自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年8月2日  22:40  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「これ以上は、まずいな」  

かなりの長時間に渡って偵察活動を行っていたアドルフは、そう呟くと撤収を命じた。  
新人冒険者であるグロックたちにとって、それは神の御言葉に等しく、一同は静かに森を去った。  

「しかし、どうしてニホンの連中は見つかったんでしょうか?」  

静かに、かつ足早に森を進みつつ、グロックが言う。  

「確かに、連中は少なくとも長距離偵察に出るような奴らは非常に有能だ。  
それがいとも簡単に捕まるなんてさすがにおかしい」  

ガーランドが周囲に視線を向けつつ続ける。  

「ああ、そりゃあ匂いだろ」  
「匂い?」  

二人ともよくわからないようだ。  

「いいか?ニホンの連中は鉄や鉛の臭いを大量に出している。  
それに加えて、戦った後にはいつも火山のような臭いもしている。  
そんな状態でエルフの森に入ってみろ。見つからない方がどうかしている」  
「なるほど」  

知識を記憶する表情でグロックが頷く。  
確かに、硝煙の独特な臭いは、この世界では珍しいに違いない。  

「それで、助けますか?」  

後ろを振り返りつつ、バーレットが言う。  
彼はどうにも気になることがあるようだ。  
もちろん、それは彼だけではない。  

「囲まれたな」  

アドルフが言う。  

「全員動くな」  

木々がざわめき、命令を発する。  
そして一堂の前に、一人のエルフが現れた。  
もちろん、それだけではない事は全員が了解している。  

「名前は?」  
「エルフ第二氏族、サトゥーニア、お前は?」  
「アドルフ、アドルフ・ヒトラー。この近辺では名の通った冒険者さ」  

第二氏族の命運を握る事になる二人が、出会った。  



西暦2020年8月2日  22:41  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「エルフの皆さんの村に近づいてしまった事は謝罪します。  
ですが、我々に皆さんを傷つけようという意思は全くありません。  
このまま通していただくわけにはいきませんか?」  

丁寧にアドルフが言う。  
しかし、サトゥーニアは面白そうな表情を浮かべて答えた。  

「ならば、こんな夜更けにここで何をしていた?  
ただの散歩にしては随分と森の中まで入っているようだが。  
まさか、道をまっすぐと歩く事すらできないわけではあるまい?」  
「どうやらそのまさかのようでして、冒険者としては恥ずかしい限りです」  

苦笑しつつアドルフは応じる。  
このような程度の低い嫌味で腹を立てるようでは、冒険者は務まらない。  

「恥かきついでに、最寄の街道を教えていただけるとなんとか廃業を免れられるんですが、なんとかなりませんかね?」  
「その前に、我らの質問に答えてもらいたい」  

サトゥーニアの答えに、アドルフは内心で舌打ちしそうになった。  
どうやら、無傷で帰宅するわけにはいかないようだ。  
俺だけならば何とでもなるが、新入りどもを見捨てて帰ることはできない。  

「どういったご用件でしょうかね?もしかして、私たちが探している薬草の場所を教えていただけるのでしょうか?」  
「やくそう?」  

彼の質問に、サトゥーニアは怪訝そうな表情を浮かべる。  

「ああ、まだ言っていませんでしたね。  
私たちはこの森でかつて見られたというニューク草を探しているんですよ。  
雇い主が緊急で必要と言う話でして、出来るだけ早く持ち帰る必要があるのです」  

ニューク草とは、神聖魔法との組み合わせでいかなる病魔も発見できるという薬草である。  
もちろん、港町にして城塞都市であるダルコニアならば、そういった薬草の類は、きちんと金を出せば直ぐに見つかる。  
しかし、人の街に出てくる事が皆無に近いエルフには、その事実を知る由もない。のが通常である。  

