自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年8月21日  21:35  日本本土  防衛省  

「航空自衛隊より地上攻撃の許可を求める通信が入っています!」  
「海上自衛隊も同様です!」  
「どっちも黙らせろ!いくらなんでもそれは許可できない!!」  

机を叩き、統幕長は叫んだ。  
  
「敵生命体は築地方面に逃走中!都心環状線を越えて築地四丁目に侵入しました!!」  
「なんだと!どうして押さえられないんだ!」  

スクリーン上の地図がゆっくりと動いていく。  
この地図が相当な縮尺で作られている事を考えれば、敵生命体の異様な移動速度がわかる。  

「どこだ!?何処に向かっているんだ!?」  
「わかりません!追跡中のヘリコプターから闇雲に逃げ回っているようです!」  
「先発させた部隊は!?」  
「通信が途絶えています!」  

一同の視線がスクリーン上に集まる。  
周辺地域は、巨大な壁や機甲師団によって隔てられているわけではない。  
あくまでも、警察や軽装の普通科によって外部からの進入を禁止しているだけに過ぎない。  
敵生命体が封鎖地域の外に出れば、酷い事になる。  
そして、敵と移動中の戦闘ヘリコプターを示す光点は、確実に封鎖地域の外へと向けて突き進んでいる。  

「統幕長閣下」  

コーヒーを片手に持った副官が、立ったままの統幕長のそばへとやってくる。  

「なんだ?もう悪い知らせは聞き飽きたぞ」  
「外線五番に、先発隊の佐藤一尉から電話です」  

副官が言い終わるなる、彼は受話器を取り上げて赤く点滅する外線五番ボタンを押した。  

「佐藤一尉!どうなっている!敵はまだ健在だぞ!」  
<私は簡単に倒してご覧に入れましょうなんて一言も言ってませんよ。  
こちらは私を入れて六名生存・・・畜生!今五名になりました。  
それよりも提案です!砲爆撃を遠慮なく出来るやつですよ!>  
「言ってみろ」  

答えつつ、統幕長はハンズフリー通話に切り替える。  

<・・・そうだ二曹!そこを左折しろ!  
敵を晴海埠頭に誘導するんです!そこならば周辺被害を気にせずにやれます!>  
「晴海埠頭?そこに行くまでにどれだけの距離があると思ってる!!」  
<隅田川を越えさせれば直ぐですよ!  
直進だ二曹!隅田川を越えるまでずっとだ!  
こちらは現在晴海通りを南下中!>  

そこまで言われて統幕長はようやく異常に気付いた。  
先発で送り出した部隊は、確かヘリで投入されたはず。  
なのに、電話口からは車のエンジン音、銃撃音が絶えず聞こえてくる。  

「さては、一尉、民間車輌を接収したな?」  
<非常事態なんです、そこは見逃してください>  
「統幕長!」  

オペレーターの一人が声を上げる。  

「なんだ!今通話中だぞ!」  
「戦闘中のヘリコプター部隊より民間の車輌が一台、敵生命体に銃撃を加えつつ現場に侵入してきたと報告が入っています!  
あ?いえ、訂正します。民間車輌が敵生命体を誘導するように南下を開始、築地六丁目に入りました!」  
「そいつには味方が乗っている!誤射に気をつけろと伝えろ!」  

統幕長は叫び返す。  
別のオペレーターが、話し終わるのを待っていたかのようなタイミングで報告する。  

「警視庁より入電、勝どき・浜松町・月島方面の避難はほぼ終了。築地は二から七丁目までの避難が完了しましたが、聖路加国際病院の避難が遅れているそうです」  
「佐藤一尉!死んでも勝鬨橋を渡れ!!」  

入ってきた報告を聞いた統幕長が叫ぶ。  
当初の現場に近い位置にある聖路加国際病院は、その立地と医療設備が整っている事から野戦病院として使用されていた。  
そのため、動かす事など到底不可能な重傷者が多数、手術室や集中治療室にいるため、避難が大変に遅れていた。  
間違えても敵をここに入れるわけにはいかない。  

<わかっています、現在勝鬨橋西交差点を通過中!上の戦闘ヘリにもこっちのやりたい事を伝えてください!  
電話はこのまま繋いでおきます!ひとまずオワリ!>  

誰かに電話を渡したらしい物音が聞こえ、そして銃声が一つ増えた。  

「誰か!現地の戦闘ヘリコプターに伝えろ!晴海埠頭だ!そこまで奴をおびき寄せるんだ!」  

叫び終わると、彼は副官からコーヒーを受け取る。  
一口飲み、そして再び叫ぶ。  

「海空の責任者は来てくれ、晴海埠頭で決戦だ!」  

佐藤の案は、ここが東京で、そして戦場であるという所から来る思考の硬直を破壊するものだった。  
正直な所どうして誰もが気付かなかったのか自問したくなるが、東京にはなんでもある。  
徒歩で送り込まれ、どうやら通信機も失ったらしい彼らが、携帯電話をどこから入手し、そして放棄車輌で移動できているように。  
建物がこれでもかと密集している過密都市でありながら、まだまだ更地が残っている埋立地があるように。  
そこは、どんなに火力を投射しても周囲に被害が広がりづらい構造をしている。  
何しろ区画ごと海に飛び出しているのだ。  
五丁目から南西に行けば、そこは更地が広がっている。  
航空爆弾で急降下爆撃する事もできれば、艦砲を直接照準で撃ちこむ事も余裕である。  

