自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年1月22日  02:04  ゴルソン大陸毒の沼地周辺  石油試掘チーム拠点  

「こちら第二分遣隊、第一小隊か?第二か?どっちの生き残りだ?」  
<<さっきも言っただろう、こちらは第一分遣隊、佐藤二尉だ。君は誰だ?>>  

第一分遣隊ってことは、この先の新設の駐屯地の連中か。  
それより、第一基地は何をやっているんだ?  
このまま見殺しにする気なのか?  

「失礼しました。自分は第二分遣隊第一小隊の杉田三曹です」  
<<状況を報告しろ>>  
「現在我々は未知の敵に攻撃を受けています。  
分遣隊指揮所は壊滅、最先任の自分が残存兵力の指揮を取っています」  
<<敵は何だ?北朝鮮か何かか?>>  
「いえ、その、信じてください。ゾンビや骸骨や悪霊です」  

勇気を出して伝えた三曹の報告は、彼にとっては信じがたい事にあっさりと受け入れられた。  

<<そうか、まさかとは思うが、悪霊は銃弾が効かないとかはあるか?>>  

無線機を握り締めたまま、三曹は沈黙した。  
あっさりと信じてくれるのか?  
この佐藤二尉殿ってのは一体何を経験してきたのだ?  

「効きません。向こうの攻撃は無条件に効くのに、こっちのはまるで通じません!」  
<<そうか、距離を開けて逃げろ。間もなくそちらへ到着する。なんとしても生き延びろ!>>  
「り、りょうかい!オワリ!」  

悲鳴のような返事をし、三曹は通信を切った。  
何を使ってこちらに向かっているのかは知らないが、増援がきてくれれば少しは生き残る可能性も上がるだろう。  
せめて。  
彼は、寝巻きのままトーチカの端で震えている民間人たちを見た。  
せめて、彼らだけでも生きて逃がそう。  
それが俺たちの仕事だ。  

「バリケードを解く準備をしろ!  
管理棟まで移動するぞ!」  
「無茶ですよ三曹!悪霊に見つかったらおしまいです!!」  

ドアに小銃を向けたままの陸士が叫ぶ。  
上官も戦友も短時間で失ってしまった彼は、自制心や理性も失っていた。  
目は血走り、その両手は恐怖に震えている。  

「黙れ!俺の命令が聞けないのか!?」  
「どうするんだっていうんだ!ここを出たら絶対殺されるぞ!!」  

悪霊すら逃げ出すであろう三曹の怒号に、陸士は敬意を捨てた態度で応じた。  
周囲の陸士や民間人たちは不安に満ちた表情でそのやり取りを見た。  

「ならいい、今この場で貴様を殺してやる」  

三曹はいきなり無表情になり、89式小銃を構えた。  
安全装置を解除し、陸士の頭部に照準する。  

「なっ、さささ三曹!?」  

あまりの事に銃を構える事すら忘れた陸士が悲鳴を上げる。  

「やめてください三曹!」「黙れ陸士長!彼を武装解除しろ!」「おい!抵抗するな!従え!」「三曹!!」  

三曹とにらみ合っている陸士はようやく気づいた。  
一番混乱しているのは、三曹だ。  
トーチカの中は悲鳴と怒号に満たされた。  


西暦2020年1月22日  02:09  ゴルソン大陸毒の沼地周辺  石油試掘チーム拠点  

爆音とライトで静寂を破壊しつつ、トラックの集団が拠点へと到着した。  
試掘拠点は、控えめに言って地獄だった。  
あちこちに敵味方の死体が転がり、どう見ても死体にしか見えないものや、明らかに骸骨なもの、あるいは空を飛び回る人影などがいた。  

「距離を詰めるなよ!撃てっ!」  

手早く展開を終えた事を確認した佐藤は、部下たちに射撃命令を下した。  
銃声が鳴り響き、そして彼の視界の中で敵やよくわからないものは次々と倒れていく。  

「シルフィーヌさん!あれはやはり!?」  
「ええ!悪霊です!」  
  
銃声に負けないように大声で尋ねた佐藤に、これまた大声でシルフィーヌは答えた。  
古来より、古戦場には動く死体や骸骨、悪霊が現れていた。  
本来ならばそれらを鎮める為の僧侶なり神父がいるはずなのだが、どうして彼らにはいないのだろうか?  
まあいい。  

