ノービス王国暦139年豊潤の月六日 地図にない村 連合王国王立神聖騎士団第六大隊
そんな佐藤たちの攻撃を受ける敵軍は不運だった。
大軍同士の国家の命運を賭けた決戦でならまだしも、彼らは佐藤の部下たちに経験値を与えるためだけに攻撃を受け続けているのだ。
既に魔術師や弓兵は全滅し、彼らは戦友たちの死体を盾代わりに地面へと伏せていた。
だが、そんな彼らには空から訪れた重量物や火炎が飛び込む。
逃げようと立ち上がればたちまち光弾がそれを引き裂く。
「撃ぇ!」
「三尉!」
「攻撃を続行しろ!」
「右だ!!」
周囲からは敵の命令らしい声が聞こえてくるが、その姿は見えない。
あくまでも剣と槍、そして長弓と魔法による戦闘を行う彼らは、遮蔽物に身を隠す現代の戦闘での策敵手段を持っていないのだ。
まあ、狙い済ましたように味方を薙ぎ倒しているこの敵が、実は数十メートル先から攻撃を加えているというのは想定の範囲外であろう。
「シビル十人兵長戦死!」「オルラン二等騎士戦死!!」
次々と戦死の報告が入る中、驚くべきことに大隊長は生きていた。
「どうして気がつかなかったのだ!」
彼は傍らにいる軍師に怒鳴っていた。
甲冑を着けた死体を積み上げたこの陣地はそれなりの防御力を有しており、今のところ攻撃に耐えていた。
「どうもこうも、私は魔術師でもなんでもないのです。
それよりも、今はどうするかを考えるべきです。
あと、私は気づきましたよ。声をかけた途端に攻撃を受けたのです」
「言い訳はいい!どうするのだ!このままでは全滅だぞ!」
本隊は恐らく全滅、上空には竜の群れ、周囲からは謎の攻撃、頭上からは石材とファイヤーボールと矢の雨、頼るべき部下たちは死体の山。
大隊長の忍耐力は限界となっていた。
自然と傍らの剣へ手が伸び、そして全身に力が入る。
止める間もなく彼は立ち上がり、声を張り上げた。
「我こそは連合王国王立神聖騎士団第六大t」
所属部隊すら言い切る間もなく、彼は5.56mmNATO弾で上半身を蜂の巣にされて倒れた。
これまで無傷だった大隊長が目の前で惨殺されたのを見た部下たちは、悲鳴を上げて逃げ出し、その全員が射殺された。
西暦2020年1月16日 06:00 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点
「手向かう者は撃て!それ以外は拘束しろ!」
徹底した攻撃により、敵軍は戦闘能力を完全に喪失した。
きっかり0600時、自衛隊は攻撃を止め、敵軍へ降伏を勧告。
上位者を失っていた敵軍は、口々に降伏を申し出つつ地面へと伏せた。
「武器を棄てろ!地面に伏せて両手は頭の上!早くしろ!!」
小銃を構えた陸士たちが前進し、哀れな敵軍はようやくの事自分たちを攻撃してきた集団を発見できた。
完全に錯乱している者を除き、大半が大人しく指示に従った。
「やっと見つけたぞ!」「降伏など冗談ではない!!!」
もちろん諦めの悪いものというのは世の中に存在し、そんな彼らは誇りと共に肉体を撃ち砕かれた。
彼我の距離は未だに数メートルを残しており、そんな目と鼻の先で自動小銃相手にどうこうできるわけがなかった。
PAPAPAPAN!!!