「いけますよ!統幕長閣下!ここならば陸海空三軍の火力を存分に振るえます!」  

副官に何かを命じつつ陸幕長が叫ぶ。  
他の二軍の長も同様である。  
副官に命じつつも、顔を輝かせてやれますと叫んでいる。  

「詳細を直ぐに詰めろ。動かせる部隊は好きなだけ使え。  
あのクソ忌々しい化け物に、自衛隊の本当の力を教えてやれ。  
・・・ああそれと」  

そこで、統幕長は思い出したかのように付け加えた。  

「ちょうど良い訓練になる。国民保護に係る警報を全国に流せ。  
各都道府県警と共同で、有事の際の国民の動きを調べるんだ」  
「わかりました」  



西暦2020年8月21日  21:42  日本本土  東京都中央区勝どき2丁目  

「そうです!今勝どき駅を越えました!」  

携帯電話相手に若い陸士が叫んでいる。  
彼は小銃も手榴弾も失っているため、臨時の通信士となっていた。  

「追いかけてきてますよ!」  
「追いかけさせてるんだ!いいから撃て!」  

陸士長と陸士が叫びあいつつ銃撃をしている。  
叩き割られた後部ガラスの向こうには、咆哮を上げつつ迫る化け物の姿が見える。  
左右には放棄車輌の群れ。上空には追尾する戦闘ヘリコプター。  
いやはや、壮絶な光景だな。  
他人事のように思いつつ、拳銃しか持たないためにこの場では眺めている事しかできない佐藤は前を見た。  
後ろから迫りつつある化け物ですら逃げ出すような表情を浮かべた二曹が前方を睨みつけている。  
  
「いやしかし、渋滞してなくて助かったな」「話しかけないで下さいよっ!!!」  

この状況下で退屈を感じている佐藤が話しかけると、二曹は声だけで人を殺せるような世にも恐ろしい怒号を発した。  
  
「はい、黙ります」  

大人しくなった彼は、周囲の風景に目をやった。  
この地区の避難は本当に終了しているらしく、動くもの一つない。  
いや、あるとすれば赤色回転灯か。  
・・・赤色回転灯?  
唖然とする佐藤を乗せた車は、全速力で黎明橋へ向かって突き進んでいく。  
朝潮運河に架かるこの橋を越えれば、目的地である晴海埠頭は目の前である。  
その橋の対岸、晴海側に、赤色回転灯が無数に見える。  

「なにやってるんだあいつら!!」  

それなりに良い視力である彼は、対岸の様子が実に良く見えた。  
展開準備を進めている機動隊員、旋回するヘリコプター、いつでも橋を閉鎖できるように準備している装甲車。  
  
「電話を貸せ!!」  



西暦2020年8月21日  21:42  日本本土  防衛省  

<警察が歩道橋前で展開してます!あいつら何やってるんだ!!>  
<本部!本部!警察がいるぞ!何やってるんだあいつら!>  
<警察車輌が道路を封鎖しています!こんな事は聞いていません!どうなっているんですか!?>  

現場上空の戦闘ヘリコプター、佐藤一尉からの報告、周辺監視に出したRF-15DJ、全てが同じ内容を叫んでいた。  
豊洲方面に向かっていた警視庁の封鎖部隊は、いつの間にか晴海通りに展開を行っていた。  
それも、どこからか増援部隊を集めて完全に通りを閉鎖しようとしていた。  

「貴様!作戦をぶち壊しにするつもりか!!」  

統幕長がいよいよ我慢できずに拳銃片手に立ち上がった。  
流れるような動作で警視庁の代表に照準し、安全装置を外す。  

「ま!まってください!上層部でも制止できないんです!!」  

彼の言っていることは全くの事実だった。  
この時、警視庁の上層部は、控えめに言って大混乱だった。  
事の起こりは、同僚を失った所轄署所属の警察官数名が、自衛隊からの貸与装備を手に出動した事だった。  
署員を『喰われる』という前代未聞の出来事に激怒した署長は、自衛隊だけでケリを付けられる事を看過できなかった。  
彼は出動した連中を制止するどころか、手すきではない者まで動員して署内の全ての武器弾薬と車輌を持ち出させた。  
射撃訓練でパトカーを完全に貫通して見せた5.56mmNATO弾ならば、それを無数に射出できる機関銃さえあれば、仲間の仇をきっと討てる。  
どうやら彼はそう考えていたらしい。  
もちろん、錯乱していたようだ。  
錯乱はしていたが、血気盛んだった彼は、周囲の武装した警察官全てに勝手に連絡を取った。  

