西暦2020年5月4日 07:30 ゴルソン大陸 旧連合王国西方辺境領 ゴルシアの街
「こんにちわーこんにちわー世界のー国からー」
「一尉、そろそろ機嫌を直してください」
縦列で大通りを進む車輌部隊の中で、古い歌を歌う佐藤に三曹が声をかけた。
彼らは、今後の拠点となる予定の城へと向かっていた。
航空偵察の結果では、城はこの車輌部隊を展開するのに十分な広さを持っており、さらにこの世界の軍隊相手に篭城するには最適の構造をしているらしい。
そして、情報本部の分析では、ここにいるはずの敵部隊は既に壊滅し、恐らくは基地を管理する中隊程度の敵しか存在しないという話である。
装甲車輌の持つ威圧感だけで開門は可能だろう。
誰もがそう考えていた。
何かが装甲にぶつかる音がする。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
「なあ三曹」
「なんですか一尉?」
「威圧感だけでなんとかなるはずじゃなかったのか?」
「なんとかならなかったんでしょうね。それよりも、どうしますか?」
モニターに映し出された城門を見る。
恐らく、機関砲を少しだけ撃てば、直ちに木材の欠片へと変わるであろうそれは、厳重に閉ざされていた。
「撃ちますか?」
照準機を覗き込んでいる砲手が尋ねる。
現在の指揮通信車は、車内の管制装置から機関銃を発射可能となっていた。
それも、各車輌とのデータリンクや車載の各種探知装置と連動してのものがである。
「まぁ待ってくれ、聞けば相手は女の子だそうじゃないか」
そう、今必死にこの装甲車に矢を放っているのは、恐らく17・8と思われる少女たちだったのである。
事の次第はこうである。
街へと進入した部隊に対し、数名の民間人が突然火の玉を放ちだした。
RPGによる攻撃と勘違いした砲手はこれを全力で排除。
いくつかの建物と一緒に数十人をなぎ払い、そして相手はそこで降伏した。
ところが、案内に従って到着した城門は閉ざされており、そして監視塔や城壁から矢が雨のように降り注いできたのである。
直ちに部隊は散開、攻撃に移ろうとした。
だが、照準機に現れたのは、今にも泣き出しそうな顔の少女だった。
砲手は当然ながら佐藤にそれを報告し、そして彼は慌てて射撃中止を命じた。
かくして時系列は現在に戻る。
「拡声器は生きているな?」
「大丈夫です。ですが、降伏勧告に敵が応じるかどうかわかりませんよ」
「応じるさ。おい、橋を上げている部分を狙えるか?」
彼は今にも発砲を開始しそうな砲手に尋ねた。
「もちろんです。ご命令とあれば今すぐにでもできますよ」
「よろしい、他の車輌には反対側の鎖を狙わせろ。
軽装甲に突入準備、敵が降伏に応じなかった場合、速やかに城内へ突入、敵対勢力を抹殺せよと言っておけ」
「しかし、相手は少女ですが」
「武装した少女だ。つまりそれは敵軍だ」
彼は冷たい口調で言った。
「なんだ?女の子には優しくしましょうとでも言うつもりか?
