西暦2020年9月21日 20:41 上陸地点
暗闇を切り裂き、轟音を立てるヘリコプターが離陸していく。
残党と遭遇する事もなく、特にトラブルもなく一行は上陸地点へと到着していた。
感動的な親子の再会を演出するため、ヘリコプターは少女と数名の隊員のみを乗せている。
艦隊では偶然ハンディカメラを持っていた隊員が撮影の準備をしている事は言うまでもない。
「最後まで気を抜くなよ。着艦するまでが作戦だ」
お約束とも言うべき台詞を佐藤が言い、それに答えるかのように矢の雨が彼らを襲った。
「敵襲!各個に応戦!」「応戦しろ!射撃自由!」
陸曹たちが声を挙げつつ発砲を開始し、それに射撃で陸士たちが答える。
先ほどまでの弛緩した空気は消え去り、彼らは再び殺戮機械へと変身した。
「木が邪魔だ!薙ぎ払え!」
二曹が声を張り上げ、重い装備を纏った火炎放射兵たちがそれに答える。
全てを焼き尽くす超高温の火炎が、奔流となって木々に襲い掛かる。
絶叫。
燃え上がる木立の間から、火達磨になった男たちが飛び出す。
彼らが体組織の重大な熱傷による死亡を遂げる前に、自衛隊員たちは銃弾の雨を降らせてそれらを沈黙させる。
敵の攻撃は既に止んでいる。
「何でもいい!動くのは全部撃て!」
原田が叫び声を上げ、銃撃音が続く。
彼らは燃え上がる木々と人体を照明に、動くもの全てに必殺の銃弾を叩き込み続けた。
やがて空気を叩く独特な音が聞こえ、揺らめく炎とは違う、科学文明だけが出せる強烈な光が現場を照らし出す。
「ヘリだ!弾薬の少ないものから乗れ!」
二曹が叫び、隊員たちは着陸地点を確保するために外周へと散らばる。
敵の攻撃はない。
ヘリコプターはドアを開け放ったまま地面へ接近し、車輪が砂浜に触れるか触れないかの限界で制止する。
「乗り込め!早く乗り込め!」
中から海士が叫ぶ。
装備を抱えたまま陸士たちが飛び乗り、続いて火を消した火炎放射兵が乗り込む。
最後に小銃を構えた陸曹たちが搭乗しようとし、ようやく誰もが気がついた。
一同を代表し、二曹が叫ぶ。
「佐藤一尉!」
彼は、戦場の真ん中で一人立っていた。
彼の首筋には一本の矢が刺さっており、どうやらこれが彼の帰還を許さないらしい。
ゆっくりと一同の方へ向き直り、彼は膝を付く。
そのまま両手を空へと突き出し、力の限り叫ぶ。
「プラトーン!」
「一尉を助けるぞ!続け!」
この期に及んでもネタに走る佐藤を見捨てず、二曹と原田は機外へと飛び出した。
世界記録を更新できる速さで駆け寄り、突き出したままの両手を掴むと全力疾走を再開する。
そのまま機体に飛び込み、ようやくの事彼らはこの島から離れる事となった。
西暦2020年9月21日 21:05 公海上 第五護衛艦群
絵になる女性たちの感動の再会の後、甲板の上はいつもの静けさを取り戻していた。
そこへ静寂を破り、ヘリコプターが飛来する。
格納庫が開かれ、海士たちが所定の位置に付く。
海は凪いでおり、風も驚くほどない。
当然のことながら、ヘリコプターはなんの妨害も受けずに着艦に成功する。
扉が開かれ、格納庫から飛び出してきた医官たちがそこへ駆け寄る。
