自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

034

最終更新:

bestbro1

- view
だれでも歓迎! 編集
西暦2020年8月1日  21:00  グレザール帝国領  城塞都市ダルコニア  

「ふざけるなこの野郎ぉ!!!」  

ガラスの割れる音と、店主の怒鳴り声が響き渡る。  
まぁ、怒鳴るのもわかるな。  
  
「てめぇら揃いも揃って水を下さいだぁ!  
何処の田舎モンかしらねぇが、随分なマネをしてくれるじゃねぇか!!」  

再びガラスの割れる音がする。  
店主の言うとおりだ。  
事もあろうに、酒場に入るなり六人の男が水を下さいというのは、どんな温厚な店主でも我慢できないだろう。  
酒場で水を頼むというのは、二通りの意味がある。  
一つ、もう飲めない。二つ、こんな不味い酒をだすんじゃねえ。  

「わ、わるかった!すまない!勘弁してくれ!」  

リーダーらしい男が必死に謝っているな。  
まあ懸命な判断ではある。  
  
「すまないだぁ!?いまさら言っても遅いわぁ!」  

やれやれ、見ていられないな。  

「まあまあ店主、こいつら見たところ流れ者で新参だ。勘弁してやろうぜ」  
「アドルフ、お前さんがそう言うのならば聞くが、しかし、こいつらどうせ面倒を起こすぞ」  

声をかけた俺を見た店主は、半分抜いていた腰のダガーを戻した。  
俺の名前はアドルフ・ヒトラー。  
この街では名の知られた冒険者だ。  
いくつもの魔物を倒し、そして多くの冒険者を救ってきた英雄で通っている。  


「だろうな。まぁこの街の流儀っていうのを教えてやるさ」  
「ケッ、物好きなこった」  

忌々しそうに呟き、店主はカウンターへと戻った。  
何事かとこちらを見ていたほかの連中も、テーブルへと戻る。  

「おいお前ら、ついて来い、この街の流儀を教えてやるよ」  
「は、はぁ」  
「行くぞ」  

席を立った俺の後ろを、男たちがゾロゾロと続いてくる。  
それにしても、まるで叱られた子犬みたいだな。  

「あの、それで自分たちは何処に連れて行かれるのでしょうか?」  
「俺の家だ」  
「はぁ」  

俺たちは連れ立って街を歩いている。  
ここ、城塞都市ダルコニアは、連合王国が存在していた頃からグレザール帝国の庇護下にあった。  
三つの大陸、二つの列島に領土を持ち、人族史上最大最強である帝国は、統治の上手さに強さの秘密があった。  
  
「見てみろ、あれが領主の城だ。  
お前ら、町の外から流れてきたんだろ?」  
「は、はい、そうなんですよ」  
「だったら覚えとけ、この街の支配者は、あの城に住んでいる」  

帝国は、統治を各領主に一任していた。  
規定の税を納める限り、産業を発展させようと、軍備を増大させようと口出しをしなかった。  
対外戦争や、外交すらも好きにさせていた。  
しかし、帝国に反抗する事だけは絶対に許さなかった。  
そのため、グレザール帝国はほぼ同等の戦力を持つ五つの強大な軍団を、定期的に巡回させていた。  
歩兵を中心とした鋼の騎士団、魔法使いを中心とする青銅の騎士団、魔物を使役する鉄の騎士団、帝都を守る、諸兵科混合の黄金騎士団。  
そして・・・  


「あれが白銀騎士団だ。  
グレザール帝国五大軍団の一つ、騎兵を使った機動戦を得意とする連中だ」  

騎兵の集団が足早に通過する。  
白銀の鎧、その肩には、盾に交差した稲妻というマークが見える。  
一度でも引越しをした事のある人間ならば理解できるだろうが、大軍団の移動という軍事行動には、信じられないほどの手間がかかる。  
物資も消費するし、それまで築いた陣地や人脈も、放棄しなくてはいけなくなる。  
これでは陰謀をめぐらせ、力を蓄える余裕がない。  
帝国は、各軍団が反旗を翻せないように形を変えた参勤交代を行わせているのだ。  

「そろそろ俺の家だ。  
お前ら、どうせ宿屋もとっていないんだろう?」  
「え、ええ、よくわかりますね」  

狼狽した様子でリーダーらしい男が答える。  
しかし、見慣れない剣をつけているな。  
アドルフは、男たちの装具に目を向けた。  
しっかりとした作りの、頑丈そうな鎧。  
手入れの行き届いた、見慣れない材質の剣。  
金髪で青い目と言う事は、日本国の人間ではなさそうだが。  

「そりゃそうだ、酒場で満足に話も聞けないような連中が、宿屋に泊まれるはずがない。  
まぁ遠慮するな。それほど広いわけじゃあないが、雑魚寝でもなんとかなるだろう」  
「ありがとうございます」  

古ぼけた屋敷の残骸に、一同は入っていった。  



西暦2020年8月2日  07:21  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「ふざけないでよっ!」「ゆるしてください!!」  