銃声が鳴り響き、周囲に伏せていた不運な同僚を巻き込んで彼らは死んだ。
そして、戦闘は終了した。
「そこに固まれ!早くしろ!!」
ようやく周囲を明るくし始めた太陽によって、惨劇の後が照らし出された。
頭部がない者、手足を欠損している者、まだ息があるが、明らかに手遅れな者。
そこにはこの世の地獄が存在していた。
「殺さないでくれぇ!」「従う!従うから!!」
怯えきった敵兵たちは、全身を恐怖で震わせつつ地面へと伏せ、すぐさま拘束されていく。
一人くらいは胸元から短剣を抜いて抵抗するであろうと警戒していた隊員たちは、その素直さに驚きつつも拘束を継続した。
「こちらの死傷者はなし、敵軍は、ざっと見たところでは200名ほどではないかと思われます」
報告をまとめた三曹が佐藤へと報告する。
「ふむ、精神をやられたものは?」
「ショックで動けないものが何人かは。あとは死体で怯えているくらいですね」
「上出来だな。しかし、自分で殺しておいて怯えるとは妙な話しだと思わんか?」
「三尉殿、自分は貴方の考えがわかりません」
恐ろしいものを見る目で佐藤を見る三曹。
だが、佐藤はつまらない物を見るような視線でそれに答える。
「この世界に来てもう二回目の戦闘。わからんか?」
「上層部に期待されているということですか?」
「俺たちは上に嫌われているんだよ。間違いない」
「まさか、どうして?」
再び佐藤は三曹を見た。
今までは有能だと思っていたのだが、あくまでも通常業務に限った話だったのか?
「到着するなり戦闘を行ってしまった。
しかも知らなかったとはいえこちらの落ち度で。
そしてよりによって外務省に講和条約の締結という得点を与えてしまった」
「しかし、そもそも戦闘の許可は上から来たんですよ!」
「まあそうキレるな」
激昂した三曹を苦笑しつつ宥め、佐藤は部下たちへと視線を向けた。
耳元でささやき声が聞こえる。
「あいつ、動くよ。短剣を持ってる」
視線を向ける。声の正体については考えない。
地面に伏せた敵兵に部下が近づいていく。
見ると左手が懐にある。
「吉田一士下がれ!!!」
叫びつつ小銃を構える。
「三尉?」
不思議そうに一士が振り向き、そして敵兵が立ち上がった。
佐藤の発砲と敵兵が短剣を抜くのは同時だった。
だが、人間が腕を振り下ろすのと音速で飛来する銃弾の速度は同じではない。
頭部と左胸に着弾した敵兵は、そのまま回転しつつ地面へと倒れ、動かなくなる。
「なっ、なんだよこいつ!!」
吉田一士は怯えつつ死体から離れ、慌てて小銃を構える。
すぐさま周囲の陸士たちが戦闘態勢へと戻っていく。
「違う!俺は何もしない!」「やめてくれ!たくさんだぁ!!」
殺されると勘違いした敵兵たちが悲鳴を上げて命乞いを始める。
しかし、近くの陸士に詰め寄ろうとした不運な者を除いて攻撃はされない。
「全員伏せるんだ!絶対に動くな!動けば殺すぞ!!」
殺気だった陸曹たちが怒号を上げ、その恐ろしさに悲鳴を上げた敵兵たちは大人しく拘束されていった。
その後は特に問題もなく、敵兵たちは両手の自由を奪われて地面へと転がされた。
周辺では油断なく死体を調べる陸士たちがおり、そして上空では交代したらしい別の戦闘ヘリが旋回している。
「こちらエヴァーズマン、ロミオ64応答願います」
<<こちらロミオ64、感度良好だ>>
「作戦は成功です。塔周辺を確保しました」
<<了解した、外務省の連中を向かわせる>>
「・・・了解」
<<そう拗ねるな二尉。到着まで現地を死守しろ。昇進おめでとう、オワリ>>
一方的に通信は切れた。
