自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年8月21日  21:44  日本本土  東京都中央区勝どき2丁目  

「畜生、畜生、畜生畜生畜生畜生!!!!」  

喚き散らす佐藤の運転する4WDは、クラクションを連発し、そしてハイビームを光らせて突撃を敢行した。  
加速を続け、全力で突き進む。  
倒れ伏した警察官を踏みつけ、車輪に死体を巻き込んだパトカーを擦り、突き進む。  
口一杯に警察官を咥えた化け物が、何事かと4WDの方を向く。  
  
「あー畜生!怖ぇぇぇ!!!」  

喚きながら車内に残された弾切れの89式でハンドルとアクセルを固定し、佐藤は運転席のドアを開けた。  
死体が、パトカーがドアの外を駆け抜ける。  
行くぞ、畜生、俺は行くぞ。  
深呼吸し、そしてドアの外へと飛び出す。  
浮遊感、風が勢い良くぶつかってくる。  
そのまま迫る地面、地面、地面。  
硬い何かと柔らかい何かに激突する。  
全身に痛みが押し寄せ、意識が遠のく。  
後ろでは4WDの断末魔が聞こえる。  
エンジンが唸り、金属がひしゃげ、何かが絶叫する音が聞こえる。  
何とか意識を繋ぎとめ、痛む体に鞭打って後ろを見る。  
至近距離に見える化け物に、4WDはめり込んでいた。  
最後に見たメーターは、時速80kmを示していた。  
化け物の左前足が、カンガルーバーにへし折られているのが見える。  
ふふふ、カンガルーバーは偉大だな。  
苦しめ苦しめ、ざまぁみやがれ!  

「一尉!立てますね!逃げますよ!」  

駆け寄ってきた二曹たちに助け起こされる。  
うん、見事な手際だ。  
助け起こされながら佐藤は満足した。  
二曹ともう一人は彼を引きずるようにしながら近くのパトカーを接収する。  
残った三人は、担いできたジェリ缶を苦しむ化け物へと投げつけ、手榴弾を取り出す。  
これだけの時間があったというのに、化け物は佐藤たちに襲いかかろうとはしなかった。  
苦しそうに喚き、折れた足を眺めている。  
  
「早く乗れ!撤収するぞ!!」  

素早く支度を整えた二曹が叫び、三人は手榴弾を投げるとパトカーに飛び乗った。  
その声に化け物がこちらを向く。  
言葉などなくとも、怒り狂っているのがわかる。  
咆哮、そして化け物は尻尾を勢い良く振るい始める。  
パトカーはドアが閉まるのも待たずに急発進。  
タイヤを軋ませながら加速を開始し、暴れる化け物を尻目に一目散に逃げ出した。  
そして爆発。  
二つの手榴弾が爆発し、その爆発が撒き散らされたガソリンに引火した。  
再び爆発。  
気化したガソリンガスが燃え上がり、化け物を飲み込む。  
さらに爆発。  
エンジンをかけられたまま放置されていた警察車輌が宙に舞い上がる。  
警察の封鎖線を突破したところで暴れていた化け物の周囲には、いくらでもガソリンがあった。  

「このままいけるかもしれないですね!」  

陸士長が後ろを見て叫ぶ。  
そこでは警察車輌が次々と引火し、爆発炎上していく地獄絵図があった。  

「人生ってのはうまくいかないように出来てるんだよ」  

炎の壁を突き破って現れた化け物を見つつ、佐藤は冷静に言い放った。  
彼らを乗せたパトカーは、サイレンの音も高らかに、全速力で逃走を開始した。  
その後を追う化け物。  
しかし、足を一本折った効果は大きく、その動きは先ほどまでに比べると緩慢である。  
電池が切れたために交換された二本目の携帯電話からは、状況の報告を求める声が繰り返し聞こえてくる。  
さすがに疲れた佐藤は、陸士長に電話を渡し、そして自分は後ろを見た。  
自分たちを追いかける化け物が見える。  
炎は消えたようだが、爆発の衝撃は確実に内臓にダメージを与えているだろう。  
あと少しだ、そうやって追いかけてこい。  
そしてお前は、殺されるんだ。  
ざまぁみやがれ。  
ニヤリと笑い、佐藤は前を向いた。  