第二氏族の朝は、こうして始まる。  
もちろん、最先任軍曹な褌エルフと三尉のやりとりではない。  
その声は、この村でも一番貧相な小屋からしている。  

「ナーカ、貴方、いつの間に私より偉くなったのでしょうね?」  
「ゆ、許して下さいサトゥーニア様」  
「黙りなさいっ!どうして貴方が私よりも遅く起きるなんていう事が起こるのよ!!」  

筋肉質の(とはいってもあくまでも健康的な、という意味合いである)エルフが、貧相なエルフを殴打している。  
エルフ第二氏族は、身を守るため以外の戦いを嫌い、さらに外界との接触も嫌うという集団だった。  
彼らは、エルフであるという事を除けば、人間に良く似た社会を構成していた。  
そのため、第一氏族からは放置され、第三氏族からは臆病者に用はないと無視され、第七氏族からは興味深い観察対象とされていた。  

「朝食は出来ていない、掃除も始まっていない、それどころかグウグウと気持ち良さそうに寝ている。  
どういうつもりよっ!!」  

サトゥーニアと呼ばれたエルフは、容赦なく貧相なエルフを踏みつける。  
エルフと言うだけあり、彼女たちも例外なく魔法を使えた。  
そのため、四肢の欠損や臓器への致命傷といった重大な怪我を負わせない限りは、遠慮する必要が全くない。  

「さっさと起きて、朝食の支度をなさい!このグズっ!カスっ!動きなさい!!!」  

思う存分罵声を浴びせ、暴力を振るった彼女は、肩をいからせながら自宅へと去っていった。  
あとには、涙目になりつつ治癒の魔法を使っているナーカが残された。  
  
「畜生、いつか殺してやる」  

いつの間にか解けてしまった胸のさらしを無視し、彼女は怨念を込めた声でそう言った。  
  
「なんとまあ」  

その様子を檻から見つつ、三尉は呆れたように言った。  

「まるで人間じゃないか。なあ?」  

隣の陸曹に同意を求める。  
だが、三尉の部下たちは、ナーカと呼ばれたエルフの胸に釘付けになっている。  
  
「ドジっこエルフかよ」  
「ドジとはちょっと違うだろ」  
「なんにせよ、貧乳はよい」  
「いや、俺はサトゥーニアのあの蹴りがいいな」  
「死ね、市ねじゃなくて死ね」  

彼の愛すべき部下たちは、ちょっとダメだった。  


「おはよう人間の諸君」  

そんな一同のところへに、警備のエルフと何故か裸エプロンのような格好のエルフがやってきた。  

「諸君らはこの第二氏族に捕まったグレザールの兵で間違えないな?」  
「違うと言っているだろう」  
「ふむ?」  

昨日幾度となく答えた言葉を、うんざりしつつ言った三尉に、そのエルフは興味深そうな声で答えた。  

「グレザールではない?それではどこの兵だ?  
連合王国の残党か?それとも、例のニホンという国の兵か?」  
「そうだよ、俺たちは日本国陸上自衛隊ゴルソン方面隊の者だ」  

僅かな期待を込めて再び所属を名乗る三尉。  

「裸エプロン?」  
「エプロンと言うより、前掛け、だなあれは」  
「畜生!畜生!裸マントならば完璧なのに!神は我を見捨てたか!?」  
「いや、違う。信じる事が大切なのだ同志。きっとどこかに裸マントの氏族もいるさ」  
「そう、だよな。信じる事が大切なんだよな。うん、そうだ。俺が間違っていたよ」  

彼の後ろは実に賑やかである。  
脳内で速やかに全員を銃殺に処してから、三尉は言った。  


「お前は第二氏族ではないな?」  
「そうよ、私は知を司るエルフ第七氏族、その高位学者よ」  

エルフは胸を張って言った。  
どうやら、自意識が過剰気味な種族のようだな。  
しかし、胸の形は一級品だ。  

「行為学者?」  

ダメになり始めた自分の思考回路に戦慄しつつ、彼は再び尋ねた。  
敵に、体系化された学問があるというのは脅威である。  
自衛隊がこの世界に進出して以来、現地に何らかの情報を与えるという事は厳に戒められていた。  
日本の文化形態、自衛隊の戦術、日本人のメンタリティなどなど。  
それらを敵に与え、そしてこちらの弱点を見つけられれば、恐ろしい事になる。  
敵がこちらの事を良く知らないという事が、銃や戦術に勝る戦力倍増要素であると、日本人たちは考えたのだ。  

「お前は馬鹿か?  
こ・う・い・学者だ。  
高い位にいるのだよ私は」  

そのエルフの回答は、三尉を再び思考の迷路へと誘った。  
呼んで字のとおり高い位と言われた様なものである。  




何故日本語が通じるのか?  
何故文章に英語が使われているのか?  
何故免疫のない病気にかからないのか?  
何故地球と寸分違わぬ形状の惑星なのか?  
何故何故何故何故・・・  
この世界はわからない事だらけだった。  
全てがご都合主義でなりたっている。  
ドラゴンやエルフやゾンビはいるけれど、物理法則は成り立っている。  
水は100度で沸騰するし、燃料はきちんと燃える。  
病気には現代医学が通用するし、動植物も一部の物は元の世界と変わらない。  
学者たちは発狂したり匙を投げたりしながら日夜原因究明を図っているが、その答えは未だ出ていない。  
偉い学者先生たちが束になってもわからない事が、ただの三等陸尉にわかるわけがないか。  
彼はそう割り切り、思考の迷路を脱出した。  




