自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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<ゴルシア14よりゴルシア1、二つ隣の三階に展開しました。準備完了>  

先ほど離れた三人から報告が入る。  

「ゴルシア14、始めろ」  
<了解>  

通りの向こうから、聞きなれた自動小銃の射撃音が聞こえてくる。  

「突撃!!!」  

佐藤が号令を下し、隊員たちは一斉に路上へと躍り出た。  
最初に飛び出したのは、やはり身軽な小銃班員である。  
道端に転がる死体を無視し、放棄された車輌の陰へと潜り込むとすぐさま射撃を開始する。  

「ウラァァァァ!!」  

恐怖を振り払うために雄たけびを上げつつ84mm無反動砲を構えた陸曹が飛び出す。  
彼は味方にバックブラストの影響を与えないため、一番遠くに行かなくてはならない。  

「急げ急げ!!」  

アドレナリンの影響か、M2重機関銃を軽々と抱えた機関銃班も飛び出していく。  



同日  21:24  日本本土  東京都中央区銀座六丁目  とあるビルの三階  

「撃てぇぇ!!」  

コールサイン:ゴルシア14こと横田陸士長は、銃撃音に負けない叫び声を上げていた。  
眼下に広がる化け物は、信じがたい事に小銃弾を弾いていた。  

「効いてませんよ!」  
「いいから撃て!」  

悲鳴を上げた陸士を怒鳴りつけつつ、彼の心の中は恐怖に満ちていた。  
敵には小銃弾が効かない。  
つまり、自分たちはあと数十秒であそこで喰われている警察官と同じになってしまう。  
糞、どうして自分が。糞。  
恐怖に彼が負けそうになった瞬間、別の方向から銃撃が開始された。  
  
パパパンは89式  
バババンはM2  
バシュッと聞こえたら、そこはもう激戦区  
    
大陸に派遣された自衛隊員たちが非公式に語っている音での武器識別に従うのならば、都内の一等地であるここは激戦区だな。  
銃撃音に力づけられた彼は、心の中でそう呟きつつ、背負った110mm個人携帯対戦車弾に手を伸ばした。  

「撃てぇ!撃てぇ!!」  

叫びつつ、佐藤の内心も恐怖で埋め尽くされていた。  
相手は小銃弾を弾いている。  

「無反動砲急げ!手榴弾!!」  

佐藤が叫び、隊員の半数が銃撃を止めて手榴弾を取り出す。  
銃撃を無視していた化け物は、そこで初めて敵対行動を取った。  
巨大な尻尾を、五月蝿そうに振るったのである。  
停車していた国産の軽自動車が紙くずのように吹き飛ぶ。  

「嘘だろ、おい」  

自分に迫る0.8tの金属の塊を目にした陸曹が呟き、次の瞬間、彼は傍らに転がった無反動砲を残して肉塊へと変わった。  
金属と湿った何かがアスファルトと摩擦しつつ吹き飛んでいく。  

「撃てぇ!撃てぇ!」  

隊員たちは、仲間を殺された怒りも、そして目の前の化け物への恐怖も忘れて射撃を継続していた。  
  
「手榴弾!」  

再び佐藤が叫び、手榴弾片手に唖然としていた陸士たちが、我に返って投擲を開始する。  
全員が遮蔽物の陰へと身を伏せ、そして爆発。  
そのまま放棄車輌に引火したらしく、続けてオレンジ色の閃光が広がる。  

「撃て撃て!何をしている!!」  

隊員たちの後ろを佐藤は駆けつつ叫ぶ。  
我に返ったものから銃撃が再開される中、彼は無反動砲の元へと辿り着く。  
本体に残っている陸曹の片手を取り外し、敵の方を向く。  
無数の炎に囲まれた敵は、どうやらエサを焼かれて怒っているらしい。  
信じられない。  
照準機の向こうの敵を睨みつつ、彼は思った。  
5.56mmNATO弾も、M26A1破片手榴弾も、相手には効かないのか。  
見た限りでは、辛うじて体の数箇所から出血が見られるだけである。  
と、冷静に状況を説明しつつも、彼の中の訓練された部分では、無反動砲の射撃手順が進んでいた。  
傍らでは、いつの間にか付いて来ていた二曹が小銃を発射している。  

「撃つぞ!」  

佐藤は叫び、そして発射した。  
装填されていた榴弾が飛び出し、敵めがけて一直線に飛んでいく。  
だが、敵はそれを脅威と思ったのかひらりとかわし、榴弾はその先に放棄されていた車輌に突き刺さって爆発する。  

