らの知る技術や知識を惜しげもなく伝えた。
異世界人に対する技術情報の漏洩は、一億五千万の国民全てに対する殺人未遂であり、問答無用の外患誘致であり、地球人類に対する裏切り行為だ。
ダルコニアに送り込んでいた諜報員通報を受けた自衛隊は、将来の危険性を排除する事を決定した。
そう言った次第で、この攻撃は行われている。
市内で攻撃に晒されているグレザール帝国軍は、実に良く抵抗した。
反撃という意味ではなく、自衛隊による伝聞でしか知らない未知の攻撃に対し、被害を出来る限り抑えるという形で、だが
四次に分けられた砲爆撃は終了し、佐藤一等陸尉率いる普通科中隊が、二度目の市街地への突入を開始しなければならなくなった。
佐藤としてはさらなる支援砲撃を申請したかったが、それはさすがに却下された。
眼前に広がる市街地の残骸は、前線指揮官の要請を却下するほどに無残なものだったのだ。
今後、万が一砲撃が必要になった場合には、現在ヘリコプターで空輸中の砲兵一個中隊による支援のみが与えられる事となる。
合衆国海兵隊の砲兵部隊をまるごと借り受けたそれは、M777榴弾砲を定数いっぱい装備し、砲弾輸送用だけに別のヘリコプターまで与えられた贅沢な部隊である。
彼らは正規軍同士がぶつかり合う本物の戦争を経験している部隊であり、その支援は必ずや佐藤たちの役に立つだろう。
西暦2021年4月14日 12:58 城塞都市ダルコニア 帝国駐留軍本営まで430m地点
「そうは言うけどな」
普通科中隊を率いて突入中の佐藤からすると、どうしてもそのようなボヤきが出てしまう。
確かに敵軍の抵抗は散発的以下の状況である。
だが、砲爆撃前に突入した部下たちの最後が脳裏から離れない。
無力化された戦闘車両、奇襲で全滅した小銃小隊、撃墜されるヘリコプター。
目の前の路地裏から、あるいは隣の建物の屋上から、あるいは左右の建物から、いつ自分たちに攻撃を仕掛けてくるかが分からない。
砲爆撃で全てを終わらせることはできないという事は知識として知っているが、もう少し攻撃を続けてくれても良かったんじゃないかな。
確かに敵軍の抵抗は散発的以下の状況である。
だが、砲爆撃前に突入した部下たちの最後が脳裏から離れない。
無力化された戦闘車両、奇襲で全滅した小銃小隊、撃墜されるヘリコプター。
目の前の路地裏から、あるいは隣の建物の屋上から、あるいは左右の建物から、いつ自分たちに攻撃を仕掛けてくるかが分からない。
砲爆撃で全てを終わらせることはできないという事は知識として知っているが、もう少し攻撃を続けてくれても良かったんじゃないかな。
「構わんから動くものは何でも撃てよ。俺は書類仕事は嫌いなんだ、つまり何が起きても書かん」
部下たちの仕事をやりやすくしてやるのも上官の仕事だよな。
完全な責任放棄をそのように美化しつつ、佐藤は前進を続ける部下たちの背中を見る。
完全な責任放棄をそのように美化しつつ、佐藤は前進を続ける部下たちの背中を見る。
「前方に敵!」
短い警告の叫び、銃撃音、微かに聞こえる絶叫。
実戦経験の豊富さでは在日合衆国軍のいかなる部隊よりも優っている佐藤の部下たちは、敵を排除することに何の抵抗もない。
排除するべき者か、その必要がない死体か。
今回の作戦において彼らが引き金を引くか引かないかの基準はそれだけだ。
実戦経験の豊富さでは在日合衆国軍のいかなる部隊よりも優っている佐藤の部下たちは、敵を排除することに何の抵抗もない。
排除するべき者か、その必要がない死体か。
今回の作戦において彼らが引き金を引くか引かないかの基準はそれだけだ。
「クリア!」
うん、戦争とはこうでないといけないな。
満足げに頷きつつ、佐藤は防水処理をされた地図を見る。
航空偵察の結果を基に作成されたものだが、徹底した爆撃の後では概略図程度にしか使えない。
満足げに頷きつつ、佐藤は防水処理をされた地図を見る。
航空偵察の結果を基に作成されたものだが、徹底した爆撃の後では概略図程度にしか使えない。
「とりあえずはこのまま行けそうだな。警戒を怠るなよ」
