自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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おとうさんがこわいかおをしてる。  
おかあさんもこわいかおをしてる。  
となりのジェリーさんも、そのとなりのエンハスさんも、みんなこわいかおをしてる。  
しってるか?おうさまがしんじゃったんだってさ。  
なんでもしってるノビーおにいさんがおしえてくれた。  
だから、おれたちはにげなきゃいけないのさ。  
そうじゃないと、あたらしいおうさまにころされちゃうからね。  
あたらしいおうさまはとってもらんぼうらしい。  
たすけてくれたエルフのおねいさんがそういっていた。  
あたらしいおうさまはどんなひとなんだろう?  
おやまがみえてきた。  
あのなかに、あたらしいおうちがあるみたい。  
エルフのひとたちって、とってもしんせつなんだな。  



少女が花の様な笑みを浮かべてこちらを見てくる。  
大人たちも、感謝のまなざしを惜しげなく向けてくる。  
これだけ喜んでくれると、こちらとしてもありがたい。  
泣いたり喚いたりされては、時間ばかりがかかってしょうがない。  
避難民の一同を護衛しているエルフの青年は、微笑を絶やさずにそう思った。  
彼は、この先の洞窟に何がいるのかを知らされていなかった。  
ただ、避難民を神聖な森ではなく、彼らに相応しい場所に案内するようにと命じられ、それに従っていた。  
排他的ではあるが残虐ではない彼は、その先で起きた事を一生後悔する事になる。  




西暦2020年4月1日  16:21  ゴルソン大陸  陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地  西方第32警戒陣地  

「一体なんなんだ?」  

突如として地平線の向こうから現れた難民の集団に、この陣地を預かる三尉は怪訝そうな声を出した。  
先頭を歩くのは笑顔の少女。  
その周囲に老若男女の難民が、やはり笑顔でこちらに接近してくる。  

「撃ちますか?」  

傍らで小銃を構えた陸曹が尋ねる。  

「それはいくらなんでもまずい。こっちは攻撃も何も受けていないんだ。  
本部を呼び出してくれ、指示を仰ぐ」  
「了解しました」  

攻撃を受けてからでは遅いんだがな、と内心で呟きつつ、彼は必要以上に素早い動きで通信を繋がせた。  
彼の内心では、嫌な予感が時間の経過と共に無限に広がりだしていた。  

「はい、はい、了解しました」  

手早く通信を切ると、三尉は命じた。  

「難民を収容する。  
情報の漏洩に気をつけつつ、彼らを保護するようにとの事だ」  
「どういうことです?捕虜すら取らないというのが方針だったのに」  
「上は彼らを使って何かをしようと考えているようだ。  
水と食料を用意しろ、心配しなくとも本部から補給が来るそうだ」  
「了解しました」  

上が何か考えての事ならばしょうがない。  
彼はそう考え、部下たちに難民を迎え入れる準備を始めさせた。  



あたらしいおうさまのぐんたいはやさしかった。  
エルフのおねいさんのいったとおりだったな。  
おとうさんもおかあさんもおみずをもらってる。  
わたしももらった。  
すきとおったきれいなおみず。  
とうめいなきれいなびんにはいってる。  
ビスケットみたいなふしぎなおかしももらった。  
へいたいさんは、やさしいえがおであたまをなでてくれた。  
もうだいじょうぶ、だいじょうぶだからね。  
やさしいへいたいのおにいさんは、えがおでそういってくれた。  
そっか、こんなときはおれいをしなくちゃいけないんだよね。  
エルフのおねいさんはいってた。  
うれしいことをしてもらったら、このくろいいしをむねにだいて、みんなでせいれいのおうさまにおれいをいいなさい。  
あたらしいおうさまのぐんたいも、きっとよろこんでくれるからね。  
おれいしなくちゃ。  




「まったく、よかったよな」  

小銃を地面に置き、食料を配る陸士たちを眺めつつ、三尉は安心した声を出した。  
もし万が一にでも皆殺しにせよという命令が来たら、その最悪な展開を考えていたばかりに、彼は必要以上に安堵していた。  
後方から報告が入る。  
輸送トラックが接近しているという事だ。  
難民の相手は陸曹に任せ、彼は数名の陸士と共に出迎えに向かった。  