相手は優しくしてくれんぞ」
「・・・申し訳ありませんでした」
「認識を改めるんだ。
敵対するのならば、可愛らしい少女でも、ご老体でも、全て射殺する必要がある。
そうじゃなきゃ、こっちが殺される。
ここは、そういう戦場なんだ」
治安維持活動の中で、何名かの民間人の自爆テロと、それによる損害を目の当たりにしていた彼は、冷酷だが必要な認識を獲得していた。
モニターの中で、偵察警戒車が砲身を動かすのが見える。
二両が左側、もう一両が右側。
目標は、跳ね橋を引き上げている巨大な鎖の基部。
「撃て」
佐藤は、冷たく、そして簡潔に命令を下した。
轟音、そのようにしか表現できない音が周囲を支配した。
三基の25mm機関砲と、一基の12.7mm機関銃が火を噴き、城門の左右の上に弾着の煙が舞い上がる。
硬い何かが破砕される音と炸裂音が鳴り響き、そして跳ね橋は勢い良く落下した。
砲声に比べれば随分控えめな音を立て、橋はあるべき場所に戻った。
射撃は中止され、砲身は城門へと移動した。
「あーあー、こちらは日本国陸上自衛隊大陸派遣隊です」
突如として静寂が支配した戦場に、佐藤の声が響き渡った。
最大出力で拡声器が出すその声は、この世界の住人たちを恐怖させるには十分な威力を持っていた。
「既に西方辺境領騎士団は全滅してます。
我々は、この城の正当な支配権を有しています。
無益な抵抗は止め、ただちに開門しなさい。
一分間の猶予を与えます。以後、一切の降伏は受け入れません。
ただちに降伏しなさい」
佐藤は拡声器を切り、三曹に一分を計らせた。
今のところ、敵に動きは無し。
頼むから降伏してくれよ。
城内での掃討戦の面倒さを思いつつ、彼は内心で呟いた。
西暦2020年5月4日 07:31 ゴルソン大陸 旧連合王国西方辺境領 ゴルシアの街
「なるほど、そうなるとあの城の中に街の人はいないんですね?」
「はい、仰る通りでございます」
案内役の男が床にひれ伏したまま言う。
圧倒的過ぎる自衛隊の戦力に恐れをなしたのか、彼らは極めて従順な存在となっていた。
「一尉、時間です」
「よろしい、目標城門」
事務的な佐藤の命令により、三両の87式偵察警戒車は、その砲身を城門へと向けた。
城壁の上からは、少女たちのすすり泣きらしき声が探知されている。
「撃て」
電波に乗った佐藤の命令が伝わると同時に、再び轟音が周囲を支配した。
機関砲からは、閃光、砲弾、轟音の順番で次々と砲弾が吐き出され、そして城門は十秒と持たずに木材の欠片へと変わった。
機関銃ならばまだしも、現代軍の軽装甲車輌を破壊するための機関砲が相手では、ただの木の城門などティッシュペーパー以下だった。
あっという間に城門は砕け散り、そしてその先にある中庭から悲鳴や絶叫が聞こえ始める。
城壁や監視塔から矢が飛んでくる。
勇敢な事だと苦笑しつつ、砲手は人間の反応がある場所に向けて重機関銃の制圧射撃を実施した。
赤外線熱探知機は、次々とオレンジが青に変わっていくことを知らせている。
「ありゃあ城内に入ってくるのを待っているな」
「でしょうね」
雄たけびを上げつつ城内から突撃してくるかと思いきや、相手は静寂を保ったままなんら反応を示さない。
「こっちの油断を誘っているのか?」
「少女たちのと甘い生活にニヤニヤしながら城門を潜ったら、魔法でドカンと?」
「ありえん話ではない。向こうから見ればこっちは機甲師団なみの威圧感を持っているはずだからな。
おい、迫撃砲は使えるか?」
「二個分隊がなんとか、それ以上は展開場所の関係から中庭には落とせません」
「城に打ち込むのはまずいからな、よし、やらせろ」
再び電波に乗った命令が下され、軽装甲機動車に分乗した迫撃砲分隊が、中庭に向けて容赦のない砲撃を開始した。
動きのない自衛隊の一同に、街の住人たちは不思議そうな表情を浮かべた。
矢を持った少女相手にしり込みするほど情けない集団なのか?