「直ぐに手術だ!道を開けろ!」
首筋に矢を生やしたままの佐藤が担ぎ出され、これ以上矢が動かないように注意しつつ運ばれていく。
続いて不安そうな表情を浮かべた二曹たちが甲板に足を下ろす。
「佐藤一尉、大丈夫だろうか?」
原田が尋ねる。
だが、硬い表情の二曹は何も答えない。
「二曹?どうした?」
「いっ、いえ、なんでもありません。きっと生還なさるかと」
「まあ、そうだな。二曹、君も休め。他の者たちもご苦労だった」
様子のおかしい二曹を気遣った原田がそう言い、一同がヘリから離れるのと、艦隊中に警報が鳴り響くのは同時だった。
同時刻 第五護衛艦群旗艦「おおみなと」CIC
「アンノン一機、島中心部より艦隊に向けて接近中・・・バカなぁ!?音速が出ています!間違いありません!」
レーダーを覗いていた海曹が叫ぶ。
「間違いないか!?本当に音速を出しているのか!?」
先ほどまで感動の再会を果たした親子と談笑していた艦隊司令は、その顔から笑みを消し去って叫んだ。
「間違いありません!真方位2-7-0より急速に接近中」
「友軍機の誤認ではないな?」
「IFF反応なし」
「こちらの呼びかけに応答ありません」
部下たちの答えを聞いた司令は決断した。
「全艦第一戦速、対空戦闘用意」
「了解、全艦第一戦速。対空戦闘用ー意!」
司令の言葉を聞いた部下たちが復唱を繰り返していく。
「第一戦速ヨウソロー!」
機関室から復唱があがる。
主機のガスタービンが、その甲高い音を高める。
「対空戦闘用ー意!」
レーダーが戦闘出力に切り替わり、127mm砲が動作確認を行い、VLSの安全装置が解除される。
単縦陣形を保ったまま、日本人の艦隊は戦闘準備を完成させていく。
無数の電波が放たれ、目に見えない警戒網が完成していく。
電波反射から把握された敵の位置と未来位置に向け、砲が向けられる。
「対空ミサイル、撃ぇー!」
「対空ミサイル発射!」
復唱をかねた報告が上がり、艦隊随所より白煙が立ち上る。
もちろん被弾ではなく、それは攻撃を意味している。
放たれたミサイルたちは徐々に加速を行い、目標へ向けて突き進む。
そして閃光、一瞬遅れて爆発音。
「命中、本艦他3発、目標消滅」
「当然だ」
満足そうな声音で司令が答える。
この艦隊は赤い空母機動部隊や、成層圏を駆け上る弾道弾を迎撃する事を第一の任務としている。
たかだかマッハ1程度で接近してくる単体の目標など、迎撃できないはずがない。
「作戦は終了だ。帰還する」
「対空目標新たに三体!いえ、四、五!?増加中!」
帽子を被りなおしつつ言った司令に逆らうように、状況は動き始めた。
最終的に、艦隊は一切の損害を受けずに現場海域を離脱した。
それは当然過ぎる結末であった。
西暦2020年11月11日 11:00 札幌市豊平区平岸1条12丁目1-32 陸上自衛隊豊平駐屯地 自衛隊札幌病院
「いやはや、死ぬかと思ったよ」
首に包帯を巻いた佐藤が愉快そうに笑う。
この日、彼の病室には部下たちが面会に訪れていた。
「医者が俺の首にメスを入れようとしたその瞬間、警報がなって対空戦闘だろ?
