自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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匿名ユーザー

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某年 某月某日 土曜日

 4時に起床。朝食は……くさやだった。
玄米と味噌汁のみでは体が持たない。意を決して少しかじってみた。昏倒……はしなかったが悶絶した。
においだけでダウンした昨日よりは進歩したのだろうか。味は、味は悪くないのだが。

 魔法追尾誘導弾の試験は2日目。
8時、発射準備開始。地上ではテレメトリに異状は無い。どうでもいいが管制室が実にくさや臭い。
9時半、強風のため待機となり10時過ぎ、発射された。

 安全のため、離昇直後は慣性誘導で制御される。これは正解だった。
海上に出たところで誘導がセンサに切り替わった瞬間、テレメトリに大きな乱れが生じた。
通信途絶までの約5秒の間に、誘導装置の内部では進行方向変更のコマンドが連続して出されていたようだ。
結局、急激な方向転換で安定翼が破壊、そのまま自爆した。
当然、標的として魔石を取り付けられた海上の浮標には命中せず。船が出て回収してきた。

 誘導弾が飛翔する事によって、センサが検知していた場に大きな影響を与えたのだろうと思われる。
今回が誘導弾へセンサを搭載した初の実験なのだから、これだって貴重なデータだ。
考えてみれば、最も速い移動速度を持つ魔法生物だって300km/h以下なのだ。超音速の魔法世界など、
誰も見たことはあるまい。ましてや軽合金やら火薬やら、この世界に無いものばかりなのだから。
このままでは、とても実用にはならない。それに現在の誘導装置では弾頭を装備するスペースが無い。
 航空機に試作センサを搭載して行なわれた試験では、得られたデータに多くのノイズが含まれていた。
ジェットエンジンや周囲にある電子機器の影響を受けたものと見られていたのだが、どうやら
高速移動による影響も少なからずあったようである。
エンジンスタート時からデータが乱れていたようなので、速度以外の影響もあるのだろうけれど。
いずれにせよ、今日得られたデータも今後の研究開発の貴重な材料となるだろう。

 その後は後始末やデータの整理等で忙殺された。旅館に戻ったのは18時を回ってからだった。
明日は、予定では帰りの船に乗るまで観光でもする事になっていたが、そんな暢気な事はできまい。
きっと研究員たちと、時間の許す限りデータ分析か失敗の原因究明だろう。


某年 某月某日 日曜日

 4時前に目が覚める。
5時半に朝食。くさやではなかった。助かった。

 朝一で研究所に向かい、研究員たちと意見を交換する。
彼らの見解では、あのテレメトリデータの乱れはいわば「風切音」のようなものではないかという。
まずは素材による場の乱れからセンサを隔離しつつ、速度による場の乱れを拾い出す必要がある。
速度変化による影響を確認するため、木製羽布のグライダーに載せて試験したらどうかと提案してみた。
操縦して速度を変える事もできるし、機材を回収して再使用する事も可能だろう。
他にも意見が出たが、この提案を含めた各種意見を本土へ持ち帰って検討する事になった。
 とりあえず今後の方向性としては、さしあたっては速度が遅くセンサに影響の出にくいものに搭載しての
試験を推進する、という事になりそうである。

 会社でもらった資料には、地上に固定しての試験では協力者の魔法を探知する事に成功したとある。
この協力者というのはダークエルフのロキの事なのだろうか。あるいは他に協力者がいるのかもしれないが。
地上での試験では一定の成果が出ているのだから、今のシステムがもし実用化されるとしたら、
陸自の装備とか街中での不審者警戒用の装備とかになるのだろう。
 陸上、空中と来れば、今度は海上でのセンサ試験を行なう事になるのだろうか。
海上で魔法を探知できれば、例の隠蔽魔法を探知して先制攻撃を行なう事も可能になろう。

 15時半、本土に戻る研究員たちと共に「さざんか丸」に乗り込んだ。
向かいの寝台には行きの便でも見た人物。あれ、やっぱり公安か何かだろうな……
船内で摂った夕食はそれなりだったが、シャワーを浴びて着替えた所で愕然とした。服がくさや臭い。
帰ったら使わなかった服も洗濯だ。今度からは服の包みは厳重に密封する事にしよう。
明日、会社に戻ったら早速データの分析が始まるのだろう。忙しくなりそうである。