だったら俺たちでも。
誰からともなく無謀な事を考え始める輩が出始め、そしてそれを、迫撃砲の発射音と直後に聞こえた炸裂音が威圧した。
曲射砲という概念すら存在しない世界の城壁に、迫撃砲弾を防ぐすべはなかった。
連続した爆発が発生し、城門から悲鳴が再び漏れてくる。
「砲撃中止、突入だ」
「了解」
砲撃が収まると同時に、三台の軽装甲機動車がエンジン音も高らかに前進を開始した。
崩落を恐れ、車間距離を開けつつ全力で橋を渡りきり、城門の残骸を乗り越えて中庭へと侵入する。
そこは、敵が銃火器を持っていない事を除けば、プチ硫黄島のような場所だった。
あちこちに迫撃砲のもたらした破壊の爪痕が残っており、迫撃砲弾や貫通してきた機関砲弾に殺傷された人体の残骸が散らばっていた。
恐れていた魔法や弓矢による抵抗はなし。
「降車!降りろっ!!」
陸曹が怒鳴り、陸士たちが素直に応じる。
噴水だったらしい石材の残骸の向こうにある、巨大な扉が開く。
剣で武装した、現代風に言うならば美少女騎士団とでも言うのだろうか、とにかくそれが現れる。
「撃ぇ!」
敵対行動を確認したこの小隊の三尉は、一瞬も躊躇せずに射撃を命令した。
第三基地から追い出されるようにここへと来た隊員たちは、フラストレーションの命じるままに引き金を絞った。
銃声が連鎖して聞こえ、そして敵兵たちは突撃を開始しようとした姿勢のまま壊滅した。
何人かは泣き喚きながら突撃できるという幸運を掴んだが、十歩と進まぬうちに小銃弾を浴びて倒れ伏す。
「城内に突入する!指揮官を探せ!」
先陣を切って三尉が駆け出す。
どれが指揮官なのかはわからないが、とにかく部下たちは上官に従って前進を開始した。
開かれたままの扉を通過し、テレビゲームや映画に出てくるような豪華なホールに突入する。
だが、そこで彼らを待っていたのは、怯えきった使用人らしい人々、武器を捨て、ひれ伏している美少女騎士たちだけだった。
「三尉、佐藤一尉からです。無用な殺傷は弾薬の無駄だと」
「・・・わかっていると伝えろ」
舌打ちを辛うじて抑える。
やっぱり俺の経歴は全部把握されているんだな。
彼は、全滅した大陸派遣隊第三基地西方第32警戒陣地の唯一の生存者だった。
全身の火傷と骨折、裂傷は、現役復帰までに数ヶ月が必要であると推定されていたが、異常なまでの治癒力と不屈の復讐心で、彼は現役に復帰していた。
だが、復帰後に民間人に対する異常なまでの警戒心と射殺件数が問題となり、佐藤の部隊へ配属されていた。
いつも疲れた表情を浮かべ、そして戦闘時以外はやる気のない様子ではあるが、この大陸に派遣されてから昇進を続けているあの一尉は、無能ではないらしい。
「全員を中庭に集めろ、武器は全て捨てるんだ。
一人従わなければ、三人殺す。いいな?」
「わっわかりました!直ぐに集めます!だから殺さないで下さい!!」
三尉の言葉に少女は大声で答えた。
その瞳にあるのは感謝と恐怖。
「早くしろ!」
だが、三尉は満足げな表情を浮かべるどころか、怒鳴り声を上げた。
「こんにちわーこんにちわー世界のー国からー」
「一尉、そろそろ機嫌を直してください」
縦列で大通りを進む車輌部隊の中で、古い歌を歌う佐藤に三曹が声をかけた。
彼らは、今後の拠点となる予定の城へと向かっていた。
航空偵察の結果では、城はこの車輌部隊を展開するのに十分な広さを持っており、さらにこの世界の軍隊相手に篭城するには最適の構造をしているらしい。
そして、情報本部の分析では、ここにいるはずの敵部隊は既に壊滅し、恐らくは基地を管理する中隊程度の敵しか存在しないという話である。
装甲車輌の持つ威圧感だけで開門は可能だろう。
誰もがそう考えていた。
何かが装甲にぶつかる音がする。
繰り返し、繰り返し、繰り返し。
「なあ三曹」
「なんですか一尉?」
「威圧感だけでなんとかなるはずじゃなかったのか?」
「なんとかならなかったんでしょうね。それよりも、どうしますか?」
モニターに映し出された城門を見る。
恐らく、機関砲を少しだけ撃てば、直ちに木材の欠片へと変わるであろうそれは、厳重に閉ざされていた。
「撃ちますか?」
照準機を覗き込んでいる砲手が尋ねる。
現在の指揮通信車は、車内の管制装置から機関銃を発射可能となっていた。
それも、各車輌とのデータリンクや車載の各種探知装置と連動してのものがである。
「まぁ待ってくれ、聞けば相手は女の子だそうじゃないか」
そう、今必死にこの装甲車に矢を放っているのは、恐らく17・8と思われる少女たちだったのである。
事の次第はこうである。
街へと進入した部隊に対し、数名の民間人が突然火の玉を放ちだした。
RPGによる攻撃と勘違いした砲手はこれを全力で排除。
いくつかの建物と一緒に数十人をなぎ払い、そして相手はそこで降伏した。
ところが、案内に従って到着した城門は閉ざされており、そして監視塔や城壁から矢が雨のように降り注いできたのである。
直ちに部隊は散開、攻撃に移ろうとした。
だが、照準機に現れたのは、今にも泣き出しそうな顔の少女だった。
砲手は当然ながら佐藤にそれを報告し、そして彼は慌てて射撃中止を命じた。
かくして時系列は現在に戻る。
「拡声器は生きているな?」
「大丈夫です。ですが、降伏勧告に敵が応じるかどうかわかりませんよ」
「応じるさ。おい、橋を上げている部分を狙えるか?」
彼は今にも発砲を開始しそうな砲手に尋ねた。
「もちろんです。ご命令とあれば今すぐにでもできますよ」
「よろしい、他の車輌には反対側の鎖を狙わせろ。
軽装甲に突入準備、敵が降伏に応じなかった場合、速やかに城内へ突入、敵対勢力を抹殺せよと言っておけ」
「しかし、相手は少女ですが」
「武装した少女だ。つまりそれは敵軍だ」
彼は冷たい口調で言った。
「なんだ?女の子には優しくしましょうとでも言うつもりか?
