自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年3月26日  05:59  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地  第一基地から300km  

ようやく朝日が昇り始めた。  
周辺の防衛設備の建設も終わり、それ以外の施設の建造が始まった基地は、一日が始まろうとしていた。  
早朝から警備を始める部隊が整列し、不眠番が交代の準備を始める。  
糧食班では朝食の準備が始まり、民間人たちもそれぞれの仕事を始める準備を行っている。  
放送機材の前では、起床ラッパを流すための隊員が、テープレコーダーの準備をしていた。  

「10秒前、8,7,6,5,4」  
<空襲警報、空襲警報、民間人および非戦闘員はただちに防空壕へ退避せよ>  

彼が放送をしようとした瞬間、それよりも上位の回線が割り込み、基地中に警報が鳴り響いた。  
人々は立ち上がり、ある者は塹壕へ、またある者は防空壕へ向けて駆け出した。  
  
「状況は?」  

戦闘服を着込みつつ、佐藤が足早に戦闘指揮所に駆け込む。  

「反応が100以上、IFF反応なし、敵航空部隊と思われます。第一基地に通報中」  

「高射は?」  
「既に戦闘配置についています。しかし、空自のペトリが来る前に敵襲を受けるとは」  

悔しそうに三曹が答える。  
十分な量の弾薬と交換部品を揃えるために、空自の高射部隊は未だ第一基地で足止めを受けていた。  
とはいえ、航空支援があり、さらに高射特科が陣取るこの基地ならば、最悪でも全滅だけはないだろうと誰もが思っていた。  

「空自は防空戦闘を開始しました」  

高射特科から報告が入る。  
基地周辺部の防空を任されている彼らとは違い、空自は基地外周の広大な空域を担当している。  
スクランブルおよび第二派は、空中集合せずに各個で突入を開始したらしい、ありがたいことだ。  
とにかく今は、一体でも多くを事前に落としておく必要がある。  
何しろ、こちらはここから動けないのだ。  
それならば、敵は少なければ少ないほど被害が少なくなる。  
可能ならば、全滅させてほしいくらいだ。  

「短SAM、中SAMともに発射準備完了!」  
「87式も戦闘準備を完了しています」  
「我々の方はどうだ?」  

手際よく対空戦闘準備を完成させていく高射特科に負けずと、佐藤が尋ねる。  

「一応の対空戦闘準備はさせていますが、効果の方は疑問があります」  

所定の方針通りに各陣地へと据え付けられた12.7mm重機関銃は、高射特科の装備と比べれば貧弱の一言である。  
照準は手動と勘、対物と名づけられてはいるが、所詮は対人用の銃弾。  
これを防空に使用するのは難しい。  
だが、装甲目標や音速で駆け巡る航空機ではなく、生物に過ぎない敵に命中すれば十分すぎる威力を発揮するだろう。  
そう考えた佐藤は、この基地に元々配備されていたものに加えて第二基地から持ち出せるだけ持ち出してきていた。  
ここに加えて総勢一個中隊の普通科が放つ5.56mm弾も加われば、嫌がらせ以上の何かが期待できるかもしれない。  
もちろん、それだけではなく、この基地にかき集められた携帯地対空誘導弾も空を睨んでいるが、いかんせん数が少ない。  

「敵は空自との交戦に全力を注いでいるようです!今第二派が戦闘開始!凄い、一瞬で六機を撃墜しました!!」  

空自はかなり張り切っているらしい。  
ありがたいことだ。  



西暦2020年3月26日  06:03  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地から30km  

<<敵機の反応を探知、警戒せよ>>  

レーダーが、前方に数え切れない目標がいることを知らせる。  
敵は生物と聞いていたが、レーダーに反応するのであれば問題ない。  

<<メビウス1、交戦を許可する>>  

FCSの動作確認を行い、直ぐに最寄の二機にロックをかける。  
よろしい、ロックオンにも問題なし。  
既に交戦していた連中の話どおりだ。  
敵は低速で、ミサイルを持たず、レーダーにきちんと反応する。  
気を抜かなければ絶対に落とされない。  
そのとおりじゃないか。  

「メビウス1、FOX2!!」  

機体からミサイルが放たれるなんとも言えない感覚がし、次の瞬間には視界の中に放たれた空対空誘導弾が見える。  
後ろから白煙を吐き出しつつそれは加速し、あっという間に見えなくなる。  
減速をかけ、接触時間を少しでも遅らせる。  

<<撃墜確認、メビウス1が二機撃墜>>  
<<続けてFOX2!!>>  

僚機も誘導弾を発射したらしい。  
こちらも恐らく当たるだろう。  
FCSその他は順調に稼働中、次行くか。  

「メビウス1、FOX2!!」  


<<撃墜確認>>  

AWACSが冷静に戦果を伝えてくれる。  
アフターバーナーを吹かし、敵集団左に回りこみつつメビウス1は更なる目標をロックした。  
発射・申告・撃墜確認。  
僚機も同様である。  
さて。  
機銃の動作確認を行い、レーダーを確認する。  
敵は100以上。  
機関砲でどこまで落とせるか、腕の見せ所だな。  