同日  21:44  日本本土  東京都中央区勝どき2丁目上空  

「信じられない。何考えてるんだあいつらは」  

路上から立ち上った炎を眺めつつ、隊長は呟いた。  
警察官の虐殺を行っていた化け物は、今しがた飛び込んできた4WBに突撃され、続いてガソリンをかけられて燃やされていた。  
確かにそれでも生きている化け物も凄いが、ここに至るまでの敵の活躍を見ればまあそんなものかと思いたくもなる。  
しかし、あれだけの人数の警官隊がなすすべもなく壊滅させられた化け物相手に、手傷を負わせたあの自衛官たちは何者だ?  
  
「敵生命体は移動を開始、警察車輌に乗った友軍の追撃を再開しました!」  

色々と考えつつも、彼の中の訓練された部分は、上層部への報告と、機体の操作を問題なくこなしていた。  
どこかに怪我をしたらしく、化け物の動きは先ほどに比べると大した事はない。  
誘導を行っている友軍のパトカーと、距離は一向に狭まろうとしない。  
と、眼下のパトカーは綺麗なドリフトをキメつつ右折する。  
化け物も叫び声を上げつつ後に続く。  

<こちら本部、現在晴海三丁目交差点を通過、あとは少しです>  

本部から情報が入る。  
ふと視線を上げると、暗視装置ごしに晴海埠頭が見えた。  
その先に見えるのは、無数の護衛艦。  
上空を素早く通過するのは航空自衛隊なのだろうか。  
何にせよ、この長い夜は終わろうとしているな。  
電線を、ビルの屋上を回避しつつ、AH-64DJの編隊は最後の直線へと進入していく。  



同日  21:45  日本本土  防衛省  

「付近に展開中の護衛艦隊は対地攻撃の準備を完了!」  
「航空隊は空中待機に入りました!」  
「豊洲方面より移動中の部隊より入電、現在春海橋を移動中!」  
「回収部隊は晴海埠頭に到着、友軍車輌の到着を待ちます」  

次々と報告が入ってくる。  
警察の妨害としか思えない行動もあったが、なんとか事態は収束へと向かっていた。  
敵生命体はこちらの誘導を素直に受け、自衛隊の射爆場と化した晴海埠頭へ向けて突き進んでいる。  
その後ろを付近からかき集めた普通科中隊が重武装で追尾中。  
間に合った全ての護衛艦が東京湾で射撃準備を完成しており、航空自衛隊も命令一つで対地攻撃を始められる。  
誘導を行っている佐藤一尉たちを拾うためのヘリも、離陸準備を終えて待機している。  

「よーし、よしよし、終わらせるぞ!終わらせてやる!」  

カフェインの錠剤を大量の飲み下しつつ統幕長が叫ぶ。  
眼前のスクリーンには、晴海五丁目交差点を越えて、海側の直線道路に佐藤一尉たちが進入した事が示されている。  
直線道路の途中には、回収するためのヘリコプターが待機している。  
あとすこし、もうすこし。  
光点が回収ヘリに向けて突き進んでいく。  
敵生命体は、どこかに負傷でもしたのか速度が一向に上がらない。  
21時47分、光点が停止。  
部下から回収ヘリが無事離陸した事が知らされる。  
これ以上、攻撃を待つ必要はない。  


「全軍撃てぇ!!」  

無線に乗った攻撃命令が付近一帯に伝えられ、そして自衛隊の総反撃が始まった。  
最初に発砲したのは、晴海と新豊洲の間に無理やり侵入した二隻の護衛艦である。  
イタリアOTOブレダ社製54口径127mm砲が滑るように旋回し、敵生命体を向く。  
そして発砲。  
距離が殆どないため、二秒弱で着弾する。  
1km以上から瞬時に飛来した砲弾を避けられるはずもなく、化け物を取り囲むようにして爆発が発生する。  
全身を一瞬にして傷つけられた化け物は、血も凍るような恐ろしい咆哮を上げて逃げ出そうとする。  
しかし、続いて戦場に参加してきた21機の支援戦闘機に狙われたのでは、どうこうできるはずもなかった。  
小爆弾による集中豪雨が局地的に発生し、煙と爆発が化け物の姿を完全に覆い隠す。  
編隊が上空を通過し、再び艦砲射撃が再開される。  
毎分約40発の発射能力は伊達ではなく、さらに二隻が交互に射撃を行うため、絶えず爆発が発生する。  
いかなる生命体の生存であっても許さない攻撃は、その後三分間に渡って続き、全弾を射耗した護衛艦の射撃終了によって幕を閉じた。  
容易に火力を用意できる海上、そして航空自衛隊の前に、化け物の頑丈な肉体はなすすべがなかった。  