「妙な事を言うな?  
つい二日前に、まとまった数を売ったばかりだぞ?  
それがもう売り切れたとでも言うのか?」  

再びアドルフは舌打ちを抑えた。  
俺とした事が、直ぐバレる様なウソをつくとは。  
第二氏族は人間と交易をしている事を、彼は今まで忘れていた。  
とはいえ、いやぁすいません、実はギルドの依頼でここに来ていまして。と素直に自白するわけにもいかない。  

「それは金を持っている人間の場合、ですよ」  

彼は表情を完全に制御して続けた。  

「一般市民には、気軽に手が出せない値がついています。  
ましてや、神聖魔法の代金まで必要とあれば、なおの事です」  


彼の説明はこうだった。  
まだまだ彼が駆け出しだった頃、一夜の宿を与えてくれた一家があった。  
体力気力の限界にあった彼は、その一夜のおかげで生き延びる事ができ、そして今がある。  
その一家の長が倒れた。  
刻々と本人の体力と蓄えは失われており、試しにといくつもの薬草を購入するわけにはいかない。  
そこで、一家は恥を忍んで彼に依頼をした。  
治ったら、きっと代金を支払う。  
だが、今はその余裕がない。  
なんとかしてもらえないだろうか?と。  
アドルフに否応はなかった。  

「と、いうわけなのですよ」  
「なるほどな、冒険者は自分の利益にならない事はしないと聞いているが。  
随分と変わった奴もいるようだな」  
「まあ、普通なだけでは冒険者は務まらないわけで」  
「世話になった家族への恩返し、か。ふむ、まあいい、それで探し物はニューク草だったな」  
「ええ」  
「それならば足元にあるぞ」  


サトゥーニアの指摘に、一同は足元を見た。  
そこには、夜の闇の中、青い光を放つ、美しい花があった。  

「いやいやいやいや、感謝いたしますよエルフのお嬢さん!  
これで私も昔の恩を返せるというものです」  
「礼はいい、早々にこの森を立ち去るがいい」  
「ありがとうございます、それではこれにて失礼致しますよ」  

手早くニューク草を採取すると、アドルフたちは愛想笑いを浮かべつつその場を立ち去った。  

「サトゥーニア様?あんな連中を逃がしてよかったんですか?」  

ナーカには今のやり取りが不満らしい。  

「逃がさないで、どうするのよ?」  

仕方がない、という態度を崩さずに彼女は尋ねた。  
だが、視線を向けられたナーカは、途端にオドオドとし始める。  

「そ、それは、連中を捕らえて・・・」  
「本当の狙いが何なのかを尋ねる?」  
「そうっ!そうです!」  

彼女の言葉に、ナーカは笑顔を浮かべて言った。  
そして、表情を青ざめさせた。  
見るからに失望した表情を、サトゥーニアは浮かべたからである。  

「いいかしらナーカ」  
「は、はい」  
「五人組の見るからにひよっこの奴らも含めて、彼らの装具を見た?」  
「い、いえ」  
「プレートアーマーなどは一切なし、それでいて食料は沢山もてるようになっていた」  
「つまり?」  
「せいぜいが物見、もしくは本当にニューク草狩り。  
街のギルドが何を考えているかはわからないけれど、警戒すべき事は何もないわ。  
それに、彼らを捕らえたら、いよいよ私たちは引っ込みがつかなくなるわよ」  

街の方角を見つつ、彼女は憂鬱そうに言った。  

「と、いいますと?」  

不思議そうにナーカが尋ねる。  

「新興のニホン国の兵士を捕らえ、今度はグレザール帝国の支配下にあるギルド員を捕らえる。  
何かの手違いで拷問や処刑でもして御覧なさい。  
三日と持たずにこの森は消え去るわ」  

絶句したナーカを無視し、サトゥーニアは部下たちに撤収を命じた。  
もちろん、三人ほどアドルフたちが森を出るまで追跡するようにも命じる。  
開放された安心感で、うっかり目的を喋ってくれるかもしれないからだ。  



