自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年8月21日  21:10  日本本土  東京都中央区銀座六丁目  

「こちら交機202!車輌を捨てて退避する!」  

巡査長は無線機に向かって叫ぶと、既に殉職している同僚を置いてパトカーから逃げ出した。  
ボンネットを一撃で叩き潰されているこの車は、いつ爆発してもおかしくない。  

「下がれー!早く下がれー!!」  

遮蔽物の陰から銃撃を繰り返す警官隊から叫び声が聞こえる。  
巡査長は、一瞬だけ敵を睨み、そして仲間へ向けて駆け出した。  

「おい!後ろ!後ろ!」  

警官隊の誰かが叫び、そして巡査長は後ろから防刃ベストごと体を二つに裂かれて絶命した。  
勝ち誇ったような叫び声が上がり、死と破壊は続行された。  

「畜生!自衛隊はどこにいやがるんだ!!」  

憎憎しげに叫んだ警察官の頭上を、報道のヘリコプターが軽やかに飛翔して行った。  


その化け物は、唐突に出現したらしい。  
最初の通報者は、そう言っていた。  
携帯電話から通報してきた若い女性は、道路の真ん中に見た事もない巨大なライオンがいきなり現れたと叫んでいた。  
直後に車のブレーキ音、衝突音が電話越しに聞こえ、クラクションと何かの絶叫、人間の悲鳴が連鎖してその電話は切れた。  
次に入った情報は、パトロール中の警察官からだった。  
悲鳴を上げた多数の民間人が避難している、何か巨大なものがこちらに向かってくる。  
そこで報告は途絶え、二度と繋がる事はなかった。  
更なる続報は民放局から現場中継という形で入り、そして自衛隊はこの時点でようやく事態を知った。  

「どうしてこちらに情報が来ない!」  
「SATが出動態勢に入っています。  
既に警視庁所属のヘリも離陸しているそうです」  

救国防衛会議は紛糾していた。  
全ての参加者が警視庁の代表を睨みつけ、そして顔面蒼白になった彼は電話の相手に状況の説明を求めている。  
どういうわけだか警察の情報は駄々漏れで、そしてそこから伝わってくるのは、契約不履行。  
日本国の治安維持を行う代わりに給料を貰うという、警察官としての最低限の契約を忘れ、パワーゲームを楽しんだという証拠が続々と入ってくる。  

「機動隊がこちらから給与した武装を持って出動しています!」  
「各県警のSATが出動準備を完成させました!」  

「説明しろ!今すぐここに警察庁長官と警視総監を連れて来い!!」  

激怒した統幕長が机を叩いて叫び、彼の傍らでは副官や将官が忙しなく動いている。  

「そうだ!防衛出動だぞ!なに?交通網が避難民で麻痺している?  
ヘリを使えばいいだろう!航空法なんぞ知ったことか!」  
「港湾局が護衛艦の優先通行権を与えると言っています」  
「街中に艦砲射撃なんぞ出来るか!だが感謝すると伝えろ!」  
「羽田が航空機の避難を拒否した?ぶつかったらそっちの責任だと言って通信を切れ!」  

額に青筋を立てた三軍の将官たちは、部下たちに次々と指示を与えていく。  
防衛出動という大義名分を得ている彼らは、この国で一時的に最高の権力を握っている。  
敵軍を殲滅するまでの間、彼らにとってこの世界最大の都市は、演習場よりも融通が聞く場所でしかなかった。      