同日  21:50  日本本土  東京都中央区晴海四丁目  

「油断するな、まだ動くかもしれん」  

艦砲射撃も航空攻撃も終わっていた。  
周囲ではライトを灯した戦闘装甲車や戦闘ヘリが警戒を行っており、さらに続々と到着しつつある普通科が警戒線を張っていた。  
化け物は今のところ完全に活動を停止している様に見える。  
四肢は吹き飛ばされ、胴体に巨大な穴が開いている。  
その周囲に普通科は次々と重火器を設置している。  
  
「撃ち方用意」  

中隊長が命じ、機関砲が、重機関銃が、次々と化け物の方を向く。  
死んだと思っていたのに逃げ出しました。  
などという情けない事態を起こさないため、彼らは完全に化け物を抹殺するつもりだった。  
そして、誰もが引き金に手を当てたその瞬間、化け物は光を放って消滅した。  

「う、撃つな!待て!待て!!」  

拡声器から狼狽した声が流れ、そして誰もが化け物の方を見た。  
そこに、自衛隊を長時間によって苦しめ、東京全域を大混乱に陥らせた化け物の姿はなかった。  
全身を満遍なく損壊された、女子高生らしい一人の人間が倒れているだけだった。  

「どうなっとるんだ、これは」    

唖然と呟いた中隊長の頭上を、轟音を立てて戦闘ヘリが通過していった  



同日  23:50  日本本土  防衛省  

「最低のオチだな」  

副官からの報告を聞き終えた統幕長は、憂鬱そうにそう言った。  
検視と所持品の検査の結果、現場に倒れていた人間は、都内の高校に通う女子高生に間違いなかった。  
そして、大陸派遣隊に協力するエルフからの情報で、人間を化け物に変える魔法の類があることも間違いなかった。  
つまり、自衛隊は総力を挙げて哀れな被害者を殺害した事になる。  
これを最低のオチと言わずになんと呼べばよいのか。  
統幕長は思わず頭を抱えた。  

「悲観するほどの事はありませんよ」  

いつの間にか彼の傍らに現れた公安の代表が話しかける。  

「なんだと?」  
「現場付近から回収された物です」  

机の上に、ビニール袋に入れられた短剣が置かれる。  

「なんだこれは?」  
「最初の現場付近で、少女の頭部に突き刺さっていた物です」  

成分を分析したらしい様々なデータが書かれた紙が机上に置かれる。  

「成分はごくありふれたものですが、意匠などは誰も見たことがないものです。  
どうやら、奴らは現場の近くから観戦していたようですね。  
そして、どういうわけだか年端もいかない少女を、これを使って殺害した」  
「なん、だと」  

統幕長の体が、怒りに震えだす。  

「付近の商店の監視カメラに、その様子が完璧に映っていました。  
すでに私の部下が周辺を監視しています」  

統幕長が、音速を超えているのではないかと思われる速さで振り向く。  

「その場所は、教えてもらえるんだろうな?」  

その瞳には、危険としかいいようがない光が宿っている。  

「逮捕すると誓っていただけるのならば」  
「逮捕させるさ」  

早くも受話器を取りつつ、統幕長は続けた。  

「生きていて、喋れればそれで十分だろう?」  
「もちろんですよ」  

なんでもないように公安の代表は答えた。    



西暦2020年8月22日  02:50  日本本土  都内某所のホテル  

「乾杯!」  

エルフとその協力者は、缶ビールを打ち合わせて祝杯を挙げていた。  
テレビからは、今回の事件で発生した大まかな損害が流れている。  
警察官190名死亡、500名以上が重軽傷。  
民間人の被害者は未だ集計が終わらず。  
日本全域に警戒警報が流れ、消費された税金は数知れず。  
まさに大損害であった。  
  