言われるまでも無く彼らは油断などしていなかったが、それでも警戒しすぎて困ることは無い。
託狼なる少年の知識を受け取ったこの街の人々は、普通の戦闘行為以外の方法で自衛官を殺傷できるのだ。
託狼なる少年の知識を受け取ったこの街の人々は、普通の戦闘行為以外の方法で自衛官を殺傷できるのだ。
「前方に避難民と思われる集団!数およそ20!」
「敵だ!撃て!」
「敵だ!撃て!」
銃声、悲鳴。
これでいい。
佐藤は自分の部下たちの戦闘能力と士気の高さに安堵した。
本来であれば民間人への攻撃は重大な戦争犯罪である。
だが、この街へ攻撃を行う自衛官たちには、民間人に対する無差別攻撃が正式に書類で命令されている。
その理由は、ただ一つ。
山田詫狼なる日本人男子高校生が、日本国の情報をこの街に暮らす人々へ伝えたからである。
一人だけがこの世界へ来たのならばまだしも、この世界には日本列島が丸ごと来ている。
元の世界から切り離された列島に暮らす日本人たちは、2000年以上に渡って積み上げられた科学技術を用いて生活していかなければならない。
開拓団として大陸に派遣されていた以上、託狼少年は自分のやっている事が何を招くのかを予測できなければいけなかった。
武力を用いてでもこの世界に生存圏を確立しなければならなかった日本人達は、自分たちのアドバンテージを守るためになんでもするのだ。
必要があるのであれば、罪の無い一般市民を殺戮し、市街地を破壊し尽くすような事を。
そのような状況において、佐藤は幸運だった。
開戦から現在まで、常に第一線で苦楽を共にした部下たちを率い続けている。
彼も部下たちも、目の前の敵と定められた者を攻撃する事に抵抗感を持っていない。
それが見るからに非武装の、明らかに戦意が無い避難中の女子供であったとしても。
実戦経験を積むことで戦闘能力に磨きがかかり、精神が摩耗し、どのような命令であろうとも、できるだけ効率的に実行できる。
人間としては不幸かもしれないが、少なくともこのような戦争を行う軍人としては幸運だった。
これでいい。
佐藤は自分の部下たちの戦闘能力と士気の高さに安堵した。
本来であれば民間人への攻撃は重大な戦争犯罪である。
だが、この街へ攻撃を行う自衛官たちには、民間人に対する無差別攻撃が正式に書類で命令されている。
その理由は、ただ一つ。
山田詫狼なる日本人男子高校生が、日本国の情報をこの街に暮らす人々へ伝えたからである。
一人だけがこの世界へ来たのならばまだしも、この世界には日本列島が丸ごと来ている。
元の世界から切り離された列島に暮らす日本人たちは、2000年以上に渡って積み上げられた科学技術を用いて生活していかなければならない。
開拓団として大陸に派遣されていた以上、託狼少年は自分のやっている事が何を招くのかを予測できなければいけなかった。
武力を用いてでもこの世界に生存圏を確立しなければならなかった日本人達は、自分たちのアドバンテージを守るためになんでもするのだ。
必要があるのであれば、罪の無い一般市民を殺戮し、市街地を破壊し尽くすような事を。
そのような状況において、佐藤は幸運だった。
開戦から現在まで、常に第一線で苦楽を共にした部下たちを率い続けている。
彼も部下たちも、目の前の敵と定められた者を攻撃する事に抵抗感を持っていない。
それが見るからに非武装の、明らかに戦意が無い避難中の女子供であったとしても。
実戦経験を積むことで戦闘能力に磨きがかかり、精神が摩耗し、どのような命令であろうとも、できるだけ効率的に実行できる。
人間としては不幸かもしれないが、少なくともこのような戦争を行う軍人としては幸運だった。
「クリア!前進継続!」
第一目標である敵軍司令部まで、残るは直線距離で200mほど。
抵抗らしい抵抗もなしに前進を継続し続ける彼らにとって、それはあっと言う間の距離である。
抵抗らしい抵抗もなしに前進を継続し続ける彼らにとって、それはあっと言う間の距離である。
「前方!歩兵らしきもの30人以上!」
警告の叫びが再び上がったのは、佐藤が満足そうに部下達の背中を見た瞬間だった。