正直諦めたね」
「あれから随分と時間を置いての摘出になったそうですね?」
彼の父親から送られた果実の詰め合わせから林檎を取り出しつつ二曹。
「ある程度麻酔を投与した後だったからね。
今は時間が足りないので悪いが我慢してくれとか医官に言われたよ。ああ、包丁はそこだ」
林檎を剥いてくれるのだろうという判断から、彼はベッドの横の収納棚を指差した。
だが、二曹は不思議そうな表情を浮かべつつ林檎を齧った。
「・・・いや、なんでもない。お前らも好きに喰ってくれ」
歓声を挙げつつ果物を奪い合う部下たちの中で、佐藤は悲しそうな顔をした。
「ああ、コレは失礼しました。一尉殿も何か食べられますか?」
「いつもすまないねぇ。しかし口移しとは、君もすきものダァ!!」
空気を切る音を立てて彼の口に林檎が激突した。
「よーく味わって下さい。それでは自分たちは次の任務がありますので、本日はこれにて失礼します」
「ドウモアリガトウゴザイマス」
器用に歯で林檎をキャッチしたものの、顎がどうにかなったらしい佐藤は奇妙な声しか出せない。
「次の任務ってなんだ?俺は聞いてないが」
「ゴルシアの街の管理ですよ。もともと我々はそれが任務だったはずです」
「そういやそうだったな。原田と二曹は残れ、ちょっと話がある」
「はあ、わかりました」
二人を残し、隊員たちは退出していった。
今日は全員が非番であったからこそ、こうして面会に来る事ができた。
しかし、非番であるからこそ、彼らには今しか出来ない、やらなければいけない事が山のようにあるのだ。
「それで、お話というのは?」
原田が尋ねる。
「あの街は平和だ」
「え、ええ、そうでしたね」
突然語りだした佐藤に面食らいつつ、なんとか相槌を返す原田。
「だから、俺が戻るまで決して油断するな。
そして、一人も死なせるな。いいな?」
「「了解しました」」
いつになく真剣な様子の佐藤に、二人の陸曹は敬礼で答えた。
「それと原田」
「はっ!」
「お前、あの精霊だかなんだかのネーチャンとはどこまでっ!?」
突然いつもの様子に戻った佐藤だったが、彼は最後まで言葉を発する事ができなかった。
いつの間にか収納棚から包丁を取り出していた二曹が、彼の股の直下に包丁を突き刺したのだ。
「平和ボケというのは怖いものですね、佐藤一尉。
手元が狂ってしまいました」
「え、ええ、そうですね二曹殿」
「それでは、失礼します」
「ええ、失礼してください」
真っ青な表情の佐藤を残し、原田たちは退出した。
彼らが再会するのは一ヵ月後、佐藤が全快してからの事になる。
暗闇を切り裂き、轟音を立てるヘリコプターが離陸していく。
残党と遭遇する事もなく、特にトラブルもなく一行は上陸地点へと到着していた。
感動的な親子の再会を演出するため、ヘリコプターは少女と数名の隊員のみを乗せている。
艦隊では偶然ハンディカメラを持っていた隊員が撮影の準備をしている事は言うまでもない。
「最後まで気を抜くなよ。着艦するまでが作戦だ」
お約束とも言うべき台詞を佐藤が言い、それに答えるかのように矢の雨が彼らを襲った。
「敵襲!各個に応戦!」「応戦しろ!射撃自由!」
陸曹たちが声を挙げつつ発砲を開始し、それに射撃で陸士たちが答える。
先ほどまでの弛緩した空気は消え去り、彼らは再び殺戮機械へと変身した。
「木が邪魔だ!薙ぎ払え!」
二曹が声を張り上げ、重い装備を纏った火炎放射兵たちがそれに答える。
全てを焼き尽くす超高温の火炎が、奔流となって木々に襲い掛かる。
絶叫。
燃え上がる木立の間から、火達磨になった男たちが飛び出す。
彼らが体組織の重大な熱傷による死亡を遂げる前に、自衛隊員たちは銃弾の雨を降らせてそれらを沈黙させる。
敵の攻撃は既に止んでいる。
「何でもいい!動くのは全部撃て!」
原田が叫び声を上げ、銃撃音が続く。
彼らは燃え上がる木々と人体を照明に、動くもの全てに必殺の銃弾を叩き込み続けた。
やがて空気を叩く独特な音が聞こえ、揺らめく炎とは違う、科学文明だけが出せる強烈な光が現場を照らし出す。
「ヘリだ!弾薬の少ないものから乗れ!」
二曹が叫び、隊員たちは着陸地点を確保するために外周へと散らばる。
敵の攻撃はない。
ヘリコプターはドアを開け放ったまま地面へ接近し、車輪が砂浜に触れるか触れないかの限界で制止する。
「乗り込め!早く乗り込め!」
中から海士が叫ぶ。
