自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月16日  09:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「遠路はるばるご苦労様です」  

未だ死臭の残る広場に、護衛に囲まれた外務省の人間たちが到着する。  
死体こそ残っていないが、周知に散らばる血痕が、そこで何があったかを知らせている。  

「いやいやどうも、相手は塔の中ですか?」  

このような場所でもスーツを着こなしている鈴木が尋ねる。  
どうやったのかは知らないが、そのYシャツにはきちんと糊が利いている。  

「そのようです。今のところ表に出てくる様子はありません。  
連合王国の捕虜はこちらです」  
「ああ、それは別にどうでもいいですよ。それでは早速交渉を始めますか」  

座り込んだ捕虜たちには欠片も興味を示さずに、鈴木は塔へと足を進めた。  
基地からやってきた護衛たちがその後ろに続き、一同は頭上に注意を払いつつ進んでいく。  

「三曹」  
「はっ」  
「攻撃の準備を整えろ」  
「はっ?」  

不思議そうに三曹が上官の顔を見る。  
佐藤は、戦闘中と同じ表情を浮かべて装填を確認していた。  

「友好関係を結びたいというのはこちら側の話だ。  
向こうもそのつもりだと誰が決めた?いいから準備を整えろ。何事もなければ良い訓練になったで終わる」  
「はっ、了解しました」  

佐藤の命令はすぐさま全員に達せられ、彼の小隊は遮蔽物の陰や開口部を狙える場所に展開した。  
それに気づかない護衛部隊ではなかったが、彼らには交渉終了まで鈴木を護らなければならないという任務があるため、自由な行動は出来ない。  
未だ実戦経験はないとはいえ、この護衛部隊を率いている二尉も状況は理解できていた。  
向こうから停戦交渉を持ちかけてきたわけではないのだ。  
  
「先方から見れば正体不明の武装集団、か。攻撃されないといいのですが」  
「す、鈴木さん、本当に大丈夫なのでしょうか?」  
「御国のためです、諦めて歩きなさい」  
「は、はぁ」  

鈴木が縁起でもない事を漏らし、そしてその言葉に通訳たちが怯える。  
それを横目に見つつ、護衛の一同は一同で、静かに戦闘準備を整えていく。  

「吉田二曹」  
「はい」  
「全員装填して安全装置を掛けろ。  
いざという時は外の連中と合同で逃げるぞ」  
「わかりました」  

小声で命令が伝えられ、護衛部隊は戦闘態勢を整えた。  

「横山さん、拡声器を貸してください」  
「どうぞ」  
  
それを知ってか知らずか、鈴木は部下から拡声器を受け取り、塔の上を見た。  


ノービス王国暦139年豊潤の月六日  忘れられた村  護民の塔屋上  

「動けるものはあとどれくらいだ?」  
「魔術師は全滅ですね。あと数日は休ませないと誰も動けません」  
「そうか」  

へたり込んだ魔術師を眺めつつ、族長が答える。  

「弓兵は?」  
「矢がありません。これはどうしようもありませんね。  
石材を投下するくらいしかないですね」  
「うーむ、食料も無いしな。それで、下の連中は何者なんだ?」  

眼下を見下ろし、瞬く間に連合王国を蹴散らした謎の軍勢を見る。  
こちらの攻撃を恐れているのか、その大半は瓦礫の影に隠れている。  

「あの慎重さが厄介だな。ん?」  

族長の視界の中で、謎の軍勢の一団が塔へと歩み寄ってくる。  
警戒している様子だが、こちらに攻撃を加えるつもりは無いようだ。  
と、その一団の中から身なりのよい男が歩み出て、こちらを見上げる。  

「あーあー本日は晴天なり。  
私たちは日本国外務省の人間です。  
ダークエルフならびにドワーフの皆様、聞こえますでしょうか?  
聞こえるようでしたら何か反応をお願いします」  


突然、凄まじい大音量が周囲に響き渡った。  
  
「なっ、なんだ!?あの男が喋っているのか!?」  
「族長!どうしますか!?」  

慌てふためいたダークエルフたちが剣を手に尋ねる。  
日ごろは沈着冷静をモットーとしている彼らだが、さすがに昨日は休まず戦闘を行っていたために精神力が限界に達しているのだ。  

「どうするね?」  

傍らにやってきたドワーフの族長が尋ねる。  
豊富な知識と優れた身体能力によって、昨夜は石材をひたすら取り外しては下へと投げ続けた彼らも、当然ながら疲れきっている。  

「やれといわれればもう少しは粘れるが、それでおしまいだぞ」  
「わかっていますよ。とりあえずは交渉するつもりです。向こうの要求から聞かないと。  
誰か!青旗を持て!」  

