自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

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西暦2020年12月9日  21:00  ゴルソン大陸  日本国北方管理地域  

日本国北方管理地域。  
そこは日本人たちに肉類を与えるために整備された地域だった。  
広大な牧場が重なり合い、要塞かトーチカにしか見えない家屋が点在している。  
その中心に位置しているのが、陸上自衛隊ゴルソン大陸方面隊日本国北方管理地域第18地区駐屯地である。  
センスの欠片も無い名称であるのは、ここが管理番号以外の地名を未だ与えられていない事が理由となっている。  
通常の軍事拠点とは違い、この駐屯地は昔の城砦のような構造になっている。  
深い空堀、高い城壁、窓の少ない頑丈な建築物。  
出払っている施設科の代わりに国内の建築業者をかき集めて作られたそこは、砲爆撃以外の全てに耐えられそうだった。  
幸いな事に、今のところはそうだった。  


<<オタスケマン01より各機、降下に入れ>>  

世闇を切り裂いて空を飛ぶ隊長機から指示が下される。  
通信を受けたヘリコプターの集団は、徐々にエンジンの出力を落としつつ大地へ接近する。  
サーチライトではなく無数の篝火によって照らし出されている地上には、無数のゾンビの姿がある。  
ゾンビたちが四方八方から殺到しているその先には、この地域で唯一の自衛隊駐屯地の姿がある。  
時折外壁から見えるのは小火器の放つ銃火だろうか。  
まさにこの世の終わりの光景だった。  

<<イブニングライナー02よりオタスケマンチームへ、これより清掃を開始する>>  

通信が入り、微かに識別灯だけを点滅させた戦闘ヘリコプター部隊が攻撃に移る。  
鮮やかなロケットの炎を残して突進する対地ロケット弾、世闇を切り裂いて走る曳光弾。  
そういった兵器がなんの躊躇も無く使用され、地面に毒々しい色の炎を作り出す。  
その上空を軽やかに通過し、輸送ヘリコプターの編隊、コールサイン“オタスケマン”チームは駐屯地に向けて前進する。  
それに答えるように駐屯地からの銃撃が激しくなる。  
無反動砲や重機関銃も使用しているらしい。  
絶え間ない曳光弾の線や、時折起こる爆発がそれを知らせている。  
ゾンビが何体集まろうと越える事の出来ない壁を乗り越え、彼らは到着した。  
距離を開けて設置されているヘリポートに次々とヘリコプターが着陸し、無数の自衛隊員や武器弾薬を吐き出す。  


絶望しかけていた民間人たちは、その光景に狂喜した。  

「一列に並んでください!ゆっくりと!全員乗れるようになっています!」  

機体から降り立ったばかりの佐藤たちが声を張り上げる。  
安全が確認されるまでの帰還、この地域の全ての民間人が退去する事になっていた。  
その計画に従い、彼らは帰りの便に便乗して避難する事になっている。  
人々は理性の許す限界の速さで次々とヘリコプターに乗り込む。  
その速度は決して遅くは無い。  
彼らは疲弊はしていても、あくまでも健康で無傷であるからだ。  
ゾンビに襲われた、正確には負傷させられた人間は、無条件でゾンビになってしまう。  
全裸での検査を強行した現地部隊の英断により、避難は順調に、そして遅延なく実行されていった。  


「一尉、こちらです」  

いつの間にか現地部隊の数名を捕まえていた二曹が耳打ちする。  
全てを部下たちに任せると、佐藤は頷いて現地指揮所へと足を運んだ。  

「よく来てくれた」  

この地域を統括している年配の二等陸佐は、疲れた顔に出来るだけの笑みを浮かべて佐藤を歓迎した。  
彼は日本がこの世界に来なければ、三等陸佐止まりで生涯を終えるだろうと言われていた男だった。  
お世辞にも有能ではない。  
そんな彼だが、戦闘部隊で実戦を経験してからは、日常では見えない能力を発揮し続けていた。  

「お疲れ様です。早速ですが、状況をお聞かせ願えますか?  
自分は上からここへ来るように、としか聞かされていないのです」  

敬礼もそこそこに、佐藤は質問した。  
それは通常ならば失礼に値する行為であったが、あちこちから銃声が聞こえる現状では問題ない。  

「まず最初に忘れてもらいたいのは、ここへ来る前に調べたであろう情勢だ」  

二佐は続けた。  
うん、状況は極めて劣勢。  
敵は亜種が中心だ。  
我々は壁に囲まれたこの駐屯地以外の全てを失った。  
まだ電話が通じるいくつかの拠点もあるが、あくまでも点に過ぎん。  
面で考えれば全ての地域が危険だ。  
敵の総数?  
こんな事は言いたくもないがわからん。  
千や二千ではきかないだろうがな。  
増援はありがたいが、装甲車輌はこないのか?  
現状ではこの駐屯地の外壁にしがみ付いて射的を楽しむ事しか出来ん。  