相手は優しくしてくれんぞ」
「・・・申し訳ありませんでした」
「認識を改めるんだ。
敵対するのならば、可愛らしい少女でも、ご老体でも、全て射殺する必要がある。
そうじゃなきゃ、こっちが殺される。
ここは、そういう戦場なんだ」
治安維持活動の中で、何名かの民間人の自爆テロと、それによる損害を目の当たりにしていた彼は、冷酷だが必要な認識を獲得していた。
モニターの中で、偵察警戒車が砲身を動かすのが見える。
二両が左側、もう一両が右側。
目標は、跳ね橋を引き上げている巨大な鎖の基部。
「撃て」
佐藤は、冷たく、そして簡潔に命令を下した。
轟音、そのようにしか表現できない音が周囲を支配した。
三基の25mm機関砲と、一基の12.7mm機関銃が火を噴き、城門の左右の上に弾着の煙が舞い上がる。
硬い何かが破砕される音と炸裂音が鳴り響き、そして跳ね橋は勢い良く落下した。
砲声に比べれば随分控えめな音を立て、橋はあるべき場所に戻った。
射撃は中止され、砲身は城門へと移動した。
「あーあー、こちらは日本国陸上自衛隊大陸派遣隊です」
突如として静寂が支配した戦場に、佐藤の声が響き渡った。
最大出力で拡声器が出すその声は、この世界の住人たちを恐怖させるには十分な威力を持っていた。
「既に西方辺境領騎士団は全滅してます。
我々は、この城の正当な支配権を有しています。
無益な抵抗は止め、ただちに開門しなさい。
一分間の猶予を与えます。以後、一切の降伏は受け入れません。
ただちに降伏しなさい」
佐藤は拡声器を切り、三曹に一分を計らせた。
今のところ、敵に動きは無し。
頼むから降伏してくれよ。
城内での掃討戦の面倒さを思いつつ、彼は内心で呟いた。
西暦2020年5月4日 07:31 ゴルソン大陸 旧連合王国西方辺境領 ゴルシアの街
「なるほど、そうなるとあの城の中に街の人はいないんですね?」
「はい、仰る通りでございます」
案内役の男が床にひれ伏したまま言う。
圧倒的過ぎる自衛隊の戦力に恐れをなしたのか、彼らは極めて従順な存在となっていた。
「一尉、時間です」
「よろしい、目標城門」
事務的な佐藤の命令により、三両の87式偵察警戒車は、その砲身を城門へと向けた。
城壁の上からは、少女たちのすすり泣きらしき声が探知されている。
「撃て」
電波に乗った佐藤の命令が伝わると同時に、再び轟音が周囲を支配した。
機関砲からは、閃光、砲弾、轟音の順番で次々と砲弾が吐き出され、そして城門は十秒と持たずに木材の欠片へと変わった。
機関銃ならばまだしも、現代軍の軽装甲車輌を破壊するための機関砲が相手では、ただの木の城門などティッシュペーパー以下だった。
あっという間に城門は砕け散り、そしてその先にある中庭から悲鳴や絶叫が聞こえ始める。
城壁や監視塔から矢が飛んでくる。
勇敢な事だと苦笑しつつ、砲手は人間の反応がある場所に向けて重機関銃の制圧射撃を実施した。
赤外線熱探知機は、次々とオレンジが青に変わっていくことを知らせている。
「ありゃあ城内に入ってくるのを待っているな」
「でしょうね」
雄たけびを上げつつ城内から突撃してくるかと思いきや、相手は静寂を保ったままなんら反応を示さない。
「こっちの油断を誘っているのか?」
「少女たちのと甘い生活にニヤニヤしながら城門を潜ったら、魔法でドカンと?」
「ありえん話ではない。向こうから見ればこっちは機甲師団なみの威圧感を持っているはずだからな。
おい、迫撃砲は使えるか?」
「二個分隊がなんとか、それ以上は展開場所の関係から中庭には落とせません」
「城に打ち込むのはまずいからな、よし、やらせろ」
再び電波に乗った命令が下され、軽装甲機動車に分乗した迫撃砲分隊が、中庭に向けて容赦のない砲撃を開始した。
動きのない自衛隊の一同に、街の住人たちは不思議そうな表情を浮かべた。
矢を持った少女相手にしり込みするほど情けない集団なのか?