「統幕長、待機している部隊を派遣します」  
「いいから早く離陸させろ、街中での発砲も許可する」  
「はっ!」  

陸幕長が敬礼し、次の瞬間には佐藤たちに出動命令が下された。  



同日  21:15  日本本土  東京都中央区上空  

<こちらは機長、あと五分だ。降下用意>  

インカム越しに機長より状況が伝えられる。  
機内ではそれぞれの武器を握り締めた自衛官たちが、無言で座っている。  

「まさか東京上空を完全武装で出動する日が来るとは思いませんでした!」  

エンジンの轟音に負けない声で二曹が叫ぶ。  
その顔には緊張がある。  

「出来れば一生こないでほしかったがな!」  

叫び返しつつ、佐藤の心の中では自分の言葉を強く反芻していた。  
一生こないでほしかった。  
まさにそうだ。  
よりにもよって、陸上自衛隊が首都に完全武装で出動する必要が出てくるとはな。  
電力制限が撤廃された都内は、全ての闇を消し去るように明かりを煌々と灯らせ、UH-60JAを照らしていた。  



同日  21:17  日本本土  東京都中央区銀座六丁目付近  

「いいぞ!もっとだ!もっとだ!」  

目を輝かせたエルフが車の中で叫んでいる。  
傍らでは、表情を輝かせた青年がハンドルを握っている。  
フロントガラスの向こう、渋滞している車列の先では、燃え上がる車輌をバックライトに、警察官を牙に突き刺した化け物が雄たけびを上げている。  
化け物は大きく、醜く、頑丈だった。  
警察官の使用している9mm拳銃弾では、致命傷はおろか怪我すら与えるのは難しい。  
その上空を、報道のヘリコプターが旋回している。  

「上のアレ、落とせないか?」  

青年が尋ねる。  

「できるわよ、待っていなさい」  

エルフが答え、そして次の瞬間、化け物は何かをヘリコプターに向けて発射した。  



同日  21:18  日本本土  防衛省  救国防衛会議  

「・・繰り返します、こちらは現場上空です。  
化け物が、化け物が警察官を食べています!  
あ、今こっちを向きました」  

レポーターの声に、怒鳴りあっていた一同は画面の方を向いた。  
そして見た。  

「・・れは、あれはなんでしょうか?  
犬のような、狼のようなギャギュ!!!!」  

化け物の口が開き、何かがカメラでは識別できない速さで飛び出した。  
妙な声を聞き、カメラがレポーターの方を向く。  
ヘリコプターの壁面が穴だらけになり、女性レポーターは妙な声を残してグロテスクな肉の塊へと変わっていた。  
カメラマンの悲鳴、甲高いエンジン音。  
機体が異常な挙動を示しつつ急降下し、穴の向こうにビルの壁が映った瞬間、画面は砂嵐へと変わった。  

「・・・ヘリが撃墜されたぞ!」  
「移動中の部隊を呼び戻せ!敵は対空火器を装備しているぞ!」  
「周囲の民間機を撃ってもいいから追い払え!被害が広がるぞ!」  

一瞬だけ固まった会議室は、再び賑やかになった。  



同日  21:18  日本本土  東京都中央区銀座六丁目付近  

大破したヘリコプターが石のように落ちてビルへと激突、爆発する。  
一瞬にして燃え盛るビル。  
破壊された壁面から、火のついた人が次々と飛び降りていく。  

「大成功だ!」  

狭い運転席で男性は飛び上がって歓声を上げ、傍らのエルフにキスをする。  
  
「ありがとう、私もとっても嬉しいわ」  

エルフは顔を赤く染めて喜びを伝える。  
唖然と見守っていた周囲の人々が逃げ出す中、二人は車内で幸せそうにその光景を見ていた。  
既に一般警官たちも逃げ出しており、この近辺には建物の中と大破車輌の中に取り残された人を残して無人となりつつある。  
特等席から殺戮を見学したい二人にとって、ここは最高の劇場だった。  

「おかあさーん!痛いよー!!」  

その最高の劇場で、雰囲気をぶち壊しにする観客がいた。  
二人の車の隣で、母親からはぐれたらしい少女が一人、大声で泣き喚いている。  
逃げ出す群衆に突き飛ばされ、踏みつけられたらしい。  
少女の服装は汚れ、手足からは出血があり、さらに肩を脱臼しているらしい。  
愉快そうな表情を浮かべたエルフは、窓を開くと無言で短剣を少女に向けて投げつけた。  



