西暦2020年1月21日 21:00 ゴルソン大陸 陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地
「石油の採掘は進んだのかね?」
「私に聞かれても困りますよ二尉殿」
数日前までは唸りをあげていた建設重機たちは、第一基地とこの駐屯地の中間地点にある毒の沼地へと転進していった。
代わりに到着した開拓団も、今ではこの駐屯地に馴染み、急に態度を軟化させたダークエルフたちと仲良くやっている。
自治体警察病院消防などなど、ありとあらゆる公的サービスを供給する事になった自衛隊員たちは、忙しくも平和な日々を送っていた。
ドワーフと共同して行われている資源調査にて、いくつかの鉄鉱石や石炭の鉱脈を発見されており、それは今や埋蔵量の調査へと進んでいる。
連合王国との戦争は上の人間が考えるべき事であり、貼り付けの守備隊となりつつある彼らには影響がなさそうな出来事となっている。
「ところで三曹、君に質問があるのだが」
「確か二尉殿も見えるんですよね?」
二人の話題は、ここ数日間小隊全員が訴えている事だった。
もともと、佐藤はこの世界での初の実戦から『小さな少女』や『可愛いドラゴン』などが見えてしまっている。
だが、誰もが信頼の置ける相手に冗談交じりに愚痴る程度であり、それはいいのだが、問題は全員が同じ症例を訴えていることだ。
精神疾患にしては症状が回るのが早い。
何らかの汚染源がこれを引き起こしているのか?とも考えられたが、衛生の検査を超えて進入してきているのではどうしようもない。
「二尉殿も、ってことは、とうとう君も?」
「・・・はい。私の89式、ちっちゃな大和撫子が見えます」
「奇遇だな、俺の場合は戦闘服を着た少女だ。
イージス艦も真っ青の照準能力を持ってる」
「私にも出来る、そうですよ」
89式に腰掛けた少女の訴えを聞いた三曹が答える。
筒先からはドラゴンが見える。
「精霊なのに現代用語が普通に伝わるのが興味深いな。
なあ、海や空の連中にもいるのか?」
<<万物の精霊という言葉の通り、需品には大体宿っています>>
「なるほどねぇ」
この駐屯地に移って以来、とうとう普通に会話できるようにすらなった。
<<ダークエルフさんたちの能力が関係しているかもしれません。
とはいえ、自分の権限ではそこまでしかわかりません>>
精霊のくせに自衛官みたいな奴だ。
いや、官品だからこいつも自衛官だな。
同僚に対して、くせに、っていうのは失礼だな。
「いざって言う時は頼むぞ」
<<了解していますよ二尉殿>>
その様子を見ながら、三曹は思った。
エルフ・ダークエルフ・ドワーフ、それに加えて89式の精霊。
望んでいた世界に来たというのに、俺がやることといったら書類仕事に部下の管理、そこに加えて実戦で生き残る事。
どうして普段の仕事よりむしろ大変な状態になっているのだ?
これじゃあ世界を楽しむことなど不可能じゃないか!
「三曹?」
「はっ!なんでしょうか?」
「だから、警戒を強化しておけ。どうにも嫌な感じがする。
なんとも言えないんだが、戦場だと、こういう感は大事にするべきだよな?」
「了解しました。警戒を強化します。弾薬の分配はどうしますか?」
「規定の量にしておけ、戦闘時のな」
「了解しました。直ちに実行します」
すぐさま三曹は陸士の群れに向けて突撃していった。
おや、あれは坂田陸士長か、あいつはいくつになっても女にちょっかいを出すのがやめられないな。
おお、人間って空飛べるんだなぁ。
さてさて、俺も仕事をするか。
嫌な予感は止まるどころかますます強まっていやがる。
西暦2020年1月22日 02:03 ゴルソン大陸毒の沼地周辺 石油試掘チーム拠点
いくつかの省庁と企業の合同で設けられたこの拠点は、陸上自衛隊の定数を満たした二個小隊によって守られていた。
しかし午前二時三分現在、この拠点は指揮系統を潰された四個分隊によって辛うじて生き延びていた。
「敵はどうか?」
頑丈なコンクリート製のトーチカに篭った陸士たちを見回し、年配の三曹が尋ねた。
傷一つなく、しかし疲れ切った陸士がそれに答える。
「第一小隊は指揮所をやられました。
西田三尉を含めて小隊指揮所は全滅、自分たちは無傷ですが弾薬がありません」
「第二小隊も同じだ」
苦々しい表情を浮かべた三曹が答える。
「弾薬庫を押さえられたのが痛いな。
なんとかならないか?」
「ダメですね。骨とデブとゾンビは銃弾が効きますが、悪霊はどうしようもありません」
この拠点に襲撃をかけてきた敵は四種類。
見るからに骨しかない化け物、いわゆるオークとかいうデブな存在。
腐った死体という他ないゾンビ、そして、一切の物理的攻撃が通じない悪霊。
「武器庫周辺は敵味方の悪霊が入り乱れてどうしようもありません。
私らじゃあ近寄るだけで魂を持っていかれます。
どの宗派でも構いませんから牧師なり坊さんなり連れてこないと皆殺しにされますよ」
悪霊には銃弾は通じない。
この事を理解するために、随分多くの人命が失われた。
「どうする?
どうすれば俺たちは生き残れるんだ?
死んでも逃げるなと言われた以上、俺たちはどこにも逃げられない。
一体どうすればいいんだ?」
<<聞こえるか?こちら第一基地第一分遣隊、誰でもいいか応答してくれ>>
携帯無線機に突然通信が入った。
珍しい、民間人も自衛官も含めて無線機を必要とする距離に生存者などいなかったはずだ。
何処に生き残りがいたんだ?