「最後に聞いた情報では、車輌部隊は第一基地を出発したとしか」  

佐藤は素直に答えた。  
状況は最悪である。  
この駐屯地にいるだけならば安全だが、打って出る事は不可能。  
しかしそれでは永遠にこの地域は失われたままとなる。  
上層部の求めている事は失地回復。  
このままでは増加の一途を辿る敵にいつまでも拘束されることとなる。  

「それは良くないわね」  

会話に突然参加したのは、部屋の端で沈黙を保っていたダークエルフだった。  

「何が良くないんでしょうか?お久しぶりですね、シルフィーヌさん」  
「お久しぶりねサトー二尉、いえ、今は一尉でしたっけ?」  
「おかげさまで昇進しまして、それで、何が良くないのでしょうか?」  
「これをただの戦いと考えないで欲しいわ。  
これは貴方たちの、いいえ、世界の運命がかかっている戦いよ」  
  
唐突に彼女が放った台詞は、現状を考えるに笑って流せる内容ではなかった。  

「それは穏やかではありませんね。どういう事でしょうか?」  
「どうしてゾンビが生まれるか、知っているかしら?」  

彼女は質問に質問で答えた。  
だが、今は失礼を咎めている状況ではない。  
佐藤は必死に考えた。  

「魔法とか、まあそんな何かで人間をゾンビに変えるのでは?」  
「考え方としてはそうね。  
でも少し違う。  
ゾンビは、魂を抜かれた人間に死霊が取り付く事によって生まれるわ」  


彼女の説明を要約するとこうだった。  
追い詰められたエルフ第三氏族たちは、ゾンビを大量に用意することにした。  
その為には人間もそうだが、死霊も大量に必要になる。  
そして、その行為は恐ろしい結果を生む。  

「恐ろしい結果、どう恐ろしいんだ?もう既に十分恐ろしいんだが」  

苛立った様子の二佐が会話に割り込む。  
彼は手勢こそ少ししか失っていないが、広大な地域を失っている。  
それは彼に対する評価どころか、未だ安定を欠いている日本国民の生活を揺るがす。  
組織の中の個人としてよりも、公僕としての意識に不足するところが無い彼にとって、それは何よりも耐え難い。  
    
「簡単に言えば、この世界に軍勢が増え、そして人々の魂を喰らう事によって生み出される存在が現れるという事よ」  
「魔王とか、そういうものですか?」  
「そういうものよ。  
もちろんそれだけではないわ。  
魔王の生み出す軍勢は、ゾンビどころではない力を持っている。  
貴方たちの力をもってしても、どこまで耐えられるか」  


室内は静まり返った。  
状況は、どんなに楽観的に考えても良くはない。  
だが、ではどうすればよいのかが誰にもわからなかった。  
  
「第三氏族を皆殺しにすればいいのか?」  

佐藤は物騒な解決案を口にした。  

「簡単に言えばそうね。  
もっと細かく言うと」  
「ゾンビを生み出している連中を皆殺しにすればいいんだな」  

二曹が答えを言った。  

「そうね。まさにそうだわ。  
でも、何処にいるのかがわからない。  
大体の位置はわかるわ、地図で言うところの」  

彼女は言いつつ、航空写真を組み合わせて作られた即席の地図に近づき、一点を指差した。  
そこは、確認はされたが調査はされていない遺跡らしい場所だった。  


「このあたりのどこか」  
「わかるっていうのはどういう事だ?」  

二佐が質問した。  
当然の質問である。  
  
「魔法を使うものは、その使われる力が大きいほどそれを感じるわ。  
今回のこれは普通じゃない、大きすぎる力が使われている。  
だからわかるのよ。ただし」  

彼女は遺跡の周囲を円を描くようになぞった。  

「これくらいの範囲のどこか、というところまでしかわからないわ」  
「貴方の同族たち、そのどれくらいが協力していただけるでしょうか」  

佐藤は質問した。  
彼の頭の中では、一つの作戦が組みあがろうとしていた。  
  
「いくらでも、もっとも、それほど数は多くないけれども」  
「二佐殿」  

礼を言う時間すら惜しみ、佐藤は尋ねた。  

「ヘリとダークエルフの増援を申請してください」  
「三角測定か」  
「そうです」  

彼らの頭の中では、作戦案は既に共有されつつあった。  
複数個所で敵無線を傍受し、その概略位置を測定する。  
現代の軍隊では当たり前に行われているそれを、魔法という異世界の技術に対しても行おうというのだ。  
彼らの作戦案は若干の修正を行いつつも本国に申請され、そして受理された。  
もちろん、彼らの予測していたよりもより大掛かりに。    

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