同日  21:19  日本本土  東京都千代田区丸の内1丁目  東京駅上空  

<対空火器があるんだぞ!>  
「近くで構わんと言っている、そこで下ろしてくれ」  

帰還中だったヘリの中では、パイロットと佐藤が言い合いをしていた。  
防衛省から来た命令は明確だった。  
敵は対空火器を装備しており、空からの侵入は危険なため帰還せよ。  
搭乗している部隊は車輌部隊と合流し、敵脅威を殲滅せよ。  
なお、既に車輌部隊は現場へ移動中。  
  
「車を待っていたのでは間に合わない」  

佐藤は冷静に言った。  
内心では今すぐ小銃を突きつけてでも現場に急行したいが、それにはパイロットの協力が必要不可欠である。  
だからこそ、彼は出来るだけ冷静さを保っていた。  
だが、彼の心の中では自衛官としての義務が声高に主張していた。  

強い責任感をもつて専心職務の遂行に当たり、  
事に臨んでは危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務め、もつて国民の負託にこたえることを誓います。  

俺は自衛官として宣誓したじゃないか。  
対空火器が何だ、俺は危険を顧みず、身をもつて責務の完遂に務めないといけない身分じゃないか。  
  
覚悟を決めた彼が小銃の安全装置を解除しようとした時、ヘリの通過を確認したらしい車輌部隊から通信が入った。  

<上空を移動中のヘリコプター!どこへ行く!俺たちを拾っていけ!!>  

基地においてきた予備隊の三尉が叫んでいた。  
彼の声は切迫しているが、まだ狂気は感じられない。  
佐藤は安堵を覚えつつ、パイロットに何か話しかけようとした。  
だが、それより前に彼は口を開いていた。  

「こちら桜空輸、我々は貴隊との合流を命じられている。  
敵は対空火器を有しており、我々は接近できない。搭乗している部隊を降下させる」  

無常ではあるが、命令違反はしていない。  
佐藤たちよりも大陸での任務が少なかったらしいこのパイロットは、未だ自衛官としての常識を残しているようだ。  

<撃ち落されたいのか!今すぐ俺たちを現場に連れて行け!>  

三尉の叫び声に、佐藤は慌てて下を見た。  
車道も歩道も関係なく逃げ惑う人々によって、道路は完全に麻痺していた。  
あちこちで赤色回転灯を回したパトカーや救急車が立ち往生しており、どうやら交通事故を起こしたらしい自家用車が残骸となって路上に点在している。  
その路上に、武装した自衛官たちが次々と降車し、小銃を振りかざしつつ前進を試みている。  
隣では、盾を構えた機動隊員たちも前進を試みているようだ。  
小銃をこちらに向けて立っているのは、あれが三尉だな。  

<総員対空戦闘用意!上の腰抜けヘリを狙え!>  

正気を失いだした三尉の怒号が聞こえる。  
あいつならば、本気で撃つだろうと佐藤は内心で覚悟した。  

「ああもう!わかったよ!」  

覚悟を決めたらしいパイロットは叫んだ。  
しぶしぶというよりも、彼の内心で良識が常識に勝った感じの声音である。  

「おまえらの大将を運んだら次はおまえらだ!銃を向ける相手を間違えるんじゃねぇ!!」  

叫ぶなり電線や気流の存在を無視した急旋回を実施すると、ヘリコプターは乗客をミンチにするかのような荒っぽい機動で現場へ向けて移動を開始した。  
周囲の風景が流れ、天地がまるで逆転したかのように動く。  
平均感覚が失われ、佐藤はすっ飛んで二曹を押し倒していた。  

