西暦2020年8月16日 00:15 某ホテル
「ハハハ!大成功だ!」
テレビで伝えられる新潟駅の惨状を眺めつつ、若い男が愉快そうに笑っている。
「おいおい、見てみろよ、防護服なんて着てやがる!
毒ガスなんてね~よ~」
テレビの中ではレポーターが着剣した小銃を抱える自衛隊員たちを背景に、犠牲者の総数を報告している。
「・・・ということで、現在の時点で死者は100名以上、今後も増えると予測されています。
現場からお伝えしました」
「100人か、まだまだだな。
もう少しうまくいくと思ったんだが」
悔しそうに女性が言う。
見たところ、本気で悔しそうだ。
「まあまあ、次があるさ次が。
こっちの武器は、まだまだあるんだろ?」
優しく慰めつつ男性が尋ねる。
先ほどまでニュースを見て大喜びしていた人物とは、到底同じには見えない。
「あ、ああ、そうだな。
まだまだあるさ、安心しろ」
慰められた女性は、気を取り直して笑みを浮かべた。
それを見た男性も笑みを浮かべる。
「なら大丈夫さ。どうせ警察なんかに俺たちは見つけられない。
それに、見つけられたってあいつらは手出しできないさ」
「そう願っている。
さあ、それよりも今宵も共に楽しもう」
「おうよ」
男女は互いに淫靡な笑みを浮かべ、ベッドの中へと消えていった。
彼らの隣には、大きく膨れた旅行鞄が二つ、転がっていた。
西暦2020年8月16日 07:15 日本本土 防衛省 救国防衛会議
爆破テロから一夜明けた会議室内は、通夜のように静まり返っていた。
あちこちで、疲労を隠せない様子の代表たちが、それでも現状の把握と事態の解決のために電話と格闘していた。
「第四次集計です」
警視庁の代表が、ヨレヨレの書類片手に立ち上がる。
「座ったままでいい、読んでくれ」
一晩でどうしてと尋ねたくなるほどに老け込んだ統幕長が言う。
「はい、死者142名、重軽傷が290名、行方不明が300名以上と思われます。
1000名を超える人がなんとか無傷で逃げ延びてはいますが、だからと言って、この数は・・・」
「なんでそんなにいたんだ?」
疑問を覚えた統幕長が尋ねる。
爆発が発生したのは22時11分。
確かに新潟駅は多くの人々でにぎわうターミナル駅だが、夜の十時を超えて2000近い人々が屯している場所だろうかと疑問に思ったのだ。
「昨日の新潟は風が強く、一部の架線に樹木が接触した影響で、いくつかの路線が停止していたのが原因です」
「クソっ、それで、犯人の目星は?防犯カメラには何か映っていないのか?」
「ダメです。爆発の影響とその後の火災で、駅員室は全滅。記録装置ごと破壊されています。
他の店舗に関しても、爆発とその後の消火活動の影響が大きくテープをいくつか回収できたに過ぎない状態でして」
「失礼しますよ」
憂鬱そうな統幕長と、もっと憂鬱そうな警視庁の代表の会話に、公安の代表が割り込んだ。
「何かわかったのか?」
「ええ、色々と」
顔を輝かせた統幕長に、彼は答えた。
「誰だ!どこのクズ野郎がこんな事をしたんだ!!」
徹夜明け、かつ多くの民間人が犠牲になった後というだけあり、統幕長の理性は非常に弱くなっていた。
「どこそこの誰々さんと断定はできません。
ですが、犯人の目星になる情報です。
一週間前に、大陸に行っていた若い日本人男性が一人、現地で行方不明になっています」
「ああ、一人いたな。居住区から勝手に抜け出した若いのだな」
記憶を辿る表情になった統幕長が答える。
「ええ、彼を今朝、ウチの人間が新潟港で発見しました。
大陸と往復していたコンテナの中から発見されたそうです」
「そいつが犯人か!」
「落ち着いてください。
残念な事に死体で、です」
いきり立つ統幕長を宥めつつ彼は続けた。
「ですが、死体とその周囲の状況が随分と喋ってくれましたよ。
若いのはエルフとこっちに渡ってきたようです。
随分と信用していたようで、最後は全裸になったところで後ろから一刺し。
短剣が後頭部から脳まで突き抜けていました。
一緒にいたと思われるエルフは一人と推定され、頭髪の長さからして女性の可能性が高いです」
現代警察の科学捜査は、一つの死体と僅かな遺留品からそこまでを簡単に突き止められる。
だが、統幕長はその結論でむしろ混乱してしまう。
「まてまてまて、こっちの事を知らない女性のエルフが、金髪の長髪でうろつけばすぐにわかるだろう」
「ええ、ですからこちらの事を知っている者と行動を共にしていると考えて間違いありません。
それでですね、新潟県警は県内全域にローラーをかけるようですが、我々は違うと考えています」
公安の代表は、嫌らしい笑みを浮かべた。
「じゃあ、どこなんだ?」
「新潟から検問にかからずに行けて、そして更なるテロを起こすのに最適な人口密集地があります。
そこは今回のテロからはかなりの距離があり、誰もがまさかと思ってしまう」
「ま、まさか」
統幕長の顔が青ざめる。
公安の代表の笑みは、歪みを増していた。
「そう、日本の首都、我々がいる、東京ですよ」
「ハハハ!大成功だ!」
テレビで伝えられる新潟駅の惨状を眺めつつ、若い男が愉快そうに笑っている。
「おいおい、見てみろよ、防護服なんて着てやがる!