<<増援部隊が接近中、ミサイル警報>>  

おっと、今回は俺たちだけじゃないものな。  
機体を離脱させつつ、彼は敵集団を睨んだ。  
ミサイルの次は機関砲だ、待ってろよ。  

<<撃墜多数!全弾命中を確認した>>  

AWACSから報告が入る。  
第二派もミサイル残弾は0。  
よし、格闘戦を始めるか。  
メビウス1はアフターバーナーを点火し、敵集団後方へと侵入した。  
素早く推力を最低まで落とす。  
だが、それでも双方の距離は縮まる一方。  

<<メビウス1、距離に気をつけろ、接近しすぎている>>  

AWACSから警告に、心の中でうるせぇと呟きつつ、彼はトリガーを引いた。  
知らぬものにとっては奇妙な音と振動が発生し、そして前方を飛行している敵が見えない壁にぶつかったかのように次々と墜落する。  
よしよし、いい命中率だ。  
失速寸前まで速度を落とした彼は、満足そうに表情を緩ませた。  
左右から攻撃を開始した同僚たちも、昇進できかねないほどの凄まじい撃墜スコアを達成しているようだ。  
ようやくこちらに気づいたらしい相手は、各個に戦闘機動に入りだした。  
低空に下りて旋回を始めるもの、そのままの高度で回避機動らしいものを取るもの、高度を稼ぎ始めたもの。  
バラバラに動き出した事は脅威だが、どれも呆れるほどに速度が低い。  
自衛隊機は続けざまに最寄の相手に攻撃を行い、たちまち10機以上が撃墜される。  
航空機に搭載されている機関砲は、並みの装甲車輌ならば装甲を貫通してしまうほどの破壊力を持っている。  
どう考えても装甲車輌以下の敵ならば、貫通してその周囲のものを巻き込んでしまって当然だ。  
素早く旋回し、敵集団に飛び込まないようにする。  
いかに低速とはいえ、この速度で激突すれば、墜落は逃れられない。  
日ごろの訓練に比べればGとも呼べない緩やかな感覚が全身を襲い、半径の小さい円を描いて再び射撃位置につく。  
およそジェット戦闘機を用いて行われているとは思えないこの暢気な戦闘は、メビウス1以外の残弾が全て0になるまで続けられた。  
もちろん敵は、未だ50機以上残っている。  


「おいおい、後は陸自さんに任せるしかないのかよ」  

翼を翻して撤退していく僚機たちの最後尾を守りつつ、彼はそう呟いた。  

<<メビウス1、敵大型機がそちらに向かっている。凄い早さだ、音速近くまで出ている。警戒せよ>>  

レーダーを見る、確かに一機、大型機らしい反応がこちらに向けて突き進んでいる。  

<<同じ高度で接近している!警戒せよ!全力で退避せよ!>>  

今までの淡々とした様子ではなく、急に元気になったAWACSの反応を無視し、彼は考えた。  
巨大な反応、異常な高速。  
こいつがボスキャラか、よし。  

「交戦許可を求めます」  
<<メビウス1、残弾と燃料は?>>  
「無駄弾を撃たなければやれます。燃料はおよそ5分の戦闘機動が可能。あいつがあのまま地上部隊と接敵するのは避けたいです」  
<<了解したメビウス1、ジェットエンジンの速さを奴に思い知らせてやれ>>  
「了解!」  

元気良く答え、彼は推力をいきなり全開にした。  
ゆるゆると流れていた雲が、その速度を急速に増す。  
エンジンが轟音を立て、機体が震える。  


「やってやるぜ!!」  

彼は景気づけに叫び、そしていきなり操縦桿を横に倒した。  
慣れているものでも顔を顰めるGがかかり、耐Gスーツが下半身を締め上げる。  
周囲の景色が視認する余裕もなく流れる。  
敵機と真正面に機首が向く。    
距離は1km。  
陸上の感覚で考えると相当な距離だが、音速で空を駆け巡る戦闘機から考えれば目の前だ。  
素早く位置を確認し、そのまま加速。  
一瞬の後に赤く、巨大な何かとすれ違う。  
なるほどなるほど、ドラゴンだな。  
上昇開始。  
横に見えていた山々が消え、視界は全て青空となる。  
エンジンは好調、相手はこっちに気を向けてくれるかな?  