刀剣で武装した兵士が数十人、さらに続々と集まりつつある。
刀剣で武装した兵士が数十人、さらに続々と集まりつつある。
「弓矢と魔法に注意!」
「散開!」
「撃てぇ!」
「散開!」
「撃てぇ!」
自衛隊員たちの反応は素早かった。
敵部隊を視認した瞬間、陸曹たちは口々に命令を叫ぶ。
もちろん自衛隊員は一騎当千の無色透明殺戮異星人ではない。
それなりの数の敵軍と遭遇すれば、排除に時間を割かれることは仕方が無い。
だが、剣を振り上げ、ただの鉄板に過ぎない盾を構えて突っ込んでくるだけの相手など、障害物程度でしかない。
途切れなく銃声が鳴り響き、そのたびに名の知れた騎士が、歴戦の兵士が、地面に打ち倒されていく。
敵部隊を視認した瞬間、陸曹たちは口々に命令を叫ぶ。
もちろん自衛隊員は一騎当千の無色透明殺戮異星人ではない。
それなりの数の敵軍と遭遇すれば、排除に時間を割かれることは仕方が無い。
だが、剣を振り上げ、ただの鉄板に過ぎない盾を構えて突っ込んでくるだけの相手など、障害物程度でしかない。
途切れなく銃声が鳴り響き、そのたびに名の知れた騎士が、歴戦の兵士が、地面に打ち倒されていく。
本来であれば彼らには銃弾を止める魔法の加護が与えられるはずだったが、立て続けに行われた砲撃と空爆で、それら支援体制はとうに崩壊していたのだ。
託狼の情報を元に編み出された戦術は、味方が組織だった支援を行えるうちは確かに有効だった。
謎の武器だった銃の仕組みを伝えたことにより、魔法防御を施した上でさらに矢を逸らす魔法を付与した盾は、原理を知るが故の対策で銃弾を防いだ。
託狼の情報を元に編み出された戦術は、味方が組織だった支援を行えるうちは確かに有効だった。
謎の武器だった銃の仕組みを伝えたことにより、魔法防御を施した上でさらに矢を逸らす魔法を付与した盾は、原理を知るが故の対策で銃弾を防いだ。
魔法は一度に一つだけ。
別に経験則や何らかの理由を元にではなく、単に誰も思いつかなかっただけという下らない理由による常識を、託狼はテレビゲームでの経験を元に崩した。
結果として、複数の魔術師を用いての支援魔法の重ねがけという戦術は、グレザール帝国の騎士たちの戦闘能力を時間限定ながら一個小銃小隊を倒せるほどに強化したのだ。
さらに、狭い路地で障害物に寄って進路を塞ぎ、煙幕を張り、その上で火炎瓶攻撃を行えば戦闘車両を無力化できることも伝えた。
全ては野戦かどうしようもない混戦でしか決着のつかなかったこの世界の戦争に、託狼の伝えた知識は革命的な進歩を与えたのだ。
しかしながら、敵の組織的抵抗を破壊するという自衛隊の作戦の前には、付け焼刃の戦術に頼った抵抗は意味を成さない。
託狼の知識を元に構築された防空網は確かにヘリ一機を撃墜してみせたが、猛烈な砲爆撃の前には効果は無い。
背伸びをしてようやく戦術レベルという程度の彼の知識は、結局のところ手の届く範囲の小さな視点に終始している。
それでは作戦という視点で行動する自衛隊を撃退することはできないのだ。
そして残酷な事だが、戦略という視点で見れば、戦術レベルであっても自衛隊に抵抗する知識を持つ人々は、これ以上知識が広がる前に抹殺しなければならない。
これを防ぐことが出来なければ、今後の自衛隊の活動に悪い影響が生じ、ひいては日本国の国家戦略が覆る遠因になりかねないからである。
ある意味で、そこまで発想が及ばなかったことは、託狼にとっては幸運だったかもしれない。
自分の責任で、自分の親しい人々は全員がどこまでも追いかけられて殺されなければならなくなったと理解する事は、余りにも辛すぎる。
結果として、複数の魔術師を用いての支援魔法の重ねがけという戦術は、グレザール帝国の騎士たちの戦闘能力を時間限定ながら一個小銃小隊を倒せるほどに強化したのだ。
さらに、狭い路地で障害物に寄って進路を塞ぎ、煙幕を張り、その上で火炎瓶攻撃を行えば戦闘車両を無力化できることも伝えた。
全ては野戦かどうしようもない混戦でしか決着のつかなかったこの世界の戦争に、託狼の伝えた知識は革命的な進歩を与えたのだ。