装備を抱えたまま陸士たちが飛び乗り、続いて火を消した火炎放射兵が乗り込む。
最後に小銃を構えた陸曹たちが搭乗しようとし、ようやく誰もが気がついた。
一同を代表し、二曹が叫ぶ。
「佐藤一尉!」
彼は、戦場の真ん中で一人立っていた。
彼の首筋には一本の矢が刺さっており、どうやらこれが彼の帰還を許さないらしい。
ゆっくりと一同の方へ向き直り、彼は膝を付く。
そのまま両手を空へと突き出し、力の限り叫ぶ。
「プラトーン!」
「一尉を助けるぞ!続け!」
この期に及んでもネタに走る佐藤を見捨てず、二曹と原田は機外へと飛び出した。
世界記録を更新できる速さで駆け寄り、突き出したままの両手を掴むと全力疾走を再開する。
そのまま機体に飛び込み、ようやくの事彼らはこの島から離れる事となった。
西暦2020年9月21日 21:05 公海上 第五護衛艦群
絵になる女性たちの感動の再会の後、甲板の上はいつもの静けさを取り戻していた。
そこへ静寂を破り、ヘリコプターが飛来する。
格納庫が開かれ、海士たちが所定の位置に付く。
海は凪いでおり、風も驚くほどない。
当然のことながら、ヘリコプターはなんの妨害も受けずに着艦に成功する。
扉が開かれ、格納庫から飛び出してきた医官たちがそこへ駆け寄る。
「直ぐに手術だ!道を開けろ!」
首筋に矢を生やしたままの佐藤が担ぎ出され、これ以上矢が動かないように注意しつつ運ばれていく。
続いて不安そうな表情を浮かべた二曹たちが甲板に足を下ろす。
「佐藤一尉、大丈夫だろうか?」
原田が尋ねる。
だが、硬い表情の二曹は何も答えない。
「二曹?どうした?」
「いっ、いえ、なんでもありません。きっと生還なさるかと」
「まあ、そうだな。二曹、君も休め。他の者たちもご苦労だった」
様子のおかしい二曹を気遣った原田がそう言い、一同がヘリから離れるのと、艦隊中に警報が鳴り響くのは同時だった。
同時刻 第五護衛艦群旗艦「おおみなと」CIC
「アンノン一機、島中心部より艦隊に向けて接近中・・・バカなぁ!?音速が出ています!間違いありません!」
レーダーを覗いていた海曹が叫ぶ。
「間違いないか!?本当に音速を出しているのか!?」
先ほどまで感動の再会を果たした親子と談笑していた艦隊司令は、その顔から笑みを消し去って叫んだ。
「間違いありません!真方位2-7-0より急速に接近中」
「友軍機の誤認ではないな?」
「IFF反応なし」
「こちらの呼びかけに応答ありません」
部下たちの答えを聞いた司令は決断した。
「全艦第一戦速、対空戦闘用意」
「了解、全艦第一戦速。対空戦闘用ー意!」
司令の言葉を聞いた部下たちが復唱を繰り返していく。
「第一戦速ヨウソロー!」
機関室から復唱があがる。
主機のガスタービンが、その甲高い音を高める。
「対空戦闘用ー意!」
レーダーが戦闘出力に切り替わり、127mm砲が動作確認を行い、VLSの安全装置が解除される。
単縦陣形を保ったまま、日本人の艦隊は戦闘準備を完成させていく。
無数の電波が放たれ、目に見えない警戒網が完成していく。
電波反射から把握された敵の位置と未来位置に向け、砲が向けられる。
「対空ミサイル、撃ぇー!」
「対空ミサイル発射!」
復唱をかねた報告が上がり、艦隊随所より白煙が立ち上る。
もちろん被弾ではなく、それは攻撃を意味している。
放たれたミサイルたちは徐々に加速を行い、目標へ向けて突き進む。
そして閃光、一瞬遅れて爆発音。
「命中、本艦他3発、目標消滅」
「当然だ」
満足そうな声音で司令が答える。
この艦隊は赤い空母機動部隊や、成層圏を駆け上る弾道弾を迎撃する事を第一の任務としている。
たかだかマッハ1程度で接近してくる単体の目標など、迎撃できないはずがない。
「作戦は終了だ。帰還する」
「対空目標新たに三体!いえ、四、五!?増加中!」
帽子を被りなおしつつ言った司令に逆らうように、状況は動き始めた。
最終的に、艦隊は一切の損害を受けずに現場海域を離脱した。
それは当然過ぎる結末であった。
西暦2020年11月11日 11:00 札幌市豊平区平岸1条12丁目1-32 陸上自衛隊豊平駐屯地 自衛隊札幌病院
「いやはや、死ぬかと思ったよ」
首に包帯を巻いた佐藤が愉快そうに笑う。
この日、彼の病室には部下たちが面会に訪れていた。
「医者が俺の首にメスを入れようとしたその瞬間、警報がなって対空戦闘だろ?