「昇進おめでとうございます二尉殿」
三曹が声をかける。
だが、佐藤の表情は優れない。
生前贈与かなにかだな。
表情を曇らせたまま彼は考えた。
彼の父親はかつて、陸上自衛隊の一等陸佐を務めていた。
その交友関係は広く上に横に左に下にと、階級、所属を問わなかった。
そんな彼の父親は、一等陸佐昇進と共に陸上自衛隊の戦闘能力向上を最優先に考えた装備計画を実行させた。
戦車よりもその予備部品を、新型小銃よりも89式の改善を、新たな装備よりも継戦能力の向上を最優先させたのだ。
新型戦車開発は一時凍結され、いつの間にか財務省や官邸からの支援を取り付けつつ、彼の父はそれを続行した。
普通科に個人用通信機や暗視装置が配備され、それ以外の兵科にも恩恵が与えられた。弾薬庫や補給処は大いに拡張された。
弾薬の備蓄が増え、そこに大量の予備部品も詰まれた。
各駐屯地は施設が更新され、戦闘能力は新型兵器の採用を行った場合よりも遥かに向上した。
「あんな大暴れをした親父の息子が」
小声で佐藤は呟く。
そんな大暴れをした彼の父親は、成果と引き換えに自衛隊を去ることとなった。
あまりにも横紙破りをやりすぎ、その影響力を恐れた当時の上層部によって半ば強制的に退役させられたのだ。
その事態を予期し、そして全く反省しなかった父親は、その後はとある建設会社を開き、陣地を作りやすい国土開発という事業を開始した。
息子である彼は、気がすまない上層部のせめてもの嫌がらせとしてこんな目にあわされているのだ。
彼はそう考えている。
「しかし昇進は事実です二尉殿。
それで、どうしますか?」
「どうもこうもない、捕虜をあの塔から離せ。戦闘が始まった場合には邪魔になる。
外務省の連中が交渉のためにここに来るらしい。
半分は大休止、食事や喫煙も許可する。
残りは周辺警戒に当てろ。交代が終わったら死体を片付ける。
君も休め」
「了解・・・しました」
先に死体を埋葬するのが優先ではないか?という疑問を押し殺し、三曹は部下たちに命令を伝えた。
確かに、ほぼ休み無しでここまできたのだ。
少しは休憩を取らないと体が持たない。
三曹は瓦礫に座り、戦闘糧食を手にした。
「とはいえ、なぁ」
惨殺死体と泣き喚く捕虜、そして焼け爛れた瓦礫に囲まれて休め、といわれても困る。
しかし、何かが麻痺したらしい陸士たちは、次々に休憩を開始する。
何人かが嘔吐しているという事実が、まだ自分たちが理性を失っていない証拠なのかな?
そう思いつつ、三曹は普通に食事を開始している自分に驚いた。
そんな佐藤たちの攻撃を受ける敵軍は不運だった。
大軍同士の国家の命運を賭けた決戦でならまだしも、彼らは佐藤の部下たちに経験値を与えるためだけに攻撃を受け続けているのだ。
既に魔術師や弓兵は全滅し、彼らは戦友たちの死体を盾代わりに地面へと伏せていた。
だが、そんな彼らには空から訪れた重量物や火炎が飛び込む。
逃げようと立ち上がればたちまち光弾がそれを引き裂く。
「撃ぇ!」
「三尉!」
「攻撃を続行しろ!」
「右だ!!」
周囲からは敵の命令らしい声が聞こえてくるが、その姿は見えない。
あくまでも剣と槍、そして長弓と魔法による戦闘を行う彼らは、遮蔽物に身を隠す現代の戦闘での策敵手段を持っていないのだ。
まあ、狙い済ましたように味方を薙ぎ倒しているこの敵が、実は数十メートル先から攻撃を加えているというのは想定の範囲外であろう。
「シビル十人兵長戦死!」「オルラン二等騎士戦死!!」
次々と戦死の報告が入る中、驚くべきことに大隊長は生きていた。
「どうして気がつかなかったのだ!」