「しかし、元は日本人であるとも知らずに、自衛隊の連中は随分と頑張ったな」  

愉快そうに青年。  

「そうね、最後は巨大な船まで持ち出して向かってきていたわ」  
「陸海空勢ぞろいか、必死に殺した相手がただの民間人だったとわかった瞬間の奴らの顔が見たかったな」  

笑いつつ、二人は二杯目に手をつける。  
楽しそうに歓談し、すぐさま三杯目。  
勝利の余韻が、二人を上機嫌にさせていた。  


そのホテルの前に、一台のタクシーが止まっている。  
運転手は帽子を顔に当て、シートを倒して仮眠を取っている。  
だが、彼の耳にはイヤホンが当てられ、そこからは周囲を飛び交う無線の内容が流れていた。  

<周辺の交差点は監視準備良し>  
<フロントに動きなし>  
<隣室にて待機中>  
「ホテル前異常なし」  

襟元のマイクに囁きかけ、彼は仮眠を取っている態勢を続けた。  
日本公安警察は、ホテル周辺の監視体制を完成させていた。  
彼らの任務は逮捕ではない。  
あくまで、自衛隊が到着するまでの現場確保を行う事だけが目的だった。  


ホテルに近い路上に、一台のバスが停車していた。  
バスは、どういうわけだかフルスモークだった。  

「いくぞ」  

ガイド役の佐藤が、マイクを持って車内の全員に伝える。  
全ての座席には、完全武装の自衛隊員たちが座っている。  
ゆったりとした空間が売りのこの高級旅客バスは、兵員輸送にうってつけだった。  
静かにエンジンがかかり、バスはその大きさに似合わない静かさで発車した。  
前後にはごく普通のナンバーのありふれた車種の車が、どこにでもいるような男女を乗せて付き添っている。  
しかし、彼彼女らの目は、見たこともないほどに暗い。  
陸上自衛隊は、公安警察と手を取り合い、犯人逮捕という目的で行動を開始した。  



同日  02:55  日本本土  都内某所のホテル  

一台のバスが、数台の車を連れて正面玄関前に滑り込む。  
予定にない到着に、何事かとホテルマンたちが駆け寄ってくる。  
バスのドアはまだ開かない。  
先に、前後の車から無数の人々が降り立つ。  

「これは一体何事ですか?本日ご到着予定のお客様は、全てキャンセルされているはずですが」  
「お静かに、宿泊中のお客様が起きてしまいますよ」  

一番年嵩の男性がホテルマンに言う。  
ご丁寧に、人差し指で静かに、とジェスチャーをしている。  

「私はこのホテルの支配人ですが、これはどういうことなのでしょうか?  
急に団体様を、となると部屋数が難しいのですが」  

集まったホテルマンたちの中から、上等な物を身に纏った男が歩み出る。  
  
「公安調査庁のヤマダと申します。  
このホテルに、昨日のテロ事件の犯人が宿泊しています。  
我々は、これより強制逮捕を行います」  

関連する省庁の人間を深夜に拉致してまで作り上げた令状を見せる。  

「い、いまからですか?  
しかし、まだ他のお客様もいらっしゃいますし」  
「令状は正規の物ですよ?  
それと、救国防衛会議議長閣下より、一切の妨害を実力を持って排し、損害に構わず犯人を逮捕せよとの命令も出ております。  
大変申し訳ありませんが、ご了承願います」  

断ち切るようにそう言い放つと、公安調査庁のヤマダと名乗った男は、バスに向かって合図した。  
乗車口が開く。  
暗く保たれている車内から、闇をそのまま纏ったかのように暗い目をした自衛官たちが、完全武装で次々と降車してくる。  
彼らは、整列をしたり号令を掛け合ったりせず、事前に定められた手順によって、エレベーターや非常階段を目指して駆け足を始める。  