「嘘だろ・・・伏せろ!」  

明らかにこちらを向いている敵を確認した佐藤が叫び、小銃を撃っていた隊員たちは慌てて伏せる。  
だが、重機関銃を連射していた機関銃班には、その声は小さすぎた。  

「効いてますよ!!!」  

曳光弾を睨みつつ、射撃していた陸士長が叫ぶ。  
小銃弾では弾かれてしまう、無反動砲はよけられてしまう。  
だが、さすがにこいつは無理みたいだな。  
笑みを浮かべつつ銃撃を繰り返す彼の視界の中で、敵は再び尻尾を振るった。  
乗用車が吹き飛び、そして次第に大きくなってくる。  
銃弾を飲み込み、穴を開け、大きくなってくる。  

「ダメだ!退避しろ!」  

機関銃班が消滅したのを見た佐藤は叫んだ。  
もはや彼らの装備している武器では対処の出来ない相手だった。  
機関銃班は全滅し、無反動砲ではよけられてしまう。  

「どうするんですか!?」  

路地裏へと逃げつつ二曹が叫ぶ。  

「どうしたらいいんだ!いや、すまん、待て」  

思わず怒鳴り返してから我に返って彼は謝った。  
自動小銃は効かない、無反動砲は回避される。  
重機関銃は効果があるようだがこっちが回避できない。  
対空装備を持っているという事は戦闘ヘリも投入できず、こんな市街地では戦車は投入できない。  
どうしたらいいんだよ。  



西暦2020年8月21日  21:26  日本本土  防衛省  

「どうしたらいいんだよ」  

頭を抱え込んだ統幕長が呟く。  
現地では戦闘能力を喪失した部隊から、撤退を求める連絡が入っている。  
関係各機関からは指示を求める通信が入り続けている。  
  
「航空自衛隊の一部の飛行隊が勝手に上空に展開を開始しました!」  
「海上自衛隊より艦砲射撃の要請が入っています!」  
「木更津駐屯地より入電!戦闘ヘリコプター部隊が無許可で離陸!」  
「何だと!?直ぐに司令に繋げ!」  

最後の報告に席を立って彼は怒鳴り返した。  
対空火器の脅威があるというのに、陸自は情報の連携すらきちんと出来ていないのか。  

「繋がります」  

オペレーターが冷静に報告し、そして統幕長は受話器を掴んだ。  

「どうなってる!何をやっているんだ!?」  
「報告します。第四対戦車ヘリコプター隊は、全機が銀座付近に移動中です」  

絶叫する彼とは対照的に、基地司令は冷静な声で報告した。  

「直ぐに呼び戻せ!今すぐだ!」  

怒りに燃える統幕長は、再び叫んだ。  
戦闘を管制するために、彼の精神は磨り減っていた。  
救国防衛会議は、消滅した日本政府の代わりに国家を動かす存在である。  
つまり、内閣総理大臣も防衛大臣も消えてしまった現在、統幕長の任にある彼は三役をこなさなければならないからである。  

「貴様は!貴様らは自衛隊員としての職務を忘れたか!」  
「眼前の国家の敵を見逃す事は、本職の職務に含まれておりません。  
閣下、ご決断を。今は自衛官の安全を配慮していられる情況ではありません」  

最後の一言は、統幕長の言葉に響いた。  
確かに、事態は一刻を許さない。  
いかなる犠牲を払ってでも、敵を殲滅する必要がある。  
敵が銀座付近を出れば、二次被害も含めてどれほどの損害が出るかわかったものではない。  


彼自身も、ここが日本の都市でなければ重砲でもミサイルでも何でも使って敵殲滅を命じている。  
しかしここは東京。  
よりにもよって日本の首都である。  
損害に構わず攻撃を命じるわけにはいかない。  
そして、建物や電線がある事から、自由な機動を取れるわけではない対戦車ヘリコプターなど、間違っても投入するわけにはいかない。  
いかないが、ここは覚悟を決めるべきところかもしれない。  

「全員了承しているんだな」  
「はい、覚悟の上での出撃です」  
「ならいい。状況が変わったら連絡する」  
「感謝します」  

通信は切れ、そして統幕長は椅子に座り込んだ。  
一同が心配そうに見る。  
  
「俺はいい、現状を報告しろ」  

慌てて仕事に戻る一同を見つつ、統幕長は脳内でシミュレートしてみた。  
駄目だ、戦闘ヘリならまだしも、砲爆撃だけは許可できない。  
効果的な消火活動など望めるはずもない現状では、どんなに気を配っても大火災になってしまう。  



同日  21:29  日本本土  東京都中央区銀座六丁目  上空  

<ひでぇなありゃあ>  

二番機から通信が入る。  
大陸のあちこちに分遣隊を出している彼らは、全力出撃を行っても総勢で六機しかいなかった。  
それでも対空火器の脅威さえなければ、一個機甲大隊相手でも十分に翻弄できる戦力である。  
問題は、相手が小銃弾を弾くほどに頑丈で、そして戦車など話にならないほど機動力を持っていることか。  
内心で呟きつつ、編隊長は地上へと通信を投げかけた。  