万国に通じる軍使・降伏の印を部下に持たせつつ、族長は先ほどの男の方へと歩き出した。  

「あちらさんが、そのつもりだといいのだがな」  

そんな族長の耳に、ドワーフ族長の呟きが聞こえた。  


西暦2020年1月16日  09:00  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一基地西方69km地点  

「聞こえますかー!  
私たちは話し合いをしたいと考えています。  
どうか代表者の方は応答をお願いしますー!」  

拡声器片手に鈴木は呼びかけを続けていた。  
周囲ではいよいよ戦闘態勢を隠さなくなった護衛部隊と、完全に怯えきった通訳たちがいる。  
  
「こちらはダークエルフ族長である!  
我々は対話を望んでいる!代表と護衛三名の入場を許す!  
同意するのならば他の者は塔から離れてもらいたい!!」  

頭上から応答が帰ってきた。  
まあ一人で入ってこいと言われないだけましかな。  
などと思いつつ鈴木は通訳と護衛部隊に下がるように命じる。  

「しかし、それでは貴方の安全が守れません」  

というもっともな反論も無く、護衛部隊は年配の陸曹と二人の一士を残して後退した。  

「やれやれ、もう少し心配してくれてもいいでしょうに」  

苦笑しつつ鈴木は呟き、そして扉へと歩み寄った。  
さすがに上から丸見えなだけあり、部隊の後退を確認すると、昨日は硬く閉ざされていた扉はあっさりと開いた。  
  
「さてそれでは、早速中へと入りましょう」  


塔の内部には、昨日の虐殺から避難してきたらしい難民たちがいた。  
当然といえば当然だが、その大半は女性と子供だ、あとは負傷者である。  

「だいぶ追い詰められているようですね」  
「そうですね、兵士以外で若い男がほとんどいません」  

前後を美形か2Dの兵士に挟まれつつ、一同は上階目指して移動していた。  
そのまま屋上へと通され、彼らはとりあえず運び出してきたらしい椅子へと座らされた。  

「私がダークエルフ族長、シルフィーヌだ。  
こちらはドワーフ族長、ドミトリー」  
「日本国外務省の鈴木と申します。  
後ろの三人は護衛です。  
さて、本日私たちがこちらに伺った理由ですが、なに、簡単な事です」  
「資源と引き換えに、生命の保証。といった所だな?」  

シルフィーヌに先手を打たれ、鈴木は一瞬唖然とした。  
だが、次の瞬間には愉快そうな笑みを浮かべて肯定した。  

「ええ、ええ、まさにその通りです。  
恐らく連合王国の方々とも同じような条約を結んでいたのでしょうが、我々のはそれよりも好条件であるとお約束しますよ」  
「対価の支払い、護衛部隊の駐屯、不可侵条約の締結、食料その他の供給?」  

淡々とシルフィーヌは鈴木の手札を言った。  

「まあそんなところですな。それでどうでしょうか?」  
「対価の支払いは質を理由に安く買い叩く事ができる。  
護衛部隊は本国の命令一つで虐殺部隊へいつでも変えられる。  
食料その他の供給は、我々に首輪をつけるための方法とも取れる」  

見事に考えていた事を言い当てられたが、鈴木は愉快そうな笑みを崩さなかった。    

「いやはや、頭の回転の速い方との会話はあれこれと説明する手間が出来て面倒ですな。  
ならばどうでしょうか?私たちの開拓民を受け入れてください。  
人質、というわけではありませんが、それならば皆さんとしても悩みは減るのでは?」  

自国民を人質にさせる?  
シルフィーユは鈴木の考えが読めなくなった。  
この世界では国民の定義が決まっている。  
三代以上昔からの自国民である一等市民、難民が市民権を得た二等市民、奴隷として連れて来られたが、有能なために労働者として登録されている三等市民  
そしてそれ以下の奴隷やただの難民が下等市民と分類されている。  
下等市民をわざわざ送り込んでくる事はないだろうから、恐らくは管理をする一等市民とその配下の二等市民、働くための三等市民。  
それをこちらに送り込んでくる?  

「それを理由に、護衛が増えるというのではないだろうな?」  
「お望みとあれば、護衛部隊は必要最小限に留めますよ?」  
「なるほど・・・・よかろう。ドミトリーはどうか?」  

会談中、沈黙を保っていたドワーフ族長は、無言で肯定した。  
その視線は護衛の三人に向けられている。  

「それはよかった!では早速条約締結と行きましょう。こちらの証文にサインをよろしいですかな?」  

万年筆と書類を取り出し、嬉しそうに鈴木が言う。  
キャップと苦戦しつつ二人がそこに署名し、会談は大した混乱も無く終了した。  

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