「ご安心下さい支配人」  

公安調査庁のヤマダを名乗る男は、にこやかに告げた。  

「この国の法を犯していない国民に、我々は何もしません。  
後で損害を全て請求してください、人命以外ならば、我々はいくらでも応じますよ」  

フロントでテレビを見ていた若いカップルが、懐から拳銃を取り出して一同に合流する。  
エレベーターから降りてきた初老の男性が、武装した一同を見て全く動じず、むしろ敬礼を受けつつ車へと乗り込んでいく。  
非常階段から、子供連れの夫婦が現れ、女性と子供は車へ、父親は拳銃片手にフロントへと歩いてくる。  

「どうしました支配人?顔色がよろしくないようだ」  
「こ、これは、これは一体」  
「我々は、どこにでもいて、何でも見ている。という事ですよ。  
ああ、そういえば」  

愉快そうに笑いつつ、彼は続けた。  

「最近、貴方に対して脱税の疑いがかかっているようですね。  
でも、ご安心下さい」  

彼は、支配人の目を見て続けた。  

「私はこう考えています『愛国心溢れる支配人が、脱税などするはずがない』と。  
そうですよね?貴方はそういう人ですよね?支配人」  
「き、協力するしますとも!もちろんですよ!私たちは何をすればいいんですか!?」  
「お静かに、お客様が起きてしまう」  

気の毒になるほど狼狽している支配人の回答に満足そうに頷きつつ、彼は続けた。  

「このホテルから外に出れる全ての道を教えてください。  
古い通路、工事中の通路、何でもいい。人間が通れる全ての道を」  
「直ぐに案内させますとも、ええ、ええ、お任せ下さい」  

何か納得のいかないホテルマンたちに誘導され、自衛官たちはホテル内各所の逃走経路を次々と封鎖して回った。  



同日  03:18  日本本土  都内某所のホテル5F  

昨日の仕事をやり遂げ、エルフと男性が互いを貪りあう部屋の前に、完全武装の一個分隊がいた。  
彼らは射撃準備を完成し、指揮官である佐藤一等陸尉の命令を待ち焦がれていた。  
その佐藤は、包囲が完成するのを待っていた。  

<B棟地下通路の封鎖完成>  
<本部より各員、全ての封鎖は完了している。増援部隊の到着は0340を予定。  
これより、周辺住民の避難を開始する>  
<S10より本部、これより突入を開始する>  
<本部了解>  
<S10オワリ>  

無線機にそう言うと、佐藤は前を見た。  
誰もが射撃命令を待ち、そして不測の事態に備えて引き金に指を添えている。  

「入って直ぐ右のベッドの上です。お楽しみ中のようですね」  

コンクリートマイクで盗聴を行っている公安の男が無表情で言う。  

「わかった、下がってくれ」  

佐藤の言葉に頷き、男は拳銃を取り出しつつ隣の部屋に入っていく。  

「射撃用意」  

佐藤の言葉に、一同の殺意は室内へと向けられる。  

「撃ぇ!!」  


ホテルの廊下に、凄まじい銃撃音が響き渡る。  
一同の眼前で、豪華なドアは打ち砕かれ、崩壊し、そして室内が視界に入ってくる。  
銃撃によって調度品や家具が破壊され、向かいにある窓ガラスが砕け散る。  
彼らは一気に突入せず、素早く左右に散開して壁に張り付く。  
四人が手榴弾のようなものを取り出し、ドアだった穴から屋内へ放り込む。  
爆発。  
耳をふさいでなお聞こえる爆音と、目を閉じていてさえ明るく見える閃光が発生する。  
  
「突入!突入!!」  

自動小銃を構えた自衛隊員たちが、一斉に屋内へと突入していく。  
屋内では、両手を目に当ててのた打ち回る全裸の男女がいた。  
自衛隊員たちは、遠慮なく半長靴で顔面を蹴りつけ、続けて両手両足を拘束する。  
その間にも他の隊員たちが浴室を確認し、クローゼット内を確認し、安全を報告する。  
窓の外から轟音が聞こえる。  
サーチライトを照らした戦闘ヘリコプターたちが、ホテルの周囲を飛び回っている。  