「お、おい、なんだ?」  

少し歩くと、陸曹の困惑した声が聞こえた。  
後ろを振り向く。  
一箇所に集められた難民たちが、食料や水を地面に置き、何かを手に持って祈りをささげている。  
何らかの宗教的な意味合いがあるのだろう。  
特に気にせず、彼は足を進めた。  
だから、彼はその瞬間を見なかった。  


陸曹は、全てを見ていた。  
少女の手に収まりきらないその石は、奇妙なまでに黒かった。  
目を閉じ、いだいなるせいれいのおうさま、と少女は唱えている。  
他の難民たちも、口々に『せいれいのおうさま』とやらに感謝の念を唱えている。  
おいおい、それよりも射殺命令が下されなかった幸運と、食料を与えた俺たちに感謝してくれよ。  
苦笑している彼の目の前で、難民たちの持った石は赤くなっていく。  

「お、おい、なんだ?」  

彼の漏らした声は、驚きのせいか必要以上に大きかった。  
だが、難民たちは反応しない。  
それどころか、微動だにしない。  
石は次第に赤さを増していく。  
まるで血液だ、いや、むしろ太陽だ、真っ赤な夕日のような色になっている。  
さすがに恐怖心を覚えた彼は、少女に語りかけようとした。  
だが、彼が口を開く前に、少女は前のめりに倒れた。  
地面に正面から顔を突っ込み、そのまま無言で横倒しになる。  
他の難民たちも、次々と地面に倒れこみ、そして動かない。  

「なんだ?何が起こったんだ?」  

ようやく小銃を構えた彼の足元に、赤くなった石があった。  
陸士たちが小銃を構える。  
異常を察知した衛生が、医薬品を手に駆け寄ってくる。  
石は、赤さを増した。  


「どうなってる!おい!離れろ!伝染病か何かかもしれん!」  
「三曹!死んでます!全員死んでますよ!」  

離れるように命じた陸曹に衛生科の若い陸士長が叫んだ。  
熱いな。  
いきなり周囲の気温が上昇した事に気づいた陸曹は、陸士長には答えずに足元を見た。  
赤くなった石は、もはや湯気を上げながら白熱していた。  
なんなんだこれは?  
不思議そうにそれを眺めた彼の視界が、真っ白になった。  
陸上自衛隊大陸派遣隊第三基地西方第32警戒陣地は、この瞬間に蒸発した。  
爆音を聞いて駆けつけた救援部隊に運良く助け出された輸送トラックの運転手は、何が起きたのかわからなかったとだけ述べた。  
この陣地の唯一の生存者である三尉の証言と、ダークエルフからの情報提供により、事の真相は判明した。  
人間の生命力を糧として炸裂する爆弾のような物、それがこの破壊をもたらしたらしい。  
らしい、というのは、あくまでも状況から判断するとそれしかありえないから、という意味である。  
この爆発はそれほどの威力であり、陣地の跡にはクレーター以外何も存在しなかったからである。  
いや、跡にはもう一つだけ残っていた。  
復讐の念に燃える、残虐に生まれ変わった三尉である。  
もっとも、彼は重度の火傷を負っており、物語に登場するのは随分と後になるが。  


当然の事であるが、同様の事件は何度も発生した。  
自衛隊は以後難民全ての受け入れを拒否、許可なく駐屯地に近づくものに対しては、遠慮なく銃弾を見舞う事になる。  
情け容赦なく民間人を殺戮する自衛隊に対し、さすがに従うことは出来ない。  
かくして、自衛隊はもっともやりたくない大陸における積極的な治安維持活動を行わざるを得なかった。  
それに対しての民衆の反応は、大きく分けて三つだった。  

自衛隊に対して表立って反抗し、殲滅されるもの。  

自衛隊に喜んで従い、今までと変わらない生活を送るもの。  

エルフに対して庇護を求め、そして下された指示に従い、表面上は普通の生活を送るもの。  

前者に対しては簡単だった。  
全ては銃弾と銃剣が解決してくれた。  
従うものに対しては、管理の手間を除いて何も問題はなかった。  
後者は厄介だった。  
いつ何をするのかまったく検討がつかないのに、先制攻撃をするわけにはいかないからである。  
そして、エルフと水面下では対立している自衛隊だったが、この世界においてエルフは神の様な扱いを受けていた事が、報復攻撃を躊躇させていた。  
全面戦争など起こすつもりはない日本側としては、ひたすらに我慢を重ねるしかなかった。  
もちろん、我慢するだけではなかったが。  

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