「悪霊は任せてください!行くぞ皆の者!」  

ダークエルフたちが雄たけびを上げ、神聖魔法を詠唱しつつ勝手に駆け出す。  

「佐藤二尉っ!」  

三曹や陸士たちが抗議の声を上げるが、佐藤はそれを無視して敵集団を睨みつけた。  

「飛び回ってるのは彼女たちに任せる!まずは地上にいるのから蹴散らせ!!」  
「り、りょうかい!」  


どうしてダークエルフが神聖魔法を?という当然の疑問を持った三曹の動きが鈍くなる。  
だが、放たれた白い光が悪霊を消滅させたのを見ると、疑問を持つ気が失せた。  
餅は餅屋と割り切り、陸士たちに物理攻撃が通じそうな相手への射撃を命じる。  
頑丈なオーク、痛みを感じないゾンビ、そして死の世界から蘇った骸骨。  
物理的な攻撃が通じる彼らは、鉛の塊によって容赦なく打ち倒された。  

「一斑は管理棟を押さえろ!二班は生存者の捜索!残りは小隊指揮所を守れ!」  

トラックの前に仁王立ちしたまま佐藤は素早く指示を下す。  
散らばったダークエルフたちは、神聖魔法を唱えつつ悪霊を次々と消滅させている。  

「なんだよ、普通に勝てるじゃないか」  

拍子抜けしたように呟いた佐藤の視界に、迷彩服を着た一団が現れた。  
武器を持たず、ものによってはヘルメットを被っていない。  
腕がないもの、足を引きずるもの、首が垂れているもの。  

「う、うってぇ!あれも敵だ!!」  

明らかに狼狽した三曹が喚き、陸士たちは何も考えずに発砲した。  
視線の先にいるのは元味方だという事は誰もが理解していたが、ゾンビに躊躇していたらこちらが殺される。  
映画や小説、ゲームによって知識を得ていた彼らは、一歩たりとも近づけさせないための弾幕を張った。  
反撃も回避行動も取らずに進んでいたゾンビたちは、銃弾の嵐になすすべもなく破壊された。  
全身を砕かれるもの、両手両足をちぎり飛ばされ倒れるもの、頭部を破壊され、そのまま動かなくなるもの。  
良い方向に恐慌状態になった彼らの活躍で、それ以上の死者は出なかった。  


西暦2020年1月22日  02:39  ゴルソン大陸毒の沼地周辺  石油試掘チーム拠点  管理棟  

「残敵掃討は続いているが、ひとまずは安心して大丈夫だろう」  

時折銃声の聞こえる拠点の中心で、佐藤は椅子へと腰掛けた。  
彼の周囲には前進を続けた小隊指揮所があり、さらにその周辺には元々ここに駐屯していた第二分遣隊の生き残りが休息している。  

「それで?」  
「はい、不思議な事にこの管理棟内部へは敵の浸透は一切なかったとの事です」  
「いっさい?どういうことだ?施設の奪取が目的だったとでもいうのか?」  
「いえ、それはわかりませんが」  

困惑する三曹を横目に見つつ、周囲を見回す。  
疲れ切った第二分遣隊の一同、未だ怯えている民間人。  
人的損害もさることながら、こちらに与えた精神的な打撃はかなりのものだな。  
石油プラントにいるというのに煙草を加えた佐藤は、心の中で呟いた。  
この日ここにいた連中は、夜というものに恐怖感を持つことになるだろう。  
特に、護衛が役に立たなかった民間人たちは、踏みとどまって作業を続行しようという気はなくなるに違いない。  
やれやれ、ようやくの事石油が見つかったというのに、これでは先が思いやられるな。  

「佐藤二尉!」  

うんざりした気分で煙草に火をつけようとした佐藤に、通信機を背負った隊員が声をかけた。  

「なんだ?」  
「駐屯地より入電、敵集団が接近しつつあるとの事です!指示を求めています!」  
「連合王国か?」  
「はい、連中の国旗を確認したとの事です」  
「発砲を許可する、駐屯地に近づけさせるな。救援に向かう!全員を集めろ!!」  
「はっ、全員集まれ!駐屯地に移動するぞ!」  

連戦だというのに、佐藤の部下たちは文句一つなくトラックへ向けて走り出した。  
第一基地からあっさりと追い出された彼らにとって、今や駐屯地は自宅といえる存在なのだから無理もない。  
次々と隊員が荷台に飛び乗り、そして満員になった車輌から向きを変えていく。  