某年 某月某日 月曜日

 4時に起床、5時に朝食。
6時、東京港に到着した。服はまだ臭う。自宅までは鉄道を使いたいが
ラッシュアワーにこんな臭い服では周りの顰蹙を買いそうだし、会社でも同僚に迷惑である。
近くにコインランドリーがあったので飛び込んで、会社に来ていく服だけでも洗って乾かした。
上着には大枚はたいて、今や贅沢品となってしまった消臭スプレーを使う。
7時前、ラッシュが続く電車に乗って自宅に向かった。8時過ぎ、自宅に到着。配給キップが届いていた。
荷物から仕事道具を引っ張り出して自転車に飛び乗る。
そしてひたすら飛ばす。生乾きの服は体が冷える。風邪をひきそうだ。

 会社に着いたのが8時半、1時間半の遅刻だった。
回ってきた仕事は試験のデータ分析ではなかった。別の部署でプログラミングの手伝いをする。
データ分析は事情がよく分かっていない新人に任せられる仕事ではない、という事なのか。
昼食時に元ハッカーの社員、入江が話しかけてきた。去年、服役中のところを特別措置とやらで
出所してこの会社にやってきたのだそうだ。話をした印象では、なかなか気さくな性格のようだ。

 午後に入って、誘導弾の試験データ分析を行なっている会議室へ呼ばれた。
試験に立ち会った一人として何か意見を求められたので、新島での意見交換の所感を述べた上で
グライダーでの試験を提案して、ついでに装置に落下傘を付けて投下するアイデアも出してみた。
とにかく自然素材のみで実験設備を構成する事で、センサへのノイズを減らす事ができるのではないか、
というのが今の自分の考えである。この意見はどう扱われるのか、全く見当も付かない。

 帰宅一番、コインランドリーに行って服をまとめて洗濯した。
新島や港での洗濯代と合わせると、かなりの出費になってしまった。くさや恐るべし、である。
 家でキーボードに向かっていると、やはり日記を書くにはPCの方が良いと感じる。携帯端末では
どうしても感情が入りやすくなる。「あの日」以来この日記を書き続けているのは、その日起こった事を
書き綴る事で精神を落ち着かせる為である。捕獲されてからの2週間の精神状態は酷いものだったと思う。
たとえ戦場に放り込まれたとしても、この習慣だけは捨てたくない。


某年 某月某日 火曜日

 4時に起床、5時に朝食。夜明け前には目が覚める体質にでもなったらしい。
6時に家を出て会社へ向かう。会社の近くに差し掛かる頃には道が混み始めている。さすが東京だ。

 仕事は車載電算機の動作試験。保護回路の容量を大幅に引き上げた改良型である。
午後に入って、入江がやってきた。何事かと思ったら、プログラムにバグがあったので修正したいとの事。
一旦調整室に戻すのかと思ったら、その場でケーブルを繋いで10分もしない内に修正してしまった。
さすが元ハッカー、凄腕である。とはいえ試験は最初からやり直しで、明日に持ち越しとなってしまった。

 終業後、入江と夕食を食べに行く。この状況をどう思うかと鎌を掛けてみた。遠回しの会話を重ねた結果、
事情は知りたいが、こんなヒモ付きの身の上ではどうにもならない、という見解で双方が一致した。

 入江の場合、ネット上で流れていた噂を見て、軽い気持ちでハッキングを掛けてみたのだという。
その時には侵入できず、その数日後からは誰かに監視されていた。これは何かが動いていると思って
本気でハッキングを掛けて侵入してみたら、国による魔法研究の情報にぶち当たったのだそうだ。
 で、1週間後には逮捕されて起訴、すぐに裁判で判決を受けて服役。刑務所では刑務作業の他に
さまざまな能力テストを受けたり、得体の知れない人物たちとの面接もあったらしい。
服役中には恩赦だとか仮出所だとか、他の受刑者がいろいろな理由で出ていくのを見ているそうだ。

 食堂で見た夕方のニュースで、大陸で戦闘があったと報じていた。場所は暫定国境線のすぐ近く。
現在拡大中の農地に攻撃を仕掛けてきたのだそうだ。林の中から移動式カタパルトによる攻撃を受けて、
邦人に死傷者が出たらしい。自衛隊が反撃して敵勢力を撃退した。
対砲兵レーダーでも使ったか、それとも偵察ヘリあたりか。どうやら近いうちに掃討作戦がありそうだ。
 その次に報じられたニュースがまた変わっている。海竜の子供が釧路の海岸に迷い込んだ。
頭部に毛がある。早速、「毛生えクッシー」と呼ばれているそうだ。場所が微妙に違うだろうと思うのだが……

 入江との話が弾んで、帰ってきたのは暗くなってからだった。少し話しすぎたか。
まあ気軽に話せる相手が出来たのは良い事だ。試験部の同僚とも早くこれくらい打ち解けたいものだ。

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