<<メビウス1、敵はそちらに釣られた。警戒せよ>>  

上出来だ。  
わざわざすれ違うなどという挑発を行った価値はあったな。  

<<対空射撃警報、対空射撃警報、第三基地周辺では防空戦闘を実施中。接近はこれを禁ず>>  

見る見るうちに上がっていく高度を確認しつつ、彼はAWACSからの通信を聞いた。  
残り50機程度、速度はジェット機の半分以下、戦術機動らしいものは何も取らない。  
頼むから、無傷で全滅させてくれよ。  
陸上にいる同僚たちの事を思いつつ、彼は操縦桿を手前に引き続けた。  


高速で飛行するF-22Jは、彼の操縦に素直に従い、くるりと半円を描いて見せた。  
上下が反転した世界で、彼は素早く操縦桿を回し、機体を水平に戻す。  
再びアフターバーナーに点火、加速のGで全身を締め付けつつ、彼は敵機を飛び越した。  
高度を確認し、思いっきり操縦桿を倒す。  
凄まじいGが押し寄せ、一気に視界の端が黒くなった。  
機体は無茶な機動に抗議するように振動する。  
推力を絞り、操縦桿を倒し続ける。  
奇妙な浮遊感の後、頭に血が上り始める。  
水平計は、機体がまたもや逆さまになっていることを知らせた。  
逆さまな世界で、敵機が足元の大空へと上昇しているのが見える。  
くるりと機体を戻し、ロックオン。  
機関砲が唸りを上げ、敵機は視界の中で崩れ始めた。  
いかに巨大で、恐ろしい火炎を放とうとも、真後ろから機関砲の攻撃を受けたのではどうしようもない。  
メビウス1の視界の中で、敵機は背中に穴が開き、翼がもげ、さらにあちこちから肉片を飛ばしつつ地面へと落下していった。  

<<メビウス1、撃墜を確認した。陸自の防空戦闘は継続中。基地に帰還せよ>>  
「了解スカイアイ、これより帰還する」  

帰還のために旋回を実施しつつ、彼は落ちた敵機の事を一瞬だけ思った。  
恐らくアレは、伝説のドラゴン的存在だったのだろう。  
日本に手を出さなければ、そのまま生きていられただろうに。  
一瞬で眼下の景色は飛び去り、そして彼は機体を第一基地へと向かわせた。  
戦果的には十分すぎるが、燃料の面から考えると明らかに無駄なこの空戦は、後に日本にある方針を取らせる事になる。  



西暦2020年3月26日  06:10  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地  戦闘指揮所  

「敵集団なおも接近中!空自は帰還していきます!」  
「よし、では我々の仕事を始めよう」  

高射特科の指揮官は満足そうに頷き、直ちに中距離地対空誘導弾の発射を命じた。  
万が一の誤射に備えて発射待機を命じられていた彼らは、嬉々として対空戦闘を実施した。  
その様子は、基地の周囲から見ていた場合、次のようなものになる。  
まず、対空戦闘の基本を知らぬものにとっては実に不可思議な布陣の陣地から、多量のレーダーパルスが発信される。  
次に、その結果を受けた発射許可が全員に伝えられる。  
そして発射。  
基地各所から白煙が立ち上り、それを切り裂いて細長い何かが飛び出す。  
オレンジ色の炎を吹き出して、それらは大空の彼方に向けて一瞬で飛び去っていく。  
再び電波に乗った指令が発せられる。  
白煙、細長い何かが飛び出す。  
やがて、基地の遠方から連鎖した爆発音がかすかに響いてくる。  
普通科隊員たちが潜んでいる塹壕から歓声が上がる。  
再び連鎖した爆発音。歓声は大きくなる。  
その間にも白煙と飛び去る細長い物体は続々と大空へ向けて飛び出していく。  

6機の発射機から、合計36発の誘導弾が放たれるのに、さほど時間は必要なかった。  
幸運な事に、全ての地対空誘導弾はシーカーをきちんと作動させ、一機も脱落せずに目標へと命中した。  
高射特科の幹部たちから、満足げなため息が漏れる。  
残る敵機は24機、こちらにはまだ、短SAMや高射機関砲が残っている。  
もちろん、それ以上接近された場合には、携帯地対空誘導弾や普通科の罠が待ち受けている。  
なんとかなるな。  
誰からともなくそんな呟きが発せられ、そしてそれは全員に伝わった。  

「まだ敵は残っている、気を抜くなよ」  

高射特科の指揮官は部下たちを戒めると、レーダーを見た。  
次は短SAMの出番だ。  
全部撃墜してくれよ。  
彼は内心でそう思い、そして口では発射命令を出した。  
基地中からミサイルが放たれる。  
現代的な防空戦から考えると、これは最早最終段階といえる。  
だが、最終段階であろうとなかろうと、敵にとっては脅威だった。  
多量に放たれた短距離地対空誘導弾。  
その数28発。  
十分すぎるほどの数だった。  
次々と被弾し、レーダーから消えていく敵機たち。  
レーダーを担当する幹部は、体の震えが止まらなかった。  
俺たちは全部止めきれないんじゃないかと内心では思っていた。  
実際にはどうだ?  
基地から辛うじて見える距離で全てが撃墜された。  
無敵じゃないか、俺たちは。
彼がそう思うのも無理はなかった。  
こちらは燃料と弾薬以外に何も消費しなかったのだ。  
対する敵は、文字通りの全滅。  
一機残らずあの世行きである。  
  
「素晴らしい、圧倒的ではないか」  

満足そうに高射特科の幹部が発言し、誰もがそれに笑顔で頷く。  
周囲からは祝福するかのような地響きが。  

「地響き?」  

キャビネットが震え、何かが吼える声がする。  

「何事だ!」  
「西方陣地より緊急!敵巨大生物が接近中!!」  

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