西暦2020年8月2日  17:50  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

日が沈み始めた。  
今日も三尉は一日中尋問を受け、そして救援部隊は来なかった。  
褌や前掛けエルフにはしゃいでいた隊員たちも、さすがに捕虜生活二日目の日没に、そのテンションを大きく下げていた。  

「捕まっているのは、グレザール帝国軍じゃないな」  

その様子を離れたところから監視しつつ、アドルフは言った。  
彼と先日出会ったばかりの新米冒険者たちは、街のギルドから依頼を受け、第二氏族の村へ偵察に来ていた。  

「あれは、ニホンの軍ですね」  
「だな、動きやすそうなあの服装、そして黒い髪、恐らく間違いない」  

そうなると、厄介な事になる。  
ニホンの自衛隊がもし、あの街に進出してきたら。  
俺の目的は果たせなくなってしまう。  
とはいえ、連中を見殺しにするわけにもいかない。  

「助けますか?」  

新入りのリーダー、グロックが尋ねてくる。  
  
「助けるったって、相手はエルフでここは森の中だぞ」  

同じく新入りのベレッタが反論する。  
彼の言うとおり、現状はこれ以上はないほどに不利だ。  

「しかし、連中を助けないのは嫌だな」  

冷静な表情のガーランドが言う。  
彼は、その表情とは裏腹に、既に剣に手を当てていた。  

「落ち着け落ち着け、連中を助けるにしろ見捨てるにしろ、準備が必要だ」  
「ですな」  

淡々と、今まで沈黙を守っていたバーレットが言う。  
それに、最後まで沈黙を守り通しているエンフィールドが首だけで同意を示す。  
どうでもいいが、こいつら随分と静かな連中だな。  
アドルフはそう思った。  
通常、冒険者に好き好んでなるような連中は賑やかなものだが。  

「なんにせよ、もう少し様子を見よう」  

一同は同意し、監視を続行した。  



西暦2020年8月2日  18:30  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「夕食よ、さっさと食べなさい」  

ナーカがぞんざいな態度で鍋を差し出す。  
彼女の態度はともかくとして、待遇はまずまずだった。  

「どうも」  

ナーカの態度を無視し、三尉は鍋を受け取り、檻の中へと戻る。  
中身をぶちまけ、ひるんだ隙に逃亡を試みても良いのだが、残念な事に周囲には監視のエルフが何人もいる。  
おまけに、受け取りに出ている間、檻は閉じており、彼一人しか逃げる事ができない。  

「なかなか映画みたいにはいかないな」  

ぼやきつつも鍋を置き、そして一同は夕食を始めた。  

「どうしますかね三尉」  

食器を片手に陸曹が尋ねる。  

「まあ待っていろ。細工はしてある」  

三尉の言う細工とは、夕方の尋問の際に行われていた。  
実に不毛なやり取りを行った彼は、帰り際に集められた装備の横を通過した。  

「役たたずめ!」  

小銃や無線機を睨みつけ、彼はそう呟くと無線機に軽い蹴りを入れた。  
無線機のランプが灯る。  

「止めないか!」  

容赦なく先任軍曹エルフが蹴りを入れる。  
蹴られた彼は、そのまま倒れこみ、装備の山へと突っ込む。  

「いてぇな!何しやがる!」  

喚きつつもがく。  
小銃の山が崩れ、手榴弾が転がり、そして彼の手は無線機の送信スイッチを押しっぱなしにした。  
ボリュームは最小に設定し、こちらの声だけが伝わるようにする。  

「畜生!いてぇじゃねぇか!  
あの北へ歩いて半日程度の城塞都市に近いっていうのにやりたい方題してくれるな!」  
「お前がグレザール帝国軍じゃない以上、そんな脅しには意味がないな」  
「いいか!北に歩いて半日程度の距離に城塞都市があるんだぞ!」  
「何を意味のわからない事を。連れて行け」  

繰り返し北に半日程度と喚く三尉は、四人がかりで連行されていった。  

「ああ、それでなにやら喚きながら連れてこられたんですね。  
いつもはふてぶてしく歩いてくるのに、あんな姿を見せられたから」  
「発狂したとでも思ったか?  
安心しろ、俺はエルフを絶滅させるまでは狂いたくても狂えんさ」  

三尉の脳には、部下たちの最後が今でも残っていた。  
気のいい陸曹たち、そして勇敢な陸士たち。  
難民を救い、笑顔だった彼ら。  
その全員が死んだ。  
完全に消滅した。  
遺骨も、頭髪一本すらも本土に帰すことはできなかった。  
それを引き起こしたエルフを許すわけにはいかない。  
奴らは滅ぼされるべき存在なのだ。  

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー