自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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星の光に混ざり、赤く輝く何かが点滅した物体が現れた。  
一つではない。  

<こちらキャリアリーダー、上空に到達、降下開始する>  

前線航空統制官の無線機から声が流れ出し、バサリ、バサリと重い何かが開く音が聞こえる。  
夜目の利く者ならば、そして現代戦を知るものならば、飛来した航空機の編隊がパラシュートのついた何かを投下したことがわかる。  
パラシュートの開く音は一向に途絶えない。  
  
「凄い!こいつは凄いぞ!」  

今回の任務に同行を許可された記者たちが、暗視カメラを上空に向けつつ興奮した声を出す。  
彼らの眼球には、夜空を埋め尽くす空挺部隊が映っているはずであり、興奮するのは当然といえる。  
第一空挺団、陸上自衛隊で最精鋭を持って知られる彼らの、前線での全力降下が、今まさに行われている。  
そして、後にゴルソン大陸総合火力演習と影で呼ばれることになる作戦が開始された。  


「意味もなく夜中に空挺降下、税金の無駄遣いだよな」  

落ち着いた様子でそれを眺めつつ、佐藤は言った。  

「全くですね。夜中に狭い地域にこれだけの兵力を展開して、事故がなければ良いのですが」  
「まあ、政治的配慮とかで少数で特攻させられるよりはましだがな」  
「確かにそうですね」  

今回の作戦は、本腰を入れての捕虜救出作戦ではない。  
この先の城塞都市に篭るグレザール帝国軍に対し、自衛隊の兵器を見せ付ける事すらも第二目標に過ぎない。  
救国防衛会議の目的は、ひたすらに派手な作戦を実行し、戦意高揚のための記録映像を作る事にあった。  
降下を終えた輸送機たちは、エンジンの出力を上げつつ上空を通過していった。  
遠ざかる輸送機とすれ違いつつ、再び航空機の爆音が出現する  
村の上空に到達すると、輸送機たちは再びパラシュートの群れをばら撒く。  
夜空が、白く染まった。  


「照明弾、今回の作戦範囲ならば二つもあれば十分だろうに」  
「ウワサでは、この一斉投下のために相当な訓練を積んでいるそうですよ」  

真昼のように明るくなった森の中で、佐藤と二曹は暢気に会話を楽しんでいた。  
電子装備とエルフの協力者、さらにレンジャー上がりや実戦経験豊富な部下たちに囲まれているからこそ出来る贅沢である。  

「それは俺も聞いたな。  
おまけに、今回の作戦本部にはイベント会社が来ているそうだぞ」  
「らしいですね。こんな調子じゃあ、そのうち高射特科が花火でも打ち上げるのでは?」  
「それは戦争映画らしくないだろう」  
「確かにそうですね。では、戦争映画らしくしましょうか」  
「うん?ああ、時間だな。よし前進する」  

弛緩していた表情と態度を引き締め、佐藤は命じた。  
二曹が頷き、報道の腕章をつけた陸士がカメラを回す。  
戦場で大声を出すような趣味は持っていないんだがな。  
内心で呟きつつ、彼は口を開いた。  

「全員に告げる、これより我々は、捕虜となっている友軍の奪還作戦を決行する!  
彼らは既に長時間に渡る監禁で、心身ともに衰弱している可能性が非常に高い!  
そして敵はエルフ第二氏族、森の住人である彼らは、非常に手ごわい敵だ!」  

一同を見回し、拳を作る。  

「しかし!私は友軍を見捨てるような訓練は受けていない!  
眼前の敵を見逃すような訓練もだ!  
諸君!勇敢にして有能なる陸上自衛官諸君!諸君らはどうだ!?」  
「我々も同様であります佐藤一等陸尉殿!!」  

二曹が声を張り上げ、次々と部下たちが同意を示す。  

「よろしい!ならば私と共に進み、窮地に陥った友軍を救い出し、日本の民主主義を良しとしない連中に教育してやろう!  
総員実弾を装填しろ!前進する!!」  

演技を終えた彼は、カメラが止まっているのを確認して戦闘服の襟元を緩めた。  

「敵に発見された兆候はないな?」  
「あれだけ大騒ぎしたワリには、大丈夫なようです」  

周囲をうかがいつつ二曹が答える。  

「よし、直ぐに移動する。  
報道、死ぬなよ。俺は電子機器の扱いが苦手なんだ」  
「わ、わかりました」  

自動小銃の代わりに拳銃とテレビカメラを与えられた陸士は、心底不安そうな態度で答えた。  
非力な記者たちはここに留まり、安全が確認されるまでは護衛と共に撮影を続ける事になる。  
しかし、彼は不運な事に、これから最前線にカメラ片手に乗り込まなくてはならない。  



西暦2020年8月3日  03:01  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

「三尉殿」  

照明弾の雨が降り注ぐ中、表情を緩めて空を見上げていた三尉に、陸曹が声をかける。  

「いい景色だな三曹」  
「はっ」  
「外出の用意をしろ。  
ここは景色は綺麗だし空気も美味いが、いささか飽きた」  
「はっ、準備は完了しております。あとはあの檻を何とかすれば直ぐにでも」  
「表の監視が何とかなれば力技で・・・」  

視線を正面に戻した三尉は、先ほどまで空を見上げて騒いでいた監視のエルフがいなくなっている事に気づいた。  
よく見れば、血の臭いと倒れ伏す人影、そして音を立てずにうごめく黒い影がある。  

「こんばんわ」  

黒い影の一つが声をかけてきた。  

「陸上自衛隊ゴルソン方面隊ゴルシア駐屯部隊第3普通科小隊指揮官の原田政義三等陸尉さんですね?」  
「こんばんわ、そうですが、貴方は?」  
「今ならば貴方の部下のみなさんも含めての団体旅行を手配できますが、いかがですか?  
しかも、全て税金で、ですよ」  
「無料サービスとは嬉しいな。ところで、マスターキーはお持ちですか?」  

黒い影は笑顔を浮かべて小銃を構えた。  

「開錠もサービスに含めておきましょう。さあ、離れてください」  

空の彼方から、腹に響く爆音の連鎖が接近してくる。  
一機や二機ではない。  

「救出のヘリか?」  
「ですね。安心してください。一人一機でも大丈夫なくらいに沢山来てますよ」  
「それは愉快な事だ。お前らも下がれ」  

部下たちに命じつつ、三尉も後ろに下がる。  
銃声が響き、頑丈そうな鍵は一撃で弾けとんだ。  

「怪我はありませんね?ここはだいぶ開けてますからヘリを呼びます。  
待っていてください。では」  

黒い影は敬礼し、数名を残して立ち去った。  
何を考えて増設したのか、無数のサーチライトを地上に向けて照射している大型ヘリコプターの編隊が現れる。  
その周囲を無数のUH-60やAH-64が乱舞している。  

<我々は陸上自衛隊です。我々は仲間を絶対に見捨てません。希望を捨てず、生き延びてください>  
<抵抗は無意味である、速やかに武装を解除し、投降しなさい>  
<原田三尉およびその部隊員の皆さん、我々は最後の一人まで見捨てません>  

拡声器から増幅された声が次々と流れる。  
何を考えたか、それは女性自衛官の声だった。  

「随分と賑やかにやってるな」  

明るく照らし出された森の中から、それでもはっきりとわかるマズルフラッシュが連続して見える。  
今のところ、村の中で右往左往しているエルフたちに死人は出ていないようだ。  

「空挺が集まってきたな。よし、俺たちも参加するか」  

三尉は気合に満ちた声を出した。  

「三尉?」  

目の前に規模がわからないほどの救出部隊が来ているというのに、何を考えているのかと陸曹は不思議そうな声で尋ねた。  

「折角エルフの村を発見できたんだ、俺たちに出来る仕事をしようじゃないか」  

照明弾に照らし出された原田の顔を見た陸曹は、彼の心に巣食った悪魔を視覚で確認した。  



西暦2020年8月3日  03:03  ゴルソン大陸  日本国西方管理地域  森の中  エルフ第二氏族の村  

草が波打っている。  
その原因は、上空を旋回しているヘリコプターの集団にあるように思えた。  
だが、揺れは止まらない。  
直上をヘリコプターが通過する。  
一人のエルフが、ポカンと口を開けて空を見上げている。  
黒い影がそれに近づき、そして一撃で昏倒させる。  

「貴様!」  

それを見ていた他のエルフが剣を振り上げて叫ぶ。  
草むらから何かが突き出し、そして火を噴いた。  

「成功」  

剣を砕かれ、足を撃たれたエルフが転がる。  
その傍らを、無数の自衛隊員が通過する。  

「一斑は左、二班は右だ。無駄に殺すなよ」  

隊長の言葉を立ち止まらずに受け取りつつ、彼らは歩み続けた。  
不運なエルフが一人、気づかずに接近を許して殴り倒される。  
勇敢なエルフが一人、剣を振りかざした姿勢のまま銃撃を受けて倒れる。  
長期偵察の果てに奇襲を受けた原田たちとは違い、そこに何があり、誰がいるのかを理解している第一空挺団は、無敵だった。  

「隊長」  

小銃を構えたままの隊員が一人、小声で隊長を呼ぶ。  
彼の視線の先には、数名のエルフの集団がいた。  

「いた、いたぃぃ!」  
「黙りなさい!この役立たずが!」  

サトゥーニアは、悲鳴を上げて泣きじゃくるナーカの足を治療している。  
銃弾は綺麗に抜けているが、周囲の肉が欠損しているためにその治療は難航しているようだ。  
周囲のエルフたちは剣を構えて展開してはいるが、その注意の大半は空に向けられている。  

<無駄な抵抗は止め、降伏しなさい>  
<我々は日本国自衛隊です。降伏するものには寛大な処置を約束します>  
<抵抗は無意味である。降伏せよ>  

上空は、幻想的な風景だった。  
無数の照明弾が空を舞い、それに接触しないようにしながらヘリコプターの集団が乱舞している。  
輸送ヘリ、戦闘ヘリ、大型の双発ヘリ、機種も任務も多様な回転翼機の織り成す舞踏会は、照明弾のライトアップの中で威圧感を漂わせて続いていた。  

「撃て」  

空に気をとられているエルフたちには一切遠慮せず、隊長は発砲許可を出した。  
たちまち銃撃が殺到し、哀れなエルフたちは次々と地面へと打ち倒されていく。  
サトゥーニアが銃声に気づいた次の瞬間には、彼女とナーカ以外のエルフたちは地面に倒れていた。  
草木がざわめき、男たちが現れた。  
それを見た彼女は、一瞬で死を覚悟した。  
目の前にいるのは、グレザール帝国程度が持てる様な兵士ではなかった。  
一切の無駄のない装具、見た事のない武器、油断のない身のこなし。  
抵抗しようと考える事自体が無駄に思える。  
無意識のうちに、ナーカを庇う様に体が前に出た。  
無駄なのはわかっている。  
私は、恐らく瞬きをする時間も与えられずに死ぬだろう。  
  
「怪我人か?抵抗しないのならば助けよう」  

目の前の存在は、想定の範囲外の言葉を発した。  

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