「佐藤二尉殿、自分たちも連れて行ってください」  

車輌に向けて歩き出した佐藤たちに、第二分遣隊の三曹が声をかけた。  
その後ろには生存者たちの集団がある。  

「名前は?車輌は持っているか?」  
「失礼しました。第二分遣隊第二小隊の長渕三曹です」  

非礼に気づいた長渕は、名乗りつつ敬礼をした。  
特にそれは気にせず、佐藤は簡単な答礼をして尋ねた。  

「長渕?第一小隊の杉田三曹はどうした?」  

杉田の名前を聞いた数名の陸士たちは、何故か表情を強張らせた。  
しかし、長渕は普通に沈痛な表情を浮かべ、口を開いた。  

「杉田三曹殉職のため、現在部隊の指揮を任されています。  
自分たちだけでは同程度の攻撃を受けた場合に抵抗しきれません。  
指揮下に入らせてください。  
この施設は一時的に放棄します。今の時点ではそれしかありません」  
「わかった、それで車輌は?」  
「73式大が二両、弾薬庫には武器弾薬も多数あります」  
「よし、こちらの一斑を預ける、少し融通してくれ。  
民間人から乗車させるように、三曹!」  
「はっ!直ぐに作業を開始します!長渕三曹、案内をお願いします」  
「こちらです」  


西暦2020年1月22日  03:15  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

「左の集団を狙え!!」  

監視塔の中で留守を任された沼田陸士長が怒鳴っている。  
視界一杯に広がる敵に向けて射撃を行っていた陸士たちが、その命令に従って左の集団へ射撃を集中させる。  
たちまち悲鳴と絶叫が響き渡り、突撃を開始していた騎馬隊は壊滅した。  

<監視塔!何が見える!?>  

繋げっ放しの有線電話から、トーチカを任された別の陸士長の怒鳴り声が聞こえる。  
撃退を確認した沼田は有線電話に向かって怒鳴った。  

「敵ばっかりだ!畜生!M2の弾薬がなくなっちまう!誰か持ってきてくれ!」  

視界の端にあるベストセラーの機関銃は、その能力を完璧に発揮したために射耗寸前となっていた。  
89式やMINIMIは未だ弾薬に余裕があったが、機関銃の分もそれらで撃つとなると、弾薬がなくなるのにそう時間は必要ない。  

<無茶言うな!この状態で掩体から出たら一分と持たない!89式持ってるだろ!それを使えよ!>  

当然の回答が帰ってくる。  
敵は山ほど弓兵を集めてきたらしく、撃っても撃っても矢の雨は降り止まない。  

「言ってみただけだ!向かって右!歩兵の集団が突撃の様子だぞ!」  
<弾がなくなっちまう!二尉はまだなのか!?>  
「こっちに戻ってきている!そのうち到着するはずだ!右!突撃始まったぞ!!」  

控えめに言って、現地は大混乱だった。  
土嚢と鉄板、防弾ガラスによって守られた監視塔は、高所にあるという利点を最大限に生かして状況を統制していたが、あいにくと敵の数が多すぎた。  
コンクリートと無数の小銃によって守られたトーチカも、弾薬庫まで補給に行けないという現状では先が見えている。  
困った事に、敵は頭上から雨のように矢を降らせる戦術を取っており、その数は膨大。  
そして、そこへ砲火を向けようにも、津波のように寄せてくる歩兵の大群に邪魔される。  
手持ちの弾薬を数えつつの防御戦闘は、早くも崩壊の兆しを見せていた。  


「かなり苦戦しているな」  

一方こちらは車輌部隊を率いて戦場へと急行している佐藤である。  
無線機からは弾薬の欠乏と支援を訴える通信が流れ続けており、困った事に、襲撃を受けているらしい第一基地からの通信も流れてくる。  

「これは、航空支援は無理だな」  

とうとう戦闘ヘリコプター中隊の出撃命令まで流れ出した無線機から離れ、佐藤は運転手に言った。  

「弾薬の分配を行う。  
先発は軽装甲と高機動車、トラックは負傷者と民間人を連れて後から合流しろ。  
迫は?」  

弾薬や人員のリストを眺めていた三曹が素早く答える。  

「迫撃砲の資格を持ったものが何人かいます。  
護衛をつけて臨時で迫撃砲班を作りましょう」  
「急げ」  

ヘッドライトで照らし出された大地を睨みつつ佐藤は思った。  
畜生、なんだってこんな全面攻勢が始まるんだ?  
何が起きてるんだ?  


西暦2020年1月22日  03:24  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第一分遣隊駐屯地  

遂に監視塔からの銃撃が止んだ。  
先ほどまでの凄まじい銃撃は、恐らく最後の弾薬を景気よくばら撒くためなのだろう。  
銃眼からの攻撃を指揮していた陸士長は、来るべき時が来たと覚悟した。  

「俺以外に二人、志願しろ。  
弾薬庫まで行って鍵を破壊、全員に配って回るぞ」  
「無茶ですよ陸士長!」  

故障した89式に着剣している一士が反論する。  

「なんだ?銃剣突撃する覚悟は出来ているのに、矢の雨の中を走る勇気がないのか?」  
「それとこれとは別です!現状であそこまで走れるわけがありません!」  
「ならお前は弾薬が来るまで待ってろ。俺が取ってくる。志願するものは?」  