しかしながら、敵の組織的抵抗を破壊するという自衛隊の作戦の前には、付け焼刃の戦術に頼った抵抗は意味を成さない。
託狼の知識を元に構築された防空網は確かにヘリ一機を撃墜してみせたが、猛烈な砲爆撃の前には効果は無い。
背伸びをしてようやく戦術レベルという程度の彼の知識は、結局のところ手の届く範囲の小さな視点に終始している。
それでは作戦という視点で行動する自衛隊を撃退することはできないのだ。
そして残酷な事だが、戦略という視点で見れば、戦術レベルであっても自衛隊に抵抗する知識を持つ人々は、これ以上知識が広がる前に抹殺しなければならない。
これを防ぐことが出来なければ、今後の自衛隊の活動に悪い影響が生じ、ひいては日本国の国家戦略が覆る遠因になりかねないからである。
ある意味で、そこまで発想が及ばなかったことは、託狼にとっては幸運だったかもしれない。
自分の責任で、自分の親しい人々は全員がどこまでも追いかけられて殺されなければならなくなったと理解する事は、余りにも辛すぎる。
「前方!魔法!」
一方的な虐殺の最中、警告の叫びが上がる。
慌てて一部の陸士たちが退避し、直後にその路地の入口に火球が飛び込む。
着弾箇所が一瞬で炎に包まれる。
慌てて一部の陸士たちが退避し、直後にその路地の入口に火球が飛び込む。
着弾箇所が一瞬で炎に包まれる。
「熱い!畜生!!」
悲鳴が聞こえるが、絶叫は聞こえない。
火が届かない路地の奥まで一気に駆けていったのだろう。
その様子に安堵しつつ、彼らを率いていた陸曹は応射を命じる。
火が届かない路地の奥まで一気に駆けていったのだろう。
その様子に安堵しつつ、彼らを率いていた陸曹は応射を命じる。
「撃ち返せ!」
視界に入る全ての開口部へ向けて、出来る限りの弾幕が放たれた。
次弾発射に時間がかかっているのか、運良く射手を始末したのか、あるいは釘付けにしているのか。
どれかはわからないが、とにかく反撃はやってこない。
もう少し前に出て探るか。
先頭を任されていた三等陸曹は決断した。
次弾発射に時間がかかっているのか、運良く射手を始末したのか、あるいは釘付けにしているのか。
どれかはわからないが、とにかく反撃はやってこない。
もう少し前に出て探るか。
先頭を任されていた三等陸曹は決断した。
「一斑前へ!」
小銃を掲げ、部下たちを率いて慎重に前進する。
「無反動砲!前方の三階建ビル、二階の左端!」
細かい接続語など無視し、必要最低限の情報だけを伝える。
実戦経験豊富な彼らにはそれで十分だった。
すぐさま無反動砲を抱えた隊員が目標に狙いをつけ、発射体制を整える。
実戦経験豊富な彼らにはそれで十分だった。
すぐさま無反動砲を抱えた隊員が目標に狙いをつけ、発射体制を整える。
「撃ちます!」
念のための宣言だけを行い、射手は素早く目標へとロケット弾を撃ち込む。
目標は指示された窓の直ぐ右隣の壁。
主力戦車に致命的な損傷を負わせることのできる弾頭は、一撃で石壁を粉砕した。
砕かれた壁は致命的な殺傷能力を持つ石の散弾となり、超高温の爆風と共に室内の全てへ襲いかかる。
爆発音、そして絶叫。
先程まで元気よく魔法と矢を吐き出していた敵拠点は、黒煙と悲鳴を吐き出すだけの墓所へと変わり果てた。
目標は指示された窓の直ぐ右隣の壁。
主力戦車に致命的な損傷を負わせることのできる弾頭は、一撃で石壁を粉砕した。
砕かれた壁は致命的な殺傷能力を持つ石の散弾となり、超高温の爆風と共に室内の全てへ襲いかかる。
爆発音、そして絶叫。
先程まで元気よく魔法と矢を吐き出していた敵拠点は、黒煙と悲鳴を吐き出すだけの墓所へと変わり果てた。
「一斑前進、二班は後方警戒」
火力で敵の抵抗を吹き飛ばしつつ、自衛官たちは前進を継続する。
それから十分後、死体を量産し、瓦礫を乗り越え、彼らは到着した。
それから十分後、死体を量産し、瓦礫を乗り越え、彼らは到着した。
西暦2021年4月14日 13:09 城塞都市ダルコニア 帝国駐留軍本営前
「撃てぇ!」