「こちらレインボー1、地上に展開中の部隊、聞こえるか?」  
<こちらゴルシア1!佐藤一尉だ!撤退命令はまだか!?死傷者多数!弾薬も残り僅か!どうなってるんだ!?>  

地上部隊は想像以上に消耗しているらしい。  
これでは共同作戦を行うどころか、数刻持たずに全滅してしまうだろう。  

「落ち着いてくれゴルシア1、こっちはAH-64DJ六機だ。  
敵の位置はわかるか?」  
<PAPAPAN!!あっちこっち走り回ってやがる!二曹下がれ!こっちへ来たぞ!退避!総員退避!総員たいhzzzzzzzzz>  

銃声や悲鳴交じりの通信は、雑音を残して途絶えた。  

<見えました、六時の方向>  

左側を飛行していた僚機から報告が入る。  
逃げ惑う隊員たちの後ろを、巨大な何かが追いかけている。  

「レインボー1より各機、オールウェポンズフリー、友軍を救え。散開」  

この状況で全機から暢気に復唱が帰ってくるわけもなく、彼らは対空脅威が存在している空での戦闘を開始した。  



同日  21:30  東京都中央区銀座七丁目  路上  

「三尉!生きていますか!?三尉!」  

吹き飛ばされてきた電柱に倒された佐藤を二曹が助け起こす。  
見たところ擦り傷以外に怪我はない。  
残念な事に、隣に倒れている通信士は駄目なようだ。  
怒号と銃声が飛び交う中で、二曹は冷静に診察を行った。  
私は応急処置は得意な方ではあるが、さすがに路上に飛び散った脳を処置する方法は知らないからな。  
  
「俺は一尉だ!」  

二曹の手の中で、佐藤は異議を申し立てた。  
    
「起きているのならばさっさと立ち上がってください」  

無情にも手を離すと、二曹は傍らに置いた小銃を手に取った。  

「畜生!軍法会議にかけてやる!」  

後頭部を地面にぶつけた佐藤は、元気に喚きつつも自力で起き上がろうとしている。  

「じゃあその前に一尉殿には名誉の殉職を遂げていただく必要がありますね」  
「ウソですごめんなさい」  

慌てて立ち上がり、佐藤は装備を改めた。  
89式小銃は無残に折れ曲がっている。  
どうやら、これが肋骨の代わりに体の手前で衝撃を受け止めてくれたのでかすり傷で済んだらしい。  

「感謝する、休め」  

小銃の傍らで倒れている戦闘服姿の精霊に敬礼すると、佐藤は腰に挿した拳銃を取り出す。  
こっちは無事のようだ。  
装填を確かめ、安全装置を再度かける。  

「生存者は貴方と私を入れて六名、内一名重症です。弾薬は尽きかけており、重火器は全て失われました」  
「敵はどうした?」  

二曹は答える代わりに空を指差した。  
戦闘ヘリコプターだけが出す事のできる、周囲全てを威圧する飛行音が聞こえる。  

「友軍のヘリ部隊が駆けつけてくれました。  
建物に邪魔されて敵を殺す事は出来ていませんが、なんとかこっちは生き残れています」  
「上からは?」  
「そもそも連絡が付きません」  

二曹は頭部を失った通信士に押しつぶされた野戦通信機を指差した。  
糞!  
車輌部隊を迎えに行ったヘリも帰ってこない。  
戦闘ヘリは来たが、通信機が壊れたとなれば連携は取れない。  
よりにもよって、東京のど真ん中で孤立するような事があるとは。  

「東京のど真ん中?」  
「どうしたんですか?」  
「どっかに死体ないか?鞄でも良い」  

急に左右を見回した佐藤を見て、二曹は心配そうな顔をした。  
どこか、良くない場所を打ったのかもしれない。  
だが佐藤は違った。  
彼の頭の中で作戦案が練られていく。  
上空から聞こえる戦闘ヘリコプターの音。  
もっと上から聞こえるジェット機の爆音。  
東京湾には自衛艦隊と在日米軍がいる。  
都内の地理はどうだった?  
市街地じゃない場所がある。  
そう、あれは、あそこは確か警察密着24時で見ただろう。  

「携帯電話を手に入れろ!指揮所に連絡を入れるんだ!」  
「しかし、指揮所に何を連絡するんです?」  

指揮系統を復活させようという考えに至らないところを見ると、どうやら二曹も冷静になりつつも混乱しているらしい。  
だが、自身の思いつきで脳内が埋まっている佐藤はその事に気付かない。  

「俺の閃きってやつだよ」  
  
不適に笑いつつ、彼は手ごろな鞄をあさりだした。  
どんなに好意的な見方をしても、その姿はただの火事場泥棒だった。  

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