「一分だ!何かに掴まってお祈りでもしてろ!」  

二曹に蹴り飛ばされた佐藤の耳に、パイロットの怒号が入った。  



同日  21:20  日本本土  東京都中央区銀座五丁目  三階建てのビルの屋上  

「ジャスト1分だ!良い夢見れたか!?」  

先ほどまでの殺人的な機動は終わり、ビルの屋上すれすれに機体を制止させたパイロットが叫ぶ。  
ドアが開かれ、そして最初に二曹が飛び降りる。  

「降りろ降りろ降りろ!!」  

二曹が叫び、そして言われるまでもなく隊員たちはヘリコプターから飛び降りた。  
小銃を持った隊員は安全装置を解除し、重火器担当の隊員たちは武装をヘリから下ろす。  
  
<残りを運んだら近くで待機する!いいな!ここまでしたんだから絶対殺せよ!>  

全員が屋上に展開した事を確認したパイロットは、そう叫ぶとヘリを上昇させた。  
思わず見惚れるほどに見事な旋回を実施し、車輌部隊の方へと飛び去っていく。  

「全員安全装置を外せ、だが、逃げ遅れた民間人が残っている可能性もあるため、動くものを片っ端から撃つんじゃないぞ!前進!」  

佐藤が号令を下し、彼らは屋上のドアへと前進を始めた。  
と、そのドアが内側から勢い良く開かれる。  

「なんだてめぇら!!」  

拳銃を持った男たちが現れる。  
警察官には到底見えない。  

「撃つな!撃つなよ!」  

一斉に小銃を構えた隊員たちを制しつつ、佐藤は一歩前に出る。  
目は血走り、構えた小銃は安全装置が解除されている。  

「自衛隊だ、そのオモチャを捨てて直ぐに逃げろ」  
「なんだと!もういっぺん言ってみろ!」  

状況をわかっていないのか、それとも虚勢を張っているのか。  
相手は佐藤の言葉に素直に従おうとしない。  
隊員たちが一瞬で全員を射殺できるように、静かに展開していく。  

「最後の警告だ。武器を捨て、この場から立ち去れ。  
我々の行動を妨害するのならば、貴様と仲間たちは国家の敵だ」  

佐藤は小銃の筒先を手前の男の顔面に突きつけ、そして言った。  

「蜂の巣になりたいか!?」  

脅しの効果は抜群だった。  
何しろ、自衛隊は民間人相手にも平気で発砲できる事は周知の事実になっている。  
ましてや、カタギの職業ではなく武装もしている自分たちが例外になれるわけがない。  
男たちは、上位者に命令されるまでもなく武器を捨てた。  

「下まで案内しろ」  

日ごろの余裕を完全に失っている佐藤に命じられ、彼らは大人しくビルの玄関まで先導役となった。  



同日  21:24  日本本土  東京都中央区銀座六丁目  路上  

「いました。あそこです」  

遮蔽物に身を隠しつつ、陸士長が小声で報告する。  
ゆっくりと前進していた佐藤たちは、それを聞いて停止した。  
化け物は負傷した避難民や警察官を、実にうまそうに食べている。  
こちらに気付いた様子はない。  

「9mm拳銃弾では致命傷を与えられないっていう話だ。  
横田陸士長、二人連れて適当なビルの上から発砲しろ。だが、効果がなかったら直ぐに退却だ」  
「復唱、横田陸士長ほか二名、ビル屋上より」「いいから行け」  
「はっ!」  

最後尾にいた三人が駆け足でその場を離れていく。  

「我々はどうしますか?」  

二曹が尋ねる。  

「上からの銃撃が始まったらこっちも一斉射撃だ。  
無反動砲は悪いが、路上に出て発砲しろ。ここじゃ狭すぎるからな」  
「り、了解」  

無反動砲を背負った陸曹が青い顔で答える。  

「重機関銃は適当な位置を見つけて展開、ヤバイ時は武器を置いて逃げろ」  
「はっ」  

機関銃班が答える。  
東京の路上を舞台に、自衛隊と化け物の戦闘が始まろうとしていた。  

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