正直諦めたね」
「あれから随分と時間を置いての摘出になったそうですね?」
彼の父親から送られた果実の詰め合わせから林檎を取り出しつつ二曹。
「ある程度麻酔を投与した後だったからね。
今は時間が足りないので悪いが我慢してくれとか医官に言われたよ。ああ、包丁はそこだ」
林檎を剥いてくれるのだろうという判断から、彼はベッドの横の収納棚を指差した。
だが、二曹は不思議そうな表情を浮かべつつ林檎を齧った。
「・・・いや、なんでもない。お前らも好きに喰ってくれ」
歓声を挙げつつ果物を奪い合う部下たちの中で、佐藤は悲しそうな顔をした。
「ああ、コレは失礼しました。一尉殿も何か食べられますか?」
「いつもすまないねぇ。しかし口移しとは、君もすきものダァ!!」
空気を切る音を立てて彼の口に林檎が激突した。
「よーく味わって下さい。それでは自分たちは次の任務がありますので、本日はこれにて失礼します」
「ドウモアリガトウゴザイマス」
器用に歯で林檎をキャッチしたものの、顎がどうにかなったらしい佐藤は奇妙な声しか出せない。
「次の任務ってなんだ?俺は聞いてないが」
「ゴルシアの街の管理ですよ。もともと我々はそれが任務だったはずです」
「そういやそうだったな。原田と二曹は残れ、ちょっと話がある」
「はあ、わかりました」
二人を残し、隊員たちは退出していった。
今日は全員が非番であったからこそ、こうして面会に来る事ができた。
しかし、非番であるからこそ、彼らには今しか出来ない、やらなければいけない事が山のようにあるのだ。
「それで、お話というのは?」
原田が尋ねる。
「あの街は平和だ」
「え、ええ、そうでしたね」
突然語りだした佐藤に面食らいつつ、なんとか相槌を返す原田。
「だから、俺が戻るまで決して油断するな。
そして、一人も死なせるな。いいな?」
「「了解しました」」
いつになく真剣な様子の佐藤に、二人の陸曹は敬礼で答えた。
「それと原田」
「はっ!」
「お前、あの精霊だかなんだかのネーチャンとはどこまでっ!?」
突然いつもの様子に戻った佐藤だったが、彼は最後まで言葉を発する事ができなかった。
いつの間にか収納棚から包丁を取り出していた二曹が、彼の股の直下に包丁を突き刺したのだ。
「平和ボケというのは怖いものですね、佐藤一尉。
手元が狂ってしまいました」
「え、ええ、そうですね二曹殿」
「それでは、失礼します」
「ええ、失礼してください」
真っ青な表情の佐藤を残し、原田たちは退出した。
彼らが再会するのは一ヵ月後、佐藤が全快してからの事になる。