彼は傍らにいる軍師に怒鳴っていた。
甲冑を着けた死体を積み上げたこの陣地はそれなりの防御力を有しており、今のところ攻撃に耐えていた。
「どうもこうも、私は魔術師でもなんでもないのです。
それよりも、今はどうするかを考えるべきです。
あと、私は気づきましたよ。声をかけた途端に攻撃を受けたのです」
「言い訳はいい!どうするのだ!このままでは全滅だぞ!」
本隊は恐らく全滅、上空には竜の群れ、周囲からは謎の攻撃、頭上からは石材とファイヤーボールと矢の雨、頼るべき部下たちは死体の山。
大隊長の忍耐力は限界となっていた。
自然と傍らの剣へ手が伸び、そして全身に力が入る。
止める間もなく彼は立ち上がり、声を張り上げた。
「我こそは連合王国王立神聖騎士団第六大t」
所属部隊すら言い切る間もなく、彼は5.56mmNATO弾で上半身を蜂の巣にされて倒れた。
これまで無傷だった大隊長が目の前で惨殺されたのを見た部下たちは、悲鳴を上げて逃げ出し、その全員が射殺された。
西暦2020年1月16日 06:00 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点
「手向かう者は撃て!それ以外は拘束しろ!」
徹底した攻撃により、敵軍は戦闘能力を完全に喪失した。
きっかり0600時、自衛隊は攻撃を止め、敵軍へ降伏を勧告。
上位者を失っていた敵軍は、口々に降伏を申し出つつ地面へと伏せた。
「武器を棄てろ!地面に伏せて両手は頭の上!早くしろ!!」
小銃を構えた陸士たちが前進し、哀れな敵軍はようやくの事自分たちを攻撃してきた集団を発見できた。
完全に錯乱している者を除き、大半が大人しく指示に従った。
「やっと見つけたぞ!」「降伏など冗談ではない!!!」
もちろん諦めの悪いものというのは世の中に存在し、そんな彼らは誇りと共に肉体を撃ち砕かれた。
彼我の距離は未だに数メートルを残しており、そんな目と鼻の先で自動小銃相手にどうこうできるわけがなかった。
PAPAPAPAN!!!
銃声が鳴り響き、周囲に伏せていた不運な同僚を巻き込んで彼らは死んだ。
そして、戦闘は終了した。
「そこに固まれ!早くしろ!!」
ようやく周囲を明るくし始めた太陽によって、惨劇の後が照らし出された。
頭部がない者、手足を欠損している者、まだ息があるが、明らかに手遅れな者。
そこにはこの世の地獄が存在していた。
「殺さないでくれぇ!」「従う!従うから!!」
怯えきった敵兵たちは、全身を恐怖で震わせつつ地面へと伏せ、すぐさま拘束されていく。
一人くらいは胸元から短剣を抜いて抵抗するであろうと警戒していた隊員たちは、その素直さに驚きつつも拘束を継続した。
「こちらの死傷者はなし、敵軍は、ざっと見たところでは200名ほどではないかと思われます」
報告をまとめた三曹が佐藤へと報告する。
「ふむ、精神をやられたものは?」
「ショックで動けないものが何人かは。あとは死体で怯えているくらいですね」
「上出来だな。しかし、自分で殺しておいて怯えるとは妙な話しだと思わんか?」
「三尉殿、自分は貴方の考えがわかりません」
恐ろしいものを見る目で佐藤を見る三曹。
だが、佐藤はつまらない物を見るような視線でそれに答える。
「この世界に来てもう二回目の戦闘。わからんか?」
「上層部に期待されているということですか?」
「俺たちは上に嫌われているんだよ。間違いない」
「まさか、どうして?」
再び佐藤は三曹を見た。
今までは有能だと思っていたのだが、あくまでも通常業務に限った話だったのか?