号令が響きわたり、それに続く無数の銃声と悲鳴が状況を説明する。
目標の人物がいる可能性が高いためにあえて砲撃が行われなかったそこは、陸上自衛隊の屠殺場となっていた。
もちろん殺されているのは家畜ではなく、絶望的な抵抗を続けるグレザール帝国軍将兵たちだったが。
目標の人物がいる可能性が高いためにあえて砲撃が行われなかったそこは、陸上自衛隊の屠殺場となっていた。
もちろん殺されているのは家畜ではなく、絶望的な抵抗を続けるグレザール帝国軍将兵たちだったが。
「随分と抵抗しますね」
魔法や弓矢による狙撃に備えて倒壊した家屋を臨時の指揮所にしたそこで、二曹は冷静に感想を漏らした。
抵抗とはもちろん相対的な表現であり、攻撃を受ける帝国軍からすれば精鋭の誇りを掛けた最後の突撃である。
だが、魔法の加護を受けることができず、さらにあとに続く増援も存在しない中での突撃は、自棄になったバンザイアタックと同義語だ。
抵抗とはもちろん相対的な表現であり、攻撃を受ける帝国軍からすれば精鋭の誇りを掛けた最後の突撃である。
だが、魔法の加護を受けることができず、さらにあとに続く増援も存在しない中での突撃は、自棄になったバンザイアタックと同義語だ。
「厄介なことだ。まあ、内部を掃討する手間が省けてありがたいわけだが」
今しばらくは兵士として銃を放つという幸運を味わえる佐藤は、次から次へと押し寄せる敵兵たちをへ弾丸を送り込み続けている。
「左!小隊規模!」
陸士長が声を張り上げ、弾薬を装填して待機していた一個戦闘班が素早く目標を捉える。
狙いをつけ、引き金を絞り、掃討完了。
本来であれば英雄譚に残されかねない激烈な戦闘が繰り広げられる予定だったそこは、やはり屠殺場以上ではない。
練度も戦意も覚悟も、おまけに経験も装備も補給も十分な陸上自衛官の前で突撃を行う事は、あまりにも無謀すぎた。
現代人の入れ知恵を受けた、この世界では最強の軍隊。
それを相手にするに当たり、自衛官たちに手抜かりがあるはずがなかった。
自動小銃は当たり前として、軽機関銃、重機関銃、対物狙撃銃、無反動砲、各種手榴弾、火炎放射器、豊富な予備弾薬。
佐藤は過剰な戦力を用意していた。
軽やかな、重苦しい、轟音を立てて、様々な発砲音を奏でつつ、自衛官たちはゆっくりと進んでいく。
その姿に隙はない。
分散すればなぎ払われ、固まれば叩き潰され、隠れれば吹き飛ばされ、逃げ込めば焼き尽くされる。
グレザール帝国軍の精鋭たる白銀の騎士団が無様に潰走を始めたとしても、責めることが出来る人物は存在しない。
彼我の戦闘能力は、あまりにも差異がありすぎたのだ。
狙いをつけ、引き金を絞り、掃討完了。
本来であれば英雄譚に残されかねない激烈な戦闘が繰り広げられる予定だったそこは、やはり屠殺場以上ではない。
練度も戦意も覚悟も、おまけに経験も装備も補給も十分な陸上自衛官の前で突撃を行う事は、あまりにも無謀すぎた。
現代人の入れ知恵を受けた、この世界では最強の軍隊。
それを相手にするに当たり、自衛官たちに手抜かりがあるはずがなかった。
自動小銃は当たり前として、軽機関銃、重機関銃、対物狙撃銃、無反動砲、各種手榴弾、火炎放射器、豊富な予備弾薬。
佐藤は過剰な戦力を用意していた。
軽やかな、重苦しい、轟音を立てて、様々な発砲音を奏でつつ、自衛官たちはゆっくりと進んでいく。
その姿に隙はない。
分散すればなぎ払われ、固まれば叩き潰され、隠れれば吹き飛ばされ、逃げ込めば焼き尽くされる。
グレザール帝国軍の精鋭たる白銀の騎士団が無様に潰走を始めたとしても、責めることが出来る人物は存在しない。
彼我の戦闘能力は、あまりにも差異がありすぎたのだ。
「後を追うぞ!火炎放射器前へ!頭上に注意!」
もちろん、漫画に出てくるような雑兵ではない自衛官たちに油断の二文字はない。
次々と建造物内に逃げ込んでいく兵士たちに慌てて駆け寄るような醜態を晒すはずがないのだ。
超高温の燃え盛る燃料が開口部に投げつけられ、案の定待ち受けていたらしい敵兵たちの絶叫が聞こえてくる。