「石油の採掘は進んだのかね?」
「私に聞かれても困りますよ二尉殿」
数日前までは唸りをあげていた建設重機たちは、第一基地とこの駐屯地の中間地点にある毒の沼地へと転進していった。
代わりに到着した開拓団も、今ではこの駐屯地に馴染み、急に態度を軟化させたダークエルフたちと仲良くやっている。
自治体警察病院消防などなど、ありとあらゆる公的サービスを供給する事になった自衛隊員たちは、忙しくも平和な日々を送っていた。
ドワーフと共同して行われている資源調査にて、いくつかの鉄鉱石や石炭の鉱脈を発見されており、それは今や埋蔵量の調査へと進んでいる。
連合王国との戦争は上の人間が考えるべき事であり、貼り付けの守備隊となりつつある彼らには影響がなさそうな出来事となっている。
「ところで三曹、君に質問があるのだが」
「確か二尉殿も見えるんですよね?」
二人の話題は、ここ数日間小隊全員が訴えている事だった。
もともと、佐藤はこの世界での初の実戦から『小さな少女』や『可愛いドラゴン』などが見えてしまっている。
だが、誰もが信頼の置ける相手に冗談交じりに愚痴る程度であり、それはいいのだが、問題は全員が同じ症例を訴えていることだ。
精神疾患にしては症状が回るのが早い。
何らかの汚染源がこれを引き起こしているのか?とも考えられたが、衛生の検査を超えて進入してきているのではどうしようもない。
「二尉殿も、ってことは、とうとう君も?」
「・・・はい。私の89式、ちっちゃな大和撫子が見えます」
「奇遇だな、俺の場合は戦闘服を着た少女だ。
イージス艦も真っ青の照準能力を持ってる」
「私にも出来る、そうですよ」
89式に腰掛けた少女の訴えを聞いた三曹が答える。
筒先からはドラゴンが見える。
「精霊なのに現代用語が普通に伝わるのが興味深いな。
なあ、海や空の連中にもいるのか?」
<<万物の精霊という言葉の通り、需品には大体宿っています>>
「なるほどねぇ」
この駐屯地に移って以来、とうとう普通に会話できるようにすらなった。
<<ダークエルフさんたちの能力が関係しているかもしれません。
とはいえ、自分の権限ではそこまでしかわかりません>>
精霊のくせに自衛官みたいな奴だ。
いや、官品だからこいつも自衛官だな。
同僚に対して、くせに、っていうのは失礼だな。
「いざって言う時は頼むぞ」
<<了解していますよ二尉殿>>
その様子を見ながら、三曹は思った。
エルフ・ダークエルフ・ドワーフ、それに加えて89式の精霊。
望んでいた世界に来たというのに、俺がやることといったら書類仕事に部下の管理、そこに加えて実戦で生き残る事。
どうして普段の仕事よりむしろ大変な状態になっているのだ?
これじゃあ世界を楽しむことなど不可能じゃないか!
「三曹?」
「はっ!なんでしょうか?」
「だから、警戒を強化しておけ。どうにも嫌な感じがする。
なんとも言えないんだが、戦場だと、こういう感は大事にするべきだよな?」
「了解しました。警戒を強化します。弾薬の分配はどうしますか?」
「規定の量にしておけ、戦闘時のな」
「了解しました。直ちに実行します」
すぐさま三曹は陸士の群れに向けて突撃していった。
おや、あれは坂田陸士長か、あいつはいくつになっても女にちょっかいを出すのがやめられないな。
おお、人間って空飛べるんだなぁ。
さてさて、俺も仕事をするか。
嫌な予感は止まるどころかますます強まっていやがる。
西暦2020年1月22日 02:03 ゴルソン大陸毒の沼地周辺 石油試掘チーム拠点
いくつかの省庁と企業の合同で設けられたこの拠点は、陸上自衛隊の定数を満たした二個小隊によって守られていた。
しかし午前二時三分現在、この拠点は指揮系統を潰された四個分隊によって辛うじて生き延びていた。
「敵はどうか?」
頑丈なコンクリート製のトーチカに篭った陸士たちを見回し、年配の三曹が尋ねた。
傷一つなく、しかし疲れ切った陸士がそれに答える。
「第一小隊は指揮所をやられました。
西田三尉を含めて小隊指揮所は全滅、自分たちは無傷ですが弾薬がありません」
「第二小隊も同じだ」
苦々しい表情を浮かべた三曹が答える。
「弾薬庫を押さえられたのが痛いな。
なんとかならないか?」
「ダメですね。骨とデブとゾンビは銃弾が効きますが、悪霊はどうしようもありません」
この拠点に襲撃をかけてきた敵は四種類。
見るからに骨しかない化け物、いわゆるオークとかいうデブな存在。
腐った死体という他ないゾンビ、そして、一切の物理的攻撃が通じない悪霊。
「武器庫周辺は敵味方の悪霊が入り乱れてどうしようもありません。
私らじゃあ近寄るだけで魂を持っていかれます。
どの宗派でも構いませんから牧師なり坊さんなり連れてこないと皆殺しにされますよ」
悪霊には銃弾は通じない。
この事を理解するために、随分多くの人命が失われた。
「どうする?
どうすれば俺たちは生き残れるんだ?
死んでも逃げるなと言われた以上、俺たちはどこにも逃げられない。
一体どうすればいいんだ?」
<<聞こえるか?こちら第一基地第一分遣隊、誰でもいいか応答してくれ>>
携帯無線機に突然通信が入った。
珍しい、民間人も自衛官も含めて無線機を必要とする距離に生存者などいなかったはずだ。
何処に生き残りがいたんだ?