だが、銃撃を行っている者以外は沈黙を保ったまま動こうとしない。  

「しょうがない、陸士長。私とあなたで行きましょう」  

諦めたように最年長の一士が立ち上がり、出口へと歩き出す。  

「じ、じぶんも行きます。死にたくないけど、どうせこのままじゃあ」  

暴走族崩れの18歳の一士が立ち上がり、やはり出口へと歩き出す。  

「人数増えれば、確立は上がりますよね」  

東大を卒業し、その後何故か陸士へと志願した24歳の一士が出口へと歩き出す。  


先ほどの沈黙がウソの様に志願者たちが現れ、そして出口の前で陸士長を待つ。  

「ほら陸士長、行きましょう。どうせ死ぬなら、少しでも格好はつけたいところですから」  

苦笑しつつ、最年長の一士が言う。  
陸士長は、感動を表に出さないように気をつけつつ、にこやかに言った。  

「よし、全員で駆け足だ。いいな、気合を入れろ。精神力でカバーだ」  
「時代錯誤も甚だしいけど、たまにはいいですよね、そういうの」  
「うるせー、行くぞお前ら!」  

陸士長が気合を入れ、陸士たちがそれに答える。  
佐藤の支援がそこに呼応した。  
突然夜空に照明弾の明かりが灯り、周囲に光を与えた。  
一発、二発、三発、そして爆発。  
敵味方の誰もが呆けたように光り輝く照明弾を見上げた直後、敵集団の中心で爆発が発生した。  
人が、土砂が、舞い上がり、悲鳴の連鎖が発生する。  

<待たせたな、迫の支援の後突撃する。車輌を撃つなよ>  


無線機から佐藤の声が流れ、クラクションと銃声を連打しながら車輌部隊が突撃してきた。  
突然の乱入者に敵の馬が悲鳴をあげ、そして人間たちも悲鳴を上げる。  
飛び込むロケット、降り注ぐ迫撃砲弾。  
そして爆発、倒れなかった不運な者たちは、狼狽したまま叩きつけられた銃弾によって切り裂かれる。  
また降り注ぐ迫撃砲弾。  
叩きつけられる銃弾。  
急に今までとは違う規模の攻撃で奇襲された敵軍は、完全に混乱していた。  
車輌部隊は敵に位置を認識する余裕を与えずに機動を続け、反時計回りに敵集団の後方へと回り込んだ。  

「二尉殿だ!来てくれたんだ!」  
「移動するぞ!今のうちだ!」  
  
力強い援軍に勇気付けられた陸士長たちは、敵の攻撃が止んだ隙に弾薬庫めがけて駆け出した。  
その隣では、別のトーチカからやはり飛び出した陸士たちがいる。  
見れば、監視塔からもやはり弾薬補給に飛び出した連中がいる。  

「これだけいるんだ、無理やりにでもドアを蹴倒して中身を持ち出すぞ!」  

先頭を走る陸士長は叫び、直後に痛ましいが幸運な現実を見た。  


「こりゃあ・・・今は考えないで運び出すぞ!かかれ!」  

彼の命令で陸士たちが弾薬庫の中へと飛び込んでいく。  
開かれた扉の横では、ワイヤーカッターや木槌を持ったまま絶命している陸士たちの姿がある。  
どこかの班で同じ事を考えた連中が、扉を開けたところでやられてしまったのだろう。  
もちろん陸士長は悔しかったが、眼前に迫る敵軍を排除するまで、悲しみや怒りといった贅沢な感情は諦める事にした。  
彼が複雑な心境をどうにか処理している間にも陸士たちは作業を続け、普段ではありえないほど乱雑に弾薬箱を運び出していく。  

「あるだけ持っていけ!受領書だの所属だのはどうでもいい!急げよ!」  

律儀にも整列しようとし始めた陸士たちを怒鳴りつけ、陸士長は手短な弾薬箱を無理やり開けた。  
すぐさま実弾を回収し、装填を行う。  
戦場に輸送する事を前提にしているため、弾倉に既に入れられている弾薬を入るだけポケットに詰め込む。  
周囲では、箱を掴んで駆け出すもの、慌てたあまり地面に中身をぶちまけるもの、陸士長と同じように、まずは自分用の弾薬を確保しているものなどがいる。  
その間にもエンジンの立てる頼もしい騒音と爆発音、敵の悲鳴は止まらない。  
弓兵が脅威であるとわかっているか、あるいは敵歩兵の足が止まったのか、現在の攻撃は敵の弓兵に対して行われているようだ。  

「よーし!掩体まで運ぶぞ!かけあーし!」  

弾薬箱を抱えて走り出した彼らの頭上を、鋼鉄の戦竜たちが通過していった。  

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