だったら俺たちでも。
誰からともなく無謀な事を考え始める輩が出始め、そしてそれを、迫撃砲の発射音と直後に聞こえた炸裂音が威圧した。
曲射砲という概念すら存在しない世界の城壁に、迫撃砲弾を防ぐすべはなかった。
連続した爆発が発生し、城門から悲鳴が再び漏れてくる。
「砲撃中止、突入だ」
「了解」
砲撃が収まると同時に、三台の軽装甲機動車がエンジン音も高らかに前進を開始した。
崩落を恐れ、車間距離を開けつつ全力で橋を渡りきり、城門の残骸を乗り越えて中庭へと侵入する。
そこは、敵が銃火器を持っていない事を除けば、プチ硫黄島のような場所だった。
あちこちに迫撃砲のもたらした破壊の爪痕が残っており、迫撃砲弾や貫通してきた機関砲弾に殺傷された人体の残骸が散らばっていた。
恐れていた魔法や弓矢による抵抗はなし。
「降車!降りろっ!!」
陸曹が怒鳴り、陸士たちが素直に応じる。
噴水だったらしい石材の残骸の向こうにある、巨大な扉が開く。
剣で武装した、現代風に言うならば美少女騎士団とでも言うのだろうか、とにかくそれが現れる。
「撃ぇ!」
敵対行動を確認したこの小隊の三尉は、一瞬も躊躇せずに射撃を命令した。
第三基地から追い出されるようにここへと来た隊員たちは、フラストレーションの命じるままに引き金を絞った。
銃声が連鎖して聞こえ、そして敵兵たちは突撃を開始しようとした姿勢のまま壊滅した。
何人かは泣き喚きながら突撃できるという幸運を掴んだが、十歩と進まぬうちに小銃弾を浴びて倒れ伏す。
「城内に突入する!指揮官を探せ!」
先陣を切って三尉が駆け出す。
どれが指揮官なのかはわからないが、とにかく部下たちは上官に従って前進を開始した。
開かれたままの扉を通過し、テレビゲームや映画に出てくるような豪華なホールに突入する。
だが、そこで彼らを待っていたのは、怯えきった使用人らしい人々、武器を捨て、ひれ伏している美少女騎士たちだけだった。
「三尉、佐藤一尉からです。無用な殺傷は弾薬の無駄だと」
「・・・わかっていると伝えろ」
舌打ちを辛うじて抑える。
やっぱり俺の経歴は全部把握されているんだな。
彼は、全滅した大陸派遣隊第三基地西方第32警戒陣地の唯一の生存者だった。
全身の火傷と骨折、裂傷は、現役復帰までに数ヶ月が必要であると推定されていたが、異常なまでの治癒力と不屈の復讐心で、彼は現役に復帰していた。
だが、復帰後に民間人に対する異常なまでの警戒心と射殺件数が問題となり、佐藤の部隊へ配属されていた。
いつも疲れた表情を浮かべ、そして戦闘時以外はやる気のない様子ではあるが、この大陸に派遣されてから昇進を続けているあの一尉は、無能ではないらしい。
「全員を中庭に集めろ、武器は全て捨てるんだ。
一人従わなければ、三人殺す。いいな?」
「わっわかりました!直ぐに集めます!だから殺さないで下さい!!」
三尉の言葉に少女は大声で答えた。
その瞳にあるのは感謝と恐怖。
「早くしろ!」
だが、三尉は満足げな表情を浮かべるどころか、怒鳴り声を上げた。