「初めましてだな、クソ野郎ども」  

佐藤は、全裸で縛られた男女を見た。  
男性のほうはどこかで見たことのある若い男。  
女性のほうは、完璧な美貌を持ったエルフだ。  

「国家の狗め!」  
「なんとも懐かしいフレーズだな。  
なんでこんな事をしたのか詳しい事情を聞きたいところだが」  

佐藤は拳銃を構えつつ言った。  

「俺はお前の言葉など何も聞きたくないし、お前から何かを聞き出せるとも思っていない。  
いいかクソ野郎?」  

彼は拳銃の狙いを定めた。  

「泣き喚け、お前に出来るのはそれだけだ」  

彼は発砲した。  
SIG-P220から9mm拳銃弾が発射され、それは音速で男の左肩にめり込んだ。  

「あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」  

男が喚く。  
だが、両手両足をプラスチックカフと呼ばれる特殊な手錠で拘束されているため、左右に転がる事しか出来ない。  
すぐさま両脇の自衛官に起こされる。  

「おやおやどうしたんだい?  
これからは悪い事をしちゃいけないよと言われるとでも思ったのかい?  
東山忠信君17歳」  

男の名前と年齢を告げると、佐藤は二発目を放った。  
PAM!  
銃声が室内に響き渡り、今度は男の右肩に銃弾がめり込んだ。  
悲鳴を上げ、彼は再び転げまわろうとする。  

「こんな、こんな事が」  
「許されるんだよ」  

佐藤は答えつつ、三発目、四発目を放つ。  
男の右足、左足にも銃弾がめり込み、彼は拘束の必要がなくなる程に重症を負った。  

「今頃は都内の君の家にも部隊が突入している事だろう。  
お父上は心臓があまりよろしくないそうだが、スタングレネードに耐えられるといいね」  
「畜生、畜生、調べやがったな」  
「そうだよ、君の事は調べさせてもらった」  

薄笑いを顔面に張り付かせつつ、佐藤は答えた。  

「東山忠信、17歳。  
国内某大学を中退し、NGO『日本愛の会』に入る。  
そして例の大異変。  
君は日本国を苦しめる手段として、エルフと共闘を行う事を決意した。  
何か違うところがあったら訂正してくれ。被疑者死亡で書類送検と一言で言っても、いろいろと書かなければならない事があってね」  

佐藤は薄笑いを浮かべたまま、五発目の拳銃弾を発射した。  
エルフの体液で汚れた部分が打ち砕かれ、男は奇妙な声を出したまま気絶した。  

「さて、と」  

佐藤は続いてエルフの方を向いた。  
その美貌は、恐怖に歪んでいた。  

「これから、色々と話してもらうよ?  
まあ、話したくなくとも、話せるようにしてやるから安心してくれよ」  

彼が微笑みかけると、エルフは恐怖のあまり、失禁しつつ気絶する。  
後ろから、大人数がやってくる物音が聞こえる。  

「お邪魔しますよ」  

ドアだった部分から最初に現れたのは、拳銃を片手に持った公安調査庁のヤマダだった。  

「お疲れ様です。  
抵抗が激しかったため、やむなく無力化を行いました」  
「お疲れ様です、あれほどの敵ですからね。無理もない事です」  

にこやかに挨拶を交し合う二人の脇を、大きな麻袋を持った男たちがすり抜ける。  
彼らは床に転がされている男とエルフを袋に放り込むと、手早く後始末をして立ち去っていく。  

「彼らはどうなるんで?」  
「戸籍の存在しない囚人という扱いになります。  
つまり、日本国から見て存在すらしていない人間という事ですな」  
「なるほど、まあどうでもいいや」  

先ほどまで憎悪を向けていた対象の運命になんでもないと言い放ち、佐藤は窓の外を見た。  
戦闘ヘリが旋回している。  
遥か彼方の道路からこちらへ進んでくるのは自衛隊の車輌だろう。  
この近辺は、完全に民間人の避難が完了している。  

「まったく、とんだ休暇になった」  

佐藤は憂鬱そうに呟き、そして日本中を混乱に陥れたテロ事件は、完全に終結した。  

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