しかし、その絶叫も長くは持たない。
次々と建造物内に逃げ込んでいく兵士たちに慌てて駆け寄るような醜態を晒すはずがないのだ。
超高温の燃え盛る燃料が開口部に投げつけられ、案の定待ち受けていたらしい敵兵たちの絶叫が聞こえてくる。
しかし、その絶叫も長くは持たない。
「いい加減終わらせるぞ。
第二小隊前へ!第三小隊も遅れるな!」
第二小隊前へ!第三小隊も遅れるな!」
佐藤の命令に急かされるように、次々と自衛隊員たちは前進していく。
砲爆撃が収まった今、彼らを守るのは同僚たちの放つ弾幕だけである。
砲爆撃が収まった今、彼らを守るのは同僚たちの放つ弾幕だけである。
「市内に展開しつつある各隊は目標を発見できず。捜索を継続します」
戦闘団本部との通信を受け持つ隊員が報告する。
佐藤が最前線に出てきてしまっている関係で最前線に連れ込まれた彼は、その現実に何の不満も持っていなかった。
実戦経験の多さが物を言うようになりつつある陸上自衛隊内部において、特に非戦闘要員の実戦経験者の発言力は大きい。
今までずっと安全な指揮所で仕事をする事に不満を持っていた彼は、持てる全能力をもって作戦に貢献するつもりだった。
佐藤が最前線に出てきてしまっている関係で最前線に連れ込まれた彼は、その現実に何の不満も持っていなかった。
実戦経験の多さが物を言うようになりつつある陸上自衛隊内部において、特に非戦闘要員の実戦経験者の発言力は大きい。
今までずっと安全な指揮所で仕事をする事に不満を持っていた彼は、持てる全能力をもって作戦に貢献するつもりだった。
「無理はさせるな。こちらの負傷者と殉職者の回収を忘れるな。
状況が難しければ、それだけで撤退して構わないと再度伝えろ」
状況が難しければ、それだけで撤退して構わないと再度伝えろ」
今の佐藤にとって最も大切な事は作戦目標の達成であり、次点は部下たちをできるだけ五体満足で連れ帰ることだ。
特に今回、現代日本の様々な情報漏洩を行っている日本国民の抹殺は、自分も含めた全員の命をすり潰すだけの価値があると認識している。
しかしながら、街を完全に包囲している以上、無理をする必要はない。
包囲体制を維持しつつ、重要な拠点を一つづつ潰していけば良い。
特に今回、現代日本の様々な情報漏洩を行っている日本国民の抹殺は、自分も含めた全員の命をすり潰すだけの価値があると認識している。
しかしながら、街を完全に包囲している以上、無理をする必要はない。
包囲体制を維持しつつ、重要な拠点を一つづつ潰していけば良い。
「何とかあれ以上の損害なしに目標地点に到達できたな。
突入するぞ」
突入するぞ」
装具を再点検しつつ佐藤は二曹に命じる。
城塞都市ダルコニアに置かれたグレザール帝国軍本営に突入するまでに、佐藤は一機のUH-60Jと二個普通科小隊を喪っている。
いくらでも損害は受け入れるつもりではあるが、出ないことに越したことはない。
彼は、今回の作戦における統合幕僚長と同じ認識を持っていた。
城塞都市ダルコニアに置かれたグレザール帝国軍本営に突入するまでに、佐藤は一機のUH-60Jと二個普通科小隊を喪っている。
いくらでも損害は受け入れるつもりではあるが、出ないことに越したことはない。
彼は、今回の作戦における統合幕僚長と同じ認識を持っていた。
「突入する。先鋒は第二小隊か?確認なしで皆殺しにしていいから、怪我人を出すなよ」
日本国に関するものを含め、地球の様々な情報を漏らそうとしている相手に、佐藤は遠慮する必要を認めていなかった。
作戦立案当初より民間人を含めた一切の殺害を許可されていたということもあるが、とにかく今の彼に遠慮はない。
ヘリを撃墜し、普通科小隊に対抗する手段を知っているような相手を生かしておいてはいけないのだ。
作戦立案当初より民間人を含めた一切の殺害を許可されていたということもあるが、とにかく今の彼に遠慮はない。
ヘリを撃墜し、普通科小隊に対抗する手段を知っているような相手を生かしておいてはいけないのだ。
「有り難くあります。第二小隊は突入準備を完了しました」