西暦2020年8月3日  01:00  ゴルソン大陸  グレザール帝国領  城塞都市ダルコニア  

「はい、そうです。  
恐らくは行方不明の自衛隊の偵察です。  
はい、数は彼らの単位で一個班。  
そうです、ええ、ええ、はい。  
私たちの任務は終了で?  
了解、物資を受け取り、行動を開始します」  

ここまでなんとか守り通していた衛星通信機をしまい込み、グロックは言った。  

「軍曹」  
「はっ」  

今までの態度とは大きく変わり、明らかに上位者に対して接する態度で彼は応じた。  

「我々の冒険者生活は終わりを迎えた。  
三十分後、我々のための物資が投下される。  
目的は、陸上自衛隊と合同での捕虜奪還だ。  
何か質問はあるか?」  
「はい、いいえ少尉殿。何も質問はありません。  
貴様らもそうだな?」  

彼の後ろに立っていた三人組に、軍曹は尋ねた。  
もちろん、厳しい訓練の果てに選ばれた、合衆国海兵隊の精鋭たる彼らに、今の説明で理解できない事など何もなかった。  


そう、彼らは合衆国海兵隊の人間だった。  
この世界の人間に酷似しており、英日両方の言語を操れ、戦闘能力にもサバイバル技術にも問題がない彼らは、諜報員としてうってつけだった。  
旧連合王国捕虜と共に暮らし、この世界での生活習慣を叩き込まれた彼らは、少数で各地の都市へと潜伏していた。  
グロック少尉たちもその一グループである。  
彼らの目的は三つ。  
この世界の『標準の生活』を探し出し、市民の目からその最善を見出す事。  
この世界の他の国家の情報を収集し、今後の外交方針や戦争計画の材料とする事。  
そして、自分たちの名前に反応し、投降に応じないものを抹殺する事。  
一つ目と二つ目は、日本が支配地域と外交に優位を確保するための活動である。  
当事者たちが喜ばないのであれば、いかなるインフラも教育も医療も物資も、援助するだけ無駄になってしまう。  
そして、よく知らない相手との外交では、思わぬトラブルが起こりかねない。  
日本人たちは、多少の人名の損失には目をつぶり、それでも情報の収集に打って出たのである。  
  
それでは最後の一つはというと、これは救国防衛会議の強い要請で採用された方針である。  
技術情報やさまざまな概念が持ち込まれれば、日本の持つ技術的優位というアドバンテージは、物量の前に失われてしまう。  
国家に害をなす者は、憲法で規定されている日本国民の定義から外して構わない。  
そういうことだった。  



「アドルフさんはどうしますか?」  

軍曹が不安そうに尋ねる。  
親しくはしていたが、こちらの正体に疑問符を抱いているようならば殺さねばならない。  

「私には親切な異世界人にしか見えんがな」  

だが、少尉の回答は、アドルフの殺害を否定するものだった。  

「少尉殿がそう仰るのであれば問題はありません。  
それでは回収に出発しましょう」  

軍曹は内心で安堵し、答えた。  
軍人と殺人鬼はイコールではない。  
無意味な殺人など誰もやりたくないのだから当然の反応である。  
彼らは互いに頷き、装具をまとめると、夜の闇の中へと消えて行った。  



西暦2020年8月3日  02:59  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村近郊  

「俺のターンだ!」  
「静かにしてください」  

浮かれた様子で叫んだ佐藤一尉を、二曹は素早く小銃で殴りつけて黙らせた。  
現在、彼らはエルフ第二氏族の村周辺に展開している。  
エルフ第一氏族およびダークエルフの協力により、現在のところ発見された様子はない。  
今回の救出作戦は、救国防衛会議の要請により過大な戦力が集められていた。  
にもかかわらず、今まで発見されていないのには、当然ながらわけがある。  
それは、兵力の大多数が空にいたからである。  

「はじまりましたね」  

時計の針が0300時を示したのを確認し、二曹が言う。  
空の彼方から、爆音の連鎖が響いてきた。  

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