毒ガスなんてね~よ~」
テレビの中ではレポーターが着剣した小銃を抱える自衛隊員たちを背景に、犠牲者の総数を報告している。
「・・・ということで、現在の時点で死者は100名以上、今後も増えると予測されています。
現場からお伝えしました」
「100人か、まだまだだな。
もう少しうまくいくと思ったんだが」
悔しそうに女性が言う。
見たところ、本気で悔しそうだ。
「まあまあ、次があるさ次が。
こっちの武器は、まだまだあるんだろ?」
優しく慰めつつ男性が尋ねる。
先ほどまでニュースを見て大喜びしていた人物とは、到底同じには見えない。
「あ、ああ、そうだな。
まだまだあるさ、安心しろ」
慰められた女性は、気を取り直して笑みを浮かべた。
それを見た男性も笑みを浮かべる。
「なら大丈夫さ。どうせ警察なんかに俺たちは見つけられない。
それに、見つけられたってあいつらは手出しできないさ」
「そう願っている。
さあ、それよりも今宵も共に楽しもう」
「おうよ」
男女は互いに淫靡な笑みを浮かべ、ベッドの中へと消えていった。
彼らの隣には、大きく膨れた旅行鞄が二つ、転がっていた。
西暦2020年8月16日 07:15 日本本土 防衛省 救国防衛会議
爆破テロから一夜明けた会議室内は、通夜のように静まり返っていた。
あちこちで、疲労を隠せない様子の代表たちが、それでも現状の把握と事態の解決のために電話と格闘していた。
「第四次集計です」
警視庁の代表が、ヨレヨレの書類片手に立ち上がる。
「座ったままでいい、読んでくれ」
一晩でどうしてと尋ねたくなるほどに老け込んだ統幕長が言う。
「はい、死者142名、重軽傷が290名、行方不明が300名以上と思われます。
1000名を超える人がなんとか無傷で逃げ延びてはいますが、だからと言って、この数は・・・」
「なんでそんなにいたんだ?」
疑問を覚えた統幕長が尋ねる。
爆発が発生したのは22時11分。
確かに新潟駅は多くの人々でにぎわうターミナル駅だが、夜の十時を超えて2000近い人々が屯している場所だろうかと疑問に思ったのだ。
「昨日の新潟は風が強く、一部の架線に樹木が接触した影響で、いくつかの路線が停止していたのが原因です」
「クソっ、それで、犯人の目星は?防犯カメラには何か映っていないのか?」
「ダメです。爆発の影響とその後の火災で、駅員室は全滅。記録装置ごと破壊されています。
他の店舗に関しても、爆発とその後の消火活動の影響が大きくテープをいくつか回収できたに過ぎない状態でして」
「失礼しますよ」
憂鬱そうな統幕長と、もっと憂鬱そうな警視庁の代表の会話に、公安の代表が割り込んだ。
「何かわかったのか?」
「ええ、色々と」
顔を輝かせた統幕長に、彼は答えた。
「誰だ!どこのクズ野郎がこんな事をしたんだ!!」
徹夜明け、かつ多くの民間人が犠牲になった後というだけあり、統幕長の理性は非常に弱くなっていた。
「どこそこの誰々さんと断定はできません。
ですが、犯人の目星になる情報です。
一週間前に、大陸に行っていた若い日本人男性が一人、現地で行方不明になっています」
「ああ、一人いたな。居住区から勝手に抜け出した若いのだな」
記憶を辿る表情になった統幕長が答える。
「ええ、彼を今朝、ウチの人間が新潟港で発見しました。
大陸と往復していたコンテナの中から発見されたそうです」
「そいつが犯人か!」
「落ち着いてください。
残念な事に死体で、です」
いきり立つ統幕長を宥めつつ彼は続けた。
「ですが、死体とその周囲の状況が随分と喋ってくれましたよ。
若いのはエルフとこっちに渡ってきたようです。
随分と信用していたようで、最後は全裸になったところで後ろから一刺し。
短剣が後頭部から脳まで突き抜けていました。
一緒にいたと思われるエルフは一人と推定され、頭髪の長さからして女性の可能性が高いです」
現代警察の科学捜査は、一つの死体と僅かな遺留品からそこまでを簡単に突き止められる。
だが、統幕長はその結論でむしろ混乱してしまう。
「まてまてまて、こっちの事を知らない女性のエルフが、金髪の長髪でうろつけばすぐにわかるだろう」
「ええ、ですからこちらの事を知っている者と行動を共にしていると考えて間違いありません。
それでですね、新潟県警は県内全域にローラーをかけるようですが、我々は違うと考えています」
公安の代表は、嫌らしい笑みを浮かべた。
「じゃあ、どこなんだ?」
「新潟から検問にかからずに行けて、そして更なるテロを起こすのに最適な人口密集地があります。
そこは今回のテロからはかなりの距離があり、誰もがまさかと思ってしまう」
「ま、まさか」
統幕長の顔が青ざめる。
公安の代表の笑みは、歪みを増していた。
「そう、日本の首都、我々がいる、東京ですよ」