防毒面、いわゆるガスマスクを装着した小隊長が報告する。
彼の背後には警察から借りた擲弾発射器を装備した隊員たちが並んでいる。
彼の背後には警察から借りた擲弾発射器を装備した隊員たちが並んでいる。
「やれ」
佐藤の簡潔な命令に従い、複数のガス弾が発射される。
敵の抵抗が皆無なだけあり、その尽くが屋内に飛び込んでいく。
敵の抵抗が皆無なだけあり、その尽くが屋内に飛び込んでいく。
「掃射の後に突入。
突入後は誤射に注意だ」
突入後は誤射に注意だ」
開口部からは猛烈な催涙ガスが吹き出しており、内部からは悲鳴のような声が聞こえる。
軽機関銃が一斉に発砲を開始し、全ての入り口や窓に向けて無数の銃弾が叩き込まれる。
軽機関銃が一斉に発砲を開始し、全ての入り口や窓に向けて無数の銃弾が叩き込まれる。
「突入」
その光景を満足そうに眺めつつ、佐藤は襟元のマイクに向けて小さく命じた。
陸上自衛官というよりは英国特殊空挺部隊に見える彼らは、無言で突入を開始した。
陸上自衛官というよりは英国特殊空挺部隊に見える彼らは、無言で突入を開始した。
西暦2021年4月14日 13:15 城塞都市ダルコニア 帝国駐留軍本営
<<オメガ3一名発見>>
また不運な敵兵が出現した。
激しく咳き込みつつ、よろめくようにして廊下へ出てくる。
傍らを進む隊員が短く宣告し、引き金を引く。
マズルフラッシュ、発砲音。
敵兵が蹴飛ばされたかのような勢いで横飛びに床へと投げ出され、それきり動かない。
頭に二発も5.56mmを喰らい、頭の中身が飛び出してしまえばゾンビでも助からないだろう。
激しく咳き込みつつ、よろめくようにして廊下へ出てくる。
傍らを進む隊員が短く宣告し、引き金を引く。
マズルフラッシュ、発砲音。
敵兵が蹴飛ばされたかのような勢いで横飛びに床へと投げ出され、それきり動かない。
頭に二発も5.56mmを喰らい、頭の中身が飛び出してしまえばゾンビでも助からないだろう。
<<オメガ3、一名無力化>>
短く確認し、明らかな死亡を確認する。
傍らの隊員とハンドサインで会話し、今しがた敵兵が出てきた部屋を確認する。
傍らの隊員とハンドサインで会話し、今しがた敵兵が出てきた部屋を確認する。
「やめろ!」
「殺さないで!」
「殺さないで!」
室内には敵兵が二人いた。
どちらも目標人物とは体格からして明らかに異なる。
どちらも目標人物とは体格からして明らかに異なる。
「オメガ1、二名発見」
部下たちに報告しつつ、引き金を絞る。
しっかりと保持した小銃が腕の中で暴れ、同時に両手を前に突き出して助けを求めていた敵兵が座ったまま奇妙なダンスを踊る。
しっかりと保持した小銃が腕の中で暴れ、同時に両手を前に突き出して助けを求めていた敵兵が座ったまま奇妙なダンスを踊る。
「オメガ1、二名無力化」
至近距離から小銃弾をまともに喰らっても死なないような相手ではなくて助かった。
催涙ガスが充満しあちこちに死体が転がる敵司令部施設の中で、自衛官たちは適度な緊張感を維持しつつ全員が健在だった。
突入から五分、無力化した敵の数は二十三人。
こちらは銃火器を装備し、さらにガスマスクを着用し、おまけに屋内戦闘の実戦を何度もくぐり抜けたという経験まである。
あたりまえのことだが、こちらの損害はない。
催涙ガスが充満しあちこちに死体が転がる敵司令部施設の中で、自衛官たちは適度な緊張感を維持しつつ全員が健在だった。
突入から五分、無力化した敵の数は二十三人。
こちらは銃火器を装備し、さらにガスマスクを着用し、おまけに屋内戦闘の実戦を何度もくぐり抜けたという経験まである。
あたりまえのことだが、こちらの損害はない。
<<オメガ1より各員、目標は発見できたか?>>
突入部隊の指揮官は、既に四度の施設強襲を経験している中谷三尉だ。
催涙ガスで極めて劣悪な視界の中にあっても完璧に部下たちを統率することが出来る。
催涙ガスで極めて劣悪な視界の中にあっても完璧に部下たちを統率することが出来る。
「誰だ!?ゴホゴホ、誰か居るのか!?」
ガスの向こうに人影が見える。