「首都の治安は軍隊ではなく、警察によって保たれなければいけない。今こそ我々が立ち上がるべき時だ」  

自衛隊部隊の先導程度しか出番がなかった全ての警察官が、持てるだけの装備を持って動き始めた。  
上層部は政治的判断やら何やらで勝手に自衛隊と話をつけて、東京で戦争をしている。  
治安を預かるべき警察が、それを見逃して良いはずがないのに。  
この異常状態でフロントラインシンドロームになっていた彼らは、上を完全に無視して現場同士で話をつけた。  
所属を、管轄を超えて彼らは一致団結し、この難関に当たっていた。  
そして、現場に展開していた全ての警察官が、現実を思い知る瞬間がやってきた。  

銃撃を繰り返す4WDが、猛スピードで装甲車の間を通過する。  
すぐさま装甲車たちはエンジンを唸らせ、隙間を埋め、放水砲塔を旋回させる。  
無数の照明が灯される。  
晴海側の沿岸全てに展開している警察車輌が、ライトを灯し、サイレンを鳴らして威嚇を試みる。  
機動隊員たちが自動小銃や軽機関銃を発砲し始める。  
化け物は怯まない。  
警察官たちにとっては慣れない銃火器ではあるが、数が揃っているために命中弾が増えてくる。  
化け物は止まらない。  
距離が詰まる。  
撃ちつくす者が増えてくる。  
射線上に人間がいるため、戦闘ヘリは発砲できない。  
化け物が橋に入る。  
装填を終えたものから射撃を再開する。  
化け物は加速し、宙に舞った。  
それは幻想的な光景だった。  
無数の照明、銃火、星空を背景に、化け物は宙を舞う。  
そして、いとも簡単に装甲車を飛び越える。  
動かなかった警察官たちが何人も踏み潰されて即死する。  

「退避ー!」  
「逃げるな!撃てぇ!!」  

号令が飛び交い、混乱した警察官たちは銃撃を止めない。  
化け物が尻尾を振るう。  
固まっていた警察官たちは、その一撃だけで数十名が吹き飛ばされて死亡する。  
さらにその先にいた警察官たちは、飛んでくる同僚に銃弾を当ててしまった後で激突される。  
4WDの通過からこの間、わずか一分弱。  
勇猛果敢だった彼らは、この一分弱で戦闘能力と戦意を完全に喪失した。  

「逃げろぉ!!」  

離れた場所からその姿を見ていた巡査部長が叫ぶ。  
凍りついたようになっていた警察官たちは、その言葉で瞬間解凍され、一斉に武器を捨てて逃げ出した。  
誰もの心の中に恐怖があった。  
銃弾は効かなかった。  
仲間は一斉に殺された。  
自分たちではどうしようもない。  
そして、どうしようもない相手は、目と鼻の先にいる。  
乗員の乗っている車輌は、一斉にアクセル全開で退避を始めた。  
逃げ惑う警察官たちが、それらに跳ね飛ばされて次々と負傷する。  
あっという間に全ての身動きは取れなくなる。  
そんな人間たちの醜態を満足そうに見ていた化け物は、もちろん見ているだけではなく、精力的に殺戮を行っていた。  

<撃ちましょう隊長!!我々はその為に来ているんです!>  

二番機から悲痛な叫び声が入る。  
だが、上空からその様子を見ている戦闘ヘリコプターには何もできない。  
彼らの持っている武装はあまりにも強力で、そして地上はあまりにも混乱しすぎていた。  
現状では、どんなに気をつけても警察官を殺戮してしまう。  
この世界では最強の存在の一つであるAH-64DJの集団は、目と鼻の先の敵相手に何も出来ずに旋回を続けた。  

<まだ下では戦っている奴もいるんですよ!撃ちましょう!撃たせて下さい!!>  

今度は三番機から悲痛な叫び。  
どうにかして士気を回復したらしい一団が、化け物に対して銃撃を加えている。  
次の瞬間、尻尾の一撃で銃撃は止む。  
跡には、上空から見てもわかるほどの惨殺死体の集団。  
  
<射撃するな!警察官の退避を待て!!>  

本部からは銃撃を待つようにとの命令。  
ここに来ている戦闘ヘリ部隊の全員は、自衛官としての職務を果たすために全てを捨てていた。  
撃墜も、殉職も、生き残った後の懲戒も全てを受け入れる覚悟だった。  
その彼らが、今度は自衛官として命令を守るという職務を果たすために全てを見捨てなければいけない。  
そして、何よりも人命を守るために、攻撃を待たなければならない。  
最低でも、化け物の周辺に生存者がいなくなるまで。  
皮肉にも程がある現実だった。  
何よりも皮肉なのは、警察官たちの運命かもしれない。  
ここに集結していた警察官たちは、自分たちの手で化け物を倒すために全てを捨てていた。  
そして、実際には手も脚も出ず、挙句の果てには自衛隊による攻撃を身をもって邪魔するという結果になっている。  
時間にしておよそ二分間、悪夢のような殺戮は、クラクションを連続で鳴らして突進する4WDによって幕を閉じた。  

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