「到着するなり戦闘を行ってしまった。
しかも知らなかったとはいえこちらの落ち度で。
そしてよりによって外務省に講和条約の締結という得点を与えてしまった」
「しかし、そもそも戦闘の許可は上から来たんですよ!」
「まあそうキレるな」
激昂した三曹を苦笑しつつ宥め、佐藤は部下たちへと視線を向けた。
耳元でささやき声が聞こえる。
「あいつ、動くよ。短剣を持ってる」
視線を向ける。声の正体については考えない。
地面に伏せた敵兵に部下が近づいていく。
見ると左手が懐にある。
「吉田一士下がれ!!!」
叫びつつ小銃を構える。
「三尉?」
不思議そうに一士が振り向き、そして敵兵が立ち上がった。
佐藤の発砲と敵兵が短剣を抜くのは同時だった。
だが、人間が腕を振り下ろすのと音速で飛来する銃弾の速度は同じではない。
頭部と左胸に着弾した敵兵は、そのまま回転しつつ地面へと倒れ、動かなくなる。
「なっ、なんだよこいつ!!」
吉田一士は怯えつつ死体から離れ、慌てて小銃を構える。
すぐさま周囲の陸士たちが戦闘態勢へと戻っていく。
「違う!俺は何もしない!」「やめてくれ!たくさんだぁ!!」
殺されると勘違いした敵兵たちが悲鳴を上げて命乞いを始める。
しかし、近くの陸士に詰め寄ろうとした不運な者を除いて攻撃はされない。
「全員伏せるんだ!絶対に動くな!動けば殺すぞ!!」
殺気だった陸曹たちが怒号を上げ、その恐ろしさに悲鳴を上げた敵兵たちは大人しく拘束されていった。
その後は特に問題もなく、敵兵たちは両手の自由を奪われて地面へと転がされた。
周辺では油断なく死体を調べる陸士たちがおり、そして上空では交代したらしい別の戦闘ヘリが旋回している。
「こちらエヴァーズマン、ロミオ64応答願います」
<<こちらロミオ64、感度良好だ>>
「作戦は成功です。塔周辺を確保しました」
<<了解した、外務省の連中を向かわせる>>
「・・・了解」
<<そう拗ねるな二尉。到着まで現地を死守しろ。昇進おめでとう、オワリ>>
一方的に通信は切れた。
「昇進おめでとうございます二尉殿」
三曹が声をかける。
だが、佐藤の表情は優れない。
生前贈与かなにかだな。
表情を曇らせたまま彼は考えた。
彼の父親はかつて、陸上自衛隊の一等陸佐を務めていた。
その交友関係は広く上に横に左に下にと、階級、所属を問わなかった。
そんな彼の父親は、一等陸佐昇進と共に陸上自衛隊の戦闘能力向上を最優先に考えた装備計画を実行させた。
戦車よりもその予備部品を、新型小銃よりも89式の改善を、新たな装備よりも継戦能力の向上を最優先させたのだ。
新型戦車開発は一時凍結され、いつの間にか財務省や官邸からの支援を取り付けつつ、彼の父はそれを続行した。
普通科に個人用通信機や暗視装置が配備され、それ以外の兵科にも恩恵が与えられた。弾薬庫や補給処は大いに拡張された。
弾薬の備蓄が増え、そこに大量の予備部品も詰まれた。
各駐屯地は施設が更新され、戦闘能力は新型兵器の採用を行った場合よりも遥かに向上した。
「あんな大暴れをした親父の息子が」
小声で佐藤は呟く。
そんな大暴れをした彼の父親は、成果と引き換えに自衛隊を去ることとなった。
あまりにも横紙破りをやりすぎ、その影響力を恐れた当時の上層部によって半ば強制的に退役させられたのだ。
その事態を予期し、そして全く反省しなかった父親は、その後はとある建設会社を開き、陣地を作りやすい国土開発という事業を開始した。
息子である彼は、気がすまない上層部のせめてもの嫌がらせとしてこんな目にあわされているのだ。
彼はそう考えている。
「しかし昇進は事実です二尉殿。
それで、どうしますか?」
「どうもこうもない、捕虜をあの塔から離せ。戦闘が始まった場合には邪魔になる。
外務省の連中が交渉のためにここに来るらしい。
半分は大休止、食事や喫煙も許可する。
残りは周辺警戒に当てろ。交代が終わったら死体を片付ける。
君も休め」
「了解・・・しました」
先に死体を埋葬するのが優先ではないか?という疑問を押し殺し、三曹は部下たちに命令を伝えた。
確かに、ほぼ休み無しでここまできたのだ。
少しは休憩を取らないと体が持たない。
三曹は瓦礫に座り、戦闘糧食を手にした。
「とはいえ、なぁ」
惨殺死体と泣き喚く捕虜、そして焼け爛れた瓦礫に囲まれて休め、といわれても困る。
しかし、何かが麻痺したらしい陸士たちは、次々に休憩を開始する。
何人かが嘔吐しているという事実が、まだ自分たちが理性を失っていない証拠なのかな?
そう思いつつ、三曹は普通に食事を開始している自分に驚いた。