敵だ。
敵だ。
<<オメガ4、一名無力化>>
中谷が行動するまでもなく、傍らを進む隊員が射殺する。
頭部に重大な損傷を負わせたことを確認し、速やかに前進に戻る。
頭部に重大な損傷を負わせたことを確認し、速やかに前進に戻る。
<<オメガ8、三名発見、無力化した>>
一体どれだけの人間がここに詰めていたのかはわからないが、未だに敵発見の報告は途絶えない。
施設の情報を事前に入手していたために手探りとまではいかないのは不幸中の幸いだが、目標を発見できなければ意味はない。
施設の情報を事前に入手していたために手探りとまではいかないのは不幸中の幸いだが、目標を発見できなければ意味はない。
<<オメガ9は三階へ突入成功、抵抗なし>>
予定より早く最上階まで到達できたが、それにしても目標はどこに隠れているのだ。
もしこの建物で発見できなければ、今度は全市を挙げての楽しいかくれんぼ大会を開催しなければならない。
その程度の任務であれば表の普通科に任せるだけだが、遥々第一基地から出張ってきた身としては、出来ればここで確保したいものだ。
もしこの建物で発見できなければ、今度は全市を挙げての楽しいかくれんぼ大会を開催しなければならない。
その程度の任務であれば表の普通科に任せるだけだが、遥々第一基地から出張ってきた身としては、出来ればここで確保したいものだ。
「報告します」
周囲を警戒しつつどうでもいい事を考えていると、一階の制圧を任せていた第一分隊長が駆けつけてきた。
無線で言ってこないという事は制圧は完了したのだろう。
無線で言ってこないという事は制圧は完了したのだろう。
「一階及び二階部分の制圧完了。
三階は現在も制圧中ですが、時間の問題です」
三階は現在も制圧中ですが、時間の問題です」
聞くまでもなく、目標は発見できていない。
付け焼刃ながらもこの世界の軍隊に自衛隊への対処法を提案できるような人物が相手である。
どう考えても逃げ場がなくなる上階へ逃げるとは考えがたい。
付け焼刃ながらもこの世界の軍隊に自衛隊への対処法を提案できるような人物が相手である。
どう考えても逃げ場がなくなる上階へ逃げるとは考えがたい。
「三階は望み薄だな、地階はどうだ?」
ここでもっとよく探せと怒鳴るのが物語では定番なのだろうと思考を脱線させつつ尋ねる。
「現在捜索中ですが、倉庫らしく小部屋が多いため時間がかかっています」
秘密の脱出路があると困った事になるのだが、どうしたものだろう。
ダメ押しでもう何発かガス弾を投下して燻り出してやるべきか。
ダメ押しでもう何発かガス弾を投下して燻り出してやるべきか。
<<オメガ11より報告、地下倉庫にて敵の抵抗に遭遇。
こいつら小麦粉みたいなものをまき散らしてやがる!撃つな!後退!>>
こいつら小麦粉みたいなものをまき散らしてやがる!撃つな!後退!>>
馬鹿な。
こちらの発砲を防ぐために粉塵爆発を起こしかねない状況を作ったのだろう。
だが、地下室で粉塵爆発など起こしたら、爆圧で死ねなくとも崩落で生き埋めになるぞ。
こちらの発砲を防ぐために粉塵爆発を起こしかねない状況を作ったのだろう。
だが、地下室で粉塵爆発など起こしたら、爆圧で死ねなくとも崩落で生き埋めになるぞ。
<<オメガ9より報告、三階部分の制圧完了。
目標は発見できず>>
目標は発見できず>>
これで決まりだな。
目標の人物は地下だ。
目標の人物は地下だ。
「オメガ1より各員、地下で爆発の可能性あり。
直ちに建物から退避せよ」
直ちに建物から退避せよ」
冗談ではない。
今回の売国奴は必ず排除しなければならない人物だとは聞いているが、銃が使えないような環境に部下を無策で送り込む訳にはいかない。
今回の売国奴は必ず排除しなければならない人物だとは聞いているが、銃が使えないような環境に部下を無策で送り込む訳にはいかない。
「我々も下がるぞ」
部下たちに撤退を命じつつ、叱責覚悟で外に連絡をとる。
相手は今回の作戦の現場指揮官を務める佐藤一等陸尉である。
相手は今回の作戦の現場指揮官を務める佐藤一等陸尉である。